電磁診断技術によるすべり軸受摩耗量評価手法の研究

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カテゴリ: 第9回
1.緒言
一般的な化学プラントにおける主要な回転機として、 キャンドモーターポンプが存在する。キャンドモータ ーポンプはメカニカルシール等の軸封部がなく移送す る液体の漏洩が少ないことが特徴である。キャンドモ ーターポンプの不具合としては、インペラー・シャフ トに関するものも報告されているが、主な不具合事象 はすべり軸受の径方向・軸方向摩耗である。 * 現在、キャンドモーターポンプの設備診断には、振 動診断等による監視が実施されている。しかし、測定 されたデータには精度と異常箇所の特定に関して問題 があることに加えて、機器の使用期間の限界値の判断 が困難であること、不具合の原因が特定できないこと、 トラブルが必ずしも検知できていないこと、等の問題 が指摘されている。本研究はこれらの課題に対し、回転機器の異常検知 に優れた電磁診断技術(13-40を適用することで解決する ことを目的とする。電磁診断技術は、インペラの羽根 を測定することで、すべり軸受の摩耗量を間接的に推 定できることが示されている)。この成果を踏まえ本 研究では、すべり軸受劣化模擬試験を行い、すべり軸連絡先:萱田 良、〒110-0008 東京都台東区池之端 2-7-17、株式会社 IIU、電話: 03-5814-5350、 e-mail: kayata@iiu.co.jp受の劣化の進展と電磁信号との関係のデータを取得し、 すべり軸受の劣化と信号との関係を明確化する。この 際、摩耗量の推定手法として、69で用いられた「距離 法」とともに、軸方向摩耗と径方向摩耗を分離し評価 する手法を開発し適用した。
2. 電磁診断技術の原理
11電磁センサは、永久磁石等の静磁場印加部とコイル 等の変動磁場検出部よりなる。静磁場の中を導体が通 過したとき、誘導起電力が生じ発生する渦電流を捉え る(図1)。原理・UXB本で原理者情報ピックアップコイルU:回転まの回転速度,日中を具体が回転に ・動や次修による誘電流の変化導けに導起電力が生し、為電流が誘導される、 センサです 。図1 電磁診断技術の測定原理15,
3. すべり軸受劣化模擬試験 3.1 試験環境
図2に試験に使用したキャンドモーターポンプを示 す。試験用キャンドモーターポンプのインペラ及びイ ンペラ部の材質は SUS304 である。測定に使用した電 磁センサは小30mm×20mm のネオジム磁石と 500 ター ンのコイルからなり、インペラケーシング軸方向に設 置した(図3)。ジャー図2 キャンドモーターポンプ(HN21BJA3C)図3 電磁センサ3.2 信号処理手法(距離法) - 滑り軸受は不導体であり回転もしないため、直接電 磁診断の測定対象にはならない。そこでインペラを測 定することにより間接的に軸受の摩耗を評価する。 * 電磁センサの磁場がインペラに届きやすい環境では、 羽根1枚1枚に対応した信号が得られる(図4)。次に、 得られた信号から羽根ごとのピーク値を成分にもつべ クトルを作り、基準ベクトル(初期値、正常時)とのユークリッド距離を評価する(「距離法」)。この手法は、 羽根がセンサに近づけばピーク値が大きくなり、遠ざ かれば小さくなるという原理に基づいた手法である。Amplitude (V)......13....・ 6日401540204.0254.0340354040Time (s)図4 インペラ羽根電磁信号(例、羽根8枚)図4 インペラ羽根電磁信号(例、羽根8枚)3.3 試験結果すべり軸受の不具合事象は主に軸方向摩耗と径方向 摩耗である。すべり軸受の軸方向の劣化を模擬するに は、運転時間の経過と共に軸と軸受の軸方向の接触面 の位置を変化させる必要がある。接触面の位置を変化 させる方法として、軸受側の軸方向部品にベークライ トを用いた(図5)。実機キャンドモーターポンプに使 用されている素材の PTFE(フッ素樹脂)と比較して、 ベークライトは吸水性が高く、ポンプの運転中に吸水 し寸法が変化し易い。| PTFE | | ベークライトがクッこなっ図5 すべり軸受とベークライト16- 径方向の劣化を模擬する為、図6に示すように径方 向部品(軸側)の表面にスリット加工を施し、径方向 シートを耐摩耗性の高いフッ素樹脂(PTFE)から耐摩 耗性の低い塩ビシートに変更した。軸受側シートスリット加工(曲側部品)図6 径方向摩耗の模擬- 表1にすべり軸受摩耗模擬試験の試験条件を図 7 図9に各試験条件の距離法による分析結果を示す。表1 試験条件 | @ 正常時(PTFE)軸方向摩耗模擬 (ベークライトを試験中に吸水させ、運転中 に厚さが変化 5.00mm→5.15mm) 径方向摩耗模擬 (塩ビシート、スリット加工) 軸方向摩耗+径方向摩耗模擬 (ベークライト、塩ビシート、スリット加工)「正常時 (試験条件1) において羽根信号極大値 Norm は初期値からほとんど変化していないため、軸方向の 接触面の位置の変化も無いと推察される。試験条件2及び試験条件1において、羽根信号極大 値 Norm は初期値から徐々に減少しており、電磁セン サとインペラとの距離が遠くなっていると推察される。 試験前は厚さが 5.00mm だったベークライトが試験後 にはそれぞれ 5.15mm(試験条件2)、5.12mm(試験条 件4)になっており、この厚さの変化により軸方向の 接触面の位置が変化しているものと考えられる。した がって、すべり軸受の軸方向摩耗に関して、従来の評 価法である羽根信号のピーク値を用いた距離法により 評価が可能であると言える。一方、試験条件3において、羽根信号の極大値を用 いた距離法により評価した結果、試験後の塩ビシート0.1正常時(PTFE)ベークライト羽良信号極大値Normの初期値からの変化010002000・2000500060003000 Time(min)図7 距離法による分析結果(軸方向摩耗模擬)0.1| 正常時(PTFE)羽信号極大値Normの初期値からの変化-0.1塩ビシート-0.15-0.2+----0.26-+------0.30-LenormateriTH 10100020003000400050006000700000000000 10000Time(min)図8 距離法による分析結果(径方向摩耗模擬)------ 正常時(PTFE)羽根信号極大値Normの初期値からの変化14--ベークライト+塩ビシート10002000400050003000 Time(min)図9 距離法による分析結果 (軸方向摩耗+径方向摩耗模擬)BCOO17羽根信号極大値Normの変化軸受の軸方向 摩耗量に対応■■時間軸方向摩耗により インペラが軸方向に変位図 10 距離法の概略図正規化した各羽根信号の変化B軸受の径方向 摩耗量に対応羽A時間 1回転する間に軸が振れることにより、羽根 AIはセンサから遠ざかり、 羽根BIはセンサに近づく。図 11 軸方向摩耗と径方向摩耗を分離し径方向摩耗を評価する手法の概略図の一部が 0.45mm 摩耗していたが、羽根信号極大値 Norm の初期値からの変化は±0.05V 程度であり、正常 時と比較しても変化が小さく、インペラ位置は軸方向 にはほとんど移動していないと推察され、距離法によ る径方向摩耗の評価は難しい。また、試験条件のの場 合も試験後の塩ビシートは一様に 0.46mm 摩耗してい たが、信号の変化が軸方向摩耗によるものか、径方向 摩耗によるものかの判別が困難である。3.4 摩耗方向分離評価手法の開発 - 以上の結果から、インペラ羽根信号の極大値を用い た距離法は単純な軸方向の摩耗に対しては非常に有用 であるが、径方向摩耗の評価は困難である。そこで、 一つの電磁信号から軸方向摩耗と径方向摩耗を分離し 径方向摩耗を評価する手法を新たに開発した。軸方向摩耗の場合(インペラが軸方向移動のみの場 合)、電磁センサとインペラとの距離に応じて、各羽根 信号の大きさが変化する(図 10)。その場合、全ての羽根信号が一様に小さくなり、各羽根信号の比(正規 化羽根信号)はほぼ一定である。 - 径方向摩耗のみの場合、極大値 norm の変化は小さく、 電磁センサとインペラとの距離はあまり変化していな いと考えられる。しかし、各羽根信号の比(正規化羽 根信号)が軸方向摩耗のみの場合と比較して大きく変 化することが分かった(図 11)。 - これらの各羽根信号の比(正規化羽根信号)の違い は、すべり軸受の径方向摩耗によるインペラの傾きの 変化を示していると考えられ、一つの電磁信号から軸 方向摩耗と径方向摩耗を区別出来ると考えられる。図 12~図 14 に各試験条件の摩耗方向分離評価手法 による分析結果を示す。 径方向摩耗の無い場合(試験条件の及び試験条件2)、 正規化羽根信号の初期値からの変化は± 0.002~ + 0.003 で非常に小さい。これは軸とすべり軸受の接触面 の遊びに対応する値であると考えられる。180.02070.015----+--mm.ベークライトt正規化羽根管号の初期値からの変化すがいい正常時(PTFE)10002000TIT3000 Time(min)44000図12 摩耗方向分離評価手法による分析結果(軸方向摩耗模擬)0.02+...正常時(PTFE)塩ビシート トチャーごーーーーになったそPa23おつまり、正規化日本信号の初期値からの変化-0.02一 100020003000400060006000 7000000000 10000Time min)図13 摩耗方向分離評価手法による分析結果(径方向摩耗模擬)0.020T正常時(PTFE)正規化羽根信号の初期値からの変化インストライカット---ークライト+塩ビシート---1100020004000500060003000 1 Time(min)図14 摩耗方向分離評価手法による分析結果(軸方向摩耗模擬)一方、径方向摩耗が有る場合(試験条件3及び試験 条件4)、正規化羽根信号の初期値からの変化は正常時 や軸方向摩耗のみ場合と比較して大きい値を示してい る。また、試験開始から時間の経過と共に値も大きく なる傾向があり、径方向摩耗の進展によりインペラの 傾きが大きくなっていると推察される。したがって、 摩耗方向分離評価手法を用いて正規化羽根信号の初期 値からの変化を分析することで径方向摩耗のみの検出 が可能となり、摩耗の進展も評価できる可能性が示さ れた。 ・ 次に、径方向摩耗の検知精度について、正常時の正 規化羽根信号の初期値からの変化が正規分布すると仮 定した場合、正常時のデータから 30 (99.74%)は 0.00148 となる。試験条件3について、摩耗 0.45mm が 正規化羽根信号の初期値からの変化 0.01 相当すると考 え径方向の摩耗検出精度を算出すると、検出精度 0.067mm となり、メーカーの交換基準値である 0.2mm より十分に小さく、実機適用に向けて十分な精度であ ると言える。4. まとめ本研究ではすべり軸受劣化模擬試験を行い、すべり 軸受の劣化の進展と電磁信号との関係のデータを取得 し、すべり軸受の劣化と信号との関係を調査した。そ の結果を以下に纏める。 ● 軸方向摩耗に関して、羽根信号のピーク値を用いた距離法により評価が可能であることが分か った。 径方向摩耗に関して、正規化羽根信号の初期値 からの変化を分析することで径方向摩耗のみの 検出が可能となり、摩耗の進展も評価できる可 能性が示された。 測定方法に関して、距離法により径方向摩耗を 評価する場合には異なる二つの方向から同時に 測定する必要があったが、正規化羽根信号の初 期値からの変化を分析することで一方向からの 測定だけで簡易に評価が可能となった。 今回の径方向摩耗試験では、試験後の塩ビシー トが 0.5mm 程度摩耗していることと、その際に 正規化羽根信号の初期値からの変化が 0.01~ 0.02 の間で変動することが分かったが、正規化 羽根信号の初期値からの変化の値と径方向摩耗199量との関係が不明確であり、今後も調査が必要 である。参考文献 [1]黄皓宇、宮健三、遊佐訓孝、小阪大吾、回転体異常の電磁検出、日本非破壊検査協会第 10回表面探傷 シンポジウム、東京都城南地域中小企業振興センター、2007/01/2526. [2] Daigo Kosaka, Haoyu Huang, Noritaka Yusa andKenzo Miya. Electromagnetic nondestructive evaluation of rotatingblades. Science andTechnology of Maintenance (Under review). [3] 萱田良、黄皓宇、遊佐訓孝、電磁診断技術による異物混入ベアリングの挙動測定、日本保全学会 第5回学術講演会 水戸市民会館 2008/7/10-12、産学-7. [4] 萱田良、石川達也、堀内隆夫、真木紘一、遊佐訓孝、ポンプ軸受及びインペラの不具合の大きさと 電磁診断技術の信号との相関関係、日本保全学会 第6回学術講演会 ホテルニューオータニ札幌2009/8/3-5、A-4-3. [5] S. PERRIN, S. MAWATARI, R. KAYATA, K.MAKI and K. MIYA. “Characterization of Wear-Out of Friction Bearings with an Electromagnetic Sensor”, ISEM 2009,September 20-24, 2009. [6] 菅田良、三好剛正、藤原英起、ペラン ステファン、ポンプ軸受の不具合の大きさと電磁診断技術の信 号との相関関係、日本保全学会 第7回学術講演 会 御前崎市民会館、浜岡原子力館 2010/7/13-15、A-2-12.20“ “電磁診断技術によるすべり軸受摩耗量評価手法の研究“ “萱田 良,Ryo KAYATA,馬渡 慎吾,Shingo MAWATARI,ペラン ステファン,Stephane PERRIN,角皆 学,Manabu TSUNOKAI,高瀬 健太郎,Kentaro TAKASE
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