もんじゅ等エネルギー機器用構造材料の劣化損傷のマイクロキャラクタリゼーション

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カテゴリ: 第8回
1. 緒言
・「もんじゅ」や次世代高速炉をはじめとする様々なエ ネルギー機器の構造材料としての使用が検討されている オーステナイト系ステンレス鋼の長期間にわたる信頼性 を確保するためには、クリープ試験等の耐久性試験を実 施するとともに、劣化損傷のキャラクタリゼーションに より劣化損傷メカニズムを明らかにする必要がある。磁気力顕微鏡は、磁気情報をサブミクロンのオーダー で評価することが可能なツールとして、主に磁気記録材 - 料の評価に用いられていた。我々のグループ[1,2]はこれ を、オーステナイト系ステンレス鋼の疲労損傷、形状記 憶合金の変態等に適用し、様々な材料の機能発現や劣化 特性の解明にも有用なツールであることを示してきた。 1. 本研究では、オーステナイト系ステンレス鋼である SUS316FR 鋼を用いて、クリープ試験における劣化損傷 メカニズムを解明するために、従来より実施されている 硬さ測定や磁束密度測定等のマクロキャラクタリゼーシ ョンに加え、磁気力顕微鏡や原子間力顕微鏡を用いたマ イクロキャゼーションを行った。
2. 試験片および実験方法
2.1 材料および試験片材料にはオーステナイト系ステンレス鋼である SUS316FR 鋼を用いた。化学成分を Table 1 に、その溶接 試験片形状例を Fig.1 に示す。溶接試験片の溶接金属には SUS316LI を用いた。また、溶接後熱処理は実施していな2.2 試験装置クリープ試験には電気油圧式疲労試験機と薄型高温炉 からなる耐久性評価試験装置を用いた。薄型高温炉は 200 ~700°Cにて使用可能である。試験中のひずみは、カプセ ル型の高温ひずみゲージ(ゲージ長 10mm)を試験片中 央に取り付け測定した。本装置を用いて 550°C大気中、285MPa においてクリー プ試験を実施し、190 時間保持しクリープ損傷が生じた後、 試験を中断した。試験中断後、組織観察、硬さ測定を行 うとともに、溶接金属部をネオジム磁石にて着磁した後、 ホール素子を用いて試料センサ間距離 1mm にて残留磁 束密度を測定した。また、磁気力顕微鏡、原子間力顕微 鏡を用いたマイクロキャラクタリゼーションを行った。167Table 1 Chemical composition of SUS316FRSi Mn P s Ni Cr Mo N A10C0.0013|<0.05 | <0.05 0.026|<0.0003 | 16.17| 18.082.15|0.00091 <0.005 0.0216RIO| 25.8 14.216080ベル6 Fig. 1 Shape and dimensions of welded specimen for SUS316FR3. 実験結果及び考察3.1 マクロキャラクタリゼーション (1) マイクロビッカース硬さ測定Specimen 316-A (SUS316FR 鋼溶接材、受け入れ材)と クリープ試験により劣化損傷を生じさせた Specimen 316-B (SUS316FR 鋼溶接材、クリープ損傷材)の溶接金属 部近傍のマイクロビッカース硬さ測定をした結果を Fig.2 に示す。Specimen 316-A において、母材と溶接金属部と を比較すると溶接金属部の方が大きく、またその間の HAZ との境界において最も大きな硬さを示す。Specimen 316-B の場合においてもほぼ同様な傾向であるが、射と 溶接金属部の差は減少している。 (2) 残留磁束密度測定Specimen 316-A と Specimen 316-B より溶接金属部の長 手方向の残留磁束密度B,を測定した結果を Fig.3 に示す。 Specimen 316-A においては溶接金属部での残留磁束密度 の最大値はおおよそ 0.6X10T と高い値を示した。また、 母材では若干の磁束密度が測定されるものの、その値は 溶接金属部と比較すると極めて小さい。Specimen 316-B においては溶接金属部の最大値はおおよそ 0.3X10-T の 残留磁束密度であり、Specimen 316-A と比較するとその 値は減少している。以上のように、ビッカース硬さや残留磁束密度等のマ クロ特性は、受け入れ材、クリープ損傷材とも母相と溶 接金属部において大きく異なること、またクリープ損傷 を生じることによりその差が減少することがわかった。3.2 マイクロキャラクタリゼーション (1)磁気力顕微鏡像9Micro-vickers Hardness(Hvo.s)Base metalHAZ Weld HAZmetalBase metalSpecimen 316-A = Specimen 316-B|1- 86-4-20_24 6 8 Position mmFia. 2 Micro-vickers hardness around weld metalfor SUS316FR0.730.60.5Specimen 316-A Specimen 316-80.4Magnetic flux density By *10-4T0010Weld Base metal HAZ HAZ Base metalmetal -0.10 -10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6_ 8_Position mm Fig. 3 Remanent magnetic flux densities around weld metal region for SUS316FRSpecimen 316-A (SUS316FR 鋼溶接材、受け入れ材)の 磁気力顕微鏡像を Fig.4 に示す。表面にエッチングは施し ていないが、溶接金属部においては相境界まで磁性相で あるネットワーク状および片状の6-フェライトが観察さ れる。また、溶接金属部と隣接する HAZ や母材において はネットワーク状および片状の組織は観察されない。Specinen 316-B (SUS316FR 鋼溶接材、クリープ損傷材) の磁気力顕微鏡像をFig.5に示す。溶接金属部においては、 8フェライトが観察されるものの、その様相は Specimen 316-A とは異なっている。ネットワーク状の形状の磁性相 はほとんど観察されず、片状あるいは球状となっている。 また、その含有量も減少している。さらに、Specimen316-A と異なり、溶接金属部においても、6-フェライトと周辺 のY相との磁気力顕微鏡データの差も少なくなっている ことがわかる。 (2) 磁気力顕微鏡データ解析磁気力顕微鏡像より得られた劣化損傷を定量化するた めに、各々の磁気力顕微鏡像から、-フェライトの面積 率を求めるとともに、磁気力顕微鏡データの標準偏差を168(a)Weld metal(center) (b)Weld metal(close to HAZ)(c) Boundary (d) Base metal Fig. 4 Magnetic force microscope images around weld metal region for SUS316FR (Specimen 316-A)(a)Weld metal(Center) (b)Weld metal(close to HAZ)(c) Boundary (d) Base metal Fig. 5 Magnetic force microscope images around weld metal region for SUS316FR (Specimen 316-B)計算した結果を Fig.6に示す。(a)のE-フェライトの面積率からは、Specimen 316-A の 溶接金属部の中央ではほぼ 14%であることがわかる。一 方、Specimen 316-B においては、E-フェライトの含有率 は中央でもほぼ4%であり、顕著に減少していることが確 認できる。(b)の磁気力顕微鏡データの標準偏差からは Specimen 316-A においては、相とダ-フェライトが明瞭な コントラストを示していることと対応して溶接金属部の 標準偏差の値も大きい。一方、Specimen 316-B において は、Specimen 316-A と比較すると溶接金属部中央で標準 偏差が減少している。磁性相であるd-フェライトがクリ ープ損傷により減少する過程については、今後ともさら にキャラクタリゼーションを行う必要があるが、溶接金 属部の磁性相の含有率や形態を測定することにより、ククロレベルにおいて評価するこ ことがわかる。リープ損傷の程度がマイクロレベルにおいて評価する とができる可能性があることがわかる。。4Specimen 316-A Specimen 316-B20Rate of magnetic phase %86420Base metalHAZFine (grainedHAZ Weld metal Weld Coarse close to HAZ metal (grained)(a)Area fraction for S-ferritedegreeSpecimen 316-A Specimen 316-BStandard deviationBase HAZHAZ Weld metal Weld metal ( Fine Coarse close to HAZ metal(grained / grained (b) Standard deviation values Fig.6 Magnetic force microscope image analyses for SUS316FR「謝辞本研究の内容は、特別会計に関する法律(エネルギー対 策特別会計)に基づく文部科学省からの受託研究として, 独立行政法人産業技術総合研究所が国立大学法人福井大 学から再委託を受けて実施した平成 21 年度及び平成 22 年度「「もんじゅ」における高速増殖炉の実用化のための 中核研究開発」の成果を含む。参考文献 [1] 鈴木隆之 他、“エネルギー機器用構造材料の劣化損傷の電磁気的手法によるマイクロキャラクタリゼ ーション”、第19回MAGDA コンフェレンスin 札幌講演論文集、 2010、pp.563-566. [2] 鈴木隆之、磁気力顕微鏡を用いた材料の機能発現・劣化特性の評価方法”、非破壊検査、57、9、2008、 pp.429432.169“ “もんじゅ等エネルギー機器用構造材料の劣化損傷のマイクロキャラクタリゼーション“ “鈴木 隆之,Takayuki SUZUKI,橋立 竜太,Ryuta HASHIDATE,砥出 朋史,Tomofumi TOIDE,原田 祥久,Yoshihisa HARADA
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