プロアクティブ材料劣化潜在事象評価とシステム安全
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カテゴリ: 第9回
1. 緒言
プラント高経年化に伴い潜在的経年劣化事象が新たに 発現する可能性が懸念される。ここでは潜在的経年劣化 事象として今までに経験したことのない未経験事象に加 えて既知事象であるがそれらの連成事象・連鎖事象を含 めて考えることにする。従来、現象が顕在化した後のきれいな説明がなされて きた。しかしながら、プラントの高経年化技術評価の高 度化とシステム安全の確保に当たっては、未知事象及び 既知事象の連成・連鎖型事象を予知・予測しておくこと は極めて重要である。潜在的経年劣化事象の予知・予測にはプロアクティブ (先見的)な対応が重要である。より基礎的、学術的な アプローチにより劣化メカニズムを深く掘り下げること により潜在的経年劣化事象の予測が可能になると考える。 具体的には、1過去の事象の根本原因究明に基づく帰納 的アプローチ、並びにの科学的劣化メカニズム解明に基 づく演繹的アプローチをそれぞれの側面から深耕し、両 アプローチからの議論を重ねることによって3体系的 elicitation(潜在事象・メカニズムの思考的顕在化へ) が得られると考える。図1は、プロアクティブ材料劣化潜在事象評価とシステ ム安全への繋がりを示す。プロアクティブ専門家会議での 議論、ウェブ上での議論、知識抽出法などによる分析、 リスク評価・管理並びにその帰結評価とクライシスマネージメントへの議論により、長期運転 (Long Term Operation:LTO) において考慮すべき材料経年劣化事象は 何であるかを予知・予測する。その上で、高経年化技術 評価に対して未知事象、既知事象の連成、連鎖型事象の 提起、防止技術の提起及び監視技術の提起を行う。この ことによりシステム安全の維持に貢献することが可能と なる。ここでシステム安全には、冷却材の喪失防止、機 能の喪失防止、構造体の健全性維持並びにクライシスマ ネージメントが含まれる。一連のプロアクティブ材料劣化 潜在事象評価とシステム安全への繋がりにおいて、プロ アクティブに議論・提起された潜在的経年劣化事象につい てはそれらの公表と周知活動が重要であると同時にそれ らが未経験事象であることから未知要因を立証する研究 開発が遂行されることが重要であろう。 1. 本稿では、平成 23 年度に原子力安全・保安院「高経年化技術評価高度化事業」の一環として実施された「プロ アクティブ材料経年劣化専門家会議」での審議の内容並 びに抽出された材料劣化潜在事象とシステム安全との係 りについて述べる。
2. 未経験・未知事象を抽出するための基本的
な考え方 プロアクティブ専門家会議及びプロアクティブウェブ における議論において以下を基本的な進め方とした。 (1) 自由な議論を促すため初期条件、境界条件は決めない。102CHARPA LMusindowsinisualプロアクティブ材料経年劣化評価システム安全■プロアクティブ専門家会議での議論 -過去の事象(既知事象)の根本原因究明に基づく帰納的なアプローチ -科学的劣化メカニズム解明に基づく演繹的な アプローチ 一体系的elicitation(潜在事象・メカニズムの思考的顕在化) ■ウェブの活用」 ■知識抽出法などによる分析 ■リスク評価・管理並びにその帰結評価と クライシスマネージメントへの橋渡し圖冷却材の喪失防止機能の喪失防止 -圧力容器(RPV)の破壊 -RPV/配管異材継手部破壊 一配管の分離破断 一回転体の損傷 ーケーブルの劣化損傷 ■構造体の健全性維持一炉内構造物の損傷-コンクリートの劣化損傷 ■クライシスマネージメント (多様な事故を想定。対処法)■高経年化技術評価への対応 -未知事象、既知事象の連成、連鎖型事象の提起 -防止技術の提起 一監視技術の提起長期運転(LTO) において考慮すべき 材料経年劣化事象の提起 -未知事象並びに既知事象の 『連成・連鎖』型事象の予知・予測■公表、周知の活動 ■未知要因を立証する研究開発の遂行図1 プロアクティブ材料経年劣化評価とシステム安全への繋がり(2) 自由な議論を通して専門家の持っている潜在的思 考・問題意識を導き出す。初めから条件を決めて議論す ることはその枠内での議論となる。条件を決めない自由 な議論の中から思いがけないことが出てくることを期待 する。すなわち、体系的 elicitation(潜在事象・メカニ ズムの思考的顕在化)の具現化をねらう。 (3)提示された潜在的経年劣化事象に対して PIRT(Pheno --menon Identification and Ranking Table)手法[1]を適 用してスコアリングを行い、プロアクティブ経年劣化事象 としての重要度を評価する。3. 過去において抽出された潜在的/未経験劣化事象から想定されるシナリオ 過去において、将来起こり得ると考えられる潜在的/未 経験劣化事象として平成 20 年度に8件、平成 21 年度に 11件、平成 22 年度には BWR/PWR において5年以内に解決 されることが望ましい事象、5年から10年以内に解決さ れることが望まれる事象についてそれぞれ10件づつ提起 された。[2]-[7] 図2は、安全上最重要である原子炉冷却機能確保に不可決な原子炉容器圧力バウンダリの健全性確保に係る 過去において提起された潜在的/未経験劣化事象を示す。 原子炉圧力容器を構成する低合金に関する劣化事象とし て、SCC、環境疲労が考えられる。また、長時間運転に よる低合金鋼の経年劣化事象として熱時効、中性子照射 が考えられる。過去の事象(既知事象)の根本原因究明に基づく帰納 的なアプローチから得られた知見として SCC 要因に対す る新たな知見(実験室データ)が提示された。まず、圧力 容器用低合金鋼における SCC 進展速度は塩素イオン添加 環境で顕著に加速することが示された[8]。 温度 274 また は 288°C、溶存酸素濃度 0.4 または 8ppm、応力拡大係数 30-40MPa/ m において低合金鋼の SCC進展速度は 5ppb以 上の塩素イオン添加で加速され、50ppb 以上でほぼ一定の 値を示すことが示されている。100ppb以上の塩素イオン 添加水質での SCC 進展速度は 2mm/day 程度となる。次に 圧力容器用低合金鋼の SCC 進展速度への温度と動的ひず み時効の影響に関して、温度 250°C程度で SCC進展速度が 最大となることが示されている。 温度 250°Cにおいて動 的ひずみ時効を起こしやすい材料ほど SCC 進展速度が速103い。このことから、長時間運転により材料特性が変化し て動的ひずみ時効を起しやすくなる場合には、起動停止 時の炉底部(ニッケル基合金/低合金鋼)のSCC進展に影 響を及ぼす可能性が示唆される。 .次に科学的劣化メカニズム解明に基づく演繹的なアプ ローチから得られた知見として水素の役割、特に酸化の 促進に対する可能性が指摘された。また、破壊抵抗(破 壊靭性)の低下(実験室データ)及び新しい事象として急 速破断事象(実験室データ)が提示された[9] [10]。これ らは実験室的に比較的最近示されてきた事象でそのメカ ニズムは不明である。304L ステンレス鋼の急速破壊事象 例によると SCC 進展試験の最中において K-69ksis in の 条件で突然CT試験片が急速破壊した。大気中ではこの ような現象は生じないことが確認されており、この急速 破壊事象に対する環境影響が示唆される。図3は、システム安全に対する最悪シナリオの例とし て原子炉圧力容器の場合を示す。過去の事象(既知事象)の根本原因究明に基づく帰納 的なアプローチから想定される複合事象(過酷ケース)2010年度 BWR短期的課題(~5年以内) (1) 金属/環境界面と予兆事象の定義 (2) 沸騰水型原子炉における非照射構造合金のき裂発生の定量化。●原子炉冷 バウンダリの2009年度 1水素による酸化の加速(Hydrogen) (2) 溶存水素を含む環境下におけるオーステナイト合金の環境疲労感受性(Envic-Fatige) (3) 高温水の物理化学(Water) 4長時間時効による低合金鋼における破壊抵抗の低下(DR) (5) ニッケル基合金におけるオーダリング(Ordering) (6) 低温き裂進展に関する基本的理解(LTCP) (7) ショットピーニング表面の長時間信頼性(Shot beened) OscCに及ぼすひずみ経路影響(Strain path)■過去の事 帰納的なア ? SCCLE (実験 -RPV (EE-動的で ■科学的分 アプローチ・水素の ・破壊抵 ・新しい明的報2008年度 (a) 既知事象であるが、想定していなかった条件(箇所、環境)で生じた事象 1 PWR蒸気発生器管台の割れ 2スペンドフューエルプールの裏面の腐食 3ペネトレーションパイプのコンクリート構造体との貫通部の劣化 4バックアップ技術としてのコンディションモニタリング 5プラントの酸化皮膜の観点からのEACに及ぼす温度とECP遷移 (6) そもそも劣化モードとして想定していなかった事象 6局所的に強い酸化性が生じる事象 1 水素の酸化剤としての役割とそれが引き起こす劣化モード 8高調波リップルストレスに影響される割れ事象Susceptibility図2 原子炉容器圧力バウンダリの健全性確保に関係する過去においンタリの健全性確保に関係す-104として以下の可能性が考えられた。82 合金における SCC 発生と急速破壊が生じ、その結果SCCき裂がクラッド/LAS 境界部へ到達する。起動停止による室温→288°Cの温度変 化により動的ひずみが発生する。運転温度による長時間 熱時効を受けることにより動的ひずみ時効特性が変化す る。海水リーク等による塩素濃度が増加する。上記の事 象が複合的に生じた場合、考えうる最悪のシナリオは SCC 貫通による圧力容器の破壊となる。また、科学的劣化メカニズム解明に基づく演繹的なア プローチから想定される複合事象(過酷ケース)として 以下の可能性が考えられた。 1 長期運転に伴う材料中への水素侵入と粒界へ蓄積 2 長時間熱時効による粒界脆化 上記1、2が複合的に生じることにより想定される最悪 シナリオは、破壊抵抗低下、急速破断による圧力容器の 破壊となる。4. 新たな視点による材料劣化潜在事象・潜在メカニズムのプロアクティブ評価と抽出 現時点で発見されていない劣化事象の発現可能性に安全上の重要課題」 ●原子炉冷却機能確保に不可欠な原子炉容器圧力 バウンダリの健全性確保STATION E POWEDDICIRCO■過去の事象(既知事象)の根本原因究明に基づく 帰納的なアプローチから得られた知見 ・SCC要因に対する新たな知見の提示 (実験室データ) -RPY低合金鋼/塩素イオン-動的ひずみ時効の加速影響 ■科学的劣化メカニズム解明に基づく演繹的な アプローチから得られた知見 ・水素の役割 一酸化の促進・破壊抵抗(破壊靭性)の低下(実験室データ) ・新しい事象として急速破断事象の提示(実験室データ)Susceptibility(6)LTCP*** (2)Envi.-Fatigue Strain PTFR (7)Shot peened(5)Ordering Hvrrogen(3)water2.5Knowledgeる過去において提起された潜在的/未経験劣化事象科学的劣化メカニズム解明に基 づく演繹的なアプローチ から想定される複合事象 (過酷ケース)過去の事象(既知事象)の根本原因究明に基づく 帰納的なアプローチから想定される複合事象 (過酷ケース) 182合金におけるSCC発生と急速破壊→SCCき裂のクラッド/LAS境界部への到達 2起動停止・室温→288°Cの温度変化・動的ひずみ 3運転温度による長時間熱時効・DSA特性の変化(?) 4海水リーク等による塩素濃度増加1長期運転に伴う材料中への水素侵入と粒界への蓄積 2長時間熱時効による粒界脆化【想定される最悪シナリオ】 SCC貫通、破壊抵抗低下、急速破断による圧力容器の破壊図3 システム安全に対する最悪シナリオ例 - 原子炉圧力容器の場合 -関して以下の視点が重要であることが指摘された。の可能性のあるリスクを明らかにすることにあると考え (1) 一時的な運転条件下(頻繁な運転開始や続く負荷)られる。 (2)起きる確率は低いが一度起きると影響が甚大な事象 図5は、設計条件と管理プログラムに対する材料劣化 (3) 異なる劣化モード間の相乗作用情報の組合せによるシステム安全評価の関係を模式的に示したものである。 5. プロアクティブ材料経年劣化評価とシステ 設計条件として考慮すべき事項には材料特性値(例え ム安全ば破壊靭性値 K)、設計応力、温度、圧力、繰り返し数、 平成23年12月7日-9日に開催されたプロアクティブ 安全裕 度評価欠陥形状・寸法、水化学等がある。また、 専門家会議において軽水炉構造材料に将来起こりうる経 管理プログラムにはシャルピーサーベランス試験、定期 年劣化事象をプロアクティブに議論し課題を抽出してい 検査、日常保全、現場保全、計画保全、設計条件からの くことの重要性が指摘された。 学における R&D と産に 逸脱のモニター、各種 非破壊検査、各種モニタリング等 おけるプラント事例の橋渡しが本プロアクティブ専門家 がある。材料劣化では材料型劣化、材料表面型劣化及び 会議の役割であること、材料劣化では材料型劣化、材料欠陥型/機能喪失型劣化の3者を結びつけて総合的に検討 表面型劣化及び欠陥型/機能喪失型劣化の3者を結びつけ していくことが肝要であるが、それぞれの劣化間におけ て総合的に検討していくことが肝要であること、さらに る共通的課題が重要である。材料型劣化及び表面型劣化 材料劣化と設計条件、管理プログラムの組み合わせ並び に共通する課題として環境助長割れ発生に対する表面硬 に専門家の知識に基づいたクリティカルな実験、システム化影響、ひずみ局在化及び粒界アタック、時効による微 解析によりプラントにおける全ての可能性のあるリスク 視組織変化に対する空孔、転位クラスター、水素の影響 を明らかにすることが必要であることがあらためて認識 並びに環境助長割れ及び疲労割れ発生に対するそれらの された。係わり等々がある。材料型劣化及び欠陥型劣化/機能喪失 図4は、プラント経験と学界/研究開発を結びつけるプ 型劣化に共通する課題には、き裂抵抗及び健全性、破壊 ロアクティブ専門家会議の役割を示したものである。長期抵抗、焼き戻し脆化、シャルピー特性等々がある。表面 運転プラントに起こり得る実際の状態を知ること(予測 型劣化と欠陥型劣化/機能喪失型劣化における共通課題 すること)が究極的に必要であり、プロアクティブ専門家 として発生から進展、微小き裂成長、き裂の合体、フレ 会議での専門家議論の重要な役割は材料/設計/管理の ッティング及び応力腐食割れ、局所水質等々がある。5. プロアクティブ材料経年劣化評価とシステム安全 平成23年12月7日-9日に開催されたプロアクティブ 専門家会議において軽水炉構造材料に将来起こりうる経 年劣化事象をプロアクティブに議論し課題を抽出してい くことの重要性が指摘された。 学における R&D と産に おけるプラント事例の橋渡しが本プロアクティブ専門家 会議の役割であること、材料劣化では材料型劣化、材料 表面型劣化及び欠陥型/機能喪失型劣化の3者を結びつけ て総合的に検討していくことが肝要であること、さらに 材料劣化と設計条件、管理プログラムの組み合わせ並び に専門家の知識に基づいたクリティカルな実験、システム 解析によりプラントにおける全ての可能性のあるリスク を明らかにすることが必要であることがあらためて認識 された。図4は、プラント経験と学界/研究開発を結びつけるプ ロアクティブ専門家会議の役割を示したものである。長期 運転プラントに起こり得る実際の状態を知ること(予測 すること)が究極的に必要であり、プロアクティブ専門家 会議での専門家議論の重要な役割は材料/設計/管理の 可能な組み合わせ並びに専門家の知識に基づいたクリテ ィカルな実験、システム解析によりプラントにおける全て105/ To be Proactive!!プロアクティブ専門家会議での 専門家議論の重要な役割学界/研究開発*プラント経験*長期運転プラントに 起こり得る実際 の状態を知る ことが必要材料/設計/管理の可能な組み 合わせ並びに専門家の知識に 基づいたクリティカルな実験、 システム解析によりプラントに おける全ての可能性のある リスクを明らかにすることが必要」現象の基本的な 理解に基づく クリティカルな 実験の遂行及び 現象論的及び機構的 理解の実プラント 状態への含蓄To be Proactively* 原子力以外の分野も含む, ** 研究事業及び目的指向型基礎研究に加えて基礎研究を含む図4 プラント経験と学界/研究開発を結びつけるプロアクティブ専門家会議の役割プロアクティブ材料経年劣化に係る専門家の知識並びに | 専門家会議で抽出された新たな知見・劣化モード設計条件Superanspanesease.ameRESUSHINeewssessanSname材料型劣化 熱時刻 照射損傷 疲勞損傷蓄積材料特性値((例)破壊靭性値K)、 北較検討 設計応力、温度、圧力、繰返し数、安全裕度評価欠陥形状・寸法、 水化学等■環境助長割れ発生に対する表面硬 化影響ひずみ局在化及び粒界 アタック ■時効による微視組織変化に対する空 孔、転位クラスター、水素の影響並び に環境助長 割れ及び疲労けれ発生 に対するそれらの係わり ■偏析と析出 ■冷間加工、照射、変形による酸化の 局在化■き裂抵抗及び健全性 離破壞抵抗 羅焼き戻し脆化 ■シャルビー特性 幽環境助長割れき裂進展 超熱及び照射下における コンクリート及びポリマー時効「管理プログラム 比較?計シャルピーサーベランス試験、 定期検査、日常保全、現場保全、 計画保全、設計条件からの逸脱 のモニター、各種非破壊検査、 各種モニタリング等長期運 高経年化対応nimaMESArmenESSAGGREEN表面型劣化 局部水質孔食、疲労 環境助長割れ発生システム安全!欠陥型劣化 機能喪失型劣化 環境助長割れき裂進展規格及び基準 健全性評価■発生から進展 ■微小き裂成長 留き裂の合体 調フレッティング及び 応力腐食割れ 局所水質設計条件+管理プログラム+ 材料劣化情報の組合せにより システム安全を評価するよこせっかく図5 設計条件と管理プログラムに対する材料劣化情報の組合せによるシステム安全評価の関係6. まとめ実プラントにおける未発見要因のプロアクティブな定 量化予知・予測に対して現象の理解が第1ステップであ ること、現時点においても未発見要因は必ず存在すると の視点から未知要因を探索する研究開発が必要である。 また抽出された潜在事象からシステム安全に繋がるシナ リオを明確にしておくことが重要である。「謝辞 1. 本研究は、経済産業省原子力安全・保安院平成 23 年度 高経年化技術評価高度化事業の成果の一部をまとめたも のである。プロアクティブ材料経年劣化研究課題の抽出に あたり議論頂いたプロアクティブ専門家会議委員各位(付 表)に深甚なる謝意を表する。106参考文献 [1] NUREG/CR-6923, Expert Panel Report on Proactive Materials Degradation Assessment, U.S. Nuclear Regulatory Commission, Washington, DC. (2007). [2]平成19年度経済産業省原子力安全・保安院高経年化対 策強化基盤事業成果報告書(東北・北海道クラスター) (株)インテリジェント・コスモス研究機構、平成20年3月 「31平成20年度経済産業省原子力安全・保安院高経年化対 策強化基盤事業成果報告書(東北・北海道クラスター) (株)インテリジェント・コスモス研究機構、平成21年3月 [4]基調講演「プロアクティブ経年劣化対応と階層化保全」、 庄子哲雄、第6回保全学会学術講演会 [5]庄子哲雄、竹田陽一、国谷治郎: ““ プロアクティブ材 料経年劣化評価と状態監視技術開発““、日本保全学会、第 7回学術講演会要旨集、pp.475-479(2010.7) [6]庄子哲雄、竹田陽一、国谷治郎、ピーター フォード、 ピーター スコット : ““軽水炉原子炉におけるプロアクテ闇オブザーバ 菅野真紀((独)原子力安全基盤機構) 越石正人(日立GE) 藤本浩二(三菱重工業) 橘内裕寿(NFD) 米澤利夫(東北大学) 坂口和彦(東北大学) |Nishith Kmar Das(東北大学) Oliveir Lavigne(東北大学) [Bali Shirish(東北大学)付表 平成 23 年度(20110プロアクティブ専門家会議委員 QH23プロアクティブ専門家会議委員(■ 出席者)氏名所属 氏名 *所属青山勝信原子力安全・保安院 Dr. Peter Ford コンサルタント、元GE(米国)坂本一信 (独)原子力安全基盤機構 Dr. Roger W. Staehle コンサルタント、元ミネソタ大学(米国)関村直人東京大学 Dr. Peter Andresen IGE(米国)大木義路早稲田大学 Prof. En-Hou Han IMR(中国)|橘高義典首都大学 Dr. Peter Scott コンサルタント、元AREVA(仏)三橋博三東北工業大学 Dr. Karen Gott コンサルタント、元SSM(スエーデン)堀内寿晃 北海道工業大学 |a|Prof. Hannu Hanninen ヘルシンキ大学(フィンランド). - Dr. Claude Amzallag ONET - Technologies(フランス)鈴木俊一 「東京電力 # Dr. Tiangan (TG) Lian EPRI(米国)田中秀夫「関西電力 Dr. Al Ahluwalia EPRI(米国)小林邦浩東北電力 |- Dr.Armin Roth , AREVA(独)村上弘良 日本原子力発電 Dr. Stephen M. Bruemmer JPNNL(米国)稲田文夫「電力中央研究所 Dr. Bond, Leonard J JPNNL(米国)新井 拓 電力中央研究所 |Prof. Roger Newman |トロント大学(カナダ)鬼沢邦雄 (独)日本原子力研究開発機構 Prof. Il Soon Hwang 「ソウル大学(韓国)小林高揚三菱重工業 Dr. Alan Turnbull NPL(英国)藤森治男日立GE Prof. Robert Cottis |マンチェスター大学(英国)伊藤幹郎 東芝 Prof. Philippe Marcus ENSCP (IA)平野隆HI Dr. Thierry Couvant EDF(A)有岡孝司 (株)原子力安全システム研究所 Dr. Hans-Peter Seifert [PSI(スイス)福谷耕司 (株)原子力安全システム研究所 Dr. Torill M. Karlsen OECD Halden Reactor Project(ノルエー)「明石正面コンサルタント、元IHI Prof. Jean-Yves Cavaille INSA-Lyon (IA)滝沢真之三菱総合研究所 Dr. Pierre Combrade コンサルタント、元AREVA(仏)近藤達男「元東北大学 Dr. C.E. (Gene) Carpenter, JINRC(米国)庄子哲雄「東北大学 Dr.Jean-Paul Massoud EDF(仏) ,竹田陽一 Institut Universitaire de France (IA) Prof. Yves Brechet東北大学 Prof. Tim Burnstein ケンブリッジ大学(英国)。亀田 純東北大学 Dr. Damien Feron CEA(仏)渡辺 豊 東北大学 Dr. Ren Ai ISNPI(中国)高橋信 東北大学 Prof. Z. P. Lu Shanghai U :船日立夫 東北大学 | Dr. Dolores. G. Briceno |CIMAT(スペイン)国谷治郎東北大学イブ材料経年劣化研究課題、保全学、Vol. 10, No. 4, pp. 51-66(2012.1) [7]Tetsuo SHOJ, Yoichi TAKEDA, Jiro KUNIYA, Peter FORD、Peter SCOTT : ““Proactive Material Degradation Research Subjects for Light Water Reactors, E-Journal of Advanced Maintenance, Japan Society of Maintenology, to be published. [8]H.P. Seifert, S. Ritter, T. Shoji, Q.J. Peng, Y.Takeda, Z.P. Lu, Journal of Nuclear Materials 378 (2008) 197--210. [9]P. L. Andresen, Emerging Issues and Funda -mental Processes in Environmental Cracking in Hot Water, Corrosion J1, Vol.64, No.5, 2008, 439 - 464 [10]Xiaoyuan Lou, Peter L. Andresen and Tiangan Liang, INVESTIGATION OF RAPID FRACTURE PHENOMENON IN HIGH TEMPERATURE WATER, C2012-0001186, NACE CORROSION 2012 (2012)107“ “プロアクティブ材料劣化潜在事象評価とシステム安全“ “庄子 哲雄,Tetsuo SHOJI,竹田 陽一,Yoichi TAKEDA,国谷 治郎,Jiro KUNIYA
プラント高経年化に伴い潜在的経年劣化事象が新たに 発現する可能性が懸念される。ここでは潜在的経年劣化 事象として今までに経験したことのない未経験事象に加 えて既知事象であるがそれらの連成事象・連鎖事象を含 めて考えることにする。従来、現象が顕在化した後のきれいな説明がなされて きた。しかしながら、プラントの高経年化技術評価の高 度化とシステム安全の確保に当たっては、未知事象及び 既知事象の連成・連鎖型事象を予知・予測しておくこと は極めて重要である。潜在的経年劣化事象の予知・予測にはプロアクティブ (先見的)な対応が重要である。より基礎的、学術的な アプローチにより劣化メカニズムを深く掘り下げること により潜在的経年劣化事象の予測が可能になると考える。 具体的には、1過去の事象の根本原因究明に基づく帰納 的アプローチ、並びにの科学的劣化メカニズム解明に基 づく演繹的アプローチをそれぞれの側面から深耕し、両 アプローチからの議論を重ねることによって3体系的 elicitation(潜在事象・メカニズムの思考的顕在化へ) が得られると考える。図1は、プロアクティブ材料劣化潜在事象評価とシステ ム安全への繋がりを示す。プロアクティブ専門家会議での 議論、ウェブ上での議論、知識抽出法などによる分析、 リスク評価・管理並びにその帰結評価とクライシスマネージメントへの議論により、長期運転 (Long Term Operation:LTO) において考慮すべき材料経年劣化事象は 何であるかを予知・予測する。その上で、高経年化技術 評価に対して未知事象、既知事象の連成、連鎖型事象の 提起、防止技術の提起及び監視技術の提起を行う。この ことによりシステム安全の維持に貢献することが可能と なる。ここでシステム安全には、冷却材の喪失防止、機 能の喪失防止、構造体の健全性維持並びにクライシスマ ネージメントが含まれる。一連のプロアクティブ材料劣化 潜在事象評価とシステム安全への繋がりにおいて、プロ アクティブに議論・提起された潜在的経年劣化事象につい てはそれらの公表と周知活動が重要であると同時にそれ らが未経験事象であることから未知要因を立証する研究 開発が遂行されることが重要であろう。 1. 本稿では、平成 23 年度に原子力安全・保安院「高経年化技術評価高度化事業」の一環として実施された「プロ アクティブ材料経年劣化専門家会議」での審議の内容並 びに抽出された材料劣化潜在事象とシステム安全との係 りについて述べる。
2. 未経験・未知事象を抽出するための基本的
な考え方 プロアクティブ専門家会議及びプロアクティブウェブ における議論において以下を基本的な進め方とした。 (1) 自由な議論を促すため初期条件、境界条件は決めない。102CHARPA LMusindowsinisualプロアクティブ材料経年劣化評価システム安全■プロアクティブ専門家会議での議論 -過去の事象(既知事象)の根本原因究明に基づく帰納的なアプローチ -科学的劣化メカニズム解明に基づく演繹的な アプローチ 一体系的elicitation(潜在事象・メカニズムの思考的顕在化) ■ウェブの活用」 ■知識抽出法などによる分析 ■リスク評価・管理並びにその帰結評価と クライシスマネージメントへの橋渡し圖冷却材の喪失防止機能の喪失防止 -圧力容器(RPV)の破壊 -RPV/配管異材継手部破壊 一配管の分離破断 一回転体の損傷 ーケーブルの劣化損傷 ■構造体の健全性維持一炉内構造物の損傷-コンクリートの劣化損傷 ■クライシスマネージメント (多様な事故を想定。対処法)■高経年化技術評価への対応 -未知事象、既知事象の連成、連鎖型事象の提起 -防止技術の提起 一監視技術の提起長期運転(LTO) において考慮すべき 材料経年劣化事象の提起 -未知事象並びに既知事象の 『連成・連鎖』型事象の予知・予測■公表、周知の活動 ■未知要因を立証する研究開発の遂行図1 プロアクティブ材料経年劣化評価とシステム安全への繋がり(2) 自由な議論を通して専門家の持っている潜在的思 考・問題意識を導き出す。初めから条件を決めて議論す ることはその枠内での議論となる。条件を決めない自由 な議論の中から思いがけないことが出てくることを期待 する。すなわち、体系的 elicitation(潜在事象・メカニ ズムの思考的顕在化)の具現化をねらう。 (3)提示された潜在的経年劣化事象に対して PIRT(Pheno --menon Identification and Ranking Table)手法[1]を適 用してスコアリングを行い、プロアクティブ経年劣化事象 としての重要度を評価する。3. 過去において抽出された潜在的/未経験劣化事象から想定されるシナリオ 過去において、将来起こり得ると考えられる潜在的/未 経験劣化事象として平成 20 年度に8件、平成 21 年度に 11件、平成 22 年度には BWR/PWR において5年以内に解決 されることが望ましい事象、5年から10年以内に解決さ れることが望まれる事象についてそれぞれ10件づつ提起 された。[2]-[7] 図2は、安全上最重要である原子炉冷却機能確保に不可決な原子炉容器圧力バウンダリの健全性確保に係る 過去において提起された潜在的/未経験劣化事象を示す。 原子炉圧力容器を構成する低合金に関する劣化事象とし て、SCC、環境疲労が考えられる。また、長時間運転に よる低合金鋼の経年劣化事象として熱時効、中性子照射 が考えられる。過去の事象(既知事象)の根本原因究明に基づく帰納 的なアプローチから得られた知見として SCC 要因に対す る新たな知見(実験室データ)が提示された。まず、圧力 容器用低合金鋼における SCC 進展速度は塩素イオン添加 環境で顕著に加速することが示された[8]。 温度 274 また は 288°C、溶存酸素濃度 0.4 または 8ppm、応力拡大係数 30-40MPa/ m において低合金鋼の SCC進展速度は 5ppb以 上の塩素イオン添加で加速され、50ppb 以上でほぼ一定の 値を示すことが示されている。100ppb以上の塩素イオン 添加水質での SCC 進展速度は 2mm/day 程度となる。次に 圧力容器用低合金鋼の SCC 進展速度への温度と動的ひず み時効の影響に関して、温度 250°C程度で SCC進展速度が 最大となることが示されている。 温度 250°Cにおいて動 的ひずみ時効を起こしやすい材料ほど SCC 進展速度が速103い。このことから、長時間運転により材料特性が変化し て動的ひずみ時効を起しやすくなる場合には、起動停止 時の炉底部(ニッケル基合金/低合金鋼)のSCC進展に影 響を及ぼす可能性が示唆される。 .次に科学的劣化メカニズム解明に基づく演繹的なアプ ローチから得られた知見として水素の役割、特に酸化の 促進に対する可能性が指摘された。また、破壊抵抗(破 壊靭性)の低下(実験室データ)及び新しい事象として急 速破断事象(実験室データ)が提示された[9] [10]。これ らは実験室的に比較的最近示されてきた事象でそのメカ ニズムは不明である。304L ステンレス鋼の急速破壊事象 例によると SCC 進展試験の最中において K-69ksis in の 条件で突然CT試験片が急速破壊した。大気中ではこの ような現象は生じないことが確認されており、この急速 破壊事象に対する環境影響が示唆される。図3は、システム安全に対する最悪シナリオの例とし て原子炉圧力容器の場合を示す。過去の事象(既知事象)の根本原因究明に基づく帰納 的なアプローチから想定される複合事象(過酷ケース)2010年度 BWR短期的課題(~5年以内) (1) 金属/環境界面と予兆事象の定義 (2) 沸騰水型原子炉における非照射構造合金のき裂発生の定量化。●原子炉冷 バウンダリの2009年度 1水素による酸化の加速(Hydrogen) (2) 溶存水素を含む環境下におけるオーステナイト合金の環境疲労感受性(Envic-Fatige) (3) 高温水の物理化学(Water) 4長時間時効による低合金鋼における破壊抵抗の低下(DR) (5) ニッケル基合金におけるオーダリング(Ordering) (6) 低温き裂進展に関する基本的理解(LTCP) (7) ショットピーニング表面の長時間信頼性(Shot beened) OscCに及ぼすひずみ経路影響(Strain path)■過去の事 帰納的なア ? SCCLE (実験 -RPV (EE-動的で ■科学的分 アプローチ・水素の ・破壊抵 ・新しい明的報2008年度 (a) 既知事象であるが、想定していなかった条件(箇所、環境)で生じた事象 1 PWR蒸気発生器管台の割れ 2スペンドフューエルプールの裏面の腐食 3ペネトレーションパイプのコンクリート構造体との貫通部の劣化 4バックアップ技術としてのコンディションモニタリング 5プラントの酸化皮膜の観点からのEACに及ぼす温度とECP遷移 (6) そもそも劣化モードとして想定していなかった事象 6局所的に強い酸化性が生じる事象 1 水素の酸化剤としての役割とそれが引き起こす劣化モード 8高調波リップルストレスに影響される割れ事象Susceptibility図2 原子炉容器圧力バウンダリの健全性確保に関係する過去においンタリの健全性確保に関係す-104として以下の可能性が考えられた。82 合金における SCC 発生と急速破壊が生じ、その結果SCCき裂がクラッド/LAS 境界部へ到達する。起動停止による室温→288°Cの温度変 化により動的ひずみが発生する。運転温度による長時間 熱時効を受けることにより動的ひずみ時効特性が変化す る。海水リーク等による塩素濃度が増加する。上記の事 象が複合的に生じた場合、考えうる最悪のシナリオは SCC 貫通による圧力容器の破壊となる。また、科学的劣化メカニズム解明に基づく演繹的なア プローチから想定される複合事象(過酷ケース)として 以下の可能性が考えられた。 1 長期運転に伴う材料中への水素侵入と粒界へ蓄積 2 長時間熱時効による粒界脆化 上記1、2が複合的に生じることにより想定される最悪 シナリオは、破壊抵抗低下、急速破断による圧力容器の 破壊となる。4. 新たな視点による材料劣化潜在事象・潜在メカニズムのプロアクティブ評価と抽出 現時点で発見されていない劣化事象の発現可能性に安全上の重要課題」 ●原子炉冷却機能確保に不可欠な原子炉容器圧力 バウンダリの健全性確保STATION E POWEDDICIRCO■過去の事象(既知事象)の根本原因究明に基づく 帰納的なアプローチから得られた知見 ・SCC要因に対する新たな知見の提示 (実験室データ) -RPY低合金鋼/塩素イオン-動的ひずみ時効の加速影響 ■科学的劣化メカニズム解明に基づく演繹的な アプローチから得られた知見 ・水素の役割 一酸化の促進・破壊抵抗(破壊靭性)の低下(実験室データ) ・新しい事象として急速破断事象の提示(実験室データ)Susceptibility(6)LTCP*** (2)Envi.-Fatigue Strain PTFR (7)Shot peened(5)Ordering Hvrrogen(3)water2.5Knowledgeる過去において提起された潜在的/未経験劣化事象科学的劣化メカニズム解明に基 づく演繹的なアプローチ から想定される複合事象 (過酷ケース)過去の事象(既知事象)の根本原因究明に基づく 帰納的なアプローチから想定される複合事象 (過酷ケース) 182合金におけるSCC発生と急速破壊→SCCき裂のクラッド/LAS境界部への到達 2起動停止・室温→288°Cの温度変化・動的ひずみ 3運転温度による長時間熱時効・DSA特性の変化(?) 4海水リーク等による塩素濃度増加1長期運転に伴う材料中への水素侵入と粒界への蓄積 2長時間熱時効による粒界脆化【想定される最悪シナリオ】 SCC貫通、破壊抵抗低下、急速破断による圧力容器の破壊図3 システム安全に対する最悪シナリオ例 - 原子炉圧力容器の場合 -関して以下の視点が重要であることが指摘された。の可能性のあるリスクを明らかにすることにあると考え (1) 一時的な運転条件下(頻繁な運転開始や続く負荷)られる。 (2)起きる確率は低いが一度起きると影響が甚大な事象 図5は、設計条件と管理プログラムに対する材料劣化 (3) 異なる劣化モード間の相乗作用情報の組合せによるシステム安全評価の関係を模式的に示したものである。 5. プロアクティブ材料経年劣化評価とシステ 設計条件として考慮すべき事項には材料特性値(例え ム安全ば破壊靭性値 K)、設計応力、温度、圧力、繰り返し数、 平成23年12月7日-9日に開催されたプロアクティブ 安全裕 度評価欠陥形状・寸法、水化学等がある。また、 専門家会議において軽水炉構造材料に将来起こりうる経 管理プログラムにはシャルピーサーベランス試験、定期 年劣化事象をプロアクティブに議論し課題を抽出してい 検査、日常保全、現場保全、計画保全、設計条件からの くことの重要性が指摘された。 学における R&D と産に 逸脱のモニター、各種 非破壊検査、各種モニタリング等 おけるプラント事例の橋渡しが本プロアクティブ専門家 がある。材料劣化では材料型劣化、材料表面型劣化及び 会議の役割であること、材料劣化では材料型劣化、材料欠陥型/機能喪失型劣化の3者を結びつけて総合的に検討 表面型劣化及び欠陥型/機能喪失型劣化の3者を結びつけ していくことが肝要であるが、それぞれの劣化間におけ て総合的に検討していくことが肝要であること、さらに る共通的課題が重要である。材料型劣化及び表面型劣化 材料劣化と設計条件、管理プログラムの組み合わせ並び に共通する課題として環境助長割れ発生に対する表面硬 に専門家の知識に基づいたクリティカルな実験、システム化影響、ひずみ局在化及び粒界アタック、時効による微 解析によりプラントにおける全ての可能性のあるリスク 視組織変化に対する空孔、転位クラスター、水素の影響 を明らかにすることが必要であることがあらためて認識 並びに環境助長割れ及び疲労割れ発生に対するそれらの された。係わり等々がある。材料型劣化及び欠陥型劣化/機能喪失 図4は、プラント経験と学界/研究開発を結びつけるプ 型劣化に共通する課題には、き裂抵抗及び健全性、破壊 ロアクティブ専門家会議の役割を示したものである。長期抵抗、焼き戻し脆化、シャルピー特性等々がある。表面 運転プラントに起こり得る実際の状態を知ること(予測 型劣化と欠陥型劣化/機能喪失型劣化における共通課題 すること)が究極的に必要であり、プロアクティブ専門家 として発生から進展、微小き裂成長、き裂の合体、フレ 会議での専門家議論の重要な役割は材料/設計/管理の ッティング及び応力腐食割れ、局所水質等々がある。5. プロアクティブ材料経年劣化評価とシステム安全 平成23年12月7日-9日に開催されたプロアクティブ 専門家会議において軽水炉構造材料に将来起こりうる経 年劣化事象をプロアクティブに議論し課題を抽出してい くことの重要性が指摘された。 学における R&D と産に おけるプラント事例の橋渡しが本プロアクティブ専門家 会議の役割であること、材料劣化では材料型劣化、材料 表面型劣化及び欠陥型/機能喪失型劣化の3者を結びつけ て総合的に検討していくことが肝要であること、さらに 材料劣化と設計条件、管理プログラムの組み合わせ並び に専門家の知識に基づいたクリティカルな実験、システム 解析によりプラントにおける全ての可能性のあるリスク を明らかにすることが必要であることがあらためて認識 された。図4は、プラント経験と学界/研究開発を結びつけるプ ロアクティブ専門家会議の役割を示したものである。長期 運転プラントに起こり得る実際の状態を知ること(予測 すること)が究極的に必要であり、プロアクティブ専門家 会議での専門家議論の重要な役割は材料/設計/管理の 可能な組み合わせ並びに専門家の知識に基づいたクリテ ィカルな実験、システム解析によりプラントにおける全て105/ To be Proactive!!プロアクティブ専門家会議での 専門家議論の重要な役割学界/研究開発*プラント経験*長期運転プラントに 起こり得る実際 の状態を知る ことが必要材料/設計/管理の可能な組み 合わせ並びに専門家の知識に 基づいたクリティカルな実験、 システム解析によりプラントに おける全ての可能性のある リスクを明らかにすることが必要」現象の基本的な 理解に基づく クリティカルな 実験の遂行及び 現象論的及び機構的 理解の実プラント 状態への含蓄To be Proactively* 原子力以外の分野も含む, ** 研究事業及び目的指向型基礎研究に加えて基礎研究を含む図4 プラント経験と学界/研究開発を結びつけるプロアクティブ専門家会議の役割プロアクティブ材料経年劣化に係る専門家の知識並びに | 専門家会議で抽出された新たな知見・劣化モード設計条件Superanspanesease.ameRESUSHINeewssessanSname材料型劣化 熱時刻 照射損傷 疲勞損傷蓄積材料特性値((例)破壊靭性値K)、 北較検討 設計応力、温度、圧力、繰返し数、安全裕度評価欠陥形状・寸法、 水化学等■環境助長割れ発生に対する表面硬 化影響ひずみ局在化及び粒界 アタック ■時効による微視組織変化に対する空 孔、転位クラスター、水素の影響並び に環境助長 割れ及び疲労けれ発生 に対するそれらの係わり ■偏析と析出 ■冷間加工、照射、変形による酸化の 局在化■き裂抵抗及び健全性 離破壞抵抗 羅焼き戻し脆化 ■シャルビー特性 幽環境助長割れき裂進展 超熱及び照射下における コンクリート及びポリマー時効「管理プログラム 比較?計シャルピーサーベランス試験、 定期検査、日常保全、現場保全、 計画保全、設計条件からの逸脱 のモニター、各種非破壊検査、 各種モニタリング等長期運 高経年化対応nimaMESArmenESSAGGREEN表面型劣化 局部水質孔食、疲労 環境助長割れ発生システム安全!欠陥型劣化 機能喪失型劣化 環境助長割れき裂進展規格及び基準 健全性評価■発生から進展 ■微小き裂成長 留き裂の合体 調フレッティング及び 応力腐食割れ 局所水質設計条件+管理プログラム+ 材料劣化情報の組合せにより システム安全を評価するよこせっかく図5 設計条件と管理プログラムに対する材料劣化情報の組合せによるシステム安全評価の関係6. まとめ実プラントにおける未発見要因のプロアクティブな定 量化予知・予測に対して現象の理解が第1ステップであ ること、現時点においても未発見要因は必ず存在すると の視点から未知要因を探索する研究開発が必要である。 また抽出された潜在事象からシステム安全に繋がるシナ リオを明確にしておくことが重要である。「謝辞 1. 本研究は、経済産業省原子力安全・保安院平成 23 年度 高経年化技術評価高度化事業の成果の一部をまとめたも のである。プロアクティブ材料経年劣化研究課題の抽出に あたり議論頂いたプロアクティブ専門家会議委員各位(付 表)に深甚なる謝意を表する。106参考文献 [1] NUREG/CR-6923, Expert Panel Report on Proactive Materials Degradation Assessment, U.S. Nuclear Regulatory Commission, Washington, DC. (2007). [2]平成19年度経済産業省原子力安全・保安院高経年化対 策強化基盤事業成果報告書(東北・北海道クラスター) (株)インテリジェント・コスモス研究機構、平成20年3月 「31平成20年度経済産業省原子力安全・保安院高経年化対 策強化基盤事業成果報告書(東北・北海道クラスター) (株)インテリジェント・コスモス研究機構、平成21年3月 [4]基調講演「プロアクティブ経年劣化対応と階層化保全」、 庄子哲雄、第6回保全学会学術講演会 [5]庄子哲雄、竹田陽一、国谷治郎: ““ プロアクティブ材 料経年劣化評価と状態監視技術開発““、日本保全学会、第 7回学術講演会要旨集、pp.475-479(2010.7) [6]庄子哲雄、竹田陽一、国谷治郎、ピーター フォード、 ピーター スコット : ““軽水炉原子炉におけるプロアクテ闇オブザーバ 菅野真紀((独)原子力安全基盤機構) 越石正人(日立GE) 藤本浩二(三菱重工業) 橘内裕寿(NFD) 米澤利夫(東北大学) 坂口和彦(東北大学) |Nishith Kmar Das(東北大学) Oliveir Lavigne(東北大学) [Bali Shirish(東北大学)付表 平成 23 年度(20110プロアクティブ専門家会議委員 QH23プロアクティブ専門家会議委員(■ 出席者)氏名所属 氏名 *所属青山勝信原子力安全・保安院 Dr. Peter Ford コンサルタント、元GE(米国)坂本一信 (独)原子力安全基盤機構 Dr. Roger W. Staehle コンサルタント、元ミネソタ大学(米国)関村直人東京大学 Dr. Peter Andresen IGE(米国)大木義路早稲田大学 Prof. En-Hou Han IMR(中国)|橘高義典首都大学 Dr. Peter Scott コンサルタント、元AREVA(仏)三橋博三東北工業大学 Dr. Karen Gott コンサルタント、元SSM(スエーデン)堀内寿晃 北海道工業大学 |a|Prof. Hannu Hanninen ヘルシンキ大学(フィンランド). - Dr. Claude Amzallag ONET - Technologies(フランス)鈴木俊一 「東京電力 # Dr. Tiangan (TG) Lian EPRI(米国)田中秀夫「関西電力 Dr. Al Ahluwalia EPRI(米国)小林邦浩東北電力 |- Dr.Armin Roth , AREVA(独)村上弘良 日本原子力発電 Dr. Stephen M. Bruemmer JPNNL(米国)稲田文夫「電力中央研究所 Dr. Bond, Leonard J JPNNL(米国)新井 拓 電力中央研究所 |Prof. Roger Newman |トロント大学(カナダ)鬼沢邦雄 (独)日本原子力研究開発機構 Prof. Il Soon Hwang 「ソウル大学(韓国)小林高揚三菱重工業 Dr. Alan Turnbull NPL(英国)藤森治男日立GE Prof. Robert Cottis |マンチェスター大学(英国)伊藤幹郎 東芝 Prof. Philippe Marcus ENSCP (IA)平野隆HI Dr. Thierry Couvant EDF(A)有岡孝司 (株)原子力安全システム研究所 Dr. Hans-Peter Seifert [PSI(スイス)福谷耕司 (株)原子力安全システム研究所 Dr. Torill M. Karlsen OECD Halden Reactor Project(ノルエー)「明石正面コンサルタント、元IHI Prof. Jean-Yves Cavaille INSA-Lyon (IA)滝沢真之三菱総合研究所 Dr. Pierre Combrade コンサルタント、元AREVA(仏)近藤達男「元東北大学 Dr. C.E. (Gene) Carpenter, JINRC(米国)庄子哲雄「東北大学 Dr.Jean-Paul Massoud EDF(仏) ,竹田陽一 Institut Universitaire de France (IA) Prof. Yves Brechet東北大学 Prof. Tim Burnstein ケンブリッジ大学(英国)。亀田 純東北大学 Dr. Damien Feron CEA(仏)渡辺 豊 東北大学 Dr. Ren Ai ISNPI(中国)高橋信 東北大学 Prof. Z. P. Lu Shanghai U :船日立夫 東北大学 | Dr. Dolores. G. Briceno |CIMAT(スペイン)国谷治郎東北大学イブ材料経年劣化研究課題、保全学、Vol. 10, No. 4, pp. 51-66(2012.1) [7]Tetsuo SHOJ, Yoichi TAKEDA, Jiro KUNIYA, Peter FORD、Peter SCOTT : ““Proactive Material Degradation Research Subjects for Light Water Reactors, E-Journal of Advanced Maintenance, Japan Society of Maintenology, to be published. [8]H.P. Seifert, S. Ritter, T. Shoji, Q.J. Peng, Y.Takeda, Z.P. Lu, Journal of Nuclear Materials 378 (2008) 197--210. [9]P. L. Andresen, Emerging Issues and Funda -mental Processes in Environmental Cracking in Hot Water, Corrosion J1, Vol.64, No.5, 2008, 439 - 464 [10]Xiaoyuan Lou, Peter L. Andresen and Tiangan Liang, INVESTIGATION OF RAPID FRACTURE PHENOMENON IN HIGH TEMPERATURE WATER, C2012-0001186, NACE CORROSION 2012 (2012)107“ “プロアクティブ材料劣化潜在事象評価とシステム安全“ “庄子 哲雄,Tetsuo SHOJI,竹田 陽一,Yoichi TAKEDA,国谷 治郎,Jiro KUNIYA