高出力レーザー加工を用いた炭素繊維強化複合材料の- 劣化・損傷機構Degradation and Damage Mechanisms of Carbon Fiber Reinforced Plastic

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カテゴリ: 第9回
1.緒言
近年、地球温暖化問題における CO2削減やエネルギー 問題への対策として、エネルギー・輸送機器の軽量化・ 高効率化・低燃費化が重要となっている。これらの構造 材料候補として、鋼やチタン、アルミニウム等の金属よ り比重が小さく、高強度の炭素繊維強化複合材料(CFRP) が注目されている[1]。 CFRP は風力発電・旅客航空機・ 自動車等の構造材料への導入量が近年急速に増加してい る。これらの製造工程では、ダイヤモンド被覆等の超硬 工具による機械加工や砥粒を混入させたウオータージェット加工が用いられ高品位加工が実現している[2]。しか しながら、現状の技術水準では十分な加工速度が得られ ていない、工具摩耗が速い等の問題が指摘されている。一方、最近注目されている加工にレーザー加工が挙げ られる。レーザー加工は、非接触加工で、加工に作用す る時空間を制御することが可能であるため、加工の高速 化や自動化を行うことができ、高度部材製造を支える重 要技術としてエネルギー・輸送機器等へ適用範囲を拡大 しつつある。CFRP のレーザー加工については、近年各国 において研究[3]が盛んに行われているが、現状の技術で は切断加工端部に熱影響を生じるため、十分な加工品位 を保つことができず、結果として材料寿命短縮や強度低 下が懸念される[4,5]。この問題に対し、熱影響を低減させるレーザー加工技術の新たな開発が必要であると同時 に、加工を施した CFRP の信頼性を確保するための強度 特性評価が必要不可欠である。そこで本研究では、赤外および近赤外等の高出力レー ザーによって切断加工を施した CFRP 試験片を用いて引 張・疲労試験を行い、その強度特性について調べた。ま た、劣化・損傷モニタリング技術(マイクロ X線CT、ア コースティックエミッション測定等)を用いて加工後の CFRP の劣化・損傷機構の検証を行った。
2. 実験方法2.1 試料 1. 本研究で用いた CFRP は、PITCH 系炭素繊維を長手方 向に対して 0°方向と 90°方向に交互に積層させたクロス プライ材である。マトリックスにはエポキシ硬化性樹脂 を用いた。厚さは 2mm とした。 2.2 レーザー切断加工法 __ レーザー加工には、赤外レーザーおよび近赤外レーザ ーを用いた。赤外レーザーには、波長 10.61um の CO2レー ザー加工(以下 CO2)を用いた。平均出力 800W、繰り返し 周波数 20kHz、パルス幅8us、スポット径 134um、加工速 度 1m/min の条件下で窒素ガスを吹き付けて行った。近赤 外レーザーには、波長 1.07um の 300W ファイバーレーザ ー加工(以下 300W FL)および 2000W ファイバーレーザー 加工(以下 2000W FL)を使用した。両レーザーともに連続 照射(CW)でかつ YB シングルモードの高ビーム品質であ り、スポット径は約 20um であった。300W FL では出力 300W、加工速度は 1m/min で、2000W FL では出力 2000W で加工速度を 7m/min とし、窒素ガスを吹き付けて加工した。比較のため、ダイヤモンド工具を使用した機械加工(以 下、MC)を実施した。幅1mm のダイヤモンド砥石を用い た平面研削盤を使用し、バリや剥離の発生しない最大切 断速度 0.12mm/min で行った。 2.3 試験片本研究では、CFRP板を各切断加工法によって平板状に 切り出し試験片とした。Fig.1 に疲労試験片の形状を示す。 幅25mm、長さ 200mm の形状とした。一方、引張試験片 を幅 25mm、長さ 250mm の形状とした。これらは JIS K7083、JIS K7164 の標準規格に準拠して行った[6,7)。ま た、試験片つかみ部の端部補強用タブ材には厚さ2mm のガラス繊維を用いたエポキシ樹脂積層板(利昌工業製 ES3350N)を使用し、貼付にはエポキシ樹脂系化学反応形 接着剤を用いて 1~2 日程度加圧圧縮して接着した。1900/02/18Jer.com1001900/07/18Fig.1 Geometry of fatigue test specimen 2.4 引張および疲労試験本試験では、電気油圧サーボ式材料強度評価試験装置 (MTS 製 810 システム)を使用した。同装置の最大引張荷 重は 100kN である。油圧式のつかみ具を用いて試験片両 端のつかみ部を一定圧力でつかみ、引張試験では、変位 速度を 1mm/min に設定し、試験片が破断に至るまで荷重、 変位、ひずみを測定した。一方、疲労試験では、荷重制 御で繰返し速度を SHz とし、応力比 R=0.1 の引張-引張 疲労試験を行った。試験片が破断に至るまでの荷重、変 位、ひずみ、繰り返し数を測定した。 2.5 加工・劣化損傷評価加工後の試験片および破面の観察には、光学顕微鏡キ ーエンス製VHX-1000)および走査型電子顕微鏡キーエン ス製 VE7800)を用いた。加工面付近の内部構造の観察に はX線CT(ヤマト科学製 TDM1000H-SH)を用いた。試験時の劣化損傷評価には、アコースティックエミッ ション(Acoustic Emission:AE)による同時計測を行った。試 験時に約 80mm の間隔で試験片に取り付けた2個の AE センサ(Physical Acoustics 製PICO, 500kHz共振)によりプ リアンプを介して AE 波を検出した。 AE 計測については AE システム(Physical Acoustics 製 PCI-2, AEWin)にてデー タを取得し解析を行った。計測時のアンプ総利得は20dB、 しきい値は42dB とした。3. 結果と考察3.1 材料強度試験」 3.1.1 最大引張強度本研究で用いたクロスプライ CFRP の引張挙動は、金 属のような塑性域が見られず、ある応力に達すると急速 に破断するという特徴を有する。そこで、破断応力を最 大引張強度 ours と定義した。 Fig.2 には各種加工後の引張 試験結果を示す。この結果から、機械加工試験片(MC)の1901/03/25際イベントにはセンターTensilestrength,OUTS(MPa)MC CO2 300W FL 2000W FL Fig.2 Tensile strength, Ours as a function of several cuttingprocess1901/07/131901/06/23520Smar(MPa)1601901/03/15420MC 02kW FL A300W FL HCO210 101901/02/031899/12/3110101810 10 10 Cycles to failireFig.3 S-N diagram in the analysis of fatigue test forseveral cutting specimensStrength at 106 cycles(MPa)MCCO2 300W FL 2000W FL Fig.4 Fatigue strength at 109 cycles for several cuttingspecimensデータと比較して、レーザー加工試験片では、CO2、300W FL、2000W FL の順に強度低下の割合が大きい。すなわち、 レーザー加工において、波長が短く、加工速度が速い程、 強度低下が抑制できることがわかる。 3.1.2 疲労寿命と時間強度 - Fig.3 には各種加工後の疲労試験により得られた S-N線図を示す。この結果から、機械加工試験片(MC)が最も疲 労寿命が長く、レーザー加工試験片では CO2、300W FL、 2000W FL の順に疲労寿命が短くなるという傾向が見ら れる。また、Fig.4 に示すように 10 サイクル時の時間強 度を比較した結果、機械加工(MC)と比較した各レーザー 加工の時間強度の低下率は、最大引張強度における強度 低下よりも大きい傾向が見られる。 3.2 劣化・損傷機構 3.2.1 マイクロX線CT による劣化・損傷評価レーザー加工試験片には、加工端部において熱影響部 (Heat Affected Zone:HAZDが確認できる。これは、レーザー 加工時に CFRP に熱が加えられ、加工端部の樹脂が融解 することにより、炭素繊維がむき出しになったと考えら れる。そこで、より詳細に加工端部の内部への熱影響を 調べるためにマイクロX線CT を用いて観察した。Fig.5 に各種加工法におけるX線CT 画像を示す。画像におい て、左右方向が引張主軸に対して90°方向繊維、奥行き方 向が引張主軸に対して 0°方向繊維である。この結果から、 CO2、300W FL、2000W FL の順に HAZ の領域が大きい ことがわかる。また、表層より内部積層間に大きな範囲 の変化が見られ、加工端部から一様でない熱伝達・劣化 損傷が起こっているのがわかる。これは、炭素繊維の高 熱伝導性から、レーザー切断加工時の熱が 90°方向繊維を 介することでより試験片の内部に伝わりやすくなったた めと考えられる。加えて試料内部では熱が外部に拡散し にくいことも影響していると考えられる。次に、マイクロX線CT により得られた HAZ領域の大 きさと引張強度比(レーザー加工試験片の強度機械加工 試験片の強度)の関係を整理したところ、Fig.6に示すよう に、引張強度比は HAZ領域の大きさに比例していること がわかる。このことから、レーザー加工試験片では HAZ 領域の測定によって、引張強度を定量的に求めることが 可能となる。 3.2.2 クラック成長観察Fig.7には機械加工試験片(MC)と 2000W ファイバーレ ーザー加工試験片 (2000W FL)の疲労試験前および 470MPa で 10 サイクル時のクラック観察結果を示す。画 像において、左右方向が引張主軸に対して 0°方向繊維、 奥行き方向が引張主軸に対して 90°方向繊維である。10 サイクル後の試料では各加工法とも、0°方向繊維層にト ランスバースクラックが生じる。また、レーザー加工試 験片の方が機械加工試験片よりも多くのトランスバース1901/03/26ImmCO2300W FL 2000W FL Fig.5 Observation of the cross-section of cutting surfaceby micro X-ray CT of CFRP1899/12/31Clasero mc0.8 0.51.5 HAZ(mm) Fig.6 Stress ratio of laser cutting to machining in tensiletest, depending on HAZ extensionO cycle10?cycle1903/11/17Machinig-cut specimen2000W FL-cut specimen200umFig.7 Cracks in cross-section at 0 cycle and 10 cycles forMachining-cut and 2000W FL-cut specimensR=0.1, 5Hz0.95 40E/EO| AMC(omax=530MPa) c 2kW FL(omax=500MPa)0.8510_ 0. 20 .4 0.6 0.8 1NN, Fig.8 Young's modulus in fatigue test, depending on cycleOnan-530MPa, R=0.1, 5HzHitsHits10' 2×10'100 1 1 .1×10' 1.2×10' L.32 × 101.33×10 1.34 × 10Cycles Fig. 9 AE count per 500 cycles for Machining-cutspecimenクラックが見られた。 - Fig.8に機械加工試験片(MC)と 2000W ファイバーレー ザー加工試験片(2000W FL)の疲労試験時のヤング率の変 化について示す。機械加工試験片と比較すると、レーザ ー加工試験片では大きなヤング率の低下が見られる。こ れはクラック成長の影響であると予測される。 3.2.3 AE センサを用いた劣化・損傷解析CFRP の損傷時には、ひずみエネルギーによる弾性波が 生じる。この弾性波を AE センサによって測定し、CFRP の疲労による損傷機構について検証した。Fig.8に機械加 工試験片における疲労破断までの各 500 サイクル数毎の AEヒット数(しきい値を超えた弾性波が生じた回数)を示 す。この結果から、疲労初期(~102 サイクル程度)に多くの 信号が観察される。これは、疲労初期において CFRP の クラック損傷が生じていると考えられる。また、疲労中 期(10~10 サイクル)ではほとんど AE 信号が見られず、破 断直前になって多くの信号が観測された。このことから、 中期ではクラックが少しずつ成長していき、破断前に急 速にクラックが進展して破断に至ると考えられる。この ように疲労試験時に AE を用いた同時計測を行うことに よって、劣化・損傷過程の同定が可能となる。1901/03/274.結言1. 本研究では、高出力レーザー切断技術によって加工さ れたクロスプライ CFRP を用いて、引張・疲労試験を行 い、マイクロ X線CTやAE 測定等の非破壊モニタリン グ技術に基づいて、劣化・損傷機構の検証を行った。そ の結果から、レーザー加工試験片において、最大引張強 度、疲労寿命、時間強度は、短波長で加工速度の速いレ ーザーが強度低下や寿命の短縮を抑制できることがわか った。マイクロX線CTはレーザー加工時に生じる劣化・ 損傷を定量的に求めることが可能であり、その強度低下 の割合は HAZ 領域の大きさに比例することがわかった。 「疲労試験により得られたヤング率の変化は、レーザー加 工試験片では機械加工試験片よりも大きな変化が見られ、 クラック成長の影響であることが予測された。また、疲 労試験時に AE を用いた同時計測を行うことによって、 劣化・損傷過程の同定が可能となることがわかった。謝辞本研究の一部はNEDO プロジェクト「次世代素材等レ ーザー加工技術開発プロジェクト」の委託により行われた。KUHI[6]本研究の一部は NEDOプロジェクト「次世代素材等レ ーザー加工技術開発プロジェクト」の委託により行われ た。[7]参考文献 [1] 前田豊、「炭素繊維の最先端技術」、シーエムシー出版、2007.[4]「革新的材料(CFRP)加工技術の事前研究」、新エネル ・ ギー・産業技術総合開発機構平成21年度成果報告書、2010. D. Herzog, P. Jaeschke, 0. Meier, H. Haferkamp, ““Investigations on the thermal effect caused by laser cutting with respect to static strength of CFRP”, International Journal of Machine Tools & Manufacture, Vol.48, 2008, pp.1464-1473. Y. Harada, K. Kawai, T. Suzuki, T. Teramoto, “Evaluation of Cutting Process on the Tensile and Fatigue Strength of CFRP Composites”, Materials Science Forum, Vol.706-709, 2012, pp.649-654. Y. Harada, K. Kawai, M. Nishino, H. Niino, T. Suzuki, T. Teramoto, “Effect of Fiber Orientation on Tensile Properties of Carbon Fiber Reinforced Plastic (CFRP) using Laser Cutting Process““, Proceeding of 12 Japan International SAMPE Symposium & Exhibition、東京、 2011. 「JIS K 7083; 日本工業規格 炭素繊維強化プラスチ ックの定荷重引張一引張疲れ試験方法」、日本工業規 格、1993. 「JIS K 7164; 日本工業規格 プラスチック一引張特 製の試験方法-第4部:等方性及び直交異方性繊維強 化プラスチックの試験条件」、日本工業規格、2005.(平成24年6月18日)[5]453“ “高出力レーザー加工を用いた炭素繊維強化複合材料の- 劣化・損傷機構Degradation and Damage Mechanisms of Carbon Fiber Reinforced Plastic“ “川井 恭平,Kyohei KAWAI,原田 祥久,Yoshihisa HARADA,鈴木 隆之,Takayuki SUZUKI,寺本 徳郎,Tokuo TERAMOTO,西野 充晃,Michiteru NISHINO,新納 弘之,Hiroyuki NIINO
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