RF タグの放射線環境下での保全への適用
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カテゴリ: 第8回
1. 緒言
この報告では、放射線環境下にある特定施設の保全に RF タグを用いることについて論ずる。 1. 従来の RF タグの原子力分野への応用は、通常の RF タ グを用いて、放射線が存在しない環境もしくは非常に低 い線量率の環境での応用であった。それに対して、ここ では、従来は使用が不可能とされた線量率環境での応用 に関し議論する。 * 現在評価を進めている耐放射線 RF タグについて、考え 方や評価結果について報告し、放射線環境下での応用に ついて提案する。
2. RF タグ- RF タグには、様々な仕様の物が存在し、それを分類す るパラメータが用いられている。例えば、後で説明する 周波数やメモリータイプなどである。この中で、保全シ ステムとして重要であるのは、稼働電力の有無であり、 電波送出の電力源である。2.1 パッシブ型 RF タグ * パッシブ型 RF タグは、内部に動作用及び通信用の電池 を内蔵せず、これらに用いる電力の供給は読書き装置 (RW)から受ける。これの構造は、電子回路部である半導 体である IC チップとアンテナから構成される。また、IC チップは RW から供給される電波を電力に変換する電力連絡先: 寺浦信之、〒477-0032 愛知県東海市加木屋町郷 中 53-26 、(株)テララコード研究所、E-mail: TerraNob@terara.jp:九州大学社会人博士課程在学変換部と通信制御部及びメモリー部から構成される。放 射線からの保護対象はこのメモリー部である。 * パッシブ型 RF タグとバーコードや二次元コードなど の光学的情報媒体と比較すると、Table 1 に示すように、 放射線環境下の保全での優位性がある。特に、情報媒体 に遠隔からアクセスすることによる作業者の被ばく低減 のメリットは大きいと考えられる。Table1 Comparison of RF tag and barcode tagバーコードタグ |30cm概ね無「比較項目 | RFタグ読取り距離 5m | 耐環境性 | 有 | 汚れの影響 | 無作業容易性 容易 追加書込み 可能有 狙い読み必要不可これらのパッシブ RF型タグには、周波数によって長波、 短波、UHF 帯、マイクロ波帯が用いられており、Table 2 に 示すように、ISO/IEC によって国際標準が既に策定されて いる。Table 2 International standard for RF tags長波短波UHF帯| マイクロ波周波数 | 135KHz以下 | 13.56MHz | 950MHz | 2.45GHz10cm70cm5m通信距離 ISO/IEC番号118000-218000-3|18000-6|18000-42000年までは長波とマイクロが主体であったが、電波法 の改訂によって高出力が可能となった短波や新たに周波 数割当てがなされた UHF 帯(極超短波)が現在の主流で ある。本報告のテーマである放射線環境下での保全とい92,う観点からは、通信距離が5m程度まで可能となるUHF 帯が、作業者の被ばく低減の実現につながるため、適当 な周波数帯であると考えられる。 2.2 アクティブ型RF タグアクティブ型 RF タグは、内部に動作用及び通信用の電 池を内蔵しており、一つのコンピュータもしくは通信機 として機能する。これの構造は、処理部、通信部、メモ リー部、センサー部、アンテナ部から構成される。ここ で、メモリー部はデータを格納すると共に、プログラム も格納されており、この両者の保護が必要である。このアクティブ型 RF タグにも、周波数割当てがされて おり、日本では主に400MHz帯や 900 MHz帯が用いられ ている。これらは100 m程度の通信距離を有すること、 及び各種センサーを内蔵し、センサーから入力したデー タをメモリー部に蓄積可能であることから、食品の配送 管理や子供の見守りシステムなどに適用されている。3. RF タグ機能の分析 3.1 機能の本質 * パッシブタグの構造から、その機能の本質は、その内 蔵するメモリーに書き込まれたデータを保持し、必要に 応じて読み出すことにある。また、アクティブタグでは、 さらに電源を有し常に動作し、また各種センサーを具備 することで、当該センサーのデータを常に入力記憶し、 適宜読出しまたは送信することで、環境データの入力と そのデータの保持に本質があるといえる。3.2 データキャリア |データキャリアという用語は、2001 年の JIS 用語改訂 (JIS X0500 データキャリア用語)でRF タグだけでなく、 バーコードや二次元コードを含む概念に拡張された。RF タグはデータをキャリーする情報媒体のひとつであるが、そのキャリーする領域は、次の二つがある。 11 空間的なデータキャリー2 時間的なデータキャリー これらは、主にパッシブ型タグを対象としている。3.2.1 空間的なデータキャリー空間的なデータキャリーとは、RF タグが貼付された物 が、空間的に移動することにより、RF タグに記憶された データも併せて移動し、別の地点で読み込まれるような 場合である。このようなデータキャリーの典型は、トレーサビリティシステムである。 RF タグが貼付された商品 などが工場から出荷され、販売店に届くまでに、データ が書き込まれ、その配送に関するデータをキャリーする。 また、データが直接 RF タグの内部に書き込まれる場合だ けではなく、それを通信ネットワークで接続されたデー タベースに記憶させる場合もある。この他にも、Table 3に示すように、サプライチェイン管 理や製造管理システムなどが実現され普及している。Table 4 Case of timeData CarryTable 3 Case of spatialdata Carry 番号 | 事例 1 ケーブル管理配管、溶接管理工具管理番号 1事例保全業績收集212保全作業管理巡視・点検支援作業履?管理ダム、橋梁監視 配管肉厚管理ち作業員入退室管理作業資格管理CBM3.2.2 時間的なデータキャリー - 時間的なデータキャリーとは、RF タグが貼付された物 が、空間的に移動せず、同じ場所に留まっている場合で ある。この場合には、ある時点に書き込まれたデータが、 例えば1年後の時点で読み込まれるような場合である。 このようなデータキャリーの典型は、設備管理システム であり、ある時点で当該 RF タグを読取り、その存在を確 認するとともに、確認した年月日や作業者データなどを 「書込み、例えば1年後に同じ操作をして、管理された状 態にあることを確認する。この他にも Table 4 に示すように資産管理や図書館の蔵 書管理のシステムなどが開発され普及している。3.3 センサーネットワークアクティブ RF タグでは、上記のパッシブタグの本質で あるデータキャリア機能に加えて、センサーネットワー クという本質を有する。アクティブ型タグは、電池を有し、常に動作している が、その動作の主体は内蔵される MPU である。そして、 多くは温度、湿度、加速度、音や放射線などのセンサー を有し、外界のデータを入力し、記憶する。そして、そ れらのデータをリアルタイムに処理しながら、基地局の 指示や必要に応じて、基地局にデータを発信する。アクティブタグの空間的なデータキャリアの側面では、 食品トレーサビリティの例が典型である。食品を収容す93る容器の中に温度センサー付きのアクティブ型 RF タグ を同梱し、食品の配送過程において、その温度の追跡を 行なう。例えば、1分毎の温度を記録し、配送先において そのデータを読み出し、予め定められた温度範囲を超え るデータが存在すれば、廃棄などの処置が取られる。 - 時間的なデータキャリアの側面では、建築物の監視シ ステムが典型である。このシステムでは、多くの加速度 センサーによって建築物を監視し、異常を検出すると警 報を発する。4. 通常の RF タグの原子力及び保全への応用 4.1 通常の RF タグの原子力分野での応用原子力プラントの生産管理や建設、保全では施工記録 や作業履歴といった情報のトレーサビリティが一層厳密 に求められており、RFID を応用した技術開発が推進され てきている。これまでに、Table 5に示すようにケーブルや配管などの 施設関連の管理や作業、また作業者の管理に応用する事 例が報告されている。Table 5 Application inthe field of nuclearTable 6 Application ofConservation| 番号| 番号 ||事例 ケーブル管理事例 保全実績収集2|配管、溶接管理21 保全作業管理工具管理31 巡視・点検支援作業履?管理ダム、橋梁監視作業員入退室管理5配管肉厚管理作業資格管理CBM4.2 通常の RF タグの保全への応用事例Table 6に示すように、保全に関する作業管理、実績管 理や作業者の作業支援、大きな保全対象の監視などに用 いられている。5. 耐放射線 RF タグの可能性 5.1 通常の RF タグの耐放射線性の検討 -- 放射線環境下では RF タグのニーズが高い。このため、 RF タグへの放射線照射試験が行われてきている。これら の実験の目的は、影響が認められない最低放射線線量を 明らかにすることにより、それらの放射線線量以下の現 場に適用しようという意図でなされたものである。 これらの実験の多くは、5,6年前に実施されたもので、なし対象とされた RF タグのチップは既に製造されてい 製品が多いが、放射線の影響を明らかにしている。5.2 耐放射線 RF タグの検討上記の通常の RF タグをそのまま放射線環境で用いる のではなく、何らかの対策を講ずることにより、最低放 射線線量を拡大し、必要とされる耐放射線性能を有する RFタグを開発するという考え方もあり得る。我々は、普 通の RF タグが使用できない放射線線量の場所でも使用 可能な RF タグを検討したので、その結果について述べる。 5.2.1 メモリー素子 - 現在用いられているメモリー素子の原理は、EEPROM とFRAM がある。FRAM は磁気的な原理でデータを記憶 し、ガンマ線照射に強いという特性を有する。一方、破 壊読出しを行うため、読み出し操作中に放射線が FRAM 制御部に影響すると誤ったデータが書き込まれる可能性 が存在する。EEPROM は、電子の蓄積量でデータを記憶 するもので、比較的放射線に弱く、データ化けの可能性 があるが、放射線照射中の読書きに大きな弱点はない。そこで、FRAM は、放射線環境に設置されるが、読取 りや書込みは通常の環境でなされるシステムに適してい る。しかし、ここで課題としているのは放射線環境下で の保全であるので、EEPROM をメモリー素子として用い る場合を、議論の対象とする。 5. 2.2 半導体の放射線の影響半導体の放射線の影響で、着目するのは、ハードエラ ーとソフトエラーである。ハードエラーはメモリー部の みでなく、そのアクセス制御部についてもエラーが発生 し、読書きができなくなるエラーである。それに対して、 ソフトエラーは、読書きは可能であるが、記憶したデー タが変化するエラーである。 5.2.3 耐放射線性の実現耐放射線性の実現には、事前対応と事後対応が考えら れる。事前対応とは、半導体メモリーが誤りを生じる前 にする対応であり、遮蔽体を用いた放射線の遮蔽や、吸 収体を用いた放射線の吸収が考えられる。しかし、これ らの遮蔽体や吸収体での対応では、透過する放射線の量 の低減は可能であるが、無くすことができない。 - 従って、透過する放射線によって、半導体メモリーに 誤りが生じる可能性が残存する。そこで、事後対応として、誤り訂正を行わせることで 補完させる。予めデータに冗長度を与えておき、誤り検 出及び誤り訂正を可能とするものである。949放射線遮蔽体半導体メモリー素子Fig. 1 Shielding and error correction 5. 2.4 誤り訂正の考え方 - EEPROM は、基本的に電荷をフローティングゲートに 蓄積し、その電荷量によってO'と'17のデータを記憶する。そして、ソフトエラーによってこの蓄積した電荷が放 射線の衝突で減少することによって、検出されるデータ 値が当初記憶させてデータ値と異なる結果となる。Fig. 2 Soft-error model そこで、電荷が充分蓄積された状態を1'とすると、デ ータの変化は、電荷が減少する方向、すなわち、'1'か0' にしか起こらず、“O'から'1'への変化は発生しない。この 変化の片方向性を活用するために、データ記憶手法とし て二線式符号を採用する。 - 二線式符号化を採用することで、誤りが発生したビッ トを簡単に検出することが可能になる。この二線式符号 に、ハミング符号などの誤り訂正符号を付加することに より、誤り訂正を可能とする。5.3 確認試験結果現在市販されているMonza4のRFタグチップを用いて 製作した耐放射線 RF タグについて、放射線の照射実験を 行った結果について述べる。 5.3.1 高エネルギーガンマ線照射試験UHF 帯 RF タグのインレットに対して、タングステン 95%部材(鉛相当)で3種類の厚さの遮蔽を行い、Co60 のガンマ線照射を Fig.3 のように実施した。その結果を Fig. 4 に示す。この照射試験によって、10 mm 遮蔽では、 4,000 Gy の照射に耐えることを確認した。また、このと きのエラーモードはハードエラーであり、誤り訂正はで きなかった。Fig. 3 Gamma irradiation experimentエラー率of e goo| |||||| 2000 4000照射線量GyFig. 4 Exposure and Error rate5.3.2 低エネルギー放射線照射試験上記と同じインレット及びそれへの遮蔽材装着体によ って、放射性廃棄物等に装着して低エネルギーガンマ線 及び低エネルギー中性子線の照射実験を実施中である。 それぞれ 215 Gy、5.7 Gy 時点では、両実験において、誤 りは発生していない。なお、高橋が実施した実験では、短波帯のインレット に対して、同様の照射試験を実施しており、131 Gyで、 ソフトエラーが発生している。UHF 帯の RF タグでもソ フトエラーが発生し、誤り訂正によって、使用可能な放 射線量の範囲を拡大し得ると考えている。6. 耐放射線 RF タグの放射線環境での適用6.1 パッシブ型のニーズここで開発したタグは、放射線環境ではない一般の工 場や原子力施設の非放射線環境で用いられていた RF タ グの適用対象を放射線環境に拡張することが可能となる と考えられる。 6. 1.1 空間データキャリー放射線環境下のニーズとしては、放射線源そのものの 管理と放射線環境下での物品)管理がある。放射線源の 管理としては、原子力発電所などから排出される低レベ ルの放射性廃棄物や原子力発電所などを解体した結果生 ずる廃棄物の管理がある。また、工具の放射線環境下へ の放置の防止を目的とする工具管理も想定できる。 6.1.2 時間データキャリー (1) 設備管理放射線環境下にある設備の管理として、配管などの施 設管理や装置などの設備管理また作業者などの入退出管 理などのニーズがある。 * この他にも、医療用アイソトープ等の各種用途の放射 線源の管理がある。 (2) 作業管理 * 作業対象に RF タグを貼付し、作業毎に RF タグを読み 取って作業の確認、作業の記録を行わせることで、ケー ブルの配線作業や溶接作業の管理を支援する。原子力機構では保全対象の計測値を RF タグに記憶さ せておき、次回の計測時に比較して、変化の有無を容易 に判断させる検討がされている。6.2 アクティブ型のニーズ -保全の対象となる設備と保全作業者の管理がアクテ ブ型 RF タグの管理対象となりえる。6.2.1 設備管理(状態監視保全)現在、定期的に実施する時間監視保全(TBM)ではなく、 状態監視保全(CBM)を行うことで、設備が安定してその 性能を発揮しているときに不要な保全を施すのではなく、 必要な時に保全を実施する方策が求められている。アクティブ型 RF タグは、設備の常時監視によって、異 常の兆候を検出して、計画的に処置する CBM を放射線環 境下で可能とする有効なツールの一つになり得る。保全対 象機器Aタグコビー親機Aタグ大型豪示機全機「保線 一全機 一対器親機AタグAタグ:センサー付きアクティブRFタグFig. 5 System configuration アクティブ型 RF タグは、通信距離が長く(数百メート ル)、各種のセンサーを内蔵し、温度や振動、音、放射線 量などを検出し、異常を検出して、データをサーバーに 送信することで常時の状態監視を行うことが可能であり、 設備の運転監視のニーズに応えられる。また、アクティブ型 RF タグを用いることで、配線が不 要となり、低コストでアクセスが難しい設備の管理など を行うことができる。監視にかかわる作業者の不要な被 ばくの防止にもつながる。6.2.3 作業者管理 - 放射線環境下での作業者管理は、通常の環境下よりも 重要である。作業者の生命に関る事項でもあるからであ る。パッシブ型 RF タグの利用価値は作業者の被ばく低減 にあると指摘したが、ここではその作業者の状態管理を 行うシステムへの適用である。温度(体温)、脈拍などの身体状態データをセンサーで 読込み体調不調やその前兆を捉え、また加速度センサー などで作業者が動いているか(倒れていないか)を監視 し、多くの作業者を同時に見守る。設備と同様に、個々人の作業者の状態をリアルタイム に見守り、異常検出すると直ちにアクションを起すこと で、作業者に安心して作業をさせることができる。7. 結言RF タグの基本機能分析を行い、耐放射線 RF タグの可 能性を検討し、耐放射線 RF タグを各種の保全に用いる提 案を行った。参考文献 [1] 寺浦信之、RF タグ活用の現状と普及のための課題、電気学会、電気・情報・システム部門大会pp.300-304(2005.09) [2] 寺浦信之、RF タグ入門、月刊食品包装(2006.1-2010.3) [3] 高橋 直樹、原子力施設への RFID 導入事例について?JAEA における取り組み~、平成19年度企業導入対策調査研究事業 IC タグ研究会 [4] 押味 一之、原子力施設における RFID の適用性検討(1) 日本原子力学会 2007 春の年会 [5] 高橋直樹、原子力施設における防護服着用作業員のリアルタイム暑熱負荷モニタリングシステムの開発とその運用 第34回人間-生活環境系シンポジウム 「6] 恩田公治、原子力プラントへの RFID 高度応用システムの開発、日立評論、Vol.90 No.02 156-157 (2008.2) [7] 川畑淳一、RFID 応用高度信頼性原子力プラント建設技術、日立評論、Vol.88 No.2 [8] 清水俊一、運転中保全を支える技術~監視診断・保全高度化への取り組み~、保全学会、設備管理学会第2回連携講演会(2010.1) [9]胡アイソトープ・放射線研究発表会要旨集(2007.6) [10] 河内 伸仁、RFID を活用した設備管理・保全システムの提案(設備管理・保全の今日的課題の解決に向け て) 計装 54(4), 15-18, 2011-04 工業技術社961“ “RF タグの放射線環境下での保全への適用“ “寺浦 信之,Nobuyuki TERAURA,伊藤 邦雄,Kunio ITO,高橋 直樹,Naoki TAKAHASHI,櫻井 幸一,Kouichi SAKURAI
この報告では、放射線環境下にある特定施設の保全に RF タグを用いることについて論ずる。 1. 従来の RF タグの原子力分野への応用は、通常の RF タ グを用いて、放射線が存在しない環境もしくは非常に低 い線量率の環境での応用であった。それに対して、ここ では、従来は使用が不可能とされた線量率環境での応用 に関し議論する。 * 現在評価を進めている耐放射線 RF タグについて、考え 方や評価結果について報告し、放射線環境下での応用に ついて提案する。
2. RF タグ- RF タグには、様々な仕様の物が存在し、それを分類す るパラメータが用いられている。例えば、後で説明する 周波数やメモリータイプなどである。この中で、保全シ ステムとして重要であるのは、稼働電力の有無であり、 電波送出の電力源である。2.1 パッシブ型 RF タグ * パッシブ型 RF タグは、内部に動作用及び通信用の電池 を内蔵せず、これらに用いる電力の供給は読書き装置 (RW)から受ける。これの構造は、電子回路部である半導 体である IC チップとアンテナから構成される。また、IC チップは RW から供給される電波を電力に変換する電力連絡先: 寺浦信之、〒477-0032 愛知県東海市加木屋町郷 中 53-26 、(株)テララコード研究所、E-mail: TerraNob@terara.jp:九州大学社会人博士課程在学変換部と通信制御部及びメモリー部から構成される。放 射線からの保護対象はこのメモリー部である。 * パッシブ型 RF タグとバーコードや二次元コードなど の光学的情報媒体と比較すると、Table 1 に示すように、 放射線環境下の保全での優位性がある。特に、情報媒体 に遠隔からアクセスすることによる作業者の被ばく低減 のメリットは大きいと考えられる。Table1 Comparison of RF tag and barcode tagバーコードタグ |30cm概ね無「比較項目 | RFタグ読取り距離 5m | 耐環境性 | 有 | 汚れの影響 | 無作業容易性 容易 追加書込み 可能有 狙い読み必要不可これらのパッシブ RF型タグには、周波数によって長波、 短波、UHF 帯、マイクロ波帯が用いられており、Table 2 に 示すように、ISO/IEC によって国際標準が既に策定されて いる。Table 2 International standard for RF tags長波短波UHF帯| マイクロ波周波数 | 135KHz以下 | 13.56MHz | 950MHz | 2.45GHz10cm70cm5m通信距離 ISO/IEC番号118000-218000-3|18000-6|18000-42000年までは長波とマイクロが主体であったが、電波法 の改訂によって高出力が可能となった短波や新たに周波 数割当てがなされた UHF 帯(極超短波)が現在の主流で ある。本報告のテーマである放射線環境下での保全とい92,う観点からは、通信距離が5m程度まで可能となるUHF 帯が、作業者の被ばく低減の実現につながるため、適当 な周波数帯であると考えられる。 2.2 アクティブ型RF タグアクティブ型 RF タグは、内部に動作用及び通信用の電 池を内蔵しており、一つのコンピュータもしくは通信機 として機能する。これの構造は、処理部、通信部、メモ リー部、センサー部、アンテナ部から構成される。ここ で、メモリー部はデータを格納すると共に、プログラム も格納されており、この両者の保護が必要である。このアクティブ型 RF タグにも、周波数割当てがされて おり、日本では主に400MHz帯や 900 MHz帯が用いられ ている。これらは100 m程度の通信距離を有すること、 及び各種センサーを内蔵し、センサーから入力したデー タをメモリー部に蓄積可能であることから、食品の配送 管理や子供の見守りシステムなどに適用されている。3. RF タグ機能の分析 3.1 機能の本質 * パッシブタグの構造から、その機能の本質は、その内 蔵するメモリーに書き込まれたデータを保持し、必要に 応じて読み出すことにある。また、アクティブタグでは、 さらに電源を有し常に動作し、また各種センサーを具備 することで、当該センサーのデータを常に入力記憶し、 適宜読出しまたは送信することで、環境データの入力と そのデータの保持に本質があるといえる。3.2 データキャリア |データキャリアという用語は、2001 年の JIS 用語改訂 (JIS X0500 データキャリア用語)でRF タグだけでなく、 バーコードや二次元コードを含む概念に拡張された。RF タグはデータをキャリーする情報媒体のひとつであるが、そのキャリーする領域は、次の二つがある。 11 空間的なデータキャリー2 時間的なデータキャリー これらは、主にパッシブ型タグを対象としている。3.2.1 空間的なデータキャリー空間的なデータキャリーとは、RF タグが貼付された物 が、空間的に移動することにより、RF タグに記憶された データも併せて移動し、別の地点で読み込まれるような 場合である。このようなデータキャリーの典型は、トレーサビリティシステムである。 RF タグが貼付された商品 などが工場から出荷され、販売店に届くまでに、データ が書き込まれ、その配送に関するデータをキャリーする。 また、データが直接 RF タグの内部に書き込まれる場合だ けではなく、それを通信ネットワークで接続されたデー タベースに記憶させる場合もある。この他にも、Table 3に示すように、サプライチェイン管 理や製造管理システムなどが実現され普及している。Table 4 Case of timeData CarryTable 3 Case of spatialdata Carry 番号 | 事例 1 ケーブル管理配管、溶接管理工具管理番号 1事例保全業績收集212保全作業管理巡視・点検支援作業履?管理ダム、橋梁監視 配管肉厚管理ち作業員入退室管理作業資格管理CBM3.2.2 時間的なデータキャリー - 時間的なデータキャリーとは、RF タグが貼付された物 が、空間的に移動せず、同じ場所に留まっている場合で ある。この場合には、ある時点に書き込まれたデータが、 例えば1年後の時点で読み込まれるような場合である。 このようなデータキャリーの典型は、設備管理システム であり、ある時点で当該 RF タグを読取り、その存在を確 認するとともに、確認した年月日や作業者データなどを 「書込み、例えば1年後に同じ操作をして、管理された状 態にあることを確認する。この他にも Table 4 に示すように資産管理や図書館の蔵 書管理のシステムなどが開発され普及している。3.3 センサーネットワークアクティブ RF タグでは、上記のパッシブタグの本質で あるデータキャリア機能に加えて、センサーネットワー クという本質を有する。アクティブ型タグは、電池を有し、常に動作している が、その動作の主体は内蔵される MPU である。そして、 多くは温度、湿度、加速度、音や放射線などのセンサー を有し、外界のデータを入力し、記憶する。そして、そ れらのデータをリアルタイムに処理しながら、基地局の 指示や必要に応じて、基地局にデータを発信する。アクティブタグの空間的なデータキャリアの側面では、 食品トレーサビリティの例が典型である。食品を収容す93る容器の中に温度センサー付きのアクティブ型 RF タグ を同梱し、食品の配送過程において、その温度の追跡を 行なう。例えば、1分毎の温度を記録し、配送先において そのデータを読み出し、予め定められた温度範囲を超え るデータが存在すれば、廃棄などの処置が取られる。 - 時間的なデータキャリアの側面では、建築物の監視シ ステムが典型である。このシステムでは、多くの加速度 センサーによって建築物を監視し、異常を検出すると警 報を発する。4. 通常の RF タグの原子力及び保全への応用 4.1 通常の RF タグの原子力分野での応用原子力プラントの生産管理や建設、保全では施工記録 や作業履歴といった情報のトレーサビリティが一層厳密 に求められており、RFID を応用した技術開発が推進され てきている。これまでに、Table 5に示すようにケーブルや配管などの 施設関連の管理や作業、また作業者の管理に応用する事 例が報告されている。Table 5 Application inthe field of nuclearTable 6 Application ofConservation| 番号| 番号 ||事例 ケーブル管理事例 保全実績収集2|配管、溶接管理21 保全作業管理工具管理31 巡視・点検支援作業履?管理ダム、橋梁監視作業員入退室管理5配管肉厚管理作業資格管理CBM4.2 通常の RF タグの保全への応用事例Table 6に示すように、保全に関する作業管理、実績管 理や作業者の作業支援、大きな保全対象の監視などに用 いられている。5. 耐放射線 RF タグの可能性 5.1 通常の RF タグの耐放射線性の検討 -- 放射線環境下では RF タグのニーズが高い。このため、 RF タグへの放射線照射試験が行われてきている。これら の実験の目的は、影響が認められない最低放射線線量を 明らかにすることにより、それらの放射線線量以下の現 場に適用しようという意図でなされたものである。 これらの実験の多くは、5,6年前に実施されたもので、なし対象とされた RF タグのチップは既に製造されてい 製品が多いが、放射線の影響を明らかにしている。5.2 耐放射線 RF タグの検討上記の通常の RF タグをそのまま放射線環境で用いる のではなく、何らかの対策を講ずることにより、最低放 射線線量を拡大し、必要とされる耐放射線性能を有する RFタグを開発するという考え方もあり得る。我々は、普 通の RF タグが使用できない放射線線量の場所でも使用 可能な RF タグを検討したので、その結果について述べる。 5.2.1 メモリー素子 - 現在用いられているメモリー素子の原理は、EEPROM とFRAM がある。FRAM は磁気的な原理でデータを記憶 し、ガンマ線照射に強いという特性を有する。一方、破 壊読出しを行うため、読み出し操作中に放射線が FRAM 制御部に影響すると誤ったデータが書き込まれる可能性 が存在する。EEPROM は、電子の蓄積量でデータを記憶 するもので、比較的放射線に弱く、データ化けの可能性 があるが、放射線照射中の読書きに大きな弱点はない。そこで、FRAM は、放射線環境に設置されるが、読取 りや書込みは通常の環境でなされるシステムに適してい る。しかし、ここで課題としているのは放射線環境下で の保全であるので、EEPROM をメモリー素子として用い る場合を、議論の対象とする。 5. 2.2 半導体の放射線の影響半導体の放射線の影響で、着目するのは、ハードエラ ーとソフトエラーである。ハードエラーはメモリー部の みでなく、そのアクセス制御部についてもエラーが発生 し、読書きができなくなるエラーである。それに対して、 ソフトエラーは、読書きは可能であるが、記憶したデー タが変化するエラーである。 5.2.3 耐放射線性の実現耐放射線性の実現には、事前対応と事後対応が考えら れる。事前対応とは、半導体メモリーが誤りを生じる前 にする対応であり、遮蔽体を用いた放射線の遮蔽や、吸 収体を用いた放射線の吸収が考えられる。しかし、これ らの遮蔽体や吸収体での対応では、透過する放射線の量 の低減は可能であるが、無くすことができない。 - 従って、透過する放射線によって、半導体メモリーに 誤りが生じる可能性が残存する。そこで、事後対応として、誤り訂正を行わせることで 補完させる。予めデータに冗長度を与えておき、誤り検 出及び誤り訂正を可能とするものである。949放射線遮蔽体半導体メモリー素子Fig. 1 Shielding and error correction 5. 2.4 誤り訂正の考え方 - EEPROM は、基本的に電荷をフローティングゲートに 蓄積し、その電荷量によってO'と'17のデータを記憶する。そして、ソフトエラーによってこの蓄積した電荷が放 射線の衝突で減少することによって、検出されるデータ 値が当初記憶させてデータ値と異なる結果となる。Fig. 2 Soft-error model そこで、電荷が充分蓄積された状態を1'とすると、デ ータの変化は、電荷が減少する方向、すなわち、'1'か0' にしか起こらず、“O'から'1'への変化は発生しない。この 変化の片方向性を活用するために、データ記憶手法とし て二線式符号を採用する。 - 二線式符号化を採用することで、誤りが発生したビッ トを簡単に検出することが可能になる。この二線式符号 に、ハミング符号などの誤り訂正符号を付加することに より、誤り訂正を可能とする。5.3 確認試験結果現在市販されているMonza4のRFタグチップを用いて 製作した耐放射線 RF タグについて、放射線の照射実験を 行った結果について述べる。 5.3.1 高エネルギーガンマ線照射試験UHF 帯 RF タグのインレットに対して、タングステン 95%部材(鉛相当)で3種類の厚さの遮蔽を行い、Co60 のガンマ線照射を Fig.3 のように実施した。その結果を Fig. 4 に示す。この照射試験によって、10 mm 遮蔽では、 4,000 Gy の照射に耐えることを確認した。また、このと きのエラーモードはハードエラーであり、誤り訂正はで きなかった。Fig. 3 Gamma irradiation experimentエラー率of e goo| |||||| 2000 4000照射線量GyFig. 4 Exposure and Error rate5.3.2 低エネルギー放射線照射試験上記と同じインレット及びそれへの遮蔽材装着体によ って、放射性廃棄物等に装着して低エネルギーガンマ線 及び低エネルギー中性子線の照射実験を実施中である。 それぞれ 215 Gy、5.7 Gy 時点では、両実験において、誤 りは発生していない。なお、高橋が実施した実験では、短波帯のインレット に対して、同様の照射試験を実施しており、131 Gyで、 ソフトエラーが発生している。UHF 帯の RF タグでもソ フトエラーが発生し、誤り訂正によって、使用可能な放 射線量の範囲を拡大し得ると考えている。6. 耐放射線 RF タグの放射線環境での適用6.1 パッシブ型のニーズここで開発したタグは、放射線環境ではない一般の工 場や原子力施設の非放射線環境で用いられていた RF タ グの適用対象を放射線環境に拡張することが可能となる と考えられる。 6. 1.1 空間データキャリー放射線環境下のニーズとしては、放射線源そのものの 管理と放射線環境下での物品)管理がある。放射線源の 管理としては、原子力発電所などから排出される低レベ ルの放射性廃棄物や原子力発電所などを解体した結果生 ずる廃棄物の管理がある。また、工具の放射線環境下へ の放置の防止を目的とする工具管理も想定できる。 6.1.2 時間データキャリー (1) 設備管理放射線環境下にある設備の管理として、配管などの施 設管理や装置などの設備管理また作業者などの入退出管 理などのニーズがある。 * この他にも、医療用アイソトープ等の各種用途の放射 線源の管理がある。 (2) 作業管理 * 作業対象に RF タグを貼付し、作業毎に RF タグを読み 取って作業の確認、作業の記録を行わせることで、ケー ブルの配線作業や溶接作業の管理を支援する。原子力機構では保全対象の計測値を RF タグに記憶さ せておき、次回の計測時に比較して、変化の有無を容易 に判断させる検討がされている。6.2 アクティブ型のニーズ -保全の対象となる設備と保全作業者の管理がアクテ ブ型 RF タグの管理対象となりえる。6.2.1 設備管理(状態監視保全)現在、定期的に実施する時間監視保全(TBM)ではなく、 状態監視保全(CBM)を行うことで、設備が安定してその 性能を発揮しているときに不要な保全を施すのではなく、 必要な時に保全を実施する方策が求められている。アクティブ型 RF タグは、設備の常時監視によって、異 常の兆候を検出して、計画的に処置する CBM を放射線環 境下で可能とする有効なツールの一つになり得る。保全対 象機器Aタグコビー親機Aタグ大型豪示機全機「保線 一全機 一対器親機AタグAタグ:センサー付きアクティブRFタグFig. 5 System configuration アクティブ型 RF タグは、通信距離が長く(数百メート ル)、各種のセンサーを内蔵し、温度や振動、音、放射線 量などを検出し、異常を検出して、データをサーバーに 送信することで常時の状態監視を行うことが可能であり、 設備の運転監視のニーズに応えられる。また、アクティブ型 RF タグを用いることで、配線が不 要となり、低コストでアクセスが難しい設備の管理など を行うことができる。監視にかかわる作業者の不要な被 ばくの防止にもつながる。6.2.3 作業者管理 - 放射線環境下での作業者管理は、通常の環境下よりも 重要である。作業者の生命に関る事項でもあるからであ る。パッシブ型 RF タグの利用価値は作業者の被ばく低減 にあると指摘したが、ここではその作業者の状態管理を 行うシステムへの適用である。温度(体温)、脈拍などの身体状態データをセンサーで 読込み体調不調やその前兆を捉え、また加速度センサー などで作業者が動いているか(倒れていないか)を監視 し、多くの作業者を同時に見守る。設備と同様に、個々人の作業者の状態をリアルタイム に見守り、異常検出すると直ちにアクションを起すこと で、作業者に安心して作業をさせることができる。7. 結言RF タグの基本機能分析を行い、耐放射線 RF タグの可 能性を検討し、耐放射線 RF タグを各種の保全に用いる提 案を行った。参考文献 [1] 寺浦信之、RF タグ活用の現状と普及のための課題、電気学会、電気・情報・システム部門大会pp.300-304(2005.09) [2] 寺浦信之、RF タグ入門、月刊食品包装(2006.1-2010.3) [3] 高橋 直樹、原子力施設への RFID 導入事例について?JAEA における取り組み~、平成19年度企業導入対策調査研究事業 IC タグ研究会 [4] 押味 一之、原子力施設における RFID の適用性検討(1) 日本原子力学会 2007 春の年会 [5] 高橋直樹、原子力施設における防護服着用作業員のリアルタイム暑熱負荷モニタリングシステムの開発とその運用 第34回人間-生活環境系シンポジウム 「6] 恩田公治、原子力プラントへの RFID 高度応用システムの開発、日立評論、Vol.90 No.02 156-157 (2008.2) [7] 川畑淳一、RFID 応用高度信頼性原子力プラント建設技術、日立評論、Vol.88 No.2 [8] 清水俊一、運転中保全を支える技術~監視診断・保全高度化への取り組み~、保全学会、設備管理学会第2回連携講演会(2010.1) [9]胡アイソトープ・放射線研究発表会要旨集(2007.6) [10] 河内 伸仁、RFID を活用した設備管理・保全システムの提案(設備管理・保全の今日的課題の解決に向け て) 計装 54(4), 15-18, 2011-04 工業技術社961“ “RF タグの放射線環境下での保全への適用“ “寺浦 信之,Nobuyuki TERAURA,伊藤 邦雄,Kunio ITO,高橋 直樹,Naoki TAKAHASHI,櫻井 幸一,Kouichi SAKURAI