SS400 鋼の磁化特性を利用した応力と塑性変形の評価

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カテゴリ: 第9回
1.緒言
強磁性体の磁化特性は負荷応力に依存し、逆に力学的 特性は磁場や磁化などの磁気的な量に依存することが知 られており、このような磁気的な量と力学的な量の間の 相互作用を、磁気弾性結合効果と呼ぶ[1]。磁気弾性結合 効果の例として、磁場を印加すると材料がわずかに変形 する Joule 効果[2]や、磁場を印加した状態で応力を変動さ せると磁化が変化する Villari 効果[3]などがある。 * 各種建造物の構造材料として広く用いられている鉄鋼 材料は、一般に強磁性体であり、磁気弾性結合効果を利 用して残留応力・劣化・損傷などを磁気的な測定から非 破壊的に評価する方法が盛んに研究されている。例えば、 磁歪を利用した応力測定[41、外部磁束密度計測による応 力測定[5]、保磁力や透磁率計測による応力評価[6]などが ある。一方、強磁性材料の保磁力や透磁率といった磁化特性 は、塑性変形にも強く依存することが知られており[T、 この性質を利用して塑性変形や疲労損傷・材料劣化など を非破壊的に評価する方法が研究されている。例えば、 磁気マイナーループを用いた炭素鋼の劣化評価[8]、磁気 音弾性法を利用した残留塑性ひずみの評価[9]、磁気アコ 一スティックエミッションを利用した疲労損傷度の評価 [10]などがある。また、非磁性であるオーステナイト系ステンレス鋼に対しては、漏洩磁束の測定による損傷・疲 労の評価法の研究が行われている[11-12]。 - このように、鉄鋼材料の応力や塑性変形の磁気的な非 破壊評価に関しては、様々な手法が研究されている。し かし、飽和磁気ヒステリシス曲線の定式化による応力や 塑性変形の非破壊評価に関する研究はこれまでほとんど 行われていない。そこで本研究では、一般的な構造用綱 である SS400 鋼について、飽和磁気ヒステリシス曲線の 定式化に基づいて、応力や塑性変形を非破壊評価する手 法について検討した。具体的には、飽和磁気ヒステリシ ス曲線を中立磁化曲線とヒステリシスギャップ曲線に分 離し、それぞれのべき級数展開の係数をパラメータとし て取り出し、応力や残留ひずみとの関連を調査した。
2. 中立磁化曲線とヒステリシスギャップ曲線
強磁性体に Fig.1(a)のような周期的な磁場を印加した場 合、Fig.1(b)のように磁化曲線がヒステリシスループを表 すことが知られている。特に、Fig.1b)のように正負の飽 和磁化まで磁場を印加したループをメジャーループと呼 ぶ。また、磁場の減少過程を表す曲線 ABCD を下降曲線、 磁場の増大を表す曲線 DEFA を上昇曲線と呼ぶ。 * ここで、Fig.2 に示すような、メジャーループ MIを考 える。ここで、添字の+とーは、ヒステリシスの上昇過 程と下降過程をそれぞれ表す。メジャーループにおいて、 増加磁場あるいは減少磁場における磁化 M14は、次のよ211Magnetic field HTime (a) Time variations of(b) Major loop applied magnetic fieldFig. 1 Magnetization curve for ferromagneticMagnetization Mt. Mt [T]1940/11/013040-30 -20-100 1020Magnetic field H[kA/m] Fig.2 Magnetic curveITMagnetizationMagnetization Adom491020-100 10 2010 40Atagreetic field H[kWin)40 -30-20-10 0 10 201040Magnetic field HKA'mFig.3 Neutral magnetic curveFig.4 Hysteresis gap ofmagnetizationMH SMITE+ MI+ + MA MH+ MH-+8““ _ = M' + SMG (1)うに与えられる。THE MR++ MA1-MA+ - MT|- = M““ + SMHG (1) 12MIEただし、M' は、Mさと M*の平均値、すなわち、中立 磁化であり、MO はそれらの差、すなわちヒステリシス ギャップである。また、8は、磁場 H が座標軸方向に増 加するとき+1、減少するとき-1 の値をとるヒステリシス を表すパラメータである。Fig.3 に示す中立磁化 M は、MAO、THHO の原点に関し て対称であるため、磁場の奇関数で表すことができる。 一方で、Fig.4 に示すヒステリシスギャップ MCは、磁場 に関して対称であるため、磁場の偶関数で表すことがで きる。すなわち、M' と MC は以下のようなべき級数で表 されることがわかる。MY = g,M2i-1, MIG - Xh,M2-23303. 実験方法 3.1 試験片 1. 本研究では、弾性域測定用・塑性域測定用の2種類の SS400 鋼試験片を使用した。まず、弾性域測定用試験片は Fig.5 に示すように JISZ2201 規格に準拠した形状のもの (E8-20 型) を3本作 成した。次に、塑性域測定用試験片として、Fig.6に示す形状の 試験片(P8-20 型) を作成した。この形状は、塑性変形が 確実に試験片中央部で発生し、かつ後述の磁化曲線の測 定範囲においてなるべく一様に変形するよう意図したも のである。P8-20型試験片では、最大ひずみが1.25%、2.50%、 3.75%、5.00%となるように引張荷重を与えたあとに除荷 し、異なる残留ひずみを生じさせたものを各 3 本作成し た。各試験片の最大ひずみと残留ひずみを Tablel に示す。3.2 磁化曲線の測定磁化曲線の測定方法について説明する。測定方法の模 式図をFig.7に示す。 電磁石を用いて試験片長手方向に磁 場を印加しながら、試験片長手方向の磁場H、磁化 Mの 測定を行った。また、弾性域測定の際は、引張試験機を 用いて試験片長手方向に応力を負荷した。なお、引張応 力は0MPa~200MPa まで 20MPa刻みとした。磁場 Hの測定においては、磁場 H の面方向成分が試験 片の表面の境界において連続であることから、Fig.7 のよ うにホールセンサの先端を試験片中央部表面に設置し、 得られた磁束密度から試験片内部の磁場を求めた。また、磁化 Mの測定には試験片中央部にエナメル線(直 径0.1mm) を 100 巻きした B-コイルを用いた。B-コイル から発生した誘導起電力をフラックスメータで積分して 得られる試験片内部の磁束を、試験片の断面積で割るこ とで磁束密度の値を算出した。そして以下の式、B = usH + M-3を用いて磁化 M を計算した。ここではっは真空の透磁率 (-4 ×10'[H/ml)である。2121900/01/24101899/12/3111510Fig.5 Specimen for elastic range measurement (E8-20)201565..........Fig.6 Specimen for plastic range measurement (P8-20)0Table 1 Maximum strain and residual strain (P8-20)残留ひずみ 試驗片名称 最大ひずみ(歪ゲージから読取) P8-20-5 | 02006/08/20 12:00:0010 -P8-20-7 | 0 P8-20-8 0.01250.0111 P8-20-9 0.02500.0232 P8-20-10 0.03750.0353 P8-20-11 0.05000.0476 P8-20-12 0.01250.0109 P8-20-13 0.02500.0232 P8-20-14 0.03750.0353 P8-20-15 0.05000.0476 P8-20-16 0.01250.0109 P8-20-17 0.02500.0231 P8-20-18 0.03750.0358 P8-20-19 0.05000.0476Tensile stressFlux meierHole sensorSpecimenYOUTIFA130Gauss meterElectric magnetFig.7 Experimental set-up for magnetic measurementFig. 74. 実験結果および考察4.1 磁化曲線まず、弾性引張応力下での磁化曲線の測定結果の一部 をFig.8 に示す。磁化の最大値が応力の増加とともにわず かに減少していることがわかる。また、OkA/m~5kAm 領域の磁化曲線の傾き、すなわち磁化率も応力により若 干変化している。これらは、磁気弾性結合効果によるも のと考えられる。 - 次に、塑性変形を有する試験片の磁化曲線の測定結果 の一部を Fig.9に示す。凡例の括弧内の数字は、それぞれ の試験片の残留ひずみである。残留ひずみの増加ととも に磁化率が減少していることがわかる。これは、塑性変 形に伴い、転位などの磁壁移動を妨げる因子が増加した ためと考えられる。4.2 応力と塑性変形の評価 - 実験により得られた磁化曲線を、中立磁化曲線とヒス テリシスギャップ曲線に分離し、(2)式による最小二乗近 似を行い、それぞれの試験片について各パラメータ gth; を求めた。このとき、磁場の 30 次まで、すなわち =30 までの近似を行った。また、Fig.4, 5 のように狭い磁場範 囲で急激な磁化の変化が起こるので、近似精度の向上の ために、-2kAlm~2kAlm の磁場範囲のデータを用いた。Fig.10 に弾性応力を負荷した試験片の解析結果を示す。 紙面の都合上、ggs, hoy hpのみ示す。各パラメータとも、 100MPa 付近で極値を持っており、応力に対して2価関数 的な変化をしていることがわかる。したがって、これら のパラメータを用いると 0MPa~100Mpa の範囲での応力 評価は可能であるが、それ以上の応力範囲では応力を一 意に求めることができないと考えられる。Fig.11 に塑性域試験片の解析結果を示す。弾性域試験片 と同様、g,g,hosh,のみ示す。各パラメータとも、残留ひ ずみ 0~0.01 の間で急激に値が変化し、その後は緩やかに 変化あるいはほとんど変化していないことがわかる。こ のことから、塑性変形の有無の評価については非常に有 効である一方、大きな塑性変形が生じた場合にその程度 を評価することは難しいと考えられる。5結言1. 本研究では、一般構造用綱である SS400 鋼を実験対象 に、飽和磁化曲線を中立磁化曲線とヒステリシスギャッ213プ曲線に分離し、それぞれのべき級数展開の係数をパラ メータとして取り出すことで、応力と塑性変形を評価す る手法について検討した。その結果、以下のことがわか った。 1 弾性域の引張応力下では各パラメータが、100MPa付近で極値を取るような変化をする。したがって、こ れらのパラメータを用いると 0MPa~100Mpa の範囲 での応力評価は可能であるが、それ以上の応力範囲 では応力を一意に求めることができないと考えられる。塑性変形を有する試験片については、残留ひずみ 0 ~0.01 の間で急激なパラメータの変化が見られ、0.01 以降は大きく変化しない。このことから、塑性変形 の有無の評価については非常に有効である一方、大 きな塑性変形が生じた場合にその程度を評価するこ とは難しいと考えられる。 今後、磁化曲線の低磁場領域における測定点数を増や すなどして、べき級数展開の近似精度を向上させるとと もに、他関数での近似も検討し、応力や残留ひずみの定 量評価に取り組んでいきたい。Magnetization (T]OMPa 100MPa200Mpa -10010 12030 Magnetic field [kA/m]2019/01/30-20Fig.8 Magnetization curves of E8-20-1 under stressMagnetization [T]25 'sos-?P8-20-5(0) 2008-20-10(0.0353)P8-20-11(0.0476) ---- 10-40 -30 -20 -10 0_ 10 20 30 40Magnetic field [kA/m] Fig.9 Magnetization curves of plastic deformed SS4002.82.742.54g [T/(kA/m)]2.442.3t2.25E8-20-1 E8-20-2. E8-20-3..50200100 1150 Tensile stress (MPa]すか付こ囲囲れoa形大こやと定-0.6.E8-20-1 E8-20-2. E8-20-3・g T/(kA/m)]-1.21900/02/18200100 1150 Tensile stress [MPa]2.7r2.62.3[L]y2.2k2.15191.80E8-20-1 E8-20-2E8-20.3 50100Tensile stress [MPa]20030E8-20-1 E8-20-2 , E8-20-3FETT[T(kA/m)-E8-20-1 E8-20-2E8-20-3 100 150 Tensile stress (MPa]e1250200E8-20-1 .. E8-20-2 E8-20-3わ [T(kA/m)200- 50 100 150Tensile stress [MPa] Fig.10 Relations between Parameters and tensile stress21418001600314001200g [T/(kA/m)]10008001901/08/222000.010.02 0.03 Residual strain0.040.05300200g, [T/(kA/m)]-400 100.010.040.050.02 0.03 Residual strainhる [T]1500 1400 1300 1200 1100 1000 900 800 700 600 5000.010.02 0.03 Residual strain0.040.057006005000.010.02 0.03 Residual strain0.040.0510-500-1000ha [T/(kAlm)*1・1500 -2000-2500 E-3000-35001889/01/16-45000_ 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05Residual strain Fig.7 Relations between Parameters and residual strain参考文献 [1] R. M. Bozorth, “Ferromagnetism”, Van Nostrand, 1951. [2] J. P. 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[8] 中曽根祐司, 岩崎祥史, 清水徹、“マルテンサイト変態を応用した劣化・損傷の非破壊的検出に関する研 究”, 日本機械学会材料力学部門講演会講演論文集, 2001, pp.579-580.215、“ “SS400 鋼の磁化特性を利用した応力と塑性変形の評価“ “渡邊 誠,Makoto WATANABE,安部 正高,Masataka ABE,松本 英治,Eiji MATSUMOTO
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