確率論を利用した複数配管の保全・設計最適化手法の開発

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カテゴリ: 第9回
1. 諸言
原子力発電所の事故・故障の起因部位としては、配管 に関係するものが大きな比率を占め、その大部分が高経 年化によるもので、疲労、応力腐食割れ、熱時効、腐食 等の劣化モードが挙げられる。従って、プラントの安全 性を確保するために、配管の設計段階においては、経年劣化を適切に予測・評価し、検査と保修の効果を考慮し た上での、合理的安全設計が必要とされている。 - 従来の決定論的設計手法においては、材料や構造の持 つ強度、及びそれに係る荷重についてのバラつきに対し て、経験的な安全率を用いる事で、安全裕度を担保して きた。これに対して現在様々な分野で適用されつつある 「確率論的設計手法は、強度や荷重の確率分布を考慮する 事によって安全裕度を担保しようとするものである。 1. 本研究は、確率論的設計手法である LRFD (Load and Resistance Factor Design、荷重・耐力設計) 法を拡張し、原 子力発電プラントの配管系を対象とした保全・設計最適 化手法を開発するものである。 ・ また、用いる確率変数に対して、保全活動の中で得ら れるフィールドデータを蓄積し、統計処理を行って活用 する事を想定する。
2. LRFD法
ASME セクション II に代表される決定論的設計手法 に対して、LRFD 法は確率論的設計手法に分類され、様々 な分野に適用されている。確率分布[X = R-L荷重L「耐力 R]L,RFig.1 Schematic conception of LRFDFig.1 は LRFD 法の概念図である。構造物に係る荷重と 材料の強度等を表す耐力はそれぞれ確率分布を持つもの と考える。破損確率は荷重が耐力を上回る確率に相当す る。 - LRFD 法では、予め定めた破損確率の上限値を満足す る様に、各種設計パラメータを設定する事で安全裕度を 担保する。荷重や材料強度に関する確率分布の知見が充 分に利用可能な場合には、従来の決定論的設計手法と比 較して、より合理的で整合性のある設計が可能となる。119!3. 開発手法3.1 主な特徴 以下、本開発手法の特徴について述べる。 1 LRFD 法を拡張した、確率論的設計・保全最適化手法である。上記 LRFD 法に基づく確率論的最適化手法であ る。ただし、LRFD 法は元来、設計を最適化する為 の手法である。我々はこれを拡張する事で、設計 及び保全によって、目標とする信頼性を担保する 手法とした。配管溶接部に生じる SCC の発生・進展の影響を考 慮している。配管溶接部に生じる SCC (Stress Corrosion Crack、 応力腐食割れ)は原子力分野における重要な経年 劣化事象である。 - 本開発手法は、供用期間において配管溶接部に 生じる SCC の発生・進展が設備信頼性に与える影 響を考慮している。SCC に対して行う、検査や保修といった保全行為 の効果を考慮している。実際の原子力プラントでは、経年劣化事象に対 して様々な形で保全行為を行い、設備の健全性、 安全性を確保している。配管系に生じる SCC につ いても同様であり、ECT や UT といった非破壊検 査手法により、その発生及び進展状況を把握して いる。また、検出された SCC については、ある基 準を超えて進展した場合でも、配管取換等を行う 事により、配管系全体としては、引き続き使用し ていく事が可能である。そこで、本開発手法では、定期検査をモデル化 しシミュレートする事で、SCC が設備信頼性に与 える影響に、定期検査及び保修がどのような効果 をもたらすかを評価している。@ GA (Genetic Algorithms、遺伝的アルゴリズム)によって複数配管よりなる配管系についての信頼性 や、検査・保修・製造コスト、機能喪失時のリス クに関する最適化を行う。複数の配管よりなる配管系において、それらの 使用環境等が一様で無い場合には、ある配管はその他の配管と比して安全裕度が大きくないといっ た具合に、配管系全体から見た保全上の重要部位 が生じる。例えば大きな内圧の係る部位には、(相 対的に製造コストの高い)肉厚の大きな配管を使 用する必要がある。また、配管自体が同程度の信 頼性を持つ場合であっても、より重要な系統に属 する配管の方に、設計・保全のリソースを投入す る事が望ましい。この様に、使用環境や重要度が 一様でない配管系における信頼性及び製造コスト のバランス問題に対して、GA を用いた最適化を行う。その際、最適化目標としては、以下の3種類の いずれかを選択出来る。a) 機能損失確率を目標値以下に抑えつつ、(製造 コスト+検査コスト+保修コスト)を最小化する。 b) (製造コスト+検査コスト+保修コスト)を目標 値以下に抑えつつ、機能損失確率を最小化する。 c) 機能損失をコストに換算し、上記コストにリス クとして追加した総コストを最小化する。最適化パラメータは、それぞれの配管における「厚 さ」及び「検査周期」である。5 SCC 発生時期に関しては、ベイズ更新モデルを 適用する事で、蓄積されたフィールドデータから の確率分布推定を模擬している。本手法において特に重要なパラメータである SCC 発生時期に関しては、知見が十分でない場合 に於いても、その時々での知見に基づいた分析を 行う事を想定している。フィールドデータの蓄積 に伴って、想定する確率分布が真の分布に近づく 事で、より高い最適化効果が得られる様になる。3.2 分析フロー 本開発手法の分析フローを Fig.2 に示す。 (1) SCC 発生・進展評価SCC は材料、環境、及び残留応力に関する3条件が 揃った場合に発生する事が知られているが、これらの 要素にはそれぞれバラつきが有る為、SCC 発生時期は 確率分布を持つ事になる。確率分布としては、Weibull 分布を想定する。運転 時刻t において SCC が発生している確率W() は式(1)1900/04/29で与えられる。SCC発生・進展評価FAITSCCに対する 検査と保修の効果を評価wwTorrenersetLRFD法による 配管破損確率算出遺伝的アルゴリズムによる 破損確率及びコストの適正化RoomsoeroneSEEAMAMASAGASMILARGERASIANIMAGmentstriesFig.2 Flow of developed method foroptimization of piping systemW()=1-exp式(1)中のパラメータm 及び Bについては、後述 の様に、プラント運転中において SCC 検査結果を 蓄積し、知見を更新していくモデルを採用している。SCC の進展については、日本機械学会維持規格 を参考にし、応力拡大係数に基づいて評価する。応 力拡大係数の算出は、与えられた荷重曲げモーメン トや熱膨張応力等に基づいており、またそのバラっ きについては ASME の報告書?!を参考に設定した 数値を用いている。(2)SCC に対する検査と保修の効果を評価配管系の保全手法としては、時間計画保全 (TBM: Time-Based Maintenance) を考え、配管に対する SCC 検査は、13 カ月毎(或いは 18 カ月毎)に実施される 定期事業者検査の期間中に実施する事を想定する。 従って SCC 検査の実施間隔は、数定検に一度という 形で表現する事とする。SCC検査については、検出確率(POD:Probability Of Detection)を考慮する。これは検査時の SCC 深さの関 数として与えられ、検査員の技量を表すものである。 さらに SCC発見時の深さサイジング能力についても 誤差の形でその影響を考慮する事としている。* 検査の結果、SCC が発見された場合には、予め定める 基準値と比較して、保修あるいは進展管理のいずれかが 選択される。進展管理に際しては進展速度が考慮され、 次回検査時までに基準値を超えてしまうと判断される 場合には、やはり保修の対象となる。(3)LRFD 法による配管破損確率算出LRFD 法は元来、設計の為の手法であるが、我々は これを拡張し、保全の効果を取り入れた。具体的には、 SCC の進展の程度を配管肉厚の減少と類似の効果とし て考慮する。例えば、SCC の検査頻度が高ければ SCC が発生した 場合でも早期に検出・保修される可能性が高くなり、 SCC による配管強度の減少はあまり深刻にならない。 逆に、検査頻度が低ければ、SCC の進展による配管強 度の減少をある程度見込む必要が生じる。この様に、検査の頻度や検出確率等を含めて、SCC の進展の程度を確率評価し、設計パラメータの一部と して取り込む。LRFD 法では、与えた設計パラメータに対する破損 確率が算出される。設計パラメータを変化させつつ評 価する事で、目標とする信頼性を担保する為の設計条 件を求める事が出来る。開発手法における数値計算手 法としては、反復処理を行う Rackwitz-Fiessler アルゴリ ズムを実装している。(4)遺伝的アルゴリズムによる破損確率及びコストの 適正化 本開発手法は最終的には、前述した最適化目標を満 足する設計・保全のパラメータを求めるものである。 最適化パラメータの数は、対象を N 本の配管とした場 合、それぞれの配管に対して厚さ・検査周期の 2 パラ メータが有り、システム全体では計2N 個となる。配管はJIS(日本工業規格)に準拠した規格品を用い る事としており、厚さを変化させる場合、外径によっ て定められた数種類の厚さから選択する事になる。そ のため、検査周期だけでは無く厚さもまた、離散化さ れた値を取る。この2N 個のパラメータの離散化された最適化問題 を解くため、数値計算においては遺伝的アルゴリズム を適用し、予め与えた最適化目標を満足する、配管の 厚さ及び検査周期の組が求められる。この際、各配管 の使用環境や相対的な重要度が考慮される。1900/04/303.3 フィールドデータに基づくベイズ更新 * 本開発手法においては、SCC の発生と進展を取り扱っ ているが、SCC の発生時期に関しては、使用環境等への 依存性が大きく、実際の現場への適用を考えた場合、確 率分布が既知である事を前提とする事は出来ない。それにも関わらず、本開発手法の最適化の結果に大き な影響を持つ事から、SCC の発生時期に関しては、ベイ ズ統計の適用を模擬出来る手法としている。想定するシナリオは、プラントの稼働に伴って得られ るSCC検査結果をデータベースとして蓄積し、ベイズ更 新を適用する事で、SCC 発生時期に関する確率密度分布 をより確からしいものに近づけ、保全(及び次期設計) の最適化効果を高めていくというものである(Fig.3)。検査結果を 検査計画にフィードバック/プラント稼働配管系の設計SCCENT検査結果を 設計にフィードバックベイス更新による 「ScC発生時期の見直し、徐資結果 デ ータベースの特Fig.3 Strategy of optimization of design and maintenancebased on the database of SCC inspection resultsある事象が生起する頻度としての確率を、主観によら ない客観確率として捉えたとき、ある命題のもっともら しさ、あるいはその根拠となる信念・信頼の度合いを表 す数値としての確率を主観確率と呼ぶ。ベイズ確率とは、 客観確率に主観確率をも含めた広義の確率の事である。頻度主義では不確かさはランダム性にのみ基づく。こ れに対してベイズ主義では情報が不足していることにも 基づく。従ってプラントの運転等に伴って、SCC 検査結 果に関する情報が蓄積されると、ベイズ確率としての SCC 発生時期の分布は変化していく。情報取得前の確率分布を事前確率分布、取得後の確率 分布を事後確率分布といい、確率分布の更新はベイズの 定理に従う。 2つの事象 A,Bがある時、Pr BA - Pr{An B} _ Pr{B}. Pr{A B}Pr{A}_ Pr{B}.Pr{ A | B} + Pr{B}.Pr{A] B)
“ “確率論を利用した複数配管の保全・設計最適化手法の開発“ “高瀬 健太郎,Kentaro TAKASE,江浪 久,Hisashi ENAMI,角皆 学,Manabu TSUNOKAI
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