軽水炉燃料の健全性予測のための被覆管酸化挙動の理論解析

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カテゴリ: 第9回
1. 諸言
1.1 原子炉の保全原子炉の安全性を維持していくためには、プラントの 設計・製造段階だけでなく,使用中のシステムおよび機 器の性能劣化に対して,適切に保全活動を行う必要があ る. システムや機器の性能を低下させる原因の1つとし て材料劣化が挙げられる.特に原子炉内は,高エネルギ ー中性子による照射等,非常に過酷な環境となるため, 使用中の材料の特性は大きく変化し,性能は劣化する.- 軽水炉燃料は、数年ごとに交換される消耗品である. 使用中に燃料リーク等の問題が起こると、即座に取替・ 出力抑制といった対応が取られている.こうした対応を 続けていくと,燃料リークを感知するモニタリング機器 の性能が上がれば上がるほど、より保守的な対応を取る ことになる.しかしながら,こうした過度に保守的な対 応は必ずしもプラント全体の安全性の向上に寄与すると は言えない。こうした対応を取らざるを得ないのは、モ ニタリングで得られた情報から,その後の被覆管材料劣化の進展を正確に予測することが出来ていないためであ る. もし、材料劣化の予測を正しく行うことが出来れば、 過度に保守的と考えられる対応を減らすことが出来、ま たその分,有限のリソースを重要度のより高い保全活動 につぎ込むことが可能になる.材料強度の変化は、材料の微細構造変化等の原子レベ ルの現象に起因する.そのため、劣化予測を高精度に行 うためには、こうした微小領域の現象も含めたメカニズ ムの究明が不可欠である.本研究では,軽水炉燃料被覆 管(ジルコニウム合金)を例にとり、計算機シミュレー ションによって酸化挙動を理論的に評価することで,被 覆管酸化脆化量の予測精度向上につながる知見を得るこ とを目的とする.
1.2 軽水炉燃料被覆管の酸化 - 燃料被覆管材料として使用されているジルコニウムと 水の酸化反応は次式で表される. 福島第一原発事故では, この反応によって発生した水素が爆発の原因となった.
Zr + 2H2O → ZrO, + 2H,
酸化反応の結果として生成した水素の一部は、被覆管材183 -料中に吸収され,水素化物を形成する.水素化物の形成 は、材料脆化の要因である.また,ジルコニウム表面に おける酸化膜の形成も,被覆管材料そのものの強度の低 下,熱伝導率の低下等を引き起こすことが懸念される. そこで,軽水炉燃料の健全性を確保するためには、こう した被覆管の酸化反応を出来るだけ低い水準に抑えてお く必要がある. - Fig.1 は、軽水炉燃料ふるまい解析コード FEMAXI-61 を用いて評価した燃料ペレット中心温度の燃料燃焼度依 存性である. ここでは, 酸化反応が激しく起こった場合, さほど酸化反応が起こらなかった場合,酸化反応が全く 起こらなかった場合の、計3つのパターンを考慮した. 燃料被覆管の表面に酸化膜が形成されると,被覆管の熱 伝導率が低下するので,そのため、被覆管酸化量が多い ほど燃料中心温度が高くなる.このように,燃料の健全 性を正しく評価するためにも,被覆管酸化量を正確に予 測することは重要である.High oxidation rate Low oxidation rate/(×2/3)Pellet center temperature (°C)No oxidation
Average burnup (GWd/tU)Fig. 1 Pellet center temperature as a function ofaverage fuel burnup.被覆管材料として使用されているジルコニウム合金の 酸化においては, 酸化膜厚さが2um 前後に到達すると酸 化速度が変化する.この遷移前後の分岐を遷移点と呼ぶ 酸化膜厚さの酸化時間依存性の実験値を見ると,遷移以 前は酸化時間の 1/3 乗に比例し,遷移後は1乗に比例する ことが知られている. FEMAXI コード内でも、酸化膜厚 さSは時間tの関数として次式で与えられている.遷移前:s = 47 464x10““ and - 1997) + s8.3 5遷移後:S=124.32.1.exp(-1999) - Smas-3ここで,Sは初期の酸化膜厚,Sorean は遷移時の酸化膜 厚, T は酸化膜と金属層の界面温度を表す.ただし,こ こで与えた酸化膜厚の式は経験式に過ぎないため,燃焼 度の上昇や不測の温度上昇等,想定を越える範囲に対し ては適用できない、そこで,被覆管酸化量の予測精度を 向上させるには、こうした経験的な知見に加えて,酸化 挙動の機構論的な理解が必要となる.遷移前のジルコニウム合金は緻密な酸化膜に覆われて いる.酸化反応が進行し,酸化膜が成長するには、材料 表面(ジルコニウム/冷却水界面)に存在する酸素原子 が酸化膜/金属界面まで拡散によって移動する必要があ る.酸化反応は酸化膜中の酸素の拡散過程に律速される と考えると,一般的な拡散律速反応では通常,反応量は 反応時間の 1/2 乗に比例することから,上述の遷移前の 1/3 乗則とはつじつまが合わないことになる。要するに, 拡散速度を阻害する何らかの因子が作用していると考え られる.本研究では、この遷移前の被覆管酸化過程に着 目し、第一原理計算法を用いて,被覆管酸化膜中の酸素 の拡散過程に及ぼす応力の影響を評価した.2. 被覆管酸化挙動の理論解析2.1 計算方法 - ジルコニウム酸化膜の典型的な結晶構造である単斜晶 ZIO, と正方晶 ZIO, を対象とし, LCAO 基底を用いた密 度汎関数法コード SIESTAPIを用いて電子状態計算を行っ た.各原子についてはノルム保有型 Troullier-Mattins 擬ポ テンシャル)を用いており, Kohn-Sham 方程式における交 換相関項には Perdew-Burke-Enzehof 型の一般化された 密度勾配近似(GGA)を用いた.基底関数としては Split Valence 基底関数と分極基底関数を併せて用いた. - 計算の準備段階として緩和計算を行い,格子定数を最 適化したユニットセルを用いて酸素空孔を 1 つ含む原子 47 個のスーパーセルを作成した. Fig.2 に単斜晶と正方晶 ZnO2 のユニットセル及び、酸素空孔の配置を示す.ここ で,単斜晶 Z102では、周りのジルコニウム原子との位置 関係によって、酸素空孔の種類を O1 と O2 に分けること が出来る.184,Tetragonal Zroz (t-ZrOz)Monoclinic Zroz (m-Zroz) ○:Zr :0 001 vacancy02 vacancy Fig.2 Unit cell of ZrO2 structures and vacancy positions.2.2 空孔形成エネルギーの応力依存性 1 まず、それぞれの Z102のスーパーセルの体積を等方的 に変化させ,空孔形成エネルギーの応力依存性を評価し た. Fig.3 にトータルエネルギー変化量の応力依存性を示 す. 圧縮応力,引張応力共に応力が高いほど系のエネル ギーを上昇させる傾向が見られる.1. 0TTTTTTTTTTTTTt-ZrozAE(eV)//m-ZrO2(01)]| m-ZrO2(02) 0.0F10-10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 8Stress (GPa) Fig.3 Energy change of ZrO2 supercell as a function of hydrostatic stress.* ZI は、酸化物と金属の体積比である Pilling-Bedworth 比 が 1.56 と高く、酸化膜には体積差に起因する強い圧縮応 力が作用する.また,この圧縮応力の大きさは最大で 1GPa程度であると実験的に評価されている560 . 次に,スーパーセルを一軸方向に変形させ,それぞれ の軸方向応力とトータルエネルギーの関係を評価した. Tablel に静水圧及びそれぞれの一軸方向に1GPaの圧縮応 力が作用した時の空孔形成エネルギーの上昇量を示す. 空孔形成エネルギーの変化量には、応力が作用する方位 依存性が見られ,単斜晶 Z102のc軸方向に圧縮応力が作 用した時が最大で,0.032EV の応力上昇が見られた.Table 1 Increment of vacancy formation energy with the compressive stress of 1GPa is applied.Isotropic Laaxial baxial caxial?I compression direction direction direction m-Zr0,(01) 0.010eV 0.012eV 0.011eV0.032eV m-ZrO,(02) 0.012eV0.016eV 0.010eV0.022eV t-ZO, 0.015eV 0.011eV0.006eVAlohaki2.3 移動エネルギーの応力依存性次に, Fig.4 に示した正方晶 ZIO2の酸素空孔の拡散パス Aについて酸素空孔の移動エネルギーの応力依存性を評 価した.Diffusion path A1pathe ich OO YETFig.4 Diffusion path A of an oxygen vacancyin tetragonal ZrO2Fig.5 に酸素原子が拡散パスAを移動するときのエネル ギー変化を示す. 拡散パスの中間距離でエネルギーが最 大となっており,拡散パス A の酸素空孔の移動エネルギ ーは 2.753eV と算出された.次に,静水圧及び一軸方向 に 1GPa の圧縮応力を作用させた状態で酸素空孔の移動 エネルギーを算出した, Table2 に応力をかけたことによ る移動エネルギーの変化量を示す.応力方位の依存性が 非常に強く, a 軸方向に応力を作用させた時に最大で 0.070EV のエネルギー上昇が見られた. これらの結果を用 いて,次節で応力が拡散係数に与える影響について述べ る。caxial directionEm%3D2.753eV(AP)37]0_ L.. . -0.25 0.00 0.25 0.50 0.75 1.001.25Normalized distance Fig.5 Energy increment as a function of normalizeddistance in diffusion path A.185Table2 Increment of oxygen migration energy with thecompressive stress of 1GPa is applied.e sotropic a axial baxialis caxialil.compression direction direction direction tZrO, (path A) 0.034eV - 0.070EV 0.008eV 0.030eV2.4 拡散係数の応力依存性被覆管酸化膜中の酸素の拡散過程を空孔拡散であると 仮定すると,応力をかけたことによる酸素原子の拡散係 数の変化率は次式で表される.D = expl - ( AE ≫ + Am | |let )D1KTここで, D は応力を負荷したしたときの酸素原子の拡 散係数,D。は応力がかかっていない状態での拡散係数, AE と AE は応力をかけたことによる空孔形成エネル ギーと移動エネルギーの変化量をそれぞれ表す. また,k はボルツマン定数,T は温度を表す. ここでは、炉内の 使用環境を想定して、温度 300°Cの条件で計算を行った.前節で移動エネルギーを算出した正方晶Z102の拡散パ スAについて, 1GPaの圧縮応力が作用した時の拡散係数 の変化率を算出した(Tables). 一番影響が大きかった a 軸方向の圧縮応力では、 拡散係数の変化率は 0.19 であり, 応力が作用することで拡散係数が 1/5 程度まで減少する 影響が見られた.次節では 1 次元の拡散モデルを用いて,これらの拡散 係数の応力依存性が酸化膜成長速度に与える影響につい て述べる。Table3 Change rate of diffusion coefficient of an oxygen atom with the compressive stressof 1GPa is applied. w Isotropic a axial baxial caxialcompression direction direction direction SD /DD 0 .37 0.19 26 0.68 : 0.482.5 被覆管酸化速度の応力依存性Fig.6に示すように, 酸素原子が水側から酸化膜金属 界面へ拡散するシンプルな1次元の拡散モデルを用いて,被覆管酸化膜成長速度を評価した.被覆管の径方向にメ ッシュを区切り、それぞれのメッシュの酸素濃度の時間 変化を以下の拡散方程式を解くことで算出した.dC_hdc at = 0 dx?12-5ここで, C はそれぞれのメッシュの酸素濃度, t は時間, xは酸化膜表面 (水側) から被覆管内側への距離を表す. また,酸素の拡散係数Dは酸化膜の成長と共に圧縮応力 の影響で低下する.圧縮応力については、酸化膜厚さに 比例し厚さ2um のとき最大値 1GPa になると仮定した.WaterZr oxideZr metalFig.6 One-dimensional oxygen diffusion model.Fig.7 に正方晶ZIO, の拡散パスAについて,正方晶のa 軸方向に圧縮応力が作用した時の、空孔形成エネルギー と移動エネルギーの応力依存性を示す.応力とエネルギ ー変化量にはほぼ比例関係がみられ、応力が 1GPaのとき のエネルギー上昇量は 0.080EV だった.この関係を用い て,拡散係数の酸化膜厚依存性を算出した. - Fig.8は実際に拡散方程式を解き,酸化膜厚さの成長速 度を算出した結果である.ただし,今回の研究では,拡 散係数の絶対値は評価していないため、酸化速度の定量 的な評価には至っていない。ここでは,酸化膜成長速度 の応力依存性を定性的に評価している.応力が作用して いない条件では,拡散係数が一定であり,酸化膜厚さが 時間の 12 乗に比例する一般的な拡散律速過程の条件を 満たしている.拡散係数の応力依存性を考慮した条件で は,酸化膜の成長と共に拡散係数が低下し,結果として 酸化膜の成長速度も低下する.酸化膜厚さは、時間の 1/3 乗との比例関係に近づいており,実験的に得られる結果 と定性的に一致している.こうして,酸化膜中に働く負186荷応力の影響による拡散係数の低下を考慮することで, 実験的に示されている(遷移前の) 1/3 乗則を説明し得る ことが示された.AE+AE. (eV)y=0.080x1.410 0.2 0.40.6 0.8 1 1.2 Compressive stress (GPa)Fig. 7 Stress dependence of migration and formation energies of an oxygen vacancy in tetragonal Zrozwith diffusion pass A.No stressc0.50 1Thickness of oxide film (Il m)Applied stressC+0.3705 0 100 150 200Time (s) Fig.8 Oxide film thickness as a function of time.3. 結論軽水炉では、材料を高温,高圧,中性子照射等の非常 に過酷な環境で使用するため、刻々と変わる材料の状態 に応じた適切な保全が重要となる.そのためには、使用中の材料の状態を把握し,その後の劣化進展を予測,さ らにリスクを評価し、補修・取替等の判断を行うという プロセスが必要となる. 1. 本研究では,材料劣化予測の一例として,軽水炉燃料 被覆管の酸化に着目し、現象を機構論的に理解するため に, ジルコニウム酸化膜中の酸素の拡散過程に及ぼす応 力の影響を第一原理計算によって評価した.その結果、 ジルコニウム酸化膜に作用する圧縮応力は,酸素空孔の 形成エネルギーと移動エネルギーを低下させ、酸素の拡 散速度を低下させる効果があることが明らかになった. さらに,拡散係数の応力依存性を考慮して酸化膜の成長 速度を評価した結果,応力の影響によって酸化膜の成長 速度が低下し, 実験的に評価されている遷移前の 1/3 乗則 に近づくことが示唆された.このような劣化メカニズムの理論的知見と経験的事実 を相補的に用いて材料劣化予測の高精度化を図ることで、 より適切な保全を行うことが可能となり,ひいてはプラ ントシステム全体の安全性の向上につながることが期待 される。参考文献 [1] M. Suzuki, H. Saitou, Light Water Reactor Fuel AnalysisCode FEMAXI-6 (Ver. 1), JAEA-Data/Code 2005-003,Japan Atomic Energy Agency (JAEA), 2005. [2] J. M. Soler, E. Artacho, J. D. Gale, A. Garcia, J. Junquera,P. Ordejon, D. Sanchez-Portal, J. Phys.: Condens. Matter,Vol.14, 2002. pp. 2745-2779. [3] N.Troullier, J. L. Martins, Phys. Rev. B, Vol.43, 1991,pp.1993-2006. [4] J. P. Perdew, K. Burke, M. Ernzerhof, Phys. Rev. Lett.,Vol.77, 1996, pp.3865-3868. [5] J. Godlewski, Tenth International Symposium ASTM STP,Vol.1245, 1994, pp.663-686. [6] H. J. Beie, A. Mitwalski, F. Garzarolli, H. Ruhman, H. J.Sell, Tenth International Symposium ASTM STP, Vol.1245, 1994, pp.615-643.(平成24年6月21日)187“ “軽水炉燃料の健全性予測のための被覆管酸化挙動の理論解析“ “山本 泰功,Yasunori YAMAMOTO,森下 和功,Kazunori MORISHITA,岩切 友,Hirotomo IWAKIRI,金田 保則,Yasunori KANETA
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