HCU 弁操作用工具の改良

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カテゴリ: 第8回
1. 背景
浜岡原子力発電所では、定期点検時において、燃料 交換前後に制御棒の誤動作を防止するため、また各種 検査のために、水圧制御ユニット(HCUまわりの弁 (以 下、「HCU 弁」という)を、「開から閉」へ、また「閉 から開」へ操作している。HCU 弁は浜岡 3・4号機では185組(弁総数1480個)、 浜岡5号機では 103 組(弁総数 515個)あり、これら の弁を運転員が専用の工具を用いて操作している。HCU 弁は数が多く、また固く閉め込まれており中に は非常に固い弁が存在する。その一方で HCU 弁の開閉操作は定期点検のクリテ ィカル作業に連動して行う作業であり、昼夜を問わず 短時間での操作完了が要求されている。以上のとおり、HCU 弁操作は非常に固い弁を含む多 数の弁を短時間に操作しなければならないため、操作 を担当する運転員には大きな負担となっている。このような状況から、運転員の負担の軽減を図るた め、HCU 弁操作用工具の改良について検討した。
2. 現状調査2.1 現状の専用工具現状の専用工具は図1に示すとおり、切れ込みをい れたソケットを弁ハンドル部にはさみ、ハンドル部で 回転させることにより弁の開閉を行う構造となっている。ソケットの切り欠き深さは3・4号機で 18mm、5 号機は10mm程度であり、肉厚はいずれも4mmである。また、ソケットは配管径 15A・20A・25A 用と 32A 用の2種類があり、配管径に応じてソケットを交換で きるようになっている。図1 現状工具の概要2.2 作業状況の調査浜岡3・4・5号機の定期点検中に、HCU 弁の開閉 作業に立会い、調査を行った。結果は以下のとおり。・始動時のトルクは重いものでも 43Nm 程度であり、 ・ このトルクは弁が動き始めると小さくなる。 ・綿手袋を装着しているため滑りやすく、手が痛くなるほどハンドルを握り締める必要がある。 ・始動時は中腰になり、その後しゃがむ姿勢で操作する場合もある(図2 左上・右上)。 ・エクステンションが弁棒に対して一直線上になって いない場合が多々あった(図2 下)。 以上のことから、実際には弁が固いのではなく、操 作がしづらいため固く感じるということが判明した。に落の弁棒の軸工具の軸図2 現状工具を用いた弁操作の状況2.3 アンケート調査運転員を対象に、HCU 弁操作時の負担に感じる箇所 や改良方法等についてアンケート調査を行った。98名 からの回答の概要をまとめると以下のとおり。 ・操作する際、腕に疲労を感じる。 ・大きい・重い工具は避けたい。 ・人力以外の期動力を求める意見も多い。2.4 市販品調査人力以外の駆動力を用い、HCU 弁操作用に適用でき そうなものの市場調査を行った。その結果、電動式工具と空気作動式工具等を抽出し た。3. 改良方法の検討3.1 工具改良の検討 3.1.1 空気作動方式の除外工具の動力源として空気供給による作動方式につい ては、以下の理由により検討対象外とした。 ・5号機の HCU エリア(水密室)には、IA(計装用空気)配管しかなく作業用としては使用できない。 ・空気ボンベ等を背負って HCU 弁を操作することは、 現実的ではない。3.1.2 人力式と電動式の検討ソケットの肉厚を 2mm とし、弁口径 15A・20A・25A で共用化と軽量化を図った。また、弁ハンドル部から 外れにくくするために、双葉型の切り欠きを設けた (図3 左上)。ハンドルは、操作性向上の観点から、棒状型・Y字 型・スコップ型を考案した(図3 下)。市販品の中から最大トルク 50Nm の電動工具を選定 した(図3右上)。図3 改良方法の検討3.2 モックアップ装置の製作原子力発電所内の実物の HCU 弁を本検討のために 操作することはできないため、モックアップ装置を製 作して検討することとした(図4)。 モックアップ装置は以下をもとに設計・製作した。モックアップ装置は以下をもとに設計・製作した。78 -- 3・4・5号機の HCU 弁の取付位置 (高さ・前後関係)および干渉状態を再現できるようにした。 - 操作に影響する部位の材質は原子力発電所と同一のものを用いた。 - 現地調査と同程度のトルクとなるよう弁の固さを調 整した。図4 モックアップ装置の概観3.3 モックアップ装置による確認 3.3.1 確認結果試作した工具では、以下のことが確認できた。 ・双葉穴型ソケットは簡単には外れず、適度なホールド感がある。 ・Y字型ハンドルは連続的に回転することができる ・スコップ型ハンドルは自由な握り方ができて力を込 めやすい。 電動ドライバーでは、以下の注意点が判明した。 ・注意していないと回転させすぎ、停止時の反動が大きくなる。 ・リミッター機能を使うとトルク上限が低すぎるため、弁ハンドルを十分に回せなかった。 3.3.2 アンケート結果試作した工具を運転員にモックアップ装置にて操作 してもらい、アンケートにて意見を聴取した。アンケ ート結果の概要を以下に示す。 ・回答者の90%以上から、電動ドライバーは現場には適用できないとの意見があった。 ・ソケットについては、薄型双葉穴型(双葉穴型ソケットの肉厚 2mm のもの)が高い評価を得られた。 ・ハンドルについては、Y字型とスコップ型の双方に 高い評価が得られた。これは操作者ごとの好みの問は現場で題と考えられる。 3.3.3 改良型工具の選定以上から、薄型双葉穴型ソケットとY字型あるいは スコップ型ハンドルを改良型工具として採用すること した。3.4 耐久性と弁への影響ソケットの肉厚を従来の 4mm から 2mm とすると、 繰返し使用することによる変形や、誤って落下させて しまった場合の変形が想定される。また、ハンドル操作が楽になると、知らず知らずの うちに従来よりも固く弁を締めることができてしまう ことになり、弁へ何らかの影響を及ぼしてしまう可能 性がある。そのため、これらを確認するための試験を行った。 3.4.1 繰返し試験薄型双葉穴型ソケットとY字型ハンドルにて開閉操 作各 100 回を実施した。その後薄型双葉穴型ソケット とスコップ型ハンドルにて開閉操作各 100 回を実施しその結果、弁体に影響はなく、またソケット・ハン ドルにも変形や破損はなく十分な耐久性があることを 確認した(図5)。東園試験前おー試驗後図5 繰返し試験前後のソケットの外観(双葉薄肉ソケット)3.4.2 落下試験2m の高さからグレーチングへ薄型双葉穴型のソケ ニットを10回落下させた。なお、ソケットがグレーチン グと衝突する箇所が毎回同じとなるように落下させた。その結果、最初の落下で 1.6mm 程度変形し、10回 落下後の変形量は 2mm 程度であった(図6)。793.4.3 破壊試験調査した始動トルクの最大 43Nm をはるかに超え、 体重をかける等した時に発生する最大の力を 200Nm と想定した。この力にて薄型双葉穴型ソケットを用い て閉め込む試験を実施した結果、ソケットよりも弁が 先に損傷するという結果になった(図7)。試驗前もっ試驗後 (10回落下後)変形部位図6 落下試験前後のソケットの外観(双葉薄肉ソケット)試験前試驗後図7破壊試験前後のソケットの外観(双葉薄肉ソケット)と弁体の外観3.4.4 改良型工具の注意点以上のことから、改良型工具で通常の操作を行うに あたって問題はないことが判明した。ただし、持ち運びの際や操作の際に注意した方が望 ましい点として、以下の2点が判明した。 ・薄型双葉穴型ソケットについては落下させないよう取り扱いを丁寧にする。 ・両手操作が可能となり力が入りやすいハンドル構造 であることから、弁を“ガツン”とシートにあてるような閉め方をせず、徐々に閉めてシートが当た たら“じわっ”と押し付ける程度に閉める3.5 現地試験改良型工具を用いて浜岡3・4号機にて現地試験を 実施した。その結果、実際の使用においても問題がな いことが判明した。また、操作する姿勢は、しゃがんだ状態を維持した まま終了した(図8)。実際に工具を使用して操作した運転員の意見として は、現状工具に比べて「非常に使いやすい」、「作業が 楽になった」と非常に高い評価であった。4号機では従来工具より3割程度操作に要する時間 は短縮できた。ただし、3号機では操作時間に明確な 差はなかった。これはエクステンションの影響と思わ れる。(表1) 表1 HCU 弁の操作時間の比較操作時間の平均(秒) 号機 | 弁口径従来工具 | スコップ型 | Y字型 3号機」 *15A * 9 | 10 | 7 4号機 | 15A 11 | 7 | 5号機 | 32A50※:定期点検工程の都合により、未実施図8 改良型工具を使用したときの作業状況以下のとおりとな4. 改良方法の評価」改良型工具についてまとめると、以下のとおりとなる。1改良型工具としては、薄型双葉穴型ソケットとY型 ハンドルやスコップ型ハンドル(必要に応じてエク ステンションを利用) の組合せが最適である (図9)。 2操作姿勢について従来工具から以下の点が改善され-80た。 ・弁棒と工具の軸が一直線上になり操作が楽になった。 ・同じ姿勢を保ったまま操作を完了できることから、作業の負担を軽減できた。 3改良型工具で通常の操作を行うにあたって問題はな いことが判明した。ただし、持ち運びの際や操作の際に注意した方が 望ましい点として、以下の2点が判明した。 ・薄型双葉穴型ソケットについては落下させないように取扱を丁寧にする必要がある。 ・両手操作が可能となり、力が入りやすいハンドル構 造であることから、弁を“ガツン”とシートにあて るような乱暴な閉め方をせず、徐々に閉めてシート が当たったら“じわっ”と押し付ける程度に閉める。薄型双葉穴型 ソケットスコップ型 ハンドルY字型 ハンドル図9 改良型工具の形状5. まとめ浜岡原子力発電所では、定期点検時にHCU 弁を操作 する際、非常に固い弁を含む多数の弁を短時間に操作 しなければならないため、操作を担当する運転員には 大きな負担となっている。運転員の負担軽減を図るた め、HCU 弁操作用工具の改良について検討した。 その結果、薄型双葉穴型ソケットと、Y型ハンドル あるいはスコップ型ハンドル(必要に応じてエクステ ンションを利用)の組合せが最適であることが判明し た。今回の検討の成果をもとに、平成 23 年度に改良型工 具を導入する計画である。今回はHCU 弁を対象に検討を行ったが、ソケットの 形状を弁ハンドル部の寸法にあわせ、ハンドルの形状 を最適化することにより、HCU 弁以外の開閉が困難な 弁についても適用できることが期待できる。以上 (平成23年7月 20 日)-81“ “HCU 弁操作用工具の改良“ “杉浦 典幸,Noriyuki SUGIURA,辻 建二,Kenji TSUJI,松下 博文,Hirohumi MATSUSHITA,山内 博,Hiroshi YAMAUCHI
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