特集記事「原子燃料サイクル」(7) 埋込金物に対する AEセンサを用いた打音検査の効率化に向けた取組み

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カテゴリ: 特集記事

特集記事「原子燃料サイクル」(7)
埋込金物に対する AEセンサを用いた打音検査の効率化に向けた取組み
日本原燃株式会社 再処理事業部 再処理工場 保全企画部
1.はじめに
日本原燃株式会社再処理施設において、 2015年 8月に一般共同溝の蒸気配管を支持する埋込金物(図 1参照)に浮き上がりが発見され、調査の結果、ジベルが欠損しており不適切な施工であることが判明した 1。埋込金物の不適合事象の対応として再処理施設の埋込金物数量約 52.8万枚を調査した結果、適切な施工記録が確認された埋込金物と点検対象外の埋込金物の合計が約 35.2万枚、残り 17.6万枚については施工記録が不十分であるため、現品点検による健全性評価が必要と判断した。

図1 埋込金物と埋込金物の設置概要図
現品点検では、ジベルの欠損を確認する方法として超音波探傷( UT)検査を実施し、その結果、一般共同溝の UT検査結果では規格外の埋込金物が約 200 枚確認された 1。一方で、 UT検査では埋込金物のジベル直上にセンサを設置し測定する必要があるが、耐震サポート等が設置されていることから、 UT検査用のセンサをジベル直上に配置できず、 UT検査できないジベルが多数存在している。これらの UT検査できないジベルについては、欠損していない事を証明できないため、著者らは AE(Acoustic Emission)センサを用いた打音検査(以下では AE打音検査)としてハンマー打撃により発生する音響振動の持続時間および周波数により埋込金物の固定状態が判断できる健全性評価技術を開発し 2、日本原燃株式会社の再処理施設における現場検査に適用している 3。
保全企画G 課長

三浦 進 Susumu MIURA
本報では、その後の AE打音検査の効率化に向けた検討、計画について報告する。
2.これまでの経緯

2.1 埋込金物の AE打音検査技術の開発 2
AE打音検査には、図 2に示す AEセンサ、計測ボッ
クス、波形処理装置(タブレット PC)などより構成され
ている AE打音現場検査システムを用いた。
AE打音検査では、埋込金物の健全性を評価するため
の判定基準を設定する必要があったことから、モック
アップ試験により判定基準値を定めた。モックアップ試
験体は、再処理工場において不適切に施工された埋込金
物を確実に検知できるよう、健全な埋込金物と不適合な
状態を模擬した埋込金物を製作した。

図2 AE打音現場検査システム
モックアップ試験では、埋込金物とコンクリート間の固定状態変化を AE打音検査により検知できることが確認された。図 3に示すように埋込金物をコンクリート埋設する前は拘束されていないため振動持続時間が非常に長い。それを、コンクリートに埋設すると埋込金物が強固に拘束されるため、振動持続時間が数ミリ秒と非常に短い時間で減衰し、周波数分布のピークもほとんど現れない。そこに荷重が負荷されると埋込金物とコンクリー

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ト間の固定状態に変化が生じ、振動持続時間が増大するとともに、周波数分布のピークが高くなりシャープなピークが現れるようになる。この時、健全な埋込金物の場合は高い周波数帯域にピークが現れるが、ジベルが欠損している埋込金物は、出現ピークの周波数帯域が低周波側にシフトするため健全性判定が可能になる。
モックアップ試験では、以下の 2点のパラメータを評価することで健全性判定が可能になることを確認したことから、各パラメータの判定基準値を設定した。
①振動持続時間のしきい値( 20ミリ秒):埋込金物のコンクリート埋設時点からの固定状態に変化(荷重負荷の有無)状態を判定する。
②周波数ピークのしきい値( 1,900Hz):埋込金物のジベルが健全であるか欠損しているか判定する。
2.2 再処理施設における現場検査 3
再処理施設の埋込金物のうち、 UT検査だけでは健全性を判断できないものが約 6千枚あったため、 AE打音検査で補完して健全性判定を実施した。
AE打音検査では、埋込金物 1枚あたり標準的に 8箇所の計測点を設定し、耐震サポート等の干渉により計測できない場合を除き計測した。

AE打音検査による埋込金物の健全性判定は、図 4の判定のフローを用いて実施した。まず埋込金物に溶接施工されている個々のジベルについて表 1に示す判定を行い、次に表 2に示す全ジベルの判定結果を組み合わせ、 A~Eの 5段階評価を行った。
表1 ジベル毎の判定記号
全体凡例
健全 ○
荷重発生無 ●
NG ×
未確認 【測定不可】 -


なお、現場に設置されている埋込金物には、モックアップ試験体と形状が大きく異なるものおよび取り付く耐震サポート自体が振動し、外乱要因となるものがあったが、追加試験を行いエンジニアリングジャッジにて健全性判定を行ったものもある。

図3 埋込金物の固定状態による振動持続時間・周波数分布の変化
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図4 埋込金物の判定方法
表2 埋込金物毎の評価記号
判定 判定項目 ジベル判定結果の組合せ
健全 荷重発生無 NG 未確認
A 全数健全 ○
B1 一部健全 ○ ●
B2 一部健全 ○ (●) -
B3 一部健全 ○ (●) × (-)
C1 荷重発生無 ●
C2 荷重発生無 ● -
D 追加情報無 -
E NG (●) × (-)


AE打音検査を実施した約 6千枚の埋込金物の結果は、表 3に示すとおり対象数の約 87%について健全性判定を行うことができた。 UTでは測定条件が整わず計測できなかったものでも AE打音検査では計測できたことで本方法が非常に有効であることが確認された。
また、個々のジベルの振動持続時間に着目すると、図 5に示すとおり約 82%のジベルの振動が 20ミリ秒未満で減衰している結果が得られた。振動持続時間が 20ミリ秒未満であるということは、施工から 15年以上経過しているにも関わらず埋込金物がコンクリートに密着した状態が維持され、固定状態が変化するような荷重が発生していないことを表している。
表3 AE打音検査の解析対象と AE評価結果の割合
対象 対象割合 A 全数健全 B 一部健全 C 荷重発生無 D 追加情報無 ENG
建屋 84% 19% 20% 35% 10% 0.02%
洞道 11% 3% 2% 3% 2% 0%
その他 5% 1% 1% 3% 0% 0%
合計 100% 22% 24% 41% 13% 0.02%
87%


図5 対象毎のジベル近傍点の振動持続時間
AE打音検査は、検査時点での埋込金物の浮き上がりの可能性を判定するだけでなく、固定状態の変化を確認する方法としても利用できることが分かった。

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3.AE打音検査の効率化に向けた取組み
これまで、埋込金物の健全性確認は UT主体で行われており、 UT 検査が出来ない箇所を補完する代替検査方法として AE打音検査の開発をスタートさせた。しかし、AE打音検査は、UTよりも判定可能な対象数が多く、 UT を行わずとも AE打音検査だけで健全性を判定できる可能性が見られた。今後、記録不十分な未調査分の埋込金物に対して継続的に健全性確認調査を行う必要があるが、 AE打音検査を主体とした健全性判定に移行することを考えている。
そのためには、現場検査の経験を踏まえ更なる技術開発を行い、効率化および高度化を図っていく必要があることから、現在以下の取り組みを進めている。
3.1 過去の AE打音検査結果のデータ分析
埋込金物の計測データは、計測点数にすると約3万点に及ぶため、埋込金物の種類、耐震サポート種別、建屋、設置場所等の視点からデータ分析を行い、効率化および高度化を図っていく予定である。現在、 AE打音検査における埋込金物の計測数は 8箇所/枚を基準としているが、過去データを見ると固定状態の良いものは何れの計測結果も振動持続時間が 20ミリ秒未満であるため、振動しやすい箇所を代表点として評価することができれば効率化を図ることも可能であると考えている。
例えば、図 6は埋込金物の設置位置毎に振動持続時間を比較したものであるが、「床」>「壁」>「天井」の順に 20ミリ秒未満の割合が高くなっている。これは、埋込金物の設置位置により引張荷重のかかり方が異なることが影響しているものと考えられる。特に天井面の埋込金物において、引張荷重が全面にかかったことで密着状態に変化が生じている傾向が見て取れる。

図6 部位毎の AE計測点単位判定結果の数量

また、他の視点についても同様のデータ分析を行うことで、計測データもしくは作用する荷重の傾向が埋込金物とコンクリート間との密着状態に相関性が認められれば、埋込金物の検査精度の向上につながっていくものと考えている。

3.2 信号解析の自動化システムの開発
現場検査において、埋込金物に設置されている耐震サポートによっては、音響振動が大きく影響するケースが見られた。埋込金物は健全に施工されていたが、耐震サポートの振動ピークの周波数帯域が低周波側に出現し、欠損ジベルと誤判定されるような状況であった。
このようなケースでは、状態をシミュレートしたモックアップ試験を行い、原因を究明して個別評価により、エンジニアリングジャッジしていたが、判定に時間を要したことから、エンジニアリングジャッジデータを判定ロジックに組み込み、可能な限り自動化する信号システムの開発を行う。

3.3 高所・狭隘部検査治具の開発
埋込金物の設置位置には、高所、狭隘部に存在する埋込金物が多く存在するが、足場を設置することなく AE打音検査を実施できるよう治具の開発を行う。
参考文献
[1]日本原燃株式会社 ,"日本原燃 (株 )六ヶ所再処理施設の一般共同溝における一般蒸気系の埋込金物の浮き上がりに関する面談", 被規制者等との面談概要・資料 , 2015.12.
[2]三浦進 , 関口昭司 , 服部功三 , 小川良太 , 藤吉宏彰 , 礒部仁博 ,"AEセンサを用いた埋込金物検査その 1 モックアップ試験", 日本保全学会第 15回学術講演会要旨集 , pp.113-120, 2018.
[3]三浦進 , 関口昭司 , 服部功三 , 小川良太 , 匂坂充行 , 礒部仁博 ,"AEセンサを用いた埋込金物検査その 2 現場検査", 日本保全学会第 15回学術講演会要旨集 , pp.121-124, 2018.
(2019年 11月 26日)


著者紹介 


著者:三浦 進所属:日本原燃株式会社 再処理事業部専門分野:再処理、保全技術

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