ナトリウム冷却型 FBR 向け摩擦攪拌接合補修装置の開発

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カテゴリ: 第9回
1. 概要
ナトリウム冷却型高速増殖炉(FBR)の炉内補修装置の 実現を目指し、摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding: FSW) を応用してナトリウム中で使用できる補修装置の開発に取り組んでいる。試作したFSW 補修装置を用いてナトリ ウム中試験を実施し、模擬亀裂の補修に成功した。また FSW 補修で問題となるバリやエンドホールに対する取り 組みについても紹介する。
2. ナトリウム中 FSW 補修技術の開発
FSW 技術[1]は、Fig.1 に示すように、FSW 工具を対象 物に押し当て、回転させて摩擦熱で加熱し、対象物を溶 かすことなく固相のまま塑性流動させて(撹拌して)接 合する。この技術を使えばFBR の原子炉を、ナトリウム を抜かずに補修できる可能性がある。ナトリウムを抜か ずに補修できるということは、崩壊熱を発する燃料の一 時退避が不要となり、補修期間の大幅短縮につながる。 本章では、FBR の原子炉内構造物をナトリウム中で補修 する方法の実証を目指して実施した、1 最適な FSW エ 具の開発、2 最適な施工条件の抽出、3 ナトリウム中 での原理確認について紹介する。*1) 〒652-8585 兵庫県 神戸市 兵庫区 和田崎町 1-1-1、新型炉プラント設計課、E-mail: jungo katoramhi.co.jp *2) 2012年6月現在は日本原子力研究開発機構TravelPlunging down forceFSW ToolspeedsCrackRotationspeedsTool depth Fig.1 Principal of repair with FSW method 2.1 FBR の補修対象部位 最初に補修対象である FBR の原子炉について述べる。材質はステンレス鋼であり、FSW 開発の初期に接合対 象とされたアルミなどの軽金属よりも硬い。そのため FSW 工具には耐磨耗性の優れたものが必要となる。補修部位はFig.2に示すように原子炉容器や炉心支持構 造が考えられる。前者はナトリウム液位を下げて、補修 箇所をカバーガス中に露出させる余地があるが、後者は 燃料よりも下であるため、燃料退避しない場合は約 200°C のナトリウム中で補修することとなる。また補修装置は 炉上部からアームを長く伸ばしてアクセスするため、 FBR の燃料交換機の駆動力を参考に、FSW 施工荷重は最 大30kN 程度に設定した。 - 補修対象亀裂のサイズは幅0.5mm、深さはその10倍の 5mm とした。ナトリウム炉内では腐食よりも、クリープ157疲労などによる破損モードが想定される。クリープ疲労 による亀裂発生は設計段階で十分な余裕を持って防止で きるが、万一の場合として想定する。このことは FBR 実 用化に向けた炉内検査技術の開発[2]ともリンクする。開 発中のナトリウム中目視センサは0.3mm 程度の解像度を 目標としており、幅0.5mm の亀裂を発見できるとして上 記サイズを設定した。Assumed positionsIn-vessel Repairing MachineReactor VesselSodium CoolantCore Support StructureFSW-machine HeadCore (Fuel Assemblies) Fig.2 Assumed repairing positions2.2 最適なFSW 工具の開発 - ステンレス鋼の補修に適用するため、FSW 工具の材質 は鋼用 FSW 工具材として豊富な研究実績を有している 立方晶窒化ホウ素(PCBN) 材を採用した。PCBN は而摩 耗性に優れ、難削材の高速切削工具に用いられ、また化 学反応性に富むナトリウム中でも安定している。 * 最適化された FSW 工具の形状を Fig.3 に示す。図中の 黒い部品が PCBN であり、面取り加工がされたピン部と スクリュー溝を設けたショルダー部からなる。ピン部は FSW 工具を施工部に差し込む(突入させる)際に、施工 部を速やかに加熱し軟化させ、工具自身の破損を防止す るとともに、亀裂の底に到達して撹拌接合させる働きが ある。ショルダー部は摩擦加熱域を拡大し、接合方向に 軟化域を拡げて連続的な接合を可能にさせる働きがある。23.5mmScrewed Shoulderこのおおき9mm16mm Chamfered Pin Fig.3 Appearance of the optimized FSW toolPCBN 部の直径(24mm)やピン部の長さ(6mm)および スクリュー溝などの形状は、約30種類の試作工具より比較選定した。選定はの深さ 5mm以上の撹拌ができること 2十分な発熱があり内部欠陥が発生しないこと3工具の 摩耗が少なく折損が生じないこと、などの視点で行なっ た。 2.3 最適な施工条件の抽出30kN 前後の施工荷重で深さ 5mm の亀裂を無欠陥で補 修するための施工条件を抽出した。FSW 工具の回転数、 施工速度、施工荷重をパラメータに大気中での比較試験 を実施した。Fig.4 に施工荷重30KN と 35kNの結果を示す。 工具回転数に応じて、適度な施工速度であれば 30kN の施 工荷重で無欠陥補修でき、母材と同等の接合強度が得ら れることが判った[31。また施工速度を更に下げると共に 工具回転数を増加させれば施工荷重 30kN 以下でも補修 できることが示された。尚、工具回転数が高く、施工速 度が小さ過ぎると施工部が過熱し、FSW 工具が空回りし て撹拌不良が生じることも判った。これらのデータがナ トリウム中での施工条件に役立てられた。1*result -- 2““ result -A 0O 4: No defect: A small defect in the start position *: A tunnel type defectXRotation speed (minx XRotation speeds minOHXTravel speeds immimin] at Plunging townforce 30KNTravel speeds [mminin! at Plunging downforce 35kNFig.4 Results of FSW tests また原子炉内で亀裂発生確率が高いと想定される溶接 工作部に着目して、熱影響部及び溶金部近傍に気中で FSW 施工を実施し、施工条件に違いがないことを確認し た。更に、炉内機器の表面は曲面である場合が多いので、 曲面に対して直線運動で施工可能な長さを評価した。 Fig.5 に示すように-0.5~48 度の傾きで施工できることが 判り、仮に対象部位が直径 5mの曲率であれば 370mm程 度の施工ができる。-0.5 ><><8Fig.5 FSW on curved surface1582.4 ナトリウム中での原理確認FSW 施工によって亀裂内にナトリウムが残留すること なく無欠陥で補修できることを確認するため、Arガスを 充填したグローブボックス内にナトリウムポットを設置 し、ナトリウム中 FSW 試験を行った。Fig.6 に試験体系 を示す。EH-PumpFSW ToolTest PlaceFlow MeterDren TakSodium FlowtrapSodlumn PatGlave BaxFig.6In-Sodium Test Facilitiesステンレス製の試験片には幅0.5mm、深さ 5mm、長さ 60mm の模擬欠陥(スリット)を加工し、事前にナトリ ウムを充填した。ナトリウムによる潤滑効果及び放熱効果を考慮して、 気中での施工条件に対して工具回転数の増加及び施工速 度の低速化を図りながら、無欠陥補修できる施工条件を 見出した。Fig.7 に施工条件範囲を示す。工具回転数を 480min'に増やし、施工速度を 10mm/min以下に抑えるこ とで、ナトリウム中でも無欠陥でFSW 施工するだけの発 熱が得られることが判った。Rotation speeds[min““]Sna codificini Archas130,240ming'.7.5mmiginen#OPOD1011 Cat024681012181618 120Travel speeds[mm/min]Fig.7Results of in-sodium testFig.8 に代表的な施工部の外観、放射線探傷画像および 金相断面を示す。金相断面からナトリウムの残留がない ことが確認された。またFSW 施工部位から引張試験を採 取して、FBRの40年運転に相当する熱時効を与えた結果、 引張強度は母材と同等以上であることを確認した。更にナトリウム浸漬試験を実施し、酸素濃度 10ppm、 ナトリウム温度 500°Cで1800 時間に渡る腐食試験でステ ンレス母材と耐腐食性に差がないことを確認した。以上から FSW がナトリウム中の炉内補修技術として 有望であることが確認された。Pochon d the repairedルムにこにールド)1050のプーン・10100、110 2012RT result Fig.8 Appearance and cross sectionof the FSWed weld3. ナトリウム中 FSW 補修装置の開発1 本章では炉内補修装置の実現に向けて実施した、1 FSW 補修後のバリ等の解決、2 ナトリウム中で使用で きる撹拌機構部の開発について紹介する。 3.1 FSW 補修後のバリ等の解決Fig.8 にも示したように FSW 施工では施工部にバリや FSW 工具を引き抜いた後にくぼみエンドホール)が残る。 Fig.9にバリとエンドホールの典型的な大きさを示す。BurrEnd-Hole10mm ホワイト介している人とAI6mmA-Across section Fig.9 Typical size of the burr and the end-holeバリは原子炉内に浮遊して炉内機器を傷つけ、機能を 劣化させる懸念があり、エンドホールは構造物本来の板 厚が低減する分だけ強度を低下させる。バリは、FSW 工具が補修部にめり込み過ぎることが主 要因である。そこで母材へのめり込みが抑制されるよう Fig.10 に示すようにFSW工具のショルダー径を大きくす ることでバリの発生を抑制した。23.5mm30mmReference FSW ToolImproved FSW ToolFSW Tool|FSW ToolStartTraveling Zone Start Traveling Zone Fig.10 Result of burr reduction159- Fig.10 に示したように FSW 工具の改善によってバリの 大きさは 6.5mm から 3mm 以下へ半減したが、依然とし て始端部には大きなバリが発生している。そこでバリを 切削するため、FSW 工具の周囲に切削刃を設置し、FSW 工具の回転力の一部を利用する切削機構を開発した。 Fig.11 にバリの切削機構を示す。Cutting tool FSW ToolRoller followersFig.11 Deburr mechanism切削刃にはナトリウムとの共存性を考慮し、チタン膜 コーティング超硬材を採用した。また切削刃が施工面よ り僅かに深く切り込めるように切削機構の四隅にローラ フォロアーを設け、皿バネによって一定荷重で密着でき るようにした。バリ切削機構によるバリ除去状況を Fig.12 に示す。MOUSE REMINAWEI SeesawapapesBefore DeburrAfter Deburr Fig.12 Effects of deburr mechanism切削したバリを回収するため、バリの飛散過程を観察 して、Fig.13 に示すように切削刃の周囲および上部にバリ 回収スペースを設けた。Upper Correct AreaFSW Tool Surrounding Correct AreaFig.13 Burr correct areas気中と水中で回収したバリの回収状況をFig.14に示す。 水中およびナトリウム中では切削刃の回転によって生じた旋回流でほとんどのバリが上部の回収スペースへ導か れる。そのためFSW 工具周辺の隙間からのバリの漏れが 減り、気中よりも 30%回収率が向上することが確認され た。またバリを漏れなく回収できるように回転部とバリ 回収構造の隙間を調整することで、ほぼ100%のバリを回 収できる見通しが得られた(Fig.15)。Upper Correct AreaSurrounding CorrectAreaBurrsIn WaterBurrsAugustIn GasBurrsBumsFig.14 Results of burr correcting testw In Gas 17 Almost 100% In Sodium*-- 30%upCollect Ratio[%]3.5 2.5 1.50.5 Gap between FSW Tool and SurroundingCollect Area [mm] Fig. 15 Burr correct ratio次にエンドホール対策について述べる。 Fig.16 は FSW 施工部の終端に残るエンドホールの形状を模擬した試験 板の断面である。6mmEdgesFig. 16 Mock of end-hole160エンドホールの形状は Fig.16 に示すように複数のエッ ジを有しているため、エッジを均す「穴ならし」とFSW と類似の施工技術である摩擦圧接による「穴埋め」の2 つのプロセスを組み合わせた。穴ならしと穴埋めの組み合わせでエンドホールを解消 する概念を Fig.17 に示す。穴ならしでは、PCBN 製で半 球ドーム状の先端部を有する穴ならし工具を用いてエン ドホールを半球状の穴に均す。次に施工部と同じステン レス製で半球ドーム状の先端部を有する穴埋め工具を用 いて摩擦圧接で工具先端をエンドホールに接合する。Forming ToolFilling ToolFig.17 Combination of forming and filling processes開発した穴ならし工具を Fig.18 に、穴埋め工具を Fig.19 に示す。穴ならし工具は先端の半球部の曲率半径を 15mm とし、溝を付けることで深さ 6mm のエンドホールの底面 を均せることができた。穴埋め工具も半球部の曲率半径 は 15mm とし、摩擦圧接に必要な摩擦熱が工具軸側に逃 げないように断熱性を高める等の工夫をした。10064Fig.18Forming toolR15Fig.19 Filling tool Fig.20 に穴埋め後の施工部断面を示す。半球状に均され た面は母材と同等の強度で接合した。また母材表面より 3.7mm 程度の深さに、工具脱離を示す内部界面が生じた。 このことは穴埋めプロセスの終了時に、穴埋め工具を施 工部から容易に脱離できることを示す。一方で、深さ6mm のエンドホールを 2mm 程度埋め戻すに留まることから、エンドホールを完全に埋めるには Fig.17 のプロセスを3 回程度繰り返す必要があることが判った。Inner Surface3.7mmFormed Surface Fig.20 Cross section of filled end-hole3.2 ナトリウム中で使用できる撹拌機構部の開発 - FBR 実用炉を想定した炉内補修装置の概念を Fig.21 に 示す。炉内補修装置は長尺の多関節アームの先端に撹拌 機構を有する FSW ヘッド部を装備することとなる。9mRoof deckVertical 11 movement、Neutron shieldReactor VesselRotation >Horizontal support18mCore barrel5mええたら、MOMATilting 1Core support structure\ESW.machine-headFig.21 Concept of the in-vessel repairing machine 多関節アームに関しては、FBR 実用炉の寸法・形状・ 補修対象部位に適した開発が必要である。そこで本研究 では炉の大きさや補修部位によらず、常に必要となる FSW ヘッド部を対象に開発を行なった。FSW ヘッド部は 補修対象と直接接する部分であり、FSW 工具、工具モー タ等を含む。ナトリウム中での FSW 施工条件を踏まえて、 FSW ヘッド部の主要な設計要求を Table1 に示す。Table 1 Design spec. ItemSpec. Plunging down force Max. 30 KN Rotation speeds Max. 1200 min Rotation torqueMax. 100 N-m Operating temp. 200 degreec Environmentsodium1900/06/09工具回転数は補修部へ FSW 工具を差し込む際に十分 な発熱が得られるよう最大値を 1200min' としている。 FSW ヘッド部は 200°Cのナトリウム中環境に置かれるた め、軸受、軸シール、直動機構、ボールねじなどの機械 要素は耐熱性とナトリウム共存性に配慮して材質選定し た。また高温モータは FSW 施工に十分なトルクを確保す る観点からモータ素線の耐熱化、絶縁強化を行なった。 Fig.22 に FSW ヘッド部の試作機を示す。FSW ヘッド部の サイズは直径 600mm 以下とし、可能な限り小型化した。E111出ま-Tool MotorlRod Sealmiwarewwwwwwww.morrowaaaaaaawasassivenwakusoursuwa1980Bearing, Liner Guide, Ball Screw, etc.avantsukawa.esternstadidaKawas:トランTest PieceFSW ToolFig.22 FSW machine-head test facility200°Cの高温ガス中で動作確認した後に、三菱重工業が 所有する多目的ナトリウム試験ループへ設置して、幅 0.5mm、深さ 5mm のスリット付きの SUS316L 鋼試験片 をナトリウム中で FSW 補修した。13 回におよぶ施工結 果からFig.7で示した施工条件範囲で無欠陥補修できることを確認した。また装置に焼付きや過大摩耗は発生せず、 FSW に支障のない構造であることが確認された。4. まとめナトリウム冷却型 FBR の炉内補修技術として FSW が 適用可能であることが確認された。最適なFSW 工具や施 工条件を抽出し、バリやエンドホールといった FSW 特有 の課題解決策の研究を踏まえて、200°Cナトリウム中で使 用可能な FSW ヘッド部を製作し、ナトリウム中で問題な くFSW 補修ができることを確認した。エンドホール対策 のナトリウム中での確認や、炉内補修装置のアーム機構 の開発など、今後の実用化に向けた開発・検証作業は残 っているが、FSW を用いたFBR の炉内補修を実現性のあ る技術選択肢とすることができた。 - 尚、これらの成果は電源開発促進対策特別会計法に基 づく文部科学省からの受託事業として、三菱重工業(株が 実施した平成 18~20 年度「液体金属中で適用可能な摩擦 撹拌接合補修技術の開発」および平成21~23 年度「液体 金属中で適用可能な摩擦撹拌接合補修装置の開発」の研 究で得られたものである。参考文献 [1] 石川 武、藤井 英俊、玄地 一夫、崔 霊、松岡 茂樹、野城 清、“摩擦攪拌接合による薄板オーステナイ ト系ステンレス鋼の継手特性”、溶接学会論文集、Vol.24 (2006)、No.2、p.174-180 [2] 山下卓哉、田川明広「Na 中目視検査用高解像度センサの開発」、原子力学会 2009年秋の大会、 [3] Y. C. Chen, H. Fujii, T. Tsumura et al. , “Friction stirprocessing of 316L stainless steel plate”, Science and Technology of Welding and Joining, Vol.14, 2009,p.197-201. [4] M. Morimoto, J. Katoh, et al. , 'Development of thein-vessel repairing technology with friction stir welding method for FBR”, 2009 International Conference on Fast Reactors and Related Fuel Cycles.(平成24年6月20日)1900/06/10“ “ナトリウム冷却型 FBR 向け摩擦攪拌接合補修装置の開発“ “加藤 潤悟,Jungo KATOH,森本 将明,Masaaki MORIMOTO,篠原 種宏,Tanehiro SHINOHARA,堀 匠,Takumi HORI,渡部 裕二郎,Yujiro WATANABE,藤谷 泰之,Yasuyuki FUJIYA,道下 幸雄,Yukio MICHISHITA,中田 一博,Kazuhiro NAKATA
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