水素注入による環境改善効果の評価方法ガイドライン
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カテゴリ: 第9回
1.緒言
多くの沸騰水型軽水炉(BWR)では、一次系構造材料 の応力腐食割れ(SCC)を抑制させるために,原子炉給 水系から水素を添加し、炉水中の酸素等との再結合を促 進させ腐食環境改善を図る「水素注入」(HWC:Hydrogen Water Chemistry)が適用されている。炉内構造物等の点検時期の設定に際しては、水素注入 による環境改善の効果を考慮した設定が可能とされてお り,日本機械学会発電用原子力設備規格維持規格(1](以 下,「維持規格」という)等において水素注入環境での応 力腐食割れ (SCC) き裂進展速度線図も与えられている。 _ しかしながら,腐食電位(ECP)で定義される環境改 善効果が炉内の各部位で異なること,水化学の解析条件 の違い等により ECP の評価結果に幅があること,出力運 転期間中の水素注入時間や注入量が必ずしも一定でない ことなど、現場適用に向け整理すべき課題があった。 - このため, HWC 環境中の SCC き裂進展速度線図を活 用した点検周期設定を可能にする実施要領を検討し,予 防保全工法ガイドライン「水素注入による環境改善効果 の評価方法」 [2]に定めた。本稿では,その概要について報告する。
2. ガイドラインの概要
2.1 目的及び適用 1. 本ガイドラインは、炉心シュラウド等の炉内構造物や 原子炉再循環系配管などの BWR 機器のうち,SCC に対 する予防保全対策として水素注入等を適用したものにつ いて,環境改善に応じたき裂進展速度の適用により点検 周期を設定する方法を示すことを目的とし,商業運転開 始後の供用期間中に適用できる。維持規格では、ECP 値 が -100mVssue 以下についてのオーステナイト系ステンレ ス鋼のSCC のき裂進展速度が定められており,また,ニ ッケル基合金溶接金属についても-200mVssue 以下の範囲 について日本機械学会論文集(A編) 76巻 764 号に公表 されていることから,これらの線図を利用できる BWR 機器を対象としている。2.2 方法適用の条件 2.2.1 水質条件SCC のき裂進展速度は, ECP のみでなく炉水中の不純 物イオン及びその目安としての電気伝導率の影響を受け, 濃度が高くなると SCC の進展速度を目標値以下に低下さ せるために必要な ECP の値がより低くなり、より多くの360水素注入量が必要となる。また,維持規格等に規定され ているき裂進展速度線図も水質条件が定められている。 このため,水素注入環境でのき裂進展評価の適用に当た っては電気伝導率,硫酸イオン濃度,塩化物イオン濃度 を表1に定める規定値以下とした。表1 水質条件 水質条件値 電気伝導率<20μS/m 硫酸イオン濃度(S0) <5ppb 塩化物イオン濃度(CI) <5ppb2.2.2 ECP 低減条件水素注入による腐食電位低減効果は、炉内の部位・機 器 プラント設計条件および水素注入量によって異なる。 したがって,腐食電位センサにより ECP を実測するか, 実測値と水質解析モデルを用いた,炉内の対象部位ごと の評価が必要である。本ガイドラインでは、点検対象部 位で水素注入時のき裂進展速度線図を用いるための目標 電位(例えば、オーステナイト系ステンレス鋼において は -100mVSue)に必要な水素注入量を炉型ごとに水質解 析コードを用いてあらかじめ計算し、ECP の実測値がな い場合でも給水での水素濃度を確認することにより,容 易に保守性をもった評価が行えるようにした。点検対象 部位の例を図1に,点検対象部位における目標電位 ( -100mVsue)となる給水での必要水素注入量の評価値 を表2に示す。必要水素注入量は解析を行った機関の違 いで値に幅があった。これらは、反応式の違いによって 酸素や過酸化水素濃度が異なり,同一の水素注入量に対 して腐食電位の評価値が少しずつ異なるためである。ガ イドラインでは保守側の値を設定した。レ 圧力容器H1H2 - yanmainmmトシュラウド H3- ジェットポンプ ジェットポンプービーム インレットミキサージェットポンプ H4ライザブレース нба| ジェットポンプ H6b 再再循環系配管H7 -H9下部プレナムH8 H101H114 DP/LC配管ノズ 取付溶接部CRDハウジング ICMハウジング図1 点検対象部位の例ュラウド表2目標電位(-100mse)となる水素注入量の評価値解析部位対象部必要給水水素注入量(ppm)BWR3BWR4BWR5シュラウドH1 42.052.0<2.05H1,2内 (ストレイントホールドダウン部, 炉心スプレイスパージャ)2.052.052.05H2,3外2.052.052.05H3円10.80.5HA外1.31.1HA0.80.70.8H6ab0.70.7H6a,b10.8H7a,b0.40.40.4H7a,b0.81.51.5再循環系配管0.60.50.7ジェットポンプ2.0522サインレット会社)2.0622下部プレナム(JPビーム、ライザプレース)H8円HIO.H11 ICMICRD ハウジング、 DP/LC配管ノズル取付溶接部11.8シュラウドHIH1.2内 (レストレイントホールドダウン部、 炉心スプレイスバージャ)H2.3外H3円H4外HAHHbab *H6abH7a,bH7a,b再循環系配管ジェットポンプ(インレット付)外面 (JPビームライザーブレース)H88HIOH11 ICMICRD ハウジング, DPILC配管ノズル取付溶接部下部プレナム下部プレナム2.3 点検時期の設定方法 2.3.1 水素注入条件稼働率の設定 BWR 各機器を対象とする各ガイドラインにおける点検 時期の設定にあたり、水素注入での稼働率の定義が問題 となる。水素注入されている状態であっても、水質を満 足していない,または点検評価部位毎に必要な水素注入 量が異なるために、水素注入設備の稼働率が水素注入の 稼働率とはできないことから,本ガイドラインでは水素 注入条件稼働率(以下「HWC 稼働率」という)として以 下のように定義した。 HWC 稼働率=(水質条件&必要水素注入量を満足する 期間/運転時間) 2.3.2 設定した HWC 稼働率に応じたき裂進展評価き裂進展速度線図は,水素注入条件及び通常水質条件 (NWC) それぞれの線図が用意されているため、水素注 入の履歴に応じてそれぞれの線図を使用してき裂進展評 価を行えば問題ないが、それでは点検計画をたてるだけ のために労力をかけて進展評価を行わなければならない。 そこで,HWC 稼働率に応じて内分した SCC き裂進展速 度を用いて簡便に評価が行えるようにした。 * HWC 稼働率に応じて内分した SCC き裂進展速度式及1900/12/26び線図の低炭素ステンレス鋼の例を,表3に示す。この評価の適用にあたっては, NWC からHWC への切 り替え,又はその逆のときにき裂進展速度に及ぼす履歴 効果を考慮しなくても影響がないことを確認した。また, HWC稼働率 50%の場合には、 1サイクル中の HWC稼働 率が 50%で数サイクル運転するケースと, 1サイクルご とに NWC と HWC が交互に繰り返して数サイクル運転 するケースを比較しても,図2に示すように進展挙動に 有意差がないことを確認した。表3 HWC 稼働率ごとのSCC き裂進展速度HWC稼働率SCCき裂進展速度 (taicht [m/s] , K [MPalm]}5095未満 NWC進医速度適用333E-14 x 3.33E-14 xK'2.161 K*2.1616 .7
多くの沸騰水型軽水炉(BWR)では、一次系構造材料 の応力腐食割れ(SCC)を抑制させるために,原子炉給 水系から水素を添加し、炉水中の酸素等との再結合を促 進させ腐食環境改善を図る「水素注入」(HWC:Hydrogen Water Chemistry)が適用されている。炉内構造物等の点検時期の設定に際しては、水素注入 による環境改善の効果を考慮した設定が可能とされてお り,日本機械学会発電用原子力設備規格維持規格(1](以 下,「維持規格」という)等において水素注入環境での応 力腐食割れ (SCC) き裂進展速度線図も与えられている。 _ しかしながら,腐食電位(ECP)で定義される環境改 善効果が炉内の各部位で異なること,水化学の解析条件 の違い等により ECP の評価結果に幅があること,出力運 転期間中の水素注入時間や注入量が必ずしも一定でない ことなど、現場適用に向け整理すべき課題があった。 - このため, HWC 環境中の SCC き裂進展速度線図を活 用した点検周期設定を可能にする実施要領を検討し,予 防保全工法ガイドライン「水素注入による環境改善効果 の評価方法」 [2]に定めた。本稿では,その概要について報告する。
2. ガイドラインの概要
2.1 目的及び適用 1. 本ガイドラインは、炉心シュラウド等の炉内構造物や 原子炉再循環系配管などの BWR 機器のうち,SCC に対 する予防保全対策として水素注入等を適用したものにつ いて,環境改善に応じたき裂進展速度の適用により点検 周期を設定する方法を示すことを目的とし,商業運転開 始後の供用期間中に適用できる。維持規格では、ECP 値 が -100mVssue 以下についてのオーステナイト系ステンレ ス鋼のSCC のき裂進展速度が定められており,また,ニ ッケル基合金溶接金属についても-200mVssue 以下の範囲 について日本機械学会論文集(A編) 76巻 764 号に公表 されていることから,これらの線図を利用できる BWR 機器を対象としている。2.2 方法適用の条件 2.2.1 水質条件SCC のき裂進展速度は, ECP のみでなく炉水中の不純 物イオン及びその目安としての電気伝導率の影響を受け, 濃度が高くなると SCC の進展速度を目標値以下に低下さ せるために必要な ECP の値がより低くなり、より多くの360水素注入量が必要となる。また,維持規格等に規定され ているき裂進展速度線図も水質条件が定められている。 このため,水素注入環境でのき裂進展評価の適用に当た っては電気伝導率,硫酸イオン濃度,塩化物イオン濃度 を表1に定める規定値以下とした。表1 水質条件 水質条件値 電気伝導率<20μS/m 硫酸イオン濃度(S0) <5ppb 塩化物イオン濃度(CI) <5ppb2.2.2 ECP 低減条件水素注入による腐食電位低減効果は、炉内の部位・機 器 プラント設計条件および水素注入量によって異なる。 したがって,腐食電位センサにより ECP を実測するか, 実測値と水質解析モデルを用いた,炉内の対象部位ごと の評価が必要である。本ガイドラインでは、点検対象部 位で水素注入時のき裂進展速度線図を用いるための目標 電位(例えば、オーステナイト系ステンレス鋼において は -100mVSue)に必要な水素注入量を炉型ごとに水質解 析コードを用いてあらかじめ計算し、ECP の実測値がな い場合でも給水での水素濃度を確認することにより,容 易に保守性をもった評価が行えるようにした。点検対象 部位の例を図1に,点検対象部位における目標電位 ( -100mVsue)となる給水での必要水素注入量の評価値 を表2に示す。必要水素注入量は解析を行った機関の違 いで値に幅があった。これらは、反応式の違いによって 酸素や過酸化水素濃度が異なり,同一の水素注入量に対 して腐食電位の評価値が少しずつ異なるためである。ガ イドラインでは保守側の値を設定した。レ 圧力容器H1H2 - yanmainmmトシュラウド H3- ジェットポンプ ジェットポンプービーム インレットミキサージェットポンプ H4ライザブレース нба| ジェットポンプ H6b 再再循環系配管H7 -H9下部プレナムH8 H101H114 DP/LC配管ノズ 取付溶接部CRDハウジング ICMハウジング図1 点検対象部位の例ュラウド表2目標電位(-100mse)となる水素注入量の評価値解析部位対象部必要給水水素注入量(ppm)BWR3BWR4BWR5シュラウドH1 42.052.0<2.05H1,2内 (ストレイントホールドダウン部, 炉心スプレイスパージャ)2.052.052.05H2,3外2.052.052.05H3円10.80.5HA外1.31.1HA0.80.70.8H6ab0.70.7H6a,b10.8H7a,b0.40.40.4H7a,b0.81.51.5再循環系配管0.60.50.7ジェットポンプ2.0522サインレット会社)2.0622下部プレナム(JPビーム、ライザプレース)H8円HIO.H11 ICMICRD ハウジング、 DP/LC配管ノズル取付溶接部11.8シュラウドHIH1.2内 (レストレイントホールドダウン部、 炉心スプレイスバージャ)H2.3外H3円H4外HAHHbab *H6abH7a,bH7a,b再循環系配管ジェットポンプ(インレット付)外面 (JPビームライザーブレース)H88HIOH11 ICMICRD ハウジング, DPILC配管ノズル取付溶接部下部プレナム下部プレナム2.3 点検時期の設定方法 2.3.1 水素注入条件稼働率の設定 BWR 各機器を対象とする各ガイドラインにおける点検 時期の設定にあたり、水素注入での稼働率の定義が問題 となる。水素注入されている状態であっても、水質を満 足していない,または点検評価部位毎に必要な水素注入 量が異なるために、水素注入設備の稼働率が水素注入の 稼働率とはできないことから,本ガイドラインでは水素 注入条件稼働率(以下「HWC 稼働率」という)として以 下のように定義した。 HWC 稼働率=(水質条件&必要水素注入量を満足する 期間/運転時間) 2.3.2 設定した HWC 稼働率に応じたき裂進展評価き裂進展速度線図は,水素注入条件及び通常水質条件 (NWC) それぞれの線図が用意されているため、水素注 入の履歴に応じてそれぞれの線図を使用してき裂進展評 価を行えば問題ないが、それでは点検計画をたてるだけ のために労力をかけて進展評価を行わなければならない。 そこで,HWC 稼働率に応じて内分した SCC き裂進展速 度を用いて簡便に評価が行えるようにした。 * HWC 稼働率に応じて内分した SCC き裂進展速度式及1900/12/26び線図の低炭素ステンレス鋼の例を,表3に示す。この評価の適用にあたっては, NWC からHWC への切 り替え,又はその逆のときにき裂進展速度に及ぼす履歴 効果を考慮しなくても影響がないことを確認した。また, HWC稼働率 50%の場合には、 1サイクル中の HWC稼働 率が 50%で数サイクル運転するケースと, 1サイクルご とに NWC と HWC が交互に繰り返して数サイクル運転 するケースを比較しても,図2に示すように進展挙動に 有意差がないことを確認した。表3 HWC 稼働率ごとのSCC き裂進展速度HWC稼働率SCCき裂進展速度 (taicht [m/s] , K [MPalm]}5095未満 NWC進医速度適用333E-14 x 3.33E-14 xK'2.161 K*2.1616 .7