特集記事「高温ガス炉」(4) HTTRの保全管理(保全管理の特長及び実績)
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特集記事「高温ガス炉」(4)
HTTRの保全管理(保全管理の特長及び実績)
日本原子力研究開発機構
島﨑 洋祐 Yosuke SHIMAZAKI
山﨑 和則 Kazunori YAMAZAKI
飯垣 和彦 Kazuhiko IIGAKI
1.緒言
HTTRは、熱出力 30MWの黒鉛減速ヘリウムガス冷却型原子炉であり、1998年 11月に初臨界を達成した。図 1に HTTR原子炉建家の外観を示す。2003年 3月からは、HTTRを用いて高温ガス炉の安全性を示すとともに、異常時の原子炉挙動データを取得し、安全解析コードの精度を向上させ、高温ガス炉の安全設計・安全評価技術を確立することを目的とした安全性実証試験を開始した。また、2007年 3月からは、HTTRを用いて原子炉で発生した高温の熱を熱利用系へ安定供給できること等を目的とした核熱供給特性試験を開始した。HTTRでは、これまでに燃料交換は行っておらず、運転開始以来の積算運転日数は、現在装荷している燃料の運転日数制限 660EFPD*(EFPD:E.ective Full Power Day)に対して約 375EFPDと半分を少し超えた程度である。HTTRは、東北地方太平洋沖地震以降運転を停止しており、現在は新規制基準への適合性確認のための原子炉設置変更許可申請を 2014年 11月 26日に行い、早期の運転再開を目指して原子力規制委員会による審査に対応している [1]。
本報では、保全管理に係る項目として、HTTR原子炉施設の設備、機器類の保守管理の実施状況について述べる。
* EFPD:定格出力運転日数
図1 HTTR原子炉建家外観
2.HTTR原子炉施設の保守管理
HTTRは、1997年 9月に保安規定の認可を受けており、保安規定に基づく設備、機器の保守管理が開始されて約 20年が経過した。このうち、2007年 4月 1日からの約 10年間を対象期間とし、当該期間中の保守管理の方針、保守管理の実施状況を以下に示す。
2.1 保守管理の方針
HTTRでは、安全上重要な機器類は原子炉施設保安規定に基づく施設定期自主検査、それ以外の機器類は運転手引で定められている自主検査及び自主点検を実施し、機能維持を確認するとともに機器類の保全に努めている。
保守管理のフローを図 2に示す。機器及び部品類の交換に関しては、HTTRを管理する高温工学試験研究炉部の部内要領に基づき、予防保全対象の機器類及び事後保全対象の機器類に分類して保全活動を実施している。経年劣化が確認された機器及び部品等については、機能維
図2 保守管理のフロー
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持に影響するものは直ちに交換し、機能維持に影響しないものは監視を強化して適時交換・修理している。安全上重要な機器類に関しては予防保全の対象とし、使用期間を限定した時間基準保全方式及び検査データを基に交換・修理する状態基準保全方式を採用し、劣化に至る前に交換を行うよう努めている。これ以外の機器類に関しては、事後保全を行っている。また、点検方法は必要に応じて見直しを行っている。
なお、容易に交換できるラプチャーディスクや計装盤の機器類等については予備品を準備し、早期に機能回復を図れるようにしている。
経年劣化が確認された機器類については、高経年化対策のリスク評価を行い優先度の高いものから交換・修理している。さらに、製造中止などにより入手困難な電気・計装関係の機器類に関しては、代替品を導入するとともに保守契約による優先的部品供給により、早急な機能回復に努めている。
今後の取り組みとしては、取得した保全データを保守管理の方針に反映していくとともに、運転開始後 30年を経過した原子炉施設に要求される保全計画について、その考え方を数年かけて構築して行く予定である。
2.2 保守管理の実施状況
保守管理の実施状況を、施設定期自主検査、日常点検、修理・改造等に分類して紹介する。
(1) 施設定期自主検査
対象期間内において、 HTTR原子炉施設では 2007年 5月 21日から 2008年 3月 7日の期間にて第 4回施設定期自主検査実施計画を定めて実施していた。しかしながら、新たに制御棒の製作、 2次系圧力の微少低下事象などに係る点検、復旧作業等の工程調整を行い、最終的には施設定期自主検査期間を 2010年 2月 3日まで延長した。
第 5回施設定期自主検査は、 2011年 2月 1日から平 2011年 12月 15日の期間にて施設定期自主検査実施計画を定めて実施していたが、 2011年 3月 11日に発生した東北地方太平洋沖地震に対する施設の健全性確認及び福島第一原子力発電所事故の教訓等を踏まえて施行された新規制基準への適合性確認に係る審査の影響のため、施設定期自主検査実施計画を変更し、 2019年 3月現在においても施設定期自主検査を継続中である。
以上のとおり、 2007年度からの約 10年間の対象期間における施設定期自主検査は、施設定期自主検査実施計画に従い検査を実施しており HTTR原子炉施設の性能と健全性を維持している。
(2) 日常点検
日常点検は、法令等に基づく巡視を含めて、保守の観点から、施設や設備機器の故障の予兆を把握すること等を目的として巡視点検するものである。このため、 HTTR原子炉施設の全設備を点検対象施設にして行っている。
日常点検により設備、機器の異常の報告があった場合は、設備担当者が点検、応急処置を行い、その後、必要に応じて修理、交換等を行う。また、修理等が完了されるまでは、日常点検での観察を継続し、点検記録表に「継続監視」等のコメントを記録している。これらにより、日常点検を施設、設備、機器の故障の予兆把握等に有効に機能させるとともに、適宜の措置を取ることで設備、機器の保全に努めている。設備、機器の異常及び異常への措置の代表事例を以下に示す。①一般冷却水設備淡水(ろ過水)供給配管からの漏水
定期点検中の冷却塔(非管理区域)に設置されている一般冷却水設備の淡水(ろ過水)供給配管の肉厚測定実施時に、測定箇所すぐ脇から配管に滲みを発見した。調査したところ、配管表面錆部から、ろ過水の漏水を確認したため配管の更新を行った。更新に当たっては、錆びにくいステンレス材料を使用した。また、水平展開として同様の使用条件である補機冷却水設備の供給配管についても更新した。
(3) 修理及び改造等 ①設置変更許可に係る又は設計及び工事の方法の認可申請を要する改造等
1) 原子炉保護設備の改造
安全性実証試験である「循環機 3台停止試験」及び「炉容器冷却設備停止試験」を実施するため、原子炉保護設備の一部を改造した。具体的な内容は、「循環機 3台停止試験」及びその状態で炉容器冷却設備を停止する「炉容器冷却設備停止試験」を実施するために、「1次加圧水冷却器ヘリウム流量低」及び「炉心差圧低」のスクラム信号の発信を遅延等させるものであり、安全保護ロジック盤、中央制御盤等の改造を行うため、設置変更許可申請及び設計及び工事の方法の認可申請を行った。本設備は認可後に改造を行い、 2008年度に使用前検査を受検して合格した [2], [3]。
2) 取替用制御棒の製作
HTTRの制御棒は、炭化ほう素と黒鉛の混合焼結体を吸収体として、耐熱性合金で被覆した制御棒要素を連結した構造で各要素は可とう性を有し、 2本を 1対として炉心内に 16対配置されている。
2007年 7月に反応度制御設備の点検のため炉外のメンテナンスピットに吊った状態で仮置きした R2-4制御棒について、制御棒のワイヤを固定する冶具に起因する着地事象が発生し、制御棒要素を連結する連結棒にわずかな変形が確認されたことから、新たに取替用の制御棒を製作し、交換することとした。新たな制御棒は、建設時に設計及び工事の方法の認可を取得した際の設計仕様及び構造と同一であり、設計仕様、構造、耐震性等を確認し、設計及び工事の方法の認可申請を行った。制御棒は認可後に製作を行い、 2008年度から 2009年度に使用前検査を受検して合格した [2], [3]。
なお、制御棒の着地事象の再発防止対策として、作業要領を改訂するとともに、制御棒の落下を防止するための制御棒荷重受け金具を作業に用いることとした。②設備・機器の更新
HTTR原子炉施設の設備、機器について、対象期間に点検により傷、腐食、磨耗等の異常が発見されて故障に至る前に更新したもの、予防保全の観点から計画的に更新したもの等のうち、代表例を以下に示す。
1) 予防保全の観点から更新したもの
a. 広領域中性子計装(WRM)の交換
HTTRの中性子計装の一つである核分裂計数管・電離箱型である広領域中性子検出器( WRM:Wide Range Monitor)は、原子炉圧力容器内に設置され、約 450℃の高温環境下で原子炉の起動から中間出力領域までの熱中性子束を計測できるように開発されたものであり、原子炉の未臨界の確認のためにも使用される。
2010年 3月 21日の原子炉停止中に、 3台の WRMのうち、 ch.2、ch.3が動作不能となった。事象発生時、当該 WRMの使用開始後からの定格出力換算日数は約 140日であり、設計寿命 440日より短い期間で動作不能事象が発生した。 WRMの概略図を図 3に示す。原因調査の
図 3 WRMの概略図 [5]
結果、中性子検出器エレメント端子から高圧電源側 MIケーブル接続部の付近で接触不良が生じていると推定された。再発防止対策として、不具合を起こした ch.2及び ch.3の WRMについて交換を行うとともに、以下の 2項目を運転手引に追加した。
・設計変更した
WRMを使用するまでの間、使用制限として定格出力換算日数 110日を設け、 2010年 10月の交換時期から使用制限を超えない時期に交換すること。
・原因調査において
WRMに絶縁抵抗測定、静電容量測定、特性インピーダンス波形観察が異常検知に有効であることを確認したことから、原子炉起動前点検において、これらの測定を行うこと。
この後、 2011年 1月 24日に原子炉停止後において、 ch.1にも動作不能が発生したため交換した。
本事象に対して、当初開発時の動作実績期間より短い期間で動作不能事象が発生したことから、動作不能箇所の特定及び原因調査を行い WRMの改良に役立てる目的で、使用済の WRMの詳細な調査を行うこととした。このため、大洗研究所内にある照射燃料集合体試験施設( FMF:Fuel Monitoring Facility)へ動作不能となった WRMを輸送し、高エネルギー X線 CT検査装置を用いた照射後試験を実施した。この結果、検出器本体には接触不良につながる変形等の構造上の問題はないこと、中性子検出器エレメント端子から高圧電源側 MIケーブル接続部を接続しているリード線が断線したことが判明した [4], [5]。今後は、定格出力換算日数、詳細調査に基づく対策が施された WRMを次回交換時に炉内装荷する予定である。
b. 中性子源の交換
HTTRでは、原子炉の起動及び WRMの健全性の確認に使用する中性子源として 252Cf(半減期 2.6年)の密封線源を炉心に装荷している。中性子源は中性子源ホルダに組み込まれ、制御棒案内ブロックの中心に位置するグリッパつかみ孔の真下にある円筒状のスペースに装荷されている。また、中性子源が装荷された制御棒案内ブロックは、燃料領域の最上段ブロックに 120°間隔で、炉心内に 3体が配置されている。
中性子源は、約 5年を目安として交換しており、初臨界から 2015年までに 2度の交換を行っていた。 2004年に行われた 2回目の交換から約 10年後の 2013年頃から中性子源交換の計画を立て、 2014年度に中性子源の購入及び中性子源用輸送容器の製作を行い、 2015年度に計画とおりに中性子源の運搬及び 3回目の中性子源の交
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換作業を実施した [6]。
中性子源交換作業は、 2015年 7月から 10月の間で実施した。中性子源の交換作業は、中性子源用輸送容器及び燃料交換機( FHM:Fuel Handling Machine)を用いて実施した。中性子源交換作業にあたっては、作業員の被ばくを可能な限り低減させるため、 FHMの崩壊熱除去用の冷却空気流路からの中性子漏洩を防ぐためのポリエチレン製の追加遮へい体の取付けを新たな対策として行い作業を実施した。追加遮へい体の取付け状況を図 4に示す。この結果、燃料交換機の表面線量当量率の最大値が 380 μ Sv/hから 15 μ Sv/hに低減し、前回の作業員の被ばくが 0.74人・mSv(ポケット線量計( PD:Pocket Dosimeter)値)であったのに対して、今回の作業では約
0.3人・mSv(PD値)に低減することができた [7]。今後も中性子源の状態を確認しながら計画的かつ安全に交換を行っていく予定である。
図4 追加遮へい体の取付け状況 [7]
2) 事後保全として更新したもの a. 2次系の圧力低下事象
HTTRの冷却設備系統を図 5に示す。 HTTRの原子炉冷却設備は、通常運転時に原子炉を冷却する主冷却設備、原子炉停止後に原子炉の残留熱を除去する補助冷却設備、原子炉圧力容器の周囲に設置した水冷管により1次遮へい体を冷却するとともに補助冷却設備による炉心の冷却が期待できないような事故時にも原子炉の残留熱を除去する炉容器冷却設備で構成される。主冷却設備は 1次冷却設備として中間熱交換器( IHX:Intermediate
図 5 HTTRの冷却系統 [8]
Heat Exchanger)と 1次加圧水冷却器( PPWC : Primary Pressurized Water Cooler)の 2種類の熱交換器を並列に配置しており、IHXの 2次側に 2次冷却設備として 2次加圧水冷却器(SPWC:Secondary Pressurized Water Cooler)を配置している [8]。
2009年 3月 30日、第 4回施設定期検査のため、 1次系及び 2次系の昇温昇圧を行っていたところ 2次系の圧力が低下していることが確認された。原因調査の結果、 2次ヘリウム循環機上部フランジ部のガスケットのシール機能の低下によるヘリウム漏えいであることが確認されたため、当該上部フランジ部については、開放しガスケット交換を行った。ヘリウム循環機の構造を図 6に示す。
なお、本事象で漏えいした 2次ヘリウムには、放射性物質は含まれておらず、周辺環境への影響、従業員等の身体汚染及び内部被ばく等は発生しなかった。
図6 ヘリウム循環機の構造図
再発防止対策として、第 5回施設定期検査から 1次ヘ
リウム循環機( A、B、C及び IHX)、2次ヘリウム循環
機及び補助ヘリウム循環機(A、B)の合計 7台を対象に、
10年を目途にガスケットの交換を実施する管理をする
こととした。また、 1次系及び 2次系の昇温昇圧を行っ
ていたところ、 2009年 5月 14日に 2次ヘリウム循環機
中間フランジ部を締め付けているボルトのわずかな緩み
によるガスケット面圧の低下等により、ヘリウム漏えい
が引き起こされたことから、ヘリウム循環機の中間フラ
ンジ部についても、同じく 10年を目処に全ての循環機
について当該締付ボルトに緩みがないことを確認するこ
ととした。さらに、部内要領を改定し、ガスケット交換及
び中間フランジ部ボルト締付確認について規定した [9]。
対象期間において、 2011年度に補助ヘリウム循環機(2台)及び 2016年度に 1次ヘリウム循環機(4台)のガス
ケット交換を行い、事象発生以降全ての循環機について
交換を行った。中間フランジ部ボルト締付確認は、2010
年度に全ての循環機について実施した。今後は、設備の
起動状況や保守管理から得られるデータ等を基にして検
討を行い、交換及び締付確認を適時実施していく予定で
ある。
3.結言
HTTR原子炉施設の保守管理の方針、保守管理の実施
状況について、 2007年 4月 1日から 2017年 3月 31日
を対象期間として紹介した。
今後も運転経験の蓄積、保守点検の経験等から得ら
れる技術的な知見を踏まえ、適切な保守管理を行い、
HTTR原子炉施設の保全に努める。また、運転開始から
30年が経過するまでに策定する保全計画の策定に向け
て検討を進めて行く予定である。
参考文献
[1](編)高温工学試験研究炉部 :"HTTR(高温工学試験研究炉)の試験・運転と技術開発( 2016年度)", JAEA-Review 2017-029 (2017)
[2](編)高温工学試験研究炉部 :"HTTR(高温工学試験研究炉)の試験・運転と技術開発( 2007年度)", JAEA-Review 2008-049 (2008)
[3](編)高温工学試験研究炉部 :"HTTR(高温工学試験研究炉)の試験・運転と技術開発( 2008年度)", JAEA-Review 2010-012 (2010)
[4] 篠原正憲 , 茂木利弘 , 齋藤賢司 et al.: "高温工学試験研究炉( HTTR)の使用済高領域中性子検出器の動作不能調査 -原因調査及び照射後試験 -", JAEA-Technology 2012-026 (2012)
[5] 篠原正憲 , 茂木利弘 , 齋藤賢司 et al.:"高温工学試験研究炉( HTTR)の使用済高領域中性子検出器の動作不能調査 -サンプル試験及び破壊試験 -", JAEA-Technology 2012-032 (2012)
[6](編)高温工学試験研究炉部 :"HTTR(高温工学試験研究炉)の試験・運転と技術開発( 2015年度)", JAEA-Review 2016-036 (2015)
[7]H. Sawahata, Y. Shimazaki, E. Ishitsuka et al.:
"Improvement of exchanging method of neutron startup source of high temperature engineering test reactor", Proceedings of 24th International Conference on Nuclear Engineering (ICONE-24), Charlotte, USA, June 26-30 , ICONE24-60842, (2016). [DVD-ROM]
[8] 栃尾大輔 , 野尻直喜 , 濱本真平 et al.:"HTTR長期連続運転の結果の概要 .定格・並列 30日運転 -", JAEA-Technology 2009-005 (2009)
[9](編)高温工学試験研究炉部 :"HTTR(高温工学試験研究炉)の試験・運転と技術開発( 2009年度)", JAEA-Review 2010-055 (2010)
(平成 31年 2月 25日)
著者紹介
著者:島﨑 洋祐所属:日本原子力研究開発機構高速炉・新型炉研究開発部門専門分野:HTTR保全技術
著者:山﨑 和則所属:日本原子力研究開発機構高速炉・新型炉研究開発部門専門分野:HTTR保全技術
著者:飯垣 和彦所属:日本原子力研究開発機構高速炉・新型炉研究開発部門専門分野:HTTR保全技術