ハイビジョンカメラを用いた水中カメラの開発
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カテゴリ: 第9回
1. はじめに
沸騰水型原子炉(BWR)では、図1に示す構造の燃料 集合体が用いられており、ハンドル部に個々の燃料集合 体固有の識別番号(アルファベットと数字 6 文字以内 例:HBA123)が刻印されている。 1 原子力発電所では、定期点検の際に燃料集合体が原子 炉内に所定の位置に正しく配置されていることを、水中 カメラを用いて燃料集合体のハンドル部の識別番号を確 認する検査(以下、「番号確認検査」という。)を行って いる。また、毎年使用済燃料プールの燃料ラックの所定 の位置に正しく配置されていることを番号確認検査と同 様に実施している(以下、「棚卸し」という。)。 11 番号確認検査や棚卸しの対象となる燃料集合体は数が 多く、また番号確認検査は定期点検全体の工程に影響を 及ぼす場合があるため、作業時間短縮が求められている。 * 現状の水中カメラは耐放射線性を有しているものの画 像が鮮明ではない。そのため番号確認検査や棚卸しでは、 燃料集合体の識別番号を1体ずつ確認している。そこで、同時に 2 体以上の燃料集合体の識別番号を確 認でき、作業時間を短縮できる水中カメラシステムを開 発することとした。また、定期点検時には、燃焼度の高い燃料等代表的な 燃料集合体を何体か抽出し、チャンネルボックスを取り 外して燃料棒の傷や曲りの有無等を、水中カメラを用い て調べる検査(以下、「外観検査」という。)を実施して いる(図2)。開発した水中カメラシステムの画像が鮮明であること から、外観検査にも適用できるように改良した。
ハンドル外部スプリング・スプリング 約10mm約10mm月/ベレットま支持格子燃料被覆管 (ジルコニウム合金)約45mチャンネル ボックスペレットタイプレートキットA・AMウォーターロッド約14cm図1 BMR 燃料集合体(例)255図2 外観検査の実施状況
2. ハイビジョン水中カメラの開発
2.1 番号確認用カメラ (1)仕様の検討番号確認検査や棚卸し時の使用環境および水中カメ ラの運用性の観点から、以下の仕様を満足することとした。・3気圧までの耐圧性能があること ・カメラからモニタまでのケーブル長さ(約 50m)においても信号が減衰しないこと ・モニタ出力までの伝送・処理時間遅れのないこと ・遠隔からカメラ操作(ズーム・フォーカス・アイリス・ホワイトバランス調整等)ができること ・画像が鮮明であること ・小型軽量であること ・取得費用・保守費用が低減できるものであることなお、耐放射線性については試験により実力を評価 し、使用方法を定めることとした。(2)試作(1)の条件をもとに機器を選定し、模擬環境での動作 試験を実施した結果、幅 458mm×奥行 167mmm×高さ 980mm、重量 46.4kg(500W の水中照明 2 灯を含む) となった(図3)。なお、識別番号を刻印した燃料集合体ハンドル部模 擬体を撮影した状態で、Co-60 線源による照射試験を実施し、15Gyh程度までは放射線によるノイズの影響が 小さく(表1)、また集積線量200Gy 程度まで使用可能 な市販のハイビジョンカメラを選定した。吊り下げ部フレームカメラの入った耐圧容器 (底面はガラス)照明:左右に2個 ※フレームに隠れている仮置き架台図3 番号確認用カメラの外観表1 放射線による画像の影響射線量率 | (Gyh)撮影画像結果ほとんど気にならない115多少ノイズはあるが目視可能ノイズがひどく実用不可100ノイズがひどく実用不可注: 動画で見るとノイズが顕著Om) iことアイリ(3)浜岡原子力発電所での確認浜岡原子力発電所2号機の使用済燃料プールにて燃 料集合体ハンドル部の刻印番号を確認した。従来の耐 放射線性カメラとの画像の比較を表2に示す。使用済 燃料の場合 1.5~2m の距離で同時に2~6体程度、新燃 料の場合 5m 程度の距離で 35 体程度の燃料集合体を一 度に確認できた。表2 画像の比較 従来の放射線性今回開発したカメラ カメラ(撮像管)画像るるん152562.2 外観検査用カメラ (1) 外観検査への適用拡大にあたっての課題外観検査にあたっては、番号確認より更に詳細な燃 料棒表面の状態等を確認する必要がある。そのために、 試作機を製作・試験を実施し、以下の課題について確 認することとした。 ・カメラ保護用の遮へいの有無 ・(放射線ノイズ軽減のため)ミラーで反射させる方法と直接見る方法のどちらがよいか ・照明による光の当て方(2)試作(1)の各項目が確認できるように設計した。吊り下げ る場所を変え、遮へいの取外しができるようにした。 なお、照明は4灯とし、1灯ごとに ON/OFF および調 光できるものとした(表3)。非放射線下で確認をした結果、照明は2灯で十分で あること、またミラーで反射させる方法では撮影対象 の輪郭がぼやけてしまうため、直接見る方法が有効で あることが判明した。また、浜岡原子力発電所にて直接見る方法において、 1m 以上の距離でもズームすれば放射線の影響を受けず に十分鮮明な画像が得られ、遮へいが不要になること を確認した(表4)。表3 試作した外観検査用カメラミラーで反射させる方法 | 直接見る方法 寸法 | | 500×260×860mm | 500×500×350mm 重量」95kg65kg外觀鉛遮へい表4 浜岡原子力発電所での外観検査画像例従来型耐放射線カメラ | 外観検査用試作カメラ画像(3)製作(2)の非放射線下および浜岡原子力発電所での試験結 果を受け、鉛遮へいは省略し、燃料集合体を直接見る 方法とし、また照明を2灯とした外観検査用水中カメ ラ(番号確認用にも適用可能)の製作を実施した(図 4)。寸法は 370×400×328mm、重量は 20.5kg と小型 軽量化することができた。なお、非放射線下において動作確認を行った結果、 距離 1.5m・20 倍ズームにて0.3mmの程度のピンホール まで検出できることが確認できた。図4 外観検査用水中カメラ外観3. まとめ. 市販のハイビジョンカメラを用いて高解像度の画像が 得られる水中カメラの開発ができた。燃料集合体の番号 確認検査・棚卸しおよび外観検査における視認性が向上 し、作業性が向上する水中カメラシステムを構築するこ とができた。参考文献 [1] 渡邉 将人他,“炉内配置および燃料外観検査用ハイビジョン水中カメラの開発”, 日本保全学会第7回学術講演会, 御前崎, 2010, pp.112-115. [2] 河村 真吾他、“ハイビジョン画像の原子力発電所への適用(1) 燃料集合体番号確認と外観検査への 適用”, 日本原子力学会 2012 年春の年会, 福井, 2012, pp.189.(平成24年5月 11 日)257“ “ハイビジョンカメラを用いた水中カメラの開発 “ “辻 建二,Kenji TSUJI,渡邊 将人,Masato WATANABE,高島 政信,Masanobu TAKASHIMA,河村 真吾,Shingo KAWAMURA,田中 寛之,Hiroyuki TANAKA
沸騰水型原子炉(BWR)では、図1に示す構造の燃料 集合体が用いられており、ハンドル部に個々の燃料集合 体固有の識別番号(アルファベットと数字 6 文字以内 例:HBA123)が刻印されている。 1 原子力発電所では、定期点検の際に燃料集合体が原子 炉内に所定の位置に正しく配置されていることを、水中 カメラを用いて燃料集合体のハンドル部の識別番号を確 認する検査(以下、「番号確認検査」という。)を行って いる。また、毎年使用済燃料プールの燃料ラックの所定 の位置に正しく配置されていることを番号確認検査と同 様に実施している(以下、「棚卸し」という。)。 11 番号確認検査や棚卸しの対象となる燃料集合体は数が 多く、また番号確認検査は定期点検全体の工程に影響を 及ぼす場合があるため、作業時間短縮が求められている。 * 現状の水中カメラは耐放射線性を有しているものの画 像が鮮明ではない。そのため番号確認検査や棚卸しでは、 燃料集合体の識別番号を1体ずつ確認している。そこで、同時に 2 体以上の燃料集合体の識別番号を確 認でき、作業時間を短縮できる水中カメラシステムを開 発することとした。また、定期点検時には、燃焼度の高い燃料等代表的な 燃料集合体を何体か抽出し、チャンネルボックスを取り 外して燃料棒の傷や曲りの有無等を、水中カメラを用い て調べる検査(以下、「外観検査」という。)を実施して いる(図2)。開発した水中カメラシステムの画像が鮮明であること から、外観検査にも適用できるように改良した。
ハンドル外部スプリング・スプリング 約10mm約10mm月/ベレットま支持格子燃料被覆管 (ジルコニウム合金)約45mチャンネル ボックスペレットタイプレートキットA・AMウォーターロッド約14cm図1 BMR 燃料集合体(例)255図2 外観検査の実施状況
2. ハイビジョン水中カメラの開発
2.1 番号確認用カメラ (1)仕様の検討番号確認検査や棚卸し時の使用環境および水中カメ ラの運用性の観点から、以下の仕様を満足することとした。・3気圧までの耐圧性能があること ・カメラからモニタまでのケーブル長さ(約 50m)においても信号が減衰しないこと ・モニタ出力までの伝送・処理時間遅れのないこと ・遠隔からカメラ操作(ズーム・フォーカス・アイリス・ホワイトバランス調整等)ができること ・画像が鮮明であること ・小型軽量であること ・取得費用・保守費用が低減できるものであることなお、耐放射線性については試験により実力を評価 し、使用方法を定めることとした。(2)試作(1)の条件をもとに機器を選定し、模擬環境での動作 試験を実施した結果、幅 458mm×奥行 167mmm×高さ 980mm、重量 46.4kg(500W の水中照明 2 灯を含む) となった(図3)。なお、識別番号を刻印した燃料集合体ハンドル部模 擬体を撮影した状態で、Co-60 線源による照射試験を実施し、15Gyh程度までは放射線によるノイズの影響が 小さく(表1)、また集積線量200Gy 程度まで使用可能 な市販のハイビジョンカメラを選定した。吊り下げ部フレームカメラの入った耐圧容器 (底面はガラス)照明:左右に2個 ※フレームに隠れている仮置き架台図3 番号確認用カメラの外観表1 放射線による画像の影響射線量率 | (Gyh)撮影画像結果ほとんど気にならない115多少ノイズはあるが目視可能ノイズがひどく実用不可100ノイズがひどく実用不可注: 動画で見るとノイズが顕著Om) iことアイリ(3)浜岡原子力発電所での確認浜岡原子力発電所2号機の使用済燃料プールにて燃 料集合体ハンドル部の刻印番号を確認した。従来の耐 放射線性カメラとの画像の比較を表2に示す。使用済 燃料の場合 1.5~2m の距離で同時に2~6体程度、新燃 料の場合 5m 程度の距離で 35 体程度の燃料集合体を一 度に確認できた。表2 画像の比較 従来の放射線性今回開発したカメラ カメラ(撮像管)画像るるん152562.2 外観検査用カメラ (1) 外観検査への適用拡大にあたっての課題外観検査にあたっては、番号確認より更に詳細な燃 料棒表面の状態等を確認する必要がある。そのために、 試作機を製作・試験を実施し、以下の課題について確 認することとした。 ・カメラ保護用の遮へいの有無 ・(放射線ノイズ軽減のため)ミラーで反射させる方法と直接見る方法のどちらがよいか ・照明による光の当て方(2)試作(1)の各項目が確認できるように設計した。吊り下げ る場所を変え、遮へいの取外しができるようにした。 なお、照明は4灯とし、1灯ごとに ON/OFF および調 光できるものとした(表3)。非放射線下で確認をした結果、照明は2灯で十分で あること、またミラーで反射させる方法では撮影対象 の輪郭がぼやけてしまうため、直接見る方法が有効で あることが判明した。また、浜岡原子力発電所にて直接見る方法において、 1m 以上の距離でもズームすれば放射線の影響を受けず に十分鮮明な画像が得られ、遮へいが不要になること を確認した(表4)。表3 試作した外観検査用カメラミラーで反射させる方法 | 直接見る方法 寸法 | | 500×260×860mm | 500×500×350mm 重量」95kg65kg外觀鉛遮へい表4 浜岡原子力発電所での外観検査画像例従来型耐放射線カメラ | 外観検査用試作カメラ画像(3)製作(2)の非放射線下および浜岡原子力発電所での試験結 果を受け、鉛遮へいは省略し、燃料集合体を直接見る 方法とし、また照明を2灯とした外観検査用水中カメ ラ(番号確認用にも適用可能)の製作を実施した(図 4)。寸法は 370×400×328mm、重量は 20.5kg と小型 軽量化することができた。なお、非放射線下において動作確認を行った結果、 距離 1.5m・20 倍ズームにて0.3mmの程度のピンホール まで検出できることが確認できた。図4 外観検査用水中カメラ外観3. まとめ. 市販のハイビジョンカメラを用いて高解像度の画像が 得られる水中カメラの開発ができた。燃料集合体の番号 確認検査・棚卸しおよび外観検査における視認性が向上 し、作業性が向上する水中カメラシステムを構築するこ とができた。参考文献 [1] 渡邉 将人他,“炉内配置および燃料外観検査用ハイビジョン水中カメラの開発”, 日本保全学会第7回学術講演会, 御前崎, 2010, pp.112-115. [2] 河村 真吾他、“ハイビジョン画像の原子力発電所への適用(1) 燃料集合体番号確認と外観検査への 適用”, 日本原子力学会 2012 年春の年会, 福井, 2012, pp.189.(平成24年5月 11 日)257“ “ハイビジョンカメラを用いた水中カメラの開発 “ “辻 建二,Kenji TSUJI,渡邊 将人,Masato WATANABE,高島 政信,Masanobu TAKASHIMA,河村 真吾,Shingo KAWAMURA,田中 寛之,Hiroyuki TANAKA