TMI とチェルノブイリ事故の教訓と対策

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カテゴリ: 第8回
1. 緒言
東北地方太平洋沖地震は、2011 年(平成23年)3月11 日 14時46分 18 秒,日本の太平洋三陸沖を震源として発 生したマグネチュード9.0 の巨大地震である. この地震は、 地震のみならず,北海道から千葉県に至る太平洋沿岸に 大きな津波を発生させ、東日本を中心に甚大な被害をも たらし、東日本大震災と命名された.この沿岸に立地す る火力発電所、原子力発電所の多くは何らかの影響を受 け,運転停止した。なかでも,東京電力福島第一原子力 発電所の1号機から4号機においては,1外部電源およ び非常用電源が全て失われたこと,2炉心および使用済 燃料貯蔵プール内の燃料の冷却および除熱ができなくな ったことが大きな要因となり,燃料が損傷し,その結果 として放射性物質が外部に放出され,周辺に甚大な影響 を与える事態に至った. 原子力発電所の事故のみならず、 地元から首都圏の水瓶まで放射性物質で汚染するという 深刻な原子力災害を引き起こした(14).商業用の原子力発電所で起こってはならない重大な事 故であり、津波の被災に加えて強制退避が追い打ちを与 える形で避難された方々,野菜や牛乳,漁業に与えた汚 染と風評被害,さらには生き残った家畜の殺処分といっ た耐え難い状況が報道され, 原子力発電所の運営や規制 原子力の研究開発に従事する人々に対する強い非難が発 せられる一方で,再生可能エネルギー礼賛の風潮も広ま り,定期検査を終了した原子力発電所の運転再開が認め られずに、電力不足による工場の操業短縮・海外移転、 熱中症の多発など震災以外のリスクも発生している.今回の事故で明らかになりつつあるのは、例えば1号 機に備わっていた隔離時復水器IC: Isolation Condenser)の 運転を運転員が止めたり,制御盤が隔離信号を出して原 子炉の水位低下とそれに伴う炉心損傷を発生している. また,多量に発生した水素爆発による原子炉建屋の破壊 とそれに伴う放射性物質を含む瓦礫の飛散が,隣接する 2号機、3号機の事故対応(アクシデントマネージメン ト)の遂行を困難にした.2号機は3日間、3号機は2 日間の炉心注水を確保していたにもかかわらず,その間 に消防ポンプによる炉心注水が開始できなかったために, 2号機,3号機に於いても炉心溶融を発生し、3号機は 激しい水素爆発を起こし,隣接する4号機も3号機から排気塔に行く排気管を経由して水素が侵入し、水素爆発 を発生したと言われている.炉心への注水に必要な移動 電源車の到着が遅れ、さらにケーブルのコネクタや系統 の電圧が合わず、消火ポンプや中央制御室への給電が遅 れたことも事故対応を困難にした.事故後の政府の対応 も迅速さを欠き、事故を収束させることが可能であった 期間を無駄にした感じが否めない。これらの機器システムの課題や運転員や計測制御系 の不具合が重要な冷却系を活かし切れていなかったこと 及び政府の対応に対する反省事項は、米国スリーマイル 島原子力発電所2号機(以下 TMI-2)の事故の教訓に照 らしてみると明確になってくる.また,チェルノブイリ 4号機の事故の後に欧州で設置されたフィルタードベン トシステムが,もし福島第一発電所に設置されていれば、 周辺への放射性物質の飛散を1/100 から1/1000に低減 でき、地元に深刻な被害を与えなくて済んだハズである. また,水素爆発のすさまじさは、フィルタードベントに おいても適切な水素対策が必要であることを教訓として 残した.本報では、TMI-2 とチェルノブイリ事故の教訓 をまず紹介し福島第一原子力発電所から得られた教訓 と合わせて今後の我が国および全世界の原子力発電所の 安全性の向上と事故の再発防止対策に資することを目的 としたい!)
2. スリーマイルアイランド2号機の事故の概 要と教訓」
1979年3月 28 日未明に, アメリカのペンシルバニア州 にあるスリーマイル島原子力発電所2号機(電気出力 96 万 kW)で,炉心が大規模に損傷する事故が発生した. TM 原子力発電所の原子炉は、バブコック&ウイルコッ クス B&W 社) 製の PWR で, 蒸気発生器の保有水容量が 小さく,また蒸気発生器で過熱蒸気をつくる点に特徴が ある.以下,図1を参照して説明する. 1 事故は、復水器の水を蒸気発生器へ送る主給水ポンプ の停止によって始まった. ただちに補助給水ポンプが自 動起動し, 30 秒後には定格出力で回転した.しかし,補 助給水ポンプの出口にある二つの弁が閉じていたため, 水は蒸気発生器へ送られなかった.このとき,制御室の 弁操作スイッチには「閉めきり」というフダが下がって いた.これは保守作業後,「開」に戻すべきところを,巡 視点検で気づかれていなかった. 運転員が気づいて弁を 開けたのは事故から8分後のことであった.原子炉の方は、蒸気発生器に水が来なくなったため一 次系の温度と圧力が上がり,加圧器の上部についている 圧力逃し弁が自動的に開き,制御棒が炉心に挿入された.これで原子炉は設計通り停止した.しかし,圧力逃し弁 は自動的には閉まらず(パイロット弁の破損による開固 着で再閉止不能), 一次系冷却水の噴出が続き,圧力が下 がりすぎた.この信号で非常用炉心冷却装置(ECCS)が 自動起動し、原子炉容器に冷却水を注入し始めた.とこ ろが運転員は事故発生4分後に1系統,10分後にもう1 系統とすべての ECCS の弁を止めてしまった.この理由 は、加圧器についている水位計が満水になっているよう な指示を出しており,この値を信じた運転員は加圧器が 満水になり圧力調整ができなくなることを恐れたからで あった.しかし12分後になって,運転員は冷却経路がな いことに不安を覚えて ECCS を再起動したそれでもや はり原子炉容器が満水になり圧力が上がってくることを 恐れ,注入量を極端に絞っていたので、外に漏れ出てい く水のほうが多く,原子炉内の水位は次第に下がり, 一 方,開いたままの圧力逃し弁を通って格納容器内に噴出 した蒸気は、凝縮して水となり,加圧器逃しタンクにた まった.その後このタンクが満水となり,溢れて格納容 器の底にあるサンプ(水貯め)にたまりはじめた. この サンプの水位が上がってきたため、放射能を含んだ水が 移送ポンプにより補助建屋に送り出されてしまった。さ らに,その先の系統に漏れがあったため、送られてきた 水に含まれていたヨウ素131 を含む気体状のFP がこの漏 れ箇所から建屋の中に漏れ出て、補助建屋の換気系を通 して外に出ていった.また, ECCS を再起動後,運転員は 一次冷却材循環ポンプに振動が出たため,このポンプを 止めた.その結果、いままではわずかだが冷却水が循環 して炉心の温度が小康状態を保っていたが,これがなく なったため,炉心を浸していた水が蒸発し,水位が下が ったので炉心が露出して燃料棒が過熱し,被覆管の破損 が進みはじめた.そして被覆管のジルカロイが高温下で 水蒸気と反応し、酸化して大量の水素を発生させた.こ の水素は気体状の核分裂生成物(FP)などと一緒になっ て大きな不凝縮性気体のかたまりとなって,原子炉圧力 容器の上の方にたまり始めた.一方,酸化して脆くなった燃料の被覆管は、くずれ落 ちて炉心の中央上部に大きな空洞ができた、空洞の底に は砕片が厚く積もり,冷却阻害が進行し,過熱した燃料 の一部は溶けて流れ、圧力容器底部へ落下した.この頃 になってようやく運転員は逃し弁からのリークに気付き, 元弁を閉じて ECCS の流量を増加させたので、炉心溶融 のこれ以上の進展は阻止できた.しかし、圧力容器の上 方に貯まった気体が邪魔して蒸気発生器を通して冷却材 が流れず、一次系では冷却ができないので, ECCS を引き 続き使用して冷却を続けた。そこで再び逃し弁の元弁を37「感となり、部| 加圧器逃がし弁が開固着。 |水位計の端指示により、 |非常用が心冷却系を停止..本コンクまってい一本?*図1 米国スリーマイルアイランド2号機の事故開けて系統を減圧し、再び弁を閉じて一次冷却水ポンプ の一つを起動した.これにより循環が生じて異常な温度 を示していた炉心出入口の温度計は常識的な値に戻り, 炉心を通って冷却水が流れ始め、炉心で加熱された水が 蒸気発生器で冷やされるようになった.こうして炉心の 安定した冷却が確保できたのは事故が起きてから16時間 後のことであった. 1. 事故自体は 28日の夜には終息したが, 30 日になってス タック(排気筒)から高い放射能が放出されているとの 誤った測定結果がアメリカ原子力規制委員会(NRC) に 伝えられ,さまざまな可能性が論じられたため、ペンシ ルバニア州知事は最悪の事態に備えて5マイル圏内の妊 婦と就学前児童の待避を勧告した.週末ということもあ り,隣が待避を始めれば自分もということで,結局10 マ イル圏内の住民の 40 パーセントが圏外に待避した. この 間,道路は車であふれ、一方街はゴーストタウンのよう になった. この事故による公衆の被ばく線量については、 当時の原子力安全委員会委員長は4月4日の議会で周辺 の生活環境における放射線レベルについて証言し、「発電 所から 0.6 マイルのところに数日立ちつづけていても被 ばく線量当量は最大で80mren (1 mrem = 0.01mSv), つま り胸のエックス線検査 1~2回分に相当する線量であ る.」と述べている.また,発電所の周囲 80 キロメート ル以内に住む 200 万人の住民の受けた被ばく線量当量は 平均 1.5mren と評価され、公衆の放射線被ばくは実質上 なかったといっていい.教訓は、社会の混乱とパニックに陥った住民の精神的 な影響であった.この事故のために設立された大統領特 別調査委員会の報告書は、「事故の重大性」のところで、 「事故の健康への影響に関する我々の調査に基づけば、 発電所のあの重大なダメージにもかかわらず、大部分の 放射性物質は閉じこめられ,その放出による個人の肉体 的健康への影響はとるに足らないというのが結論である. 事故の健康への大きな影響は精神的ストレスであった.」 と述べている。この事故について,NRC が事故の直後に原因究明のた め事故調査委員会を発足させ,徹底した原因究明に乗り 出した.一方,事故の社会的影響の大きさに鑑みて,カ ーター大統領は事故から2週間後の4月11日, ダートマ ス大学の学長ジョン・J・クメニー氏を委員長とする大 統領特別調査委員会を発足させた.これは、州知事,各 界の学識経験者及び住民代表を含む 12 人で構成され, 技 術的な原因以外に背後要因も含めて徹底的な調査をおこ なった.この委員会は半年間に 150 人以上から公式証言 や個人面談を行い,積上げると 100 メートルにも達する 多数の資料を収集したといわれている. この委員会は調 査結果と改善策を大統領に提出した.「多年にわたる原子 力発電所の運転経験を経て、原子力発電所は全く安全で あるという考え方が固定観念(Mindset)としてでき上が っていて,これがいろいろな面で適切な措置をとること を妨げた」と述べている.わが国でも原子力安全委員会 が直ちに国内の原子力発電所の総合的な再点検を実施し, 運転中の大飯発電所については、このような事故の起き る心配のないことを確認できるまで運転を中止すること を勧告した.また,同委員会は特別調査委員会を設けて この教訓を様々な角度から検討し,これをもとに「設計 に係わる事項」と「運転管理に係わる事項」にわけて, その後の安全確保対策に反映させるべき事項を決定した.この最も重要な教訓も福島第一発電所では生かされて いなかった.すなわち、米国での配置設計を基本として いたため,非常用ディーゼル発電機がタービン建屋地下 1階に設置され、津波に対して無防備となっていた.こ の点を世界の著名な原子力安全規制の専門家16名による 声明文「ネバーアゲイン」のでは、「史上希に見る巨大地 震プラス歴史的な大津波が全電源を喪失させた.低確率 の事象があり得ない形で同時発生したが,福島のサイト ではその危機感が無かった」と指摘し,当初の安全基準 を満たしているだけで満足するのではなく、常に最新の 知見と緊張感を持って安全確保の努力を継続・強化して いかなければならないと訴えている.すなわち、固定観 念(Mindset)による油断を厳しく戒めている.また,研 究開発面でも,1) 炉心損傷時の原子炉の振舞いについて の知見を深める研究 2) 人間と機械との関係マンマシン インターフェイスの研究 3) 運転員の操作を支援するシ ステムの研究,さらには 4) 事故時に人に代わって作業 ができるロボットの開発,などが重点的に実施されるこ とが要求された.さて,これらの研究開発の成果が今回 の事故進展の理解と収拾にどれだけ役立ち,何が不足で あったかを学会として検証すべきと考える.38、3. チェルノブイリ原子力発電所4号機の事故 の概要と教訓」1986年4月26日、いまのウクライナ共和国(当時ソ連) の首都キエフから約 100 キロメートル離れたところにあ るチェルノブイリ原子力発電所4号機において、原子力 事故が発生した. 事故は深夜午前1時 23 分に起きた.制 御室の運転員は1回目の爆発音につづいて 2, 3秒後に2 回目の爆発音を聞いたという.1度目の爆発は燃料が溶 融破損して溶融した二酸化ウランが微粒子になって圧力 管内に拡散され、水蒸気爆発を起こしたためとされ,2 回目の爆発は、様々に解釈されているが,発生した水素 や酸化炭素の爆発という意見が有力とされている.こ の結果、炉心の4分の1が炉外へ放出され,原子炉建屋 は、その役を果せるような形を留めないほど著しく損壊したの* 図2に示すように,この原子炉は黒鉛減速軽水冷却沸 騰水型炉 (RBMK型)で、旧ソ連が開発したものである. 炉心は大きな黒鉛の塊の中に太い圧力管を多数(1700本) 垂直に通し、そのそれぞれの中に燃料集合体を挿入して ある.この中に冷却水を通して加熱・沸騰させて蒸気を つくる.その蒸気は気水分離器(蒸気ドラム)で水分と 分離され,集められてタービンに送られる。この原子炉 は熱中性子炉なので、中性子の減速材が必要であり、こ れを黒鉛が担当している. 圧力管の中で燃料の回りを流 れている軽水は専ら熱輸送の役をしているわけである. この原子炉のように「減速は黒鉛,冷却は軽水」という 考え方で炉心を設計すると,わが国の発電に用いられて いる「減速も冷却も軽水」という軽水炉の体系と違って 低出力時にボイド発生により正のフィードバックが生じ る恐れがあった.この対策として,出力の大きさや増加 割合を計測器で監視しており,異常信号で 200 本以上の 制御棒を自動挿入するスクラム装置が付いていた.出力 20~30%でタービンの機械的回転エネルギー(慣性)を 利用して所内電力を得る試験を行う予定であったが,キ セノン効果で出力が 1%まで低下してしまった. このため表1 チェルノブイリ事故時の緊急事態作業員の容態?「急性放射線病」 放射線被曝 「入院治療した。あの熱、生存者」 の程度 線量(GY) 人数*の数 軽度 0.8 ~ 2.1 124141 | 中程度 | 2.2~4.1 | 50 | 1 | 49 |重 症 | 4.2~6.4 | 22 | 7 | 15 極端症 | 6.5~16 | - 21 | 20 | 1134 | 28 | 106 の緊急事態作業、 性放射線障害は認め-39GEEEEEEEaw areeeeeeepellowerence急20%以下の出力での定常運転を禁じる規則(運転手順) になっていたにもかかわらず、安全装置を外して、多く の制御棒を引き抜いて出力を回復しようとした.この結 果, 出力約7%でボイド発生に伴う炉心の不安定が発生し, 制御不能に陥った.この状態で制御棒を挿入すると一時 的に出力が上がる特性となっていたため、スクラムボタ ンを押して数秒にして,定格出力の約 100 倍に相当する 300GW の核分裂エネルギーに達し、炉心が核的に暴走し た. 前述のとおり, 2,3秒の間の2回の爆発を経て,核的 な暴走と蒸気爆発,高温のグラファイトと水が反応して できた水素と一酸化炭素が爆発的に燃焼し,放射性物質 を成層圏まで吹き上げ, ウクライナからヨーロッパに亘 る広い範囲に放射性物質を降下させた.周辺のベラルー シ・ウクライナ・ロシアの放射能汚染のレベルは深刻で, 人的な被害が多く発生した.しかし,その多くは事故の 危険性を知らされず,防護服やマスク無しに緊急対応さ せられた作業員や,野菜や牛乳を飲んだ子供たちが犠牲 になった. この具体的根拠として,チェルノブイリ事故 時に緊急時対応した 237 名の情報,ベラルーシ・ウクラ イナ・ロシアの被曝被災者の情報が参考になる8. 大規模 な黒鉛火災の鎮火のため、消防隊員を含めた緊急時対応 作業員は、防護マスク・防護服も着用せずこの緊急事態 に対処させられた.その結果, 16Gy から 2.2Gyの放射線 を浴びた 93 人のグループから, 28 人が約3ヶ月の間に死 亡した.20 人以上の死亡の主因は火傷・呼吸障害であっ た。すなわち,防護マスク・防護服なしの作業であった ため、多量に放出されたベータ線放出核種の皮膚付着お よび吸入・摂取による体外・体内での火傷が死を除いて 骨髄障害が生じ,大部分の死亡者に腸障害が生じた. 放 射性物質の放出量に加え,死者数・死亡原因でも,福島 第一原子力発電所の場合とは大きく異なっている.[制御室、安全系を切るスイッチがある。「格納容器がない燃料[emonsummeteomesionwindMaten検索:主ポンプKaortration「減速材、組 「 M 水 図2チェルノブイリ原子力発電所の事故の要因の4. ヨーロッパでの過酷事故対応緩和措置- 過酷事故の拡大を防いだり、事故の影響緩和に積極的 に取り組むこと,それらのために必要な方策を準備する ことを過酷事故対応緩和措置 (AM: Accident management) と呼ぶ、以下に述べるスイスのベツナウ発電所(PWR) では TMI-2 事故後に表1に示す 11 項目の安全性・信頼性 向上プロジェクトを実施した.この中の Filtered Containment Venting System がヨーロッパ諸国でチェルノ ブイリ事故の後、原子力発電所の運転再開の切り札とな った.図3に示すフィルター付ベントシステムである. 国民投票の国の住民として,このような一連の対策に対 する検討と合意の上で,住宅地周辺にある原子力エネル ギーの積極利用を進めている. シビアアクシデントが発 生しても格納容器圧が設計圧力を超える前に,電力なし で高効率な放射性物質除去機能があるこの装置を作動さ せる. 避難不要なレベルで放射性物質を大気中に放出で きれば、格納容器の健全性が維持できると共に,避難す ることなしに周辺住民の健康被害と環境被害を防止でき る. 万一事故が起こっても地元には迷惑をかけない。こ れが原子力発電所の究極の安全設計の目標であるべきと 思う.5. 結言* 福島第一の事故の最大の教訓は、ひとたび大事故が発 生すれば、賠償金, 除染・放射性物質や建屋の撤去費用, 風評被害保証金等の災害に伴う金額的負担が極めて大き くなることである.軽水炉では万一事故が発生しても、それが拡大するの を防ぐために、いくつもの多様な機器が何重にもバック アップとして設計され設置されている。しかしスリーマ イル島事故や今回の福島第一原子力発電所の事故もそう であるが,機器の故障や津波をきっかけに、いくつかの 不具合が重なり,その結果、設計で考えられる範囲を超 え、最終的に炉心の溶融など大きな損傷に至る事態が発 生する可能性がある. この様な事態を,特に「シビアア クシデント(苛酷事故)」と呼ぶ原子炉格納容器は、ス リーマイルアイランドの事故では、最後の「砦」として 大きな威力を発揮した.格納容器がないチェルノブイリ 事故では放射性物質を世界中に撒き散らした.一方,福 島第一原子力発電所では内圧上昇によりリークや破損が 生じた.例えば,格納容器の圧力が高くなって大破損に 至る前に,フィルターを通して放射能を除去してからベ ント (Filtered Vent) で圧力を下げて破損を防止するとか, 崩壊熱で格納容器の圧力が過度に上昇しないように格納 容器を水や空気で冷やす静的冷却系などの方策が必要で表2 TMI-2 事故後の安全性・信頼性向上プロジェクトのmNew reactor pressure vessel relief system (Post TMI) |■Thermal H2-recomniners inside containment (Post TMI) |Replacement of refueling water storage tanks Compact simulator Provision of a full-scope simulator located offsite in the USA mBunkered emergency heat removal system (NANO project)Seismic requalification of mechanical/electrical equipment |■Filtered containment venting system (SIDRENT project) | #Analysis for pressurized thermal shock of RPVSeparation of station load transformer area Additional emergency feed water system (ERGES project) |StackrokThrottlingCheck Orifice ValveKARuptureDiskDroplet Separation and Micro-aerosol Filtration SectionContainment Isolation ValvesReturn PipeScrubber: SectionVenturi Scrubber図3 フィルター付きベントシステムあった. シビアアクシデント時に格納容器圧が設計圧力 を超える前に、電力なしで高効率な放射性物質除去機能 があるフィルター付きベントシステムを作動させる.避 難不要なレベルで放射性物質を大気中に放出できたとす れば、格納容器の健全性が維持できると共に,避難する ことなしに周辺住民の健康被害と環境被害を防止できる。 地震・津波などの外部事象対策として,このような設備 が日本ですでに設置されていたとしたら今回の災害の推 移はどう変わっていただろうか.原子力災害は軽微で済 んでいた可能性が高い、深層防護の観点から,いかなる 災害に対しても,例え炉心が損傷しても,発電所の周辺 住民にご迷惑をかけないという固い決意を持って原子力 発電所の安全設備を総点検すべきである.原子力災害軽 減・防止の観点から,この固い決意を持って安全性強化 のための各種の検討を機械学会が原子力学会と協力して 早急に進めるべきである.この反省のもとに地元の信頼40、を回復し、世界に通用する次世代の原子炉が生まれ,我 が国の原子力が復興することを期待したい. * 最後に、3月11日の地震直後から未曾有の事態のなか で,原子力発電所の復旧作業に当たっている現地の皆様 に心から深謝すると共に、津波の被災に加えて原子力発 電所の事故に依って長期の避難をされ,生活の基盤を失 われてしまった皆様に対し,心からお悔やみとお見舞い 申し上げる.我々は今後も引き続き全力を挙げて福島第 一原子力発電所の事故の収束と長期安定化に取り組むと 共に,我が国および世界の原子力発電所の安全性の向上 と国民の信頼回復,地球環境保全と人類のエネルギー確 保に向けて邁進する所存である.謝辞 事象分析に当たり,益田恭尚・角南義男・林喜茂・枡 田康夫・川合將義・藤井靖彦・佐藤修彰・金氏顕氏をは じめとする原子力学会シニアネットワーク有志による福 島復興チームFからの提言を3月28日付にて公開した(11). また、テレビ朝日原発班の松井康真氏からは福島第一原 発のプレス事項の時系列一覧をいただいた.ここに謝意 を表する.[3]参考文献 [1] NISA, JNES, 「2011年東北地方太平洋沖地震と原子力発電所に対する地震の被害」, (2011,4,4). [2] 奈良林 直,杉山憲一郎,東日本大震災に伴う原子力発電所の事故と災害~福島第一原子力発 電所の事故の要因分析と教訓~,原子力学会誌,Vol.53,No.6 (2011). [3] 東京電力,「東日本大震災における原子力発電所の影響と現在の状況について」「東日本大震災 における原子力発電所の影響と現在の状況」(2011.4.15). [4] 東京電力,「東日本大震災における原子力発電所の影響と現在の状況」(2011.4.26). [5] 日本原子力文化振興財団,「原子力・エネルギ一図面集」(2011). [原子力産業新聞,第 2571 号, (2011.4.21). [7] Wikipedia: http://ja.wikipedia.org/wiki/F1)V17イリ原子力発電所事故(2011). [8] United Nations Scientific Committee on the Effects ofAtomic Radiation Sources and Effects of Ionizing Radiation, Report to the General Assembly with Scientific Annexes, Volume II, Scientific Annexes C,Dand E, UNSCEAR, (2008). [9] NOK AG Beznau NPP Information Package,2006Edition. [10] Mirela Gavrilas, et. al., Safety Features of OperatingLight Water Reactors of Western Design, CNES(2000). [11] 日本原子力学会シニアネットワーク有志,「福島復興チームFの提言」http://wwwsoc.nii.ac.jp/aesj/ snw/メニュー 福島発電所震災関係.[9]“ “TMI とチェルノブイリ事故の教訓と対策“ “杉山 憲一郎,Kenichiro SUGIYAMA,奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI
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