磁気計測を用いたサブミリサイズ欠陥の非破壊評価
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カテゴリ: 第8回
1. 緒言
1 社会基盤構造物の老朽化・経年劣化が進展してお り、それらを長期使用するために構造物の健全性評 価の重要性は年々増加の一途である。構造物には、 強磁性を示す鉄鋼材が多く使用されている。よって、 健全性評価に材料組織に起因した磁気特性変化や漏 れ磁束などを利用した磁気的非破壊評価技術の応用 が検討されてきた。ヒステリシス特性やバルクハウ ゼンノイズ、透磁率変化などは、亀裂発生前の材質 劣化評価[1]、磁束漏洩法は配管の減肉評価[2]への適 用性が検討されている。しかし、強磁性体の微小欠 陥の評価に磁気的手法を適用した報告例は少ない。 そこで本研究では、サブミリサイズの非常に微小な 欠陥を磁気的手法により検出する可能性について検 討した。 * 検討に用いた磁気的非破壊手法はヒステリシス特 性、バルクハウゼンノイズ(MEN)、磁気アコーステ イックエミッション(MAE)、透磁率変化、磁束漏洩 法(MFL)である。透磁率変化は磁気ヨークに巻いた コイルを用いてコイルのインピーダンス変化を計測 することで評価した。
2. 実験方法
2.1 磁気ヨーク
Fig.1 に計測に用いた磁気ヨークの寸法を示す。1 次コイル(Excitation coil)の巻数は 150 ターン、2次コ イル(pickup coil)の巻数は 50 ターンとした。磁気ヨ ークに用いた材質はケイ素鋼板である。 2.2 測定試料 - Fig. 2 に測定試料の概要を示す。試料には S45C 鋼 を用い、試料の幅は 10 mm、厚さは 0.7 mm 及び 1.5Excitation coil: 150 TYoke /(Fe-Si) 20mmSingle-yoke25 mm15 mmFig. 1 Dimension of magnetic yoke.12.5 mm10 mmII 0.7 or 1.5 mmFig.2 Sizes of specimen and defect.67Function generatorAmp.Magnetizing coil Single-yoke Pickup coilAmp. Low pass filter 10A/D at 250 Hz 26dB L=350 Hz Amp. Band pass filterA/D at 100 kHz 80 mm 60dB 100-200kHz300-400kHzPZT transducerPlate----MBN Sensor 737 tumsFig.3 Measurement setup for BH, MBN, MAE.dopgLCR meterFig.4 Impedance measurement circuit.Excitation coilMagnetic yokeH. Gauss meterSpecimen10Fig.5 Measurement system for MFL.mm とした。それぞれの試料には、300 um 径の穴を ドリル加工により作製し、穴の深さをそれぞれ 0.2 mm, 1 mm とした。レファレンス材として、穴のあ いてない試料も準備した。 2.3 測定方法Fig. 3 はヒステリシスループ、MBN, MAE の測定 回路図を示す。磁気ヨークを試料上に配置し、1 次 コイルに三角波電流を印加して、試料を励磁する。 0.05 Hz で励磁を行い2次コイルの誘起電圧を増幅、 フィルタリングして計測後、積分してヒステリシス ループを得た。MBN, MAE では、1 Hz で励磁を行い、 試料上に配置した空芯コイルで MBN 信号を、圧電 センサで MAE 信号を計測し、それぞれ増幅、バン ドパスフィルタを通して評価した。得られた信号は、 移動平均処理[3]を施した。Fig. 4 にはインピーダンス計測の回路図を示す。磁 気ヨークを試料上に配置し、1次コイルに1mA の交 流電流を通電し、LCR メータを用いて1次コイルの インピーダンス(抵抗、インダクタンス)を計測した。Twithout defect ----- with defect upwith defect bottomMagnetic flux density B (T)76-4-20 2 46 Magnetic field H (KA/m)Fig.6 Hysteresis loop.周波数は1Hz - 100 kHz と変化させた。抵抗は初 透磁率の虚部の変化を、インダクタンスは初透磁率 の実部の変化を反映している。 - Fig. 5 には MFL 計測の測定回路図を示す。磁気ヨ ークを試料上に配置し、1 次コイルに直流電流を印 加して試料を磁化する。磁気ヨークの足間の磁界分 布をガウスメータにより計測する。計測では、試料 表面に垂直な鉛直方向の磁界 H, を計測した。評価に は、漏れ磁界分布及びその変化割合AH,/ar 分布を用 いた。印加した直流磁界は測定試料により1=0.24 及 び 0.5 A とした。 - いずれの計測方法においてもレファレンス材と穴 のあいた試料を穴のあいた表面及び裏面に磁気ョー クを配置して測定した。なお、磁気ヨークの中心と 穴の位置が一致するようにした。3.実験結果Fig.6は、厚さ 0.7 mm の試料におけるヒステリシ スループの結果を示した図である。穴の有無による 違いは認識できなかった。MBN, MAE, インピーダンスの測定結果において も穴の有無による違いは検出されなかった。Fig. 7は、MFL の計測において磁気ヨークの足間 の磁界分布を示した図である。(a)の穴のないレファ レンス材においては、磁界強度が単調に減少する傾 向を示している。一方、(b)の 300 um 径の穴を有し た試料においては、磁気ヨークを穴のあいた面及び 裏面いずれに配置した場合においても穴の上部にお いて磁界分布の乱れが生じており、穴の存在が検出 できている。 また、Fig.7 の結果に基づき、磁界の位置変化割合682.00002200000008E+19up bottom1000RRConcorpora01998Magnetic field H. (kA/m)Magnetic field H (KA/m)Sam000mPerfooooooocecooriooooooo1=0.24 A 2-1 012Position x (mm)|1=0.24 A 32-10 12 Position x (mm)(b) with defect(a) without defectFig. 7 Magnetic field distribution by MFL.を位置に対してプロットしたところ、試料厚さ 0.7 mm の場合、1.5 mm の場合ともに、穴の位置におい て、AH,/Ax の値に大きな変化が得られた。4.まとめ代表的な磁気的非破壊評価技術を用いて サブ mm 寸法の欠陥検出の可能性を検討し た。ヒステリシスやMBN. MAE. 透磁率変 化では微小欠陥の検出はできなかった。こ れは、これらの磁気計測手法があるまとま った領域の磁気特性の平均値を評価してい るためで、測定領域に対して欠陥が非常に 小さいことに起因すると思われる。一方、 磁束漏洩法は局所的な計測となるため、微小欠陥の検出が可能であったと思われる。参考文献 [1] D. C. Jiles, Introduction to Magnetism and MagneticMaterials, London UK Chapman & Hail, 1991. [2] H. Kikuchi, Y. Kurisawa, Y.Kamada, S. Kobayashi, andK.Ara, 'Feasibility study ofinagnetic flux leakagemethod for conditionmonitoring of wall thinning on tube, ''Int. J.App. Electromagn. Mech., vol. 33, 2010, pp. 1087?1094. [3] H. Kikuchi, K. Ara, Y. Kamada, S. Kobayashi, “Effect ofMicrostructure Changes on Barkhausen Noise Properties and Hystersis Loop in Cold-rolled Low Carbon Steel,” IEEE Trans. Magn. 45,2009, pp. 2744-2748.(平成23年8月 25 日)-691“ “磁気計測を用いたサブミリサイズ欠陥の非破壊評価“ “清水 勇,Isamu SHIMIZU,佐藤 斗,Kaito SATO,菊池 弘昭,Hiroaki KIKUCHI,岩田 圭司,Keiji IWATA
1 社会基盤構造物の老朽化・経年劣化が進展してお り、それらを長期使用するために構造物の健全性評 価の重要性は年々増加の一途である。構造物には、 強磁性を示す鉄鋼材が多く使用されている。よって、 健全性評価に材料組織に起因した磁気特性変化や漏 れ磁束などを利用した磁気的非破壊評価技術の応用 が検討されてきた。ヒステリシス特性やバルクハウ ゼンノイズ、透磁率変化などは、亀裂発生前の材質 劣化評価[1]、磁束漏洩法は配管の減肉評価[2]への適 用性が検討されている。しかし、強磁性体の微小欠 陥の評価に磁気的手法を適用した報告例は少ない。 そこで本研究では、サブミリサイズの非常に微小な 欠陥を磁気的手法により検出する可能性について検 討した。 * 検討に用いた磁気的非破壊手法はヒステリシス特 性、バルクハウゼンノイズ(MEN)、磁気アコーステ イックエミッション(MAE)、透磁率変化、磁束漏洩 法(MFL)である。透磁率変化は磁気ヨークに巻いた コイルを用いてコイルのインピーダンス変化を計測 することで評価した。
2. 実験方法
2.1 磁気ヨーク
Fig.1 に計測に用いた磁気ヨークの寸法を示す。1 次コイル(Excitation coil)の巻数は 150 ターン、2次コ イル(pickup coil)の巻数は 50 ターンとした。磁気ヨ ークに用いた材質はケイ素鋼板である。 2.2 測定試料 - Fig. 2 に測定試料の概要を示す。試料には S45C 鋼 を用い、試料の幅は 10 mm、厚さは 0.7 mm 及び 1.5Excitation coil: 150 TYoke /(Fe-Si) 20mmSingle-yoke25 mm15 mmFig. 1 Dimension of magnetic yoke.12.5 mm10 mmII 0.7 or 1.5 mmFig.2 Sizes of specimen and defect.67Function generatorAmp.Magnetizing coil Single-yoke Pickup coilAmp. Low pass filter 10A/D at 250 Hz 26dB L=350 Hz Amp. Band pass filterA/D at 100 kHz 80 mm 60dB 100-200kHz300-400kHzPZT transducerPlate----MBN Sensor 737 tumsFig.3 Measurement setup for BH, MBN, MAE.dopgLCR meterFig.4 Impedance measurement circuit.Excitation coilMagnetic yokeH. Gauss meterSpecimen10Fig.5 Measurement system for MFL.mm とした。それぞれの試料には、300 um 径の穴を ドリル加工により作製し、穴の深さをそれぞれ 0.2 mm, 1 mm とした。レファレンス材として、穴のあ いてない試料も準備した。 2.3 測定方法Fig. 3 はヒステリシスループ、MBN, MAE の測定 回路図を示す。磁気ヨークを試料上に配置し、1 次 コイルに三角波電流を印加して、試料を励磁する。 0.05 Hz で励磁を行い2次コイルの誘起電圧を増幅、 フィルタリングして計測後、積分してヒステリシス ループを得た。MBN, MAE では、1 Hz で励磁を行い、 試料上に配置した空芯コイルで MBN 信号を、圧電 センサで MAE 信号を計測し、それぞれ増幅、バン ドパスフィルタを通して評価した。得られた信号は、 移動平均処理[3]を施した。Fig. 4 にはインピーダンス計測の回路図を示す。磁 気ヨークを試料上に配置し、1次コイルに1mA の交 流電流を通電し、LCR メータを用いて1次コイルの インピーダンス(抵抗、インダクタンス)を計測した。Twithout defect ----- with defect upwith defect bottomMagnetic flux density B (T)76-4-20 2 46 Magnetic field H (KA/m)Fig.6 Hysteresis loop.周波数は1Hz - 100 kHz と変化させた。抵抗は初 透磁率の虚部の変化を、インダクタンスは初透磁率 の実部の変化を反映している。 - Fig. 5 には MFL 計測の測定回路図を示す。磁気ヨ ークを試料上に配置し、1 次コイルに直流電流を印 加して試料を磁化する。磁気ヨークの足間の磁界分 布をガウスメータにより計測する。計測では、試料 表面に垂直な鉛直方向の磁界 H, を計測した。評価に は、漏れ磁界分布及びその変化割合AH,/ar 分布を用 いた。印加した直流磁界は測定試料により1=0.24 及 び 0.5 A とした。 - いずれの計測方法においてもレファレンス材と穴 のあいた試料を穴のあいた表面及び裏面に磁気ョー クを配置して測定した。なお、磁気ヨークの中心と 穴の位置が一致するようにした。3.実験結果Fig.6は、厚さ 0.7 mm の試料におけるヒステリシ スループの結果を示した図である。穴の有無による 違いは認識できなかった。MBN, MAE, インピーダンスの測定結果において も穴の有無による違いは検出されなかった。Fig. 7は、MFL の計測において磁気ヨークの足間 の磁界分布を示した図である。(a)の穴のないレファ レンス材においては、磁界強度が単調に減少する傾 向を示している。一方、(b)の 300 um 径の穴を有し た試料においては、磁気ヨークを穴のあいた面及び 裏面いずれに配置した場合においても穴の上部にお いて磁界分布の乱れが生じており、穴の存在が検出 できている。 また、Fig.7 の結果に基づき、磁界の位置変化割合682.00002200000008E+19up bottom1000RRConcorpora01998Magnetic field H. (kA/m)Magnetic field H (KA/m)Sam000mPerfooooooocecooriooooooo1=0.24 A 2-1 012Position x (mm)|1=0.24 A 32-10 12 Position x (mm)(b) with defect(a) without defectFig. 7 Magnetic field distribution by MFL.を位置に対してプロットしたところ、試料厚さ 0.7 mm の場合、1.5 mm の場合ともに、穴の位置におい て、AH,/Ax の値に大きな変化が得られた。4.まとめ代表的な磁気的非破壊評価技術を用いて サブ mm 寸法の欠陥検出の可能性を検討し た。ヒステリシスやMBN. MAE. 透磁率変 化では微小欠陥の検出はできなかった。こ れは、これらの磁気計測手法があるまとま った領域の磁気特性の平均値を評価してい るためで、測定領域に対して欠陥が非常に 小さいことに起因すると思われる。一方、 磁束漏洩法は局所的な計測となるため、微小欠陥の検出が可能であったと思われる。参考文献 [1] D. C. Jiles, Introduction to Magnetism and MagneticMaterials, London UK Chapman & Hail, 1991. [2] H. Kikuchi, Y. Kurisawa, Y.Kamada, S. Kobayashi, andK.Ara, 'Feasibility study ofinagnetic flux leakagemethod for conditionmonitoring of wall thinning on tube, ''Int. J.App. Electromagn. Mech., vol. 33, 2010, pp. 1087?1094. [3] H. Kikuchi, K. Ara, Y. Kamada, S. Kobayashi, “Effect ofMicrostructure Changes on Barkhausen Noise Properties and Hystersis Loop in Cold-rolled Low Carbon Steel,” IEEE Trans. Magn. 45,2009, pp. 2744-2748.(平成23年8月 25 日)-691“ “磁気計測を用いたサブミリサイズ欠陥の非破壊評価“ “清水 勇,Isamu SHIMIZU,佐藤 斗,Kaito SATO,菊池 弘昭,Hiroaki KIKUCHI,岩田 圭司,Keiji IWATA