特集記事「原子燃料サイクル」(5)「六ヶ所再処理施設の新規制基準に係る適合性審査の概要」

公開日:
カテゴリ: 特集記事

特集記事「原子燃料サイクル」(5)「六ヶ所再処理施設の新規制基準に係る適合性審査の概要」

1.はじめに
六ヶ所再処理施設は、国内唯一の商用再処理施設であり、新規制基準対応として、 2014年 1月 7日に事業変更許可を申請し、その後の補正を経て、現在は審査の終盤に差し掛かっている。新規制基準対応では、施設の安全性を向上させるために、落雷、内部火災、外部火災等への対策の強化を図るとともに、地震、竜巻、火山、溢水等への対策を追加している。さらに、設計上定める条件より厳しい条件により発生する可能性がある事故(以下、「重大事故」という。)に対して対策を追加している。本報では、現在行われている適合性審査の概要について述べる。
2.六ヶ所再処理施設の概要
六ヶ所再処理施設は、年間の最大再処理能力 800t・ Upr(t・Upr:照射前金属ウラン質量換算)、1日あたりの最大再処理能力 4.8t・Uprであり、日本原子力研究開発機構の東海再処理工場、仏国 Orano Cycle社の La Hague再処理工場等に採用されて実績のある PUREX
(Plutonium Uranium Reduction Extraction)法を採用してい
る。六ヶ所再処理施設の工程概要を図 1に示す。
全国の原子力発電所で発生した使用済燃料は、発電炉で 4年以上冷却された後、六ヶ所再処理施設の使用済燃料の受入れ・貯蔵工程に受入れ、貯蔵プールにて貯蔵・冷却する。 15年以上の冷却により放射能が十分に減衰した使用済燃料は、貯蔵プールから引き上げ、せん断・溶解工程において細かく切断し、燃料部分を硝酸で溶かし、溶解液とする。分離工程では、この溶解液と有機溶媒を接触させ、溶解液に含まれるウラン及びプルトニウムと核分裂生成物を分離し、さらに、ウランとプルトニウムも化学的性質の違いを利用して分離する。精製工程では、ウラン溶液とプルトニウム溶液それぞれから微量に含まれている核分裂生成物をさらに取り除いて純度を高める。脱硝工程では、精製されたウラン溶液とプルトニウム溶液から硝酸を蒸発及び熱分解させて、ウラン酸化物粉末及びウラン・プルトニウム混合酸化物粉末の 2種類の製品を製造し、貯蔵する。
一方、再処理を行う過程で発生する核分裂生成物を含む高レベル廃液は、ガラスとともに溶融した後、ガラス固化体とし保管する。また、同じく再処理を行う過程で発生する低レベル廃液、低レベル廃棄物は、濃縮、圧縮、焼却等の処理を行い、低レベル固体廃棄物とする。

図1 再処理工程概要図
3.六ヶ所再処理施設の安全性確保の考え方
六ヶ所再処理施設では、放射性物質が複数の建屋に分散し、かつ、その性状が固体、液体、気体と異なることから、各系統や機器においては、それぞれの性状に応じた設計としている。
施設全体としては、これらの異なる性状の放射性物質を施設内に閉じ込めることが最も重要な安全機能であることから、換気設備により建屋内を負圧に維持することに加え、多くの工程において使用される硝酸による腐食漏えいへの対策が必須である。
事故の発生防止の観点からは、臨界に至らないようにすることが最重要である。また、有機溶媒を使用することから火災への考慮が必要である。
また、事故対策に関して、従来の安全設計においては、深層防護の概念に基づき、異常の発生を防止すること、もし異常が発生したとしても異常の拡大を防止すること、さらに事故に至っても放射性物質の環境への放出を抑制することを満たすよう設計し、さらに評価によりその妥当性を確認してきた。
しかしながら、福島第一原子力発電所事故を踏まえると、安全設計において、想定される自然現象等に対しての措置をさらに強化することが必要である。また、設計上定める条件より厳しい条件を想定した場合に発生する可能性がある重大事故に対しても、その発生を防止することに加え、事故の拡大を防止すること及び事故の影響を緩和するための適切な措置を講ずることが必要である。
4.新規制基準を踏まえた対応
2013年 12月に施行された新規制基準においては、これまでの基準を強化・明確化するとともに、新たに基準を追加することにより、安全設計における想定への対処をより充実化している。
これを踏まえ、安全設計における想定への対処のうち、落雷、内部火災、外部火災等への対策を強化するとともに、地震、竜巻、溢水等への対策を追加することとした。
また、安全設計における想定を超えた場合に起こる重大事故への対策を追加した。
5.安全設計における想定への対処
安全設計においては、主に安全上重要な施設を防護対象として、各種の想定への対処を行う。
5.1落雷への対処
従来は想定雷撃電流を 150kAとしていたが、過去に敷地周辺で発生した落雷による最大の雷撃電流を考慮して、想定雷撃電流を 270kAとし、機器の機能を損なうことが無いよう、サージ電流による機器の故障防止として保安器の設置等を行う。図 2に、保安器の設置による機器の故障防止の概要を示す。

5.2竜巻への対処
過去、国内で発生した最大規模の竜巻(最大風速 92m/s)を考慮して、最大風速 100m/sの竜巻を想定し、防護対象の設備を建物で防護することを基本とし、屋外施設には飛来物からの防護対策を実施する。

図2保安器の設置による機器の故障防止

図3冷却塔への飛来物防護ネットの設置
特集記事「原子燃料サイクル」(5)「六ヶ所再処理施設の新規制基準に係る適合性審査の概要」

図4主排気筒への飛来物防護板の設置
図 3に飛来物防護ネット、図 4に飛来物防護板の設置の概要を示す。

5.3火山の影響への対処
降下火砕物による設備故障の防止として、フィルタの追加設置等により清掃や交換が行えるようにすることで、非常用ディーゼル発電機等、運転時に外気を取り入れる必要がある設備の機能を維持する。

5.4地震への対処
基準地震動を既認可の 250galから 700galに引き上げ、必要な耐震性を確保するための補強工事を実施する。

5.5津波への対処
2011年東北地方太平洋沖地震に起因する津波や最新知見を踏まえて評価した結果、再処理施設は標高約 55mに位置することから、津波対策が必要ないことを確認した。

5.6溢水への対処
溢水源となる機器や配管から溢水量を評価した上で、耐震性の強化による溢水(薬品漏えい)源の排除や地震時に自動で閉止する遮断弁の設置による漏えい量の低減を図る。
また、堰、防水扉等の設置により、機器のある部屋への溢水の流入を防止するとともに、水密化や溢水防護板の設置により機器が被水することを防止する。さらに、蒸気漏えいに対しては、蒸気防護板を設置することにより影響を緩和する。これらの対策の概要を図 5に示す。

5.7内部火災への対処
再処理施設特有の火災に加え、電気火災等の一般火災の発生に対しても、安全上重要な施設の安全機能が損なわれないよう、難燃ケーブルの使用、火災感知器の多様化、及び耐火壁(防火ダンパ、貫通部シール等)による 3時間耐火対策を実施する。

5.8外部火災への対処
再処理施設から 12kmの範囲内での可燃物(植生)、風向き等の気象条件を基に森林火災を想定し、再処理施設への延焼を防止するため、再処理施設周辺に幅 25m以上、長さ約 7kmの防火帯(外部火災からの延焼被害を食い止めるための、可燃物が無い帯状の地域)を設置する。図 6に、防火帯の概要を示す。
6.重大事故等への対処

6.1重大事故等への対処方針
重大事故等への対処の基本的な方針は以下のとおりである。
①事故により発生する放射性物質を可能な限り再処理
施設内に閉じ込める。ただし、セルの内圧上昇によ
る放射性物質の経路外放出等の二次的リスクが発生
する場合に限り、フィルタ等を通じて管理放出を行
う。

②地震により常設の設備が使用できなくなる可能性を

図5 溢水対策の概要図6 再処理施設の配置図

踏まえて、主に可搬型の設備を用いて対処する。可搬型の設備の例として、蒸発乾固への対策等に使用する中型移送ポンプを図 7に、有機溶媒火災への対策に使用する窒素濃縮空気供給装置を図 8に示す。
③六ヶ所再処理施設では、全交流動力電源の喪失等により複数の事故(蒸発乾固 59機器、水素爆発 86機器、等)が同時に発生する可能性がある。そのため、安全機能の喪失から放射性物質の放出に至るまでの
「事象進展の早さ」と、放出される放射性物質の量による「環境影響の大きさ」の観点から事故を分類し、その重要度に応じて優先順位を定めて対処する。表 1に重要度分類を示す。
また、せん断する使用済燃料の冷却期間を、従来の 4
年から 15年に変更することにより、重大事故等への対
処に要する時間を確保して、対処を確実に実施すること

図7中型移送ポンプ

図8 窒素濃縮空気供給装置

に加え、万が一重大事故等が発生した際の放射性物質の放出量を低減する。

6.2臨界事故への対処
臨界事故については、従来より十分な安全余裕を有する核的制限値の設定や単一故障基準の要求があり、これらを厳格に適用した安全設計及び安全管理を行っていることから、臨界事故の発生の可能性は極めて低いが、再
表1重要度分類


特集記事「原子燃料サイクル」(5)「六ヶ所再処理施設の新規制基準に係る適合性審査の概要」
処理施設の特徴を考慮し、臨界事故の発生を想定した対主排気筒から管理放出する。管理放出の概要を図 10に策を整備する。示す。
臨界事故の拡大防止対策として、事故が発生している貯槽等に、可搬型の設備を用いて可溶性中性子吸収材を供給することで臨界の収束を図る。

臨界事故により放出される放射性物質は、セルに導出し建屋内に滞留させることで、放射性エアロゾルの沈着、短半減期核種の減衰等を図る。

6.3蒸発乾固への対処
貯槽等に内包する溶液の崩壊熱は、安全冷却水系により冷却を行っている。蒸発乾固は、冷却機能の喪失により、溶液が温度上昇し沸騰した後、乾固に至る事故である。
したがって、重大事故の発生防止対策としては、中型

図9可搬型空気圧縮機からの空気の供給
移送ポンプ等を用いて安全冷却水系の配管に水を通水することで、貯槽等に内包する溶液を冷却する。
また、通水による冷却に失敗した場合には、沸騰による放射性物質の放出が想定されることから、事故の拡大防止対策として、中型移送ポンプ等を用いて貯槽等へ直接注水することにより、放射性物質の発生抑制及び蒸発乾固の進行を防止する。
溶液の沸騰により放出される放射性物質は、セル等に導出し閉じ込めることで放射性エアロゾルの沈着を期待するとともに、セルの内圧が上昇し、経路外放出の可能性が高まった場合には可搬型フィルタ等を通じて主排気筒から管理放出する。

6.4水素爆発への対処

溶液系の工程においては、溶液内で放出された放射線により水が分解されることで水素が発生する。そのため、安全圧縮空気系により空気を供給して常時水素掃気を行うとともに、着火源を排除することにより、水素爆発の発生を防止している。
水素掃気機能が喪失すると、水素爆発に至る可能性があることから、重大事故の発生防止対策としては、安全圧縮空気系の配管等を用いて可搬型空気圧縮機から空気を供給して水素を掃気する。また、空気の供給に失敗した場合には、拡大防止対策として、別の配管を用いて空気の供給を行う。空気の供給の概要を図 9に示す。
水素掃気により放射性エアロゾルが空気中に同伴することから、セルに導出してセルに閉じ込めることで沈着を期待するとともに、セルの内圧が上昇し、経路外放出の可能性が高まった場合には可搬型フィルタ等を通じて

図 10水素爆発に対する管理放出の概要


6.5有機溶媒火災への対処
六ヶ所再処理施設で採用している PUREX法においては、ウランやプルトニウムの抽出の工程において有機溶媒を使用する。
配管から有機溶媒が漏えいした場合、回収がなされなければ崩壊熱により有機溶媒の引火点以上に加熱され、着火することで有機溶媒火災の可能性がある。
重大事故の発生防止対策としては、有機溶媒が漏えいして回収ができない場合において、可搬型の窒素濃縮空気供給装置から有機溶媒が漏えいしたセルに窒素濃縮空気を供給することにより、消炎濃度に到達させ、これを維持することにより、火災の発生を防止する。
発生防止対策が機能せず火災が発生した場合には、セルの防火ダンパの閉止等によりセルへの給気を遮断することで窒息消火を図る。
また、火災により煤煙に同伴する放射性物質については、火災により発生する可燃性ガスのリスクを考慮しフィルタにより除去した後に排気する。

6.6TBP等の錯体の急激な分解反応への対処
PUREX法において、硝酸溶液中のウラン及びプルトニウムを抽出するための抽出剤として TBP(Tri-Butyl Phosphate)を使用している。 TBP及びその分解生成物と硝酸ウラニル等の錯体は、 135℃を超えると急激な分解反応に至る可能性がある。
そのため、加熱を行う濃縮缶に TBP等が混入しない措置を講ずるとともに、濃縮缶の温度制御を実施しているが、万が一これらが機能せず急激な分解反応に至ったことを想定して、対策を整備する。
事故の拡大防止対策としては、濃縮缶への溶液の供給と加熱を停止し、急激な分解反応の再発を防止する。
また、急激な分解反応により発生する放射性エアロゾルは、セルに導出し閉じ込めることで沈着を期待する。

6.7燃料貯蔵プールにおける冷却機能喪失への対処
発電炉から受入れた使用済燃料は、燃料貯蔵プールに貯蔵する。使用済燃料の崩壊熱は、プール水を循環させ、さらに熱を外部に排出することにより除去している。
燃料貯蔵プールの冷却機能が喪失した場合には、使用済燃料の崩壊熱によりプール水が沸騰して水位が低下し、使用済燃料自体の損傷に至る可能性がある。したがって、これを防止するために、中型移送ポンプ等を用いて燃料貯蔵プールに注水することにより、燃料貯蔵プールの水位を維持する。
燃料貯蔵プールからのプール水の大量漏えいが発生した場合には、使用済燃料に対してスプレイ設備から散水することで、損傷の緩和を図る。

6.8放射性物質の漏えいへの対処
再処理の過程で発生する高レベル廃液は、ガラス溶融炉においてガラス原料と混合して加熱し、ガラス固化体として貯蔵する。
ガラス溶融炉から発生する気体状の放射性物質は、廃ガス洗浄器等で浄化した上で主排気筒から放出している。全交流動力電源が喪失した場合、ガラス溶融炉の加熱は停止するものの、冷却までに時間を要することから、それまでは気体状の放射性物質が発生して固化セル内に放出し続けるとともに、浄化機能や排風機が停止することにより、フィルタや主排気筒を経由せずに外部に放射性物質が放出される可能性がある。
したがって、重大事故の拡大防止対策として、固化セルからの排気系(固化セル圧力放出系)のダンパを開放することで、排風機を用いることなく、放射性物質をフィルタにて除去した上で、主排気筒から管理放出する。

6.9水源の確保
重大事故等に迅速に対処するため、敷地内水源として耐震性を有する貯水槽( 20,000m3)2基を新たに設置する。また、重大事故等への対処を継続するため、敷地外水源として二又川及び尾駮沼を確保し、貯水槽へ取水するための設備を整備する。図 6に、新たに設置する貯水槽の位置を示す。

6.10緊急時対策所
支援組織の拠点として、約 360人を収容でき、耐震性を有する緊急時対策所を新たに設置する。図 6に、新たに設置する緊急時対策所の位置を示す。

6.11体制
再処理事業所として、同じ敷地内に設置される再処理施設と MOX燃料加工施設の重大事故等への対処を実施するための対策組織を構築する。
対策組織のうち、対策活動そのものを行う実施組織は、中央制御室を拠点とする。主に当直員で構成し、常に必要な要員数を確保することに加え、交代要員が参集できる体制を整備する。また、支援組織は、夜間・休日であっても事故発生時に参集し、緊急時対策所を拠点として実施組織の支援を実施する。
7.さらなる安全性向上のために
今後は、自然現象等に係る最新の知見を反映して、措置が適切であるかを確認するとともに、より確実かつ効果的な対策が講じられるよう、最新の技術知見の収集に努め、さらなる安全性の向上に資する。
(2019年 11月 26日)
著者紹介 

著者:有澤 潤所属:日本原燃株式会社 再処理事業部専門分野:原子力

著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)