き裂を有する原子炉内機器への ウォータージェットピーニングの適用

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カテゴリ: 第9回
1. 緒言
- ウォータージェットピーニング(WJP)は、原子力発電所 の原子炉内部構造物の高経年化に伴う溶接線近傍の応力 腐食割れ(SCC)に対する有効な予防保全工法の一つであ り、1999年以降、多くの実績を積み重ねてきたい。 - WJP とは、水中でキャビテーションジェットを材料表 面に当て、キャビテーションの崩壊圧力を利用して、材 料表面に圧縮残留応力を生成する技術である2.31, WJP は、 制約条件が少なくロバスト性の高い施工方法であり、施 工に伴う表面硬化が小さく、熱的影響も与えない施工方 法でもある。き裂を有する箇所への WJP の適用について、事前評価 の結果、WJP 施工によりき裂を進展させる等の悪影響を 与えることはないと評価した。本書では、き裂を有する表面への WJP 適用評価結果及 び実機に適用した WJP について報告する。
2. WJP の概要
SCC の発生原因は、材料の鋭敏化、腐食環境、引張残 留応力という 3 つの因子が重畳した場合に発生し、いず れか 1 つ以上の因子を除外することによって防止できる と考えられている。 Fig.1 に示すように、WJP は、引張 残留応力を圧縮残留応力に改善することによって、SCC を防止しようというものである。。したSensitized materialSensitized materialIIWJPSCC Corrosive environmentTens residuCorrosive environmentCompressie Sesidual streSCC generationMitigation of SCCFig. 1 Effectiveness of WJP against SCCWJP は、Fig.2 に示すように、1999年の日本原子力発電 (株)東海第二発電所を始めとし、2011 年までに国内 BWR/ABWR18 プラントにおいて延べ26回に及ぶ定期検551.はじったのか」18査時及び建設時の施工実績を有する。WJP は、予防保全 工法として、原子炉内機器の表面にき裂がない場合や、 き裂がある場合は、き裂を除去した後に適用してきた。 しかし、これまでに 1000 ヶ所以上の溶接線に WJP を適 用してきたが、き裂がある表面に対しての WJP の適用実 績はなかった。Total 18 (1}BWRsIABWRSNumber of appled plants) Instrumentation nozzles Core shroud. Upper shroudID, OD Middle shroud ID OD Lowershroud BOD Repatred (crackhomoval, etc.) area Priser pipes/miser braces Pariser. RIP casings2012 Shuroud supinis ICM HSG quide tube welds CRD housings/stub tubes 85 -ICM housingsIWJP Appled Mikel 3 ABRs, as of Jun 2012Ready to apply WJP Fig.2 Field experiences of WJP for BWR reactor internals2005 年に、東海第二発電所のシュラウドサポート V8 外面溶接線上において、SCC が発見された。V8 溶接線 は、Fig.3 に示す箇所であり、Ni 基合金(Alloy182)で製作 されている。これらのき裂は、構造健全性に及ぼす影響 はないと評価されたため、き裂は残したままとし、維持 規格に従って継続的に点検を実施することとなった。ま た、2009 年に、シュラウドサポート V8 内面溶接線及び H7 内面溶接線において、さらに 38 ヶ所の SCC が発見さ れたため、超音波探傷試験(UT)による継続検査を実施し ていくこととなった7。Fig.4 にそれぞれのき裂の表面上 の長さ及び深さ、Fig.5 にき裂が発見された箇所を示す。 き裂がない箇所、及びき裂間に新たな SCC の発生を防止 するため、WJP の適用が検討された。WJP は、き裂があ る箇所に施工しても、き裂を進展させるような悪影響を 与えないことが検証されているため、き裂を残したまま 施工することが可能である。よって、き裂がない箇所及 びき裂に対して WJP の適用が選択された。 過去に実施し た確証試験や確認試験では89、き裂がある表面に WJP を 適用することにより、き裂が進展するような悪影響はな いと検証されているが、今後実施する UT による継続検 査や、き裂間の残留応力低減効果に対しては、検証する 必要があった。よって、き裂を有する実機に WJP を適用 する前に、妥当性確認試験を実施した。H7Fig.3 Locations of H7 and V8 weld lines in Tokai-2 reactor(H7N8: Alloy 182, Shroud: 304L S.S.)Measured crack ? Unmeasurable24rokuya hole)Crack depth (mm)38crackson theid area150100 Crack tength (mm)Fig.4 Sizes of cracks on H7/8 ID (Original data from JAPC Press Release [7])270““ - -ー----------------180°:cracked area_Fig.5 Map of cracked area on H7N8 ID in Tokai-2(Drawing rearranged from [7])3. き裂を有する表面へのWJP 施工評価3.1 UT 性の評価 - 前に述べたように、過去に実施した確証試験や確認試 験において、WJP の適用によりき裂が進展するような悪 影響を与えないことは検証されている。56また、き裂がある箇所の UT による継続検査は、維持 規格に従い実施される。き裂がある表面に、新たな SCC の発生を抑制させる工法として WJP が適用される場合、 WJP 施工前後において UT による計測データに顕著な差 がないようにしなければならない。よって、SCC を付与 した試験体を使用して、WJP 施工前後による UT 性確認 試験を実施した。試験体は、SUS304 と Alloy182 を使用し、3点曲げによ る引張応力を加え、テトラチオン酸溶液に浸漬して SCC を付与した。WJP 施工は、最も保守的な評価となるような条件とし、 WJP 施工方向は、き裂に対して平行方向と直交方向とな るように施工した。 * UT による計測は、WJP 施工前後で同じ点を 7~8点選 定して計測し、計測したエコー画像、探傷波形及びき裂 深さ測定結果を比較した。試験結果は、Fig.7 に示すように、WJP 施工前後で UT 計測結果に顕著な差はなかった。さらに、WJP 施工前後 のそれぞれの試験体における計測結果の平均誤差につい ても、Table 1 に示すように、顕著な差は見られなかった。 *以上の結果から、き裂を有する表面に WJP を適用して も、UT 性へ悪影響を与えることはないことを確認した。304 S.S. (WJP:40min/m)After WJPBefore WJPこ・たまらみかけるCrack depth measurement between before and after WJP(wus updap yes |--: Before WJP --:After WJP15050100 Measurement position (mm)a) Type 304S.S.Alloy 182 (WJP:40min/m) Before WJPAfter WJPこちょうちんま..Crack depth measurement between before and after WJPCrack depth (mm)--:Before WJP 11 ---: After WJP50150100 Measurement position (mm)b) Alloy 182Fig. 7 Ultrasonic Test before and after WJPTable 1 Mean Error of sizing difference before and afterWJPMaterial|Mean Error(mm) | Sample size| Type 304S.S. |0.06|64Alloy 182-0.0130*1: Subtracted data after WJP from data before WJP3.2 残留応力低減効果き裂がある表面に応力改善工法を適用することで、検 査対象外とすることはできないが、新たなき裂の発生を 抑制するために応力改善は望まれる。そのため、き裂表 面部に WJP の適用が計画され、WJP施工によるき裂近傍 及びき裂間の残留応力低減効果を確認するために、SCC を付与した試験体に WJP を施工し、残留応力測定を実施 した。 1 試験体は、SUS304 と Alloy182 を使用し、実機を模擬 するために、熱処理、機械仕上げを実施した後、単独き 裂及び複数き裂を付与した。 単独き裂は、3 点曲げによる 引張応力を加え、テトラチオン酸溶液に浸漬して付与し た。き裂深さは、WIP 施工による応力改善深さと比べて 十分深い 10mm を目標とした。一方、複数き裂は、き裂 の間隔をコントロールするために、放電加工(EDM)にて57スリットを4ヶ所付与した。スリットの間隔は、実機に おける最小間隔である 13mm と比較して保守的な評価と なるように、3mm、5inm、10mm とした。WJP 施工は、最も保守的な評価となるような条件とし、 WJP 施工方向は、き裂に対して直交方向となるように施 工した。試験体の残留応力測定は、WJP 施工前後の試験体表面、 表面下 100 μm、200 mm の応力を、X 線回折法(XRP)に より測定した。なお、WJP 施工前には、き裂を付与した 後、強研削により引張応力を付与した。 - Fig.9、10、11 に、き裂近傍及びき裂間の圧縮残留応力 の評価結果を示す。き裂近傍で引張応力となるような悪 影響はなく、狭い間隔(3mm)の箇所も含めて全ての測定点 で、表面下 200 um で圧縮応力となっていることを確認し た。従って、WJP は、き裂近傍及びき裂間においても、 応力低減効果があることが確認できたため、新たな SCC 発生の抑制に有効な工法であることを確認した。SCCK50150Initial dat? line304S.S.300inturutoSCCa)Specimen outline(SCC on 304S.S)304S.SO:before WJP(surface) 10:before WJP(100pm subsurface) ◇:before WJP(200pm subsurface) A before WJP(surface/WJP line)Residual stress[MPa]10301900/02/0820 Distance from the crack[mm]1904/02/09b)Residual stress before WJP304SSO alter WJP(surface) D:after WJP(100urn subsurface) O:after WJP (200um subsurface)Residual stress[MPa]9600001011 1 30 40 Distance from the crack(mm)c)Residual stress after WJP Fig.9 Residual stress near the crack(304S.S)SCCサウンド Alley192_k01/Alloy 600/Initial data line 本・ー・ー・ー・ー・ー・ー300Porpendoularse1「KinguaseaseGrideoSCCa)Specimen outline(SCC on Alloy182)Alloy182O before WJP(sudace) D:befere WJP(100um subsurface) ◇:before WJP(2004m subsurface) A be!cre WJP(surface/WJP line)Residual stress[MPa]Alloy! 82Alloy6001900/01/0930115020140 Distance from the crack[mm] b)Residual stress before WJP200Alloy182O:before WJP(surface) D:before WJP/100wn subsurface) Q:before WJP(20047 subsurface)Residual stress[MPa]-800Alloy182.Aloy600.........1897/04/0430501 40 Distance from the crack[mm]c)Residual stress after WJP Fig.10 Residual stress near the crack(Alloy182)EDM slits (Simulated cracks)135.1ターセットWJP line304S,S,Freezyerers!_300Perpendiculatta5rargi- WIP linea)Specimen outline|304SSA:before WJP/surface) O after WJP(surface) :after WJP(100pm subsurface)after WJP (200 um subsurface) - EDM slit(smulated crack)Residual stress[MPa]Aa0. | Sas|10 11:00 door0_10_0_0_020_ 0_ 0_ 0_Distance from EDM slit [mm] b)XRD measurement resultFig. 11 Residual stress between cracks583.3 き裂を有する試験体の断面観察 - WJP の適用によりき裂が進展するような悪影響を与え ないことは検証されている。これは、き裂を有する試験 体に WJP 施工し、実機を模擬した高温水中環境下に試験 体を浸漬してき裂の進展有無を検証したものである。今 回、き裂を有する表面に WJP を施工し、施工後の試験体 断面観察を実施した。 - 試験体は、SUS304 と Alloy182 を使用し、実機を模擬 するために熱処理、機械仕上げを実施した後、3点曲げに よる引張応力を加え、テトラチオン酸溶液に浸漬して SCCを付与した。なお、SCC 深さは、約2mm、約10mm とした。WJP 施工は、最も保守的な評価となるような条件とし、 WJP 施工方向は、き裂に対して平行方向と直交方向とな るように施工した。また、実機を模擬するために、試験 体を治具に固定し、残留応力を加えたまま WJP を施工し た。なお、曲げひずみは、0.25%を付与した。 - WJP 施工後、熱処理にてき裂内面に焼色(酸化膜)を付与 し、曲げ疲労試験にてき裂部分を強制破断させて、マイ クロスコープを使用して断面観察を行なった。Fig.12 に SUS304 試験体、Fig.13 に Alloy182 試験体の SCC 境界部 外観を示す。 - Fig.12 より、SUS304 試験体において、200倍の観察結 果から、焼付け面(酸化変色部)を付与したき裂内部には、 IGSCC(粒界型応力腐食割れ)の特徴であるロックキャン ディー状破面が観察された。しかし、焼付け面(酸化変色 部のき裂深さ及びき裂長さ方向の端部には、疲労破面の 特徴であるストライエーション状の破面は観察されなか ったため、き裂は、WJP 施工前に付与した SCC であるこ とを確認した。また、Fig.13 より、Alloy182 試験体におい て、200倍の観察結果から、焼付け面(酸化変色部)を付与 したき裂内部には、Ni基合金の溶接金属にみられるデン ドライト層に沿ってSCCが進展している破面が観察され た。しかし、焼付け面(酸化変色部)のき裂深さ及びき裂長 さの端部には、疲労破面の特徴であるストライエーショ ン状の破面は観察されなかったため、き裂は、WJP 施工 前に付与した SCC であることを確認した。なお、Fig.12、 Fig.13 は、SCC 深さ約10mm の試験体における断面観察 結果を示しているが、SCC 深さ約2mm の試験体において も同様な結果であった。 * 以上の結果から、SUS304 及び Alloy182 共に 10mm程 度までのき裂に対して WJPを施工してもき裂形状の変化 はなく、疲労に対する影響がないことを確認した。4060/10/11baking side(SCC-ID)compulsion fracture sideスリーmpulsion fracture side*50 times×200 timesFig.12 Fractograph of 304.S.S57 B gr 1 2 3 4FREETbaking side(SCC-ID)気湯Neilinecompulsion fracture sideeompulsion fracture sidel*50 times*200 timesFig.13 Fractograph of Alloy1824. 実機への適用き裂を有する表面に WJPを適用しても悪影響がないこ とを確認した結果を元に、日本原子力発電(株)東海第二発 電所において、き裂を有する H7/08 内面溶接線実機へ WJP を適用した。 Fig.14 に WJP 装置例、Fig.15 に WJP 施 工状況を示す。実機作業は、炉内作業(WJP 装置設定撤去 等)、WJP 施工を5日間で実施した。また、Fig.16 に WJP 施工前後の目視試験(VT)状況を示す。本図に示すように、 き裂を有する表面に WJP を施工しても、き裂の見え方に 明らかな差はないことがわかる。5917-ID WJP toolCRD stub tubellCM housing WJP toolFig. 14 H7/8-10 WJP tool on the Tokai-2 refueling floorきたときの会H7-DH7ID WJp too!Water JetWIP nozzleANTOFig.15 WJP treatment on H7-D of Tokai-211月2011784 NT2(2017-01DSCCH7ID - 54.9° (before WJP)2012011 0.0 AM-2025.000円5mm AUTOマイクでH7ID - 54.9° (after WJP)Fig.16 Cracked surface before and after WJP in Tokai-25. 結言WJP は、き裂を進展させることがなく、表面き裂のUT 性に影響がないこと、き裂近傍及びき裂間の狭い箇所で も残留応力低減効果があること、疲労の影響がないこと を確認し、き裂を有する原子炉内構造物に WJP を適用し た。 * 今後とも、施工信頼性を含めた技術向上に努め、原子 力発電プラントの更なる信頼性向上に寄与する。謝辞WJP の各種確認試験及び東海第二発電所実機適用に携わ って頂いた多くの方々の多大なるご協力に対し、感謝致 します。参考文献 [1] 古川秀康、魚住弘人、布施元正、原子炉の炉内保全技術の開発と実機への適用”、日立評論、Vol.84、No.2、pp.29-34、2002. [2] 榎本邦夫、平野克彦、望月正人、黒沢孝一、斎藤英世、林英策、““ウォータージェットピーニングによる 材料表面の残留応力改善効果の検討、材料、Vol.1、No.7、pp.734-739、1996. [3] 祖山均、山内由章、井小萩利明、大場利三郎、佐藤一教、進藤丈典、高速水中水噴流による顕著なピーニング効果”、噴流工学、Vol.13、No.1、pp.25-32、1996. [4] 溶接学会編、溶接・接合便覧、丸善株)、東京、p.132、1990. [5] 小若正倫著、金属の腐食損傷と防食技術、(株)アグネ承風社、p.377、1995. [0] プレスリリース、日本原子力発電(株)、July 13、2005. [7] プレスリリース、日本原子力発電(株)、March 1、2010. [8] 平野克彦、榎本邦夫、林英策、黒沢孝一、““SUS304鋼の耐食性および疲労強度に及ぼすウォータージェ ットピーニングの影響”、材料、Vol.1、No.7、pp.740-745、1996. [9] 齋藤昇、榎本邦夫、黒沢幸一、守中廉、林英策、石川哲也、吉村敏彦、原子力プラントの炉内機器に対 するウォータージェットピーニング技術の開発““、噴 流工学、Vol.20、No.1、4-12、2003.(平成24年6月21 日)60 -“ “き裂を有する原子炉内機器への ウォータージェットピーニングの適用“ “長谷川 国広,Kunihiro HASEGAWA,波東 久光,Hisamitsu HATOU,齋藤 昇,Noboru SAITOU,菅野 明弘,Akihiro KANNO,吉久保 富士夫,Fujio YOSHIKUBO,守中 廉,Ren MORINAKA
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