易しい破損解析講座破面から読み解く破壊の原因その3-破損の様相は重要な手掛かり-

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解説記事「易しい破損解析講座破面から読み解く破壊の原因その3-破損の様相は重要な手掛かり-」
易しい破損解析講座破面から読み解く破壊の原因その3 -破損の様相は重要な手掛かり-
3.1 破面、破損状態観察の重要性
一般に破損破壊の原因調査、破損解析では化学分析や顕微鏡組織の観察、 SEMによる破面の詳細観察など、微視的な調査の重要性が強調されます。しかしこの解説では、そのような微視的で詳細な調査の前に、目視による巨視的な破面の観察および破損部近傍の変形状態などの観察が必要、重要であることを述べてきました。またこの段階で破壊原因の殆どが推論できることを幾つかの事例を上げて示しました。 SEMによる破面観察等の詳細調査はこの推論の確認、裏付けのためと位置付けています。全体の破損経過を考えずに詳細調査をするとかえって原因が判らなくなる場合さえあるのです。今回その 3ではさらに、破損品全体の破壊の様相が原因究明の重要な手掛かりになること、特に複数の部材が破損に関わっている場合、そのいずれがまず破損破壊したのかの推論判断(第一破損の推定)が重要であることを、いくつかの事例で紹介します。

3.2トレーラートラックラジアスロッドの破

この事例は材料の異常が疑われた破損事故の例ですが、破面と全体の変形状態から、材料には何ら問題がなく、疑いは濡れ衣であることを証明した例です。
国道を走行中の大型トレーラートラック(積載荷重 20トン)が路外に転落し、事故後の検分で、 2軸からなる後輪軸と車体をつなぐ連結棒(ラジアスロッド、全長約 550mm)の破壊が見つかりました(図 3.1)。このため、ロッドに欠陥あるいは何らかの異常があったために正常な運転ができず、事故を誘起した可能性が疑われました。なお右側のロッドは捩じりを含む明瞭な塑性変形を伴った破壊で、転落時の異常荷重による 2次被害と判断できました。
北海道大学名誉教授


野口 徹 Toru NOGUCHI
調査のため取り外したロッドの全体を図 3.2に示します。長さ調節機能がある両端部は球状黒鉛鋳鉄 FCD400製です。破面は図 3.3のように脆性的特徴を示し、中央上部を起点とし下側に伝播したものです。 FCDの破面として正常で、起点部にもまた伝播部にも欠陥や異常は見られません。破面は錆色ですが、これは事故時の雨で酸化したためで、疲労亀裂など事前に割れが生じていたことを示す色調の変化や段差はありません。

図 3.1 異常な破壊が疑われた左側ロッド      端部の外観(車軸に取りついた状態)


図 3.2 左側ロッド全体の外観(車体から取り外し)


一方、図 3.2 の全体写真には重要な情報があります。それはロッド左側の円形端部が楕円形に変形していることです。ゴム製ブッシュの中心にある軸受けメタルにも明瞭な塑性変形があります。もしロッド右側が欠陥や疲労亀裂などによって異常な低荷重(応力)で破壊したのであれば、左側端部にこのような塑性変形が生ずるはずがありません。すなわち、ロッドの破壊、破断は路外転落時に、車体によって車軸が引きずられたことによって生じたものと考えるべきです。
簡単な計算によれば、ロッドの塑性変形~破壊に必要な荷重は 16 tf ~ 24 tf でした。このような荷重が走行中に生ずることはありません。一方、積載重量 20トンの車体が転落する場合、動的荷重として 20 tf を越える荷重が生ずることは十分に可能です。
確認のために同仕様の新品の実体引張り試験をしたところ、破壊荷重は 23 tf でした。破壊の様相、破面も事故品とほぼ同じでした(図 3.4)。左側端部のブッシュ軸受けメタルがひょうたん型に変形していることが、静的引張りと転落時の衝撃的荷重に対するゴム製ブッシュの変形応答の差として現れています。
裁判所依頼の鑑定でしたので、化学分析および金属組織の観察も行いましたが、強度に影響するような差はありませんでした。もし左側端部の塑性変形を見逃し、金属組織や SEMによる破面観察などの詳細調査から始めたならば、破壊の原因はむしろ判らなくなった可能性があります。

図 3.4 同仕様品の破壊試験後の外観と破面

3.3 送風機羽根の破壊
この事例は、全体を見ずに詳細調査をしたために真の原因が解らなくなった例です。
換気用に設置されていた軸流送風機(羽根外径約 1 m、6枚羽根)が点検中に破壊、飛散しました。羽根はアルミニウム合金鋳造品で、6枚とも破壊し、その他 SUS304製内張り板、モーター取付け台などの構造物も著しく変形、破損しました。送風機は設置後 14年経過していました。
まず当事者によって、破損個所すべてについて SEM観察などの詳細な調査が行われました。その結果、羽根の破面にミクロ引け巣や気泡など多くの鋳造欠陥が見られことから、これが原因であろうと推定されました。また内張り板やモーター台にも疑わしい箇所がありましたが破壊との関係は明らかにできず、筆者に確認調査が依頼されました。
羽根の破壊の様相を図 3.5の概念図に示します。6枚とも明瞭な塑性変形があり、またいずれの破面も延性破壊の様相を呈していました。羽根が欠陥から脆性破壊あるいは疲労破壊するとすれば、回転による応力値が大きい根元付近が起点になるはずです。しかし本件の羽根はむしろ先端部付近の破損破壊が顕著です。これは正常な運転中の応力では説明できません。
さらに調査したところ、送風機の外周および内側の鋼製部分に著しい腐食がありました。特に内部を点検するための点検孔の周辺の腐食が著しく、内張り板を取り付

図 3.5 羽根の破壊の様相(概念図)


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ける軟鋼製の枠および取付け用の鋼製ビスが腐食減耗し
て一部は消失、脱落していました(図 3.6、概念図)。送
風機の設置場所は積雪寒冷地で、付近には融雪剤(主成
分 NaCl )が散布されていました。融雪剤の水溶液が飛
散付着して鋼製枠と内張り板の間で異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)が生じ、長年の繰り返しで腐食減耗
が進んだものと考えられます。回転開始時に脱落した内
張り板が羽根の先端部に噛み込まれ、過大な曲げモーメ
ントで延性破壊したと推論できます。他の構造物の破損
破壊も全て2次被害です。鋳造欠陥は破壊の原因とは全
く関係ありません。

3.4 換気用送風機羽根車の破壊
これは 1枚の全景写真だけから破壊の原因を推論した

例です。
海外の地下公共施設の換気用に用いられていた軸流送

風機のアルミ合金鋳物製の羽根車(直径 1.6m、12枚羽根、
低圧鋳造)が破壊し、40数個の破片に分離、飛散しまし
た(図 3.7 概念図)。羽根車は羽根、ディスク、取付けボ
ルトからなる組立構造で、正回転逆回転の両方向で運転
します。破壊は逆回転を開始した直後に生じました。現
地の調査会社が詳細に調査しましたが、どこが破壊の開
始部であるか特定できませんでした。羽根、ディスクと
もに多くの鋳造欠陥が見られたので、恐らくこれが原因
と考えられるが、破面のどこにも疲労の特徴が観察され
ず、「真の原因は不明」と結論されました。このため著者
に報告書の再検討が依頼されました。
図 3.7は飛散した破片の復元の様相です。羽根は全て

破壊脱落しています。またディスクもリム部の角沿いに
破壊しています。これから次の判断ができます。もし羽
根の破壊が先に生じたのであれば、ディスク部にこのよ
うな破壊が生ずることは考えられません。羽根が全て無
くなったディスクには荷重が作用しようがないからで
す。したがって第一破損はディスクであろうと見当がつ
けられます。しかし破損品は全て詳細調査のために細部
まで切断されて残っておらず、再調査は不可能です。
破壊の全景写真を詳細に観察したところ、リム部が

捩じりによって破断している部分が見つかりました(図
3.8)。これはディスクに、羽根による曲げモーメントが
作用し、リム部が引張り捩じりによって破壊したことを
示唆します。
ディスクの強度計算をチェックしたところ、回転遠心

力によるリム部の最大相当応力が鋳造アルミニウム合金の降伏点の 77%(1 /1.3 )でした。また計算には羽根にかかる空力荷重による曲げモーメントが考慮されていませんでした。図 3.9のような組立型の羽根‐ディスクの構造では、空力による曲げモーメントを無視した応力計算は、正回転の場合は応力が軽減される方向で安全側ですが、逆回転の場合には応力が付加され、危険側になります。これに、2台の送風機の競合によるサージング(現地の調査で可能性が示唆されてる)が加わって、1.3倍の強度余裕を越え、瞬時に脆性破壊したものと推定されます。ディスク角部の Rが小さ過ぎたこと(現地調査で指摘されている)による高い応力集中も脆性的破壊に寄与したと考えられます。さらに、ディスクには指定された高 Si 合金( Si~ 10 %)ではなく、鋳造性の劣る低 Si(7%)の合金が用いられていました。このためリム部に多くの

図 3.7 破壊した羽根車の全景(概念図)

図 3.8 リム部に見られた引張り捩じり破壊(概念図)


鋳造欠陥が生じ、破壊に寄与した可能性があります。

本件は基本的に空力による曲げモーメントを無視した強度設計の問題であり、鋳造欠陥は副次的な要因です。破壊の順序と第一破損を推論せずに詳細調査をしたために正しい結論を導けなかった例です。しかし調査自体は正確で(原因と無関係なデータが膨大ですが)、力学的以外の問題点は確実に指摘されており、結論が「原因を特定できず」と正直であることは非常に立派です。
次の 2つの事例は、破損の様相(亀裂の進展状態)から、破壊の原因が力学的な要因だけではなく、金属組織の問題を含むことを推論した例です。

3.5 酸素ボンベの破壊

酸素ボンベ(外径 250 mm、高さ 1320 mm、肉厚 9 mm)が水圧試験(試験圧力 250 kgf/cm2)の途中、150 kgf/ cm2で破裂しました。その外観を図 3.10 、破面を図 3.11に示します。破面は脆性的で、山脈模様から亀裂の伝播方向が判ります。起点はボンベの内側で、外側部にはシヤリップがあります。亀裂は厚さ方向とともに上下方向に急速伝播したもので、内圧を受ける円筒容器の破壊として正常です。
しかし図 3.10 の上下方向の亀裂の中央部、起点部付近では、亀裂の方向がボンベの縦軸方向と約 10度傾いています。これは力学条件だけで考えると妙で、破壊が耐圧圧力以下で生じたこととともに、金属組織的な要因が関与していることを示唆しています。
そこで起点部分を切断して顕微鏡組織を観察しました。ボンベの材料は炭素量 C 0.55%の鋼ですから、組織は約 70 %のパーライトと 30 %のフェライトからなるはずです。しかし観察された組織は図 3.12のような、板状のセメンタイトを含む白鋳鉄の組織でした。白鋳鉄は C4%以上の極めて脆弱な組織です。異常な組織の深さは約 0.7 mm でした。
調査により、高温でボンベを成形する際に潤滑材として用いた黒鉛が局部的に焼着し、高炭素の異常組織が生じたものと判りました。この異常組織を初期欠陥として、 150 kgf/cm2の圧力下(応力約 20 kgf/mm2)で脆性的な亀裂伝播が生じたものです。 3年前の耐圧試験には合格していますので、その後の 3年間で異常組織部近傍の酸化が進行し、組織の脆化が生じたと考えられます。 

図 3.10 破裂したボンベの外観


図 3.11 亀裂中央部を含む破面と破壊起点の特定

図 3.12 起点部近傍の異常組織


3.6 2相ステンレス鋳鋼の475℃脆性
ステンレス鋳鋼製の大型回転体(重量約 500 kg)のボス部に割れが生じました。材質はフェライト‐オーステナイト 2相ステンレス鋼で、稼働後 12年でした。亀裂の状態を図 3.13に示します。 (1) のボス部ではキー溝角部から亀裂が生じ、全体に伝播したように見えます。しかし、キー溝部を良く観察すると、 (2) のように亀裂がキー溝角の応力集中部をたどっていません。また形状がジグザグで、分岐や枝分かれがあります。亀裂が疲労によるものであればこのようなことはありません。亀裂発生に金属組織的な要因が関与していることが示唆されます。
そこでボス部を強制破壊して破面を見ました。これを図 3.14に示します。破面は著しく粗大な結晶状で、鋳造組織が明瞭に現れています。写真左側の柱状晶の寸法は幅 4~ 5 mm 、長さは 40~ 50 mm です。右側およびボス穴側では等軸晶で、結晶寸法は 4 × 4~ 8 × 8 (mm)です。鋳造組織として著しく粗い組織です。
材料の化学分析値はC< 0.06%、Ni 4~7%、 Cr 23

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(1) ボス端部(2) キー溝内側図 3.13 大型ステンレス鋳鋼品の割れ


図3.14  強制破断面

~ 27% など、いずれも規格の範囲内で、異常はありませんでした。しかし2相ステンレス鋼には「 475 ℃脆性」という現象があり、鋳造後 475 ℃近傍で徐冷された場合にじん性が著しく低下します [2]。本件では鋳造後の溶体化熱処理時に、肉厚のボス部の冷却速度が 475 ℃近傍で遅くなり、結晶粒が異常成長して脆化したと考えられます。また異常組織部では水素濃度が正常値の 10倍以上でした。これも脆化に寄与したでしょう。キー溝に割れが生じたにもかかわらず使用され続けたのは、ボス部の応力負荷が低く、本体部が強度、剛性を負担していたためと考えられます。
次の事例は破面と破壊の様相から環境要因の関与を推論し、顕微鏡による亀裂の特徴でこれを確認したものです。

3.7 舶用発電機シャフトの腐食疲労
舶用ディーゼル発電機(定格回転数 1200 rpm, 定格出力 100 KW)のローターシャフト(破壊部直径 75 mm)が運転中に破断しました。使用期間は 12年6カ月でした。破面と破面近傍の様相を図 3.15に示します。破面は典型的な星状破面(その 1、図 1.15 E3~ E4相当)で、両振り捩じりによる疲労破壊であることが明らかです。側面から見ると破面が上に凸になっていますが、これは破壊部が外径 75 mm から 100 mm への段付き部(図 3.16)で、
応力集中の影響があることを示しています。疲労亀裂部分がシャフトの中心部にまで及んでおり、低応力、繰返し数 106オーダーの高サイクル疲労と判断できます。シャフトは船内で使用されているにもかかわらず、全面酸化色を呈しています。
同仕様のローターが同船に1本、他の 3隻の船に各 2本、合計 7本あります。調査したところ全てのシャフトの同じ部位に亀裂が検出されました(図 3.16)。また他のシャフトのいずれも表面塗装の下で腐食が進んでいまし

図 3.15 シャフトの破面(上)および破損部近傍側面(下)

図 3.16 他のシャフトの同じ部分のカラーチェック

た。これらから、腐食疲労の疑いが持たれます。

亀裂部分を切断し顕微鏡観察したものを図 3.17に示します。亀裂内部に腐食生成物が詰まっており、また亀裂の分岐が見られます。亀裂の先端部分も枝分かれしています。これらは腐食疲労の特徴です。
同仕様品全てに亀裂が生じたことは、本件が設計上の要因によることを示しています。本件のシャフトは定格回転数手前の 975 rpm のところに6次のねじり共振点があり、起動停止のたびに設計応力( 9 MPa)の 10倍以上の応力が作用したことが判りました。腐食疲労では通常の疲労よりも疲労限度が低下し、また寿命が短くなります [3]。共振に段付き部の応力集中が加わり、海洋上の腐食環境によって腐食疲労が進んだと考えられます

3.8 この章のまとめ

これまでの解説で、破損解析では目視による破面とその近傍の様相の観察が重要であることを述べてきました。今回はそれに加えて破損品全体の様相、変形の有無、破損破壊の位置や方向の観察および判断が原因究明の重要な手掛かりになることを事例で示しました。
塑性変形を伴う破壊は、何らかの理由で想定外の過荷重が作用したか、あるいは他の部分の破壊による2次的な被害としての破壊と考えられます。複数の部位が破壊している場合は、これらの考察から破壊の順序を推論することができます。正常な使用時・運転時の力学条件から考えられる破壊の位置と方向、破壊の種類が実際と一致するかどうかが判断の根拠になります。
一方、破壊の様相が正常な使用時運転時の力学条件と一致しないならば、金属組織あるいは環境条件など付加
的な要因を考える必要があります。
亀裂の伝播状態についても、応力集中部をたどらない、

最大応力の位置や方向でない、分岐や枝分かれがあるな
ど、力学条件から外れている場合には、金属組織や環境
要因などの関与が疑われます。また同仕様の製品で多数
の破壊事例が見られる場合は、基本的な設計上の問題で
ある可能性が高いと言えます。いずれにしても、詳細調
査の前に、破損品全体の破壊の様相、破面とその近傍の
様相から破壊の種類と破壊の順序、破壊の経過を推論す
ることが大切であることを理解して下さい。環境要因を
含む破壊については、次回その4で解説します。
参考文献
[1]野口徹:技術者のための破損解析の手引(工学図書)(2014)(全般)
[2]American Society of Metals: Metals Handbook, 10th ed.Vol.1 (Properties and Selection of Irons, Steels and High Performance Alloys) (Metals Park, Ohio) (1990) 708
[3]日本機械学会:機械工学辞典(丸善)(1997)p1141 等(2020年 3月 20)
著者紹介 

著者:野口 徹所属:北海道大学名誉教授専門分野:機械工学、機械材料、鋳造工学

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