福島第一原子力発電所3号機事故の熱流動現象の推定―高圧注水系(HPCI)が途中で止まった場合一

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カテゴリ: 第9回
1. 緒言
著者らは、福島第一原子力発電所(以下原発という) の事故発生当初から、不完全ながらも、各種の熱流動解 析や事故の早期収束に向けた提言を行ってきた。原子 炉の早期収束のためには、現象の理解が重要である。前 報では、1号機の熱流動解析を行い、非常用復水器 (IC) が動いていたと仮定した場合に、多くの計測データが説 明できることを示した。 * 原子炉での現象はエネルギー・水・放射能の保存則が 成り立たっており、計測誤差も含めて全てが合理的・定 量的、もしくは少なくとも定性的に説明されなければな らない。その意味では、事故当初からの不正確なデータ も含めて、これまで集めたデータが推定される事象の裏 付けとなれば、それが過去に起きた現象である。 1. 本報では、3号機の熱流動解析を行う。本報告の推定が 正しかったかどうかは、約 10~30年後に原子炉を解体す る時に明らかとなるであろう。しかし、原発事故の早期 収束のために、あえて不正確さの誹りを承知で原発事故 を解析する。東京電力(TEPCO)は福島原発各原子炉のメルトダウ ンシナリオを発表したり。そこでは、13 日 6時頃に原子 炉圧力容器(RPV) 水位が有効燃料頂部(TAF)に達し、 同日8時頃に炉心損傷を開始し、14日8時頃に RPV が破 損したと推定している。燃料は全て RPV 内に残存してい ると推定している。蒸気が漏れなかったシナリオでは、RPV が全く破損していない可能性も指摘している。TEPCO のシナリオでは、隔離時冷却系(RCIC)が停 止した後、高圧注水系(HPCI)が手動停止されるまで健 全に作動しており、逃がし安全弁(SRV) による RPV の 強制減圧が成功した仮定での解析である。政府の中間報 告州では、HPCI を作業員が手動停止した件について言及 している。しかし、計測データを詳細に検討すると、HPCI は手動停止以前に停止した可能性がある。また、SRV の 作動と RPV の減圧時間が微妙にずれていることから、 SRV による強制減圧が間に合わなかった可能性もある。 著者は、これまでの熱流動解析で、3号機の破損状況が大 きい可能性を指摘してきた{文献1) の (HTC Rep. 19.2, 2011/10/13)、以下(HTC Rep. 19.2, 2011/10/13)と記す}。そこで本報では、HPCI が途中で停止し、RPV 内の蒸気 が復水タンクに逆流し、SRV の減圧直前に RPV が破損し た仮説を立て、それを検証する。検証には前報と同様な 定常解析と共に、破損時の急激な圧力変化に対応できる 準定常解析を行い、本破壊シナリオの妥当性を検証する。原発事故の早期収束と再発防止には、原発事故と原子 炉の現状を的確に理解することが重要である。そのため には、あらゆる可能性を検討することが必要だと考えら れる。
2. 圧力容器(RPV)の破壊シナリオ
3号機では表1に示すように、RCICが事故直後から作動 していた。しかし、何らかの理由でRCICが3月12日11時 36分に停止し、RPV内水位が低下したために12時35分に400,HPCIが自動起動した。報告書等) 14 では13日2時44分に 作業員が手動でHPCIを停止するまでHPCIが作動し続け たことになっている。Table 1 List of events occurred in unit 1,* shows approximate timeNo.TimeFacts| 1 | 3/11 14:47 | Earthquake Succeed in Scrum15:05 | RCIC Manual Start, Stop, Start, Stop ...0.651388888888889AC Power Black Out3/12 11:36 | RCIC Stop12:35 | HPCI Automatic Start19:00 | HPCI Stop (Estimate)22:30 | TAF Om (Estimate) 8 | 3/13 02:44 |HPCI Manual Stop (Valve Closed)05:10 | TAF-3.8 m (Estimate)1008:55 | RPV Rupture (Estimate)1109:05 | D/W Rupture (Estimate)1213141516171809:08 | RPV Pressure Release by SRV 09:25 | Water (with Boric Acid) Injection Start 11:17 S/C Large Valve Close 12:20 | Water Injection Stop 12:30 S/C Large Valve Open 13:12 | Seawater Injection Start20:10 | S/C large Valve Open (TEPCO Estimation) 3/14 01:10 | Seawater Injection Stop03:20 | Seawater Injection Start 06:10 | S/C Simall Valve Open *09:30 | D/W Rupture (TEPCO) 11:01 | Hydrogen Explosion in RBSeawater Injection Stop 16:30 Seawater Injection Start 3/15 16:00 S/C Large Valve Open 3/17 21:00 S/C Large Valve Open242526日HPCIはRCICと同様に炉心からの蒸気でタービンを駆 動し、それに直結したポンプで炉心に水を注入する装置 である。カタログ上は、ゲージ圧で1.03MPaから7.74MPa で作動するとされている。ただし、これは正常なサプレ ッションチャンバー(SIC)のタービン背圧つまり1気圧 を仮定しているので、本事故の場合はSICまたはドライウ エル(D/W)とRPVの圧力差で換算するべきである。ま た、HPCIはスクラム直後から作動させることを考慮しているようで、注水能力が268kg/sとRCICの10倍以上の能力 がある。その分タービンが消費する蒸気量も大きい。HPCI が起動した時点での崩壊熱による水の蒸発量は5.3kg/sで あり、HPICの能力の1/5である。roadYARPV Pressure (Measurement) [MPaO Diw Pressure 14 Pa IX 10 -.-RPV Ruplure Diameter cm 120 - - EstimationWater - TEPCO EstimationThermo Dynamic Estimation A MeasurementLevelaaaan3/11 12.002019/03/122019/03/12 12:00:002019/03/132019/03/13 12:00:002019/03/142019/03/14 12:00:00Fig. 1 Plant parameters, estimated water levels andrupture diameter of RPV図1は、TEPCO発表のプラントパラメータウと推定し たRPV破断面の等価直径、崩壊熱を用いて推定したRPV 水位を示す。ただし、文献7には3月13日以前の水位デー タがないので、文献3のデータを図面から読み取っている。 図中の番号は、表1に示す原子炉事象が起きた時刻を示す。図中に示した水位の推定では、HPCIが途中で停止する 仮説を立てた。先ず、12日12時30分にHPCIが起動すると RPV内の圧力が急激に減少している。このことは、HPCI が作動することによりRPV内の圧力が減少し、DWの圧 力が減少することとも定性的に符合する。TEPCOの解析 ではこの圧力データを無視している。 * 本解析では、RPVとD/Wの圧力差が0.76MPaとなった12 日19時でHPCIが停止したと仮定した。 この頃のHPCIは動 作が不安定だったとTEPCOから報告されている。HPCI が停止してもHPCIの注水源である復水タンクとポンプと のバルブは繋がっているので、RPVからの蒸気が停止し たポンプを介して復水タンクに逆流して凝縮すると考え た。従って、HPCI停止以後、作業員がHPCIのバルブを閉 鎖する13日2時44分までRPV内の水位は低下し続けるこ とになる。 本解析では、12日22時30分に水位が有効燃料頂部 (TAF=0)に達した後では、燃料が崩壊し全ての燃料が 水と接していると仮定した。また、RPV内にある気水分 離器やシュラウド、制御棒などの体積や熱容量は無視し た。 HPCIのバルブが閉鎖されると水位はほぼ一定になり401その水位は、TAF-3.6mである。その後、圧力が急激に上 昇し13日5時にRPV圧力が7.48MPaとなり逃がし安全弁 (SRV)が作動して再び水位が低下し、5時10分に TAF-3.8m(燃料棒下部付近)に到達したと推定される。 RPVが破壊したと予想される13日8時55分には水位は RPV底部に達している。図1を見ると、13日9時以後にRPVに約18cmの等価直径 の亀裂が存在し、以後はその大きさに大きな変化が無い ことが分かる。こ水位推定と比較すると、このとき、RPV はTAF-7.4m であり、燃料は溶けていると考えられる。水 の残存量から大胆な予測をすれば破損部はRPV底部から 約2mの場所が推定される。後述するようにRPVが8時55 分に破壊しその蒸気が一気にPCVに流入したための高圧 でD/Wが9時5分に破壊した予想と一致する。TEPCOの報 告では、RPVの破壊推定時刻は14日9時30分頃であり、 本解析よりかなり遅い時刻である。3. 格納容器 (PCV)の破壊シナリオ|。ORPV Pressure (MPa) AD/W Pressure (MPa)PCV Rupture Diameter (ml ー+- Radiation Dosage | ling, dusvh) V100.8Unut2 RaptureUE Explosionお店へUntl. VentしょうifpaROLLEXlar3/113/123/123/133/133/143/143/153/153/163/16 12.000 .00 12:00 0.00 12:000 ,0012.000.00 12,000.0012.00Fig. 2 Plant parameters, radiation dosage and estimated rupture diameter of PCV図2は、RPV と D/W の圧力と放射線強度、推定した破 損部の等価直径の時系列変化を示したものである。RPV 破損後暫くすると RPV の圧力が D/W よる低くな っている。蒸気は RPV から D/W に流れているからこの データは矛盾する。3月14日以後のデータはD/W と RPV の圧力差は 0.1MPa で、ほぼ一定となっている。RPV の 圧力計は計測レンジが DW のほぼ 10 倍と考えられ、 0.1MPaのレンジでは精度が十分でないことも推測される。 そこで、RPV 圧力に+0.1MPa のバイアスをかけてデータ 解析をすると矛盾無く現象を記述できるので、以後は RPV 圧力に0.1MPaの補正を行う。 RPV と DAW が破損したと推定される 13 日9時頃、13時50分、14日 2時、および水素爆発した 11 時 01 分頃に に放射線量が増大している。 13 日以前の放射線量増大は、 1号機関連であると推定される。定常解析で推定される破断面積の等価直径はほぼ 10cm である。破断面積は水素爆発で大きな変化が認めら れないので、破損場所は、1号機と同様に D/W 下部と S/C を接続する円筒接合部またはそこのベロー部分が疑われ る。TEPCOIIでは PCV の破壊には言及していない。4. 動的モデルによる原子炉破壊の推定4.1 原子炉の解析モデル3節と前報では、崩壊熱による蒸気発生とRPV、格納 容器(PCV)の圧力差がバランスしているという仮定を 導入した定常解析でRPVとPCVの破壊断面積を推定した。 原子炉破壊直後は内部の蒸気が急激に放出されるため、 前報の定常モデルは適用できない。そこで、準定常の炉 内圧力の動的挙動を検証するために熱力学モデルを構築 し炉内の非定常圧力変化を検証する。AmbientReactor Pressure Vessel (RPV) Vein PayPalRupture Aller 22Drywell (DW) Varlm'] pairo]RPV Rupture minkus Aprylan']Decay Heat Vapour Flux Mucual keyWater IngectionD/W RuptureHH-to Vent LineMO Valve- AO Valve| glaceORCICDYASuppression Camber (S/C)Condensate Storage TankFig. 3 Physical model of Unit 3図3は、本解析対象の3号機の解析モデルを示す。RPV 内の燃料瓦礫は、崩壊熱に相当する発熱があるが、その 熱はRPV内圧で質量流量man [ky's の飽和蒸気として RPV内に放出される。13日8時55分以後は、RPVが破損し 面積 Appv [m*] の破断面から imper[kg/s]の蒸気がPCV内 に放出される。本報では、PCVをD/Wとして記述する。 D/Wの蒸気は Apr [m]の破断面から imprg[kg's の質量402流量で圧力 paPa 大気中に放出される。3月21日から23 日にかけて注水量が激減し原子炉が高温となったために 新たなPCV破損が推定される。図中にはこれら諸量の記 号を示す。 4.2 原子炉破壊の断熱過程モデルPHP mary how = 411.11. 3 .4 Tear ParkFarPa....ilIsobaric ProcessAdiabatic Process11.MPPT.Mapsh、P110MPFig. 4Thermodynamic model of pressure vesselPCVとRPVの動的圧力変化を解析するために、図4に示 す熱力学モデルを構築する。状態1の容器に外部から m [kg]の飽和蒸気が流入し、mau [kg]の飽和蒸気が流出 する。このときの容器の変化を2段階の過程を使って記述 する。つまり、流入する蒸気を一端断熱膨張で p[Pa]ま で減圧し容器1に流入させる。流出する蒸気は状態1の圧 力で流出し体積を減じる。従って、この等圧変化の状態2 では、エネルギーと質量保存の法則から次式が得られる。M2 = M, + mm - Moused 7. _M,h + minher - Imou han.- M+ mm --man(Pi)(T = r + b chここで、C, [J(kg K)NK は、それぞれ蒸気の定圧比熱と比熱比である。状態2から3への変化は、断熱過程 とする。つまり、状態2で変化した体積を、断熱過程で 状態1の体積に戻す。 微小変化に対して理想気体の状態 変化で近似すると、その圧力と温度は次式で表される)。ただし、状態3の温度が p, の飽和温度より低下すると、 蒸気が凝縮して潜熱が供給され飽和温度になるとして、 次式を仮定した。この凝縮によって、容器内の蒸気質量ここで、c JJ/kgP3=P2は若干減少するが、凝縮潜熱は蒸気の顕熱に比べて著し く大きいので、蒸気質量の減少は無視できると考えられる。T」 = T*(p), if r.(-)
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