特集記事「エネルギー国際情勢」(4) 非原子力関係の、海外のエネルギー状況

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石油石炭ガス
水力
原子力再生可能
(単位:石油換算 100万トン)図2 世界のエネルギー消費量の燃料別内訳の推移 1
特集記事「エネルギー国際情勢」(4)
非原子力関係の、海外のエネルギー状況
東京国際大学

武石 礼司 Reiji TAKEISHI
2018年には、発展途上国の合計が、 OECD諸国の合
1.はじめに
世界のエネルギー消費量は、近年、着実に増大してきた。年々の消費量の伸び率で見て、石油、ガス等の化石燃料の増大傾向を上回って、さらに高い比率で消費が伸びているのが電力消費量である。モーター等を多用する電動化、さらに電化の傾向は、運輸用および産業用のエネルギー消費において特に顕著である。電力として消費するエネルギー量が増大する傾向は、先進国と途上国の両方で進んでいる。
本稿では、世界のエネルギー消費動向の特徴を概観してみる。
2.世界のエネルギー消費の動向
2.1 先進国と発展途上国のエネルギー消費動向
世界のエネルギー消費動向を、OECD加盟の先進国と、発展途上国に 2分して見ると、図 1で示すように、2007年に発展途上国のエネルギー消費量が、 OECD諸国の合計を上回り、その後も途上国の消費量の急増の傾向が継続している。一方、 OECD加盟国のエネルギー消費量の合計は、2000年代に入ると横ばい傾向となっている。計を 4割以上も上回るに至っている。

先進国においては、 EU諸国、日本などのように、総エネルギー消費量で見た場合に、減少傾向をとる国が出始めているが、一方、発展途上国のうち、エネルギー消費量が特に大きな比率で伸びているのは、中国、インドという人口大国に加え、アジア、アフリカの人口増加率が年率 2%台、さらには 3%台と高く、かつ経済成長率も高い諸国である。


2.2 エネルギー消費の内訳の推移
世界のエネルギー消費の内訳を燃料別に見ると図 2で示すように、近年、石油が圧倒的に大きな比率を占めてきており、石炭と天然ガスが、石油の後を追っている。水力、原子力、その他再生可能エネルギー(風力、太陽光ほか)は、石油・ガス・石炭という化石燃料の消費量に比べると桁違いに少ない。
14,000
12,000
10,000
8,000

6,000 4,000 2,000 0

(単位:石油換算 100万トン)
1図1 世界のエネルギー消費量の推移 2018年における総消費量に占める比率は、石油
33.6%、石炭 27.2%、ガス 23.9%、水力 6.8%、原子力 4.4%、

特集記事「エネルギー国際情勢」(4)「非原子力関係の、海外のエネルギー状況」
その他再生可能エネルギー 4.0%である。 設は比較的短期間で可能で、発電量の増減の調整も行え
エネルギー全体としての世界の消費動向を見ると、依 ることもあり、発電量が急増中である。
然として、化石燃料への依存度が圧倒的に大きく、石油・

石炭・ガスの合計では、 85%に達している。 COP21で提示されたパリ協定が 2016年 11月 4日に発効し、低炭素・脱炭素に向けた世界の取り組みが強化される動きがあるが、世界の中では石油・石炭・ガスという化石燃料の利用インフラと供給システムが既に整備されており、再生可能エネルギーの大幅な導入を目指しても、化石燃料の供給システムは強力で、太陽光、風力などの主力電源化には、今後、多くの時間を要していくことは間違いない。
石油は特に運輸用では圧倒的に重要なエネルギー源となっているが、電動化(電気自動車: EV)の導入は、 EVの価格が高い、航続距離が短い、充電スタンドが未整備、充電時間が長い等の課題があり、補助金が出されることで普及が始まっている段階にある。本格的な普及が始まるまでは、ハイブリッド車( HV)の導入がまず進むとの見方が強くなっている。これは欧州におけるディーゼル車の燃費偽装問題があり、欧州でのディーゼル車販売の不振が生じているものの、電気自動車( EV)の販売は急増が難しく、当面、ハイブリッド車の導入を増やす以外に手がなくなっていることも影響している。
3.電力消費の動向

3.1 世界の電力消費量の推移
世界的な電力消費の推移を発電燃料別に見ると、図 3で示すように、石炭火力発電が、他の燃料を圧倒して多くなっており、しかも増大を続けていることがわかる。次いで伸びているのがガス火力発電である。続いて原子力発電が横ばい状態で続いており、原子力に追いつき追い越す勢いで伸びてきているのが再生可能エネルギーである。再生可能エネルギーは、水力、風力、太陽光、地熱、バイオマス等を含めた数値である。一方、石油火力発電は、減少傾向にある。
CO2削減の必要性が世界的に叫ばれているものの、石炭火力は、価格が安価で、しかも化石燃料の中では安定供給が可能で、価格変動も石油およびガスと比べると抑制されており、発展途上国において主力電源として依然として選択されており、設備の増設が続いている。
天然ガスは、米国でのシェールガス革命が生じたこともあり、今後も、安価で大量のガス生産が米国だけでなく、他の諸国からも次第に生じて、世界的に増産が続いていく見通しとなっている。しかも、ガス発電設備の建

(単位:テラワットアワー)図3 世界の発電電力量の推移 1

2018年の世界の発電量の燃料別の比率を見ると、石炭 45.0%、ガス 27.6%、原子力 12.0%、再生可能エネルギー 11.1%、石油 3.6%、その他(揚水式発電、その他化石燃料等)0.7%となっている。
2018年において化石燃料を用いた発電量の合計が世界で 76%を占めており、 11.1%を占めるに過ぎない再生可能エネルギーによる発電が、石炭火力およびガス火力を超えるまでには、まだまだ多くの年数が必要となっている。
しかも、電力需要の増大は今後も、特に発展途上国で続くと予測できる。発展途上国においては、電力供給の増加が経済発展のバロメーターとされており、エネルギー消費における電力消費比率が高まることが重視されている。発展途上国は、電化率の向上を経済発展の成功指標として競っており、無電化地域の解消が急務となっている。各国ともこのように、発電設備の増設に励んでいる状況がある。
また、日本を含めた先進国においても、現在では、電力消費量はゆっくりと増大すると予測されるようになってきている。日本に関して予想される電力消費量の伸びは年率 0.2%程度となっている [2]。

3.2 世界の電力消費量の内訳
図 4は 2018年の世界の石炭火力発電量の比率を示しているが、中国が 47%を占め、米国 12%、インド 12%、日本と韓国がそれぞれ 3%の比率となっている。
世界の石炭火力の発電量が今後どのように推移するかに関しては、中国とインドの動向次第と言うことができる。それは図 5を見ると明らかで、中国とインドが、急速に石炭火力の発電量を増大させている一方、米国は石炭火力の発電量を 2000年代初めから半減させており、シェールガス革命の中、さらに減少させていく傾向にある。
10 Indonesia 11 Poland 1% 12 Taiwan 1% 12 Others 11%
2%
9 Australia
2%
8 Russia
2%
7 South Africa
2%
1 China
6 Germany 47%
2%
5 South Korea
3%

4 Japan 3% 3 India 2 US
12% 12%
図4 世界の石炭火力の発電量の比率(2018年) 1
5,000 1 中国 4,500 2 米国 4,000 3 インド 3,500 4 日本 3,000 5 韓国 2,500 6 ドイツ 2,000 7 南アフリカ
8 ロシア
1,500 9 オーストラ
1,000リア 10 インドネ
500シア 11 ポーラン 0ド
して電力として供給されており、バイオマス等で熱供給となる再生可能エネルギーの割合は小さい。
既に、図 3の世界の発電電力量の推移で確認したように、再生可能エネルギーによる発電量の比率は、 2018年で 11.1%に止まっている。
図 6は世界の太陽光発電量の推移を示しているが、中国が圧倒的に多く、次いで米国、日本、ドイツ、インドの順となっている。固定価格買取制度(FIT)を 2012年から導入した日本では、太陽光発電の導入がブームとなった効果により、世界第 3位となっている。ただし、日本における買取価格の引き下げにより、日本の順位は今後低下すると予測される。インド、オーストラリア、中東諸国など、国土面積が広く、日射量に恵まれた国の発電量が増大してくると考えられる。
180 1 中国
160
2 米国
140
3 日本
120
4 ドイツ
100
5 インド
80 6 イタリア
60 7 英国
40
8 スペイン
20 9 オースト
ラリア
0 10 フランス

(単位:テラワットアワー)図6 世界の太陽光発電の発電量の推移 1
400
1 中国
1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015 2017

12 台湾 350
2 米国

(単位:テラワットアワー) 300
1図5 世界の石炭火力の発電量の推移(2018年)
250
このように見てくると、世界の石炭火力による石炭消 200
費量が今後どのような推移をたどるかは、中国とインド 150
の動向が決定的に重要な意味を持つことがわかる。
今後、ガス火力はさらに増大し、一方、石油火力は、 100
IEA(国際エネルギー機関)の要請もあり、できる限り 50
減少させようとの方向が出てくると予測される。
0

3 ドイツ 4 インド 5 英国 6 スペイン 7 ブラジル 8 カナダ 9 フランス 10 トルコ
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018

3.3 世界の再生可能エネルギーの導入量の推移(単位:テラワットアワー)再生可能エネルギーは、水力、風力、太陽光等、主と図7 世界の風力発電の発電量の推移 1
特集記事「エネルギー国際情勢」(4)「非原子力関係の、海外のエネルギー状況」
図 7は世界の風力発電量の国別の推移を示しているが、中国、米国に次いで、北海・バルト海の浅海に洋上風車の建設を進めるドイツが第 3位となっている。インド、英国が続いている。風力発電は、各国が最適地への建設を進めていくと次第に設置の適地が無くなっていくという傾向があり、将来的には、導入量が頭打ちになっていくことが予測される。
4.今後の展望

4.1 世界のエネルギー消費シナリオ
OECDの国際エネルギー機関( IEA)が 2018年に発表したニューポリシー・シナリオでは、図 8で示すように、世界の人口増と一人当りエネルギー消費量の増大に伴い、エネルギー消費量は 2040年に向けて増えるが、石炭消費量を横ばいとし、世界のエネルギー消費量が増大する部分は、ガス、原子力、それに再生可能エネルギー
18,000

その他再生可 16,000能
バイオエネル
14,000
ギー
12,000
水力
10,000
原子力
8,000
ガス
6,000
4,000
石油
2,000
石炭
0
2000 2017 2025 2030 2035 2040
(単位:テラワットアワー)図8 世界のエネルギー消費予測(ニューポリシー・シナリオ)3
16,000 14,000 その他再生可能
12,000 バイオエネルギー
10,000 水力
8,000 原子力
6,000 ガス
4,000 石油
2,000 石炭
0 2000 2017 2025 2030 2035 2040

(単位:テラワットアワー)図9 世界のエネルギー消費予測(持続可能シナリオ)3

でまかなうとのシナリオとなっている。
一方、 CO2削減を最大限に目指す持続可能シナリオにおいては、石炭消費量の大幅削減に直ぐに取り組み、エネルギー消費量も 2040年に向けて、全体としては増えないシナリオとなっている。このシナリオ通りのエネルギー消費の抑制は極めて難しいことは明らかであるが、パリ協定で言う 1.5度 Cシナリオに従うとたいへん厳しいエネルギー消費抑制政策が必要であるとの主張がなされているという点は認識し、今後の世界各国のエネルギー政策の動向を注視していく必要がある。
特に重要となるのは、図 4で示したように世界の石炭消費量の半分近く占める中国の動向である。中国国内に埋蔵される石炭の量は、現在の生産量で除すと、 38年分に過ぎず [1]、膨大なエネルギー消費を行う国が最大のエネルギー源に関して、将来的に十分な供給量が確保できていない点はたいへん危惧される。
低炭素・脱炭素を目指す動向ばかり注目するのではなく、世界のエネルギー需給状況、供給の安定性、途上国の発展とエネルギーの問題にも十分な注意を払っていく必要が生じている。

参考文献
[1] BP statistics 2019, https://www.bp.com/en/global/corporate/energy-economics/energy-outlook/energy-outlook-downloads. html
(2019年 8月 18日アクセス)

[2] 日本エネルギー経済研究所、"IEEJ Outlook 2019,エネルギー変革と 3E達成への茨の道 ,"第 430回定例研究報告会、付表エクセルデータ、電力最終エネルギー消費予測より
https://eneken.ieej.or.jp/whatsnew_op/181015teireiken. html(2019年 8月 18日アクセス)


[3] OECD IEA,"World Energy Outlook 2018"(2018).

(2019年 8月 22日)

著者紹介 
著者:武石 礼司所属:東京国際大学国際関係学部専門分野:エネルギー経済

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