福島事故後の原発耐震設計に対する北大学部生の評価

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カテゴリ: 第9回
1. 緒言
福島事故以降、脱原発・減原発の意見も含め、国民 の原子力発電に対する不安感が解消されていない。原 子力発電所のリスクは、その他の社会的・個人的リス クに比べて充分に受容可能な範囲にあることを分か り易く説明していかなければならない。原子力発電に 不安を抱く背景には、冷戦時にイメージされた核戦争 勃発による地球規模での“文明の破壊と放射能汚染” の恐怖がある [1]。地震大国日本では、このイメージ は、地震が原因で原子力発電所から多量に放射性物質 が放出され広域汚染が引き起される恐怖に結び付い ている。今後の日本のトータルリスクを考え、原子力発電所 の設計・建設・保全分野で若手 te 人材を獲得してい くためには、小中高大の教員・学生・生徒への情報提供が重要である。加えて、発電所周辺住民・一般国民 とのリスクコミニュケーションを継続していく必要 がある。その際、耐震設計・放射線影響の分かり易い 情報提供は必須である。ここでは耐震設計の情報提供 (試行例)に対する北大生(機械系)の評価について 報告する。
2.耐震設計に関する情報提供
耐震設計の情報提供では、建物をモデル化した質 量とばね定数の概念と、その値で決まる固有振動数 (周期) と加速度の関係を分かり易く説明することが キーとなる。具体的イメージを Fig.1 で説明した。(a) では、質量とばねでモデル化され固有周期(振動数) 1 秒、1.5 秒、2秒の建物が、想定される最大地震動 で揺れている。(c)にはこの状況で得られた建物群の 最大応答加速度と固有周期(振動数)の関係が示され ている。加速度と質量との積が力であることから、 各々の建物にかかる力(瞬時最大)が求められ、この 力に十分に耐える強度の(ばねでモデル化されている) 柱が用意されれば、信頼性の高い建物が出来上がる。
応答加速度(ガル),最大応答加速度(ガル),$応答 1.5秒15150ml1152 建築の固有周arrazurunawa o地該動 ()固有周期の具 (6)応答加速度記録(c)応答スペクトルFig. 1 Response spectrum for maximum earthquakecableFig. 2 Specimen of 6-story buildingイーストリー中央マットモジュール吊り込みFig. 3 Reinforcing steel structure for nuclear reactor buildingsteel structure for nuclear1995 年の兵庫県南部地震では古い瓦屋根木造住宅 が多数倒壊した。質量が大きい瓦屋根に大きな加速度 が働き大きな力が生じたため、経年腐食し強度の低下 した柱(ばね)が耐えられず倒壊した。固有周期(振 動数)は最も揺れ易い振動数である。瓦屋根木造住宅 の固有周期は約 0.2~0.5 秒であり、この固有周期帯は 地震動に対して揺れ易く大きな加速度が生じる。即ち、 古い瓦屋根木造住宅は一番壊れ易い建物と言える。“揺れ易い”固有周期(振動数)に関連して、身近な ・乗用車についても触れておく。乗用車の固有周期(振 動数)は、発進回転数以下の低いエンジン回転(振動) 数になるよう車体構造を工夫(設計)している。この ため高速運転中に路面の凹凸等により振動の動きが 異常に増幅されることはなく安定した走行が保たれ る。 - この「質量-ばね」モデルの概念を高度化させ、想 定される最大地震動に対して発電所の最重要度建 屋・機器・構造等の耐震 (状況によっては制振、免震) 設計用のコンピュータ解析が行われている。身近で深 刻な例として、最も大切な家族の緊急手術中に地震が 発生し停電する場合を想定してみる。確実に病院内の 緊急電源が立ちあがり、手術を終了するためには病院 建屋は耐震(制振、免震) 設計されていなければなら ない。大規模地震に対しても信頼できる病院であるた めには、原子力発電所と本質的に同じ設計が求められ る。現状の社会インフラでは原子力発電所の最重要建 屋が地震に対する信頼性が最も高い。事実、3・11 の 震災では、付近の被災者が東北電力女川発電所に救助 を求め長期滞在した。なお、この種の耐震設計の信頼性を明らかにするた め大規模検証実験が求められる。現在日本には最大搭 載重量 1,200ton、搭載面積 20 m x15m、最大水平加速 度900Gal 以上、最大垂直加速度 1,500Gal 以上、最大 水平方向+100cm、最大垂直変位\50cm の実物大3次元 振動破壊実験施設 E-ディフェンスが兵庫県三木市 にある。Fig.2 はE-ディフェンスの振動台に設置さ れた病院・学校などを想定した実物大6階建て鉄筋コ422ンクリート建物であり実験中の動画も閲覧できる [2]。 耐震設計に基づき発電所基礎岩盤上に設置される立 体的な鉄筋構造を Fig.3 に示す。実際に観察された地震動に基づく事後評価(コンピ ュータ解析)により、福島第一発電所の最重要度建 屋・機器・構造等の耐震設計に問題はなかったことが 確認されている [3]。事故の原因は、想定以上の津波 による海水の施設内への浸入(対策は比較的容易)で あり、冗長性を持たせた重要機器の冠水であった。3.学生(合計 127 名)の回答の分析提供された情報に基づき耐震設計は信頼できると する学生:85 名、信頼できないとする学生:9名、ど ちらとも言えないとする学生:33 名であった。 * 「信頼できる」とする回答は以下のように集約でき た。 ・原子力発電所の耐震構造は、十分に信頼できるもの と考える。今回の福島の事故は、原因の大部分が構造 ではなく「人」であった。今後は、十分な安全設備を しっかりと利用できるよう職員の教育と事故対策の 訓練が必要である。 ・地震に関する研究は、わが国は世界最高水準を有し ており、今後改善しなければならのは、国民のリスク の考え方である。 ・岩盤の選定や耐震解析が十分行われている。東日本 大震災においても地震動自体による致命的な破壊が なかったことから十分に信頼できる。 ・想定する地震動として、古文書レベルなどから最悪 なケースを考えていることは信頼に値する。また、想 定される場面 (避難時等)におけるリスクも細分化し て評価していることも評価できる。 ・日本の原子炉は、きちんと地震にたいして解析が行 われており、安全性が確立されていることが分かった。 重要機器に問題がなかったという点で、十分信頼でき ると思う。今後は、津波に対してもきちんとした対策をとって、すべての人が安心して生活できるようにし てほしい。安全対策の努力はし過ぎるということはい ので、これからも甘んじることなく耐震設計に力を注 いでもらいたい。 ・3月の東日本大震災で、地震による直接的な被害が 少なかったことから、日本の耐震設計は間違っていな いと思う。ただ、どのような耐震設計が行われている かについては、この授業を受けて初めてわかったので、 国や電力会社は原子力の事とともに、原発の耐震につ いても、国民に分かりやすく説明することが必要である。・今回の講義を聞いて、原子力発電所における機器・ 構造・系統は分離されて、同じ原因で支障をきたすこ とのないような設計がされていることから、機器・構 造・系統の安全性はかなり信頼できると思う。日本の 耐震設計は、世界でもかなり進んでいるので、この技 術を今後も日本で利用していくべきであり、多くの人 に理解してもらうことが大切である。「信頼できない」とする回答は以下のように集約で きた。 ・事故が起きたときの対処法までしっかり考えての耐 震設計が大事だと考える。いくら機器・構造・系統に 問題がなかったとしても、万が一の可能性まで考える べきである。 ・地震に対しては対策されていたが、福島では鉄塔が 地震で倒れて電力がなくなったと聞いた。対策技術は すごいが、このように詰めの甘いままでは信頼はでき ない。 ・立地条件等の基準が甘いような気がする。現在立地 しているものに少し疑問を持つ。福島のように、何百 年に一度のような地震に対する対策をすることは、確 かに困難ではあると思うが、もっとシビアーになった らいいと思う。また、信頼できる情報源をもっとしっ かりする必要がある。 ・耐震設計の評価方法についてなるほどと思うところ もあったが、大部分は振動工学を勉強中の私には理解 できないものであり、信頼性を評価することはできな423い。また、前提となっている「構造には問題はなかっ た」と評価された根拠についてまだ疑問があり認める ことはできない。「どちらとも言えない」とする回答は以下のように 集約できた。 ・日本の原子力発電所の耐震設計は、かなり高いもの と考えられるが、自然災害の恐ろしさは計り知れない ので、十分とは言い切れない。また、テレビやニュー ス、他の授業等を受けても、今回の福島の発電所には 少し不備があったと聞く。冷却が即座にできなかった のは事実であり、やはり十分とは言い切れないだろ う。 ・耐震設計の方針に関しては、さまざまな要因が 詳しく評価検討されていると感じられたが、どう もそれが机上の空論のように感じられる。それを 解消するには、実際に評価検討を行っている様子 や実験の模様等を視覚的に理解しやすいような資 料を使って紹介することが必要と考える。 ・事前の地盤調査や設備の耐震等、十分な説明を 受ければ信頼できると言えるが、その説明が原発 を実際に運用している組織からはあまりないため、 正確な情報が一般人にまで来ないことが大きな問 題といえる。 ・原子炉建屋の耐震解析方法については、今日の 講義を聞いて十分な技術が確立されていると感じ た。「地震に対して重要な機器・構造・系統は問題 がなかったと評価されている」とあるが、その考 え方自体が問題があると思う。結果論として、3月 11 日により原子力発電所は、膨大な被害をもたら している。主要部に問題がないのに、事故が起き たということは設計上問題があるように思われる。 ・問題がないといっても、いつ、どれくらいの災 害が起きるか分からないので、その時の対応が一 一番重要になってくる。それまでの対応がしっかりしていても、管理が行き届いていないと意味がな いので、どちらとも言えない。4.まとめ機械工学系3年生の8回シリーズの安全工学(90 分)の最終回に原子力発電所の耐震設計を基本か ら説明し、10 行程度の評価を提出させ集約した。 将来リーダになることを求められている約 130 名 の小集団であるが、耐震設計を含めた福島事故に 対する評価(感じ方)は、常識的な国民の評価を ほぼ反映していると言える。ハード面よりソフト 面での関係者の力量の向上を求めていることも伺 えた。「謝辞提供資料は、2008~2010年度文科省原子力基礎 基盤戦略研究イニシャティブ「学校教育現場との 対話に基づく原子力・放射線プログラム開発」の 成果の一部である。参考文献[1]リチャード ローズ (小沢千重子・神沼二真訳) : “原爆から水爆へ““,紀伊国屋書店,東京, pp.896-899 (2001) [2] 防災科学技術研究所, 兵庫耐震工学研究セン ター( http://www. bosai.go.jp / hyogo/ ): “実大三 次元振動破壊実験施設” [3] 原子力安全・保安院: “第8回東京電力株式会社 福島第一発電所事故の技術的知見に関する意見聴 取会資料““, 経済産業省別館, 2012年2月8日424“ “福島事故後の原発耐震設計に対する北大学部生の評価“ “杉山 憲一郎,Ken-ichiro SUGIYAMA
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