NDT 技術のやさしい解説(保全技術者向け) - 2 回目-

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1.はじめに
 シリーズ2回目の今回は、試験体の表面および表層部の状態を調査する非破壊試験について解説する。

2.表面試験
 試験体の表面および表層部(表面直下2~3mm程度)の状態を調査する試験を表面試験という。表面に発生するきずは内部に比べて有害なため、製品の品質管理において表面試験は重要である。したがって、製造検査、日常点検および定期検査のすべての場面で適用される。今回は、表 1に示す表面試験について解説する。

表 1 主な表面試験
非破壊試験の種類 略号 利用する物理現象 検出対象 目視試験
Visual testing VT 光、色彩 ・表面の亀裂、腐食
・変形、破損、脱落、緩み
・漏えい 浸透探傷試験
Penetrant testing PT 毛細管現象 ・表面開口きず 磁粉探傷試験
Magnetic Particle testing MT 磁気現象
(漏えい磁束) ・表面(および表層部)のきず 渦電流探傷試験
Eddy Current testing ET
(ECT) 電磁誘導作用 ・表面(および表層部)のきず
・材質判別、膜厚測定など
3.目視試験(VT)
3.1 VTとは
 目視試験(VT)は、 "試験体の表面性状(形状、色、粗さ、きずの有無等)を、直接または拡大鏡を用いて肉眼で調べる試験"と定義され[1]、表面状態を簡便に知ることができる方法として古くから適用されている。

3.2特徴
 VTは、物のきず、形状、凹凸、明暗、色調などを、人の眼から脳を通じて瞬時に知覚できる長所を持ち、日常の巡回点検などで効果を発揮している。一方、身体的条件(視力、色覚)、観察条件(明暗、接近性)、対象物に関する知識など多くの要因が試験結果に影響を及ぼす。

3.3適用
 VTは、規格類などの要求にかかわらず製造検査、日常点検、定期検査のすべてで適用されている。また、製品の生産過程など無意識のうちに適用していることも多い。表 2に原子力設備におけるVTの適用例を示す。供用期間中検査では検出対象ごとに5種類(VT-1~VT-4及び応力腐食割れの検出のためのMVT-1)に分類して、それぞれに観察条件を規定している。また、ウォークダウン(現場で現物を定めた手順に従って調査し、結果を評価する体系的な点検)においても、VTが大きな役割を担っている。

表 2 原子力設備におけるVTの適用例
製造検査 材料検査 製品の生産過程全般 溶接検査 溶接過程全般(組立過程を含む)
例)開先形状、溶接後の外観、表面形状 、耐圧試験時の外観、漏えい 日常点検 巡回点検 定期検査 (1)機器の分解、開放点検
(2)供用期間中検査(ISI:In Service Inspection)[2]
 ① VT-1:磨耗、亀裂、腐食、浸食等の強度に影響を与える異常の検出
 ② VT-2:耐圧機器からの漏えいの検出
 ③ VT-3:機器の変形、心合せ不良、傾き、隙間異常、ボルト締め付け部の緩み、部品の破損、脱落等の異常の検出(支持構造物など)
 ④ VT-4:構造健全性または気密性に影響を及ぼす劣化(腐食、減肉、塗膜劣化、ボルト・ナットの破損等)を検出(対象:クラスMC機器)
 ⑤ MVT-1:炉内構造物の表面における、磨耗、亀裂、腐食、浸食等の異常の検出 その他 ウォークダウン(Walkdown)
3.4 VTの種類
VTには、直接目視試験と間接目視試験の2種類がある。前者は"直接または光学的補助具(ただし、TVカメラ、写真機等の画像機器を除く)を用いて観察する方法"、後者は"CCD、TVカメラ、写真機等の画像機器を用いて間接的に観察する方法" と定義されている[1]。光学的補助具の例として手鏡、拡大鏡(ルーペ)があげられる。間接目視では、ボアスコープ、ファイバースコープ、ビデオ内視鏡を使って映像をモニターに映し出すものも含まれる。間接目視は、人が接近して直接眼で確認できない部位、例えば、原子力設備の原子炉の内面、炉内構造物などの点検方法に適用されている。

3.5 VTの実施にあたり
 3.2節で述べたように、VTは人の身体的条件(視力、色覚)、観察条件(明暗、接近性)、対象物に関する知識など様々な要因が試験結果に大きく影響する。したがって、表 3に示すような事項に注意をしながら実施することが大切である。


 

表 3 VT適用上の主な注意事項
項目 内容 身体条件 視力 眼によって観察するため、視力のよいことが要求される。
非破壊試験の従事者は近方視力が要求され、Jaeger Number JI、Times Roman N4.5の文字を30cm以上離れた位置で読めること[3]。 色覚 使われる色彩またはグレイスケール(灰色濃淡)間のコントラストを見分けて識別できること[3]。これはVTのみならずPT、MT、RTも同じである。 心理 長時間作業による疲れ、体調不良などによって眼は試験体に向かっても見えていない状況に陥るので、日々の体調確認と作業環境に注意する。 試験環境 明るさ 試験面の明るさ(照度)を十分に確保する他、照明方法、観察方向、接近性などの観察条件を整備しておく。例として原子力設備のISIにおけるVT-1の規定を示す[2]。
(1) 試験体表面において18%中性灰色カード上の0.8mmの黒線が識別できることを確認するか又は明るさ(照度)を540ルクス以上とする。
(2) 眼から試験体表面までの距離は600mm以内、眼の位置に対する角度は30°以上150°以下とする。

接近性
眼の角度 識別基準 対象物に関する知識 対象事項(何を見るか)および許容値を試験前に明示する。
①予想する事象(変形、亀裂など)と発生箇所、②使用環境と年数などによる劣化予測、③過去の点検記録、④過去の不具合例など その他 設備ごとに必要な対象項目を記載したチェックリストを用意する。
4.浸透探傷試験(PT)
4.1 きずの検出原理
 浸透探傷試験(PT)は、"毛細管現象"と人間の眼の"知覚現象"を利用してきずを検出する方法である。毛細管現象とは図 1に示すように、液体の中に径の細い管を立てたとき、管中の液体が表面張力によって外部の液面に比べて高くなる現象であり、隙間の狭いきずでも生じる。この現象は接触角θが90°未満で生じ、θが小さいほど液面の高さhは大きくなる。大きくなることを"浸透力が高い"という。PTで使用する浸透液は浸透力が高く、仮に下を向いたきずであっても重力に逆らってきずの中に浸透する。PTでは、きず口に液体(浸透液)を塗ってきずの隙間に浸み込ませた後に、次に細かい粉(現像剤)をきず口にふりかけて浸透液を表面に吸い出す。このとき、浸透液は表面で拡大して大きな指示模様となる。浸透液を赤色、現像剤を白色にすると人間の眼で明瞭に知覚できる。

図 1 毛細管現象

4.2 特徴
 PTの特徴を表 4に示す。PTは、きずの性状、方向に関係なく1回の探傷で検出でき、また、様々な材料に適用できるなど多くの長所がある。しかし、浸透液をきずの中に浸透させる必要があるため、検出できるきずは、表面に開口したものに限られる。


表 4 PTの特徴
項目 内容 特徴 長所 (1) 開口したきずであれば、きずの性状(円形、線状)を問わず検出できる。
(2) きずの方向に関係なく1回で探傷できる。
(3) 吸水性の材料を除き、金属、非金属材料を問わず適用できる。
(4) 他の非破壊試験に比べて簡単な手順で探傷できる。
(5) 使用機材も少なく携帯性に富み、電気を使わなくても探傷できる。 短所 (1) 検出可能なきずは、開口したものに限られる。
(2) きずの中に水分など異物が入っている場合、検出が難しくなる。
(3) 探傷結果は、試験技術者の探傷技量に依存する。
4.3 適用
 原子力発電設備におけるPTの適用例を表 5に示す。PTは、表面に開口する疲労亀裂、応力腐食割れなどの検出を主な目的とする定期検査で重用されている。一方、製造検査(材料検査、溶接検査)では、磁粉探傷試験(MT)が適用できない材料(オーステナイト系ステンレス鋼などの非磁性体材料)に適用する。


 
 
表 5 原子力設備におけるPTの適用例
製造検査 材料検査 クラス1機器に使用する材料
①棒・ボルト材、②管、③鋳造品、④鍛造品などの表面検査 溶接検査 クラス1,クラスMC,クラス2~クラス4溶接部
磁粉探傷試験が不適当な非磁性体への適用
① オーステナイト系ステンレス鋼、②ニッケル基合金、③アルミニウムなどの溶接部 定期検査 設備全般の表面検査
① クラス1,2機器の供用期間中検査(ISI)
② その他設備の点検
③ トラブル調査,類似箇所点検など 適用規格 (1) 発電用原子力設備規格 設計・建設規格(JSME S NC1)
(2) 発電用原子力設備規格 溶接規格(JSME S NB1)
(3) 発電用原子力設備規格 維持規格(JSME S NA1)
試験方法と浸透指示模様の分類はJIS Z 2343-1(2001)「非破壊試験-浸透探傷試験・第1部:一般通則:浸透探傷試験方法及び浸透指示模様の分類」を引用する。
4.4 PTの種類
 PTの種類を表 6に示す。適用する浸透液の除去方法(溶剤、水洗、後乳化)、観察方法に関わる浸透液の種類(染色、蛍光)の組合せで6種類の技法があり、さらに現像方法(速乾式、湿式、乾式、無現像)を組合せると18種類の技法に及ぶ。このうち発電設備の検査では、主に溶剤除去性染色浸透探傷試験・速乾式現像法または水洗性染色浸透探傷試験・速乾式現像法を適用する。
(1)除去方法
 表面の余剰浸透液の除去は、有機溶剤、水洗浄および後乳化の3つの方法がある。発電設備の検査では、一般に溶剤除去を用いるが、凹凸の多い溶接部、ねじ部など複雑な形状のものは水洗浄を用いる。
(2)観察方法
 浸透液には、赤色の染色浸透液と蛍光物質を添加した蛍光浸透液の2種類がある。前者は、試験体表面で照度500ルクス以上[4]の可視光下で使用して、きず部(赤色)と周辺部(白色)の色彩できずを識別する。後者は照度20ルクス以下の暗い環境で輝度1000μw/cm2以上[4]の紫外線照射灯(ブラックライト)を使用して、きず部(黄緑色の輝き)と周辺部(黒色)の明暗できずを識別する。
(3)現像
 現像方法は、白色微粉末に揮発性をもたせた速乾式、水に懸濁した湿式および白色微粉末のままの乾式現像剤を使用する3種類があり、また、現像剤を使用しない無現像法がある。発電設備の検査では、一般に速乾式現像法を用いる。


 

表 6 PTの種類
除去方法 浸透液の種類 除去-浸透液の組合せ 現像方法 溶剤除去 染色 ① 溶剤除去性染色浸透探傷試験
② 水洗性染色浸透探傷試験
③ 後乳化性染色浸透探傷試験  速乾式 水洗 湿式 蛍光 ④ 溶剤除去性蛍光浸透探傷試験
⑤ 水洗性蛍光浸透探傷試験
⑥ 後乳化性蛍光浸透探傷試験  速乾式 後乳化  湿式  乾式
 (無現像) 注記)染色浸透液-乾式現像、染色浸透液―無現像法の組合せは適用できない。
4.5 探傷手順
 発電設備の検査で最も多く適用される溶剤除去性染色浸透探傷試験・速乾式現像法の探傷手順を図 2(a)~図 2(d)に示す。
(1)前処理
 きず口を塞ぐ固形物、油脂類などを除去して、試験体の表面を清浄にする。
(2)浸透処理
 赤色の浸透液を塗布して、きずの隙間に浸透させる。
(3)除去処理
 除去液をウエスに浸み込ませて余剰浸透液を拭き取り、きずの中の浸透液だけを残す。
(4)現像処理
 白色の現像剤できずの中の浸透液を吸い出し、拡大したきず指示模様を形成させる。
(5)観察・記録
 きず指示模様を観察し、スケッチまたは写真で記録する。

     (a) 前処理     (b) 浸透処理     (c) 除去処理   (d) 現像処理・観察
図 2 探傷手順(溶剤除去性染色浸透探傷試験・速乾式現像法の例)

4.6適用上の注意
 PTの信頼性は、一つ一つの探傷手順と探傷環境などが影響する。したがって、保全技術者はPTの探傷結果の確認だけではなく、探傷プロセスの確認も大切である。また、探傷剤の使用、保管状況によっては火災などの恐れがあり、健康への影響も含めた安全衛生管理への目配りも必要である。ここでは、探傷手順において特に注意すべき点を示す。
(1)浸透液を塗布後、きずの中に十分浸透する時間(通常、5~60分)置く[4]。
(2)除去液(溶剤)による除去処理では、試験体へ直接吹き付けてはならない。
(3)速乾式現像法は図 3で示すように時間経過とともにきず指示模様が変化するので、現像剤が乾燥した時点で観察を開始し、10~30分[4]程度まで適宜行う。

図 3 経過時間ごとのきず指示模様の例(速乾式現像法)

5.磁粉探傷試験(MT)
5.1きずの検出原理
 磁粉探傷試験(MT)は、"磁気現象(漏えい磁束)" と人間の眼の"知覚現象"を利用してきずを検出する方法である。MTのきず検出原理を図 4に示す。磁石に吸着する試験体に磁界を与えると磁束(磁力線の束)が発生する。このとき表面にきずが存在すると磁束の通過が妨げられる。妨げられた磁束は迂回するように表面に漏れ出し、きずの両側に磁極(S極、N極)が出来る。このきず自体が磁石の役割を持ち、ふりかけた磁粉が吸着してきず指示模様を形成し、人間の眼で知覚できる。
 磁化方法は、交流と直流の2つがある。交流磁化では図 5で示すように、磁束密度が表面で最大となり、内部に入るにつれて急激に減少する。これを表皮効果といい、検出できるきずは磁束密度の高い表面および表層部に限られる。探傷有効深さとして浸透深さ(表皮の厚さ)δを目安とする。δは、試験体の電磁特性(透磁率μ、導電率σ)と周波数fで決まり、商用交流(50Hz、60Hz)を用いるMTでは、およそ表面直下2~3mmが限界である[5]。一方、直流磁化は、表皮効果はないが、厚肉では磁束密度が小さくなるため、適用は6mm程度の薄肉に限られる[5]。


図 4 MTのきず検出原理


図 5 表皮効果

5.2 特徴
 MTの特徴を表 7に示す。MTは、PTと異なりきずが表面に開口していなくても検出できるという長所がある。しかし、適用は、強磁性体の材料に限られ、オーステナイト系ステンレス鋼、アルミニウムなどの非磁性体へは適用できない。
 
表 7 MTの特徴
項目 内容 特徴 長所 (1) 表面きず(開口きず、表面直下のきず)を検出できる。
(2) 割れなどの線状きずの検出に優れる。
(3) 一般にPTと比べて隙間の狭いきずの検出に優れる。 短所 (1) 適用は強磁性体の試験体に限られる。
(2) 試験体内部のきずは検出できない。
(3) きずの方向と磁化の方向の関係によって検出性が異なる。
 (磁化の方向に対して直角方向のきずの検出に優れる)


(4) 円形きずの検出性は、一般にPTと比べて劣る。
5.3 適用
 原子力発電設備におけるMTの適用例を表 8に示す。表面および表層部を対象とする製造検査(特に溶接検査)では、MTを優先して適用する。定期検査では開口した亀裂を対象とするため、通常は、PTが優先される。

表 8 原子力設備におけるMTの適用例
製造検査 材料検査 クラス1機器に使用する材料
①棒・ボルト材、②管、③鋳造品、④鍛造品などの表面検査 溶接検査 クラス1,クラスMC,クラス2~クラス4溶接部(下記を除く)
① オーステナイト系ステンレス鋼、② ニッケル基合金、③ アルミニウムなどの非磁性体の溶接部を除く。 定期検査 製品(強磁性体製)全般の表面検査(通常は、PTが適用される) 適用規格 (1) 発電用原子力設備規格 設計・建設規格(JSME S NC1)
(2) 発電用原子力設備規格 溶接規格(JSME S NB1)
(3) 発電用原子力設備規格 維持規格(JSME S NA1)
試験方法と磁粉模様の分類はJIS Z 2320-1(2007)「非破壊試験-磁粉探傷試験-第1部:一般通則」を引用する。
5.4 MTの種類
(1)磁化の種類
 MTの種類を表 9に示す。MTは、4つの磁化方法で分類され、8種類の技法に及ぶ。これらのうち発電設備の検査では、通常、極間法を適用する。

表 9 MTの種類
磁化方法Ⅰ:試験体に直接電流を流して(通電して)磁化、磁束を発生する方法       Ⅰ-① 軸通電法    Ⅰ-② 直角通電法   Ⅰ-③ プロッド法 磁化方法Ⅱ:試験体以外の導体を通電して、試験体に磁束を発生する方法       Ⅱ-① 電流貫通法   Ⅱ-② コイル法     Ⅱ-③ 隣接電流法 磁化方法Ⅲ:電磁石の磁束を試験体に流す方法       Ⅲ-① 極間法 磁化方法Ⅳ:試験体に誘導電流を発生させて磁化する方法       Ⅳ-① 磁束貫通法 備考) 発電設備の溶接規格では極間法、プロッド法、コイル法の3種類を規定している[6]。 極間法 プロッド法 コイル法

電磁石または永久磁石の磁極間に試験体を置く。

試験体局部に2個の電極(プロッド)を当てて電流を流す。

コイルの中に試験体を入れて、コイルに電流を流す。
(2)磁粉の種類
 表 10に磁粉の種類を示す。水や灯油などに磁粉を懸濁した湿式とそのままの乾式があり、また、PTと同様に蛍光物質を添加した蛍光磁粉、黒色などに着色した非蛍光磁粉がある。発電設備の検査では、きずの識別性が高い湿式蛍光磁粉を適用することが多い。

表 10 磁粉の種類
区分 種類 備考 適用方法 乾式 (1) 非蛍光磁粉はきずと試験体の下地の色調で識別できるように白色、黒色、褐色(赤色)などで着色する。
(2) 蛍光磁粉は湿式磁粉として適用する。
(3) 湿式磁粉の濃度は、非蛍光磁粉で2~10g/?、蛍光磁粉で0.2~2g/?とする[7]。
(4) 磁粉の粒度は、乾式で大きいもの、湿式で小さいものを使用する。 湿式 観察方法 非蛍光 蛍光
5.5 探傷手順
 発電設備の検査で通常適用される極間法・湿式磁粉(連続法)の探傷手順を図 6に示す。
(1)前処理
 磁粉がきず部に吸着し易く、きず部以外は付着しないように試験体の表面を清浄にする。
(2)試験方法の確認
 試験体が適正に磁化されることおよび1回の磁化で有効な探傷範囲を確認する。
(3)磁化
 溶接検査などきずの方向が定まらない場合は、少なくとも直角する2方向から磁化する。また、探傷有効範囲が重なる間隔で磁化器を走査する。
(4)磁粉の適用
 磁粉の流れが停止するまで磁化(通電)を続ける。
(5)観察
 スケッチ、写真または転写によってきず指示模様を記録する。

図 6 探傷手順(極間法・湿式黒色磁粉(連続法)の例)

5.6適用上の注意
 PTと同様に探傷プロセスの確認および安全衛生管理に目配りしなければならない。探傷に関しては、特に探傷有効範囲の確認と磁化器の走査間隔がプロセスチェックの要点となる。

6.渦電流探傷試験(ET)
6.1きずの検出原理
 渦電流探傷(ET)は、"電磁誘導作用"を利用したものである。コイルの交流磁束を用いて試験体(導体)の表面に渦電流を発生させ、表面きずによる渦電流の変化をコイルのインピーダンス変化として捕え、きずを検出する方法である
(1)渦電流の発生と変化
 コイルに磁気が作用すると電気が誘導される現象を電磁誘導作用という。図 7で示すようにコイルに交流電流を流すと時間的に変化する交流磁束(一次磁束)が発生する。この磁束が導体を貫くと、導体中に一次磁束の変化を妨げる渦状の誘導電流(渦電流)が生じる。この渦電流は、導体の表面または表層部にきずが存在すると大きさと分布が変化する。これに伴ってコイル周辺の磁束も変化する。
(2)きずの検出
 ETによるきずの検出方法を図 8で示す。試験体の健全部に試験コイルを配置して発信器で交流電流を発生させる。次に出力電圧がゼロ(Z1・Z4=Z2・Z3、Z4:健全部におけるコイルのインピーダンス)になるように平衡回路(ブリッジ回路)で調整する。この状態で、きず部へコイルを走査すると渦電流が変化し、コイルインピーダンスZ4が変化する。その結果、平衡状態が崩れて(Z1・Z4≠Z2・Z3)、電圧Vとして出力される。出力された信号がきず信号となる。

図 7 電磁誘導作用による渦電流の発生


図 8 きずの検出方法

(3)渦電流の性質
 交流を用いるETでは、MTと同じように図 9で示す表皮効果が生じる。また、渦電流の位相θが、表面から内部に入るにつれて遅れるという性質がある。浸透深さδとθは試験体の電磁特性(透磁率μ、導電率σ)と周波数fで変化する。μとσは変えられないが、fは調整できるためδとθを変えることができる。図 10は、材料ごとのfとδの関係図を示す。本図から分かるようにfを高くすればδが小さく、fを低くすればδが大きくなる。この関係を活かして周波数を適切に調整する。また、θに着目すれば、表面きずと裏面きずに分類することができる。
 
 

図 9 渦電流の性質


図 10 各種材料における試験周波数fと浸透深さδの関係

6.2特徴
 ETの特徴を表 11に示す。ETは、PT、MTの適用が難しい細管など狭隘部へ適用できることが大きな長所である。また、電気信号を介してきずを検出するため、自動探傷、高速探傷が可能、記録の保存性に優れるなど他の表面試験にない長所がある。一方、ノイズ因子が多く、きず信号の識別性低下を招く恐れがある。
表 11 ETの主な特徴
項目 内容 特徴 長所 (1) 細管、細線、穴の内部などに適用できる。
(2) 電気信号を扱うため、自動探傷、高速探傷に適し、記録の保存性に優れる。
(3) 非接触で試験ができる。このため高温部へ適用できる。
(4) 渦電流の位相変化に着目して、表面(外面)、裏面(内面)きずを推定できる。
(5) 非磁性体の探傷に適する。 短所 (1) 適用は導体(電気を通し易い金属材料など)に限られる。
(2) ノイズ因子(形状・寸法変化、ガタ、材料特性、温度など)が多い。
(3) 表皮効果のため、内部きずの検出は難しい。
6.3適用
 原子力発電設備におけるETの適用例を表 12に示す。蒸気発生器、各種熱交換器の伝熱管の探傷(減肉測定および亀裂の検出)に適用している。また、信号処理技術の進歩に伴い、炉内構造物(ニッケル基合金、オーステナイト系ステンレス鋼溶接部)の探傷(応力腐食割れの検出)と寸法(長さ)測定などにも適用している。


 

表 12 原子力設備におけるETの適用例
製造検査 材料検査 クラス1機器(蒸気発生器(SG)伝熱管)の表面検査 溶接検査 該当なし 定期検査 クラス1機器(蒸気発生器伝熱管)のISI
クラス1機器(炉内構造物、原子炉圧力容器底部)のISI
復水器他各種熱交換器伝熱管の点検 適用規格 (1) 発電用原子力設備規格 設計・建設規格(JSME S NC1)
(2) 発電用原子力設備規格 維持規格(JSME S NA1)
(2)-1 JEAG 4208「蒸気発生器伝熱管渦流探傷試験指針」
(2)-2 JEAG 4217「原子力発電所用機器における渦電流探傷試験指針」
    JEAG:日本電気協会技術指針
6.4試験コイルの種類
 探傷装置は、図 11に示すように渦電流探傷器、試験コイル、記録計で構成される。このうち、試験コイルは表 13で示すように適用対象、渦電流の発生(励磁)と検出方法およびコイルの使用方法の組合せで18種類に分類される。このうち貫通コイル、内挿コイルおよび上置コイルの3種類の例を同表に示す。貫通コイルは、製造検査における管などの探傷、内挿コイルは定期検査における伝熱管の探傷、上置コイルは炉内構造物、原子炉圧力容器底部の探傷で適用される。


 

図 11 渦電流探傷装置の基本構成(例)

表 13 試験コイルの種類
適用対象 励磁と検出方法 使用方法
貫通コイル 内挿コイル 上置コイル
自己誘導形 相互誘導形
単一方式 自己比較方式 標準比較方式 貫通コイルの例 内挿コイルの例 上置コイルの例


円筒形のコイルの中に試験体(管、棒、線)を通過させる。


試験体(管)の中に円筒形のコイルを挿入、通過させる。


試験体(板状、丸棒)の表面上にコイルを配置して走査する。 対象物:管(伝熱管)、棒、線 対象物:管(伝熱管) 対象物:板状、丸棒 外面きずの検出に優れる。 管内面きずの検出に優れる。 表面きずの検出に優れる。
6.5探傷手順
 内挿コイルによる熱交換器伝熱管の探傷(減肉測定)手順の例を以下に示す。
6.5.1探傷準備
(1)前処理
 管内部の金属粉、酸化スケール、堆積物などを取り除き、清浄にする。
(2)コイルの準備
 管の寸法(内径)に応じた内挿コイルを準備する。
(3)対比試験片の準備
 管と電磁気特性、形状・寸法が同等な材料で、感度と位相を調整する人工きず(ドリル穴、溝など)を付与した対比試験片を準備する。対比試験片の例を図 12に示す。

図 12 伝熱管探傷用対比試験片の例

6.5.2探傷装置の調整
(1)試験周波数の設定
 きずによるコイルインピーダンスの変化が最大、きずとノイズの位相差が最大となる周波数に設定する。
(2)位相の調整および感度の調整
 コイルを対比試験片の中に挿入し、図 13で示すように最初に健全部で出力"ゼロ"になるように調整を行う。この状態でコイルを走査してきず部を通過させるとバランスが崩れて、8の字の軌跡を描いた探傷図形が表示される。これをリサージュ波形という。位相の調整は、対比試験片の人工きずが十分検出できるように、リサージュ波形を観察しながら移相器と増幅器で位相および感度の調整を行う。通常、位相は貫通穴の信号が135°になるように調整する[8]。


図 13 探傷図形(リサージュ波形)

(3)減肉量推定線図の作成
 次に、対比試験片に付与した深さの異なる外面きず(溝)と内面きず(溝)を検出して、各きずの出力信号から位相を求め、図 14のようにプロットする。この図を減肉率評価線図といい、きずの位置、減肉量などの評価に使用する。

図 14 減肉率評価線図の例

6.5.3探傷
 熱交換器の伝熱管の数は膨大なため、検査漏れが生じないように、例えば、管列番図(管束図)を準備して1本ごと確認しながら探傷を行う。

6.5.4探傷データの解析
 検出した信号について位相解析を行い、図 14の線図を用いて外面きずまたは内面きずに分類する。内面きずには酸化スケールなどの付着物に起因するものもあるので、ファイバースコープなどによる目視試験または再試験を行う。再試験の場合はその前に再度前処理を行うとよい。

6.6適用上の注意
 コイルのインピーダンス変化はきず以外の要因でも生じるため、変化の要因が何によるものか判断しなければならない。表 14にきず以外によるインピーダンス変化の主な要因を示す。

表 14 コイルインピーダンスの変化の主な要因
因子 インピーダンス変化の内容 導電率 温度によって試験体の導電率が変化する。温度は刻々と変化することがあり、これに伴いインピーダンスが変化する。これを温度ドリフトという。 透磁率 強磁性体は透磁率が不均一になりやすいため、インピーダンスが変化する。 試験体とコイルの
相対位置 (1) 試験体(管)内でコイルが近づいたり遠ざかったりする相対位置の違いによりインピーダンスが変化する。この変化をガタという。
(2) 上置コイルと試験体の相対位置の違いによるインピーダンスの変化をリフトオフという。 試験体端部 端部など形状急変部でインピーダンスが変化する。これを端末効果といい、端末より探傷可能となる範囲を端末不感帯という。 探傷速度 試験体の送りまたはコイルの通過速度は静止時と比較してインピーダンスが変化する。これを速度効果(ドラッグ効果)という。
7.表面試験方法の比較
 3章から6章で述べてきた各表面試験方法の特徴についてまとめたものを表 15に示す。試験対象、試験目的などと各手法の特徴を照らし合せて、効果的な非破壊試験を選択することが大切である。


表 15 表面試験方法(PT、MT、ET)の比較
試験方法 PT MT ET 対象とする材質 金属 強磁性体 ○ ○ ○ 非磁性体 ○ × ○ 非金属材料 ○
(吸水性除く) × ×
(非導電性) 対象とする欠陥 表面欠陥 開口 ◎ ◎ ◎ 非開口 × ◎ ◎ 表面直下注1)の欠陥 × ○ ○ 欠陥に関する
情報 欠陥の寸法 長さ ○ ○ △注2) 高さ(深さ) △ △ ○注3) 欠陥の種類判別 ○ ○ △ 注記 注1) 表面直下2~3mm程度
注2)JEAG 4217による亀裂長さ測定:○
注3)細管の減肉量:○
   JEAG 4217による亀裂高さ(深さ):△(表面直下3mm程度まで)  ◎:検出感度大、○:可能、△:現在困難、×:不可能

8.まとめ及び次回の予定
 今回、目視試験(VT)、浸透探傷試験(PT)、磁粉探傷試験(MT)および渦電流探傷試験(ET)の4つの表面試験方法についてその概要と適用上の注意事項などを解説した。次回は、放射線透過試験(RT)と超音波探傷試験(UT)の2つの体積試験方法の解説を予定している。

参考文献
[1] 日本産業規格 JIS Z 2300:2009「非破壊試験用語」
[2] 日本機械学会規格 JSME S NA1:2012「発電用原子力設備規格 維持規格」
[3] 日本産業規格JIS Z 2305:2013「非破壊試験-技術者の資格及び認証」
[4] 日本産業規格 JIS Z 2343-1:2001「非破壊試験-浸透探傷試験・第1部:一般通則:浸透探傷試験方法及び浸透指示模様の分類」
[5] 「非破壊検査技術シリーズ」磁気探傷試験Ⅰ 2018,日本非破壊検査協会,p4,p5,p50(2018)
[6] 日本機械学会規格 JSME S NB1:2012「発電用原子力設備規格 溶接規格」
[7] 日本産業規格 JIS Z 2320-1(2007)「非破壊試験-磁粉探傷試験-第1部:一般通則」
[8]「非破壊検査技術シリーズ」渦流探傷試験Ⅰ ,日本非破壊検査協会,p78(1995)

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