軸受転動体異常の定量的評価手法に関する研究
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カテゴリ: 第9回
1. 諸言
傷加工の方法は、レーザー加工により転動体の1つに 保持器を貫通させて傷をつけるものである。加工により転動体付与される傷は直径 1mm、深さ 0.5mm 程度である。 Fig..1 にレーザー加工を施した試験軸 受を示す。プラントの信頼性と効率を高めるという観点から、状 態監視保全(CBM : Condition Based Maintenance)の重要 性が高まっている。CBM を効果的に行うためには、セン サで得られた情報と機器の状態が定量的に結びついてい ることが望まれる。回転機器の主要な劣化部位である軸受の損傷定量的評 価手法に関して、これまでに内輪または外輪に人工的に 付与した損傷の程度を評価する手法や、自然に発生した 外輪剥離の周方向長さを評価する手法が報告されている。 [1][2] 1. 本研究では内輪剥離、外輪剥離と並んで軸受の主要な 劣化モードである転動体剥離について、その信号特性に ついての知見を拡充するとともに、定量的評価手法を検 討する。
Fig.1 Test bearing processed by laser劣化加速試験機は試験軸受の径方向に高荷重をかけて 運転を行うものである。Fig.2 に劣化加速試験機の外観と センサ設置箇所を示す。本研究では荷重条件を変え5つ |
2. 劣化加速試験
2.1 試験方法 * 本試験では転動体剥離発生後の信号に着目しているた め、まず新品の深溝玉軸受の転動体に微小な傷加工を施 し、転動体剥離の発生を促進させた状態で劣化加速試験 機に組み込み運転する。
劣化加速試験機は試験軸受の径方向に高荷重をかけて 運転を行うものである。Fig.2 に劣化加速試験機の外観と センサ設置箇所を示す。本研究では荷重条件を変え5つ の試験を行った。AccelerometerTest BearingFig.2 Accelerated aging test machineTable 1 に各種試験条件、Table 2 にそれぞれの試験の荷 重条件を示す。なお本試験で剥離発生後も継続して運転 を行うが、試験終了条件は振動レベルや運転音、運転時 間等によっており試験ごとに異なる。Table 1 A list of the testing conditions 軸受仕様深溝玉軸受 6206 動定格荷重2トン転動体数 9 潤滑方式 自然落下方式の循環給油 軸回転数2000 pm荷重方向純ラジアル荷重測定条件使用センサ:振動加速度計 サンプリング周波数:20kHz サンプリング時間:10秒 フィルタ:10kHz LPFTable 2 A list of the load conditions 試驗D荷重条件 No.1 1000kgf(試験開始から終了まで一定) No.2 700kgf(試験開始から終了まで一定) No.3 剥離発生前 900kgf 発生後 600kgfNo.4 剥離発生前 900kgf 発生後 500kgf 試験 No.5 剥離発生前 900kgf 発生後 400kgf2.2 試験結果Fig.3 に全ての試験の開始から終了までの振動加速度 RMS と試験終了時点の損傷状態を示す。なお RMS は試 験開始時の値を1とした比で表している。451No:1 振動加速度RMS1000kgfRMS(ratio)......1000200050006000700030001 4000 Time(min)るさast No.1No.2 振動加速度RMS700kgfRMS(ratio)Time(min)(b) Test No.2sfNo.3-振動加速度RMSRMS(ratio)900kgfT1600kgf115001.00045602090251E+27Time min)st No.3““No.4 振動加速度RMSRMS(ratio)900kgf1500kgf:........iframamationwaywritremitsumini.““TOKYO)SA) 20 2,5000 Time(min) (d) Test No.410 | No.5 振動加速度RMSRMS(ratio)900kgfI 400kgf 10001200 1400200400600 800 Tincimin)30010No.5 振動加速度RMSRMS(ratio)900kgf~~~ 200 400~~ ~~600 800 'Tinioimin)~~~400kgf/1000 1200 1400(e) Test No.5 Fig.3 RMS of acceleration and defects of test bearings22- 全ての試験において微小傷加工を起点として転動体剥 離が発生した。最も高荷重の試験 No.1 では3個の転動体 に剥離が発生し、そのうち2個は割れが発生していた。 全ての試験において転動体以外の部位に剥離は発生しな かった。2.3 信号特性の分析 (1) 転動体剥離を示す典型的なスペクトル - Fig.4 に試験 No.2 における envelope 処理後の周波数ス ペクトルを示す。なお envelope 処理は高周波(本分析で は 3kHz 以上) の振動を包絡線処理することで、周期性を 抽出しやすくするものである。0.025| A(1000分)0.0201試験No.2 振動RMSraboRAiAmplitude[V]10indein)10.0050:00:00501(R) 150 21 2,500 KCH) 3500403450700Frequency [Hz]0.0257B (8500分)0.02転動体の公転 周波数10.015-Amplitude[V]転動体の自転 周波数×20:07:210.000円050100 150200250 300 35040Frequency [Hz]450500Fig.4 envelope-FFT (Test No.2)試験開始8500分のスペクトルには「O 転動体の公転 周波数とその高調波」および「2 転動体の自転周波数 ×2とそれを中心とする転動体公転周波数間隔のサイド バンド」が現れている。1は剥離の発生した転動体が軸 受内の応力集中箇所を通過する度に生じる振動に対応し ている。2は転動体の自転運動に伴い剥離が内輪と外輪 に接する度に発生する振動に対応している。このようなスペクトルは転動体剥離の典型的なもので あり、よく知られた結果である。 [3] ただし1と2が常に 観測されるわけではなく、本試験においては主にDが観 測されている。(2) 転動体軌道面の変化Fig.5 に試験No.5 における振動加速度 RMSの時間変化 及び envelope 処理後の周波数スペクトルを示す。試験No.5 振動RMSRMSiratio)100006000 Tinnel smin)A (1170分) 転動体の自転周波数×2 | 転動体の公転周波数0.0501 0.0450.040 50,035 雪0.00020.025H 20.020]0.015 0.010-1 0.000 0.000012005006001300400 Frequency (121B (1200分)10.0505 10,0450.04010.035 雪0,030] 2 .25 i0.02010.015 0.010 0.005Frequency [Hz]Fig.5 envelope-FFT (Test No.5)A点(試験開始 1170 分)では振動 RMS は試験開始時 の10倍程度まで上昇し、転動体剥離を示すスペクトルが 明確に現れている。一方 A 点から 30 分後のB点(1200 分)では振動 RMSは試験開始時に近いレベルまで低下し、 転動体剥離を示すスペクトルがほとんど見られない。これは転動体の自転軸が変化したことで、転動体剥離 が内外輪に接触しなくなったことによるものと考えられ る。転動体剥離が小さい場合、このような現象が発生し うる。Fig..3 (d) に示したように試験 No.4 では振動レベルが 一度急激に上昇した後、再び試験開始時程度のレベルま で低下し長時間安定した状態で運転されている。これも 発生した転動体剥離が転動面からそれたことによるもの と考えられる。内輪または外輪の剥離では剥離の表面状態の変化はあ るもののこのような現象は発生せず、転動体剥離に特有 の現象と言える。また剥離が転動体の表面積を占める割 が大きい場合も、剥離が転動面から逸れることはない。 よってこのような現象が観測された場合、初期段階の転 動体剥離が発生していると診断することが出来る。23(3) 転動体初期剥離の信号特性 Fig.6に試験 No.2 の振動 RMS と生信号を示す。| 試験No.2振動RMSRMS(ratio)220103500036941700m TintoriniJA3400分amplitude[V]転動体の公転周期1 1020.40. 40. 60.811.0 linie| B3690分|||amplitudes転動体の公転周期301001times!Fig.6 vibration signal (Test No.2)剥離発生直後である A 点 (3400 分)の信号波形から、 転動体の公転周期で信号が大きくなるとともに、公転3 回に1回程度の頻度で特に大きい振動が発生しているこ とが分かる。一方剥離発生後5時間程度経過した B 点 (3690 分)では毎公転ごとに大きな振動が発生している。これらの現象は以下のように説明出来る。軸受には一 定方向の荷重がかかっており応力集中箇所が存在する。 また軸受の運動として一般的にある場所から転動体が1 公転した時内外輪と接する転動体の点は1公転前とは等 しくない。(公転周期が自転周期の整数倍になっていな い)このことから転動体剥離が小さい時、剥離の発生し た転動体が応力集中箇所を通過する際ちょうど剥離が転 動面に接する場合と、そうでない場合があるため A 点で 観測されたような信号となる。刺離が大きく進展すると、 応力集中箇所を通過する際常に剥離が転動面と接するよ うになり B 点のように公転ごとに大きな振動となる。 (Fig.7)荷重方向動体剥離最も高い応 力がかかる 場所転動体剥離発生時 剥離の発生した転動体が最も応 力の集中する箇所を通過する度 に振動が大きくなる。剥離が小さい場合振動小振動小振動大剥離が大きい場合0振動大振動大振動大Fig.7 analysis of vibration characteristics(4) 損傷進展速度Fig.8 に全ての試験の剥離発生後の荷重と剥離の進展速 度の関係を示す。なお剥離の進展速度は試験終了時の剥 離の大きさ(損傷量)を剥離発生後の運転時間で除した 値である。損傷量は剥離が転動体の表面積に占める割合 とした。 なおNo.1 については複数個の転動体に剥離が発 生し割れも生じているためその他の試験と同列に評価す ることが出来ないが、ここでは参考として割れの生じた 転動体は剥離が全面に生じた場合と同じ損傷量とし、複 数個の損傷量は足しあわせて評価したものを表示してい剥離発生後の負荷荷重(kgf)NO.40,000010,00010.10.0010 .02 | 剥離進展速度(/min)Fig.8 load and speed of damage progress24* 低荷重ほど進展速度が遅い傾向は現れているものの、 ばらつきが大きい。転動体剥離では自転軸が変化するこ とにより剥離と転動面の接触の仕方が変化するためばら つきは大きくなりやすいと考えられる。荷重と進展速度 に関係を見出すにはさらに多くの試験を行う必要がある。3. まとめレーザーで微小傷加工を施すことにより、転動体剥離 を集中的に発生させる試験を行った。剥離の発生や進展 の仕方については、このような微小傷の導入の影響を無 視することは出来ないが、転動体剥離の形状や大きさと 振動信号の関係性についての知見を蓄積するという観点 からは有効な試験法であると言える。 * 本試験により、転動体剥離の初期段階に特徴的な信号 特性が明らかとなった。すなわち「O 公転数回に1回 の大きな振動の発生」、「2 転動面から剥離が逸れるこ とによる振動値の減少」である。これらは転動体剥離の 損傷量を定量的に評価する際の基礎的な知見となり得る ものである。ただしこれらは全ての試験において観測されているわ けではなく、違いが生じる原因について現時点では明ら かではないため、さらなる試験を行い信号をより深く物 理現象と結びつける必要がある。参考文献 [1] 萱田良、馬渡慎吾、黄皓守、ペランステファン、真木紘一、電磁診断技術による傷付与転がり軸受の測 定及び信号処理による傷大きさの推定法、日本保全 学会 第6回学術講演会 ホテルニューオータニ礼幌 2009/8/3-5 [2] 馬渡慎吾、角皆学、高瀬健太郎、菅田良、電磁診断技術による転がり軸受の劣化進展過程の計測及び診 断、日本保全学会 第7回学術講演会 御前崎市民会館、浜岡原子力館 2010/7/13-15 [3] 豊田利夫 回転機械診断の進め方日本プラントメンテナンス協会 1991/01“ “軸受転動体異常の定量的評価手法に関する研究“ “角皆 学,Manabu TSUNOKAI,萱田 良,Ryo KAYATA,ペラン ステファン, Stephane PERRINE,高瀬 健太郎,Kentaro TAKASE
傷加工の方法は、レーザー加工により転動体の1つに 保持器を貫通させて傷をつけるものである。加工により転動体付与される傷は直径 1mm、深さ 0.5mm 程度である。 Fig..1 にレーザー加工を施した試験軸 受を示す。プラントの信頼性と効率を高めるという観点から、状 態監視保全(CBM : Condition Based Maintenance)の重要 性が高まっている。CBM を効果的に行うためには、セン サで得られた情報と機器の状態が定量的に結びついてい ることが望まれる。回転機器の主要な劣化部位である軸受の損傷定量的評 価手法に関して、これまでに内輪または外輪に人工的に 付与した損傷の程度を評価する手法や、自然に発生した 外輪剥離の周方向長さを評価する手法が報告されている。 [1][2] 1. 本研究では内輪剥離、外輪剥離と並んで軸受の主要な 劣化モードである転動体剥離について、その信号特性に ついての知見を拡充するとともに、定量的評価手法を検 討する。
Fig.1 Test bearing processed by laser劣化加速試験機は試験軸受の径方向に高荷重をかけて 運転を行うものである。Fig.2 に劣化加速試験機の外観と センサ設置箇所を示す。本研究では荷重条件を変え5つ |
2. 劣化加速試験
2.1 試験方法 * 本試験では転動体剥離発生後の信号に着目しているた め、まず新品の深溝玉軸受の転動体に微小な傷加工を施 し、転動体剥離の発生を促進させた状態で劣化加速試験 機に組み込み運転する。
劣化加速試験機は試験軸受の径方向に高荷重をかけて 運転を行うものである。Fig.2 に劣化加速試験機の外観と センサ設置箇所を示す。本研究では荷重条件を変え5つ の試験を行った。AccelerometerTest BearingFig.2 Accelerated aging test machineTable 1 に各種試験条件、Table 2 にそれぞれの試験の荷 重条件を示す。なお本試験で剥離発生後も継続して運転 を行うが、試験終了条件は振動レベルや運転音、運転時 間等によっており試験ごとに異なる。Table 1 A list of the testing conditions 軸受仕様深溝玉軸受 6206 動定格荷重2トン転動体数 9 潤滑方式 自然落下方式の循環給油 軸回転数2000 pm荷重方向純ラジアル荷重測定条件使用センサ:振動加速度計 サンプリング周波数:20kHz サンプリング時間:10秒 フィルタ:10kHz LPFTable 2 A list of the load conditions 試驗D荷重条件 No.1 1000kgf(試験開始から終了まで一定) No.2 700kgf(試験開始から終了まで一定) No.3 剥離発生前 900kgf 発生後 600kgfNo.4 剥離発生前 900kgf 発生後 500kgf 試験 No.5 剥離発生前 900kgf 発生後 400kgf2.2 試験結果Fig.3 に全ての試験の開始から終了までの振動加速度 RMS と試験終了時点の損傷状態を示す。なお RMS は試 験開始時の値を1とした比で表している。451No:1 振動加速度RMS1000kgfRMS(ratio)......1000200050006000700030001 4000 Time(min)るさast No.1No.2 振動加速度RMS700kgfRMS(ratio)Time(min)(b) Test No.2sfNo.3-振動加速度RMSRMS(ratio)900kgfT1600kgf115001.00045602090251E+27Time min)st No.3““No.4 振動加速度RMSRMS(ratio)900kgf1500kgf:........iframamationwaywritremitsumini.““TOKYO)SA) 20 2,5000 Time(min) (d) Test No.410 | No.5 振動加速度RMSRMS(ratio)900kgfI 400kgf 10001200 1400200400600 800 Tincimin)30010No.5 振動加速度RMSRMS(ratio)900kgf~~~ 200 400~~ ~~600 800 'Tinioimin)~~~400kgf/1000 1200 1400(e) Test No.5 Fig.3 RMS of acceleration and defects of test bearings22- 全ての試験において微小傷加工を起点として転動体剥 離が発生した。最も高荷重の試験 No.1 では3個の転動体 に剥離が発生し、そのうち2個は割れが発生していた。 全ての試験において転動体以外の部位に剥離は発生しな かった。2.3 信号特性の分析 (1) 転動体剥離を示す典型的なスペクトル - Fig.4 に試験 No.2 における envelope 処理後の周波数ス ペクトルを示す。なお envelope 処理は高周波(本分析で は 3kHz 以上) の振動を包絡線処理することで、周期性を 抽出しやすくするものである。0.025| A(1000分)0.0201試験No.2 振動RMSraboRAiAmplitude[V]10indein)10.0050:00:00501(R) 150 21 2,500 KCH) 3500403450700Frequency [Hz]0.0257B (8500分)0.02転動体の公転 周波数10.015-Amplitude[V]転動体の自転 周波数×20:07:210.000円050100 150200250 300 35040Frequency [Hz]450500Fig.4 envelope-FFT (Test No.2)試験開始8500分のスペクトルには「O 転動体の公転 周波数とその高調波」および「2 転動体の自転周波数 ×2とそれを中心とする転動体公転周波数間隔のサイド バンド」が現れている。1は剥離の発生した転動体が軸 受内の応力集中箇所を通過する度に生じる振動に対応し ている。2は転動体の自転運動に伴い剥離が内輪と外輪 に接する度に発生する振動に対応している。このようなスペクトルは転動体剥離の典型的なもので あり、よく知られた結果である。 [3] ただし1と2が常に 観測されるわけではなく、本試験においては主にDが観 測されている。(2) 転動体軌道面の変化Fig.5 に試験No.5 における振動加速度 RMSの時間変化 及び envelope 処理後の周波数スペクトルを示す。試験No.5 振動RMSRMSiratio)100006000 Tinnel smin)A (1170分) 転動体の自転周波数×2 | 転動体の公転周波数0.0501 0.0450.040 50,035 雪0.00020.025H 20.020]0.015 0.010-1 0.000 0.000012005006001300400 Frequency (121B (1200分)10.0505 10,0450.04010.035 雪0,030] 2 .25 i0.02010.015 0.010 0.005Frequency [Hz]Fig.5 envelope-FFT (Test No.5)A点(試験開始 1170 分)では振動 RMS は試験開始時 の10倍程度まで上昇し、転動体剥離を示すスペクトルが 明確に現れている。一方 A 点から 30 分後のB点(1200 分)では振動 RMSは試験開始時に近いレベルまで低下し、 転動体剥離を示すスペクトルがほとんど見られない。これは転動体の自転軸が変化したことで、転動体剥離 が内外輪に接触しなくなったことによるものと考えられ る。転動体剥離が小さい場合、このような現象が発生し うる。Fig..3 (d) に示したように試験 No.4 では振動レベルが 一度急激に上昇した後、再び試験開始時程度のレベルま で低下し長時間安定した状態で運転されている。これも 発生した転動体剥離が転動面からそれたことによるもの と考えられる。内輪または外輪の剥離では剥離の表面状態の変化はあ るもののこのような現象は発生せず、転動体剥離に特有 の現象と言える。また剥離が転動体の表面積を占める割 が大きい場合も、剥離が転動面から逸れることはない。 よってこのような現象が観測された場合、初期段階の転 動体剥離が発生していると診断することが出来る。23(3) 転動体初期剥離の信号特性 Fig.6に試験 No.2 の振動 RMS と生信号を示す。| 試験No.2振動RMSRMS(ratio)220103500036941700m TintoriniJA3400分amplitude[V]転動体の公転周期1 1020.40. 40. 60.811.0 linie| B3690分|||amplitudes転動体の公転周期301001times!Fig.6 vibration signal (Test No.2)剥離発生直後である A 点 (3400 分)の信号波形から、 転動体の公転周期で信号が大きくなるとともに、公転3 回に1回程度の頻度で特に大きい振動が発生しているこ とが分かる。一方剥離発生後5時間程度経過した B 点 (3690 分)では毎公転ごとに大きな振動が発生している。これらの現象は以下のように説明出来る。軸受には一 定方向の荷重がかかっており応力集中箇所が存在する。 また軸受の運動として一般的にある場所から転動体が1 公転した時内外輪と接する転動体の点は1公転前とは等 しくない。(公転周期が自転周期の整数倍になっていな い)このことから転動体剥離が小さい時、剥離の発生し た転動体が応力集中箇所を通過する際ちょうど剥離が転 動面に接する場合と、そうでない場合があるため A 点で 観測されたような信号となる。刺離が大きく進展すると、 応力集中箇所を通過する際常に剥離が転動面と接するよ うになり B 点のように公転ごとに大きな振動となる。 (Fig.7)荷重方向動体剥離最も高い応 力がかかる 場所転動体剥離発生時 剥離の発生した転動体が最も応 力の集中する箇所を通過する度 に振動が大きくなる。剥離が小さい場合振動小振動小振動大剥離が大きい場合0振動大振動大振動大Fig.7 analysis of vibration characteristics(4) 損傷進展速度Fig.8 に全ての試験の剥離発生後の荷重と剥離の進展速 度の関係を示す。なお剥離の進展速度は試験終了時の剥 離の大きさ(損傷量)を剥離発生後の運転時間で除した 値である。損傷量は剥離が転動体の表面積に占める割合 とした。 なおNo.1 については複数個の転動体に剥離が発 生し割れも生じているためその他の試験と同列に評価す ることが出来ないが、ここでは参考として割れの生じた 転動体は剥離が全面に生じた場合と同じ損傷量とし、複 数個の損傷量は足しあわせて評価したものを表示してい剥離発生後の負荷荷重(kgf)NO.40,000010,00010.10.0010 .02 | 剥離進展速度(/min)Fig.8 load and speed of damage progress24* 低荷重ほど進展速度が遅い傾向は現れているものの、 ばらつきが大きい。転動体剥離では自転軸が変化するこ とにより剥離と転動面の接触の仕方が変化するためばら つきは大きくなりやすいと考えられる。荷重と進展速度 に関係を見出すにはさらに多くの試験を行う必要がある。3. まとめレーザーで微小傷加工を施すことにより、転動体剥離 を集中的に発生させる試験を行った。剥離の発生や進展 の仕方については、このような微小傷の導入の影響を無 視することは出来ないが、転動体剥離の形状や大きさと 振動信号の関係性についての知見を蓄積するという観点 からは有効な試験法であると言える。 * 本試験により、転動体剥離の初期段階に特徴的な信号 特性が明らかとなった。すなわち「O 公転数回に1回 の大きな振動の発生」、「2 転動面から剥離が逸れるこ とによる振動値の減少」である。これらは転動体剥離の 損傷量を定量的に評価する際の基礎的な知見となり得る ものである。ただしこれらは全ての試験において観測されているわ けではなく、違いが生じる原因について現時点では明ら かではないため、さらなる試験を行い信号をより深く物 理現象と結びつける必要がある。参考文献 [1] 萱田良、馬渡慎吾、黄皓守、ペランステファン、真木紘一、電磁診断技術による傷付与転がり軸受の測 定及び信号処理による傷大きさの推定法、日本保全 学会 第6回学術講演会 ホテルニューオータニ礼幌 2009/8/3-5 [2] 馬渡慎吾、角皆学、高瀬健太郎、菅田良、電磁診断技術による転がり軸受の劣化進展過程の計測及び診 断、日本保全学会 第7回学術講演会 御前崎市民会館、浜岡原子力館 2010/7/13-15 [3] 豊田利夫 回転機械診断の進め方日本プラントメンテナンス協会 1991/01“ “軸受転動体異常の定量的評価手法に関する研究“ “角皆 学,Manabu TSUNOKAI,萱田 良,Ryo KAYATA,ペラン ステファン, Stephane PERRINE,高瀬 健太郎,Kentaro TAKASE