高経年化技術評価の高度化 -稼働プラントの経年劣化とシステム安全評価-

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カテゴリ: 第9回
1. はじめに
この経年プラントの安全評価の結果は - 本研究は、運転プラントの「システム安全」を 設計時の安全評価と対比させ、保守、保 どのように考えるべきか、について基本的な考えつ指標(プラントカルテ)として有効であ 方を提示し、具体的な評価手法を構築、提案する 検証する。 ものである。原子力発電プラントの「システム安 全」とその経年プラントにおける安全評価指標の 2. 機能損傷事象 構築を行う。全体の評価体系を Fig.1 に示す(末 (1) 機能劣化の位置づけと予測と検査 尾参照)。効果 運転プラントとして、ここでは稼働プラントと これまで事例として「配管減肉」事象 称する。その時間経過に焦点を当てると経年プラ げて、上述の仕組みを検討するとともに ントと言う。原子力プラントの安全指標としての 確保に有効な手段として、劣化予測と監 機能は基本的に、a, バウンダリー機能、b. 冷却機 による管理値(劣化事象)の比較により 能、c. 制御機能に集約される。これらの基本機能 価に与える影響を評価し、予測と監視の が、稼働プラントにおける主要なシステムがどの 効性を確認するものである。 ように劣化し、その機能を喪失するかを評価する。 「配管減肉」の事象については、火力発信 すなわち、劣化事象における主に材料の劣化特性では日常的に破断事象が生じてはいるが、 と機能維持との関係で、その劣化を評価する指標が難しいことから、運転中はこのような配管 を検討し適切な安全指標としてまとめる。例えばづかず、破断事象が生じてから配管の取替 放射性物質の閉じ込め機能としてバウンダリーの 維持に関連し、破断や破壊の防止と同時に漏洩の組みを採用してきた。一方、原子力発電シ 防止にも着目し、機能喪失の基準の定義と劣化の 場合は、破断事象を放置することは許され 考え方、およびその定量化について検討する。は 1986年の米国 Surry2号機での配管破聞験して以来、世界の原子力発電所では、検して十分な対応を行ってきた。にもかかわらでは 2004年8月9日に美浜発電所3号機この経年プラントの安全評価の結果は、従来の 設計時の安全評価と対比させ、保守、保全に役立 つ指標(プラントカルテ)として有効であることを 検証する。2.機能損傷事象 (1)機能劣化の位置づけと予測と検査の融合の 効果これまで事例として「配管減肉」事象を取り上 げて、上述の仕組みを検討するとともに、信頼性 確保に有効な手段として、劣化予測と監視データ による管理値(劣化事象)の比較により、機能評 価に与える影響を評価し、予測と監視の融合の有 効性を確認するものである。「配管減肉」の事象については、火力発電システム では日常的に破断事象が生じてはいるが、予測対応 が難しいことから、運転中はこのような配管系には近 づかず、破断事象が生じてから配管の取替を行う仕 組みを採用してきた。一方、原子力発電システムの 場合は、破断事象を放置することは許されない。古く は1986年の米国 Surry2号機での配管破断事故を経 験して以来、世界の原子力発電所では、検査を充実 して十分な対応を行ってきた。にもかかわらず、日本 では 2004年8月9日に美浜発電所3号機において、
2 次系配管破損事故が発生した。このように圧力バ ウンダリーの機能は重要であり、見過ごせば極めて 重大な事故となることが改めて認識される。事象の原 理的な予測技術が未熟であるもので、それを補う検 査とのバランスを考慮した対応(Fig.2 参照)が必要 であることを示している。
長期間運転してきたプラントにおいては、配管減肉 のような劣化事象でも、比較的緩やかに進行すると 評価されているが、経年化とともに劣化が懸念される 配管系統・範囲は拡大すると予想され、適切な管理 を怠れば、重大な事故に至ることがわかる。特に、わ が国では、地震が多く、大きな外力が加わることで破 断事故に至る可能性が高い。配管減肉の進行による 地震時の配管系の安全評価の適切な方法の確立が 求められている。そこで、配管減肉による配管の健全 性評価手法における、これまでの検査を中心とした 管理技術の高度化とともに、減肉配管の耐震安全評 価を含めた総合的な配管健全性評価手法を完成さ せなければならない。.......現象の解明予測と実測検査の連携による信頼性確保の体系・・・・・・・現象の把握語」が... ...... 現象の管理 」2月には、内耳の決定は現界不適合検査(原因)で配管減肉もたらされる結果)どこまで安が ・肉厚の決定「描らえられるか 境界不適合」 ・成肉量の予測」条件により 流動摩耗(FAC)これらの過去夢を把握し ・エローション適切に反映 各条件により、現象が大きく異なる設計・過去のデータ による予測と対応]配管破断 配管材料a滅肉余裕の確保」 設計により、6.交換時期の設定 選択的検査[不適合」事故」 流体条件全性を確保する。 含有粒子、単相・三相| 検査を適宜、実」 温度・圧力補修・交換し損傷前に不酒切 流遼、P!などL.な個所を特設する101Tester............配管構造|携格化による、更新・運 i用の管理を適切に行う「..................Fig. 2Deterioration and Failure Management onUncertain Phenomena as Pipe Wall Thinning(2)構造健全性の視点からの運転プラントの機能劣 化事象配管減肉は、現象が複雑であり予測精度がよくな い事情から、検査と合わせた管理が求められてきた (Fig.2 参照)。 ・ 一方、Fig.3 に示すように、様々な構造健全性に係 る劣化事象がある。いずれも損傷の観点からは必ず しも予測精度はよくない。劣化予測による健全性評 価には、検査の活用と共に、損傷リスクの評価の考 え方を導入することが適切と考える。検査による管理に依存すれば、検査量が多くなり、 検査漏れのリスクも生じる。また変化が緩やかであり 運転の初期から長期の管理を求められる配管減肉 のような現象には、以下の視点の対応が求められる。 -1長期運転状況における機能劣化事象の正確な 把握、2長期運転における適切な点検、取替・補修 計画の策定、3事象のメカニズムの解明と把握。すべてのものは時間とともに変化する。それ! を「経年変化」という。そのうち、管しなけ ればならないものを、「経年劣化事象」という。高経年化対策運転初期からの経年劣化管理 。 計画的な点検による経年劣化管理が必要な事象(IGSCC.PWSCC)経続的に傾向監視による経年劣化管理が必要な基象(配管減肉) 40年ごとの経年劣化管理 ○ 実施時期を定めた劣化傾向の評価による経年劣化管理が必要な事象 (低サイクル度労、中性子照射能化、照射誘起型応力腐食割れ、高サイクル熱疲労)高年化技術?策高経年化技術評価 * 長期保全計画に 基づく保守管理長期保全計画の策定技術開発課題の抽出 030年を経過する日までに技術評価が必要な事象 (低サイクル疲労、中性子照射機化、照射誘起型応力腐食割れ、高サイクル熱疲労 2相ステンレス鍋の熱時効、フレッティング後、絶縁低下、コンクリート強度低下)Fig.3 Degradation and Damage by AgingPhenomena健全性評価の重要な視点である、ハザードの扱い では、これまで内的事象を中心に安全評価が行われ てきたが、特に日本のような地震が多発する地域で は、ハザードとして地震は重要な外的事象である。中 越沖地震や今回の東北地方太平洋沖地震の被災に 伴い、経年劣化が進んだ減肉配管などの重要な劣化 「事象に対する健全性評価が課題となっている。 - 発電プラントには多くの配管があり、重要度の高い ものから一般の配管まで、適切な手順で評価を行う ための基準化が求められている。 - 配管減肉だけではなく、SCC や熱疲労など様々な 劣化事象を予測して、実効的な耐震安全性評価を行 わなければならない。様々な配管の劣化事象を機能 劣化の指標で統合した、配管系全体の健全性を評価 する適切な評価手法の確立が求められている。これ までの検査を中心とした健全性評価の仕組みと連携 して、メカニズムに基づく予測法と連携したより適切な 健全性評価法の確立が求められている。3. 機能劣化・損傷事象の課題解決の手法 (1)機能劣化事象のメカニズムの解明 ・上述のように、大きく環境が変化し、取り組むべき 課題、目標が明確になった。配管減肉の劣化事象を 例に、課題解決の取組み方法を示す。図に示すよう371に、取り組まなければならない技術課題は、3点ある。 一つは「現象の把握」であり、一つは「現象の管理」、 残りの一つは「地震への対応」である。「現象の把握」においては、メカニズムの解明とそ の結果としての予測法を提案し、集大成としてシミュ レーションコードの開発を行うものである。その内容 は、メカニズムの要素に分類し、「材料」、「環境」、 「系統・構造」の分野において、それぞれの因子の効 果を解明することであり、その結果として減肉現象の メカニズムを明確にすることにつながる。これにより、 より精度のよい高度な予測を可能としたシミュレーシ ョンモデルが開発される。これによりすべての配管の 減肉においてその予測精度を大きく向上することが 期待されるものである。メカニズムの解明「象の把握 FACLDI 流れ加速型腐食 - 液滴衝撃エロージョン「現象の管理始時の強全性評価法材料・材料| 検査法の高度化:肉配管の設時の 健全性評価法の開発データベースの整備、き合うこayama1900/01/22減肉に言の減肉形状に 1 よる店限界価法の 1調発| 肉配管の商品耐取評価手法の紹定定式化の案 ちなみかな流動因子の影響 メカニズムの解明安全器価の高度化 高経年化ブラントを含め配管健全性の評価 液内配管の設時健全性評価1979322続・で事会メカニズムまたにか原子力 配管減肉管理にする規格・予測シミュレーション予測法の見直しと新たな開発予コードの開発・配管減肉等調評価法の確立: プロジェクトの領域FAC25型LD!:エロージョンFig.4 How to Solve Mechanism of Pipe Wall Thinningand Build-up Seismic Evaluation Method「現象の管理」は、最も重要な課題である稼働プラ ントのシステム安全の評価につながる課題である。 現在の管理方法では主に検査を中心としているが、 検査方法の高度化を図り、検査の簡素化を進めると ともに、事象のメカニズムを解明することで、事象の 予測法が信頼の高いものとなる。また最初に Fig.2 に 示したようにこの検査と融合させることで、プラント全 体としてのこの機能劣化の評価を効率的に行うこと ができるようになり、信頼性を主眼とした機能劣化の 管理が可能となる。すなわち機能維持の信頼性を確 保する方法を確立することが最適な管理法となる。「地震への対応」は、従来の耐震評価において、劣 化事象を加味した総合的な健全性評価を行うことで ある。例として配管系を取り上げると、様々な劣化事 象があり、発生個所も一定ではない。また全ての配 管を対象として、多様な劣化事象を重ねて配管の耐 震健全性評価を簡便に行う方法を開発することで、システム全体の機能維持の程度、すなわち損傷のリ スクを評価することができ、適切な保全の効果の評 価が可能となる。 (2)劣化シミュレーション予測による健全性評価システム安全の観点より、プラントの主要な配管の 減肉や熱疲労、SCC などの劣化事象を複合させ、バ ウンダリー維持の機能の劣化を定量的に評価するこ とが、本研究の目的であり、減肉評価はその一つで ある。このように配管系統のバウンダリー機能の劣 化が複合的に発生した場合での、地震動の外力が 加わった時のバウンダリー機能の喪失のリスク評価 を行うモデルを Fig.5 に示す。容器への 接続顔弁例:溶接補修部 の 解析モデル外的事象による 損傷評価:「基準地震を想定 Y配管系重要度の高い系統を選択機能: 0戸心への冷却水の供給 0 バウンダリー維持劣化事象: 材料 O FAC熱疲労 0scc(環境疲労) 機器損傷 0 井の内部原形オリフィス他の系統Fig.5Simulation Model on Seismic Integrity Evaluation by Pipe Thinning, Thermal Fatigue and SCC配管減肉のシミュレーションコードが開発されたこ とにより、減肉の信頼性評価を伴った定量的な減肉 予測が可能となり、地震動荷重の大きさの確率的な 分布とあわせて、配管のバウンダリー機能喪失のリ スク評価が可能となる。これにより、リスク評価による 破断事故の確率評価を行うことも可能となる。6. まとめ ・機能劣化による運転プラントのシステム安全を評価 する体系を構築した。 ・シミュレーションによる減肉予測コード度を開発し た。 ・地震動による外的事象によるシステム安全評価法 を、減肉配管に適用し、バウンダリー機能に着目した 構造健全性の評価法を確立した。 ・機能劣化を配管減肉でモデル化し、運転プラントの システム安全の評価法の検討のモデルを開発した。これにより、減肉配管の地震時の健全性に与える 影響を評価する簡便な評価法を開発し、検査と予測 の融合を図るとともに劣化事象の機能維持の評価と して統合するモデルを構築した。372- 次フェーズでは、予測結果を検査により検証す ることで、信頼性が向上されることを確認するこ と、他の劣化の要因との複合評価を行うことで系 統の機能損傷リスクの評価が可能となる。更に稼 働プラントにおける「システム安全」の評価手法 として、プラント全体の安全を総合的に評価する 方法を確立したい。具体的には、様々な材料劣化 などの機能を低下させる状態変化を系統の全てに 渡り評価し、その機能低下による系統の求める機 能の喪失(損傷)により生じるリスクの総和とし て評価することにより、その安全の程度を把握す ることができる仕組みを確立する。「謝辞本研究は、原子力安全・保安院のプロジェクト「高経 年化対策強化基盤事業(2006-2010)」および「高経 年化技術評価高度化事業(2011-)」にて進めてきた 成果である。関係各位の協力に謝意を表する。参考文献 (1)JNES Report on “Strategic Load-Map 2008 of Technology Development for Ageing Management““ 「高経年化対応技術戦略マップ2008」 (2)日本機械学会発電用設備規格「配管減肉管理に 関する規格 2005 年版(2005 年3月)」ほか JSME-S-CA1-2005 “Standards for Pipe Wall Thinning Management for Power Generating Plants 2005” by JSME (The Japan Society of Mechanical Engineers)機能損傷リスクの逆数とする基準時点からの任意の経過時点での機能維持の信頼性評価運転開始機能維持 の信頼性運転開始の基準点 :1 をどこに取るか不確定性の増加運転信頼性の劣化再評価・検査による信頼性の / 回復と不確定性の減少機能劣化設計この基準の強化基準の緩和する合は基準の適正化安全設計基準賞INO LO基準の安全基準」 考え方の変化安全の限界安全の不確定性 (ばらつき)經過時間運転プラントの、 安全評価の基準運転プラントの安全評価には、設計時の 安全評価の基準から、A、B、C により! 変更された評価時点での安全評価の基準文: を用いる。(A)設計時は構造・材料が特定されていないが、運転開始時点では実力値 が明確になっており、一般に信頼瀬は高くなる。また(日)解析能力の向上 ・ や現象解明など、新知見の獲得により安全限界値の低減、(2)不確定要 素の減少し信頼性の向上が期待される。Fig 1Basic Concept of System Safety Assessment of Nuclear Plants in Operation(3)AESJ-SC-P005:2008 ““Code on Implementation and Review of Nuclear Power Plant Ageing Management Programs 2008““ by AESJ (Atomic Energy Society of Japan) (4)JEAC4601:2008/JEAG4601:2008 “Code and Guideline on Seismic Design for Nuclear Plant 2008““ by JEA (Japan Electric Association) (5)Masanori NAITOH et al, “Evaluation Methods for Corrosion Damage of Components in Coupling Systems of Nuclear Power Plants by Coupling Analysis of Corrosion and Flow Dynamics (I), Journal of Nuclear Science and Technology, Vol.45, No.11, pp1116-1128, 2008, AESJ (6)Shunsuke UCHIDA et al, “- (II)”, J of Nuclear Science and Technology, Vol45, No.12, pp. 1275-1286, 2008, AESJ (7)Shunsuke UCHIDA et al, “- (III)”, J of Nuclear Science and Technology, Vol45, No.12, pp.1275-1286, 2008, AESJ (8) H. Miyano, N. Sekimura, A. Takizawa, K. Maeda, “Review of Piping Wall Thinning and Seismic Evaluation in Japan”, Proceedings of the ASME 2009 Pressure Vessels and Piping Division Conference, PVP2009-78037, Prague, Czech Republic, 2009.7.26-30. (9) H. Miyano, N. Sekimura, A. Takizawa, K. Maeda, “Review of Piping Wall Thinning and Seismic Evaluation in Japan2”, Proceedings of the ASME 2011 Pressure Vessels and Piping Division Conference, PVP2011-58023,Baltimore, Maryland, USA, 2011.7.17-21.373“ “高経年化技術評価の高度化 -稼働プラントの経年劣化とシステム安全評価-“ “宮野 廣,Hiroshi MIYANO,山口 彰,Akira YAMAGUCHI,出町 和之,Kazuyuki DEMACHI,松本 昌昭,Masaaki MATSUMOTO
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