マイクロ波技術を用いた低圧ケーブルの経年劣化評価手法の研究
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カテゴリ: 第9回
1 諸言
原子力プラントの高経年化技術評価の対象とな る経年劣化事象は、低サイクル疲労、中性子照射 脆化、照射誘起型応力腐食割れ、2 相ステンレス の熱時効、電気・計装品の絶縁低下、コンクリー トの強度低下及び遮へい能力低下の6項目である。 現在、電気・計装品の絶縁低下における低圧ケー ブルの絶縁部の劣化診断は、絶縁抵抗や破壊電圧 等の電気的特性が経年劣化指標として捉えがたい パラメータであるため、機械的強度特性を測定す る引張試験により、実際に敷設されるケーブルと 同じ材料に対して、様々な熱、放射線劣化条件に おける詳細な測定が実施されている。絶縁部の 熱、放射線劣化は、絶縁体の母材であるポリエチ レンやエチレンプロピレンゴムのカルボン酸生成 を伴う酸化反応であることが知られており、酸 化反応により絶縁部の機械的強度が低下すると考 えられている。本研究は、絶縁部の酸化反応に伴う誘電率変化 に着目し、高感度に誘電率変化量を測定すること が可能なマイクロ波誘電吸収法 3りをケーブル劣化 診断に適用することにより、非破壊的に電気的特 性の変化の測定法を確立し、従来の経年劣化測定 技術を補う評価手法の開発を行うことを目的とする。
2 実験方法
Fig.1 にマイクロ波誘電吸収測定回路を示す。アナ ログ信号発生器よりマイクロ波 (43GHz) を発振 させ、サーキュレーターによりマイクロ波空洞共 振器へ導き、マイクロ波空洞共振器からの反射波 をアンプにより増幅させ、検波器で電圧に変換し オシロスコープおよびパワーメーターで測定を行 った。アナログ信号発生器、オシロスコープおよマイクロ波空洞共振器檢波器スペクトラム アナライザー増幅器方向性結合器アナログ信号 発生器オシロスコープピッカーパワーメーターサーキュレーターびパワーメーターの制御は GPIB で行った。Fig.1 microwave circuit- 測定に使用したマイクロ波空洞共振器は TEII、 Q>2000、共振周波数 56-43.065 GHz、測定穴 1.0 mm×2.5 mm である。測定試料は、デルリン(ポリ オキシメチレン)製の固定台を用いて固定した。測 定は2回実施し、1回目測定後 180°試料を回転さ せ2回目を測定し、出力電力の平均値を求めた。測定試料は JNES(独立行政法人原子力安全基盤 機構)が作製した C 社製難燃 EP ゴム(FR-PH-2.0)174黒芯・白芯・赤芯(J-A-00-5 ~J-A-89)試供体 , 計 203 本を使用した。試供体は JNES において引張試験 後の物であるため、導体は取り除かれている。 3 解析方法 1 等価時間は下記の (3) 式から算出した移動係数 と各劣化条件の劣化時間との積で定義される。 相異なる加速劣化条件による測定結果を直接比較 することはできないので合成劣化グラフ法を用い る。これはAEA Technology のRuddが提唱してい る時間、温度及び照射線量率の重ね合わせによる移 動係数式(3)により、時間依存データの重ね合わ せ法を用いて試験データの劣化時間を移動させ、合 成劣化グラフを作成した。47,22-e1 - 1+ 2 ep 8, a)ここで、A(T,D):移動係数、 T:試験温度(K) Ther :基準温度(K)、E :活性化エネルギー(cal/mol) R :気体定数(1.99 cal/mol)、D :照射線量率(Gy/sec) k :モデル定数、x : モデル定数である。4 結果と考察Fig.2 に赤芯、白芯の難燃 EP ゴム試供体のマイ クロ波電力の逆数と破断時伸びりとの関係を示す。 赤芯と白芯ともに相関係数は 0.72 であった。443.5してい る移 合わ さ、合3-3Output Power-1(mw-1)1.5/mol) y/sec)1--- master curve0.5Fthis work0マイ1001100010000100000100000043.5343.53Output Power-1(mW-17WAY1.51Oredwhite0.510_100200300400500600Break Elongation (%)Fig.2 the output power and break elongation for thermallyand radiation aged EPR.黒芯の相関係数は 0.66 であった。この結果から赤 芯、白志、黒芯に関して、機械的特性と電気的特 性との間に非常に高い相関性が見られた。 - Fig.3 に難燃 EP ゴム試供体(赤芯)の出力電圧 の逆数と等価時間の関係を示す。さらに、JNES が作成した経年劣化マスターカーブを、本データ に規格化し、重ね合わせた結果を示す。144日0100100011100001000001000000Equivalent Time (h)Fig.3 the output voltage and equivalent time for thermallyand radiation aged EPR (red) 本結果と経年劣化マスターカーブとの間には非 常に良い一致が見られる。以上の結果より、本測 定手法は、従来の経年劣化測定技術を補う手法に 成り得ると考える。本研究の詳細は他の劣化サン プルの結果と共に講演時に報告する。 参考文献 1) JNES “原子力プラントのケーブル経年変化評価技術調査研究に関する最終報告書”JNES-SS-0903(2009). 2) T.Seguchi, K. Tamura, T.Ohshima, A.Shinada,H.Kudoh, Radiation Physics and Chemistry 80 ,268,273(2011). 3) H.Shimamori, in J. F. Rabek, ed. Photochemistry andPhotophysics. CRC Press, Boca Raton ,p.43 (1992) 4) Rudd, H. J. : ““Time Temperature dose rate superpositionbehavior in irradiated polymers““, AERE-R13746 (1990).(2012年6月 21 日)175“ “マイクロ波技術を用いた低圧ケーブルの経年劣化評価手法の研究“ “山本 幸,Miyuki YAMAMOTO,佐伯 昭紀,Akinori SAEKI,関 修平,Shu SEKI,砂川 武義,Takeyoshi SUNAGAWA
原子力プラントの高経年化技術評価の対象とな る経年劣化事象は、低サイクル疲労、中性子照射 脆化、照射誘起型応力腐食割れ、2 相ステンレス の熱時効、電気・計装品の絶縁低下、コンクリー トの強度低下及び遮へい能力低下の6項目である。 現在、電気・計装品の絶縁低下における低圧ケー ブルの絶縁部の劣化診断は、絶縁抵抗や破壊電圧 等の電気的特性が経年劣化指標として捉えがたい パラメータであるため、機械的強度特性を測定す る引張試験により、実際に敷設されるケーブルと 同じ材料に対して、様々な熱、放射線劣化条件に おける詳細な測定が実施されている。絶縁部の 熱、放射線劣化は、絶縁体の母材であるポリエチ レンやエチレンプロピレンゴムのカルボン酸生成 を伴う酸化反応であることが知られており、酸 化反応により絶縁部の機械的強度が低下すると考 えられている。本研究は、絶縁部の酸化反応に伴う誘電率変化 に着目し、高感度に誘電率変化量を測定すること が可能なマイクロ波誘電吸収法 3りをケーブル劣化 診断に適用することにより、非破壊的に電気的特 性の変化の測定法を確立し、従来の経年劣化測定 技術を補う評価手法の開発を行うことを目的とする。
2 実験方法
Fig.1 にマイクロ波誘電吸収測定回路を示す。アナ ログ信号発生器よりマイクロ波 (43GHz) を発振 させ、サーキュレーターによりマイクロ波空洞共 振器へ導き、マイクロ波空洞共振器からの反射波 をアンプにより増幅させ、検波器で電圧に変換し オシロスコープおよびパワーメーターで測定を行 った。アナログ信号発生器、オシロスコープおよマイクロ波空洞共振器檢波器スペクトラム アナライザー増幅器方向性結合器アナログ信号 発生器オシロスコープピッカーパワーメーターサーキュレーターびパワーメーターの制御は GPIB で行った。Fig.1 microwave circuit- 測定に使用したマイクロ波空洞共振器は TEII、 Q>2000、共振周波数 56-43.065 GHz、測定穴 1.0 mm×2.5 mm である。測定試料は、デルリン(ポリ オキシメチレン)製の固定台を用いて固定した。測 定は2回実施し、1回目測定後 180°試料を回転さ せ2回目を測定し、出力電力の平均値を求めた。測定試料は JNES(独立行政法人原子力安全基盤 機構)が作製した C 社製難燃 EP ゴム(FR-PH-2.0)174黒芯・白芯・赤芯(J-A-00-5 ~J-A-89)試供体 , 計 203 本を使用した。試供体は JNES において引張試験 後の物であるため、導体は取り除かれている。 3 解析方法 1 等価時間は下記の (3) 式から算出した移動係数 と各劣化条件の劣化時間との積で定義される。 相異なる加速劣化条件による測定結果を直接比較 することはできないので合成劣化グラフ法を用い る。これはAEA Technology のRuddが提唱してい る時間、温度及び照射線量率の重ね合わせによる移 動係数式(3)により、時間依存データの重ね合わ せ法を用いて試験データの劣化時間を移動させ、合 成劣化グラフを作成した。47,22-e1 - 1+ 2 ep 8, a)ここで、A(T,D):移動係数、 T:試験温度(K) Ther :基準温度(K)、E :活性化エネルギー(cal/mol) R :気体定数(1.99 cal/mol)、D :照射線量率(Gy/sec) k :モデル定数、x : モデル定数である。4 結果と考察Fig.2 に赤芯、白芯の難燃 EP ゴム試供体のマイ クロ波電力の逆数と破断時伸びりとの関係を示す。 赤芯と白芯ともに相関係数は 0.72 であった。443.5してい る移 合わ さ、合3-3Output Power-1(mw-1)1.5/mol) y/sec)1--- master curve0.5Fthis work0マイ1001100010000100000100000043.5343.53Output Power-1(mW-17WAY1.51Oredwhite0.510_100200300400500600Break Elongation (%)Fig.2 the output power and break elongation for thermallyand radiation aged EPR.黒芯の相関係数は 0.66 であった。この結果から赤 芯、白志、黒芯に関して、機械的特性と電気的特 性との間に非常に高い相関性が見られた。 - Fig.3 に難燃 EP ゴム試供体(赤芯)の出力電圧 の逆数と等価時間の関係を示す。さらに、JNES が作成した経年劣化マスターカーブを、本データ に規格化し、重ね合わせた結果を示す。144日0100100011100001000001000000Equivalent Time (h)Fig.3 the output voltage and equivalent time for thermallyand radiation aged EPR (red) 本結果と経年劣化マスターカーブとの間には非 常に良い一致が見られる。以上の結果より、本測 定手法は、従来の経年劣化測定技術を補う手法に 成り得ると考える。本研究の詳細は他の劣化サン プルの結果と共に講演時に報告する。 参考文献 1) JNES “原子力プラントのケーブル経年変化評価技術調査研究に関する最終報告書”JNES-SS-0903(2009). 2) T.Seguchi, K. Tamura, T.Ohshima, A.Shinada,H.Kudoh, Radiation Physics and Chemistry 80 ,268,273(2011). 3) H.Shimamori, in J. F. Rabek, ed. Photochemistry andPhotophysics. CRC Press, Boca Raton ,p.43 (1992) 4) Rudd, H. J. : ““Time Temperature dose rate superpositionbehavior in irradiated polymers““, AERE-R13746 (1990).(2012年6月 21 日)175“ “マイクロ波技術を用いた低圧ケーブルの経年劣化評価手法の研究“ “山本 幸,Miyuki YAMAMOTO,佐伯 昭紀,Akinori SAEKI,関 修平,Shu SEKI,砂川 武義,Takeyoshi SUNAGAWA