包絡線スペクトル、信号融合および LSM 主成分分析を用いた回転機械構造系異常の精密診断法
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カテゴリ: 第9回
1. 緒言
回転機械に起きる構造系異常とはアンバランスやミス アライメント、締め付け具のゆるみ等といった機械の構 造的な異常であり,比較的低周波の振動を生ずる.これ らの異常状態に関する共通な特徴は正常状態に比べて、 回転周波数とその高調波成分がよく変化することが挙げ られる.そのため、異常種類の特定(精密診断)は難し い場合が多く、診断システムの中で自動診断するための 有効な方法も確立されていない).そのために、本研究では、まずは信号のスペクトルお よび包絡線のスペクトルにより構造系異常を総合的に精 密診断する方法を提案し、各種異常状態の特徴を明らか にし、精密診断の例を示す。また、信号融合法およびLSM (Least-squares mapping) 主成分分析法による構造系異常の自動診断法を提案し、 実際の例で精密診断の結果例を示す。
2. 信号計測と異常状態
図1に試験研究で使用した実験装置(a)、振動加速度セ ンサーの設置場所(6)および設定した異常種類(c)を示す。連絡先:陳山 騰 〒514-8507 津市栗真町屋町 1577 三重大学大学院共生環境学専攻 E-mail:chen@bio.mie-u.ac.jp5つの振動加速度センサを用い、加速度センサの取り付 け位置は図 1(6) に示すように,被駆動軸側における左右 の軸受台座に軸方向,右水平方向、右垂直方向,左水平 方向、左垂直方向に接着剤で取付けた. * 振動加速度信号の測定条件としてはサンプリング周波 数を5kHz, サンプリング時間を 20s とし、運転条件とし ては、回転数はポンプ等の回転機械設備を想定したため, 3段階(1200rpm, 1500rpm, 1800rpm)に設定した.軸継 ぎ手はフランジ型を使用した.アンバランス状態は図1に示軸に固定してある2 枚の フライホイールに,おもりをそれぞれ 20(g)装着すること によって設定する. おもりの相対角度が 0°のものを静 アンバランス状態, 相対角度が 180°のものを動アンバラ ンス状態とする. __ ミスアライメント状態は・取り付け土台のボルトの締 め・緩めによって、回転軸を 1°傾けた状態をアングル・ ミスアライメント,水平に 1.5mm 動かした状態をオフセ ット・ミスアライメントとそれぞれ設定する. - ゆるみ状態は軸継ぎ手のボルトを緩めるものを継ぎ手 ゆるみ,被駆動軸側の右軸受台座の固定部を緩めるもの 台座ゆるみとそれぞれ設定する.またゆるみ状態の起振 力として、フライホイール片側に 10(g) のおもりを取り 付けた.101(a)回転機械シミュレータ(6)振動加速度センサーの取付位置異常状態の設定静アンバランスアンバランスアングルミスアライメント終手ゆるみ台塗ゆるみオフセットミスアライメント。(C)設定した異常種類 Fig. 1 Experiment equipment, accelerometer and faultsTable 1 Fault states for the diagnosis tests運転状態正常 静アンバランス動アンバランス アングルミスアライメント( 1°) オフセットミスアライメント(1.5mm)継ぎ手ゆるみ 台座ゆるみ- 実験時に設定した状態は表1にまとめて示す。すな わち、異常状態は4種類の構造系異常状態で,静アンバ ランス,動アンバランス, アングルミスアライメント, オフセットミスアライメント,継ぎ手ゆるみ、台座ゆ るみである。3. 包絡線スペクトルによる精密診断法図2は軸方向における生信号のスペクトル(回転 数: 1200rpm) を示す。この図を見れば分かるように、 正常状態のスペクトルに比べて、ミスアライメントと 緩みの時には軸方向の振動の特徴が大きく変わるが、 アンバランス状態の時には殆ど変らない。また、ミス アライメントの時には回転周波数成分(20Hz)と2~ 3倍の高調波成分が大きくなっているが、緩みの時に も回転周波数(20Hz)と3倍以上の高調波成分も大き くなっている。(a) 正常(6) 静アンバランス(c) 動アンバランス (d)アンクル・ミスアライメントには(f)オフセット・ミスアライメント(g) 継ぎ手ネジ緩み(回転数:1200rpm)(h) 台座ネジ緩み Fig. 2 Spectra of raw vibration signals in the shaft direction同様に水平方向における生信号のスペクトルを用 いても異常種類の識別が困難であった。このように生 信号のスペクトルを用いて、動・静アンバランスの識 別、およびミスアライメントと緩みとの識別が困難な 場合が多いので、以下のように包絡線スペクトルを用 いて、各状態の識別法を説明する。図3は包絡線スペ クトルを求める流れ図を示す。図4は包絡線スペクト ルを求める実例を示す。信号測定バンドパス・フィルター (共振周波数成分の抽出)包絡線理 (Cut-off freq.(5~100×回転周波数)包絡線のスペクトルの算出(fr, 2fr, 3frの確認)Fig. 3 Flowchart of calculating enveloped wave spectrum!(a)バンドバスフィルターDN日当たりでき(6)包絡線と包絡線スペクトルFig. 4 Example of calculating enveloped wave spectrum図5には軸方向の包絡線スペクトルを示している。こ れらのスペクトルの中に特に動アンバランスと静アンバ ランスの識別ができるようになったが、緩みの特徴が鮮 明に出ていない。緩みとミスアライメントとの識別のために、図6には 水平方向の包絡線スペクトルを示している。これらの図 で分かるように、ミスアライメントの包絡線スペクトル には回転周波数(20Hz)成分とその高調波が現れている が、緩みの包絡線スペクトルには12回転周波数(10Hz) 成分とその高調波が現れている。このように、緩みとミスアライメントスアライメントとの識別ができるようになった。グ120Hz2020Hz(a)静アンバランスCO)動アンバランスちとせ162020Hz(C) アングル・ミスアライメントがわ20Hz(d) オフセット・ミスアライメント1899/12/3120Hz120Hz(c) 軸継手ネジ緩み() 軸受台座ネジ緩み Fig.5 Enveloped wave spectra in the shaft direction2020Hz(a) アングル・ミスアライメント04-20Hz(b) オフセット・ミスアライメントart520HzH.20円(C) 軸継手ネジ緩み(d)軸受台座ネジ緩みFig.6 Enveloped wave spectra in the horizontal direction以上のように、水平・軸方向の振動波形および包絡線 スペクトルを用いて、総合的に分析すれば、構造系異常 の精密診断が可能である。なお、現場設備の場合は、ノ イズのレベルがもっと大きくなるので、適切なノイズ除 去および臨機応変的な分析が必要と考える。==14. 特徴パラメータと信号融合法 4.1 特徴パラメータ測定した離散の時系列データを x, (i = 1~N) デ ータ点数を N とすると,様々な特徴パラメータ)につ いて識別指標 DTMで評価した結果、今回以下の特徴パ ラメータを用いた。 (1) 時間領域の特徴パラメータ:ピーク歪度 : Ps=|
“ “包絡線スペクトル、信号融合および LSM 主成分分析を用いた回転機械構造系異常の精密診断法“ “陳山 鵬,Ho JINYSMA,滝 浩太朗,Kotaro TAKI,李 可 Ke Li,薛 紅涛,Hongtao XUE
回転機械に起きる構造系異常とはアンバランスやミス アライメント、締め付け具のゆるみ等といった機械の構 造的な異常であり,比較的低周波の振動を生ずる.これ らの異常状態に関する共通な特徴は正常状態に比べて、 回転周波数とその高調波成分がよく変化することが挙げ られる.そのため、異常種類の特定(精密診断)は難し い場合が多く、診断システムの中で自動診断するための 有効な方法も確立されていない).そのために、本研究では、まずは信号のスペクトルお よび包絡線のスペクトルにより構造系異常を総合的に精 密診断する方法を提案し、各種異常状態の特徴を明らか にし、精密診断の例を示す。また、信号融合法およびLSM (Least-squares mapping) 主成分分析法による構造系異常の自動診断法を提案し、 実際の例で精密診断の結果例を示す。
2. 信号計測と異常状態
図1に試験研究で使用した実験装置(a)、振動加速度セ ンサーの設置場所(6)および設定した異常種類(c)を示す。連絡先:陳山 騰 〒514-8507 津市栗真町屋町 1577 三重大学大学院共生環境学専攻 E-mail:chen@bio.mie-u.ac.jp5つの振動加速度センサを用い、加速度センサの取り付 け位置は図 1(6) に示すように,被駆動軸側における左右 の軸受台座に軸方向,右水平方向、右垂直方向,左水平 方向、左垂直方向に接着剤で取付けた. * 振動加速度信号の測定条件としてはサンプリング周波 数を5kHz, サンプリング時間を 20s とし、運転条件とし ては、回転数はポンプ等の回転機械設備を想定したため, 3段階(1200rpm, 1500rpm, 1800rpm)に設定した.軸継 ぎ手はフランジ型を使用した.アンバランス状態は図1に示軸に固定してある2 枚の フライホイールに,おもりをそれぞれ 20(g)装着すること によって設定する. おもりの相対角度が 0°のものを静 アンバランス状態, 相対角度が 180°のものを動アンバラ ンス状態とする. __ ミスアライメント状態は・取り付け土台のボルトの締 め・緩めによって、回転軸を 1°傾けた状態をアングル・ ミスアライメント,水平に 1.5mm 動かした状態をオフセ ット・ミスアライメントとそれぞれ設定する. - ゆるみ状態は軸継ぎ手のボルトを緩めるものを継ぎ手 ゆるみ,被駆動軸側の右軸受台座の固定部を緩めるもの 台座ゆるみとそれぞれ設定する.またゆるみ状態の起振 力として、フライホイール片側に 10(g) のおもりを取り 付けた.101(a)回転機械シミュレータ(6)振動加速度センサーの取付位置異常状態の設定静アンバランスアンバランスアングルミスアライメント終手ゆるみ台塗ゆるみオフセットミスアライメント。(C)設定した異常種類 Fig. 1 Experiment equipment, accelerometer and faultsTable 1 Fault states for the diagnosis tests運転状態正常 静アンバランス動アンバランス アングルミスアライメント( 1°) オフセットミスアライメント(1.5mm)継ぎ手ゆるみ 台座ゆるみ- 実験時に設定した状態は表1にまとめて示す。すな わち、異常状態は4種類の構造系異常状態で,静アンバ ランス,動アンバランス, アングルミスアライメント, オフセットミスアライメント,継ぎ手ゆるみ、台座ゆ るみである。3. 包絡線スペクトルによる精密診断法図2は軸方向における生信号のスペクトル(回転 数: 1200rpm) を示す。この図を見れば分かるように、 正常状態のスペクトルに比べて、ミスアライメントと 緩みの時には軸方向の振動の特徴が大きく変わるが、 アンバランス状態の時には殆ど変らない。また、ミス アライメントの時には回転周波数成分(20Hz)と2~ 3倍の高調波成分が大きくなっているが、緩みの時に も回転周波数(20Hz)と3倍以上の高調波成分も大き くなっている。(a) 正常(6) 静アンバランス(c) 動アンバランス (d)アンクル・ミスアライメントには(f)オフセット・ミスアライメント(g) 継ぎ手ネジ緩み(回転数:1200rpm)(h) 台座ネジ緩み Fig. 2 Spectra of raw vibration signals in the shaft direction同様に水平方向における生信号のスペクトルを用 いても異常種類の識別が困難であった。このように生 信号のスペクトルを用いて、動・静アンバランスの識 別、およびミスアライメントと緩みとの識別が困難な 場合が多いので、以下のように包絡線スペクトルを用 いて、各状態の識別法を説明する。図3は包絡線スペ クトルを求める流れ図を示す。図4は包絡線スペクト ルを求める実例を示す。信号測定バンドパス・フィルター (共振周波数成分の抽出)包絡線理 (Cut-off freq.(5~100×回転周波数)包絡線のスペクトルの算出(fr, 2fr, 3frの確認)Fig. 3 Flowchart of calculating enveloped wave spectrum!(a)バンドバスフィルターDN日当たりでき(6)包絡線と包絡線スペクトルFig. 4 Example of calculating enveloped wave spectrum図5には軸方向の包絡線スペクトルを示している。こ れらのスペクトルの中に特に動アンバランスと静アンバ ランスの識別ができるようになったが、緩みの特徴が鮮 明に出ていない。緩みとミスアライメントとの識別のために、図6には 水平方向の包絡線スペクトルを示している。これらの図 で分かるように、ミスアライメントの包絡線スペクトル には回転周波数(20Hz)成分とその高調波が現れている が、緩みの包絡線スペクトルには12回転周波数(10Hz) 成分とその高調波が現れている。このように、緩みとミスアライメントスアライメントとの識別ができるようになった。グ120Hz2020Hz(a)静アンバランスCO)動アンバランスちとせ162020Hz(C) アングル・ミスアライメントがわ20Hz(d) オフセット・ミスアライメント1899/12/3120Hz120Hz(c) 軸継手ネジ緩み() 軸受台座ネジ緩み Fig.5 Enveloped wave spectra in the shaft direction2020Hz(a) アングル・ミスアライメント04-20Hz(b) オフセット・ミスアライメントart520HzH.20円(C) 軸継手ネジ緩み(d)軸受台座ネジ緩みFig.6 Enveloped wave spectra in the horizontal direction以上のように、水平・軸方向の振動波形および包絡線 スペクトルを用いて、総合的に分析すれば、構造系異常 の精密診断が可能である。なお、現場設備の場合は、ノ イズのレベルがもっと大きくなるので、適切なノイズ除 去および臨機応変的な分析が必要と考える。==14. 特徴パラメータと信号融合法 4.1 特徴パラメータ測定した離散の時系列データを x, (i = 1~N) デ ータ点数を N とすると,様々な特徴パラメータ)につ いて識別指標 DTMで評価した結果、今回以下の特徴パ ラメータを用いた。 (1) 時間領域の特徴パラメータ:ピーク歪度 : Ps=|
“ “包絡線スペクトル、信号融合および LSM 主成分分析を用いた回転機械構造系異常の精密診断法“ “陳山 鵬,Ho JINYSMA,滝 浩太朗,Kotaro TAKI,李 可 Ke Li,薛 紅涛,Hongtao XUE