原子力発電事業リスクのマネジメント手法に関する考察

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カテゴリ: 第9回
1. はじめに
グローバル企業の間に、「評判管理」という経営手法が普 及している。評判を企業の資産とみなし、戦略的に管理 し、評判危機に対し、管理能力を発揮するための手法である。 原子力発電所の運営に対し、同管理手法が有効であるこ とを評価するための初期検討として、本稿では、「評判管 理」の背景、ならびに、基本特徴を取り上げる。
2. グローバル化の進展 情報、モノ、人のグローバル化が進む中、一地域で売れ た商品が、海を越え、瞬時に飛び火し爆発的人気商品と なる現象が世界のいたるところで起きている。このよう な市場を相手にする企業に欠かせないのが市場を的確に 読むと同時に、機会損失をおこすことのないよう、サプ ライチェーンを構築し、グローバルに対応できる人材を 育成していくことであり、近年における多くの企業の経 営方針であった。
グローバル化が進む社会において、重要課題となるのが 「評判をいかにマネージするか」である。ある地域にお ける一つ商品における失敗は、企業の命運を左右しかね ない。そして、一企業の不祥事は、業界不振や国全体に 対する不信、国を超え、市場・産業そのものに対する不 信にも発展しかねない。たとえば、トヨタ自動車では、米国カリフォルニア州で
起きたフロアマットの事故が、世界的な大問題に発展し 株価が下落し、株主価値は一気に 330億ドル損失した。不信から信頼回復にかかる期間は、ケースバイケースで あるが、企業は多くのコストを払わざるを得ず、払いき れない企業は、ビジネスの縮小、場合によっては、市場 から退出せざるを得ない。3. 「評判管理」の特徴 「評判管理」手法はノーススウェスタン大学教授で FBI のアドバイザー経験もあるダニエル・ディアメイヤーが 提唱したものである。評判を企業の資産ととらえ、戦略 的に管理し、評判危機に対し、管理能力を発揮するため の手法である。評判に類する考え方には、従来から、マーケティング、 ブランディング、コミュニケーションなどがあり、顧客 市場・外部を意識した点が共通項である。「評判管理」の特徴は、社会認知上の正しさに着目する とともに、「評判」を、広報マターとしてみなすのではな く、外部移転できない重要な経営リスクとみなしている 点である。第二に、実用的である点である。評判が失われたあるい は失われかねない実例への対応という複数のケースに根 差した手法であり、理論から出来上がった手法ではない。 評判危機状況の分析・特定、方策の検討、実行という一連のプロセスを貫くアプローチを指している。第三に、マネジメント手法である人・組織・プロセス・IT・ フレームワークを用いることによって、効果を発揮でき る手法である。4. 「評判管理」の有効性以上のような特徴を持つ「評判管理」が原子力発電所 の運営に対しても、有効ではないかと考えた。それは、 原子力発電所が本来備えている特性に加え、運営を取り 巻く環境が大きく変化したからである。異論もあろう。サプライチェーンの観点から言えば、原 子力発電所は、生産部門と位置づけられる。生産部門が 重視することは、安全かつ生産性の高いオペレーション である。顧客を向いた業務機能を担うのは営業や販売部 門、投資管理を行うのは財務・経理部門、など業務内容 に関わるステークホルダーを見るのが効率的な経営では ないか、という考えである。しかしながら、原子力発電所は、一企業の生産部門であ ると同時に、規制部門であり、高度な技術と統治能力が 必要とされる。また、立地地域への大きな影響力を持っ ており、企業内でもバランスシートに占比率も極めて高 い。原子力発電所が担う役割は、生産に特化した部門を 上回る。昨年の福島第一発電所の事故以来、原子力発電所原子力 発電に対するあらゆるステークホルダーの目が厳しくな った。安全かつ生産性に優れた発電所運営を行うことは 言うまでもないが、社会が発電所運営をいかに認知する か、という点に目を向け、経営課題として同じように向 き合うことも重要ではないか。5. 終わりに評判は、本質的に社会的なもので、様々なステークホル ダーの影響によって左右される。評判を得る、評判を回 復するためには、企業がしかるべき事業を継続的に行う ことは言うまでもないが、そうしていることで自ずと評 判が得られるというものでは必ずしもない。外部の多方面から影響を受けるものであるから、この外 部の存在者を理解することが、評判を管理するためには 極めて重要となると言える。連絡先:山下寛子、〒107-8672 東京都港区赤坂 1-11-44 赤坂インターシティ アクセンチュア株式会社、 E-mail:hiroko.yamashita@accenture.com紀伊参考文献 [1] Daniel Kahneman, “Thinking fast and slow”, Farrar Straus&Giroux 2011 [2] マッテオ・モッテルリーニ“経済は勘定で動く”紀伊国屋書店, 2006 [3] Daniel Diermeier, “Reputation rules, 2011 [4] Sheena Iyengar, “The art of Choosing”, Twelve, 2011426“ “原子力発電事業リスクのマネジメント手法に関する考察“ “山下 寛子,Hiroko YAMASHITA
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