特集記事「原子燃料サイクル」(4) 日本原燃における是正処置プログラム (CAP)の現状について

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カテゴリ: 特集記事


特集記事「原子燃料サイクル」(4)
日本原燃における是正処置プログラム (CAP)の現状について
日本原燃株式会社 安全・品質本部 品質保証部 品質管理G 副長

田村 陽一  Yoichi TAMURA
1.はじめに
日本原燃では、安全性を向上させるための活動として、是正処置プログラム( Corrective Action Program System以下 CAPシステムという)の導入を進めている。 CAPシステムは、 2020年度から施行される新検査制度に基づく活動の柱の一つであり、日本原燃では 2018年度より試運用を始めている。
本稿では、現在行っている日本原燃の CAPシステムの概要について述べる。
2.日本原燃の概要
日本原燃は、図1に示す原子燃料サイクル施設を構成する、ウラン濃縮工場、再処理工場、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター、 MOX燃料工場および低レベル放射性廃棄物埋設センターを青森県六ヶ所村に立地している。
ウラン濃縮工場では、気体状のウラン化合物を遠心分離することでウラン 235の割合を 3~ 5%程度に高めている。
再処理工場は、全国の原子力発電所で発生した使用済燃料を受入れた後、せん断・溶解・分離・精製・脱硝工程を経てウラン酸化物粉末およびウラン・プルトニウム混合酸化物粉末を製造する。再処理を行う過程で発生する核分裂生成物を含む高レベル廃液は、ガラスとともに溶融した後、ガラス固化体として保管する。
また、同じく再処理を行う過程で発生する低レベル廃液、低レベル廃棄物は、濃縮、圧縮、焼却等の処理を行い、低レベル固体廃棄物とする。
MOX燃料工場は、再処理工場にて製造したウラン・プルトニウム酸化物粉末を原料として、 MOX燃料に加工する。
低レベル放射性廃棄物埋設センターでは、原子力発電所の運転に伴い発生した低レベル放射性廃棄物を埋設処分する。

図1原子燃料サイクル
3.新検査制度について
2020年 4月に施行される新検査制度は、日本の規制制度に対し、安全上重要なことに集中し、効率的に実施すべきであるとの国際原子力機関( International Atomic Energy Agency 以下 IAEAという)の勧告に基づくものである。
そのため、新検査制度は事業者が主体的・自主的に安全性の向上を行う前提であり、事業者は規制要求のほか、様々な業務遂行にあたり、自ら問題を特定し、解決することが求められている。
4.CAPシステムの概要
事業者が全ての活動において、問題の特定と解決(改善)に取り組むことは、効果的な安全性向上には必要不可欠であり、この改善の取り組みを業務プロセスモデル化したものが図 2に示す CAPシステムである。

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特集記事「原子燃料サイクル」(4)「日本原燃における是正処置プログラム (CAP)の現状について」
CAPシステムは、米国において事業者のパフォーマンス向上の取り組み(安全のための文化の推進・醸成の度合い)を示すために考案されたものであり、米国事業者・関係協会による 20年以上の調整と実際の活動を経て企業をより良い方向へ導くための活動として非常に優れた仕組みとなっている。

図2CAPシステム基本モデル

5.日本原燃におけるCAPシステム
日本原燃では、CAPシステムの定義を「当社に従事または関係するすべての者が、通常と異なるまたは期待と異なる状況・状態等の報告を奨励・実践し、これにより得た情報から問題を認識・特定し、各個人または各組織が問題やトラブルの未然防止、早期発見およびその問題への処置ならびに再発防止に努める自主的な改善活動のことをいう」として、図 3のシステムを構築することとした。

図3日本原燃における CAPシステムフロー

5.1コンディションレポート
CAPシステムにおいて、状態報告とはスタートとなる重要な部分であり、重大な問題へ発展する可能性を有する案件、本来とは異なる状態、すべき行動から外れた行動や結果、気づいた問題、要改善点等、多種多様な情報を収集することが求められる。
そのため、情報収集ツールとして、コンディションレポート( Condition Report 以下、CRという)という仕組みを構築した。
日本原燃の CRでは、問題発生の有無を問わず、問題のある行動や状態、進展、結果についてどのような些細な情報でも報告することとしており、その報告内容には、発生日時・発生場所・報告者所属および氏名を記載する。この報告を基に、CR受付担当者が受付を実施する。
受付では、報告された内容を確認し、報告内容が不明確な場合は、本人への確認および報告内容の修正を実施する。
その後、 CRはパフォーマンス改善推進者へ送られ、取られた対策等を追記し、社内で公開される。
社内で公開された CRは、登録者以外でも見ることができ、どのような CRが登録され対応されているか分かる仕組みとなっている。
なお、 CRを公開する際に報告内容に固有名詞が含まれる場合は、それらを代名詞に置き換える等、個人の特定は出来ない処置を行っている。

5.2パフォーマンス改善推進者
日本原燃では、 CAPシステムに係るパフォーマンス改善活動に関して新たな職位としてパフォーマンス改善推進者(Performance Improvement Coordinator 以下 PICoという)を各室部所に設置している。PICoの職務として、報告事項のスクリーニング、重要性の高い問題への処置方針の策定、原因分析、対策立案の内容および対処に当たっての調整・支援・指導の実施、パフォーマンス改善会議( Performance Improvement Meeting 以下 PIMという)の開催要求、パフォーマンス改善活動の実施状況の PIMへの報告がある。
また、業務の専門性が高い部門では、それぞれ専門 PICoを任命し、専門性の高い報告内容のスクリーニングを実施している。
さらに、 PICoおよび専門 PICoの業務を補佐する立場として PICoサポーターを任命し、スクリーニングの補佐を可能として効率的なスクリーニングを実施している。
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5.3スクリーニング
PICoおよび PICoサポーターから構成されるスクリーニングチームが CRに登録された全ての情報から、 CAQを特定し、「是正処置」または Non-CAQとし、「マネジメント活動」あるいは「処置不要 (モニタリングのみ )」のいずれかに割り当てる。このチームは、重要性の高い問題を是正処置のプロセスに割り当てて、対策から完了まで追跡させる重要な役割を担う。
5.4 CAQの特定
CAQとは、品質に影響を及ぼす状態のことであり、この品質とは、原子力安全(健康、環境、セキュリティおよび品質を含む)と捉える。
スクリーニングで CAQを特定する際には、表 1を用いて原因の不確かさ、原子力安全へのリスク評価を実施し、そのレベルに応じて CAQ、Non-CAQの判定および是正範囲を決定する。
表 1調査レベルの考え方

は、事実確認を行い遅滞の無い様にフォローをする必要がある。


5.6処置
処置は大きく 2つに分かれ、是正処置とマネジメント活動が存在する。
是正処置では、状態の是正または原因の是正としている。それらは PIMで製品および原子力安全への影響が高い問題を把握し、それらの重要度等から対策の優先順位を決め、処置を行う。
また、原因の是正が必要と判断されたものについては、再発防止のため、重要な問題の原因を除去する処置をとり、処置の完了確認まで確実に追跡する。
マネジメント活動では、活動の対象が重要性の低い軽微な問題であるが数が多い傾向となることから、マネージャーは、個々の事案に応じて、ラインで適切に対応することが求められる。
そのため、対策は問題の重要度に見合った範囲とし、処理についてはマネージャーが重要性に応じた優先度で実施する。
また、問題のフォローアップ中に、その問題が重要な問題に該当すると判断された場合には、基の状態報告を再度スクリーニングするか、新たに状態報告を作成し、確実に是正処置に組み入れられるようにする。
6.まとめ
CAPシステムは、原子力の安全性を向上させるための優れた仕組みであるが、仕組みを取り入れるだけでなく、継続して改善していくという、たゆまぬ安全性向上


5.5パフォーマンス改善会議
PIMは、PICoの実施したスクリーニング結果のうち、重要な案件を重点的に審議することが主な役割であり、そのほか、スクリーンニング内容の確認、是正処置に対する対処法、対処計画の策定、処置後の結果の確認および承認を実施する。
PIMメンバーは、当該 CR内容を確認し、対応方針を明確にするとともに、重要な案件の処置が遅滞している案件、処置完了後の CR未入力案件等を発見した場合に
に全社をあげて取り組んでいく必要がある。(2019年 11月 26日)

著者紹介 
著者:田村 陽一 所属:日本原燃株式会社 安全・品質本部専門分野:原子力安全

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