NDT 技術のやさしい解説(保全技術者向け) - 3 回目-

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1.はじめに
 シリーズ3回目の今回は、人の目で直接見ることの出来ない試験体の内部の状態を調査する非破壊試験について解説する。

2.体積試験
 今回は、表1で示す放射線透過試験(RT)と超音波探傷試験(UT)の2つの体積試験方法について解説する。体積試験は、"表面および表層部を除く試験体全体を探傷の対象とする試験方法"と定義している[1]。この定義に従えば表面および表層部のきずは検出対象外となる。しかし、RT、UTともに表面から内部の方向に一定の寸法を持つきず(割れ、溶込み不良など)であれば検出できるため、実際には表面から内部にわたる全体積の状態を調査できる試験と考えてよい。

表 1 主な体積試験
非破壊試験の種類 略号 利用する物理現象 主な検出対象(溶接部) 放射線透過試験
Radiographic testing RT 写真作用
・放射線による写真の黒化 1.体積(空洞状、塊状)きず※1
2.面状きず※2 超音波探傷試験
Ultrasonic testing UT 音響
・音響境界面での反射 1.体積(空洞状、塊状)きず※3
2.面状きず※4
3.層状きず※5 【備考】
※1:ブローホール、スラグ巻込み、タングステン巻込み、※2:溶込み不良、融合不良、一部の割れ
※3:ブローホール、スラグ巻込み、※4:溶込み不良、融合不良、割れ、※5:ラミネーション
3.放射線透過試験(RT)
3.1 きずの検出原理
 放射線透過試験(RT)の原理は、胸部レントゲン検査と同じである。"放射線の強さは物質の中を透過する際に吸収、散乱によって弱まっていく。その弱まり方(減弱係数)は物質の種類と放射線のエネルギーによって異なる。"という性質と"放射線をフィルムに照射するとフィルムが黒化する。"という2つの性質を利用してきずを検出する。きずの検出原理について具体的に図1で解説する。強さI0の放射線を試験体に照射する。放射線は試験体の中を透過する際に弱まっていきフィルムに到達する。試験体が無きずであればフィルムに到達する放射線の量(到達線量)は同じであり、写真処理した後の黒化の程度(濃度)は透過写真上で一様となる。仮に試験体にきずが存在すると無きずの部分ときずの部分で到達線量に差異が生じ、透過写真上で濃淡(黒化の程度の違い)が生じる。図1のように鋼製の試験体に空洞状のきずが存在した場合、空洞部分では鋼の部分に比べて放射線は透過し易く、到達線量は無きずの部分に比べて多くなる。このため、透過写真上では、きずの部分は無きずの部分に比べて黒い(濃い)像として形成される。このようにRTは濃淡で形成される像によってきずを検出する。濃淡の程度は、放射線の照射方向(厚さTの方向)に対するきずの奥行き(ΔT;TA、TB、TC)により異なり、図1で示すように奥行き寸法が大きい(ΔTC>ΔTB>ΔTA)ほど濃淡差が大きくなって、きず像Cが最も明瞭となる。ちなみに透過写真上の濃淡をコントラストΔDといい、RTの基本は、ΔDが大きくなる条件とする。


図1 RTのきず検出原理

3.2 特徴
 RTの特徴を表2に示す。RTは、透過写真上に現れたきずの像の形状などによって種類を推定し易いという長所およびブローホール、スラグ巻込みなどの体積を持つ溶接きずの検出に適するという長所がある。このため溶接構造物の品質管理(健全性の確保)において最も確実な非破壊試験に位置付けられ、国内外を問わず長年にわたり適用されている。一方、供用中に生じる亀裂(疲労亀裂、応力腐食割れなど)の検出性が一般に超音波探傷試験(UT)と比べて劣る。また、放射線管理など安全面の管理で他の非破壊試験に比べて手間がかかるなどの短所がある。

表 2 RTの特徴
項目 内容 特徴 長所 (1) 試験体内部のきずを検出できる。
(2) フィルム(透過写真)上に現れたきず像からきずの種類を推定し易い。
(3) ブローホール、スラグ巻込みなどの体積きず※1の検出に優れる。 短所 (1) 疲労亀裂、応力腐食割れなどの検出は、一般にUTと比べて劣る。
(2) きずの深さ方向の位置、きず高さ(深さ)寸法を求めることは困難である。
(3) 安全管理(放射線防護)を確実に行うため、手間がかかる。 備考 ※1:縦、横、高さ方向に広がりを持つきず
3.3 適用
 原子力発電設備におけるRTの適用例を表3に示す。RTは、主に製造時の溶接検査に適用する。重要度が最も高いクラス1機器(原子炉冷却材圧力バウンダリを構成する機器)については、溶接品質の管理を確実にするために表面検査(MT又はPT)と体積検査(RT)を組合せて適用する。一方、定期検査では疲労亀裂、応力腐食割れなどの検出に優れ、亀裂高さ(深さ)寸法を精度よく測定できる超音波探傷試験(UT)が優先されるため、RTの適用は一部のケースに限られる。


 
表 3 原子力設備におけるRTの適用例
製造検査 材料検査(1) クラス1,2機器に使用する材料のうちの鋳造品 溶接検査(2) クラス1,クラスMC,クラス2~クラス4溶接部※1(突合せ溶接継手) 定期検査 適用は以下のケースなどに限られ、通常は適用しない。
① 減肉調査、② 不具合調査・類似箇所調査 適用規格 (1) 発電用原子力設備規格 設計・建設規格(JSME S NC1)
日本産業規格JIS G 0581:1999「鋳鋼品の放射線透過試験方法」を引用
(2) 発電用原子力設備規格 溶接規格(JSME S NB1)
きずの分類については、日本産業規格JIS Z 3104:1995 附属書4「透過写真によるきずの像の分類方法」を引用 注記 ※1 クラス4は耐圧代替試験が要求される場合に適用
3.4 探傷手順
 原子力発電設備の製造時に行う溶接検査への適用を例にしたRTの手順を以下に示す。
3.4.1 全体フロー
 RTは、図2で示すように①フィルム撮影、②フィルム現像および③透過写真の観察・判定の流れで実施する。


図2 RTの実施手順(全体フロー)

3.4.2フィルム撮影の手順
(1)事前確認および撮影手順書の作成
 RTに先立って、表4で示す項目を確認して撮影手順書に反映する。撮影手順書は、透過写真が溶接規格[2]で要求する必要条件を満足し、きずの像が明瞭に撮影される条件とする。


 

表4 事前確認項目の例
項目 主な確認内容 撮影手順への反映 試験体の仕様 機種区分 ・クラス1機器 ・それ以外の機器 撮影配置、判定基準 材質 線源の種類、透過度計(材質) 構造 容器 撮影技術、撮影配置 管 ・円周継手 ・長手継手 寸法 外径 ・90mm超え・90mm以下 撮影技術、撮影配置、照射回数 厚さ(・母材厚さ、余盛高さ) 線源の種類、感光材料の組合せ
透過度計、濃度範囲 溶接線長 照射回数、撮影配置 現場環境 撮影場所、作業スペース、電源設備など 線源の種類、撮影配置
(2)使用機材の選定および準備
 撮影手順書に従って、表5に示す機材を選定・準備する。

表5 撮影に必要な機材
使用機材 種類 使用区分、用途他 放射線源の種類 エックス(X)線装置
・低エネルギー~高エネルギー ・放射線の透過厚さ(材厚)、要求像質に応じて管電圧(エネルギー)を選定 ガンマ(γ)線装置
・169Yb、・192Ir、・60Co他の核種 ・X線装置の適用が不適な場合に使用
・材厚、要求像質に応じて核種を選定 感光材料 X線フィルム
型式の例:IX25~IX400※1 ・要求像質、作業効率を考慮して選定
・通常はIX50~IX100相当を使用する 増感紙
・金属増感紙、金属蛍光増感紙
 蛍光増感紙 ・通常は鉛(Pb)箔増感紙を適用
・蛍光増感紙は使用
(クラス1機器は金属増感紙に限る) 透過度計
(像質計) 有孔形透過度計※2 ・像質の評価に適用
・材質、材厚に応じて呼び番号を選定 フィルムマーク 英数文字、記号 ・試験体の名称(継手番号)、撮影位置など透過写真の識別に適用 その他 遮へい材他 ・散乱線防止(像質改善)など 備考 ※1 富士フイルム社製の型式を例に示す。
※2 火力設備に区分される機器は、針金形透過度計を適用できる。
(3)撮影技術の決定
 撮影は表6で示す単壁撮影を基本とする、ただし、配管類で単壁撮影が困難な場合は、二重壁撮影で行う。

表6 撮影技術
試験体 鋼板(容器) 配管 撮影方法 単壁撮影 単壁撮影 二重壁撮影 内部線源 内部フィルム 片面 両面


(全周撮影の例)


備考 撮影の基本 【適用例】
・大口径・厚肉
・現地据付け 【適用例】
・管長手継手
・工場製作 【適用例】
・配管円周継手で
 広く適用 【適用範囲】
・外径90mm
 以下に限定
(4)撮影配置
 撮影にあたっては、放射線源と試験体の線源側表面までの距離L1、線源側表面からフィルムまでの距離L2およびフィルム1枚あたりの有効長さL3の関係について、溶接規格[2]を満足するように定める。図3に単壁撮影における撮影配置の例を示す。撮影配置は、幾何学的不鮮鋭度の制限(像のぼけの抑制)と有効長さの両端における横割れの検出性を確保できるように決定している。

図3 撮影配置(単壁撮影の例)

(5)露出条件の決定
 透過写真は、人の目で観察し易い適度な濃さ(濃度)に仕上げるために、放射線を照射する時間を決定する。照射時間は、放射線のエネルギー、試験体の材質と材厚(透過厚さ)、使用する感光材料(フィルムと増感紙の組合せ)および線源から試験体までの距離に応じて定める。X線の場合は、通常、露出線図とX線フィルムの特性曲線を使用して決定する。露出線図は、一定の写真濃度に要する照射時間を試験体の透過厚さと使用するX線装置の管電圧で整理したものである。フィルム特性曲線は、照射時間と写真濃度の関係について感光材料をパラメータにしてグラフ化したものである。
(6)撮影
 撮影配置に従って放射線源、フィルム、透過度計などを設置して、算出した露出条件で撮影を行う。この際、算出した露出条件が正しいことを試射して確認した後で、撮影を始める。

3.4.3フィルム現像(写真処理)
 撮影したフィルムは暗室で写真処理を行う。写真処理は①現像、②停止、③定着、④水洗、⑤乾燥の手順で行う。常時RTを行うところでは、自動現像機を用いる。不定期あるいは出張先などの一時的な撮影では、タンク現像など手動で行うことが多い。手動で現像する場合は、現像温度を管理する他、各処理で決められた時間を管理する。例えば、現像処理は一般に温度20℃、処理時間5分で行う。

3.4.4透過写真の観察・判定
透過写真を観察して、試験体の状態を調査し、きずの像の分類および合格・不合格の判定を行う。
(1)観察方法
 暗い部屋で観察器を用いて観察する。この時、観察器から不要な光が漏れないように透過写真の寸法に適合した固定マスクを用いる。また、暗いところで目を馴らしてから観察を始める。
(2)透過写真の必要条件の確認
 透過写真の像質の良否を確認する。像質の良否は、濃度、透過度計の識別、試験体の識別などの必要条件(透過写真の具備すべき条件)を確認して判断する。必要条件を一つでも満足していなければ撮影をやり直す。必要条件の確認について図4を例に示す。
a.透過写真の濃度の確認
 校正された濃度計を使用して透過写真の濃度を測定する。濃度の測定は有効長さL3の範囲内で最低濃度(最も淡い箇所)と最高濃度(最も濃い箇所)および有孔形透過度計を置いた位置の濃度を測定し、表7で示す範囲に収まっていることを確認する。通常、最低濃度は有効長さの両端で余盛上(図4の+印)、最高濃度は有効長さの中央近傍の溶接金属に近い母材部(図4の×印)で測定する。有孔形透過度計を置いた位置の濃度と透過写真の最低濃度の関係が表7を満足しない場合は、図4のように有効長さの両端近傍にはさみ金(余盛高さを考慮)を介した有孔形透過度計を追加する。

表7 透過写真の濃度範囲[2]
濃度範囲 材厚50mm以下 材厚50mm超え100mm以下 材厚100mm超え 1.0~3.5 1.5~3.5 2.0~3.5 有孔形透過度計を置いた位置の濃度との関係
1) 有孔形透過度計を置いた位置の濃度より15%以上低い部分がないこと
2) 有孔形透過度計を置いた位置の濃度より30%以上高い部分がないこと
b.透過度計の呼び番号および基準穴の確認
 試験体と一緒に撮影した有孔形透過度計を観察し、試験体の材厚と透過度計の配置に応じて溶接規格[2]で規定する呼び番号と基準穴が識別できることを確認する。図4の単壁撮影の例では、材厚(母材の厚さ30mm+余盛高さ2.0mm)は32mm、透過度計の配置は放射線源側表面のため、溶接規格[2]の表N-X100-1の材厚に応じた有孔形透過度計の使用区分により、呼び番号X25(フェライト鋼であればF25)の基準穴2Tが識別できることを確認する。有孔形透過度計を追加した場合、追加した透過度計(F25)の基準穴(2T)も識別できることを確認する。
c.試験体の識別確認
 透過写真上で試験体の位置(品名/溶接継手番号、撮影位置、有効長さ、材厚)、撮影日などを示す記号が撮影されていることを確認する。
d.透過写真のきず、汚れの確認
 透過写真の像質の評価およびきずの像の分類の妨げとなる現像むら、汚れ、きずなどがないことを確認する。

図4 単壁撮影による透過写真の例

(3)きずの像の分類
 必要条件を満足したことを確認した後、きずの像を確認する。きずの像を検出したら図5に示す手順できずの分類を行う。最初にきずの像の形状などによって第1種~第4種のうち該当するものに種別する。次に種別に応じた手順で分類を行う。第1種のきずであれば像の長径を測定し、寸法に応じて1点、2点、3点、6点といった点数を付け、母材の厚さで規定する点数と比較して分類する。きずが複数ある場合は試験視野を設定して、その中に入るきずの点数を総和して分類する。第2種のきずは、きずの像の長さを求め、母材の厚さで規定する長さと比較して分類する。ちなみに溶込み不良と融合不良については、長さの規定で1類に分類されても1ランク下の2類に分類する。第3種のきずは溶接構造物にとって最も有害な割れおよびこれに類するきずのため、無条件に4類とする。

図5 きずの像の分類

(4)判定
 きずの像の分類結果を基にして、溶接規格[2]の判定基準に従って合否判定を行う。クラス1機器は溶接品質の最上位である1類でなければならない。それ以外の機器も原則1類とするが、第1種と第4種のきずに関しては、条件付きで合格基準を緩和(2類相当のきずを許容)している。いずれにしても原子力発電設備では、割れ、溶込み不良、融合不良およびこれに類するきずは、許容しない。

3.5適用上の注意
 RTが適切に行われたか否かは、透過写真の像質として現れる。したがって、保全技術者は記録の確認だけではなく、透過写真の観察を通した記録との照合が大切である。記録の確認は撮影配置(L1、L2、L3など)、透過写真と記録の照合は、必要条件(濃度範囲、透過度計の識別、撮影位置など)が合致し、溶接規格[2]に適合しているか否かに重点を置く。また、RTは放射線を扱うため、他の非破壊試験に比べて特に安全面の管理(放射線管理)が重要である。この他に、通常、透過写真は品質記録として試験体の寿命期間中保存するため、保管方法、保管場所および保管費用などを受渡当事者間で定めておくことも必要である。
 
3.6 RTの動向
 溶接検査に適用するRTは、X線フィルムを使用している。これに対して医療分野では、デジタル検出器などを使用したデジタルRT(D-RT:Digital Radiographic Testing)に置き替えられた。工業分野でもデジタルRTが徐々に普及しており、原子力発電設備などの減肉調査では、イメージングプレート(IP:Imaging Plate)を使用したコンピューテッドラジオグラフィ(CR:Computed Radiography)を適用している。溶接検査へのデジタルRTの実用化は遅れているものの、ISO 17636-2[3]に基づく日本産業規格JIS Z 3110:2017「溶接継手の放射線透過試験方法-デジタル検出器によるX線γ線撮影技術」が制定されたことで、今後、実用化されるものと予想される。

4.超音波探傷試験(UT)
4.1 きずの検出原理
 山に向かって声を発すると自分の耳に遅れて戻ってくる"やまびこ(反響)"の現象はよく知られている。この現象は、空気と山の異なる物質の境界で声が反射することで生じる。UTは"やまびこ"と同じ現象を利用してきずを検出する方法である。具体的に図6で解説する。音響インピーダンス(Z=物質の密度ρ×音速C )の異なる物質1と物質2の境界面で反射と通過が生じる。反射の程度は音圧反射率γで表され、両者の音響インピーダンスの差(Z2-Z1)が大きいほど大きくなる。物質1を鋼、物質2を空気と仮定すると、それぞれの音響インピーダンスは46.02、4×10-4(単位:省略)[4]であるため、音圧反射率はほぼ100%となり、鋼と空気の境界面では音のほとんどが反射する。UTはきずでの反射が大きいほど、都合がよい。


図6 きずの検出原理(音の反射と通過)
 
4.2 探傷に利用する音の性質
 4.1できずの検出原理について解説した。UTでは、他にも幾つかの音の性質を利用している。探傷に利用する音の性質について解説する。
(1)音速C
 物質の中を伝わる音の速さ(音速C )は、物質ごとに定まっている。音速が分かれば、図7で示すように音を発した(音源)時点からきず(反射源)での反射波を受信するまでの時間を計測すれば、きずの位置を求めることができる。


図7 きずの位置の求め方

(2)波長λ、音速Cおよび周波数fの関係
 音の反射は、音響インピーダンスの差の他に反射源の大きさと波長λが関係する。音の反射は、λ/10より大きな反射源で生じ、大きさの推定はλ/2以上が必要となる[5]。なるべく小さいきずの検出が要求される探傷では、波長λを短くする。波長λは物質の音速Cを周波数fで除した値(λ=C/f )で表される。金属材料では、1~10MHz程度の超音波を用いる。
(3)音の拡がり
 音は拡がりながら伝搬する。音の拡がりが広いことを"指向性が鈍い"といい、狭いことを"指向性が鋭い"という。人の声のような低い周波数では、指向性が鈍く、四方八方に拡がる。高い周波数の超音波では指向性が鋭く、伝わる範囲は限られる。したがって、超音波では、きずの位置を精度よく知ることができる。
(4)音の損失および減衰
 物質中を音が伝搬する過程で、損失および減衰という現象が生じる。具体的には、図8で示すように①探傷面での伝達損失、②超音波の拡がりによる拡散損失、③結晶粒界での散乱減衰、④裏面での反射損失が生じる。UTを適切に行うためには、特に①と③の性質を理解する必要がある。①の伝達損失は、表面(探傷面)の粗さ、凹凸、曲率および付着物の影響を受け、周波数が高いほど大きくなる。また、試験体の結晶粒の大きさ(結晶粒径)が大きいほど、周波数が高いほど③の散乱減衰が大きくなる。

図8 音の損失および減衰

(5)超音波の利用と注意
 上記(2)、(3)で述べたように、小さいきずの検出およびきずの位置を精度良く特定するために超音波を利用する。一方で(4)で述べた探傷面での伝達損失、結晶粒径を考慮して、適切な周波数を定める必要がある。

4.3 UTの基本
4.3.1超音波探傷装置
 超音波探傷装置は、図9で示すように①超音波探傷器、②探触子、③両者をつなぐ探触子ケーブルで構成される。超音波探傷器の送信部からパルス電圧を探触子に印加すると超音波が発生し、接触媒質を介して試験体の中を伝搬する。伝搬した超音波は、きずとの境界面で反射して戻ってきたものを探触子で受信する。この受信波をエコーという。エコーは、探触子で電圧に変換されて、超音波探傷器の受信部を経て探傷図形として表示される。表示器の縦軸はエコー高さ(受信波の振幅)を表し、横軸はビーム路程(きずまでの超音波の伝搬距離)を表す。

図9 超音波探傷装置

4.3.2探傷の種類
 超音波探傷試験は、垂直探傷法と斜角探傷法に分けられる。
(1)垂直探傷法
 垂直探傷法を図10(a)に示す。探傷面に対して垂直方向に伝搬した超音波は、きず部および試験体の裏面で反射して探触子側に戻り、探傷図形として表示される。探傷図形の横軸(ビーム路程W )は探傷面からきずまでの深さと試験体の厚さを表す。この方法は、表面と水平(超音波の伝搬方向に垂直)方向に面積を持つ層状のきずの検出に適している。
(2)斜角探傷法
 斜角探傷法を図10(b)に示す。この方法は、探傷面に対して斜め方向に超音波を伝搬させる方法で、開先面の融合不良、表面開口亀裂などの検出に適している。斜め方向の角度θを屈折角といい、θは試験体の形状、予想するきずの方向(傾き)に応じて選定する。きずの位置(Yとd )は、屈折角θとビーム路程WFの2つのデータで求めることができる。

 
 
 
 
 

(a)垂直探傷法             (b)斜角探傷法
図10 超音波探傷試験方法

4.4 特徴
 UTの特徴を表8に示す。UTは、供用中に生じる亀裂(疲労亀裂、応力腐食割れ)の検出に優れ、亀裂の高さ(試験体の厚さ方向の寸法)を精度良く測ることができる。一方、ブローホールなどの体積きずの検出および検出したきずの種類の判別性について、一般にRTと比べて劣る。また、結晶粒径の大きい試験体への適用は難しくなる。
 
表8 UTの特徴
項目 内容 特徴 長所 (1) 試験体内部のきずを検出できる。
(2) きずの位置(深さ方向の位置を含む)が求まる。
(3) RTと比べて一般に面状きず(特に表面亀裂)の検出に適する。
(4) きず高さ(試験体の厚さ方向のきず寸法)を測ることができる。
(5) 人体に無害である。 短所 (1) RTと比べてブローホールなどの体積きずの検出性が劣る。
(2) RTと比べてきずの種類の判別性が劣る。
(3) 超音波の進行方向に対して傾いたきずの検出性は低下する。
(4) 結晶粒子の粗い試験体への適用は難しい。
4.5適用
 原子力発電設備におけるUTの適用例を表9に示す。UTは、亀裂の検出と亀裂高さ(深さ)寸法の測定を目的とする定期検査(供用期間中検査)で重用されている。一方、溶接検査では、RTが困難な継手などへの適用に限られている。


 

表9 原子力設備におけるUTの適用例
製造検査 材料検査(1) クラス1機器に使用する材料
①板、②棒・ボルト材、③管、④鋳造品、⑤鍛造品 溶接検査(2) 原則、RTのため、適用されない 構造上RTが困難な継手、耐圧代替試験、特認された継手に限定
例)格納容器(電気配線貫通部、底部ライナー)
  開放機器(貯槽など)との取り合い部 定期検査 供用期間中検査(ISI:In Service Inspection)(3)
①クラス1機器、②クラス2機器、③炉内構造物 不具合調査、類似箇所点検、減肉調査など 適用規格 (1) 発電用原子力設備規格 設計・建設規格(JSME S NC1)
(2) 発電用原子力設備規格 溶接規格(JSME S NB1)
(3) 発電用原子力設備規格 維持規格(JSME S NA1)
試験方法はJEAC 4207「軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査における超音波探傷試験規程」に基づく。
4.6 探傷手順
 原子力発電設備の供用期間中検査(ISI)への適用を例にしたUT手順を以下に示す。
4.6.1全体フロー
 UTは、図11で示すように①準備、②探傷および記録採取③解析・評価の順に行う。

図11 UTの流れ

4.6.2準備
(1)試験体の確認および手順書の作成
 UTに先立って、最初に試験体の仕様を確認する。主な確認項目として、①材質、②形状・寸法、③溶接構造(開先形状など)があげられる。その後、試験体に適した探傷手順書を作成する。この中では、①適用範囲、②適用規格、③試験技術者の資格、④使用機材、⑤超音波探傷装置の調整手順、⑥探傷および記録採取手順、⑦解析・評価手順などを記載する。
(2)使用機材の選定および準備
 探傷手順書に従って、表10に示す機材を選定・準備する。

表10 UTに必要な機材
使用機材 用途 要求内容、選定項目他 超音波探傷器
(パルス反射式) 探触子への電圧の印加、
受信波の増幅、表示 使用探触子の性能発揮 増幅直線性・時間軸直線性:規定の範囲内※1 探触子
(1)垂直探触子
(2)斜角探触子 超音波の送受信 試験体に応じた①周波数(周波数帯域)、②振動様式(縦波、横波他)、③振動子(圧電材料、振動子の数、寸法)、④屈折角、④ビーム形状(非集束、集束)の決定 探触子ケーブル
(高周波ケーブル) 超音波探傷器と
探触子の接続 ①減衰が少ない
②外来ノイズの影響を受けない 標準試験片
(1)STB-N1(垂直限定)
(2)STB-A1
(3)STB-A3 ①測定範囲の調整
②斜角探触子の性能測定
(入射点、STB屈折角) 試験体の音速がSTBと異なる場合
測定範囲、探傷屈折角を音速比によって補正、換算する 対比試験片
(RB) 基準感度の調整と
距離振幅補正曲線の作成 仕様(①~④):規定の範囲内※1
①材質:試験体と同等の材料(減衰、音速が同等)
②形状(外径)・寸法(厚さ):試験体と同等
③表面状態(粗さ):試験体と同等
④校正用反射体:横穴、溝、他 接触媒質
(1)グリセリン
(2)油
(3)水など液体 超音波を試験体へ効率良く伝達させる ①超音波の伝達効率が高い
②人体、試験体に対して無害※2
③入手し易い
④後処理が容易 注記 ※1:JEAC 4207「軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査における超音波探傷試験規程」による
※2:例として、標準試験片STBでのマシン油、オーステナイト系ステンレス鋼における低ハロゲン・低イオウ性の接触媒質の適用があげられる。
4.6.3探傷および記録
(1)超音波探傷装置の調整
 超音波探傷装置の調整について斜角探傷法を例にして解説する。
a.探触子の性能測定および測定範囲の調整
 探触子の性能(入射点、STB屈折角)測定および測定範囲の調整は、図12の手順で行う。入射点は、標準試験片STB-A1のR100のエコー高さが最大となる位置で探触子を保持して測定する。そのままの状態でR100の1回目のエコーと2回目のエコーのビーム路程値が100mm、200mmとなるように超音波探傷器の音速とパルス位置の調整機能で調整し、探傷に必要な測定範囲を設定する。STB屈折角はφ50mmアクリルのエコー高さが最大となる位置で探触子を保持して測定する。なお、試験体の音速がSTB-A1と異なる場合(オーステナイト系ステンレス鋼など)、STBとの音速比によって測定範囲の補正、屈折角の換算(探傷屈折角の算出)を行う。


 

図12 探触子の性能測定および測定範囲の調整

b.基準感度の調整および距離振幅補正曲線の作成
 4.2(4)で述べたように、超音波は試験体の中を伝搬する過程で拡散損失と散乱減衰が生じる。このため、同一の形状・寸法のきずでも伝搬距離によって受信するエコー高さは異なる。きずまでの距離によるエコー高さの変化を補正する距離振幅補正曲線(DAC曲線:Distance Amplitude Correction Curve)を作成する。作成は、表10で示すように超音波特性、形状・寸法、表面状態などが試験体と同等の対比試験片を用意して行う。図13にJEAC 4207[6]に従った厚さ25mm以下における作成例を示す。


図13 基準感度の調整および距離振幅補正曲線の作成(厚さ25mm以下の例)

(2)試験体の識別
 UTで検出した反射源について、試験体上での位置の特定、以前および将来のUT記録との照合を容易にするため、試験体上に必要な座標(基準点または基準線)を表示する。

(3)探傷
 記録すべきエコーを漏れなく記録採取するために、表11で示すように探触子を走査して探傷を行う。


 
 
表11 探触子の走査
項目 内容 走査範囲 検査範囲全体に超音波を伝搬させる。 走査方向 溶接線に対して直角2方向、平行2方向から超音波を伝搬させる。 走査間隔 使用する振動子幅寸法の50%以上が重なるように細かく走査する。 走査速度 150mm/s以下の速度で走査する。 走査方法 ①ジグザグ走査を基本とし、必要に応じて首振り走査を行う。
②指示長さは左右走査で測定する。この際、前後走査を伴うが、首振り走査は行わない。 探傷感度 原則、基準感度の2倍(+6dB)以上で探傷する。 その他 探触子と試験体表面(探傷面)の間を接触媒質で満たし、音響結合を確実に行う。
(4)記録
 記録すべきエコーを検出した場合は、①最大エコー高さ、②最大エコー高さを検出した探触子位置(試験体に設けた座標に基づく)、③ビーム路程、④指示長さ(記録レベルを超える範囲)を測定して記録する。

4.6.4解析・評価
(1)反射源の位置の解析
 UTではきずの他に形状、金属組織に起因するエコーなど様々なエコーを検出する。これらの反射源を正しく分類するために、反射源の位置を解析する。図14のように試験体の製作図(溶接部の開先形状図など)を使用し、採取したデータを重ね合わせる。位置の解析の際は、必要に応じて基準点または基準線にずれが生じていないか確認する。


図14 反射源の位置の解析(配管溶接部の例)

(2)反射源の種類の解析
 反射源の位置の解析結果に基づき、反射源の種類の解析を行う。図15に配管溶接部で検出される反射源の種類の例を示す。


図15 反射源の種類の解析(配管溶接部の例)

(3)評価
 反射源の位置および種類の解析に基づき評価を行うが、この他に、過去の記録(供用前検査記録、以前のISI記録)と比較して、供用中に発生または進展した可能性の有無を確認することが大切である。また、疑いのあるエコーについては追加試験、他の非破壊試験の併用などによって総合的に評価する。

4.7適用上の注意
 他の非破壊試験と同様に"欠陥を見落とす"および"健全なものを不合格とする(誤検出)"ことがないようにしなければならない。UTでは、記録レベル(検出レベル)の設定および反射源の種類の分類の妥当性が要点となる。保全技術者は、探傷記録の確認と探傷プロセスの確認を通じて妥当性を確認しなければならない。以下に要点を示す。
(1)超音波探傷装置の調整
 信頼性の高いUTを行う上で、超音波探傷装置の調整の正しさが大きく影響する。一つは基準感度の調整と距離振幅補正曲線、もう一つは使用する斜角探触子の性能(入射点、探傷屈折角)と測定範囲の調整(音速、パルス位置の調整)である。保全技術者は、超音波探傷装置の調整記録が許容範囲内で再現することを立会い形式で確認する。
(2)探傷データの確認
 探傷記録の中から幾つかのデータを抜き取り、立会い形式で再現性を確認する。
(3)反射源の種類の確認
 探傷記録上で分類した反射源の種類の判断根拠について、試験評価員に説明を求めて妥当性を判断する。

4.8 UTの動向
 3章で解説したRTは、きずの種別、分類および判定を客観的に行うことができる。これに対して、従来のUTは、探傷図形(電気信号)を基にして判断するため、試験技術者の主観が入り易い。客観性の向上と判定を確実に行うために、画像化技術を利用したTOFD(Time of Flight Diffraction)法およびフェーズドアレイ(Phased Array)技術が適用されている。原子力発電設備のISIで適用するJEAC 4207[6]でも、2004年度に亀裂高さ(深さ)測定の手法として両技術とも取り入れられた。その後、フェーズドアレイ技術は2008年度、2016年度の改訂で、きずの検出へと適用範囲が拡がっている。TOFD法もフェライト系の溶接部のきず検出に有効性が認められているため、ISIでの適用範囲の拡大を期待する。

5.体積試験方法の比較
 3章および4章で述べたRTとUTの特徴についてまとめたものを表12に示す。試験対象、試験目的などと各手法の特徴を照らし合せて、効果的な非破壊試験を選択することが大切である。


 

表 12 体積試験方法(RT、UT)の比較
試験方法 RT UT 金属材料への適用 ◎ 〇※1 きずの
検出性 形状 体積きず※2
(空洞、塊状) ◎ 〇 面状きず※3 〇(照射方向に奥行きを持つ)
△(照射方向に傾きのあるもの) ◎(超音波ビームに垂直な面を持つ)
〇(超音波ビームに対して傾きを持つ) きずの
情報 種類の判別 ◎ 〇※4 寸法 高さ(深さ) △※5 ◎※6 長さ ◎(体積きず)
〇(面状きず) 〇 位置(深さ) △ ◎ 注記 ※1 結晶粒子の粗い材料、音響異方性を持つ材料を除き良好(◎)。
※2 一般にRTはUTと比べて優れる。
※3 一般にUTはRTと比べて優れる。
※4 位置の解析又は多方向からの探傷によって推定する。(一般にRTと比べて劣る)
※5 照射方向を変える、濃度差で推定する方法が考えられるが実務上は困難。
※6 端部エコー法など伝搬時間の差を利用した方法で精度よく測定できる。  ◎:良好、○:可能、△:困難、×:不可能

6.まとめ及び次回の予定
 今回、放射線透過試験(RT)と超音波探傷試験(UT)の体積試験方法についてその概要と適用上の注意事項などを解説した。次回(シリーズ最終回)は、検査時期(製造、維持)に応じた非破壊試験の適用、信頼性の高い非破壊試験に必要な事項、考慮すべき事項などの解説を予定する。

参考文献
[1] 日本産業規格 JIS Z 2300:2009「非破壊試験用語」
[2] 日本機械学会規格 JSME S NB1:2012「発電用原子力設備規格 溶接規格」
[3] 国際標準化機構ISO 17636-2:2013「Non-destructive testing of weld-Radiographic testing-part2:   X-and gamma-ray techniques with digital detectors」
[4] 「非破壊検査技術シリーズ」超音波探傷試験Ⅱ 2019,日本非破壊検査協会,p10(2019)
[5] 「非破壊検査技術シリーズ」超音波探傷試験Ⅱ 2019,日本非破壊検査協会,p5(2019)
[6] 日本電気協会電気技術規程 JEAC 4207「軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査にお   ける超音波探傷試験規程」

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