特集記事「高温ガス炉」(5)「高温ガス炉の実用化に向けた取り組み」

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特集記事「高温ガス炉」(5)「高温ガス炉の実用化に向けた取り組み」

特集記事「高温ガス炉」(5)
高温ガス炉の実用化に向けた取り組み
日本原子力研究開発機構

大橋 弘史 Hirofumi OHASHI
1.緒言
本稿では、我が国の優れた高温ガス炉技術及びその熱利用技術の実用化に向けた取り組みとして、高温ガス炉技術及びその発電技術に関して、原子力機構における研究開発の現状と今後の技術課題、実用高温ガス炉の導入スケジュールについて述べる。
2.研究開発の現状と今後の課題
2.1 燃料
燃料の研究開発においては、図 1に全体概要を示すように、これまでに被覆燃料粒子の商用規模の製造技術を原子燃料工業㈱と共同開発してきた。HTTR環境を模擬した高温ヘリウムインパイルガスループ(OGL-1)試験等により、核分裂生成物(FP)の閉じ込め性能を把握し、照射後試験により各種物性値を取得、また、被覆燃料粒子の破損機構を解明し、HTTR装荷燃料(最高燃焼度 33 GWd/t)の製造につなげた。現在は、燃焼度を 100 GWd/tまで上昇させた燃料を原子力機構が設計、原子燃料工業㈱が製造し、その照射性能を把握するため、カザフスタン核物理研究所(INP)が国際科学技術センター(ISTC)のレギュラープロジェクトのもとで、2010年から 2015年にかけて照射試験、2017年 3月から 2カ年計画で照射後試験を実施しており、燃焼度 100 GWd/tにおける燃料の技術的成立性の実証を進めている [1]。今後の課題は、さらなる高燃焼度化及び高出力密度化であり、実用高温ガス炉で目標としている 160GWd/tの高燃焼度化燃料に関する解析評価及び炉心の出力密度を HTTRの 2.5 MW/m3から 6 MW/m3に高めつつ安全性向上の観点から燃料温度を低減させるための除熱性能向上燃料要素の開発を行っている。更に、経済性、安全性の観点から、これらの燃料製造や燃料特性の知見を反映した実用高温ガス炉の燃料設計方針の作成も

図1 燃料の研究開発


2.2 黒鉛
黒鉛材料の研究開発においては、これまでに、高強度で耐放射線性に優れた等方性黒鉛(IG-110)を東洋炭素㈱と共同で開発した。また、HTTRの黒鉛構造物に適用する黒鉛構造設計方針及び黒鉛検査基準を作成するとともに、黒鉛構造物の供用期間中検査手法を開発してきた。今後、国際協力などを活用して実用高温ガス炉の照射条件(照射温度、照射量)における黒鉛特性を取得し、黒鉛の設計曲線を検証・高精度化を図るとともに、HTTRを活用して炉心支持黒鉛構造物の経年劣化データの取得及び健全性の確認や供用期間中検査技術の検証を行う。
2.3金属・高温機器
金属材料・高温機器の研究開発においては、これまでに、通常運転時約 950℃の高温ヘリウム雰囲気中で使用可能な耐食・耐熱合金ハステロイ XRを三菱マテリアル㈱と共同で開発した。また、原子炉圧力容器用 2.25Cr-1Mo鋼等のデータベースを確立し、HTTRの第1種機器の高温構造設計に適用する高温構造設計方針を作成した。更に、中間熱交換器や高温二重管など高温機器の要素試験を実施し構造健全性を確認した。今後、HTTR試験によ
実施している。り中間熱交換器の伝熱性能等の経年劣化の確認及びハス
テロイ XRのサーベイランス試験を実施していく。また、実用高温ガス炉システムの設計では、 HTTRには設置されていない蒸気発生器や HTTRでの強制循環方式から自然循環方式に変更した炉容器冷却設備が採用されている。これらの新たな高温機器については、設計手法の確立、性能確証のための解析的評価又は実験的評価が必要になると考えられる。


2.4 炉工学
炉物理の研究開発においては、これまでに、高温ガス炉臨界実験装置( VHTRC)を用いて HTTRの核設計計算手法の精度が設計誤差範囲内に収まることを確認した。現在は、 HTTRの燃焼中期までのデータを用いて、核設計計算手法の精度評価及び妥当性の検証を進めている
[2]。更に、HTTRから高性能化を図るための炉心設計手法の検討などを進めている [3]。今後、 HTTRにおいて燃焼末期までのデータを取得し、核設計計算手法について、燃料の燃焼を考慮した過剰反応度の計算精度評価及び妥当性の検証を実施する。更に、核データに起因する誤差評価や誤差低減の手法整備などを行う。これらの研究開発によって高度化した設計手法を活用し、実用高温ガス炉の炉心設計の高度化を図る。


2.5 安全性及び安全基準
高温ガス炉の安全性の研究開発においては、これまでに、炉心の耐震試験、1次冷却設備内面への放射性物質沈着挙動の把握、配管破断時の放射性物質離脱挙動の把握、空気侵入事故模擬試験、黒鉛酸化試験等を実施してデータを蓄積して安全解析コードの検証を行い、 HTTRの安全評価手法を確立してきた。HTTRの運転開始後は、安全性実証試験として原子炉出力 30% からの炉心流量喪失試験によって高温ガス炉の固有の安全性を実証するとともに、得られたデータを用いて安全解析コードの高度化を図っている [4]。また、最近では産学官の協力によって確率論的リスク評価手法の開発を進めている [5]。今後、 HTTRの再稼働後に、原子炉出力 100%からの炉心流量喪失試験、原子炉出力 30%において炉心流量の喪失とともに原子炉圧力容器外面から炉心を冷却する炉容器冷却設備の流量喪失させる炉心冷却喪失試験を実施する計画である。また、安全評価手法の高度化、特に蒸気タービン発電高温ガス炉システムにおいて、 HTTRでは評価事象ではなかった1次冷却設備内面に沈着した放射性物質の水・蒸気による離脱挙動に関する評価手法の
高温ガス炉の安全基準の整備(図 2)については、これまでに、軽水炉の安全基準を基に高温ガス炉の特長を考慮し HTTRの安全基準を策定した。その後、 HTTRを用いた安全性実証試験などで実証された高温ガス炉の固有の安全性を考慮した実用高温ガス炉システムの安全基準を日本原子力学会研究専門委員会において検討した。現在は、 IAEAの原子力エネルギー局が主導する協力研究計画( CRP)において各国の高温ガス炉専門家と国際標準の原案検討を実施している。今後、 HTTRを用いた安全性試験によって、被覆燃料粒子の核分裂生成物( FP)の閉じ込め性能の検証による安全基準の確証、 IAEA安全基準の策定を担当している IAEA安全局での安全基準策定プロセスに則った安全基準の検討が期待される。

図2 実用高温ガス炉安全基準の整備
2.6
使用済燃料、黒鉛廃棄物

使用済燃料・黒鉛廃棄物の研究開発においては、これまでに、軽水炉の再処理工程へ接続するために必要な、高温ガス炉特有の前処理工程(解体工程、焙焼工程、破砕工程)の技術原理を確認してきた。今後、国内並びに高温ガス炉輸出する国でも使用済み燃料に関する政策を考慮しつつ、使用済み燃料の直接処分も考慮いれて検討を進めて行く。黒鉛廃棄物については、黒鉛中の窒素量が少ないため、低レベル廃棄物として処理できると評価しているが、黒鉛中の窒素量の測定や HTTRの燃料交換時に炉心から取り出したサーベイランス試験片中に含まれる C-14の放射能量を測定するなどのデータの蓄積を図る。

2.7
発電技術


ヘリウムガスタービン発電技術の研究開発においては、これまでに、世界最高の圧縮機効率を有するヘリウムガス圧縮機、一般産業用熱交換器に比べ約 10倍の熱

高度化を行う。交換密度を有する再生熱交換器用のコンパクト熱交換器
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を三菱重工業㈱と共同で開発してきた(図 3)。現在、一般産業ガスタービンのメインテナンス方法の適用を可能とするため、ガスタービン翼への FP沈着量の低減に関わる要素技術開発及びヘリウムガスタービン軸からのヘリウムガス漏洩を抑制するための軸シール技術開発を実施している。今後、 HTTR-GT試験によるヘリウムガスタービン発電技術の実証、ガスタービンの高温での運転データを取得するなど、商用炉に向けた開発を行う。

図3 ヘリウムガスタービンの研究開発

2.8 高温ガス炉と熱利用施設との接続技術
高温ガス炉と熱利用施設との接続技術の研究開発においては、これまでに、異常時に原子炉と熱利用施設を隔離するための高温隔離弁の要素技術開発、熱利用施設の異常に伴う熱負荷変動を吸収緩和する除熱機構の炉外試験による実証、可燃性ガス及び毒性ガスの原子炉への影響評価手法開発、熱利用施設へのトリチウム移行挙動評価手法開発などを実施してきた。また、 HTTRを用いたヘリウムガスタービン発電技術及び ISプロセス水素製造技術の総合性能試験に向けて、 HTTRにヘリウムガスタービン発電施設及び ISプロセス水素製造施設を接続したシステム(HTTR-GT/H2)の設計、安全評価を実施してきた(図 4)[6]。更に、日本原子力学会研究専門委員会において、原子炉へ接続する熱利用施設を一般産業施設として設計、建設、運転するための安全基準案を作成するとともに、当該安全基準に適合するための設計について検討を実施してきた。今後、熱利用施設の接続技術の確立に向けて、HTTR-GT/H2試験装置の設置許可を通じた原子力規制委員会による熱利用施設接続に係る安全基準の策定、適合のための設計方針や設計の妥当性確証が必要である。
3.実用化への道筋
高温ガス炉の研究開発と導入スケジュール(原子力機


図4 HTTR-GT/H2試験装置

構案)を図 5に示す。高温ガス炉の実用化にあたっては、比較的小型であることなどを鑑み、HTTRから実証炉(商用炉 1号機)、実用炉(商用炉 N号機)の段階を経て商用化されることを想定している。
原子力機構においては、 2020年代の HTTR-GT試験、 2030年代の HTTR-GT/H2試験を中心として、 2040年頃を目途に前述の研究開発を完了させ、国内産業界へ技術移転を図る。また、諸外国においては、原子炉出口冷却材温度 750℃の高温ガス炉を用いた蒸気タービン発電又は高温蒸気供給を行うシステムの導入が検討されている。自国への高温ガス炉導入を目指すポーランドなどとの国際協力を有効活用し、原子力機構で実施する技術開発を当該国の実験炉を用いて実施し、コスト削減及び開発期間の削減を図り、国内産業界に技術移転する。その後、当該国での実証炉などを活用し、 2030年代の蒸気発電用高温ガス炉システムの早期商用化を図ることが重要と考える。ガスタービン発電高温ガス炉システムについては、原子力機構における 2020年代の HTTR-GT試験の成果を活用し、 2030年代の実証炉建設、 2040年代の商用化を目指し、既存技術を活用できる天然ガス水蒸気改質法を用いた水素製造システムについても同時期の商用化を目指す。熱化学法 ISプロセスを用いた水素・電力併給高温ガス炉システムについては、 2040年代の実証炉建設を目指して、開発を継続する。
4.結言
本稿では、高い安全性を有する高温ガス炉技術及びその熱利用技術に関して、原子力機構における研究開発の現状と今後の技術課題、実用高温ガス炉の導入スケジュールについて述べた。今後、国内の産学官の連携や国際協力の活用により、技術課題が早期に解決されて我

図5 高温ガス炉の研究開発と導入スケジュール案
が国の優れた高温ガス炉技術及びその熱利用技術が実用化に至り、当該技術が国際的な原子力エネルギー利用における安全性向上や二酸化炭素排出量削減、我が国のエネルギーセキュリティなどに貢献することを期待したい。
参考文献
[1] S. Ueta, et al.:"Irradiation test and post irradiation examination of the high burnup HTGR fuel", Proceeding of HTR 2016, Paper 18491, Las Vegas, NV, November 6-10, 2016 (2016).
[2] M. Goto, et al.: "Long-term high-temperature operation of the HTTR", Nuclear Engineering and Design, Vol.251, pp. 181-190 (2012).
[3] M. Goto, et al.: "Conceptual study of an experimental HTGR upgrading from HTTR", Proceeding of HTR 2018, Paper HTR 2018-132, Warsaw, Poland, October 8-10, 2018 (2018).
[4] K. Takamatsu, et al.: "Experiments and validation analyses of HTTR on loss of forced cooling under 30% reactor power", Journal of Nuclear Science and Technology, Vol.51, Nos.11-12, pp.1427-1443 (2014).
[5] H. Sato, et al.: "Probabilistic Risk Assessment Method Development for High Temperature Gas-cooled Reactors
(1) Project overviews", Proceedings of ICAPP 2017, Paper 17078, April 24-28, 2017 Fukui and Kyoto, Japan (2017).
[6] X. Yan, et al.: "Design of HTTR-GT/H2 test plant", Nuclear Engineering and Design, Vol.329, pp. 223-233 (2018).
(平成 31年 2月 25日)
著者紹介 
著者:大橋 弘史所属:日本原子力研究開発機構高速炉・新型炉研究開発部門専門分野:原子炉安全工学

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