316系低炭素ステンレス鋼溶接金属の BWR 炉水温度域における熱時効脆化の評価
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カテゴリ: 第9回
1.背景
2相ステンレス鋳鋼の熱時効脆化は、軽水炉の高経年化 対策上注視すべき経年劣化事象の一つである。8相がス ピノーダル分解することによって Cr リッチ' 相と Fe リッチ相に分離し、硬化することが炉水温度域におけ る熱時効脆化の主原因とされる。沸騰水型軽水炉(BWR、 運転温度 288°C)1 次冷却系配管や管台などの溶接に用い られるオーステナイト系低炭素ステンレス鋼溶接金属は、 溶接時の凝固割れ防止のため数~十数%の&相を含む8 - yの2 相組織を持つ。よって2相ステンレス鋳鋼と同じ く、スピノーダル分解による時効脆化を引き起こす可能 性が以前から認識されていた。これに関連して、著者らい は同系の材料である SUS316L 溶接金属の 335°C時効を行 い、時効により8相が硬化すること、時効硬化の原因と なる微視組織変化がスピノーダル分解であることを示し た。BWR炉水温度域において長時間の時効を受けたとき、 オーステナイト系低炭素ステンレス鋼溶接金属が脆化す る可能性ならびに脆化の程度が問題になり得るかどうか を定量的に判断するための知見が必要である。
2.目的
BWR 炉水温度域におけるオーステナイト系低炭素ス テンレス鋼溶接金属の硬化挙動を予測し、当該温度域に- 83,おいて長時間時効した場合の脆化を評価することを最終 的な目的としている。具体的には、以下の二つの項目に より一応の評価を行うが、本報では(1)に関する進捗を報 告する。(2)については講演にて進捗の報告を行う。 (1) SUS316L溶接金属を 310°C、335°Cおよび400°Cで等温 熱時効試験し、実測された熱時効硬化データに基づいて BWR 炉水温度を長時間経験した場合のフェライト相の 硬化挙動を予測する。 (2) 溶接金属の各相の硬さ、組織分率などのパラメーター から溶接金属全体の衝撃値を推定する。3. 実験方法3.1 供試材準備板厚25mm の SUS316L 板材に、1層1パスで多層盛り TIG 溶接による突き合わせ溶接を施すことにより供試材 を作製した。板材およびフィラーの組成を Tablel に、溶 接金属の典型的な組織写真をFig.1 に示す。フェライトス コープによる測定の結果、5相率は平均 12.7%であった。3.2 時効および実験方法供試材を 310°C、335°Cおよび 400°Cで、温度一定の条 件で時効した。電解研磨によって加工硬化層を除去した後、微小硬度 計を用いて&相と相をそれぞれ選択的に硬さ測定した。硬さ試験を行うにあたり、供試材中の6相の幅は数μm 程度と圧痕法による硬さ測定には不十分であるため、荷 重変位曲線から押し込み硬さを得て ISO 14577 に則った 補正を行い、ビッカース硬さを算出した。試験条件は、 荷重速度 0.25mN/s で一定、最大荷重 5mN で5秒保持と し、同じ速度で除荷を行った。測定はそれぞれ7 点以上 行い、最大と最小の値を除いた平均値を硬さとして評価 した。未時効試料、310°C時効試料(11,000h、18,000h)において TEM による組織観察を行い、8相内および 6 - y相界面の 異相の有無を評価した。そのうえで、 相内の相分離を 観察するべく、組成情報を強調する条件で TEM による組 織観察を行った。Table 1 Chemical composition (wt%)material Felor Ni Mo Mn SilcuICINIPIS ISUS316L Bal. 17.04.12.182.8411.180.441-10.01.10.0100.02110401] L filler Bal 119.74 11.27|2.30 1.79 10.10 0.10|0.011 | 0.0230.021 15.002]25umください25um |Fig.1 Microstructure of SUS316L weld metal4. 実験結果および考察4.1 微小硬さ測定結果溶接試料中の相の時効に伴う硬度変化をFig.2に示す。 y相の硬さはいずれの時効条件においても Hy170±20 程 度の一定値を示し時効硬化感受性は認められなかった。 310°C時効試料の6相は 6,000h 時効で明確に硬化を始め、 11,000h 近傍で硬さ最大値に達して、その後 18,000h まで 保持してもさらなる硬度上昇は認められなかった。 335°C 時効試料の8相硬さは 13,200h までの時効により約 Hy320~330 に達し、飽和していると見ることができる。 400°C時効試料は1,000hまで硬化し、2,000h 時効において 軟化が認められた。各温度時効試料にて確認された&相 の最大硬さは 310°Cおよび 335°Cで約 H320~330、400°Cで約 H420 であった。06_310C A6_335°C 08_400°C05_310C A6_335°C 05_400°CVickers hardness, HvHi!iiis-d'5000200001000015000Aging time, h Fig.2 Vickers hardness of -phase as a function of agingtime at 310C, 335°C(3) and 400°C4.2 硬化挙動に関する考察硬化速度をアレニウスプロットして見かけの活性化エ ネルギーを算出することで 288°Cへの硬化速度の外挿を 行った。また、最大硬さの温度依存性に関する考察を行 った。 1 硬化速度比較のため、Fig.2 中の補助線のように硬化挙 動を簡略化した。具体的には、溶接金属中の♂相は時効 温度に依存する一定の速度で硬化し、最大硬さに達した 後はそれ以上硬化しないと見なした。Fig.2 より、310°C時 効硬化曲線は、4,000h 近傍を境目として、潜伏期と硬化 期に明確に分かれると見ることができる。潜伏期間の存 在を支持する実験事実としては、鋳造 2 相ステンレス鋼 の 290°C時効において時効時間 8,760h~17,520h で硬化が 顕在化した報告がある。(5)硬化を引き起こす組織変化が試験温度条件の範囲内で 共通であると仮定し、潜伏期を除いた硬化速度の比較を 行った。最小二乗法を用いて算出した硬化速度を Table2 に示す。硬化速度を速度定数として Fig.3 のアレニウスプ ロットを作成した。硬化の見かけの活性化エネルギーは 335-400°Cで 69.6kJ/mol、310-335°Cで 84.8kJ/mol と温度依 存性が小さく、400-310°Cで同一の活性化エネルギーを持 つと仮定した。最小二乗近似を用いて 3 点を平均し活性 化エネルギーを約 80.9kJ/mol と算出し、この値を用いて 288°Cへの硬化速度の外挿を行った。その結果、288°Cに おける硬化速度を 0.0120H、h(105Hvy)と予測した。 - また、Fig.3 より、310°C時効での飽和硬さはH320~330 程度であるのに対し、400°C時効による最大硬さは約 H-420 と大きな相違がみられた。84. 従来、鋳造 2 相ステンレス鋼における時効脆化の活性 化エネルギーは、300-400°Cにおいて低い温度ほど大きい 値をとる(300-325°Cで約 250kJ/mol)傾向が報告されてい る。ただしこれは特定の靭性値に達するまでの時効時間 の比較より計算した値であり、潜伏期間を考慮した活性 化エネルギーではないため単純に比較することができな い。本研究において得られた活性化エネルギーの値およ びその温度依存性については、正しい解釈を行うべく今 後検討を進める。Table2 Hardening rate at 310°C, 335°C, and 400°CAging Hardening rate Hardening rate Temperature (°C) (Hv/h) (Hvly) 310 0.0230201.4 335 0.0415363.4 400 0.2101834400°C335°C310°C69.6kJ/molRate constant, in(k)84.8kJ/mol-40.001450,0015 0.00155 0.0016 0.00165 0.00170,00175Aging Temperature, 1/T Fig.3 Arrhenius plot of 8-phase hardening rate4.3 TEM 観察結果および考察TEM を用いて未時効材および 310°C時効材(11,000h, 18,000h)中の♂相の観察を行った結果、相および6-y 界面に介在物や析出物は確認されなかった。組成情報を強調する条件でTEM 観察を行った。未時効 試料および 310°C時効試料(11,000h、18,000h)の相の TEM 写真を Fig.4 に示す。未時効試料および時効試料の 6相に共通して表面性状などに由来するコントラストが 見られた。一方で、11,000h ならびに 18,000h 時効試料中 のお相において未時効試料には無いまだら模様を確認し た。スピノーダル分解により&相がa'相と&相に分離 した結果、組成の違いがまだら模様として観察されるこ とが報告されている”。参考として 335°Cにて 8,000h 時効した SUS316L溶接金属の6相の TEM写真)を Fig.5 に 示す。Fig.4 より、未時効試料中の8相と比較して時効試 料中の6相では組成分布を反映するまだら模様が生じて いることから、310°C時効試料中の6相がスピノーダル分 解によって硬化した可能性が高いと判断した。No agingさいごsnm.1310°C 11000h- 310°C 18,000hFig.4 Blight TEM image of d-phase aged at 310°Cfor Oh (no aging), 11,000h 18,000hB=111110FA mode 8 8000h-aging at 335 °C10nmBeasuransarine SAKAWAAEdFig.5 Blight TEM image of -phase aged at 335°C for\8,000h)5. まとめ12.7%の6 フェライト相を含む SUS316L 溶接金属を 310°C、335°Cおよび400°Cで時効し、硬度測定および微視 組織変化の観察を行った。以下に得られた知見を列記す859る。 ・310°C時効試料中の6相はおよそ 4,000h 経過後から硬度 が上昇し始め、11,000h で最大硬さに達したのち 18,000h まで保持してもさらなる硬度上昇は認められなかった。 400°C時効試料中の8相は H-420 に達した後軟化した。 ・測定された&相の最大硬さあるいは飽和硬さは、310°C および 335°Cにおいて H320~330 程度、一方、400°C時効 では約 H420 と大きく異なっていた。 ・それぞれの温度における&相の硬化速度をアレニウス プロットして活性化エネルギーを算出し、288°Cにおける 硬化速度を 0.0120Hy/h (105Hvy)と予測した。ただし、 310°C時効においては、時効初期に比較的長い潜伏期間 (硬度上昇が現れない期間)が認められた。この潜伏期 間の解釈ならびに時効温度依存性については、今後引き 続き検討が必要である。 ・310°C時効(11,000h、18,000h)後の6相の TEM 写真から 組成のゆらぎを反映したと推察されるまだら模様が認め られた。よって310°C時効試料中の8相がスピノーダル分 解によって硬化した可能性が高いと判断した。謝辞本研究は科学研究費補助金(22760070)の助成を受け たものである。参考文献(1) “高経年化技術評価審査マニュアル 2相ステンレス鋼 の熱時効”JNES-SS-0812-01, 平成21年4月3日, 原子力 安全基盤機構,http://www.jnes.go.jp/database/pdf_koukeinenka/ss0812.pdf (参照日 2012年3月2日). (2)Chung, H. M., and Leax, T. R., Materials Science, Vol.6, (1990), pp.249-262. (3)Hiroshi Abe, Yutaka Watanabe, Metallurgical and Materials Transactions A, 39A (2008), pp.1392-1398. (4)Chung, H. M., and Chopra, O. K., Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systems-Water Reactors, (1988), pp.359-370. (5)Jelena Vojvodi?-Tuma, Nuclear Engineering and Design, Vol. 238, Issue 7, (2008), pp.1511--1517. (O)Bonnet, S., Materials Science and Technology, Vol. 6, (1990), pp.221-229.(7)Weng, K.L., Chen, H.R., and Yang, J.R., Materials Science and Engineering A, Vol.379, (2004), pp.119-132.869“ “316系低炭素ステンレス鋼溶接金属の BWR 炉水温度域における熱時効脆化の評価“ “阿部 博志,Hiroshi ABE,渡辺 豊,Yutaka WATANABE,寺尾 俊彦,Toshihiko TERAO
2相ステンレス鋳鋼の熱時効脆化は、軽水炉の高経年化 対策上注視すべき経年劣化事象の一つである。8相がス ピノーダル分解することによって Cr リッチ' 相と Fe リッチ相に分離し、硬化することが炉水温度域におけ る熱時効脆化の主原因とされる。沸騰水型軽水炉(BWR、 運転温度 288°C)1 次冷却系配管や管台などの溶接に用い られるオーステナイト系低炭素ステンレス鋼溶接金属は、 溶接時の凝固割れ防止のため数~十数%の&相を含む8 - yの2 相組織を持つ。よって2相ステンレス鋳鋼と同じ く、スピノーダル分解による時効脆化を引き起こす可能 性が以前から認識されていた。これに関連して、著者らい は同系の材料である SUS316L 溶接金属の 335°C時効を行 い、時効により8相が硬化すること、時効硬化の原因と なる微視組織変化がスピノーダル分解であることを示し た。BWR炉水温度域において長時間の時効を受けたとき、 オーステナイト系低炭素ステンレス鋼溶接金属が脆化す る可能性ならびに脆化の程度が問題になり得るかどうか を定量的に判断するための知見が必要である。
2.目的
BWR 炉水温度域におけるオーステナイト系低炭素ス テンレス鋼溶接金属の硬化挙動を予測し、当該温度域に- 83,おいて長時間時効した場合の脆化を評価することを最終 的な目的としている。具体的には、以下の二つの項目に より一応の評価を行うが、本報では(1)に関する進捗を報 告する。(2)については講演にて進捗の報告を行う。 (1) SUS316L溶接金属を 310°C、335°Cおよび400°Cで等温 熱時効試験し、実測された熱時効硬化データに基づいて BWR 炉水温度を長時間経験した場合のフェライト相の 硬化挙動を予測する。 (2) 溶接金属の各相の硬さ、組織分率などのパラメーター から溶接金属全体の衝撃値を推定する。3. 実験方法3.1 供試材準備板厚25mm の SUS316L 板材に、1層1パスで多層盛り TIG 溶接による突き合わせ溶接を施すことにより供試材 を作製した。板材およびフィラーの組成を Tablel に、溶 接金属の典型的な組織写真をFig.1 に示す。フェライトス コープによる測定の結果、5相率は平均 12.7%であった。3.2 時効および実験方法供試材を 310°C、335°Cおよび 400°Cで、温度一定の条 件で時効した。電解研磨によって加工硬化層を除去した後、微小硬度 計を用いて&相と相をそれぞれ選択的に硬さ測定した。硬さ試験を行うにあたり、供試材中の6相の幅は数μm 程度と圧痕法による硬さ測定には不十分であるため、荷 重変位曲線から押し込み硬さを得て ISO 14577 に則った 補正を行い、ビッカース硬さを算出した。試験条件は、 荷重速度 0.25mN/s で一定、最大荷重 5mN で5秒保持と し、同じ速度で除荷を行った。測定はそれぞれ7 点以上 行い、最大と最小の値を除いた平均値を硬さとして評価 した。未時効試料、310°C時効試料(11,000h、18,000h)において TEM による組織観察を行い、8相内および 6 - y相界面の 異相の有無を評価した。そのうえで、 相内の相分離を 観察するべく、組成情報を強調する条件で TEM による組 織観察を行った。Table 1 Chemical composition (wt%)material Felor Ni Mo Mn SilcuICINIPIS ISUS316L Bal. 17.04.12.182.8411.180.441-10.01.10.0100.02110401] L filler Bal 119.74 11.27|2.30 1.79 10.10 0.10|0.011 | 0.0230.021 15.002]25umください25um |Fig.1 Microstructure of SUS316L weld metal4. 実験結果および考察4.1 微小硬さ測定結果溶接試料中の相の時効に伴う硬度変化をFig.2に示す。 y相の硬さはいずれの時効条件においても Hy170±20 程 度の一定値を示し時効硬化感受性は認められなかった。 310°C時効試料の6相は 6,000h 時効で明確に硬化を始め、 11,000h 近傍で硬さ最大値に達して、その後 18,000h まで 保持してもさらなる硬度上昇は認められなかった。 335°C 時効試料の8相硬さは 13,200h までの時効により約 Hy320~330 に達し、飽和していると見ることができる。 400°C時効試料は1,000hまで硬化し、2,000h 時効において 軟化が認められた。各温度時効試料にて確認された&相 の最大硬さは 310°Cおよび 335°Cで約 H320~330、400°Cで約 H420 であった。06_310C A6_335°C 08_400°C05_310C A6_335°C 05_400°CVickers hardness, HvHi!iiis-d'5000200001000015000Aging time, h Fig.2 Vickers hardness of -phase as a function of agingtime at 310C, 335°C(3) and 400°C4.2 硬化挙動に関する考察硬化速度をアレニウスプロットして見かけの活性化エ ネルギーを算出することで 288°Cへの硬化速度の外挿を 行った。また、最大硬さの温度依存性に関する考察を行 った。 1 硬化速度比較のため、Fig.2 中の補助線のように硬化挙 動を簡略化した。具体的には、溶接金属中の♂相は時効 温度に依存する一定の速度で硬化し、最大硬さに達した 後はそれ以上硬化しないと見なした。Fig.2 より、310°C時 効硬化曲線は、4,000h 近傍を境目として、潜伏期と硬化 期に明確に分かれると見ることができる。潜伏期間の存 在を支持する実験事実としては、鋳造 2 相ステンレス鋼 の 290°C時効において時効時間 8,760h~17,520h で硬化が 顕在化した報告がある。(5)硬化を引き起こす組織変化が試験温度条件の範囲内で 共通であると仮定し、潜伏期を除いた硬化速度の比較を 行った。最小二乗法を用いて算出した硬化速度を Table2 に示す。硬化速度を速度定数として Fig.3 のアレニウスプ ロットを作成した。硬化の見かけの活性化エネルギーは 335-400°Cで 69.6kJ/mol、310-335°Cで 84.8kJ/mol と温度依 存性が小さく、400-310°Cで同一の活性化エネルギーを持 つと仮定した。最小二乗近似を用いて 3 点を平均し活性 化エネルギーを約 80.9kJ/mol と算出し、この値を用いて 288°Cへの硬化速度の外挿を行った。その結果、288°Cに おける硬化速度を 0.0120H、h(105Hvy)と予測した。 - また、Fig.3 より、310°C時効での飽和硬さはH320~330 程度であるのに対し、400°C時効による最大硬さは約 H-420 と大きな相違がみられた。84. 従来、鋳造 2 相ステンレス鋼における時効脆化の活性 化エネルギーは、300-400°Cにおいて低い温度ほど大きい 値をとる(300-325°Cで約 250kJ/mol)傾向が報告されてい る。ただしこれは特定の靭性値に達するまでの時効時間 の比較より計算した値であり、潜伏期間を考慮した活性 化エネルギーではないため単純に比較することができな い。本研究において得られた活性化エネルギーの値およ びその温度依存性については、正しい解釈を行うべく今 後検討を進める。Table2 Hardening rate at 310°C, 335°C, and 400°CAging Hardening rate Hardening rate Temperature (°C) (Hv/h) (Hvly) 310 0.0230201.4 335 0.0415363.4 400 0.2101834400°C335°C310°C69.6kJ/molRate constant, in(k)84.8kJ/mol-40.001450,0015 0.00155 0.0016 0.00165 0.00170,00175Aging Temperature, 1/T Fig.3 Arrhenius plot of 8-phase hardening rate4.3 TEM 観察結果および考察TEM を用いて未時効材および 310°C時効材(11,000h, 18,000h)中の♂相の観察を行った結果、相および6-y 界面に介在物や析出物は確認されなかった。組成情報を強調する条件でTEM 観察を行った。未時効 試料および 310°C時効試料(11,000h、18,000h)の相の TEM 写真を Fig.4 に示す。未時効試料および時効試料の 6相に共通して表面性状などに由来するコントラストが 見られた。一方で、11,000h ならびに 18,000h 時効試料中 のお相において未時効試料には無いまだら模様を確認し た。スピノーダル分解により&相がa'相と&相に分離 した結果、組成の違いがまだら模様として観察されるこ とが報告されている”。参考として 335°Cにて 8,000h 時効した SUS316L溶接金属の6相の TEM写真)を Fig.5 に 示す。Fig.4 より、未時効試料中の8相と比較して時効試 料中の6相では組成分布を反映するまだら模様が生じて いることから、310°C時効試料中の6相がスピノーダル分 解によって硬化した可能性が高いと判断した。No agingさいごsnm.1310°C 11000h- 310°C 18,000hFig.4 Blight TEM image of d-phase aged at 310°Cfor Oh (no aging), 11,000h 18,000hB=111110FA mode 8 8000h-aging at 335 °C10nmBeasuransarine SAKAWAAEdFig.5 Blight TEM image of -phase aged at 335°C for\8,000h)5. まとめ12.7%の6 フェライト相を含む SUS316L 溶接金属を 310°C、335°Cおよび400°Cで時効し、硬度測定および微視 組織変化の観察を行った。以下に得られた知見を列記す859る。 ・310°C時効試料中の6相はおよそ 4,000h 経過後から硬度 が上昇し始め、11,000h で最大硬さに達したのち 18,000h まで保持してもさらなる硬度上昇は認められなかった。 400°C時効試料中の8相は H-420 に達した後軟化した。 ・測定された&相の最大硬さあるいは飽和硬さは、310°C および 335°Cにおいて H320~330 程度、一方、400°C時効 では約 H420 と大きく異なっていた。 ・それぞれの温度における&相の硬化速度をアレニウス プロットして活性化エネルギーを算出し、288°Cにおける 硬化速度を 0.0120Hy/h (105Hvy)と予測した。ただし、 310°C時効においては、時効初期に比較的長い潜伏期間 (硬度上昇が現れない期間)が認められた。この潜伏期 間の解釈ならびに時効温度依存性については、今後引き 続き検討が必要である。 ・310°C時効(11,000h、18,000h)後の6相の TEM 写真から 組成のゆらぎを反映したと推察されるまだら模様が認め られた。よって310°C時効試料中の8相がスピノーダル分 解によって硬化した可能性が高いと判断した。謝辞本研究は科学研究費補助金(22760070)の助成を受け たものである。参考文献(1) “高経年化技術評価審査マニュアル 2相ステンレス鋼 の熱時効”JNES-SS-0812-01, 平成21年4月3日, 原子力 安全基盤機構,http://www.jnes.go.jp/database/pdf_koukeinenka/ss0812.pdf (参照日 2012年3月2日). (2)Chung, H. M., and Leax, T. R., Materials Science, Vol.6, (1990), pp.249-262. (3)Hiroshi Abe, Yutaka Watanabe, Metallurgical and Materials Transactions A, 39A (2008), pp.1392-1398. (4)Chung, H. M., and Chopra, O. K., Environmental Degradation of Materials in Nuclear Power Systems-Water Reactors, (1988), pp.359-370. (5)Jelena Vojvodi?-Tuma, Nuclear Engineering and Design, Vol. 238, Issue 7, (2008), pp.1511--1517. (O)Bonnet, S., Materials Science and Technology, Vol. 6, (1990), pp.221-229.(7)Weng, K.L., Chen, H.R., and Yang, J.R., Materials Science and Engineering A, Vol.379, (2004), pp.119-132.869“ “316系低炭素ステンレス鋼溶接金属の BWR 炉水温度域における熱時効脆化の評価“ “阿部 博志,Hiroshi ABE,渡辺 豊,Yutaka WATANABE,寺尾 俊彦,Toshihiko TERAO