高経年化対策に必要な材料照射相関則の構築

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カテゴリ: 第8回
1.はじめに
方法である. 例えば運転開始 60 年後の材料劣化の程度を知りたいとしても,実際の照射場を使ったのでは, 軽水炉高経年化対策のひとつに,原子炉圧力容器鋼 材料照射データの取得に 60年もかかってしまう. そこ の中性子照射脆化対策がある.これは,中性子照射にで,中性子エネルギーや中性子束の高い代替の「加速」 よって徐々に劣化する原子炉圧力容器鋼に対する保全照射場を使うことにより,60年よりも短い年数で材料 計画策定を意味するが,このとき必要になる技術課題照射データを取得する.しかしながら,こうした代替 が「照射下材料挙動の予測」である.要するに,放射 照射場を利用するには,「加速」照射の影響をいかに評 能漏洩に対する第3の壁としての役割を今後も原子炉 価するか,また,代替照射のデータをもとに,実際の 圧力容器が担い続けるかどうかを科学的に合理的な方照射場での材料のふるまいをどのように予測するか, 法で推定することである。あるいはまた,軽水炉燃料などの方法論を明らかにしておかねばならない. の高度利用においても,照射下材料挙動の予測技術が 照射下材料挙動のもうひとつの方法が,「モデリング 求められている.すなわち,今後燃焼度を高めていく。 &シミュレーション」を基盤とする方法である.前々 ことが想定される軽水炉燃料においては,これまでに回の学術講演会 [1] でも報告したように、照射下材料 ない高燃焼度を経験してもなお健全であり,また,核 挙動は時間的にも空間的にもマルチスケールな現象で 的な性質だけでなく,燃料集合体という構造体として。 あり,その複雑さゆえに,現状では,計算機シミュレ の機能も健全であり続ける必要がある.安全上,そうーションのみですべてを予測することは不可能である. した健全性が,実際に高燃焼度を経験するよりも前に現行の原子炉圧力容器鋼中性子照射脆化予測式[2]は、 保証されない限り,燃焼度を上げることはできない. 「モデリング&シミュレーション」技術をベースに, そのため,予測技術によって,高燃焼度にあっても材 実機の圧力容器鋼サーベイランス試験片データをもと 料の挙動が安全であることを事前に示す必要がある. に作成されている「モデリング&シミュレーション」技術からの知見を利用することによって,科学的合理性を持たせるとともに,実機試験片データへのフィッ 2.照射下材料挙動予測ティングによって,現実的な予測を行っている.今後 照射下材料挙動を予測する方法には,大きく分ける の課題としては,既知の物理モデルしか予測式に織り と2つある.ひとつが「代替照射場」を使った方法で込めないという点をいかに克服するかである.「いまだ ある.これは,材料試験炉などのように,中性子束や明らかになっていない物理現象があるかもしれない」 中性子エネルギーが実際とは異なる照射場を利用するという点をいかに考慮するかが問題になる.
3.照射相関則
連絡先: 森下和功, 〒611-0011 京都府宇治市五ヶ 庄, 京都大学エネルギー理工学研究所,電話: 0774-38-3477, E-mail: morishita@iac.kyoto-u.ac.jp3-1 照射下材料挙動を予測とは? こうした材料挙動予測の問題を考えると,そもそも-73* 軽水炉高経年化対策のひとつに,原子炉圧力容器鋼 材料照射データの取得に 60 年もかかってしまう. そこ の中性子照射脆化対策がある. これは、中性子照射にで,中性子エネルギーや中性子束の高い代替の「加速」 よって徐々に劣化する原子炉圧力容器鋼に対する保全 照射場を使うことにより,60年よりも短い年数で材料 計画策定を意味するが,このとき必要になる技術課題照射データを取得する.しかしながら,こうした代替 が「照射下材料挙動の予測」である. 要するに,放射照射場を利用するには,「加速」照射の影響をいかに評 能漏洩に対する第3の壁としての役割を今後も原子炉 価するか,また,代替照射のデータをもとに,実際の 圧力容器が担い続けるかどうかを科学的に合理的な方照射場での材料のふるまいをどのように予測するか, 法で推定することである。あるいはまた,軽水炉燃料などの方法論を明らかにしておかねばならない. の高度利用においても,照射下材料挙動の予測技術が照射下材料挙動のもうひとつの方法が,「モデリング 求められている.すなわち,今後燃焼度を高めていく &シミュレーション」を基盤とする方法である。前々 ことが想定される軽水炉燃料においては,これまでに。 回の学術講演会 [1] でも報告したように,照射下材料 ない高燃焼度を経験してもなお健全であり,また,核 挙動は時間的にも空間的にもマルチスケールな現象で 的な性質だけでなく,燃料集合体という構造体としてあり,その複雑さゆえに,現状では、計算機シミュレ の機能も健全であり続ける必要がある. 安全上,そうーションのみですべてを予測することは不可能である。 した健全性が,実際に高燃焼度を経験するよりも前に現行の原子炉圧力容器鋼中性子照射脆化予測式[2]は、 保証されない限り,燃焼度を上げることはできない.. 「モデリング&シミュレーション」技術をベースに, そのため,予測技術によって,高燃焼度にあっても材 実機の圧力容器鋼サーベイランス試験片データをもと 料の挙動が安全であることを事前に示す必要がある. に作成されている. 「モデリング&シミュレーション」技術からの知見を利用することによって,科学的合理性を持たせるとともに,実機試験片データへのフィッ 2.照射下材料挙動予測ティングによって,現実的な予測を行っている.今後 照射下材料挙動を予測する方法には,大きく分ける の課題としては、既知の物理モデルしか予測式に織り と2つある.ひとつが「代替照射場」を使った方法で 込めないという点をいかに克服するかである. 「いまだ ある.これは,材料試験炉などのように,中性子束や 明らかになっていない物理現象があるかもしれない」 中性子エネルギーが実際とは異なる照射場を利用する。 という点をいかに考慮するかが問題になる.3.照射相関則
3-1 照射下材料挙動を予測とは? こうした材料挙動予測の問題を考えると,そもそも- 73 -照射下材料挙動を予測する方法には,大きく分ける 2つある.ひとつが「代替照射場」を使った方法で る. これは,材料試験炉などのように,中性子束や ■性子エネルギーが実際とは異なる照射場を利用する連絡先: 森下和功, 〒611-0011 京都府宇治市五ヶ 庄, 京都大学エネルギー理工学研究所,電話: 0774-38-3477, E-mail: morishita@iae.kyoto-u.ac.jp を知りたいとしても,実際の照射場を使ったのでは、 材料照射データの取得に 60年もかかってしまう. そこ で,中性子エネルギーや中性子束の高い代替の「加速」 照射場を使うことにより,60年よりも短い年数で材料 照射データを取得する.しかしながら,こうした代替 回の学術講演会 [1] でも報告したように,照射下材料 挙動は時間的にも空間的にもマルチスケールな現象で あり,その複雑さゆえに,現状では、計算機シミュレ ーションのみですべてを予測することは不可能である. * 現行の原子炉圧力容器鋼中性子照射脆化予測式[2]は、「モデリング&シミュレーション」技術をベースに, 実機の圧力容器鋼サーベイランス試験片データをもと 性を持たせるとともに,実機試験片データへの ティングによって,現実的な予測を行っている. の課題としては、既知の物理モデルしか予測式 込めないという点をいかに克服するかである. 「 明らかになっていない物理現象があるかもしれん。 という点をいかに考慮するかが問題になる. ことができる.要するに,照射場をスカラー量で定量 化した、一種の指標である.その評価に関与する原子 はじき出し現象は、ピコ秒程度の時定数をもつ現象で ある。 ことができる.要するに,照射場をスカラー量で定量限り,一般には困難である. 化した、一種の指標である.その評価に関与する原子図3に示したように,照射場固有の指標 dpa/s に応 はじき出し現象は,ピコ秒程度の時定数をもつ現象でじて,材料劣化の dpa 依存性が異なることを,一般に, 材料劣化の「損傷速度依存性」などと呼ぶが,上述の理論的立場から言うと,dpa を指標に選んだからこそ, 3-3 照射劣化を決めるのは?そうした依存性が出現したにすぎないのである. * 次式(3) は, 照射によって形成する格子欠陥濃度の時以上要するに, dpa をあらゆる条件下で適用可能な材 間変化を表す反応速度式である.例として,原子空孔料劣化指標とすることはかなり困難である.しかしな 濃度の場合を示した.がら、そうした結論では元も子もないので,今後の照射相関を考える上でもやはり, dpa を基軸にした照射 asy = P - DV-cy - RCY - KC, (3) 相関則の構築が求められることになろう.それほど dpaは浸透していると思れるからである.・ もちろん,こうした議論を重ねると,右辺第 1 項に 右辺第1項 Pは,欠陥生成率で,上述の dpa/s(照射基づく dpa ではなく,右辺第4項に基づくパラメータ 場を定量化した指標)が相当する.右辺第2項は拡散を劣化指標にすればよいという意見もあるだろう.し 項,第3項は消滅項、第4項は欠陥集合体形成項であかしながらそれは、照射によるミクロ構造変化を理論 る.要するに、中性子の照射によって材料中に生成し的にぴたりと予測することに他ならないのであって, たはじき出し欠陥は、材料中を拡散し,時に消滅(再上述した上らに材料照射損復の時間的力問的マルチス」 右辺第1項 Pは,欠陥生成率で,上述の dpa/s(照射 場を定量化した指標)が相当する.右辺第2項は拡散 項,第3項は消滅項,第4項は欠陥集合体形成項であある。dtことができる。要するに,照射場をスカラー量で定量限り,一般には困難である. 化した、一種の指標である.その評価に関与する原子図3に示したように,照射場固有の指標 dpa/s に応 はじき出し現象は、ピコ秒程度の時定数をもつ現象でじて、材料劣化の dpa 依存性が異なることを,一般に, ある.材料劣化の「損傷速度依存性」などと呼ぶが,上述の理論的立場から言うと,dpa を指標に選んだからこそ、 3-3 照射劣化を決めるのは?そうした依存性が出現したにすぎないのである. 次式(3)は, 照射によって形成する格子欠陥濃度の時以上要するに, dpa をあらゆる条件下で適用可能な材 間変化を表す反応速度式である.例として,原子空孔料劣化指標とすることはかなり困難である.しかしな 濃度の場合を示した.がら,そうした結論では元も子もないので,今後の照射相関を考える上でもやはり, dpa を基軸にした照射 av = P-DVCy - RCY - KCv_ (3)相関則の構築が求められることになろう.それほど dpa は浸透していると思れるからである.もちろん,こうした議論を重ねると,右辺第 1 項に 右辺第1項 Pは,欠陥生成率で,上述の dpa/s(照射基づく dpa ではなく,右辺第4項に基づくパラメータ 場を定量化した指標)が相当する. 右辺第2項は拡散を劣化指標にすればよいという意見もあるだろう.し 項,第3項は消滅項、第4項は欠陥集合体形成項であかしながらそれは、照射によるミクロ構造変化を理論 る.要するに,中性子の照射によって材料中に生成し的にぴたりと予測することに他ならないのであって, たはじき出し欠陥は,材料中を拡散し,時に消滅(再上述したように材料照射損傷の時間的空間的マルチス 結合やシンク消滅) しながら, 集合体を形成していく.ケール性の複雑さや材料本来の構造上の複雑さを考え 右辺第1項がピコ秒程度の現象を反映しているのに対ると,それは現状不可能に近いやはり, dpa をベー し,右辺第4項はマイクロ秒とかミリ秒以上の時定数スにすることの方が,現時点では現実的と言えよう. をもつ現象である.また,これまで材料劣化と言って きたのは、照射によって引き起こされる材料ミクロ構3-5_dpa/s が材料劣化に与える影響(感度解析) 造変化、すなわち,右辺第4項に起因する現象である.そこで,上記の反応速度式(3)において,右辺第4項 要するに,「照射による材料劣化を dpa で整理する」と(欠陥集合体形成項)の右辺第1項 (P, dpa/s)に対 は、ピコ秒の現象(右辺第 1 項のP)を指標として,する依存性がいかほどのものであるかの評価(感度解 ミリ秒以上のミクロ組織変化(右辺第4項)を表現し析)を行う.照射場(すなわち,dpa/s の値)が異な ていることにほかならない.ると,どれほどミクロ組織変化(=材料特性劣化の要因)に違いが現れるかを調べるのである. 3-4 照射相関 ・ 前節では、普段照射劣化指標として使われる dpa と, 照射による材料劣化との間の理論上の関係性を明らか にした.-[10/dpa/ 両者がいつも線形関係にあれば, dpa は定量性にも優 れた劣化指標ということもできるのであるが,必ずしは 100 もそうした関係があるわけではない.また,両者がい100 つも同じ非線形関係にあるのであれば,定量性は劣る ものの,dpa を指標として材料劣化を整理することは04 可能である.しかしながら実際は,照射条件などによ10 って両者の関係性は大きく異なり,そのため,図3に5006007008009001000110012001300 示したように,異なる照射場のデータ (材料試験炉なTemperature (K) どの照射場 A) から必要とする照射場(実機の照射場 B)図4 照射によるボイド核発生率の dpa/s依存性 での材料挙動を予測することは、dpa をベースとするNormarized nucleation rate- 75 -図3に示したように,照射場固有の指標 dpa/s にぶ じて, 材料劣化の dpa 依存性が異なることを,一般に, 材料劣化の「損傷速度依存性」などと呼ぶが,上述の 理論的立場から言うと,dpa を指標に選んだからこそ、 そうした依存性が出現したにすぎないのである.. 的にぴたりと予測することに他ならないのであって, 上述したように材料照射損傷の時間的空間的マルチス ケール性の複雑さや材料本来の構造上の複雑さを考え そこで,上記の反応速度式(3)において,右辺第4項 (欠陥集合体形成項)の右辺第1項(P,dpa/s)に対 する依存性がいかほどのものであるかの評価(感度解 - 75 -図4は、照射によってボイド核が発生する率を dpa/s4. まとめ の関数で示したものである.ここでボイドとは,材料軽水炉の高経年化に必要な材料挙事 内の原子空孔の 3 次元集合体を指す.これは、照射材に照射相関について議論した.照射 料のスエリングや機械特性劣化の要因である.また,にはさらなる検討が必要である.また 本計算結果は、照射損傷プロセスのマルチスケール性時間的にも空間的にもマルチスケー を考慮しつつ,モンテカルロ法と反応速度論解析を組化をモデル化することが必須である. 合せて求めたものである [3]. もし dpa が上述の「照射 相関パラメータ」としてふさわしいものであるなら,参考文献 図4のそれぞれの曲線は,dpa/s の値に依らずぴった[1] 森下和功,吉松潤一,山本泰功、 りと一致する.そうなれば、どのような照射場(dpa/s保全学会第6回学術講演会講演 によって指標化されている)を使っても dpa の値さえ [2]日本電気協会規格「原子炉構造材 合わせておけば,材料劣化は同じと言えるのである.(JEAC4201-2007)[3] 森下和功,吉松潤一,山本泰功、 しかしながら実際は図4のとおりになっている.淑之, 日本保全学会第7回学術講 照射相関構築のためには、さらなる解析が必要であ 515-516る.軽水炉の高経年化に必要な材料挙動予測技術ならび 二照射相関について議論した.照射相関則を構築する ごはさらなる検討が必要である.また, そのためには、 に照射相関について議論した.照射相関則を構築する にはさらなる検討が必要である. また, そのためには, 時間的にも空間的にもマルチスケールな視点で材料劣 化をモデル化することが必須である. 参考文献 [1] 森下和功,吉松潤一,山本泰功,渡辺淑之,日本保全学会第6回学術講演会講演要旨,pp. 166-171 [2] 日本電気協会規格「原子炉構造材の監視試験方法」(JEAC4201-2007) [3] 森下和功,吉松潤一,山本泰功, 泉 裕太,渡辺淑之, 日本保全学会第7回学術講演会 要旨集, pp.515-516 - 76“ “高経年化対策に必要な材料照射相関則の構築“ “森下 和功,Kazunori MORISHITA,山本 泰功,Yasunori YAMAMOTO,泉 裕太,Yuta IZUMI,渡辺 淑之,Yoshiyuki WATANABE
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