等価応力振幅を用いた配管熱疲労評価法による評価結果の比較

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カテゴリ: 第9回
1. 緒言
1.1 T字配管での熱疲労現象原子力プラントの冷却系において、高温流体と低温流 体が混合する T 字配管では、不完全な混合が不規則な温 度揺らぎを生み、これによって構造に不規則な熱応力を 生じさせる(Fig. 1)。熱応力が長期間に渡って繰り返され ると、構造に疲労損傷が蓄積され、疲労破損に至る場合 がある。疲労破損は、発生したき裂が進展し、き裂が貫 通して冷却材の漏洩を引き起こすというように進行する。 そのため、 T 字配管での疲労損傷量を評価し、疲労寿命 を予測する必要がある。 * T 字配管での熱疲労破損が冷却材漏洩まで至った例と して、1998年にフランスの Civaux 炉で、わずか 1500 時 間の運転で起こった漏洩事故が挙げられる(Fig. 2). T字配 管の熱疲労現象は、流体と構造の相互作用による複雑な 現象であり、また不規則な温度揺らぎによる荷重は特徴 を把握しにくく、合理的な熱疲労評価指針を作るのは容 易でない。
Plot fluidTemperature fluctuationThermal stressBranch pipe: Ilot fluidMain pipe : Cold fluidFig. 1 Thermal striping at Tee-junctionFig. 2 Observed crack photo from Civaux plant [1] |1.2 JSME 指針1999年の敦賀原発2号機での冷却材漏洩事故の後、日 本機械学会(JSME)はT字配管における疲労破損について 集中的な研究を開始し、2003 年に「配管の高サイクル熱 疲労に関する評価指針」(以下、JSME 指針) [2]を策定した。JSME 指針は、4つのステップを通して配管の健全性を 評価する(Fig. 3)。297Moon>SmallThermal StressLargeFig. 5 Frequency response characteristics of structures tofluid temperature fluctuations [4]-1001.06-040.001- -05-00 TOE-441.0E-0h1.00-001.08-01PSD of TWall Jet-+-08-04Unint's]=0.73! ―― Umins]=1.4GUnfm/s]=2.18F- Design--05-05F-05-06SIFig. 6 Wall jet pattem and its PSD of fluid temperature [5]1.05-03 - LOE-021.0E-01. 1.0 +2001.0E+010.11.04-02PSD of TDeflecting Jet+HOE-61 Umfamisj=30.23.0E-05 Unfan's]=0.16 ・Umfami's]=0.69 ---05-06 Design.....05-07StFig. 7 Deflecting jet pattern and its PSD of fluid temperature [5]1.0E-0310E-021.0E-011.0L 4(K)100.01Impingement Jet0.1-Limfisj=0.11linms] -0.25 m-limfan's)=0.341--- Design1.00-05-1SIFig. 8 Impingement flow pattern andits PSD of fluid temperature [5]2.2 等価応力振幅の提案不規則温度揺らぎは熱伝達を通して構造内部の不規則 応力揺らぎを生じる。この不規則な応力により現象が複 雑になり、熱疲労評価を難しくしている。そこで、不規 則な応力揺らぎを扱いやすくするため、等価応力振幅を 提案する。等価応力振幅は、不規則な応力揺らぎを代表 する概念である。 - 次の式は、ある不規則波 y = x(t) の自己相関関数 R(T)を、時刻歴と PSD の2つから計算した結果から導か れる [6]。R(0) = E[x(t)=] = ko1400Hi = ' WPSD(W)dw-2従って、PSD の0次モーメント 。はランダム波の二乗 の平均値に等しい。これを熱応力波に適用すると、元の 応力波の片振幅の平均値は、、。に近いと考えられるた め、これを等価応力振幅 OEsAとして定義する。Oesa = Vio-32.3 提案評価法の評価手順 - Fig.4 に従い、提案評価法ではまず、周波数応答関数 [4] を用いて熱応力の PSD を計算する。 PSDstress = |G(Bi, jw)|4PSDfluid,temperature (4)G(Bi, jw) : 周波数応答関数。 ビオ数 Bi a h, L と周波 ・数に依存 (h : 熱伝達係数, L: 配管板厚)次に、式(3)に従って等価応力振幅 を計算する。 Fig.9は応力の模式図であり、等価応力振幅 assa はこの299ような不規則な応力揺らぎを代表する。 Fig.9の破線で囲 った部分、つまり応力が正勾配で平均値を通過してから 負勾配で通過するまでの部分を、等価応力振幅 gasa の 波1つで代表する。より正確には、等価応力振幅は最初 の1 つの部分のみを置き換えるわけではなく、平均値を 正勾配で通過してから負勾配で通過するまでの部分を平 均的に代表する。StressTimeFig. 9 Random stress fluctuations次に、等価応力振幅 0 SAの発生頻度を計算する。発 生頻度は、応力揺らぎが平均値を通過する平均的頻度を 示す値である零点通過頻度 vo [7] を用いて計算する。_112Vo = 27 JMO-5これにより、振幅 o saの波が単位時間に vo回生じ ていると考えることができるため、単位時間の疲労損傷 係数 Dr(see) を材料の S-N 曲線から計算すると次の式に なる。VovoDf(proposed,sec) NOFSA) NV Mo)-6NO) : 応力振幅 oを受け続けて破損に至るまでの繰 り返し回数、提案評価法は、流体温度 PSD から理論的な計算のみに よって疲労損傷係数を導くことができ、FEM 解析やレイ ンフロー計数法などのプログラム・アルゴリズムを必要 としない。従って、提案評価法は簡明であると言える。 * ここで、比較のために、従来のPSD 評価法における単 位時間の疲労損傷計数の計算式を式(7)に示す [3] [7] [8] この計算では、最大応力振幅を求める過程で FEM などを 用いた詳細な解析が必要である。Dr(Current,sec) = y XVのー。 Norie Hodo x 1 23. 熱疲労評価結果の比較- 3章では、Fig. 4 に挙げた3つの熱疲労評価法(JSME 指 針、従来の PSD 評価法、提案評価法)を用いて、様々な条 件で熱疲労評価を行った結果を示し、提案評価法を他の2 つの評価法と比較することで検証や考察を行う。評価条 件を Table 1 に示す。Table 1 Conditions of the calculationsMaterial of pipesmain: STPT410 branch: STS410inside diameter%3D289.9mmSize of pipesLbase = 14.3mm[A] main: 2.18m/sbranch: 1.50m/s [B] main: 0.69m/sFlow velocity [A]: wall jet [B]: deflecting jet [C]: impingementjetbranch: 0.69m/s[C] main:1.42m/sbranch: 3.05m/s 150K ([A][B][C]) 73K (only [A])Temp. differencebetween two fluidsHeat transfer coefficienthasse = 19,030W/(mtk)S-N 曲線は修正マイナー則に基づき、疲労限以下は接 線を伸ばしている (Fig. 10)。評価結果の比較では、FEM 解析によって得られた疲労損傷係数をリファレンスとし て用いる。Stress amplitude(MPa)10014SS CONTHOND10012Number of cycles to failureFig. 10 S-N curve based on the modified Miner's rule300次の3つの3次元グラフ(Fig. 11-13)は、それぞれの噴流 形態における3つの評価法の評価結果である(流体合流前 温度差 150°C)。熱疲労評価は配管板厚と熱伝達係数とい う2つのパラメータを、基準値 Love と haseの 0.5 倍から4 倍まで変化させながら行った。縦軸は疲労損傷係数の安 全裕度を示し、これは評価結果の DF をリファレンスの DsReference)で割った値として定義される。点線の湾曲している面は JSME 指針の結果であり、安 全裕度が配管板厚と熱伝達係数に対して一定ではないこ とを示している。JSME 指針の安全裕度は2倍から10倍 ほどまで変化し、その変化範囲は噴流形態によって異な る。一方、太実線の平らな面は提案評価法の結果であり、 安全裕度が一定であることを示している。提案評価法の 結果は全ての噴流形態において10倍付近でほぼ一定の裕 度を保持しており、簡明な手法であるにもかかわらず従 来の PSD 評価法の結果(細実線)と近い結果を得られてい る。従って提案評価法は、噴流形態、配管板厚、熱伝達 係数に関わらず一定の裕度を得られると言える。JSME PSD Method Proposed MethodSafety margin (D/D/(Reference))Wall thickness ratio L/Lbase12 Heat transfer coefficient ratio h/hbaseFig. 11 Safety margins of the three methodsat wall jet (AT = 150K)JSME PSD Method Proposed MethodSafety margin (D,/D (Reference))Wall thickness ratio Lil-base12 Heat transfer coefficient ratio h/hbaseFig. 12 Safety margins of the three methodsat deflecting jet (AT = 150K)JSME PSD Method Proposed MethodSafety margin (D./D (Reference))Wall thickness ratio LI L-base1323 Heat transfer coefficient ratio h/hoaseFig. 13 Safety margins of the three methodsat impingement jet (AT = 150K)流体合流前温度差に関する傾向を調べるため、合流前 温度差も変化させて熱疲労評価を行った。Fig. 14-16 は、 合流前温度差がそれぞれ 73°C、111.5°C、227°Cの結果で ある(噴流形態はいずれも壁面噴流)。合流前温度差を変えても、提案評価法は Fig. 11-13 と同 様に10倍付近でほぼ一定の裕度を有している。このこと から、提案評価法は合流前温度差にも依らず一定の裕度 を得られると言える。Lu........Safety margin (D/D.(Reference))だいたいInstart4321Wall thickness ratio LIL-base12 Heat transfer coefficient ratio h/hbaseFig. 14 Safety margins of the three methodsat wall jet (AT = 73K)Safety margin (D/D(Reference))A 3 2 11 Wall thickness ratio LILbase12Heat transfer coefficient ratio h/hbaseFig. 15 Safety margins of the three methodsat wall jet (AT = 111.5K)301- PSD Method Proposed Method**- PSD MethodProposed MethodSafety margin (D/D(Reference)Safety margin (D./D (Reference)Wall thickness ratio / baseHeat transfer coefficient ratio h/hbuseFig. 16 Safety margins of the two methodsat wall jet (AT = 227K)4.結言簡明で見通しが良く、FEM 解析や波形分解アルゴリズ ムを必要としない熱疲労評価法を提案した。その中で用 いた等価応力振幅は、不規則温度揺らぎの熱疲労に対す る影響を代表し、熱疲労現象を扱いやすくすることがで きた。 ・ 提案評価法の熱疲労評価結果は、噴流形態、配管板厚、 熱伝達係数、流体合流前温度差についてほぼ一定の安全 裕度を有している。 - 提案評価法は簡明かつ裕度が一定であり、熱疲労評価 指針の高度化に寄与することが期待できる。 ・今後は提案評価法の精度向上と、確率論的評価を可能 にすることを目指し、信頼性評価の過程を盛り込む予定 である。う参考文献 [1] Faidy, C., ““High cycle thermal fatigue: lessons learnedfrom Civaux event““, 2nd Int. conference on fatigue reactorcomponents, Snowbird, Utah, 2002 [2] 日本機械学会, “配管の高サイクル熱疲労に関する評価指針”, JSME S017-2003, 2003 [3] 三津谷有貴, 支配因子に着目した合理的高サイクル - 熱疲労評価法に関する研究““, 東京大学工学部卒業論文, 2010 [4] Kasahara, N., et al., “Stress response functions tomulti-dimensional spatial fluctuations of fluid temperature““,PVP -Vol.443-1, 2002 [5] Kimura, N., et al., “Experimental study on high cyclethermal fatigue in T-junction - Effect of local flow velocity on transfer of temperature fluctuation from fluid tostructure”, NURETH-13, Kanazawa City, 2009 [6] 岡村弘之, 板垣浩,“強度の統計的取扱い =構造強度信頼性工学““““, 培風館, 1979, pp.98-105. [7] Sakai, S., et al., “Design evaluation method for randomfatigue based on spectrum characteristics”, PVP2009-77217, ASME 2009 Pressure Vessels andPiping Conference, ASME, New York, 2009 [8] Sakai, S., et al., “Direct damage evaluation method forthermal fatigue based on power spectrum density functions““, PVP2007-26168, ASME 2007 Pressure Vessels and Piping Conference, San Antonio, 2007(平成 23 年6月21 日)302“ “等価応力振幅を用いた配管熱疲労評価法による評価結果の比較“ “鈴木 隆史,Takafumi SUZUKI,笠原 直人,Naoto KASAHARA
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