交流励磁による磁束漏洩法を用いた配管減肉評価の基礎検討
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カテゴリ: 第9回
1. 緒言
東日本大震災による伴う福島第一原発事故の影響によ り、反原発・脱原発の声が多く挙がっており、現状では 全原発が運転停止の状態に陥っている。しかし、夏季の 電力供給不足が懸念されており、電力安定供給や地球温 暖化問題を考慮した場合、全原発の運転停止を継続し、 即時の全原発廃止に繋げることは現実的には困難と考え る。一方、新規炉の建設については当面非現実的であり、 現在稼動可能な炉を継続使用することになる。よって、 高経年化した発電プラントの健全性評価についてはこれ まで以上に確実性が要求されることとなる。発電プラン トの高経年化問題のひとつに配管減肉があり、その評価 手法として磁束漏洩法(MFL)の適用性について我々は検 討してきた[1,2], MFL は磁気ヨーク等の磁化器に磁界セ ンサを固定したプローブを走査して減肉を評価すること が一般的である[3]。その場合、励磁に交流を用いると、 位相情報など直流利用時よりも多くの評価パラメータを 用いることができ、評価の高度化が期待される。そこで、 本研究では交流励磁による MFL 手法の基礎的な検討を 行ったので報告する。
2. 実験方法
2.1 磁気ヨーク及び試料Fig. 1 に本研究で用いた磁気ヨークの形状・寸法お よび測定系を示す。磁気ヨークの材質はケイ素鋼板で、 励磁コイルの巻数は 150 ターンとした。磁気ヨークの 中央部には2軸のホールセンサを固定し、試料の励磁 方向と平行及び試料表面に垂直方向の磁界を計測する。 測定試料は 200×200 mm2 の SS400 鋼の板材で厚みは5 mm とした。その中央に減肉を模擬したスリットを設け た。スリットの幅は5mm、スリットの深さは 1, 2 mm と した。 2.2 測定方法 - ホール素子を伴った磁気ヨークは試料上に固定し、 交流電圧を磁気ヨークに巻かれた励磁コイルに印加すった磁気ヨークは試料上に固定し、 ークに巻かれた励磁コイルに印加すExcitation coil150Unit: mm Magnetic yoke Fe-Si steelscan801B..r%3D0.5www.asonHTHall sensorSpecimenFig.1 Dimension of magnetic yoke and measurement setup.163Phase differenceAmplitudeVoltage (V)Amplitude -0.5 -....LI10020. 40. 60.81Time (s) Fig.2 Distribution of magnetic flux density for specimen without slit.- 0.05Hz+ 0.5Hz ロー15HZ. -10HzAmplitude of B (V)...!1-30-202030-100_ 10Position .x (mm) (a) Amplitude- - 0.05171 -O-04 |0.5117511z0 ーローPhase difference of B (deg.)-30 -20 -10_0_ 1020 30Position .x (mm)(b) Phase difference Fig.3 Distribution of amplitude and phase difference of Bxfor specimen with slit of 5 mm width, 2 mm depth.ることで試料を励磁し、試料表面の磁界分布を計測す る。印加する電流の振幅は、1.6 A とし、励磁周波数は 0.05 Hz から 10 Hz と変化させた。試料のスリット中 央をx=0、ヨークの移動方向をx 方向とし、試料表面 と垂直方向をz方向とした。磁界はr方向成分 B、およ びz方向成分 B.を計測した。評価では、Fig. 2 に示す ようにホールセンサで得られた信号の振幅及び励磁波 形と信号波形のピーク値間の位相差を用いた。--- 10.05 Hz -O-0.1 114-0.5Hz 10-1Hz本...5HzAmplitude of B (V)-30-2030-10_0_ 1020Position.r(mm) (a) Amplitude11.05Hz -O- 0.1Hz ー+0.58444本カーオーーーー~10Phase difference of B (deg.)-30-20-100_102030Position.x (mm)(b) Phase difference Fig.4 Distribution of amplitude and phase difference ofBrfor specimen with slit of 5 mm width, 2 mm depth.3. 実験結果- Fig. 3 は幅 5 mm, 深さ2 mm のスリットを有する試 料に対して磁界の水平成分 B, の振幅及び位相差の位 置分布を測定した結果を示している。励磁周波数は 0.05 Hz から 10 Hzまで変化させている。振幅において はスリット中央、すなわち、x=0 において強度がピー ク値を取り、励磁周波数が増加するにつれてそのピー ク値の減少が確認された。また、スリットの端部にお いて磁界強度の減少がみられた。一方、位相成分につ いては、0.05 Hzから0.5 Hz の低周波では変化はみら れないが、1Hz以上の高周波においてはスリットを有 する付近で大きな変化が確認された。また、周波数が 増加するにつれて、その変化領域は狭くシャープな形 状に変化していることがわかる。 - Fig.4は、幅5 mm, 深さ 2 mm のスリットを有する 試料に対して磁界の垂直成分 B. の振幅及び位相の位 置分布を測定した結果を示している。振幅においては いずれの周波数でも2つのピークが確認されており、 これらの位置はスリット端部に対応している。また、 水平成分のときと同様に、周波数の増加に伴って、ピ16410d%3D2mm --o-de da1 mm]-B4-32mas |-- B.d - Imm1404-21mm 10-18d%3D1mm~1Bd=22min To Bl=1 mmap000-9-10w=5mm....Amplitude of B.(V)Phase difference de (deg.)Amplitude of B. (V)Phase difference d0 (deg.)F......1 Hz1 Hz -30 -20w=5 mm20 ~ 300W-10 0_ 10Position.x (mm)““-30-20-10_0_ 10Position.x (mm)20300(a)x-component Bi(b) z-component B: Fig. 5 Distributions of amplitude and phase difference of magnetic flux density for specimen with slit of 5 mm width.(f%3D1 Hz)ーク値の減少がみられる。一方、位相差に関してはい参考文献 ずれの周波数でも変化は確認できなかった。[1] H. Kikuchi, Y. Kurisawa, Y. Kamada, S. Kobayashi, K. Fig. 5は励磁周波数を1 Hz として、幅5mm のスリ Ara, “Feasibility Study of Magnetic Flux Leakage Method ットを有する試料に対して計測を行った結果を示した for Condition Monitoring of Wall Thinning on Tube”, ものである。スリットの深さはd=1, 2 mm とした。 水 International Journal of Applied Electromagnetics and 平成分 BRについては、r = 0におけるピーク強度が、 Mechanics, Vol.33, 2010, pp. 1087- 1094. スリット深さが浅くなると減少する結果を示している。 [2] H. Kikuchi, K. Sato, I. Shimiza, Y. Kanada and S. 位相差についても位相差の最大値の低下、最大値をと Kobayashi, “Feasibility Study of Application of MFL to る位置の間隔が広がるという結果が得られており、ス Monitoring of Wall Thinning under Reinforcing Plates in リット深さの違いが検出できている。一方、垂直成分 Nuclear Power Plants”, IEEE Transactions on Magnetics, B,については、位相差はスリット深さによる違いを検 Vol. 47, 2011, pp.3963-3966. 出できていないが振幅においては、スリット端部にお [3] Y. Zhang, G. Yan, “Detection of Gas Pipe Wall Thickness ける強度がスリット深さに依存していることが明らか Based on Electromagnetic Flux Leakage”, Russian である。Joumal of Nondestructive Testing, Vol. 43, 2007, pp. -以上の結果から、交流励磁により振幅変化、位相情123--132. 報と直流励磁時よりも多くのパラメータ利用が可能で あり、それぞれのパラメータが減肉の位置、寸法に応(平成24年6月21日) じて変化することを確認できた。このことはより高度 な非破壊評価技術の開発繋がるものと期待される。謝辞 本研究の一部は経済産業省原子力安全・保安院の「平成 23 年度高経年化技術評価高度化事業」によるものである。165“ “交流励磁による磁束漏洩法を用いた配管減肉評価の基礎検討“ “菊池 弘昭,Hiroaki KIKUCHI,佐藤 界斗,Kaito SATO,清水 勇,Isamu SHIMIZU
東日本大震災による伴う福島第一原発事故の影響によ り、反原発・脱原発の声が多く挙がっており、現状では 全原発が運転停止の状態に陥っている。しかし、夏季の 電力供給不足が懸念されており、電力安定供給や地球温 暖化問題を考慮した場合、全原発の運転停止を継続し、 即時の全原発廃止に繋げることは現実的には困難と考え る。一方、新規炉の建設については当面非現実的であり、 現在稼動可能な炉を継続使用することになる。よって、 高経年化した発電プラントの健全性評価についてはこれ まで以上に確実性が要求されることとなる。発電プラン トの高経年化問題のひとつに配管減肉があり、その評価 手法として磁束漏洩法(MFL)の適用性について我々は検 討してきた[1,2], MFL は磁気ヨーク等の磁化器に磁界セ ンサを固定したプローブを走査して減肉を評価すること が一般的である[3]。その場合、励磁に交流を用いると、 位相情報など直流利用時よりも多くの評価パラメータを 用いることができ、評価の高度化が期待される。そこで、 本研究では交流励磁による MFL 手法の基礎的な検討を 行ったので報告する。
2. 実験方法
2.1 磁気ヨーク及び試料Fig. 1 に本研究で用いた磁気ヨークの形状・寸法お よび測定系を示す。磁気ヨークの材質はケイ素鋼板で、 励磁コイルの巻数は 150 ターンとした。磁気ヨークの 中央部には2軸のホールセンサを固定し、試料の励磁 方向と平行及び試料表面に垂直方向の磁界を計測する。 測定試料は 200×200 mm2 の SS400 鋼の板材で厚みは5 mm とした。その中央に減肉を模擬したスリットを設け た。スリットの幅は5mm、スリットの深さは 1, 2 mm と した。 2.2 測定方法 - ホール素子を伴った磁気ヨークは試料上に固定し、 交流電圧を磁気ヨークに巻かれた励磁コイルに印加すった磁気ヨークは試料上に固定し、 ークに巻かれた励磁コイルに印加すExcitation coil150Unit: mm Magnetic yoke Fe-Si steelscan801B..r%3D0.5www.asonHTHall sensorSpecimenFig.1 Dimension of magnetic yoke and measurement setup.163Phase differenceAmplitudeVoltage (V)Amplitude -0.5 -....LI10020. 40. 60.81Time (s) Fig.2 Distribution of magnetic flux density for specimen without slit.- 0.05Hz+ 0.5Hz ロー15HZ. -10HzAmplitude of B (V)...!1-30-202030-100_ 10Position .x (mm) (a) Amplitude- - 0.05171 -O-04 |0.5117511z0 ーローPhase difference of B (deg.)-30 -20 -10_0_ 1020 30Position .x (mm)(b) Phase difference Fig.3 Distribution of amplitude and phase difference of Bxfor specimen with slit of 5 mm width, 2 mm depth.ることで試料を励磁し、試料表面の磁界分布を計測す る。印加する電流の振幅は、1.6 A とし、励磁周波数は 0.05 Hz から 10 Hz と変化させた。試料のスリット中 央をx=0、ヨークの移動方向をx 方向とし、試料表面 と垂直方向をz方向とした。磁界はr方向成分 B、およ びz方向成分 B.を計測した。評価では、Fig. 2 に示す ようにホールセンサで得られた信号の振幅及び励磁波 形と信号波形のピーク値間の位相差を用いた。--- 10.05 Hz -O-0.1 114-0.5Hz 10-1Hz本...5HzAmplitude of B (V)-30-2030-10_0_ 1020Position.r(mm) (a) Amplitude11.05Hz -O- 0.1Hz ー+0.58444本カーオーーーー~10Phase difference of B (deg.)-30-20-100_102030Position.x (mm)(b) Phase difference Fig.4 Distribution of amplitude and phase difference ofBrfor specimen with slit of 5 mm width, 2 mm depth.3. 実験結果- Fig. 3 は幅 5 mm, 深さ2 mm のスリットを有する試 料に対して磁界の水平成分 B, の振幅及び位相差の位 置分布を測定した結果を示している。励磁周波数は 0.05 Hz から 10 Hzまで変化させている。振幅において はスリット中央、すなわち、x=0 において強度がピー ク値を取り、励磁周波数が増加するにつれてそのピー ク値の減少が確認された。また、スリットの端部にお いて磁界強度の減少がみられた。一方、位相成分につ いては、0.05 Hzから0.5 Hz の低周波では変化はみら れないが、1Hz以上の高周波においてはスリットを有 する付近で大きな変化が確認された。また、周波数が 増加するにつれて、その変化領域は狭くシャープな形 状に変化していることがわかる。 - Fig.4は、幅5 mm, 深さ 2 mm のスリットを有する 試料に対して磁界の垂直成分 B. の振幅及び位相の位 置分布を測定した結果を示している。振幅においては いずれの周波数でも2つのピークが確認されており、 これらの位置はスリット端部に対応している。また、 水平成分のときと同様に、周波数の増加に伴って、ピ16410d%3D2mm --o-de da1 mm]-B4-32mas |-- B.d - Imm1404-21mm 10-18d%3D1mm~1Bd=22min To Bl=1 mmap000-9-10w=5mm....Amplitude of B.(V)Phase difference de (deg.)Amplitude of B. (V)Phase difference d0 (deg.)F......1 Hz1 Hz -30 -20w=5 mm20 ~ 300W-10 0_ 10Position.x (mm)““-30-20-10_0_ 10Position.x (mm)20300(a)x-component Bi(b) z-component B: Fig. 5 Distributions of amplitude and phase difference of magnetic flux density for specimen with slit of 5 mm width.(f%3D1 Hz)ーク値の減少がみられる。一方、位相差に関してはい参考文献 ずれの周波数でも変化は確認できなかった。[1] H. Kikuchi, Y. Kurisawa, Y. Kamada, S. Kobayashi, K. Fig. 5は励磁周波数を1 Hz として、幅5mm のスリ Ara, “Feasibility Study of Magnetic Flux Leakage Method ットを有する試料に対して計測を行った結果を示した for Condition Monitoring of Wall Thinning on Tube”, ものである。スリットの深さはd=1, 2 mm とした。 水 International Journal of Applied Electromagnetics and 平成分 BRについては、r = 0におけるピーク強度が、 Mechanics, Vol.33, 2010, pp. 1087- 1094. スリット深さが浅くなると減少する結果を示している。 [2] H. Kikuchi, K. Sato, I. Shimiza, Y. Kanada and S. 位相差についても位相差の最大値の低下、最大値をと Kobayashi, “Feasibility Study of Application of MFL to る位置の間隔が広がるという結果が得られており、ス Monitoring of Wall Thinning under Reinforcing Plates in リット深さの違いが検出できている。一方、垂直成分 Nuclear Power Plants”, IEEE Transactions on Magnetics, B,については、位相差はスリット深さによる違いを検 Vol. 47, 2011, pp.3963-3966. 出できていないが振幅においては、スリット端部にお [3] Y. Zhang, G. Yan, “Detection of Gas Pipe Wall Thickness ける強度がスリット深さに依存していることが明らか Based on Electromagnetic Flux Leakage”, Russian である。Joumal of Nondestructive Testing, Vol. 43, 2007, pp. -以上の結果から、交流励磁により振幅変化、位相情123--132. 報と直流励磁時よりも多くのパラメータ利用が可能で あり、それぞれのパラメータが減肉の位置、寸法に応(平成24年6月21日) じて変化することを確認できた。このことはより高度 な非破壊評価技術の開発繋がるものと期待される。謝辞 本研究の一部は経済産業省原子力安全・保安院の「平成 23 年度高経年化技術評価高度化事業」によるものである。165“ “交流励磁による磁束漏洩法を用いた配管減肉評価の基礎検討“ “菊池 弘昭,Hiroaki KIKUCHI,佐藤 界斗,Kaito SATO,清水 勇,Isamu SHIMIZU