福島第一原子力発電所事故の経緯
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カテゴリ: 第8回
2. 地震から津波まで
地震発生から津波の影響が現れる迄の約 50 分間は、地 震加速度大信号により原子炉が自動停止し、原子炉の冷 却をしている期間である。この期間に対して、地震によ る影響でプラントは致命的なダメージをうけていたかど うかについて評価を行った。評価は原子炉の安全の基本機能である「止める」、「冷 やす」、「閉じ込める」機能が正常に働いていたかどうか の観点から行った。評価に使用したデータであるが、原子力安全・保安院 からの報告徴収要求の従って東京電力提出したものを使 用した。データは次の url で公開されている。 http://www.nisa.meti.go.jp/earthquake/houkoku/houkoku.html 1. 提出データ範囲説明書 2. チャート 3. 警報発生記録等データ 4. 運転日誌等 5. プロセス計算機データ 6. 過渡現象記録装置データ 7. 各種操作実績取り纏め 8. プラント関連パラメータ このうち主に使用したのは“2. チャート”、“3. 警報発生 記録等データ”、“6. 過渡現記録装置データ”である。“チャート”は記録計の記録用紙であり、通常は1時 間で2cm 程用紙が進んでペンにより信号変化が記録がで きる。時間分解能はあまり高いものではないが、原子炉連絡先:小林 正英 原子力安全基盤機構検査業務部 〒105-0001 東京都港区虎ノ門 3-17-1 TOKYU REIT 虎ノ門ビル E-mail: kobayashi-masahide@jens.go.jpNon Member水位等の重要な信号に関しては原子炉スクラム等の信号 によりチャートが早送りとなるものもありこの場合はあ る程度の時間分解能が期待できる。なお、計器電源の喪 失により記録計は停止してしまうので、津波の影響が現 れる前まで利用が可能である。“警報発生記録等データ”は、プラントの様々な信号 を入力し、プラントの監視を行ったり、性能計算を行っ たりするプロセス計算機の印字記録である。このうち、 プラント監視結果を出力するアラームタイパーの印字記 録を利用した。アラームタイパーには、機器の動作記録や制限値の逸 脱状況等が印字時間とともに出力されるが、スクラム回 路等の重要な論理回路については、動作時間を 10msec の 時間分解能で記憶し、打ち出す機能(トリップシーケン ス)が付いている。スクラム論理や MSIV 閉論理の状況 はこのトリップシーケンスデータを活用した。“過渡現象記録装置データ”は過渡現象記録装置の記 録データであるが、過渡現象記録装置はプラントの主要 パラメータ (アナログ及び接点信号)を 10~100msec 間 隔で取り込み記録保存する装置である。スクラム等の信 号により、その発生前後数分から 30 分程度のデータを自 動保存する。各号機ともこれらデータが全部あるわけではなく、こ これらのデータの組み合わせによって評価を行った。2.1 「止める」機能について * 「止める」機能に関しては自動スクラムにより制御棒 が全挿入し、実際に中性子束が下がって核分裂が停止し たかを確認した。各号機とも、ほぼ地震発生時間にスクラム信号が出て いること、アラームタイパーに“全制御棒全挿入”の打 ち出しが確認されていること、中性子束が 0%に低下して いることが確認でき、各号機とも自動停止信号により制 御棒が全挿入され、確実に原子炉が止まった。2.2 「冷やす」機能について「冷やす」機能に関しては、外部電源喪失が発生した が、その際には非常用ディーゼル発電機が自動起動し、 冷却に必要な電源が確保できたかどうか、また、実際に 冷却を行っていたかどうかを確認した。1号機と3号機についてはトリップシーケンスからDG が自動起動し非常用母線に給電したことが確認できた。 また、2号機については過渡現象記録装置の記録から DG が自動起動し非常用母線に給電したことが確認できた。 以上より、原子炉冷却のための電源が確保されたことが 確認できた。2.3 項で述べるが、各号機とも主蒸気隔離弁(MSIV) は地震発生後まもなく全弁閉鎖していた。1号機で MSIV が閉鎖している場合には、原子炉の冷却 は主に非常用復水器(IC)により行われる。IC は原子炉の 蒸気を熱交換器により凝縮する装置で、2次側は大量の水 で冷却するものであり、8時間冷却できる水の容量を備え ている。1号機のICは地震後の MSIV 閉鎖に伴う原子炉圧力上 昇に伴い2 系統が自動起動し、その後は運転員が炉水温 度変化率を制御するため手動で起動・停止していたこと が確認できた。 - 23 号機でMSIV が閉鎖した場合、原子炉の冷却は、原 子炉の蒸気を逃し安全弁(SRV)を経由して大量の水を 蓄えたサプレッションチェンバーに導いて凝縮させ、温 度の上昇したサプレッションチェンバース水を残留熱除 去系(RHR)のトーラスクーリング機能により RHR 熱交換 器を使用して行う。RHR 熱交換器の2次側は海水で冷却 しているので、原子炉の熱を最終的には海水に逃すこと になる。SRV は原子炉水の温度変化率を見ながら間欠的に開閉 操作を行う。なお、原子炉停止直後は崩壊熱が大きいた めSRV の自動開設定値に達するため自動開し、すぐ吹き 止まり圧まで低下して自動閉することを繰り返す。 * 原子炉からサプレッションチェンバーへ水が移動する が、タービン駆動の原子炉隔離時冷却系(RCIC)により その補給をし原子炉水位を維持する。2/3 号機では、MSIV 閉鎖に伴う原子炉圧力の上昇によ り SRV が自動開閉を繰り返していたこと、運転員がRCIC により原子炉水位を制御していたこと、RHR 系の起動等 が確認でき、MSIV 閉鎖時に通常に行われる原子炉冷却が 行われていたことが確認できた。2.3 「閉じ込める」機能について「閉じ込める」機能に関しては、主蒸気隔離弁 (MSIV) が地震後まもなく主蒸気管が破断したとの信号で自動閉 鎖しているがその原因の確認と格納容器の健全性の確認 を実施した。前者については、主蒸気隔離弁論理回路の 動作状況を詳細に確認した。後者については、格納容器 の健全性が損なわれた場合には格納容器圧力は大気圧と 同じになるので、格納容器圧力の挙動により確認した。1号機及び3号機のトリップシーケンスでは、主蒸気流 量高、主蒸気管放射能高等主蒸気管破断を示す信号が多 く出てきて、MSIV 全弁全開に至っている。あたかも、地 震により主蒸気管の破断が発生しているように見えるが、 各信号を時系列で整理すると次のことがわかった。 ・MSIV 隔離・格納容器隔離に至る全要因信号が発生していること ・各要因信号は A, B系それぞれ2信号づつあるが、A 系統の各要因信号はほぼ同時に発生していること、B 系統も同様であること (各系統とも10msec 以内に発 生) ・MSIV 隔離・格納容器隔離に至る全要因信号が発生は、DG の自動起動中で非常用母線の電源のない時 間帯で発生していること ・各要因信号は格納容器外での破断、格納容器内での破断を示すものが同時に発生していること 以上より、MSIV 閉信号は A系、B 系毎にほぼ同時に 発生し、格納容器内の破断を示す信号も格納容器外の破 断を示す信号もほぼ同時に発生しているが、これは物理 的にはありえないことであり、実現象とは考えらない。 MSIV 閉信号の発生が 1,3号機とも DG の自動起動中で 丁度非常用母線の電源のない時であることを考えると、 DG 起動中に MSIV 閉論理回路の電源がなくなり、MSIV 閉論理回路がフェールセーフの設計のため電源断字には トリップ信号が発生することからこのような事象が発生 したものと考えられる。 冒頭に示したように、格納容器の健全性を確認するた めに各号機の格納容器圧力の変化を確認したところ、各 号機とも地震発生後 1~5KPa 程と僅かに上昇しているこ とがわかった。これは常用電源で駆動されているドライウェルクーラ ーが外部電源喪失により停止し、ドライウェル内温度上 昇してドライウェル内雰囲気(ほぼ N2)の熱膨張により 圧力が上昇しているものと考えられる。 . 従って、格納容器の健全性はこの段階では問題なかっ323たものと考えられる。転員が IC を起動・停止して制御していたが、丁度 IC が 2.4 地震から津波までのまとめ停止中に津波の影響を受け始めた。 2.1 項から 2.3 項に示したように、1~3号機の「止め 1号機では直流電源も津波により被水し、IC の起動・ る」、「冷やす」、「閉じ込める」機能は健全に保たれてい停止を行う弁の電源が喪失した。運転員は IC を起動しよ たこと、その他特に異常なパラメーターの動きは見られうと努力はし蒸気の流れは確認できたようだが、効果的 なかったことより、地震発生から津波の影響が現れる前には活かすことは出来ず、原子炉の冷却機能は失われた まではプラントの主要な設備は健全に保たれていたもの 模様である。 と考えられる。このため、原子炉水位が低下し、燃料が露出して炉心損傷に至ったと考えられる。 3. 津波以降パラメータの計測は仮設のバッテリーをつないで夜に 津波の影響により、各号機の非常用 DG が海水ポンプ。 計測を開始しているが、原子炉圧力は3月11日 20:07 の被水の影響より停止したため、1~3 号機の交流電源が。 に6.9MPa、3月12日 2:45 に 0.8MPaの測定値が残って 喪失した。また、交流電源が喪失しても使えるはずであ いる。また、ドライウェル(D/W)圧力は3月12日 1: った直流電源(バッテリー)も3号機を除いてバッテリー 05 に 0.6MPa、2 : 30 に 0.84MPa と既に設計圧力 0.43KPa ーそのものが被水したため喪失した。このため、「冷やす」 を超えた記録が残っている。 機能が奪われた結果、炉心を損傷し、その際発生した水 また、現場の放射線が高いためと思われるが、3 月 11 素の爆発により建家や格納容器の一部を破壊したと見ら 12日 21:51 には1号機の原子炉建屋(RB)が立入禁止と れている。この結果、「閉じ込める」機能も完全なもので なっている。 はなくなり、放射性物質を環境に放出した。以上より、次のように進展したと考えられる。 原子炉で事故が発生したときに必要となる計測装置に ・3月11 日 21 : 51 に RB 立入禁止となっており、この ついては、最重要計器は直流で、重要な計器は交流の非 時間には炉心損傷が始まり現場の放射線が上昇してい 常用母線から給電される設計としているので、重要な計 たと考えられる。 器は津波の影響を受けた以降はほとんど喪失した。この ・3月 12 日 2:45 に原子炉圧力は 0.8MPa、その 15 分前 後、重要な計器には仮設のバッテリーを接続して計測を の2:30 に D/W 圧力は 0.84MPa であり、この時点で原 開始したり、RPV 表面温度等の熱電対はデジボルで起電 子炉圧力と D/W 圧力はほぼ同じであり、原子炉圧力容 力を測定するなどして測定を開始したが、測定信号数、 器 (RPV)が既に損傷し原子炉圧力と DAW 圧力がほぼ 測定頻度とも限られたものになった。仮設バッテリーを 同じになっていたと考えられる。 つなぎ込んだ状況の写真を示す。以下、各号機毎に津波 ・上記の約1時間半程前の3月 12 日 1:05 には D/W 圧 の影響を受けた後の経過を示す。力は 0.6MPa となっており、RPV の損傷はこれより以 前と考えられる。 この後、格納容器(PCV)の破損による放射性物質の 大量放出を避けるため、PCV ベントを実施しようとした が、放射線が高くアクセスが出来なかったり、弁を動作 させるエアがなかったりして、PCV ベントを実施し効果 が確認できたのは3月12日 14:30であった。この間、炉心を冷却する努力も続けられた。3月12日 5:46 から消防ポンプを原子炉系の配管に接続して淡水注 入を開始し、その後 14:53 まで断続的に 80th 注水が行 われている。しかし、3月12日 15:36 に1号機の RB で水素爆発 Fig.1 The temporary battery for measurementが発生し RB を損壊した。炉心損傷した際に燃料被覆管 3.1 1号機の場合のジルコニウム(ZI)と水が反応した際に発生した水素 津波の影響を受ける前に、原子炉圧力(=温度)は運が、PCV から RB に漏洩して RB の最上階に大量に蓄積33し、何らかの原因により発火・爆発したものである。 - 炉心の冷却であるが淡水が底をついたため、3月12日 19:04 から海水注水に切り替えている。当初はコアスプ レイ(CS)系の配管に消防ポンプを接続して、炉心上部 から海水注水をしていた。 - 3月 23 日 2:33 に注入ラインは給水系からに切替えた が、これにより RPV 温度は低下を始めた。また、3月25 日 15 : 37 から再び淡水注入に切り替えた。 - 4月7日 1:31 から、水の放射線分解により発生した水 素及び酸素による再爆発を防止する目的で、PCV への窒 素注入が開始された。 3.22号機の場合RCIC を手動起動中に津波の影響を受け始めた。RCIC は3月14日 13 : 25 迄動作したと推定されている。 3月 14 日 16:34 に、原子炉圧力を原子炉逃し安全弁 (SRV)を開いて降圧し、同時に消防ポンプによる注水 (海水)を実施する操作を実施した。しかしながら原子炉水位の低下を抑えることは出来ず、 3月14日 17:17 には燃料頂部まで低下し、燃料が露出し 損傷したものと考えられる。この後、PCV ベント等を試みているが、3月15日 6: 00~6:10頃に圧力抑制室付近で水素爆発とみられる大き な衝撃音があり、PCV を損傷した模様である。この後は、3月26日に海水注水から淡水注水に切替え て冷却を継続している。 3.33号機の場合 3号機はバッテリーが被水しなかったため、直流を電源 としている RCIC 及び高圧注入系(HPCI)の動作が可能 であった。このため、3月12日 11:36 迄は RCIC により注水、12: 35 からは HPCI による注水を実施していたが、3月13日 5:10にバッテリー枯渇により HPCI が停止し、原子炉冷 却機能を喪失した。この後、3月13日 9:08 に SRV を開いて原子炉を降圧 し、同9:25 から消防ポンプによる淡水注入を開始した。しかしながら、原子炉水位は低下し燃料が露出して炉 心を損傷したと考えられる。3月14日 7:44 にはD/W圧 力が 0.46MPa と設計圧力 0.427MPa を超えていた。 - 3月14日 11:01 に3号機の RB で水素爆発が発生し、 RIB を損壊している。1号機と同様、炉心損傷した際に燃 料被覆管のジルコニウム(Zr)と水が反応した際に発生 した水素が、PCV から RB に漏洩してRIB の最上階に大 量に蓄積し、何らかの原因により発火・爆発したものである。この後は、3月 25 日に海水注水から淡水注水に切替え て冷却を継続している。 3.4 4号機の場合 - 4号機は 3 月 15 日に水素爆発とみられる爆発により RB を損壊している。4号機は停止中であり、シュラウド取替のために燃料は 全て使用済み燃料プールに移動しており、合計 体の燃 料が使用済み燃料プールに保管されていた。当初、使用済み燃料プールに保管されていた燃料が露 出して水素ガスが発生したと思われていたが、その後、 使用済み燃料プール水の水質、保管されている燃料の VTRなどから保管されていた燃料の損傷はなく、現在で は保管燃料からの水素ではないと考えられている。爆発の原因として、3号機の水素ガスの回りこみ、シュ ラウド工事用にアセチレンガス等が大量にあったのでは ないか、MG セットの油が蒸発してガス状になり爆発し たのではないか等諸説が出ているが、現在のところ決定 的な原因は特定されていない。4 号機の使用済み燃料プールは外部からの注水により 冷却している状況であり、52~62m クラスのコンクリー トポンプ車を使用しての注水による冷却がほぼ毎日行わ れている。4. まとめ地震から津波までと津波以降のまとめを以下に示す。 ●地震から津波まで ・地震加速度大によりスクラムし確実に停止 ・外部電源は喪失したが、非常用DG起動成功により冷却機能を確保 ・原子炉圧力、原子炉水位とも運転員がコントロール ・主蒸気隔離弁閉鎖状態で通常に行われる原子炉冷却過程であった ●津波以降 ・津波により全電源喪失、全冷却系喪失となり、結果として「冷やす」「閉じ込める」に失敗 ・燃料棒と水の反応で生成した水素が爆発し、建屋や 一部格納容器を破壊したと見られる ・放射性物質である核分裂生成物を環境に放出した ・今のところ放射線障害による人的被害は無いが、国民の財産と環境に被害を与えている ・燃料を冷やすための作業と、放射性物質を閉じ込め るための作業が続けられている34、参考文献 [1] 5月16日に、東京電力株式会社から受領した、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法 律第67条第1項及び電気事業法第106条第3項の規定に基づく報告 [2] Effects of the Earthquake and Tsunami on the FukushimaDaiichi and Daini Nuclear Power Stations(2011.5.24 東京電力株式会社) [3] 東京電力ホームページの公開データ (東日本大震災後の福島第一・第二原子力発電所の状況:プラント 関連パラメータ: プラントの水位・圧力データ/プ ラントの温度データ)」(平成23年9月 13 日)35“ “福島第一原子力発電所事故の経緯“ “小林 正英,Masahide KOBAYASHI
地震発生から津波の影響が現れる迄の約 50 分間は、地 震加速度大信号により原子炉が自動停止し、原子炉の冷 却をしている期間である。この期間に対して、地震によ る影響でプラントは致命的なダメージをうけていたかど うかについて評価を行った。評価は原子炉の安全の基本機能である「止める」、「冷 やす」、「閉じ込める」機能が正常に働いていたかどうか の観点から行った。評価に使用したデータであるが、原子力安全・保安院 からの報告徴収要求の従って東京電力提出したものを使 用した。データは次の url で公開されている。 http://www.nisa.meti.go.jp/earthquake/houkoku/houkoku.html 1. 提出データ範囲説明書 2. チャート 3. 警報発生記録等データ 4. 運転日誌等 5. プロセス計算機データ 6. 過渡現象記録装置データ 7. 各種操作実績取り纏め 8. プラント関連パラメータ このうち主に使用したのは“2. チャート”、“3. 警報発生 記録等データ”、“6. 過渡現記録装置データ”である。“チャート”は記録計の記録用紙であり、通常は1時 間で2cm 程用紙が進んでペンにより信号変化が記録がで きる。時間分解能はあまり高いものではないが、原子炉連絡先:小林 正英 原子力安全基盤機構検査業務部 〒105-0001 東京都港区虎ノ門 3-17-1 TOKYU REIT 虎ノ門ビル E-mail: kobayashi-masahide@jens.go.jpNon Member水位等の重要な信号に関しては原子炉スクラム等の信号 によりチャートが早送りとなるものもありこの場合はあ る程度の時間分解能が期待できる。なお、計器電源の喪 失により記録計は停止してしまうので、津波の影響が現 れる前まで利用が可能である。“警報発生記録等データ”は、プラントの様々な信号 を入力し、プラントの監視を行ったり、性能計算を行っ たりするプロセス計算機の印字記録である。このうち、 プラント監視結果を出力するアラームタイパーの印字記 録を利用した。アラームタイパーには、機器の動作記録や制限値の逸 脱状況等が印字時間とともに出力されるが、スクラム回 路等の重要な論理回路については、動作時間を 10msec の 時間分解能で記憶し、打ち出す機能(トリップシーケン ス)が付いている。スクラム論理や MSIV 閉論理の状況 はこのトリップシーケンスデータを活用した。“過渡現象記録装置データ”は過渡現象記録装置の記 録データであるが、過渡現象記録装置はプラントの主要 パラメータ (アナログ及び接点信号)を 10~100msec 間 隔で取り込み記録保存する装置である。スクラム等の信 号により、その発生前後数分から 30 分程度のデータを自 動保存する。各号機ともこれらデータが全部あるわけではなく、こ これらのデータの組み合わせによって評価を行った。2.1 「止める」機能について * 「止める」機能に関しては自動スクラムにより制御棒 が全挿入し、実際に中性子束が下がって核分裂が停止し たかを確認した。各号機とも、ほぼ地震発生時間にスクラム信号が出て いること、アラームタイパーに“全制御棒全挿入”の打 ち出しが確認されていること、中性子束が 0%に低下して いることが確認でき、各号機とも自動停止信号により制 御棒が全挿入され、確実に原子炉が止まった。2.2 「冷やす」機能について「冷やす」機能に関しては、外部電源喪失が発生した が、その際には非常用ディーゼル発電機が自動起動し、 冷却に必要な電源が確保できたかどうか、また、実際に 冷却を行っていたかどうかを確認した。1号機と3号機についてはトリップシーケンスからDG が自動起動し非常用母線に給電したことが確認できた。 また、2号機については過渡現象記録装置の記録から DG が自動起動し非常用母線に給電したことが確認できた。 以上より、原子炉冷却のための電源が確保されたことが 確認できた。2.3 項で述べるが、各号機とも主蒸気隔離弁(MSIV) は地震発生後まもなく全弁閉鎖していた。1号機で MSIV が閉鎖している場合には、原子炉の冷却 は主に非常用復水器(IC)により行われる。IC は原子炉の 蒸気を熱交換器により凝縮する装置で、2次側は大量の水 で冷却するものであり、8時間冷却できる水の容量を備え ている。1号機のICは地震後の MSIV 閉鎖に伴う原子炉圧力上 昇に伴い2 系統が自動起動し、その後は運転員が炉水温 度変化率を制御するため手動で起動・停止していたこと が確認できた。 - 23 号機でMSIV が閉鎖した場合、原子炉の冷却は、原 子炉の蒸気を逃し安全弁(SRV)を経由して大量の水を 蓄えたサプレッションチェンバーに導いて凝縮させ、温 度の上昇したサプレッションチェンバース水を残留熱除 去系(RHR)のトーラスクーリング機能により RHR 熱交換 器を使用して行う。RHR 熱交換器の2次側は海水で冷却 しているので、原子炉の熱を最終的には海水に逃すこと になる。SRV は原子炉水の温度変化率を見ながら間欠的に開閉 操作を行う。なお、原子炉停止直後は崩壊熱が大きいた めSRV の自動開設定値に達するため自動開し、すぐ吹き 止まり圧まで低下して自動閉することを繰り返す。 * 原子炉からサプレッションチェンバーへ水が移動する が、タービン駆動の原子炉隔離時冷却系(RCIC)により その補給をし原子炉水位を維持する。2/3 号機では、MSIV 閉鎖に伴う原子炉圧力の上昇によ り SRV が自動開閉を繰り返していたこと、運転員がRCIC により原子炉水位を制御していたこと、RHR 系の起動等 が確認でき、MSIV 閉鎖時に通常に行われる原子炉冷却が 行われていたことが確認できた。2.3 「閉じ込める」機能について「閉じ込める」機能に関しては、主蒸気隔離弁 (MSIV) が地震後まもなく主蒸気管が破断したとの信号で自動閉 鎖しているがその原因の確認と格納容器の健全性の確認 を実施した。前者については、主蒸気隔離弁論理回路の 動作状況を詳細に確認した。後者については、格納容器 の健全性が損なわれた場合には格納容器圧力は大気圧と 同じになるので、格納容器圧力の挙動により確認した。1号機及び3号機のトリップシーケンスでは、主蒸気流 量高、主蒸気管放射能高等主蒸気管破断を示す信号が多 く出てきて、MSIV 全弁全開に至っている。あたかも、地 震により主蒸気管の破断が発生しているように見えるが、 各信号を時系列で整理すると次のことがわかった。 ・MSIV 隔離・格納容器隔離に至る全要因信号が発生していること ・各要因信号は A, B系それぞれ2信号づつあるが、A 系統の各要因信号はほぼ同時に発生していること、B 系統も同様であること (各系統とも10msec 以内に発 生) ・MSIV 隔離・格納容器隔離に至る全要因信号が発生は、DG の自動起動中で非常用母線の電源のない時 間帯で発生していること ・各要因信号は格納容器外での破断、格納容器内での破断を示すものが同時に発生していること 以上より、MSIV 閉信号は A系、B 系毎にほぼ同時に 発生し、格納容器内の破断を示す信号も格納容器外の破 断を示す信号もほぼ同時に発生しているが、これは物理 的にはありえないことであり、実現象とは考えらない。 MSIV 閉信号の発生が 1,3号機とも DG の自動起動中で 丁度非常用母線の電源のない時であることを考えると、 DG 起動中に MSIV 閉論理回路の電源がなくなり、MSIV 閉論理回路がフェールセーフの設計のため電源断字には トリップ信号が発生することからこのような事象が発生 したものと考えられる。 冒頭に示したように、格納容器の健全性を確認するた めに各号機の格納容器圧力の変化を確認したところ、各 号機とも地震発生後 1~5KPa 程と僅かに上昇しているこ とがわかった。これは常用電源で駆動されているドライウェルクーラ ーが外部電源喪失により停止し、ドライウェル内温度上 昇してドライウェル内雰囲気(ほぼ N2)の熱膨張により 圧力が上昇しているものと考えられる。 . 従って、格納容器の健全性はこの段階では問題なかっ323たものと考えられる。転員が IC を起動・停止して制御していたが、丁度 IC が 2.4 地震から津波までのまとめ停止中に津波の影響を受け始めた。 2.1 項から 2.3 項に示したように、1~3号機の「止め 1号機では直流電源も津波により被水し、IC の起動・ る」、「冷やす」、「閉じ込める」機能は健全に保たれてい停止を行う弁の電源が喪失した。運転員は IC を起動しよ たこと、その他特に異常なパラメーターの動きは見られうと努力はし蒸気の流れは確認できたようだが、効果的 なかったことより、地震発生から津波の影響が現れる前には活かすことは出来ず、原子炉の冷却機能は失われた まではプラントの主要な設備は健全に保たれていたもの 模様である。 と考えられる。このため、原子炉水位が低下し、燃料が露出して炉心損傷に至ったと考えられる。 3. 津波以降パラメータの計測は仮設のバッテリーをつないで夜に 津波の影響により、各号機の非常用 DG が海水ポンプ。 計測を開始しているが、原子炉圧力は3月11日 20:07 の被水の影響より停止したため、1~3 号機の交流電源が。 に6.9MPa、3月12日 2:45 に 0.8MPaの測定値が残って 喪失した。また、交流電源が喪失しても使えるはずであ いる。また、ドライウェル(D/W)圧力は3月12日 1: った直流電源(バッテリー)も3号機を除いてバッテリー 05 に 0.6MPa、2 : 30 に 0.84MPa と既に設計圧力 0.43KPa ーそのものが被水したため喪失した。このため、「冷やす」 を超えた記録が残っている。 機能が奪われた結果、炉心を損傷し、その際発生した水 また、現場の放射線が高いためと思われるが、3 月 11 素の爆発により建家や格納容器の一部を破壊したと見ら 12日 21:51 には1号機の原子炉建屋(RB)が立入禁止と れている。この結果、「閉じ込める」機能も完全なもので なっている。 はなくなり、放射性物質を環境に放出した。以上より、次のように進展したと考えられる。 原子炉で事故が発生したときに必要となる計測装置に ・3月11 日 21 : 51 に RB 立入禁止となっており、この ついては、最重要計器は直流で、重要な計器は交流の非 時間には炉心損傷が始まり現場の放射線が上昇してい 常用母線から給電される設計としているので、重要な計 たと考えられる。 器は津波の影響を受けた以降はほとんど喪失した。この ・3月 12 日 2:45 に原子炉圧力は 0.8MPa、その 15 分前 後、重要な計器には仮設のバッテリーを接続して計測を の2:30 に D/W 圧力は 0.84MPa であり、この時点で原 開始したり、RPV 表面温度等の熱電対はデジボルで起電 子炉圧力と D/W 圧力はほぼ同じであり、原子炉圧力容 力を測定するなどして測定を開始したが、測定信号数、 器 (RPV)が既に損傷し原子炉圧力と DAW 圧力がほぼ 測定頻度とも限られたものになった。仮設バッテリーを 同じになっていたと考えられる。 つなぎ込んだ状況の写真を示す。以下、各号機毎に津波 ・上記の約1時間半程前の3月 12 日 1:05 には D/W 圧 の影響を受けた後の経過を示す。力は 0.6MPa となっており、RPV の損傷はこれより以 前と考えられる。 この後、格納容器(PCV)の破損による放射性物質の 大量放出を避けるため、PCV ベントを実施しようとした が、放射線が高くアクセスが出来なかったり、弁を動作 させるエアがなかったりして、PCV ベントを実施し効果 が確認できたのは3月12日 14:30であった。この間、炉心を冷却する努力も続けられた。3月12日 5:46 から消防ポンプを原子炉系の配管に接続して淡水注 入を開始し、その後 14:53 まで断続的に 80th 注水が行 われている。しかし、3月12日 15:36 に1号機の RB で水素爆発 Fig.1 The temporary battery for measurementが発生し RB を損壊した。炉心損傷した際に燃料被覆管 3.1 1号機の場合のジルコニウム(ZI)と水が反応した際に発生した水素 津波の影響を受ける前に、原子炉圧力(=温度)は運が、PCV から RB に漏洩して RB の最上階に大量に蓄積33し、何らかの原因により発火・爆発したものである。 - 炉心の冷却であるが淡水が底をついたため、3月12日 19:04 から海水注水に切り替えている。当初はコアスプ レイ(CS)系の配管に消防ポンプを接続して、炉心上部 から海水注水をしていた。 - 3月 23 日 2:33 に注入ラインは給水系からに切替えた が、これにより RPV 温度は低下を始めた。また、3月25 日 15 : 37 から再び淡水注入に切り替えた。 - 4月7日 1:31 から、水の放射線分解により発生した水 素及び酸素による再爆発を防止する目的で、PCV への窒 素注入が開始された。 3.22号機の場合RCIC を手動起動中に津波の影響を受け始めた。RCIC は3月14日 13 : 25 迄動作したと推定されている。 3月 14 日 16:34 に、原子炉圧力を原子炉逃し安全弁 (SRV)を開いて降圧し、同時に消防ポンプによる注水 (海水)を実施する操作を実施した。しかしながら原子炉水位の低下を抑えることは出来ず、 3月14日 17:17 には燃料頂部まで低下し、燃料が露出し 損傷したものと考えられる。この後、PCV ベント等を試みているが、3月15日 6: 00~6:10頃に圧力抑制室付近で水素爆発とみられる大き な衝撃音があり、PCV を損傷した模様である。この後は、3月26日に海水注水から淡水注水に切替え て冷却を継続している。 3.33号機の場合 3号機はバッテリーが被水しなかったため、直流を電源 としている RCIC 及び高圧注入系(HPCI)の動作が可能 であった。このため、3月12日 11:36 迄は RCIC により注水、12: 35 からは HPCI による注水を実施していたが、3月13日 5:10にバッテリー枯渇により HPCI が停止し、原子炉冷 却機能を喪失した。この後、3月13日 9:08 に SRV を開いて原子炉を降圧 し、同9:25 から消防ポンプによる淡水注入を開始した。しかしながら、原子炉水位は低下し燃料が露出して炉 心を損傷したと考えられる。3月14日 7:44 にはD/W圧 力が 0.46MPa と設計圧力 0.427MPa を超えていた。 - 3月14日 11:01 に3号機の RB で水素爆発が発生し、 RIB を損壊している。1号機と同様、炉心損傷した際に燃 料被覆管のジルコニウム(Zr)と水が反応した際に発生 した水素が、PCV から RB に漏洩してRIB の最上階に大 量に蓄積し、何らかの原因により発火・爆発したものである。この後は、3月 25 日に海水注水から淡水注水に切替え て冷却を継続している。 3.4 4号機の場合 - 4号機は 3 月 15 日に水素爆発とみられる爆発により RB を損壊している。4号機は停止中であり、シュラウド取替のために燃料は 全て使用済み燃料プールに移動しており、合計 体の燃 料が使用済み燃料プールに保管されていた。当初、使用済み燃料プールに保管されていた燃料が露 出して水素ガスが発生したと思われていたが、その後、 使用済み燃料プール水の水質、保管されている燃料の VTRなどから保管されていた燃料の損傷はなく、現在で は保管燃料からの水素ではないと考えられている。爆発の原因として、3号機の水素ガスの回りこみ、シュ ラウド工事用にアセチレンガス等が大量にあったのでは ないか、MG セットの油が蒸発してガス状になり爆発し たのではないか等諸説が出ているが、現在のところ決定 的な原因は特定されていない。4 号機の使用済み燃料プールは外部からの注水により 冷却している状況であり、52~62m クラスのコンクリー トポンプ車を使用しての注水による冷却がほぼ毎日行わ れている。4. まとめ地震から津波までと津波以降のまとめを以下に示す。 ●地震から津波まで ・地震加速度大によりスクラムし確実に停止 ・外部電源は喪失したが、非常用DG起動成功により冷却機能を確保 ・原子炉圧力、原子炉水位とも運転員がコントロール ・主蒸気隔離弁閉鎖状態で通常に行われる原子炉冷却過程であった ●津波以降 ・津波により全電源喪失、全冷却系喪失となり、結果として「冷やす」「閉じ込める」に失敗 ・燃料棒と水の反応で生成した水素が爆発し、建屋や 一部格納容器を破壊したと見られる ・放射性物質である核分裂生成物を環境に放出した ・今のところ放射線障害による人的被害は無いが、国民の財産と環境に被害を与えている ・燃料を冷やすための作業と、放射性物質を閉じ込め るための作業が続けられている34、参考文献 [1] 5月16日に、東京電力株式会社から受領した、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法 律第67条第1項及び電気事業法第106条第3項の規定に基づく報告 [2] Effects of the Earthquake and Tsunami on the FukushimaDaiichi and Daini Nuclear Power Stations(2011.5.24 東京電力株式会社) [3] 東京電力ホームページの公開データ (東日本大震災後の福島第一・第二原子力発電所の状況:プラント 関連パラメータ: プラントの水位・圧力データ/プ ラントの温度データ)」(平成23年9月 13 日)35“ “福島第一原子力発電所事故の経緯“ “小林 正英,Masahide KOBAYASHI