NDT 技術のやさしい解説 (保全技術者向け) - 4 回目(最終回)-

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カテゴリ: 解説記事

NDT技術のやさしい解説 (保全技術者向け)-4回目(最終回)-
一般財団法人 発電設備技術検査協会
牧原 善次 Zenji MAKIHARA
1.はじめに
これまで 3回にわたり設備保全で適用する非破壊試験

(NDT)について解説した。最後の 4回目は、原子力発電設備を例にした製造検査と定期検査への NDTの適用、信頼性の高い NDTの実行に必要な事柄などを解説する。なお、今回の解説は、非破壊試験( NDT)と非破壊検査
(NDI)を総称して NDTと表現する。
2.NDTの選択
シリーズ 2回目と 3回目で解説した内容を金属材料に対する NDTの選択(基本)の形で整理したものを表 1に示す。これに設備の重要度、構造、環境(アクセス性など)あるいは効率(試験時間)などを加えて、実際に適用する NDTを決定する。
表1 金属材料に対する NDTの選択(基本)


図1 原子力発電設備への NDTの適用時期と規格

3.適用時期に応じた NDT
3.1
NDTの適用時期

NDTの適用時期と規格を図 1に示す。この図で示すように検査は、製作段階(材料と溶接)と維持の段階(日々と定期)に分けられる。製作段階の検査は製造メーカ(素材メーカ、プラントメーカ)が製品品質を保証するために行う。設備完成後は試運転を経て商業運転を開始し、その後は保全技術者が日々の点検と定期検査により設備を維持していく。なお、原子炉損傷をもたらす恐れのある設備は供用期間中検査(ISI:In Service Inspection)の対象となるため、予め運転開始前に ISIと比較するための初期データ(健全なデータ)を採取する。これを供用前検査(PSI:Pre Service Inspection)という。NDTは、主に日本機械学会の発電用原子力設備規格を適用し、材料検査は設計・建設規格、溶接検査は溶接規格、定期検査は維持規格を適用する。

3.2
製作時に適用する NDT

3.2.1
目的


製作時の検査は、発注者(電気事業者)と交わした製品品質を保証するために受注者(素材メーカ、プラントメーカ)が行う。NDTも品質保証の一環として適用する。
3.2.2 材料検査(1)対象きず
材料きずの種類は、材料の製作方法によって異なる。したがって、予想されるきずを把握して検出に適した NDTを選択しなければならない。材料の製作方法と予想される主なきずを表 2に示す。
(2)適用する NDT
材料検査として行う NDTは、日本機械学会の発電用原子力設備規格 JSME S NC1「設計・建設規格」に従う。具体的には表 3で示すように、クラス 1機器(原子力冷
表2 材料の製作方法と予想される主なきず表4 主な溶接きず


表3 材料に適用する NDT(設計・建設規格解説表 GTN-1000-1抜粋)
表5 溶接検査に適用する NDT

却材圧力バウンダリを構成する最重要設備)、クラス 2機器(工学的安全施設の直接系、原子炉緊急停止系に属する機器)に使用する材料(板、鋳造、鍛造など)に対して、表6 破壊の種類形状、寸法、予想されるきずの検出に適した NDTが決められている。なお、クラス MC、クラス 3などの機器に対しては規格上での NDTの要求はない。規格要求のない材料への NDTの要否、 NDTの選択などは受渡当事者間で協議し、発注者が決定する。
3.2.3 溶接検査


(1)対象きず
主な溶接きずを表 4に示す。このうち、割れ、溶込み不良、融合不良は、使用中に破壊を引き起こす恐れがあるため、これらのきずを NDTで検出した場合は、一切許容されない。

(2)適用する NDT
溶接検査として行う NDTは、日本機械学会の発電用原子力設備規格 JSME S NB1「溶接規格」に従って行う。クラス 1機器(容器、管)およびクラス 2機器(容器、管)で要求される NDTの例を表 5に示す。クラス 1機器の溶接継手は最重要設備のため、体積検査( RT)と表面検査(MT、PT)の双方を課す。クラス 2機器は体積検査(RT)を適用する。 RTは透過写真上できずを観察できるため、客観性に富み、きずの種類を素早く確実に判定できる利点がある。これらにより溶接検査で最も確実な NDTとして知られている。このことは国内外を問わず同じである。また、表面検査では、開口きずに限定される PTに比べて表面直下まで試験できる MTが優先される。

3.3 定期検査(供用期間中検査)における NDT(1)目的
表 6で示すような破壊が運転中に起きないように設備を維持する。破壊は日々の点検、定期検査などによって防止する。具体的には商業運転開始後の時間の経過に伴う劣化の兆候を NDTで把握して、その結果に応じた処置により健全性維持と運用効率の確保を両立させる。

(2)対象きず
商業運転開始後の供用期間中に発生、進展が予想される主なきずを表 7に示す。熱および振動による疲労亀裂、

表7 供用期間中に予想される主なきず

オーステナイト系ステンレス鋼溶接部、ニッケル基合金溶接部での応力腐食割れ、配管の減肉などは実際に報告されており、いずれも表面(又は裏面)に発生した開口きずである。
(3)適用する NDT
原子力発電設備は、原子炉設備(本体、補機)、タービ

ン設備(本体、補機)などによって構成され、それぞれ
日々の点検、定期検査を通じて維持する。ここでは、定
期検査時に設備の構造健全性を確認する ISIについて解
説する。 ISIは、日本機械学会の発電用原子力設備規格
JSME S NA1「維持規格」に従う。表 8は、維持規格で規
定する ISIの適用範囲および NDTを示す。 ISIは、クラ
ス 1、2、3、MC機器を対象に行う検査で、機器の重要
度によって NDTと漏えい試験のいずれか又は両方を行
う。重要度の高いクラス 1機器、クラス 2機器では表面
亀裂の検出に適した UT、PTを主として適用する。
次に実際の NDTについて図 2で解説する。維持規格

で体積検査を要求する機器(蒸気発生器伝熱管の ETを
除く)は UT、表面検査を要求する機器は PTを適用する。
NDT技術者が接近できない炉内構造物などでは、例え
ば、少なくとも 25 μ mの細い線を確認することができ
る条件の遠隔目視試験( MVT-1)、遠隔目視試験が適用
できない場合は、代替法として遠隔操作による ET、UT
を適用する。さらに原子炉圧力容器、配管類への UTの
適用は、採取データの保存、再現性、 NDT技術者の被
表8 設備(機器)に応じた検査の要求および適用 NDT

図2 ISIにおける NDTの適用

ばく低減を目的に遠隔自動化が定着している。 UTは日本電気協会の電気技術規程 JEAC 4207「軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査における超音波探傷試験規程」、蒸気発生器伝熱管の ETは電気技術指針 JEAG 4208「蒸気発生器伝熱管渦流探傷試験指針」、炉内構造物の ETは電気技術指針 JEAG 4217「原子力発電所用機
器における渦電流探傷試験指針」に従って行う。
4.信頼性の高い NDTの実行
4.1 NDTの信頼性

(1)設備保全で求められる NDT
設備保全は"安全性、社会性および経営的視点の三つ
を考慮した活動"であることをシリーズ 1回目で述べた。
当然、NDTも同じ視点での実行が求められる。すなわち、
三つの視点を考慮した実行を信頼性の高い NDTという。
a.安全性、社会性の視点
NDTの実行で優先されるのは、"許容できないきず(欠
陥)"を確実に検出することである。仮に亀裂を見落とす
と安全性に重大な影響を及ぼす。したがって、"許容で
きないきず(欠陥)"の見逃しは避けなければならない。
b.経営的視点
安全性、社会性の考慮はもちろんであるが、一方で経
済性も考慮もしなければならない。具体的には、設備が
健全(欠陥なし)であるにもかかわらず、健全性を損ねる
状態(欠陥あり)と判断するような誤った判断(誤検出)を
避けることである。仮に定期検査時に誤検出を招いた場
合、長期にわたる設備の運転停止、不必要な補修・取替

えなどで大きな経済損失をもたらす。(2)影響因子
理想の NDTと実際の NDTのイメージを図 3に示す。通常は NDTの判定基準が規格類で設けられている。この基準に従って合格/不合格(許容きず/欠陥)の判定を間違いなく行うことが理想の NDTである。しかし、実際の NDTは、判定に迷う曖昧な領域(グレーゾーンという)が存在する。図 3で示すグレーゾーン Aは、許容きず(合格)を欠陥(不合格)と判定するケース、グレーゾーン Bは、欠陥(不合格)を許容きず(合格)と判定するケースを表し、前者は経営的な視点、後者は安全性の視点でどちらのケースも避けなければならない。したがって、グレーゾーンを狭めて理想の NDTに近づける取り組みが必要となる。取り組みには、グレーゾーンの発生要因、すなわち NDTの信頼性に影響する要因を洗い出して、その影響程度を把握しなければならない。溶接部を例にあげ、考えられる主な要因を表 9に示す。このグレーゾーンの発生程度については、 NDTの種類によっても異なる。指示を直接肉眼で確認できる PTおよび MT、撮影した透過写真上で確認できる RTに比べて、指示(電気信号)を解析した後、判定する UTは、グレー

図3 NDTの信頼性(理想の NDTと実際の NDTのイメージ)表9 NDTの信頼性に影響する主な要因(溶接部の例)

ゾーンの幅が広がり易い。
4.2
信頼性の高い NDTの実現

4.2.1
体制構築

信頼性の高い NDTの実現には、保全関係者の NDTへの理解と協力が不可欠である。具体的には、受渡当事者間(発注者と受注者)、受注者側の関係部署間[設計、製造および検査( NDT)関係者]のそれぞれが NDTの必要性を強く認識し、緊密に協力していくことが大切である。

4.2.2
検出目標


NDTは、一般に判定基準に対して小さいきずの検出が求められる。一方で、 NDTで検出する指示には、形状などきず以外のものも含まれる。探傷にあたり、やみくもに小さなきずを検出しようとすると誤った判断に陥る可能性が高まる。したがって、適正な検出目標を定めて NDTを実行することが望ましい。特に 4.1(2)で述べたように UTは他の NDTに比べて誤って判断する恐れがある。原子力発電設備の維持では、製造検査と異なり、亀裂であっても健全性評価を行って継続運転又は補修・取替えの処置を決定する。この際、健全性を損ねる大きさの亀裂に対して十分な検出を持たせなければなら

図4 設備維持における亀裂検出目標

ない。その一方で、亀裂でないものを誤って亀裂と判断することも認められない。図 4を例にして解説する。本図は、横軸を設備の運転時間、縦軸を亀裂の大きさとし、亀裂の発生から進展していく様子をイメージしたものである。ここで、 NDTの信頼性の観点で、検出目標は解析評価(健全性評価)で合格になる大きさの範囲内で、かつ、解析で不合格となる亀裂に対して、十分な検出性を持つように設定することがよい。目標値の決定は、設計側の要求値(解析で許容できる値)と検査側( NDT側)の実力値(安定して検出できる値)の双方を検討して決定することが望ましい。このとき、仮に設計側要求値≧検査側実力値であれば、検査側実力値を保持するように努める。一方、設計側要求値<検査側実力値の場合は、検査側は NDT技術の改善(改良、開発など)に向けて取り組み、その一方で設計側も要求値を緩和できるか否かの詳細検討、安全性に裕度を持たせる構造変更又はきず検出に適した環境作りに取り組むなどの姿勢が必要である。
4.2.3 NDT水準の均一安定化
NDTは、図 3で示した理想を目指す。このためには、表 9の要因を十分考慮して試験体ごとに最も適した探傷条件を確立して実行する。この際、NDTの水準(検査水準)が均一かつ安定していなければならない。均一安定化のためには様々な取り組みが必要である。
(1)手順書の確立
手順書は、規格、仕様書などで記される要求事項を確実に反映しなければならない。その上で、適用範囲(試験体、対象きず)と適用する NDT(手法、技法)を明確にして、目標とするきず検出のための詳細な実行手順、判定基準、残すべき記録の様式などをもれなく文書化する。この際、新しい知見、過去の実績(失敗、ヒヤリハット、成功などの例)などを活用する。また、継続的に手順書を見直して高度化を図る。
(2)NDT機材の選定
試験体、対象きずなどによって検出に適した NDT機材は異なる。このため、対象ごとに NDT機材の仕様を決定し、手順書の中で明らかにしておく。選定は、過去の使用実績、技術的な検証などによる。
(3)NDT技術者の育成
手順書、 NDT機材は、実績の積み上げ、技術の進歩などにより常に高度化していく。一方で、 NDT技術者は世代交代によって技量低下、ベテランとの技量格差が生じる。特に初めて、久しぶりの技術者が従事する場合は、検査水準の低下を招き易い。 NDT技術者は、日本産業規格 JIS Z 2305:2013「非破壊試験-技術者の資格及び認証」に従って認証機関から認証された者であるため、基礎技量は十分備わっている。しかし、それぞれの分野で適用規格、対象物などが異なるため、従事前に必要な技量を習得ための訓練の実施が大切である。訓練については、対象物を模擬した試験体による実習と知識を習得する座学で構成するなどの訓練内容を策定して行う。
(4)原子力業界の取り組み
上記(1)から(3)は、一般にプラントメーカ、検査会

社ごとに取り組んでいる。一方で業界ごとに規格制定機
関を中心にして NDT水準の均一安定化に取り組んでい
る。ここでは、一般社団法人日本電気協会に設置されて
いる原子力委員会構造分科会供用期間中検査検討会( ISI
検討会)を中心とする主な取り組みを紹介する。
a.規格類の改訂
ISI検討会では、国内 ISIの水準の維持、向上を目的

として、常に新しい規格への改訂に取り組んでいる。関
係者が情報交換、共有を通じて国内外の NDT実証事業
の成果、実機プラントの実績(成功例、失敗例など)、最
新の知見、国内外の技術動向、実務者へのヒアリング結
果(体験、要望)を基にして規格の高度化を進めている。
b.NDT水準の維持・向上のしくみ作り
もう一つ、検査結果の保証および NDT水準の説明性

を持たせるためのしくみ作りに取り組んでいる。しくみ
には表 10で示す3つの方式があげられる。 ISI検討会で
は、性能実証(PD)と訓練制度の導入に取り組んでいる。
設備の健全性を評価する上で最も大切な亀裂寸法測定に
関しては、日本非破壊協会規格 NDIS 0603「超音波探傷
試験システムの性能実証における技術者の資格及び認
証」に従った PD認証のしくみを取り入れ、2006年度か
ら運用を開始している。一方で、きず検出に関しては、
全国各地の ISIに従事する NDT技術者の絶対数の確保
表10 検査水準の維持・向上のしくみ表11 きず検出性を考慮した構造(UTの例)

と技量水準の均一安定化を両立させる必要があるため、訓練による育成のしくみを検討している。訓練については、これまでプラントメーカ又は検査会社が個別に行っていたが、訓練の実行効果に透明性を持たせるために訓練機関と訓練内容に関する指針の策定を進め、業界全体の NDT水準の底上げと安定化を目指している。
4.2.4 環境整備
NDTの信頼性への影響は、知識、経験、力量(探傷テクニック)など NDT技術者の技量の他に身体的および心理的負担も加わる。この負担を軽減することも必要である。特に原子力発電設備のような放射線管理区域内では、1日あたりの従事時間(10時間以内)と被ばく線量(計画線量)という特殊な制限下で、決められた工程を守り、被ばく低減に努めながら信頼性の高い NDTを実現するという使命が与えられている。このような環境で迅速な NDTの実行と信頼性を両立するためには、 NDT側の取り組みだけでは実現しない。保全関係者全員が一体となって取り組んでいく必要がある。ここでは、環境整備に必要な主な取り組み(既に取り組んできたものも含む)を示す。

(1)NDT物量の低減
溶接検査を例にすると規格で要求する溶接継手数、受渡当事者間で交した自主検査対象の継手数を合わせると NDT対象の継手数は膨大なものとなる。この継手を減らすことは、設備の信頼性の向上と限られた工程内での遂行が課せられる NDT技術者の負担の軽減につながる。これまでも配管をエルボから曲げ管へ変更したり、管台又はT型継手から一体型大型鍛造品へ構造変更して物量を減らしてきた。また、原子炉圧力容器胴体の溶接継手も製作方法の改良で減らしている。このような取り組みは、ISIを円滑に遂行する上で大きな効果があり、今後も継続することが望まれる。

(2)きずの検出性を考慮した構造設計
製作段階で対象きずを検出し易い構造とする。例えば、溶接部への PT、MTでは、表面(粗さ、凹凸)の仕

上げについて製作図上で指定している。 RTにおいても
表面(凹凸)仕上げ、余盛高さの制限などを製作図上で指定している。検出性への影響要因が多い UTは、ISIへの適用を考慮して製作段階から表 11のような構造設計を行っている。原子力発電設備の建設、運転が途絶えている現状で、これまで取り組んできた実績を忘れることなく、次の設計技術者、保全技術者へ伝承することが望まれる。

(3)接近性(アクセス性)、検査姿勢の確保
NDTの多くは、 NDT技術者が試験体に接近して実施する。製造時の溶接検査では、溶接姿勢を確保するようにスペースの確保、足場の設置など行われているため、その後に行う NDTも接近性と検査姿勢を確保し易い。一方、 ISIでは設備が据付けられた状態で行う。設備の多くは保全技術者が走行する際の安全の確保、弁などの常用機器の操作性を考慮して床側、壁側などに配置されている。また、架台などの干渉物によって、 ISIでは試験体への接近性(アクセス性)が十分確保できないことがある。さらに NDTを実行するための姿勢に無理が生じ、疲れによる負担の増加と精度のよいデータの採取が難しくなる。検査姿勢に無理が生じるようなケースでの NDTの信頼性確保は、 NDT技術者の訓練などだけで解消はできない。むしろ設備の配置設計など構造変更で解消すべきケースが多々存在する。

(4)検査工程および投入人員の計画
設備の製作、定期検査ともに計画工程と定められた費用の範囲で行われる。 NDTも計画に沿って資格と技量を持つ NDT技術者を適正配置して実行する。特に ISIは定検工程が短く、クリティカル工程が組まれた設備の NDTは後戻りが難しく、失敗は許されないという心理的負担が大きい。また、放射線下という特殊環境の中で 1日当たりの従事時間、被ばく線量などを考慮して綿密に計画しないと NDTの信頼性を低下させる。ちなみに定期検査では、日々の TBM(ツールボックスミーティング)、RKY(リスク危険予知)、作業現場への往復(入退域)、NDT結果の解析、整理、記録作成、その他会議の業務が目白押しのため、実際の探傷業務に係る時間が少ないことも計画時に考慮しなければならない。近年は、ISI責任者の事務的管理業務が増えて作業現場に目が届き難いという傾向が増している。現場に目が届かないと信頼性に影響するので、マネージメントとしての責任者と技術評価者を分けるなど役割分担により信頼性の低下を招かないように努めなければならない。

4.2.5 NDT実行にあたっての心得(1)法令遵守
NDT結果は、設備の健全性に直接影響する。したがって、NDTに関わる個人、組織共に高いモラルが求められ、虚偽報告は絶対に許されない。
(2)基本操作の徹底
NDTは、確立した手順書に従って忠実に実行する。手順を無視した行為、手順の省略行為などは絶対許されない。手順通りに実行できない状況が生じた場合、その旨を報告して、定められた手続きで変更申請を行い、承認を受ける。常に報告・連絡・相談に心がける。
(3)規格類の取り扱い
ほとんどの場合、 NDTは規格に従う。したがって、規格を熟知して要求事項を満足するように実行しなければならない。多くの規格は民間で整備され、最新の技術、知見を迅速かつ柔軟に取り入るなどの理由で頻繁に改訂される。したがって、常に新しいものについて改訂背景を含め、理解するように心がける。また、規格は最小限の要求事項である。規格を満足さえすればよいと考えてはいけない。例えば、設備によっては規格の要求よりも高い品質を維持したほうがよいこともある。特に従来に比べてランクを下げた判定、これまで行ってきた NDTを省略するなどは、安易に行ってはいけない。規格の要求より高い品質が必要か否かは、設備の重要性など受渡当事者間で協議、決定する。また、規格類は技術的根拠に基づいている。その背景を理解して取り扱うことが望まれる。
4.3 今後の NDT(1)新しい技術の導入
NDTの課題は、今も昔も同じで NDT技術者への依存度の軽減(客観性と再現性の向上)、効率向上(迅速化)があげられる。 UT、ETの指示は電気信号のため、デジタル化技術が目覚ましく進歩した今は、自動化、画像化が進み課題の解消が進んでいる。フェーズドアレイ技術、 TOFD法による UT、マルチアレイプローブ又はインテリジェント ETの実用化などがよい例である。これらの普及は実機で必要に迫られたことも背景にある。一方で、差し迫った課題がない限り、国内は新技術に百点を求めたり、従来に比べて飛躍的に小さなきずの検出を求めたりする傾向がある。海外での規格化、実績などがないと認められないのが実態である。百点を求めるのではなく、長所が生かせるのであれば、適用範囲を絞り、技術を育てることも必要である。例えば、ガイド波による減肉の確認、日本産業規格 [1]として規格されたデジタル RTの溶接部への適用などがあげられる。また、今後は NDT技術者の肩代わりとなる人工知能( AI)の研究調査が進むものと期待する。
(2)知見の拡充とデータベース化
NDTは相手を知ることから始まる。相手とは試験体

ときずであり、その正体を知ることである。このために
は過去の失敗、ヒヤリハット、成功事例の知見の蓄積が
必要で、それを分析、データベース化して NDT手順に
反映する。また、これらを関係者で情報共有し、 NDT
技術者育成のための教材として生かしていくことが望ま
しい。 BWRプラントでの SCCの知見拡充とデータベー
ス化が良い先行事例 [2]であり、この知見は、一般財団
法人電力中央研究所が管理している。
一方、知見が不足しているものもある。図 4で検出目

標の設定の考え方を解説した。この設定にあたっては、
きずの検出確率(POD:Probability of Detection)が必要と
なる。配管の亀裂については国内実証事業 [3]、実機プ
ラントで得た多くのデータを活用して決定できるが、原
子炉圧力容器についてはデータが不足している。原子力
発電設備の心臓部に相当する機器のため、この部位での
確かな PODが望まれる。
(3)効率的 NDT
目的と対象を明確にして、これに見合った NDTに集中し、非効率的な NDTを省略するということがコストバランスと従事する NDT技術者の負担軽減の面で大切である。例えば、表面開口きずを対象とする場合で試験技術者が直接接近できるのであれば、迅速に行えて、かつ確実な結果を得る PTを優先することが NDTの基本である。例えば、このケースで UTを適用しても非効率的である。非効率的なケースが ISIでも起きる。 ISIには標準検査と個別検査の 2種類がある。医療に置き換えれば健診と検診である。標準検査は人間ドッグのような健診、個別検査は特定の病気に絞った検診に相当する。したがって、医療と同様に標準検査と個別検査に応じた NDTの選択、手順書によって効率良く、高い成果を得るように柔軟に対応することが望まれる。過去の BWRプラントの緊急点検では、配管裏面の応力腐食割れという個別検査(検診)に相当する明確な目的があった。しかし、当時の NDTでは、標準検査(健診)に相当する目的の検出に適さない手順も加えられた。明確な目的があり、かつ緊急性を要する場面で、高線量下という特殊環境で膨大な溶接継手数に対して健診に相当する検査を求められた NDT技術者への心的、身体的な負担は非常に大きかった。今後、同様の場面に遭遇した場合は、目的を明確にして、最適な NDTの選択と手順に絞って効率の良い NDTの実行を目指すことが肝要である。柔軟な対応が NDT信頼性の向上に大きくつながる。
5.最後に
4回にわたって設備保全に関わる技術者に向けて構造
健全性維持に貢献する NDT技術を解説した。最後に以

下を述べて終わりとする。(1) NDTには幾つかの手法があり、さらに幾通りもの技法がある。これらの手法、技法は万能なものではなく、長所もあれば、短所もある。検査対象と目的に応じて、うまく使い分けることが大切である。
(2)信頼性の高い
NDTの実行が、設備の健全性評価の信頼性に直結する。信頼性の高い NDTの実現は、保全に関わるすべての関係者の理解と協力によって実現する。

(3)設
備が健全に稼働し続けると、時として NDTの重要性を忘れる。 NDTの重要性を忘れたときに重大な事故を起こす可能性ある。 NDTの重要性を忘れる兆候は、コスト圧縮が取り沙汰されるときに起きやすく、外注先への NDT依存度の高まり、 NDTの省略、工程の短縮化などの形で現れる。かつて BWRプラント対する NDT(UT)において、技術水準が海外に比べて見劣りすると報道されたことがある。元々は日本の技術であったものが海外で育ち


[4]、国内で育てなかったことが要因であった。これを契機に NDTの重要性が深く認識され、関係者一体で技術水準の向上に取り組み、海外と比べて遜色ない水準に復活した。今は、さらに技術向上のための取り組みを ISI検討会など関係者が進めている。この活動の継続がとても大切であり、これから設備保全に関わる技術者においても NDTの重要性を深く理解し、安易に NDTを省略することだけは避けていただきたい。
参考文献
[1] 日本産業規格 JIS Z 3110:2017「溶接継手の放射線透過試験方法-デジタル検出器によるX線γ線撮影技術」
[2] 清水敬輔、設楽親、小林輝男他,"技術論文原子炉再循環系配管への超音波探傷試験実施・評価に関するノウハウ",保全学, Vol.8 No.4(2020),日本保全学会
[3] 平成 16年度原子力発電施設検査技術実証事業に関する事業報告書(超音波探傷試験における欠陥  検出性およびサイジング精度の確認に関するもの)[総括版 1/2],(独)原子力安全基盤機構,2005

[4] 古川 敬,"超音波 NDTアーカイブ:未来に繋がる先達の教え 端部エコー法",非破壊検査第 69巻 2号(2020),日本非破壊検査協会

(2020年 5月 14日)
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著者:牧原 善次所属:(一財)発電設備技術検査協会専門分野:非破壊検査技術

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