チェルノブイリ事故の後処理対応及び我が国への教訓

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カテゴリ: 第9回
1. チェルノブイリ原子力発電所の事故
チェルノブイリ原子力発電所4号機は 1986年4月 26 日、炉心出力が急上昇し、燃料損傷,冷却材の急激な沸 騰とそれに伴う圧力管の急激な圧力上昇により圧力管の 破損に至り、最終的に爆発が2回発生した。爆発により 原子炉と建物構造物の一部が破壊され、破損した黒鉛及 び燃料の一部が微粒子の状態となって,炉外へ飛散し, 核分裂生成物が環境に放出された。燃料は崩壊熱により 一旦溶融した後、周辺のコンクリート構造物等と融合・ 再凝固し、燃料含有物質(FCM: Fuel ContainingMaterials)といわれるものになった。 また、飛散した多量の放射性物質により広大な地域が 汚染されることになった。
2. 事故後のサイトでの対応について
チェルノブイリ事故後、発電所施設の安全確保、廃炉 に向けての後処理、住民の被ばく低減等について様々な 対策がとられた。これらの対策は必ずしも効果が出たも のばかりではないが、多くの情報を含んでおり、今後福 島第一事故の後処理、廃炉に向けた対応や周辺地域の除 染や住民の被曝低減への取り組みを行う中で、参考にな ると考えられることから、福島第一の事故と比較しつつ チェルノブイリ事故の対応活動について示す。413Ti 1 rumont chaltown CNPPHA22.1 シェルターの建設(2753743円 - もともとチェルノブイリ4号機には格納容器がなく炉 心周辺の構築物も破壊されたことから、事故後多量の 上部:細管と軽い屋- FCMや放射性物質は環境から隔離されな 西側:金属補強壁い形で放置さ れた状態とな っていた。これ を少しでも解消するため4 北側:鉄筋コン 号機を覆うシ クリート製カ スケードウォェルターが建設された(Fig.1)。 Fig.1Current shelter of ChNPP #412 シェルターには現 Fig.2 Planned new shelter of ChNPP #4状の建屋や現場の機材が利 用され、6ヶ月程 度で建設された。 しかしながら、十 分な密閉性が確」 保されておらず、 放射性ダストや、 放射性物質を含 む水の流出が心 配された。さらに時間経過ととも Fig.2 Planned new shelter of ChNPP #241 に 劣化が進み、強度や耐久性にも 問題があった。また、 最終的にチェルノブ イリの施設を廃炉に するために必要な燃 料や放射性物質等の 取り出しのための設 備がないことから、ク レーン等が設置でき、1900/01/04Fig.3 Cover for Fukushima-daiichi #1 reactor building廃炉に向けての作 業を行える新シェFig.3 Cover for Fukushima-daiichi 廃炉に向けての作 #1 reactor buildings業を行える新シェルターの建設を行 うことになった (Fig.2)。 新シェルター建設には長期の建設期間が必要であることからそれまで現在のシェルターが損壊することが無い よう補強が行われた。また、新シェルターの建設には莫 大な費用が必要であり、これには各国から資金の援助が なされることとなっている。福島第一原子力発電所でも 1,3,4 号機の原子炉建屋の 上部が損壊したが、1号機には建屋カバーが設置され (Fig.3)、4号機には燃料取り出し作業用のカバーの設置 が計画されている。2.2 炉心周辺状況の監視・放射性ダストの飛散防止チェルノブイリでは燃料が残留している箇所に向けて 西側と南側からコンクリート等に穴(150箇所以上)を開 け、測定器(温度計、線量計、中性子束計など)やTVカ メラを挿入し、堆燃料の位置、容量、放射能量を調査 した。ロボットを使用した測定も行われた。FCM の試料が採取され、核種組成の分析が行われた。 FCM は褐色や黒色のセラミック上物質となっており、分 析の結果 UO、SiO2、MgO、AI,O,、 CaO、Z10,等が含まれてい ることが判明した。これらの堆積物は時間の経過とともに、温度、 大気、湿度の影響を受け、崩れ出し、粉塵化して放射性エアロゾ ルが発生したことで、非常に大きな放射能汚染の危険をもたらしている。この放射性エアロゾルの外部への放出を防ぐためこれ を沈下させ、固定化させるために散水ノズルを持った対 応システムが設置されている。2.3 サイトにおける放射性廃棄物の除去、保管、 処分 - チェルノブイリサイトでは土壌、金属、コンクリート などの中・低レベル放射性廃棄物の総量は50万m程度で ある。また、高レベル廃棄物として2800t以上のFCM、原 子炉、黒鉛、燃料粉塵等が存在していると見られる。一 方、900 m/年の低レベル液体放射性廃棄物がシェルター 内からポンプで排出され、サイトの液体放射性廃棄物処 理・貯蔵施設に移送されている。シェルター、サイトか ら発生する中低レベル放射性固体廃棄物はブリャコフカ 固体廃棄物処分場に貯蔵されてきた。また、一時隔離保 管地点(PVLRO)にも埋設処分されている。これら埋設 施設は放射性物質の地下水による流出防止等について必 ずしも十分な機能を有していない。1901/02/17編成今後 35 年間に、チェルノブイリ 1~3 号機についても 廃炉措置がとられるが、これによる放射性廃棄物と4号 機新シェルター工事期間中に発生する放射性廃棄物の量 は 14万m と見積もられている。以上の放射性廃棄物の 処理処分を行うため、放射性廃棄物管理システムの整備 は喫緊の問題となっている。 廃棄物処理対応の強化策として放射性液体廃棄物処理場、放射性固 体廃棄物総合 処理場(Fig.4)、 長尺スクラッ プ解体施設に ついて建設・改造が行われ、 Fig.4 Radioactive SolidWasteた(一部実施 processing Facility in ChNPp9]中)。放射性 廃棄物は、最終的にはこれらの施設に輸送された後、処 理・処分される。使用済み燃料の保管については各ユニット内の貯蔵プ ール及び1986年に稼動を開始した湿式保管庫があるが、 これらの施設に有る使用済み燃料を廃炉措置を行う中で 最終的に貯蔵するために乾式貯蔵の第2保管庫が建設されている。一方、福島第 一原子力発電 所では放射性 物質の飛散防 止、ガレキの片 付け・保管 (Fig.5)、汚染水処理等が進め Fig.5 Container for debris in られているが、廃炉等に伴い 発生する多量の放射性廃棄物の処理処分は今後の課題と なっている。Fukushima-daiich NPP'52.4 後処理において作業員、住民、環境を危険から 守るための方針?チェルノブイリでは廃炉に向けての作業を行うに際し、 作業員、住民、環境を核的及び放射能の危険から守るた めの対応として以下の 4 つの方針を定め、それに対する 具体的な対応課題を整理している。 ・方針-1 優先プロジェクト研究の実施(・核燃料の状況 把握、・建屋の状態把握、・放射能汚染水の取り扱い、・ 放射性出すとの取り扱い)・方針-2 原発事故の影響軽減(・原子炉等への防護カバ ーの取り付け、・汚染ダスト除去システム、・空調、暖 房、下水の整備等) ・方針-3 作業員と自然環境の安全性向上(・放射線防護 プログラム、・個別線量、医療管理体制の整備、・放射 性エアロゾル、液体廃棄物の放出に関するモニタリング 等) ・方針4原発事故現場を環境的に安全なレベルに改善(・ 核燃料の取り出しと処分の線楽策定、技術開発、作業の 実施、・構造物解体技術、処分の技術開発、作業の実施 等)一方、福島第一原子力発電所においても廃炉に向けて のロードマップが作成され、それに基づき安全を確保し つつ後処理が行われている。3. 住民の被ばく抑制対策 3.1 住民の避難居住制限2]3[6]チェルノブイリ事故では多量の放射性物質('C's の場 合で約 8.6×10Bg)が旧ソ連のロシア、ウクライナ、ベラ ルーシを中心に広範囲に放散した。ウクライナでは 137Cs の放射能濃度が 40Bq/km2 以上になった地域は全国土 60 万km2の7%に上った。 - 事故後の緊急時対応として発電所に最も近いプリピア チ市の住民の避難が進められた。 続いて発電所から 30 キロ圏の住民及び30 キロを超える居住区の住民も避難し た。一方、放射性物質の放散、汚染について十分な情報 が届かなかったところもあり、そこの住民の中には放射 性よう素により甲状腺に多量の被ばくをうけた子供たち もいた。汚染地域については主に 137Cs 濃度に基づき4つの区分 で住民の居住制限がおこなわれ、最も汚染が大きい排除 区域は発電所の周辺半径 30 キロ圏内に加え、100mSv/年 以上の地域とされたが、その後被ばく線量の基準が下げ られてきている。ウクライナでは 1990 年の新しい基準で 5mSv/年を越えた地域の住民の避難は国が補償するとし ている。福島第一事故に伴う避難区域は帰還困難区域が 50mSv/ 年超、居住制限区域が 20mSv/年超~50mSv/年以下、避難 指示解除準備区域が 20mSv/年以下となっている。一方、IAEA の基準では汚染区域からの住民の復帰は 20mSv/年に基づき設定し、長期的には、1mSv/年を達成す ることとしている。3.2 食品等の許容放射能レベルの設定216415 -被ばく抑制のために食品に対する許容放射能レベルが 定められた。ミルクや肉類等の食品について許容放射能 レベルを定め、モニタリングの結果それを超えるものは 廃棄する対策を採った。肉類は当初埋設されたり、冷蔵 庫に貯蔵されたが衛生面、実務面、経済面で大きな課題 を残した。許容放射能レベルは事故発生以降、時間経過と共に厳 しくされていった。例えばウクライナで事故後 'ICSにつ いて日常の食品が370Bq/kgであったが 1997年ではミルク が 100Bq/kg、肉類が 200Bq/kg となっている。これは EU の基準であるミルクが 370Bq/kg、肉類が 600Bq/kgに比べ るとかなり低い値となっている。なお、福島第一事故後 の我が国における食品の許容放射能レベルは牛乳 50Bq/kg、一般食品が 100Bq/kgである。3.3 除染や放射性物質の活動場所からの隔離26) -- 市街地の除染については地面の表士の剥ぎ取りや、ア スファルトやコンクリートで表面を固めて線量を低減す る方法等がとられた。また、道路、建物の屋根・壁等は 水や溶液による洗浄が行われた。農地においても当初表土の剥ぎ取りが行われたが、範 囲が広大なため剥ぎ取った汚染土壌を貯蔵あるいは処理 するための費用と場所について大きな課題が発生した。 そこで、農地については汚染した表土を下の土壌と混ぜ て希釈する、あるいは表土と下の土壌を入れ替えること により食物が放射性物質を吸収しないような方策がとら れた。 また、石灰等を散布し植物の根が放射性物質を吸 収しにくくなるような対策もとられた。4.チェルノブイリ事故対応の教訓・チェルノブイリでは遅ればせながら4号機廃炉作業に対 応するため密閉性能を高め、クレーン等が稼動できるシ ェルターの設置が始まった。福島においても廃炉に向け て作業が進んでいるがチェルノブイリの新シェルターの 対応も参考になる部分がと考えられる。 ・チェルノブイリでは炉心付近のコンクリートに多数の 穴を空け、各種測定器を挿入し、状況を遠隔で確認した。 福島においても格納容器内に存在する損傷燃料の状況を 「確認する必要があり、チェルノブイリの手法もレビュー する価値があると考えられる。 ・チェルノブイリでは放射性のガレキの埋設処分地の隔 離性に問題を残している一方、新しい放射性廃棄物処理 施設の建設も進められている。福島の場合も放射性廃棄 物の処理処分は重要な項目であり、チェルノブイリの対応から教訓が得られると考えられる。 ・チェルノブイリでは今後の廃炉に向けた対応について 方針と手順を明確にして進めている。福島の場合も詳細 なロードマップを作成の上着実な進捗が図られているが、 チェルノブイリの対応との比較も有効である。 ・食品等の許容放射能レベルの基準値はウクライナ、日 本とも EU の基準等に比べ非常に低い値となっている。基 準値をどこまで厳しくするかの判断は難しいが、専門的 な見地からの安全確保と社会的な影響のバランスを踏ま えたものとすることが大切である。 ・チェルノブイリでは放射性物質による農地での被ばく を低減するため、初期の段階で表面の土壌を取り除く手 法を用いたが、土壌の処分や費用の面から適切な方法で はないことが判明し、表面の土壌を下の土壌と入れ替え る方法等が主流となった。我が国でも農地の除染が重要 であるが、チェルノブイリの対応も参考にすべきである。参考文献 [1] 昭和 61 年 原子力安全年報 原子力安全委員会 第 1編ソ連原子力発電所事故 昭和61年12月 [2][1986年チェルノブイリ原子力発電所(旧ソ連) 事故か ら学ぶ3.11 後処理戦略)日本機械学会動力エネルギーシス テム部門原子力の安全規制の最適化に関する研究会シン ポジウム 2012 [3]Twenty-five Years after Chornobyl Accident: Safety for the Future National Report of Ukraine 2011 [4] 10年目をむかえたチェルノブイリ原発・現状と検証 安藤正樹他【2】 いま、チェルノブイリ原発4号機は 原子力工業 1996年10月 pp.6-16 [51.東京電力ホームページ「福島第一・第二原子力発電所 の状況」 http://www.tepco.co.jp/index-j.html [6] Environmental Consequences of the Chernobyl Accident and Their Remediation:Twenty Years of Experience Report of the Chernobyl Forum Expert Group 'Environment' IAEA 2006(平成24年6月21日)4169“ “チェルノブイリ事故の後処理対応及び我が国への教訓“ “藤井 有蔵,Yuzo FUJII
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