定電位エッチングによる検出手法を用いたオーステナイト系ステンレス鋼の塑性変形機構の温度・鋼種依存性の調査

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カテゴリ: 第9回
1. 緒言
機械部品や構造物の健全性を保証するため、感度良 く塑性予ひずみを検出・定量化する手法が求められて いる。前報では室温で塑性変形を経験した 316 系ス テンレス鋼に定電位エッチングを施し、材料中の塑性 変形における変形双晶を母材との溶解速度の相違に従 い優先溶解させエッチング痕として現出させ(Fig.1)、 その数密度に基づき塑性予ひずみを検出、定量化できることを示した。しかしながら、原子炉構造材には 316 系のみならず 304 系のステンレス鋼も使用されている。 また、プラント稼働中に何らかの理由で大きな外力が 加わった場合には炉水温度域で塑性変形を経験するこ とになる。組成や変形温度域の違いは材料の塑性変形 の様式の変化に影響することが知られている。 ・ 本研究では、オーステナイト系ステンレス鋼の塑性予ひずみを定電位エッチングにより変形双晶エッチン グ痕密度として検出する手法の温度・鋼種依存性を調 査し、積層欠陥エネルギーによる整理により他の鋼種 へ適用できる可能性があること、炉水温度域で付与さ れた予ひずみはすべり線のエッチング痕密度として検 出できることを示した。
| sourn (a) As solution treated (b) 18.5% Plastic strain Fig. 1 Optical micrographs after potentiostatic etching(SUS316L) 2. 研究内容 2.1 実験方法供試材にはオーステナイト系低炭素ステンレス鋼 SUS316NG および SUS304L を用いた。化学組成を194Tablel に示す。供試材は溶体化処理後、平板試験片お よび丸棒試験片に加工した。溶体化条件は 1050°C 160min である。Table 1 Chemical compositions of stainless steels (wt%)AlloyCSiMnPSNiCrMoFeSUS316NG SUS304L0.0160.51 1.36 .0130.731 .500.025 0.0300.001 11.30 0.00510.0817.51 18.172.05 -Bal. Bat.0単軸引張により試験片に塑性やひずみを付与した。SUS304L は室温で単軸引張により塑性予ひずみを付 与した。付与した予ひずみは真ひずみで 1, 3, 8.5, 14, 23% (公称ひずみ:1, 3, 9, 15, 25.5%)である。公称ひずみ 速度は 0.1%/s である。その後、溶体化材と塑性予ひず み付与材を定電位エッチング用の試験片に加工し、試 験溶液:1N HNO , 電位 :-600mVsce, エッチング時 間:20min,温度:35°C、の条件で定電位エッチングを施し た。参照電極には飽和カロメル電極を用いた。エッチ ング後、金属顕微鏡を用いて表面の観察を行い、単位 面積当たりに現出したエッチング痕の計測を行った。SUS316NG は引張試験機付設の電気炉により所定の 試験温度で1時間以上保持してから一定の変位速度で ひずみを付与した。公称ひずみ速度は 0.1%/s である。 予ひずみ付与条件を Table 2 に示す。予ひずみ付与後、 SUS304L に対してと同様に定電位エッチングを施した。 また、平板試験片はすべり線の直接観察のために用い た。すなわち、予ひずみ付与前の試験片のゲージ部を 鏡面に仕上げてから予ひずみを付与し、表面に現れた すべり線とエッチング痕の関係を調査した。Table.2 Strain conditionTrue strain(%)|1|2.5 6|8|13|16.5|22.5 Temp. 30N ANON(°C)100NNON2.2 実験結果 2.2.1 鋼種依存性 - 定電位エッチングを施した SUS304L において計測 された変形双晶エッチング痕密度を SUS316L 、 SUS316NG!!の変形双晶エッチング痕密度計測結果に 重ねたものを Fig.2 に示す。SUS304L では溶け残り面 やエッチピットが試料表面に多く、変形双晶エッチング痕が明瞭でない部分も見受けられた。変形双晶が優 先溶解する条件が 316系ステンレス鋼とは異なるため であると思われる。そのため、溶体化材と 1,3%予ひず み材では変形双晶エッチング痕密度の測定が困難であ った。316 系ステンレス鋼は予ひずみと変形双晶エッ チング痕密度の間に一体一の相関性が示されているの に対し、SUS304L では予ひずみ 8.5,14%では SUS316L に比べ密度が高かったが、予ひずみ 23%では SUS316L と同程度であった。さて、単位面積あたりの積層欠陥 が持つエネルギー、積層欠陥エネルギー(yse)の小さい 材料は双晶変形が起きやすい。SUS316L と比べ SUS304L の変形双晶エッチング痕密度が大きくなるの itysp DEV (SUS316:55.8mJ/m2 , SUS304L:27.0mJ/m2) により塑性変形に占める双晶変形の寄与割合が増える ためであると思われる。積層欠陥エネルギーに基づい た補正を行うことによりオーステナイト系ステンレス 鋼に対して本手法を広く適用できる可能性が示唆される。Number of deformation twin etched per unit area, 1/mm2●SUS316L :55.8m3/m/ SUS316NGxy-52.7mJ/m2 SUS304L 1-27.0m3/mi0 5 10 15 20 25 30True strain, % Fig.2 Comparison of the etched deformation twin densitybetween SUS316 and SUS304L 2.2.2 温度依存性Fig.3 に(a)室温(30°C)予ひずみ付与材(13%)と(b)250°C 予ひずみ付与材(13%のエッチング後表面を示す。室温 予ひずみ付与材に対し、250°C予ひずみ付与材において は変形双晶エッチング痕とは様相の異なるエッチング 痕(以降:浅いエッチング痕)が多数現出している。Fig.4 に予ひずみ付与温度 250°Cの SUS316NG におけ る塑性予ひずみと変形双晶エッチング痕密度の関係に、 30°CにおけるSUS316NG と SUS316L の結果)を追記し たものを示す。250°C予ひずみ付与の SUS316NG の結 果は 2.5%までは 30°Cの結果とほぼ同等であるが、6% 以降の予ひずみでは30°Cの結果とは異なりほぼ横ばい となった。このことから、炉水温度域で付与された塑 性ひずみについては、変形双晶エッチング痕密度を用195Shallow etched grooveShallow etched grooveいての 5%程度を超えるひずみの定量化は難しいこと。 線間隔とエッチング痕間隔は概ね一致していた(Fig.7) が示された。また、Fig.8 に予ひずみ材(250°C 13%)における試料表 ん面の EBSD による結晶方位の測定結果を示す。(a)が EBSD 分析範囲の光学顕微鏡画像、(b)が EBSD による 結晶方位マッピング図である。エッチング痕が現出し ている面の結晶方位とそれに対応するすべり面:{111} 面の交線はエッチング痕と同一方向となっている。このことから、エッチング痕はすべり線に対応した優先 (a) 13% 30°C (b) 13% 250°C溶解である可能性が高いことが分かった。 Fig.3 Optical micrographs after potentiostatic etching(SUS316NG)Etched deformation twinEtched deformation twin150m316NG at 250°C 316L at room tersperature 316NG at room temperature30°cNumber of deformation twin etched per unit area, 1/mm?Number of etched shallow grooveper unit area.1/mm^Number of deformation twin etched per unit area, 1/mm?Shallow etched groove Etched deformation twin100250c14.10520 253010 15 True strain,600 minter.. 11 50 100 150200250300Temperature, 'C Fig.5 Number of etched lines per unit area versus strainedtemperatureア(a)After straining(b)After polishingFig. 4 Number of etched twin line per unit area versus plasticstrain of the specimens 2.2.2.1 浅いエッチング痕の特徴室温より高い温度域で変形双晶エッチング痕密度を 用いた予ひずみ定量化は困難であった。しかしながら、 前述のように 250°C予ひずみ材では室温予ひずみ付与 材に比べ浅いエッチング痕が多数観察されたため、浅 いエッチング底に着目しその特徴を調査した。Fig.5 に 13%予ひずみ材における予ひずみ付与温度と変形双晶 エッチング痕密度、単位面積当たりの浅いエッチング 痕密度の関係を示す。変形双晶エッチング痕密度は 30°Cから 100°Cまではひずみ付与温度の上昇に伴って 急激に低下し、100°C以上でも温度上昇に伴いゆるやか に減少している。このことから、SUS316NG の塑性変 形におけるすべり変形1双晶変形の遷移は 30°C~100°C 付近で顕著に起こることが示された。それに対し浅い エッチング痕密度は 30°C~100°C付近で、予ひずみ付 与温度の上昇に伴い増加し、その後、100°C以上の温度 域でも予ひずみ付与温度上昇に伴い増加し続けるが、 温度上昇に対する増加の勾配は小さくなっている。 2.2.2.2 エッチング痕とすべり線の関連調査 ・すべり線と浅いエッチング痕の関係を詳細に調査し た。同一箇所における引張り後の表面及び研磨後の表 面、エッチング後の表面を Fig.6(a)-(c)に示す。すべり 線と同一方向にエッチング痕が現出しており、すべり(c) After etching Fig.6 Optical micrographs (SUS316NG, 13% 250°C)Etched groove spacing. um11.0 1.52. 02. 53.03.5 Slip line spacing, um Fig. 7 Slip line spacing vs. etched groove spacingat the same sights (SUS316NG, 13% 250°C)196(a) Optical micrograph (b) EBSD mapping Fig.8 Crystal orientation mapping of SUS316(13% 250°C)by EBSD 2.2.2.3 エッチング痕の形成メカニズム 材料中に生じたすべり線がエッチング痕として現出 するメカニズムを考察した。 IN 硝酸水溶液、-600mV という定電位エッチング条件は溶解速度の結晶方位依 存性が大きくなるように最適化されたものであるため (1)、エッチング痕は結晶方位の変化を反映していると 考えられる。すべり変形の前後では結晶方位が変わら ないことから、すべり近傍の転位の集積に伴う局所的 な結晶方位の変化によるものであると考えられる。 すべり変形が起こり、すべりが粒界に到達する。その 結果、発生した転位がすべり面に沿って集積する。転 位の集積の結果、すべり線近傍に結晶方位差が発生す る。次に、定電位エッチングを施すと、母材面に対し、 結晶方位の乱れた結晶面の溶解速度が高い場合、優先 的に溶解が進み、エッチング痕が形成されると考えら れる。このことから、浅いエッチング痕を「すべり線 エッチング痕」と定義する。 250°C予ひずみ付与材における単位面積当たりの浅 いエッチング痕密度と塑性予ひずみの関係を Fig.9 に 示す。250°C予ひずみ付与材においてひずみとすべり線 エッチング痕密度の間には明確な一対一の相関性が認 められた。200018001600Number of etched slip lineper unit area,1/mm?SUS316NG ひずみ速度0.1M/S ひずみ付与温度250°CE 80013 400F0 5 10 15 20 25True strain, % Fig.9 True strain vs. etched slip line density(SUS316NG, 250°C)3. 結言オーステナイト系ステンレス鋼の塑性予ひずみを定 電位エッチングによりエッチング痕密度として検出す る手法の温度・鋼種依存性を調査した。 ・ 積層欠陥エネルギーの小さい材料では双晶変形が起きやすく、変形双晶エッチング痕密度が大きく なるため、本手法適用には鋼種の違いを考慮する 必要がある。 SUS316NG の塑性変形におけるすべり変形/双晶 変形の遷移は 30°C~100°C付近で顕著に起こるこ とが示された。また、炉水温度域で付与された塑 性ひずみについては、変形双晶エッチング痕密度 を用いての5%程度を超えるひずみの定量化は難 しいことが示された。 エッチング後の表面には変形双晶エッチング痕と は様相の異なるエッチング痕が現出しており、こ れはすべり線を起点としていることを明らかにした。予ひずみ付与温度 250°Cにおいて、すべり線エッ チング痕の数密度と塑性予ひずみは1対1の相関 性を持つことを示し、すべり線エッチング痕密度 を計測することで予ひずみ検出・定量化が可能で あることを示した。参考文献[1]. 帆加利翔太、鈴木明好、渡辺豊、日本保全学会 第7回学術講演会 要旨集, (2010), pp. 594-596 [2]. J.W. Christian, S. Mahajan, Progress in MaterialsScience, Vol. 39, (1995), pp.1-157. [3]. L. V. Kireeva and Yu. I. Chumlyakov, The Physics ofMetals and Metallography, Vol. 108, (2009), pp.298-309. [43. 釜谷昌幸,日本機械学会論文集 A編, Vol. 77,(2011), pp. 154-169197“ “定電位エッチングによる検出手法を用いたオーステナイト系ステンレス鋼の塑性変形機構の温度・鋼種依存性の調査“ “帆加利 翔太,Shota HOKARI,鈴木 明好,Akiyoshi SUZUKI,渡辺 豊,Yutaka WATANABE
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