レーザ溶接部の検査技術開発
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カテゴリ: 第8回
1. はじめに
福島原子力発電所の事故をきっかけとして、これまで の原子力安全研究での過酷事故の想定内容が問い直され ている[1]。これまで著者は、ナトリウムを熱交換器に使 用する高速増殖炉の伝熱管の安全性確保はきわめて重要 であると考え、実際に検査修理を行う技術開発の重要性 を提案した[2]。安全確保の要点のひとつは伝熱管の溶接 部分である。この伝熱管内壁を検査補修する技術は、高 経年化する軽水炉や石油化学プラントにも適用可能である。- 平成19年度から 21 年度にかけて、文部科学省の推進 する原子力システム研究開発事業の助成のもとで、複合 型光ファイバスコープによる伝熱内壁の観察と渦電流探 傷技術による欠陥発見技術を組み合わせたプローブを開 発した。ここでは、1インチ内径の熱交換器伝熱管に挿入 し内壁に瑕疵が認められた場合、これを観察しレーザ溶 接補修できる小型レーザ加工ヘッドを開発した[3]。この 開発事業では、伝熱管を施栓処理ではなく溶接補修する ことで熱交換器を延命させて経済性の改善を目的である。 H22 年度からは開発技術を基盤に、種々のプラントの背 酷事故の予防保全を主目的として、レーザによるマイク 口溶接補修の技術開発に力を入れている。ここではレーザ溶接を施した伝熱管の検査技術につい て開発の現状を報告する。
2. 伝熱管内壁の検査技術
今回報告する検査技術は、渦電流探傷技術に加えて、 これを補完する精密観察が可能なファイバスコープによ る目視観察及び溶接部の内部観察のための放射光X線に よる吸収コントラスト計測、について報告する。2.1 渦電流探傷開発した渦電流探傷プローブは、中空のアクリルパイ プに探傷コイルを円周上に埋め込んだ構造である。探傷 精度を上げるために10チャンネルの探傷コイルを伝熱管 内壁に接するように配置した。コイルからの信号線はマ ルチプレクサにより 1/3 に減数化したうえで、次に述べる 複合型光ファイバに沿わせた。信号線の全長は 10mであ る。 複合型光ファイバと信号線は熱収縮チューブに通し、 加熱により一体化した。検出信号はデ・マルチプレクサ により復元され、ロックインアンプにより検波増幅した。渦電流探傷試験は熱交換器を模擬したモックアップ施 設で実施した。全長 8.1 mの直管部に 150 cm の枝管接続 部分を取り付け、その後に長さ1m の試験用伝熱管を接 続した。試験用伝熱管は内径 23 mm、厚さ 4.5 mm、材質 は 2.25%のクロムを含有する STPA24 であり、その内壁 には幅0.3 mm で伝熱管の厚みの 50% 、20%、10%、5% の深さのノッチを4箇所設けた。 渦電流プローブは8.1 m の伝熱管の上部から挿入した。挿入速度は 10 cm/s である。 測定の結果、フランジによる配管の接続部分及び溶接部 分からマーカーとなる強い信号が得られた。ノッチから は微弱な信号が得られ、10%ノッチが検出下限であった。232.2 ファイバスコープ観察 - 複合型光ファイバスコープは、溶接補修のための高エ ネルギーレーザ光を伝送するコアファイバを中央に配し、 その周囲を映像伝送用光ファイバが取り巻いている。更 に最外部にはハロゲン光を伝送するライトガイドが設け られている。ライトガイドはファイバスコープの外径を 小さくしたい場合に有効であるが、現在のシステムでは ハロゲン光源とライトガイドのカップリングが悪い。 * 伝熱管程度の大きさの内部を観察する場合は、高輝度 LED による照明が有効である。 Fig.1 は、伝熱管をファイ バレーザーにより突合せ溶接した際の内壁の観察映像で ある。中心の円形部分はレーザ光伝送のための 0.2 mm径 のコアファイバである。Fig. 1 (a) は溶接ビードを示す。 が、Fig. 1(6) は溶接ビードの終端部分であり、固化した 溶融池と未溶接の突合せ部分が明瞭に観察できた。(a)Welding Bead (b)Terminal of Bead Fig.1 Images of Laser welding Bead by a Composite-type Optical Fiber ScopeLED 照明により明瞭な画像が得られたことから、高輝 度LED とボタン電池を組み合わせた小型照明を試作した。 この小型照明はレーザ加工ヘッドのレーザ反射ミラーの 上部に着脱可能である。レーザ反射ミラーは、レーザ溶 接のための高エネルギーレーザ光と溶接ビードの良否を 確認するための映像の両方を反射する。このため、銅ブ ロックから削り出しにより製作し、その表面に可視光コ ーティングを施し、更にレーザ光を反射する誘電多層膜 コーティングを施した。小型照明はレーザ加工ヘッドの 回転と一緒にレーザ照射位置を照らすことができた。2.3 X線吸収コントラスト観察レーザ溶接における溶け込み深さを把握することは重 要である。著者らは突合せ溶接において、レーザ溶接中 の溶け込み深さの成長をX線吸収コントラスト法により 解明した。レーザ出力は300W、スポット径1mm の際に、 突合せ溶接の間隙が溶接で結合する様子を、70.3 keVのX線透過吸収を実時間で測定することに成功した。X線源 には SPring-8 ビームライン BL22XU を使用した。鉄は融 点で固体から液体に変わる際に 11%の密度の低下が生じ る。このX線吸収量の減少をX線CCD カメラにより捉 えた。サンプルは SUS316鋼、厚さは5mm である。レーザ照射開始から 300 ms 後には溶融池の深さは表 面から 0.2 mm の深さに成長する。深さが 0.85 mm に達す るには7sを要した。Fig.2 は溶融池の直径が 1.5 mm、深 さが0.5 mm程度に達した時のX線吸収コントラスト像で ある。突合せの境界部分は 2 本の明るい縦の線で表され ている。僅かに明るさが増した領域が広がる様子が観察 できた。本計測により、Fig.1 に示したレーザ溶接ビード の深さ方向の進展の様子が明らかとなった。Bottom of molten pocImmFig.2 Images of molten pool by X-ray absorption contrast「謝辞渦電流探傷とX線吸収コントラスト計測に関しては、 原子力機構の山口智彦氏及び菖蒲敬久氏にご指導頂きま した。深く感謝いたします。参考文献、 [1] . ““IAEA INTERNATIONAL FACT FINDING EXPERTMISSION OF THE FUKUSHIMA DAI-ICHI NPP ACCIDENT FOLLOWING THE GREAT EAST JAPAN EARTHQUAKE AND TSUNAMI“, REPORT TO THE IAEA MEMBER STATES, Tokyo, Fukushima Dai-ichi NPP, Fukushima Dai-ni NPP and Tokai Dai-niNPP, Japan, 24 May-2 June 2011, pp.30-31. [2] 西村昭彦、岡潔、山口智彦、他、“伝熱管内壁検査補修技術開発の概要”、日本保全学会第5回学術講演会要旨集、2008、pp.139-142. [3] 岡潔、西村昭彦、関健史、赤津朋宏、山下卓哉、“複合型光ファイバを用いた1インチ伝熱配管用観察補 修レーザー加工ヘッドの開発““、保全学、Vol.8、No.4、 2010、pp.37-42,(平成 23 年8月 31 日)24、“ “レーザ溶接部の検査技術開発“ “西村 昭彦,Akihiko NISHIMURA,寺田 隆哉,Takaya TERADA,山田 知典,Tomonori YAMADA,竹仲 祐介,Yusuke TAKENAKA,古山 雄大,Takehiro FURUYAMA
福島原子力発電所の事故をきっかけとして、これまで の原子力安全研究での過酷事故の想定内容が問い直され ている[1]。これまで著者は、ナトリウムを熱交換器に使 用する高速増殖炉の伝熱管の安全性確保はきわめて重要 であると考え、実際に検査修理を行う技術開発の重要性 を提案した[2]。安全確保の要点のひとつは伝熱管の溶接 部分である。この伝熱管内壁を検査補修する技術は、高 経年化する軽水炉や石油化学プラントにも適用可能である。- 平成19年度から 21 年度にかけて、文部科学省の推進 する原子力システム研究開発事業の助成のもとで、複合 型光ファイバスコープによる伝熱内壁の観察と渦電流探 傷技術による欠陥発見技術を組み合わせたプローブを開 発した。ここでは、1インチ内径の熱交換器伝熱管に挿入 し内壁に瑕疵が認められた場合、これを観察しレーザ溶 接補修できる小型レーザ加工ヘッドを開発した[3]。この 開発事業では、伝熱管を施栓処理ではなく溶接補修する ことで熱交換器を延命させて経済性の改善を目的である。 H22 年度からは開発技術を基盤に、種々のプラントの背 酷事故の予防保全を主目的として、レーザによるマイク 口溶接補修の技術開発に力を入れている。ここではレーザ溶接を施した伝熱管の検査技術につい て開発の現状を報告する。
2. 伝熱管内壁の検査技術
今回報告する検査技術は、渦電流探傷技術に加えて、 これを補完する精密観察が可能なファイバスコープによ る目視観察及び溶接部の内部観察のための放射光X線に よる吸収コントラスト計測、について報告する。2.1 渦電流探傷開発した渦電流探傷プローブは、中空のアクリルパイ プに探傷コイルを円周上に埋め込んだ構造である。探傷 精度を上げるために10チャンネルの探傷コイルを伝熱管 内壁に接するように配置した。コイルからの信号線はマ ルチプレクサにより 1/3 に減数化したうえで、次に述べる 複合型光ファイバに沿わせた。信号線の全長は 10mであ る。 複合型光ファイバと信号線は熱収縮チューブに通し、 加熱により一体化した。検出信号はデ・マルチプレクサ により復元され、ロックインアンプにより検波増幅した。渦電流探傷試験は熱交換器を模擬したモックアップ施 設で実施した。全長 8.1 mの直管部に 150 cm の枝管接続 部分を取り付け、その後に長さ1m の試験用伝熱管を接 続した。試験用伝熱管は内径 23 mm、厚さ 4.5 mm、材質 は 2.25%のクロムを含有する STPA24 であり、その内壁 には幅0.3 mm で伝熱管の厚みの 50% 、20%、10%、5% の深さのノッチを4箇所設けた。 渦電流プローブは8.1 m の伝熱管の上部から挿入した。挿入速度は 10 cm/s である。 測定の結果、フランジによる配管の接続部分及び溶接部 分からマーカーとなる強い信号が得られた。ノッチから は微弱な信号が得られ、10%ノッチが検出下限であった。232.2 ファイバスコープ観察 - 複合型光ファイバスコープは、溶接補修のための高エ ネルギーレーザ光を伝送するコアファイバを中央に配し、 その周囲を映像伝送用光ファイバが取り巻いている。更 に最外部にはハロゲン光を伝送するライトガイドが設け られている。ライトガイドはファイバスコープの外径を 小さくしたい場合に有効であるが、現在のシステムでは ハロゲン光源とライトガイドのカップリングが悪い。 * 伝熱管程度の大きさの内部を観察する場合は、高輝度 LED による照明が有効である。 Fig.1 は、伝熱管をファイ バレーザーにより突合せ溶接した際の内壁の観察映像で ある。中心の円形部分はレーザ光伝送のための 0.2 mm径 のコアファイバである。Fig. 1 (a) は溶接ビードを示す。 が、Fig. 1(6) は溶接ビードの終端部分であり、固化した 溶融池と未溶接の突合せ部分が明瞭に観察できた。(a)Welding Bead (b)Terminal of Bead Fig.1 Images of Laser welding Bead by a Composite-type Optical Fiber ScopeLED 照明により明瞭な画像が得られたことから、高輝 度LED とボタン電池を組み合わせた小型照明を試作した。 この小型照明はレーザ加工ヘッドのレーザ反射ミラーの 上部に着脱可能である。レーザ反射ミラーは、レーザ溶 接のための高エネルギーレーザ光と溶接ビードの良否を 確認するための映像の両方を反射する。このため、銅ブ ロックから削り出しにより製作し、その表面に可視光コ ーティングを施し、更にレーザ光を反射する誘電多層膜 コーティングを施した。小型照明はレーザ加工ヘッドの 回転と一緒にレーザ照射位置を照らすことができた。2.3 X線吸収コントラスト観察レーザ溶接における溶け込み深さを把握することは重 要である。著者らは突合せ溶接において、レーザ溶接中 の溶け込み深さの成長をX線吸収コントラスト法により 解明した。レーザ出力は300W、スポット径1mm の際に、 突合せ溶接の間隙が溶接で結合する様子を、70.3 keVのX線透過吸収を実時間で測定することに成功した。X線源 には SPring-8 ビームライン BL22XU を使用した。鉄は融 点で固体から液体に変わる際に 11%の密度の低下が生じ る。このX線吸収量の減少をX線CCD カメラにより捉 えた。サンプルは SUS316鋼、厚さは5mm である。レーザ照射開始から 300 ms 後には溶融池の深さは表 面から 0.2 mm の深さに成長する。深さが 0.85 mm に達す るには7sを要した。Fig.2 は溶融池の直径が 1.5 mm、深 さが0.5 mm程度に達した時のX線吸収コントラスト像で ある。突合せの境界部分は 2 本の明るい縦の線で表され ている。僅かに明るさが増した領域が広がる様子が観察 できた。本計測により、Fig.1 に示したレーザ溶接ビード の深さ方向の進展の様子が明らかとなった。Bottom of molten pocImmFig.2 Images of molten pool by X-ray absorption contrast「謝辞渦電流探傷とX線吸収コントラスト計測に関しては、 原子力機構の山口智彦氏及び菖蒲敬久氏にご指導頂きま した。深く感謝いたします。参考文献、 [1] . ““IAEA INTERNATIONAL FACT FINDING EXPERTMISSION OF THE FUKUSHIMA DAI-ICHI NPP ACCIDENT FOLLOWING THE GREAT EAST JAPAN EARTHQUAKE AND TSUNAMI“, REPORT TO THE IAEA MEMBER STATES, Tokyo, Fukushima Dai-ichi NPP, Fukushima Dai-ni NPP and Tokai Dai-niNPP, Japan, 24 May-2 June 2011, pp.30-31. [2] 西村昭彦、岡潔、山口智彦、他、“伝熱管内壁検査補修技術開発の概要”、日本保全学会第5回学術講演会要旨集、2008、pp.139-142. [3] 岡潔、西村昭彦、関健史、赤津朋宏、山下卓哉、“複合型光ファイバを用いた1インチ伝熱配管用観察補 修レーザー加工ヘッドの開発““、保全学、Vol.8、No.4、 2010、pp.37-42,(平成 23 年8月 31 日)24、“ “レーザ溶接部の検査技術開発“ “西村 昭彦,Akihiko NISHIMURA,寺田 隆哉,Takaya TERADA,山田 知典,Tomonori YAMADA,竹仲 祐介,Yusuke TAKENAKA,古山 雄大,Takehiro FURUYAMA