特集記事「原子燃料サイクル」(2)「六ヶ所再処理施設の現状について」
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1.緒言
エネルギー資源に乏しい我が国では、海外からの化石資源の依存度を下げるとともに、地球温暖化対策に向けて二酸化炭素排出量を低減するため、安全確保を大前提として、原子力エネルギーの利用を進めることを基本方針としている。
原子力発電所で使用されている使用済燃料の中にはまだ使えるウランや新たに生成されたプルトニウムがあり、これを再処理して繰り返し使う『原子燃料サイクル』を確立することにより、エネルギーの長期的な安定確保が可能になる。さらに、放射性廃棄物を管理する設備も含めて、一つにつながった環(サイクル)が完結する。
現在、当社では、「ウラン濃縮工場」、「高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター」、「低レベル放射性廃棄物埋設センター」の三施設を操業している。また、原子燃料サイクルの要となる「再処理工場」については、その一部である使用済燃料受入れ・貯蔵施設を先行操業し、その他の施設は建設段階(試験運転中)にある。さらに、ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料の加工を行う「 MOX 燃料工場」が建設段階(工事中)にある。
再処理工場に続いて MOX燃料工場が操業すると、ウラン濃縮から再処理、 MOX燃料加工、廃棄物管理までの環(サイクル)が完結し、地球環境問題やエネルギーの安定的な確保に貢献する『準国産エネルギー』の供給に大きく近づくことになる。
本稿では、現在の再処理事業等をとりまく状況について述べる。
2.再処理施設の概要
再処理工場の工程概要図を図1に示す。
全国の原子力発電所で発電に使用された後の燃料 (使用済燃料 )は、頑丈な輸送容器(キャスク)に収納して再処理工場に輸送される。再処理工場で受入れる使用済燃料は、使用済燃料受入れ・貯蔵施設の貯蔵プールにて冷却・貯蔵する。十分に放射能が減衰した後、使用済燃料を約 3~ 4センチの長さに細かくせん断し、燃料の部分を硝酸で溶かした後、ウラン、プルトニウム、核分裂生成物に分離する。さらに、ウラン溶液とプルトニウム溶液を精製、脱硝してウラン酸化物とウラン・プルトニウ
図1再処理工場の工程概要図
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ム混合酸化物の 2種類の製品を製造し、貯蔵する。
当該工程で生じる放射性廃棄物のうち、核分裂生成物を含む高レベル廃液はガラス原料と混ぜ合わせて溶融し高レベル放射性廃棄物として保管し、その他の液体あるいは固体の低レベル放射性廃棄物は、必要に応じ濃縮、圧縮、あるいは焼却等の処理を経て、保管する。
3.再処理工場の状況
現在、再処理工場の建設としては、福島第一原子力発電所の事故後に施行された新規制基準に係る対応を除き、概ね完成している状況である。また、再処理工場は、 2006年 3月から試験運転の最終段階である、使用済燃料を用いた総合試験 (アクティブ試験 )を開始しており、使用済燃料からプルトニウムを抽出する工程等の試験を順調に終了した。アクティブ試験のうち、難航したガラス固化設備についても実施すべき試験は、 2013年 5月をもって全て終了し、最終的な使用前検査を残すのみである。
一方、新規制基準の適合に関する対応については、 2014年 1月に事業変更許可を申請し、原子力規制委員会による安全審査の終盤を迎えている。事業変更の内容が許可された後は、新規制基準に係る安全対策工事が最盛期を迎える。これらの工事は、再処理工場の建設以来、最大規模となるが、多くの協力会社とともに安全を最優先として膨大な工事物量を限られた期間、放射線環境に関し管理された区域内など制約がある中、工事に取り組んでいるところである。
新規制基準対応を踏まえた安全対策工事が完了した後は、試験運転を再開し、最終的に工場全体の安全機能や性能を確認した上で、 2021年度上期の再処理しゅん工を迎えることとなる。
詳細について、以下に示す。のボーリングによる追加調査を実施するとともに、原子力発電所の審査との整合性等を主な論点として対応している。
これらの安全審査が終了し事業変更が許可された後には、新規制基準対策工事に係る設計および工事の方法の認可申請(設工認申請)を行い、設工認の認可を受けて、表1に示す安全対策工事を実施していくこととなる。なお、当該工事の概要については、後段の一般講演「六ヶ所再処理施設の新規制基準に係る適合審査の概要」を参照いただきたい。
また、当社はこういった一連の安全対策を行い、安全性向上を図るとともに、万一の場合に備え、重大事故に対処するための設備で資機材を迅速かつ確実に操作できるよう、さまざまな事態を想定した訓練を重ね、世界一安全な原子燃料サイクルを目指している。
表1 主な安全性向上対策工事
安全性向上対策工事 内 容
竜巻対策 安全冷却水冷却塔や主排気筒、屋外ダクト等を竜巻による飛来物から防護するため、防護板等を設置
耐震補強 基準地震動への耐震性を確保するため機器等の補強溢水・化学薬品漏えい防止のための配管サポート補強
航空機落下対策 化学薬品貯槽の地下移設
溢水防護対策 堰・防水扉、緊急遮断弁の設置
火災防護対策 耐火壁の3時間耐火性能を確保するための工事や火災感知器の追加設置
重大事故対策 移送ポンプ等の可搬型設備の確保、凝縮器等の常設設備の設置
新緊急時対策所新設 重大事故等発生時の対策本部、支援組織要員が参集する拠点として新設
貯水槽・保管庫新設 可搬型設備の保管及び冷却水貯留用の保管庫・貯水槽一体施設の新設
3.1新規制基準対応
2011年 3月の福島第一原子力発電所の事故後、原子力規制委員会にて 2013年 12月に新規制基準が施行されたことを受け、 2014年 1月に事業変更を申請した。これまでの再処理工場の設計基準対応および設計基準を超える重大事故の対策を広く検討し、新規制基準に対する適合性審査に取り組んでいる。
2018年の秋までに安全審査でのコメント対応が一通り終了し、 2019年 3月に事業変更の申請の補正を提出した。 2019年 10月現在、主に火山活動の評価、周辺断層の根拠として、データの拡充および説明性向上のため
3.2再処理工場しゅん工・操業に向けた取り組み
再処理工場は、 2008年にせん断・溶解等の稼動を停止させて以降、本格的な稼動を長期間実施していない。したがって、再処理工場のしゅん工および安全・安定操業に向けては、ハードおよびソフト両面のリスクが考えられる。これらリスクの低減のため、従前より新規制基準対応と並行して、次の取り組みを実施している。
(1)ソフト面の取り組み
再処理工場の保安管理については、保安上の要求事項の確認、ルールの遵守、および核物質防護保障措置を確実にする必要がある。再処理工場では、長期間停止して
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いた設備を運転して試験運転を再開していくが、運転経験者の減少および技術力維持・向上に関するリスクへの対応として、運転員に対する必要な力量を定義した教育プログラムを作成し実行している。また、運転経験者を再集約するとともに、過去のアクティブ試験での運転実績等の情報を用いた運転員への教育訓練を実施していく。また、当社再処理工場の元になったフランスのオラノ社ラ・アーグ再処理工場へ当社運転員を派遣し、現地での教育を受けるとともに、実機を用いた運転訓練を実施する計画である。これに加えて、当社社員をラ・アーグ再処理工場に常駐させ、技術的なコミュニケーションを速やかに取れる体制構築も計画している。この他、国内における日本原子力研究開発機構等の各種設備を活用した教育訓練にも取り組む計画である。
(2)ハード面の取り組み
次に、設備の工程立ち上げ時のリスクが考えられる。設備が長期間停止していることで、腐食、閉塞、沈殿、あるいは起動時の不具合が発生する可能性が考えられる。このため、工程立ち上げ時における設備の健全性確認、運転手順の検討、および外部知見・外部レビュー(ラ・アーグ再処理工場含む)を導入し、万全の体制にて取り組む。また、設備については、保守管理について原子力発電所の保守管理規程(JEAC4209-2016)に準拠したルールへ見直し、運用を行い、点検計画の整備等に取組むとともに、保守管理のしくみを改善し、設備・機器が健全な状態を維持するための管理を確実に実施していく。
(3)地域との協調
この他、安全審査合格後、安全性向上対策工事、試験運転、およびしゅん工・操業と進む中、当社の事業に対する関心が高まる絶好の機会と捉え、広聴広報活動を強化し、特に周辺地域の方々のさらなる理解を得られるよう取り組んでいる。過去の「再処理工場の安全性向上のための具体的な取組み事例について(トラブル事例集)」をリニューアルし、再処理工場の安全性確保の仕組みおよび今後の具体的な取組み事例等への理解活動を実施していく計画である。
また、当社および関係会社は、地元からの採用による雇用を拡大するとともに、地元企業への発注をさらに拡大することにより、地域の活性化に寄与していくことが期待されていることから、再処理工場の保守管理業務等の地元企業の参入拡大のため、青森県主催のマッチングフェアを活用し、メンテナンス業務等への当社ニーズの共有に取り組んでいる。さらに、地元企業が当社設備のメンテナンス業務および消耗品供給等の発注先として相応の割合を占める体制を目指し、しゅん工後の地元企業との連携を確実に構築していく。
4.結言
当社は、今後の原子力規制委員会による新規制基準に係る適合性審査およびこれに続く設工認申請等の対応を確実に行い、安全対策工事を安全最優先に進めるとともに、再処理工場のしゅん工までの期間を活用して、保安活動のさらなる改善、運転員および保守要員の訓練、設備健全性確認等に加え、周辺地域の方々への理解活動ならびに地元企業の育成等を継続的に実施し、再処理工場の安全・安定な操業運転が行えるよう全社をあげて取り組んで参る所存である。
(2019年 11月 26日)
著者紹介
著者:津幡 俊所属:日本原燃株式会社専門分野:原子核工学
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