原子炉再循環系ポンプの熱時効に関する健全性評価
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カテゴリ: 第9回
1. はじめに
二相ステンレス鋳鋼は、オーステナイト系ステンレス 鋼に比べ強度と耐食性に優れ,軽水炉プラント冷却材再 循環ポンプのケーシングやバルブに多く使用されている. 同鋼では 300°C 程度の運転温度でも長時間の熱時効によ り破壊靭性が低下するいわゆる熱脆化が起こることが 1990年代に明らかにされてきた[1,2]. これまで熱脆化は 加圧水型(PWR)軽水炉プラントにおいてのみ問題となる と見られていたが,近年,280°C 程度のより低温度で運 転される沸騰水型(BWR)軽水炉プラントにおいても熱脆 化の発生が懸念されはじめている.材料の延性的な応答 を前提に維持・管理がなされる軽水炉機器においては、 熱脆化を来した後も十分な破壊靭性を有していることが 求められる.このため,高経年化プラントの二相ステンレス鋳鋼か らなる機器に対し熱脆化を考慮した評価を実施し,その 構造健全性が確保されていることを確認しておく必要が ある。本稿は,中国電力島根発電所1号炉の原子炉再循環系 ポンプの熱時効に関する健全性評価を実施し,その内容 をとりまとめたものである.
3. 評価対象および評価条件3.1 評価部位 - 島根原子力発電所 1 号炉の原子炉再循環系ポンプの出 口部を評価部位とする.当該部位のポンプケーシングは ステンレス鋳鋼 SCS14A相当材(ASTM A351 Gr. CF8M)よ りなる. 評価部位は円筒構造であり,その外径は D. = 609.6 mm,板厚はt = 30.55 mm である.なお,原子炉再 循環系にはA系およびB系の二系統があるが,評価部位 に作用する応力,材料の化学組成に大きな差がないこと から、両系統を区別せずにより保守的な条件の下で評価 を行うこととする.3.2 考慮する劣化要因後述する初期欠陥の存在を仮定した場合,同欠陥の進 展を引き起こす要因としては、発生が想定される種々の 過渡事象に伴う繰返し負荷による疲労が主であると考え られることから,疲労き裂進展を考慮する.913.3 想定する初期欠陥初期欠陥としては,日本機械学会 発電用原子力設備規 格 配管破断防護設計規格(JSME SND1-2002) [3]を参考に、 深さ a = 0.21 = 6.11 mm, 表面長さ 2c = 1.0t = 30.55 mm の内 表面周方向半だ円き裂を想定する.この初期欠陥の大き さは,供用前検査の超音波探傷検査による欠陥検出限界 に十分余裕をみて,検出可能な単一欠陥の二倍の大きさ となるよう定められたものである.初期欠陥の模式図を Fig.1 に示す.Ja=6.11 mmPostulated2c = 30.55 mm |1 = 30.55 mnFig.1 Postulated Flaw Size3.4 評価温度評価温度としては、運転状態 I および II における原子 炉再循環系ポンプ出口部の流体温度の設計最大値より 2860°C を想定する。3.5 評価時点および荷重履歴評価時点は、2011 年 3 月末(評価時点 1, 運転時間 30.4EFPY (2.66 × 10時間)および60年運転時点(評価時点 II, 運転時間 48.0EFPY (4.20×10時間)の二点とする. 実 過渡回数実績値より,負荷繰返し数の総数は評価時点I で398回評価時点II で 600回とする. - 評価に用いる地震サイクル数については,日本機械学 会 発電用原子力設備規格 配管破断防護設計規格(JSME SND1-2002) [3]の「解説 添付 5-3 き裂進展解析用地震動」 において地震の発生頻度が 10年に1回,1回あたりの応 カサイクル数が60回と想定されていることを参考に次の ように定める.運転開始から評価時点Iまでの期間につい ては,その経過年数(38.0年)より地震の発生回数を3.8回 と考え,小数第一位を繰り上げた 4 回を発生回数,240 回を応力サイクル数とする. 運転開始から評価時点II までの期間については、その経過年数(60 年)より地震の発 生回数を6回と考え,360回を応力サイクル数とする.疲労き裂進展評価に用いる応力範囲は,日本機械学会 発電用原子力設備規格 維持規格(JSMES NA1-2008) [4]を 参考に、評価部位に生じる供用状態 A あるいはBにおけ る一次+二次応力の最大応力 Sn, および S,地震による応 カSS(S)の 1/3 の応力とする.一方,不安定破壊評価に用 いる応力は、同じく日本機械学会 発電用原子力設備規格 維持規格(JSME SNA1-2008) [4]を参考に、評価部位に生じ る供用状態 A あるいは B における一次+二次応力の最大 値 Sn, および S地震による応力 SS(SL)の 12 の応力とす る.なお,Sn, S(S),および SS(S)を膜応力,曲げ応力, およびピーク応力に分類することは困難であることから, 保守側の評価とするため、すべての応力を膜応力として 扱うこととする。評価部位近傍には溶接継手部が存在し,評価部位には 溶接残留応力が重畳して作用することが考えられる.本 評価では溶接残留応力が平均応力として作用することに よる疲労き裂進展の加速を考慮に入れることとする.そ の値は評価温度における未時効材の0.2%耐力のうちA 系, B 系で高い方の値(182.0 MPa)に等しいとし,これが 平均的な膜応力として作用するものとする.4. 疲労き裂進展評価4.1 き裂進展則」 - 疲労き裂進展評価に用いるき裂進展則として, NUREG/CR-6176 [5]にあるステンレス鋼環境水中疲労き 裂進展曲線を採用する.4.2 応力拡大係数応力拡大係数の評価には、任意分布力を受ける内表面 周方向表面き裂付き円筒に対する白鳥の解G]を用いる.4.3 疲労き裂進展評価の方法 疲労き裂進展評価は,表面き裂解析プロ “SCANPR Ver. 2011” による.グラム4.4 疲労き裂進展評価の結果初期欠陥寸法,評価時点I (30.4EFPY)および評価時点II (48EFPY)におけるき裂寸法の推定値をまとめて Table 1 に 示す92Table 1 Result of Fatigue Crack Growth EvaluationDepthLength amm2c,mm Possible Initial6.1130.55 Flaw Flaw after7.1431.78 30.4EFPY Flaw after 48EFPY7.732.48True Stress, MPa5. 不安定破壊評価 5.1 引張特性の評価 * 未時効および評価時点I, II における時効材の引張特性 ☆ TSS ET IV (True Stress-True Strain Curve Prediction Method) [7]に基づき評価する.同モデルは 300~450C の 時効温度で取得されたデータをもとに, PWR の運転条件 を考慮して 325°C 下での引張特性を評価すべく開発され たものである.本評価対象の評価温度はこれより低い 286°C であることから, TSS モデルにより保守側の評価が できると考えられる.ミルシートに基づく評価対象材料の化学組成を Table 2 に示す同材料のフェライト量F[%]は ASTM A800 [8]に 従い、ポンプ出口 A 系で F = 13.2%,B系で F = 14.5%と した.Table 2 Chemical Composition (wt%) | Part | Material | c l s | si | Mn | [ A Pump Exit | CF8M | 0.05 | 0.014 | 0.91 | 0.61 | | BPump Exit | CF8M | 0.05 | 0.016 | 1.06 | 0.63 || Part | Material | Cr | Ni | Mo | P I | A Pump Exit | CF8M | 18.86 | 9.37 | 2.15 | 0.037 | | B Pump Exit | CF8M | 18.75 | 9.02 | 2.03 | 0.040 |評価式により得られた引張特性をまとめて Table 3 に, 真応力-真ひずみ関係の比較結果を Fig.2 にそれぞれ示す. 未時効材に比べ時効材は硬化しているものの,評価時点I, III の差はわずかである. フェライト量の高いB系の方が 同一の真ひずみに対しわずかに高い真応力を与えている.Table 3 Tensile propertyThemial Ageing temperatureT.CThermal AgeingtimePartEFPY0.2% Proof Stress002.MPaProof Stress0, MPaA PumpExit286 28610 30.4 482.66E+05 4.20E405176.2 188.7 188.7 182.0 194.8 194.8308.9 351.9 354.0 315.9 359.9 362.1B PumpExit30.4286 2862.66E+05 4.20E+0548- Initial State -- after 30.4EFPY ““... after 48EFPY100円or00.050.10.1510.20 10.25True Strain(APump Exit)Initial State- after 30.4EFPYafter 48EFPY0.00 100.050.10.150.20.25True Strain(B Pump Exit) Fig.2 Relation between True Stress-True Strain5.2 破壊抵抗J.の評価 * 未時効および評価時点I, II における時効材の破壊抵抗 を H3T モデル(Hyperbolic Time Temperature Toughness Model) [7]に基づき評価する.同モデルは 300~400C の 時効温度で取得されたデータをもとに開発されたもので あり,時効温度 325°C下での予測を基準として、任意の 時効温度下での弾塑性破壊J性」および 6 mm の延性き 裂進展に対応するJ積分 Jが予測できる.5.3 破壊抵抗の下限 Je loveryの評価 - 前節の通り得られた破壊抵抗曲線は各評価部位,評価 時点における平均的な特性として得られるものであるが, 破壊抵抗のばらつきを統計的に考慮してその下限特性を 推定した.5.4 作用 J積分 Janの評価疲労き裂進展後のき裂を初期欠陥として作用J積分 Jap の評価を行う. 評価対象とする欠陥としては、疲労き裂 進展評価の結果に直接基づく内表面周方向表面欠陥,お よび同欠陥の周方向長さをそのままに深さ方向に貫通さ せた周方向貫通欠陥の二種類とする.939内表面周方向表面欠陥を有する円筒が引張を受けると きのき裂最深点の作用J積分 Junを Zahoor の全面塑性解 [9]を用いて求める.一方,周方向貫通欠陥を有する円筒が引張を受けると きのき裂前縁における作用J積分 Janについても, Zahoor の全面塑性解9]を用いて求める.5.5 不安定破壊評価の方法 1. 5.4節に示した一連の式に基づき,き裂深さaあるいは き裂半長 c をパラメータとして,評価時点I (30.4EFPY) および評価時点 II (48EFPY)における Jan a (あるいは June c)の関係を求め,これを 5.3 節で得られた破壊抵抗 曲線の下限から得られる JMerlovery-a 関係(あるいは Jamentowery-c 関係)と比較する.次の二つの式,Jump < J mat(lower) a) cp loa < dJ mer(tower) / daAfter 30.4EFPYのいずれかが満たされていれば不安定破壊は生じないと 判定される. ruta VI-THIS . ..--- 一,図より明らかなように,すべてのケ 平価時点における Japは Juloveryをはるか D,またJeep-a曲線(あるいはJapc 曲線) verya 曲線(あるいは Junearlowearc 曲線)の勾 二低い、以上の結果より,当該評価対象 三破壊は生じないと判断される.Imat(lower)J-Integral, kJ/m2Jic(lower)Jmat(lower)816243240481 + + clower) -- ---- 5.6 不安定破壊評価の結果内表面周方向表面欠陥を対象とした場合の Jan-a 関 係と Januartlovery-a関係を比較した結果を Fig.3 に,また周 方向貫通欠陥を対象とした場合の Jour-c 関係と Juatlovery-c 関係を比較した結果を Fig.4 に評価時点ごと にそれぞれ示す.図より明らかなように,すべてのケ ースにおいて評価時点における Japは Julower)をはるか に下回っており,またJop-a曲線(あるいはJam-c 曲線) の勾配はJmentower-a 曲線(あるいは「marlowery-c 曲線)の勾 配に比べ格段に低い.以上の結果より,当該評価対象 において不安定破壊は生じないと判断される.Imat(lower)J-Integral, kJ/m2JIC(lower) ......app04812 16 20 24Crack Depth, a, mmAfter30.4EFPY(2c%3D31.78mm)J-Integral, kJ/m20sterforemat(lower)J-Integral, kJ/m2JIC(lower)0_481216 )2024Crack Depth, a, mmAfter 48EFPY(2c=32.48mm) Fig.3 Relation between Imatlower, Japp and Crack Depth(Surface Crack)in at(lower)J-Imtegral, kJ/m2JIC(lower)181624324048Half Crack Length, c, mm「mat(lower)J-Integral, kJ/m2IC(lower)10_ 81624324048Half Crack Length, c, mmAfter 48EFPYFig.4 Relation between Imatllower), Japp and Half Crack Length(Through-Wall Crack)946. まとめ* 島根原子力発電所 1 号炉の原子炉再循環系ポンプを対 象として, 2011年3月末および 60年運転時点における健 全性評価を行った.不安定破壊評価に用いる欠陥として は内表面周方向表面欠陥および周方向貫通欠陥の二種類 を想定した.その結果,いずれのケースにおいても不安 定破壊は生じないと判断された.参考文献 [1] Chopra, O. K., “Long-Term Embrittlement of Cast DuplexStainless Steels in LWR Systems: Semiannual Report, October 1990-March 1991, ““NUREG/CR-4744, Vol. 6, No.1, (1992). [2] Chopra, O. K., “Estimation of Fracture Toughness of CastDuplex Stainless Steels during Thermal Aging in LWRSystems, ““NUREG/CR-4513, (1994). [3] 日本機械学会,“発電用原子力設備規格 配管破断防護設計規格,““JSMES ND1-2002,(2002). [4] 日本機械学会,“発電用原子力設備規格 維持規格,”JSMES NA1-2008, (2008). [5] Shack, W. J., and Kassner, T. F., “Review of EnvironmentalEffects on Fatigue Crack Growth of Austenitic StainlessSteels,” NUREG/CR-6176, (1994). [6] Shiratori, M., Nagai, M., and Miura, N., “Development ofSurface Crack Analysis Program and Its Application to Some Practical Problems,” ASME PVP2011-57115,(2011). [7] Kawaguchi, S., Nagasaki, T., and Koyama, K., “PredictionMethod of Tensile Properties and Fracture Toughness of Thermally Aged Cast Duplex Stainless Steel Piping,““ASME PVP2005-71528, (2005). [8] ASTM, “Standard Practice for Steel Casting, AusteniticAlloy, Estimating Ferritic Content Thereof,” ASTM A800,(2006). [9] Zahoor, A., “Ductile Fracture Handbook Volume2.” EPRINP-6301-D, (1990).P95“ “原子炉再循環系ポンプの熱時効に関する健全性評価“
二相ステンレス鋳鋼は、オーステナイト系ステンレス 鋼に比べ強度と耐食性に優れ,軽水炉プラント冷却材再 循環ポンプのケーシングやバルブに多く使用されている. 同鋼では 300°C 程度の運転温度でも長時間の熱時効によ り破壊靭性が低下するいわゆる熱脆化が起こることが 1990年代に明らかにされてきた[1,2]. これまで熱脆化は 加圧水型(PWR)軽水炉プラントにおいてのみ問題となる と見られていたが,近年,280°C 程度のより低温度で運 転される沸騰水型(BWR)軽水炉プラントにおいても熱脆 化の発生が懸念されはじめている.材料の延性的な応答 を前提に維持・管理がなされる軽水炉機器においては、 熱脆化を来した後も十分な破壊靭性を有していることが 求められる.このため,高経年化プラントの二相ステンレス鋳鋼か らなる機器に対し熱脆化を考慮した評価を実施し,その 構造健全性が確保されていることを確認しておく必要が ある。本稿は,中国電力島根発電所1号炉の原子炉再循環系 ポンプの熱時効に関する健全性評価を実施し,その内容 をとりまとめたものである.
3. 評価対象および評価条件3.1 評価部位 - 島根原子力発電所 1 号炉の原子炉再循環系ポンプの出 口部を評価部位とする.当該部位のポンプケーシングは ステンレス鋳鋼 SCS14A相当材(ASTM A351 Gr. CF8M)よ りなる. 評価部位は円筒構造であり,その外径は D. = 609.6 mm,板厚はt = 30.55 mm である.なお,原子炉再 循環系にはA系およびB系の二系統があるが,評価部位 に作用する応力,材料の化学組成に大きな差がないこと から、両系統を区別せずにより保守的な条件の下で評価 を行うこととする.3.2 考慮する劣化要因後述する初期欠陥の存在を仮定した場合,同欠陥の進 展を引き起こす要因としては、発生が想定される種々の 過渡事象に伴う繰返し負荷による疲労が主であると考え られることから,疲労き裂進展を考慮する.913.3 想定する初期欠陥初期欠陥としては,日本機械学会 発電用原子力設備規 格 配管破断防護設計規格(JSME SND1-2002) [3]を参考に、 深さ a = 0.21 = 6.11 mm, 表面長さ 2c = 1.0t = 30.55 mm の内 表面周方向半だ円き裂を想定する.この初期欠陥の大き さは,供用前検査の超音波探傷検査による欠陥検出限界 に十分余裕をみて,検出可能な単一欠陥の二倍の大きさ となるよう定められたものである.初期欠陥の模式図を Fig.1 に示す.Ja=6.11 mmPostulated2c = 30.55 mm |1 = 30.55 mnFig.1 Postulated Flaw Size3.4 評価温度評価温度としては、運転状態 I および II における原子 炉再循環系ポンプ出口部の流体温度の設計最大値より 2860°C を想定する。3.5 評価時点および荷重履歴評価時点は、2011 年 3 月末(評価時点 1, 運転時間 30.4EFPY (2.66 × 10時間)および60年運転時点(評価時点 II, 運転時間 48.0EFPY (4.20×10時間)の二点とする. 実 過渡回数実績値より,負荷繰返し数の総数は評価時点I で398回評価時点II で 600回とする. - 評価に用いる地震サイクル数については,日本機械学 会 発電用原子力設備規格 配管破断防護設計規格(JSME SND1-2002) [3]の「解説 添付 5-3 き裂進展解析用地震動」 において地震の発生頻度が 10年に1回,1回あたりの応 カサイクル数が60回と想定されていることを参考に次の ように定める.運転開始から評価時点Iまでの期間につい ては,その経過年数(38.0年)より地震の発生回数を3.8回 と考え,小数第一位を繰り上げた 4 回を発生回数,240 回を応力サイクル数とする. 運転開始から評価時点II までの期間については、その経過年数(60 年)より地震の発 生回数を6回と考え,360回を応力サイクル数とする.疲労き裂進展評価に用いる応力範囲は,日本機械学会 発電用原子力設備規格 維持規格(JSMES NA1-2008) [4]を 参考に、評価部位に生じる供用状態 A あるいはBにおけ る一次+二次応力の最大応力 Sn, および S,地震による応 カSS(S)の 1/3 の応力とする.一方,不安定破壊評価に用 いる応力は、同じく日本機械学会 発電用原子力設備規格 維持規格(JSME SNA1-2008) [4]を参考に、評価部位に生じ る供用状態 A あるいは B における一次+二次応力の最大 値 Sn, および S地震による応力 SS(SL)の 12 の応力とす る.なお,Sn, S(S),および SS(S)を膜応力,曲げ応力, およびピーク応力に分類することは困難であることから, 保守側の評価とするため、すべての応力を膜応力として 扱うこととする。評価部位近傍には溶接継手部が存在し,評価部位には 溶接残留応力が重畳して作用することが考えられる.本 評価では溶接残留応力が平均応力として作用することに よる疲労き裂進展の加速を考慮に入れることとする.そ の値は評価温度における未時効材の0.2%耐力のうちA 系, B 系で高い方の値(182.0 MPa)に等しいとし,これが 平均的な膜応力として作用するものとする.4. 疲労き裂進展評価4.1 き裂進展則」 - 疲労き裂進展評価に用いるき裂進展則として, NUREG/CR-6176 [5]にあるステンレス鋼環境水中疲労き 裂進展曲線を採用する.4.2 応力拡大係数応力拡大係数の評価には、任意分布力を受ける内表面 周方向表面き裂付き円筒に対する白鳥の解G]を用いる.4.3 疲労き裂進展評価の方法 疲労き裂進展評価は,表面き裂解析プロ “SCANPR Ver. 2011” による.グラム4.4 疲労き裂進展評価の結果初期欠陥寸法,評価時点I (30.4EFPY)および評価時点II (48EFPY)におけるき裂寸法の推定値をまとめて Table 1 に 示す92Table 1 Result of Fatigue Crack Growth EvaluationDepthLength amm2c,mm Possible Initial6.1130.55 Flaw Flaw after7.1431.78 30.4EFPY Flaw after 48EFPY7.732.48True Stress, MPa5. 不安定破壊評価 5.1 引張特性の評価 * 未時効および評価時点I, II における時効材の引張特性 ☆ TSS ET IV (True Stress-True Strain Curve Prediction Method) [7]に基づき評価する.同モデルは 300~450C の 時効温度で取得されたデータをもとに, PWR の運転条件 を考慮して 325°C 下での引張特性を評価すべく開発され たものである.本評価対象の評価温度はこれより低い 286°C であることから, TSS モデルにより保守側の評価が できると考えられる.ミルシートに基づく評価対象材料の化学組成を Table 2 に示す同材料のフェライト量F[%]は ASTM A800 [8]に 従い、ポンプ出口 A 系で F = 13.2%,B系で F = 14.5%と した.Table 2 Chemical Composition (wt%) | Part | Material | c l s | si | Mn | [ A Pump Exit | CF8M | 0.05 | 0.014 | 0.91 | 0.61 | | BPump Exit | CF8M | 0.05 | 0.016 | 1.06 | 0.63 || Part | Material | Cr | Ni | Mo | P I | A Pump Exit | CF8M | 18.86 | 9.37 | 2.15 | 0.037 | | B Pump Exit | CF8M | 18.75 | 9.02 | 2.03 | 0.040 |評価式により得られた引張特性をまとめて Table 3 に, 真応力-真ひずみ関係の比較結果を Fig.2 にそれぞれ示す. 未時効材に比べ時効材は硬化しているものの,評価時点I, III の差はわずかである. フェライト量の高いB系の方が 同一の真ひずみに対しわずかに高い真応力を与えている.Table 3 Tensile propertyThemial Ageing temperatureT.CThermal AgeingtimePartEFPY0.2% Proof Stress002.MPaProof Stress0, MPaA PumpExit286 28610 30.4 482.66E+05 4.20E405176.2 188.7 188.7 182.0 194.8 194.8308.9 351.9 354.0 315.9 359.9 362.1B PumpExit30.4286 2862.66E+05 4.20E+0548- Initial State -- after 30.4EFPY ““... after 48EFPY100円or00.050.10.1510.20 10.25True Strain(APump Exit)Initial State- after 30.4EFPYafter 48EFPY0.00 100.050.10.150.20.25True Strain(B Pump Exit) Fig.2 Relation between True Stress-True Strain5.2 破壊抵抗J.の評価 * 未時効および評価時点I, II における時効材の破壊抵抗 を H3T モデル(Hyperbolic Time Temperature Toughness Model) [7]に基づき評価する.同モデルは 300~400C の 時効温度で取得されたデータをもとに開発されたもので あり,時効温度 325°C下での予測を基準として、任意の 時効温度下での弾塑性破壊J性」および 6 mm の延性き 裂進展に対応するJ積分 Jが予測できる.5.3 破壊抵抗の下限 Je loveryの評価 - 前節の通り得られた破壊抵抗曲線は各評価部位,評価 時点における平均的な特性として得られるものであるが, 破壊抵抗のばらつきを統計的に考慮してその下限特性を 推定した.5.4 作用 J積分 Janの評価疲労き裂進展後のき裂を初期欠陥として作用J積分 Jap の評価を行う. 評価対象とする欠陥としては、疲労き裂 進展評価の結果に直接基づく内表面周方向表面欠陥,お よび同欠陥の周方向長さをそのままに深さ方向に貫通さ せた周方向貫通欠陥の二種類とする.939内表面周方向表面欠陥を有する円筒が引張を受けると きのき裂最深点の作用J積分 Junを Zahoor の全面塑性解 [9]を用いて求める.一方,周方向貫通欠陥を有する円筒が引張を受けると きのき裂前縁における作用J積分 Janについても, Zahoor の全面塑性解9]を用いて求める.5.5 不安定破壊評価の方法 1. 5.4節に示した一連の式に基づき,き裂深さaあるいは き裂半長 c をパラメータとして,評価時点I (30.4EFPY) および評価時点 II (48EFPY)における Jan a (あるいは June c)の関係を求め,これを 5.3 節で得られた破壊抵抗 曲線の下限から得られる JMerlovery-a 関係(あるいは Jamentowery-c 関係)と比較する.次の二つの式,Jump < J mat(lower) a) cp loa < dJ mer(tower) / daAfter 30.4EFPYのいずれかが満たされていれば不安定破壊は生じないと 判定される. ruta VI-THIS . ..--- 一,図より明らかなように,すべてのケ 平価時点における Japは Juloveryをはるか D,またJeep-a曲線(あるいはJapc 曲線) verya 曲線(あるいは Junearlowearc 曲線)の勾 二低い、以上の結果より,当該評価対象 三破壊は生じないと判断される.Imat(lower)J-Integral, kJ/m2Jic(lower)Jmat(lower)816243240481 + + clower) -- ---- 5.6 不安定破壊評価の結果内表面周方向表面欠陥を対象とした場合の Jan-a 関 係と Januartlovery-a関係を比較した結果を Fig.3 に,また周 方向貫通欠陥を対象とした場合の Jour-c 関係と Juatlovery-c 関係を比較した結果を Fig.4 に評価時点ごと にそれぞれ示す.図より明らかなように,すべてのケ ースにおいて評価時点における Japは Julower)をはるか に下回っており,またJop-a曲線(あるいはJam-c 曲線) の勾配はJmentower-a 曲線(あるいは「marlowery-c 曲線)の勾 配に比べ格段に低い.以上の結果より,当該評価対象 において不安定破壊は生じないと判断される.Imat(lower)J-Integral, kJ/m2JIC(lower) ......app04812 16 20 24Crack Depth, a, mmAfter30.4EFPY(2c%3D31.78mm)J-Integral, kJ/m20sterforemat(lower)J-Integral, kJ/m2JIC(lower)0_481216 )2024Crack Depth, a, mmAfter 48EFPY(2c=32.48mm) Fig.3 Relation between Imatlower, Japp and Crack Depth(Surface Crack)in at(lower)J-Imtegral, kJ/m2JIC(lower)181624324048Half Crack Length, c, mm「mat(lower)J-Integral, kJ/m2IC(lower)10_ 81624324048Half Crack Length, c, mmAfter 48EFPYFig.4 Relation between Imatllower), Japp and Half Crack Length(Through-Wall Crack)946. まとめ* 島根原子力発電所 1 号炉の原子炉再循環系ポンプを対 象として, 2011年3月末および 60年運転時点における健 全性評価を行った.不安定破壊評価に用いる欠陥として は内表面周方向表面欠陥および周方向貫通欠陥の二種類 を想定した.その結果,いずれのケースにおいても不安 定破壊は生じないと判断された.参考文献 [1] Chopra, O. K., “Long-Term Embrittlement of Cast DuplexStainless Steels in LWR Systems: Semiannual Report, October 1990-March 1991, ““NUREG/CR-4744, Vol. 6, No.1, (1992). [2] Chopra, O. K., “Estimation of Fracture Toughness of CastDuplex Stainless Steels during Thermal Aging in LWRSystems, ““NUREG/CR-4513, (1994). [3] 日本機械学会,“発電用原子力設備規格 配管破断防護設計規格,““JSMES ND1-2002,(2002). [4] 日本機械学会,“発電用原子力設備規格 維持規格,”JSMES NA1-2008, (2008). [5] Shack, W. J., and Kassner, T. F., “Review of EnvironmentalEffects on Fatigue Crack Growth of Austenitic StainlessSteels,” NUREG/CR-6176, (1994). [6] Shiratori, M., Nagai, M., and Miura, N., “Development ofSurface Crack Analysis Program and Its Application to Some Practical Problems,” ASME PVP2011-57115,(2011). [7] Kawaguchi, S., Nagasaki, T., and Koyama, K., “PredictionMethod of Tensile Properties and Fracture Toughness of Thermally Aged Cast Duplex Stainless Steel Piping,““ASME PVP2005-71528, (2005). [8] ASTM, “Standard Practice for Steel Casting, AusteniticAlloy, Estimating Ferritic Content Thereof,” ASTM A800,(2006). [9] Zahoor, A., “Ductile Fracture Handbook Volume2.” EPRINP-6301-D, (1990).P95“ “原子炉再循環系ポンプの熱時効に関する健全性評価“