改良 9Cr 鋼および 316FR 鋼のレーザ・ピーニング処理
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カテゴリ: 第8回
1. 緒言
近年、疲労損傷の回復を図るためにレーザを利用し たピーニング技術が開発され、構造部材に適用する試 みがなされている1-3。レーザを用いたピーニングでは、 ショット・ピーニングのような大掛かりな装置を必要 とせず、また、ウォータ・ジェット・ピーニングのよ うに、水の漏洩を許容できる環境でしか使用できない などの制限がない。さらに、レーザ光照射部の小型化 が比較的容易に実現できる可能性があるため、供用中 検査の際に損傷を受けた部材の回復・修復作業に用い ることが期待できる。以上のことを考慮し、著者らは、レーザ・ピーニン グを先進型高速炉用構造材料の有力な候補材料とし 考えられている改良 9CT 鋼および 316FR 鋼のクリープ およびクリープ・疲労損傷を回復する技術として検討 してきた。本研究では、その準備段階として、エネルギー密度 の高いYAG レーザ発信機を用いたレーザ・ピーニング 装置を試作し、改良9Cr 鋼および 316FR 鋼母材製平滑 平板試験片にレーザ・ピーニング処理を施し、水中に おけるレーザ・ピーニング処理の可能性を探るととも に、高速度カメラを用いた観察により、ピーニング過程の解明を試みた。また、ピーニング効果に及ぼすレ ーザ光の焦点と試験片表面間の距離の影響およびピー ニング痕近傍における試験片表層の残留応力分布を定 量的に評価し、レーザ・ピーニング処理をクリープお よびクリープ・疲労損傷材の回復・修復処理に適用す る際の基礎データを取得することを試みた。
2. レーザ・ピーニング処理
表1に本研究で試作したレーザ・ピーニング装置のTable 1 Specifications of the present YAG laser. | レーザ方式YAG(緑色光) パルス幅5~7 nsec パルスエネルギー | 380 mJ(532 nm、10 Hz) エネルギー密度10.7 GW/cm2 スポット径9 mm | パルス繰返し10 HzX-Z テーブル発信機本体 2014集光レンズ水槽Fig. 1 Whole view of the present laser peening system.1725.51°_oneを表2に示す。 Septiciate1444 図2に今回用いた平滑平板状試験片のピーニング位 単発(1回)..3回 5回 9回置およびその位置における照射回数を示す。図中の Yの値は、レーザ光の焦点と試験片表面間の見掛けの距 II IIII離である。レーザ発信器から照射されたレーザ光を 2 枚のレンズで集光し、水槽に浸漬した試験片の表面近 傍で爆縮を起こさせて、ピーニングを施す。レーザ光を水中で照射する方式もあるが、本研究では、大気 Y=10 mm 6 mm Y=8 mm中でレーザ光を照射し、試験片表面近傍の水中で爆縮を起こさせるようにレーザ光を集光レンズで集光させ Fig. 2 Schematic illustration of a plate specimen, indicating ることとした。この爆縮の様子は、(株)ナック製デジタpeening sites, number of laser shots and the nominal distance between laser light focus and specimenル高速度カメラ ULTRA cam HS-106E(最大 1.25×100 surface.fps)で撮影・観察した。 主な仕様、また、図1に装置の全景を示す。レーザ・3. レーザ・ピーニング処理の結果 ピーニング装置は、タレスオプトロニック S. A.社製レ 3.1 レーザ光による気泡の発生・成長・爆縮過程 ーザ発振器 SEGA 220/10M、X-Z テーブル、集光レンズ 図 3(a)~()に、試験片表面近傍で生じたレーザ・ピー 付き水槽および集光光学系から構成される。ニング過程を高速度カメラで撮影した写真を示す。こ 供試材としては、先進型高速炉用構造材料の有力な れらの写真から、レーザ・ピーニングについても、次 候補材料として考えられている改良 9Cr 鋼および のようなキャビテーションと同様な、レーザ光による 316FR 鋼を採用した。これら2種類の材料の化学成分 気泡の発生・成長・爆縮の一連の過程が推察できる。ながーい(a) Laser beam reaching specimen surface (0 sec)(d) Peening occurs at surface (28 x 10“ sec)(b) Small bubbles initiated (1 x 10- sec)(e) Shrinkage of large bubbles (31 x 10-5 sec)(c) Bubble coalescence and growth (12 x 10- sec) (f) Termination of bubble implosion (34 x 10-sec)Fig. 3 High speed camera depicting the progress of the laser peening process (1 x 10' fps, or frames per sec).173な気泡が、光路に沿って試験片表面に向かって移動し、 Y=8 mm (8 times)合体・成長を繰り返して、大きな気泡を形成(=12×10~ Y=8 mm (Once)sec)する。このようにして大きく成長した1~2個の気泡の試験片表面と反対側の壁が崩壊する。この気泡 Y=6 mm (8 times)壁が破れる際に発生した水流が試験片表面へ向かうジ Y=6 mm (Once)ェットとなり、このジェットが試験片表面に当たって試験片表面に衝撃圧を及ぼす(= 28~31×105 sec)。こ Y=4 mm (Once)のような一連の過程を経て、1回のピーニング過程は 約 34 × 105 sec 間で終了する。3.2 レーザ・ピーニング庭Y=6 mm (4 times) Y=4 mm (Once)図4に、改良 9Cr 銅試験片表面に導入されたレーザ・ ピーニング痕の例を示す。レーザ光焦点と試験片表面 間の見掛けの距離 Y の値を変化させるとレーザ光によ る気泡の爆縮発生点と試験片表面との間の距離が変化するため、Y の値はピーニングの効果に影響を与える Fig. 4 Laser peening marks remained on the surface of aと考えられるが、今回実験した範囲では Y値を変化さ modified 9Cr steel specimen: Y is the nominal dis せてもピーニング痕の寸法に大きな差は見られなかっ tance between the laser light focus and specimenた。ただし、レーザの走査回数を増加させると、ピー surface and the numbers in brackets indicate theニング痕の幅及び深さが増加する傾向があることが明 number of overlap peening.らかとなった。 すなわち、レーザ光によって水中に気泡が発生し、レー 3.3 レーザ・ピーニング処理による試験片表面近 ーザ光が試験片表面に到達(==0 sec)した直後に、レ 傍の残留応力分布 ーザ光の光路上の水が複数箇所で局所的な沸騰を起こ レーザ・ピーニング処理によって改良 9Cr 銅試験 し、それらを核として、試験片前方で複数個の小さな 片表面近傍に導入された残留応力分布の例を図5に 気泡が生じる(=1×10^ sec 後)。次に、それらの小さ示す。図5は、レーザ・ピーニング庭の中心および700- Once -●-3 times5 times --9 timesResidual stress, or MPa-1.5 11- 05051151 . ... 100-1Distance from spot center, r, mm Residual stress distributions in a near surface region of approximately 3 um in depth around the peening center: The residual stress distributions were measured by the X ray diffraction method.Fig. 5Fig. 5174“ “改良 9Cr 鋼および 316FR 鋼のレーザ・ピーニング処理“ “中曽根 祐司,Yuji NAKASONE
近年、疲労損傷の回復を図るためにレーザを利用し たピーニング技術が開発され、構造部材に適用する試 みがなされている1-3。レーザを用いたピーニングでは、 ショット・ピーニングのような大掛かりな装置を必要 とせず、また、ウォータ・ジェット・ピーニングのよ うに、水の漏洩を許容できる環境でしか使用できない などの制限がない。さらに、レーザ光照射部の小型化 が比較的容易に実現できる可能性があるため、供用中 検査の際に損傷を受けた部材の回復・修復作業に用い ることが期待できる。以上のことを考慮し、著者らは、レーザ・ピーニン グを先進型高速炉用構造材料の有力な候補材料とし 考えられている改良 9CT 鋼および 316FR 鋼のクリープ およびクリープ・疲労損傷を回復する技術として検討 してきた。本研究では、その準備段階として、エネルギー密度 の高いYAG レーザ発信機を用いたレーザ・ピーニング 装置を試作し、改良9Cr 鋼および 316FR 鋼母材製平滑 平板試験片にレーザ・ピーニング処理を施し、水中に おけるレーザ・ピーニング処理の可能性を探るととも に、高速度カメラを用いた観察により、ピーニング過程の解明を試みた。また、ピーニング効果に及ぼすレ ーザ光の焦点と試験片表面間の距離の影響およびピー ニング痕近傍における試験片表層の残留応力分布を定 量的に評価し、レーザ・ピーニング処理をクリープお よびクリープ・疲労損傷材の回復・修復処理に適用す る際の基礎データを取得することを試みた。
2. レーザ・ピーニング処理
表1に本研究で試作したレーザ・ピーニング装置のTable 1 Specifications of the present YAG laser. | レーザ方式YAG(緑色光) パルス幅5~7 nsec パルスエネルギー | 380 mJ(532 nm、10 Hz) エネルギー密度10.7 GW/cm2 スポット径9 mm | パルス繰返し10 HzX-Z テーブル発信機本体 2014集光レンズ水槽Fig. 1 Whole view of the present laser peening system.1725.51°_oneを表2に示す。 Septiciate1444 図2に今回用いた平滑平板状試験片のピーニング位 単発(1回)..3回 5回 9回置およびその位置における照射回数を示す。図中の Yの値は、レーザ光の焦点と試験片表面間の見掛けの距 II IIII離である。レーザ発信器から照射されたレーザ光を 2 枚のレンズで集光し、水槽に浸漬した試験片の表面近 傍で爆縮を起こさせて、ピーニングを施す。レーザ光を水中で照射する方式もあるが、本研究では、大気 Y=10 mm 6 mm Y=8 mm中でレーザ光を照射し、試験片表面近傍の水中で爆縮を起こさせるようにレーザ光を集光レンズで集光させ Fig. 2 Schematic illustration of a plate specimen, indicating ることとした。この爆縮の様子は、(株)ナック製デジタpeening sites, number of laser shots and the nominal distance between laser light focus and specimenル高速度カメラ ULTRA cam HS-106E(最大 1.25×100 surface.fps)で撮影・観察した。 主な仕様、また、図1に装置の全景を示す。レーザ・3. レーザ・ピーニング処理の結果 ピーニング装置は、タレスオプトロニック S. A.社製レ 3.1 レーザ光による気泡の発生・成長・爆縮過程 ーザ発振器 SEGA 220/10M、X-Z テーブル、集光レンズ 図 3(a)~()に、試験片表面近傍で生じたレーザ・ピー 付き水槽および集光光学系から構成される。ニング過程を高速度カメラで撮影した写真を示す。こ 供試材としては、先進型高速炉用構造材料の有力な れらの写真から、レーザ・ピーニングについても、次 候補材料として考えられている改良 9Cr 鋼および のようなキャビテーションと同様な、レーザ光による 316FR 鋼を採用した。これら2種類の材料の化学成分 気泡の発生・成長・爆縮の一連の過程が推察できる。ながーい(a) Laser beam reaching specimen surface (0 sec)(d) Peening occurs at surface (28 x 10“ sec)(b) Small bubbles initiated (1 x 10- sec)(e) Shrinkage of large bubbles (31 x 10-5 sec)(c) Bubble coalescence and growth (12 x 10- sec) (f) Termination of bubble implosion (34 x 10-sec)Fig. 3 High speed camera depicting the progress of the laser peening process (1 x 10' fps, or frames per sec).173な気泡が、光路に沿って試験片表面に向かって移動し、 Y=8 mm (8 times)合体・成長を繰り返して、大きな気泡を形成(=12×10~ Y=8 mm (Once)sec)する。このようにして大きく成長した1~2個の気泡の試験片表面と反対側の壁が崩壊する。この気泡 Y=6 mm (8 times)壁が破れる際に発生した水流が試験片表面へ向かうジ Y=6 mm (Once)ェットとなり、このジェットが試験片表面に当たって試験片表面に衝撃圧を及ぼす(= 28~31×105 sec)。こ Y=4 mm (Once)のような一連の過程を経て、1回のピーニング過程は 約 34 × 105 sec 間で終了する。3.2 レーザ・ピーニング庭Y=6 mm (4 times) Y=4 mm (Once)図4に、改良 9Cr 銅試験片表面に導入されたレーザ・ ピーニング痕の例を示す。レーザ光焦点と試験片表面 間の見掛けの距離 Y の値を変化させるとレーザ光によ る気泡の爆縮発生点と試験片表面との間の距離が変化するため、Y の値はピーニングの効果に影響を与える Fig. 4 Laser peening marks remained on the surface of aと考えられるが、今回実験した範囲では Y値を変化さ modified 9Cr steel specimen: Y is the nominal dis せてもピーニング痕の寸法に大きな差は見られなかっ tance between the laser light focus and specimenた。ただし、レーザの走査回数を増加させると、ピー surface and the numbers in brackets indicate theニング痕の幅及び深さが増加する傾向があることが明 number of overlap peening.らかとなった。 すなわち、レーザ光によって水中に気泡が発生し、レー 3.3 レーザ・ピーニング処理による試験片表面近 ーザ光が試験片表面に到達(==0 sec)した直後に、レ 傍の残留応力分布 ーザ光の光路上の水が複数箇所で局所的な沸騰を起こ レーザ・ピーニング処理によって改良 9Cr 銅試験 し、それらを核として、試験片前方で複数個の小さな 片表面近傍に導入された残留応力分布の例を図5に 気泡が生じる(=1×10^ sec 後)。次に、それらの小さ示す。図5は、レーザ・ピーニング庭の中心および700- Once -●-3 times5 times --9 timesResidual stress, or MPa-1.5 11- 05051151 . ... 100-1Distance from spot center, r, mm Residual stress distributions in a near surface region of approximately 3 um in depth around the peening center: The residual stress distributions were measured by the X ray diffraction method.Fig. 5Fig. 5174“ “改良 9Cr 鋼および 316FR 鋼のレーザ・ピーニング処理“ “中曽根 祐司,Yuji NAKASONE