特集記事「原子燃料サイクル」(8)「水中のステンレス製構造物に対する高信頼度の水中レーザ溶接保全工法の開発」
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1.緒言
再処理工場の使用済燃料貯蔵プールは、内面に施工された厚さ 4 mmまたは 6 mmのステンレス鋼製内張り(以下、「ライニングプレート」と称する)により内部のプール水を保持して、原子力発電所から受入れた使用済燃料を安全に貯蔵している。それらのライニングプレートは溶接により接合されており、その溶接線全長は、国内初の商業用再処理工場である六ヶ所再処理工場の場合、約 13 kmにも及ぶ。 Fig.1に六ヶ所再処理工場の使用済燃料貯蔵プールの構造を示す。また、 Fig.2にライニングプレートの断面構造を示す。
それらのライニングプレートに対して恒久的な保全を行うための手段として、水中環境下で溶接施工を行う工法及び装置の開発が必要となっている。保全対象箇所の特性として、使用済燃料の冷却維持のため、最大水深 12 mの環境下での水中保全が必須であること、保全対象箇所がクラック等でライニングプレートを貫通している場合、ライニングプレートの表面と裏面の間で水圧と大気圧の圧力差(以下、「差圧」という)が発生することがあげられる。
水中環境下での溶接法(以下、「水中溶接法」と称する)は、乾式法と湿式法に大別できる [1]。
乾式法の内、ライニングプレートのような薄板に対して、遠隔自動での水中溶接法としては、水中 TIG溶接と水中レーザ溶接が考えられる。
乾式法の水中 TIG溶接は、保全対象箇所全体または局部をチャンバーなどで気中環境にすることで、多くの施工実績のある気中と同様の溶接条件を適用可能であるが、装置が比較的大型になり、狭隘部への適用が困難という特徴を有する。
乾式法の水中レーザ溶接は、低入熱で高精度の溶接と装置のコンパクト化が可能であり、狭隘部へも適用できるという特徴を有する。
これら乾式法の開発において、まずは、早期の実機適用を目的に、保全対象箇所にライニングプレートと同材質の当て板を設置して、乾式法による水中 TIG溶接にて当て板周辺にすみ肉溶接を行う工法を開発し [2]、実機への適用準備を整えた。
(Backside of lining plate)
Fig.2Structureofcrosssectionof stainlesssteelliningplate
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なお、乾式法による水中レーザ溶接のこれまでの開発においては、保全対象箇所がクラック等でライニングプレートを貫通している場合、ライニングプレート裏面方向への溶接金属の溶け抜けが発生する等の課題が明らかとなっていた。また、水中 TIG溶接と同様に、当て板周辺にすみ肉溶接を行う工法では、当て板内部に閉じ込められる水の水蒸気化による内圧上昇抑制の観点から、施工中のガス抜きのために、水蒸気噴出し防止孔の事前設置と施工後の孔埋め処置が必要なことが報告されており [3]、施工手順や装置の複雑化という実用面での課題が明らかとなっていた。
そこで、水中レーザ溶接の実用面での課題を克服できる新たな工法を開発することとした。ここでは、新たな工法の概念と、新たな工法が実機適用条件でも成立することを確証するための試験の結果について報告する。
2.新たな工法の概念と開発目標
新たな工法の開発目標として、①溶融金属の溶落ちや水蒸気の噴出しが発生せず、安定して保全対象箇所の封止を完了できること、②水蒸気噴出し防止孔の事前設置と施工後の孔埋め処置が不要で施工が簡便であること、③内部に閉じ込められる水の蒸発量を抑制するため、短時間で施工が完了できること、④保全対象箇所の表面状態(うねりや凹凸)に柔軟に対応できることとした。
これらの開発目標をクリアするために、保全対象箇所を覆うように設置したライニングプレートと同材質の薄板に対して、薄板を溶加材として活用し、鉛直方向から 1周途切れなく薄板を貫通させる 1パス溶接を実施する工法(以下、「レーザ薄板貫通溶融溶接工法」と称する)を試案した。Fig.3に供試体の模式図を示す。
Mock crack
Temporary
(full penetration)
welding
Base plate Thin plate
Fig.3Schematicdrawingoftestpieces
3.試験方法
レーザ薄板貫通溶融溶接工法が実機適用条件でも成立することを確証するための試験として、水深やライニングプレートの貫通によるライニングプレートの表面と裏面間の差圧状態を、段階的に実機の保全箇所の環境条件に近づけることとし、次のとおり、 3段階の試験を実施した。Fig.4に試験装置の模式図を示す。
試験① :浅い水深にて、レーザ薄板貫通溶融溶接工法が成立するか確認
試験② :水深 20 mにて、レーザ薄板貫通溶融溶接工法が成立するか確認
試験③ :水深 15 m、差圧模擬環境にて、レーザ薄板貫通溶融溶接工法が成立するか確認
4.試験結果
水中レーザ溶接の実用面での課題を克服する新たな工法として、レーザ薄板貫通溶融溶接工法を開発し、次の結果を得た。 Fig.5及び Fig.6に試験②及び試験③の結果を示す。
1)レーザ薄板貫通溶融溶接工法が成立する基本的な条件を確立するため、浅い水深(水頭圧のみ)で溶接試験を実施し、溶接部の外観観察及び浸透探傷試験結果から、水中においても水蒸気噴出し防止孔無しで、水蒸気の噴出しが発生せずに安定して保全対象箇所を封止できることを確認した。
2)実機の最大水深(12 m)以上の水深 20 mを模擬して溶接試験を実施し、溶接部の外観観察及び浸透探傷試験結果から、水蒸気噴出し防止孔無しで、水蒸気の噴出しが発生せずに安定して保全対象箇所を封止できることを確認した。
3)実機における最も厳しい条件である差圧と水深 15 mを模擬し、さらにライニングプレートと薄板間のギャップを模擬して溶接試験を実施し、溶接部の外観観察及び浸透探傷試験結果から、水蒸気噴出し防止孔無しで、水蒸気の噴出しが発生せずに安定して保全対象箇所を封止できることを確認した。
4)それぞれの試験における断面マクロ観察から、断面の形状と溶込み深さに異常は見られず、水中においても気中と遜色のない溶接施工が可能であることを確認した。
5.まとめ
以上の結果から、レーザ薄板貫通溶融溶接工法は、開
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発目標をクリアし、実機適用条件でも成立する工法であるという確証を得た。今後は実機適用に向け、実機の施工箇所や施工姿勢を模擬したデータ拡充試験を実施する等、実機への適用に向けた更なる検証を進める所存である。
参考文献
[1]原子力発電設備維持に係る技術基準について,(財)発電設備技術検査協会 (1996), 395-433.
[2]尾花,浜田,他:使用済燃料貯蔵プール向け水中 TIG 溶接保全技術の開発,溶接学会論文集 第 25 巻 第4号 (2007), 519-531.
[3]椎原,田村,他:水中レーザ溶接技術の開発 : 当て板補修工法,溶接学会全国大会講演概要 第 79集 (2006), 288-289.
(2019年 11月 26日)
著者紹介
著者:浜田 泰充所属:日本原燃株式会社 再処理事業部専門分野:保全、水中溶接
Fig.4Schematicdrawingofexperimentsystems
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Depthofwater[m] 20 20
Laserpower[kW] 2 3
Weldingspeed [m/min] 1 1
Thinpatethickness [mm] 2 2
Beadappearance
Penetranttest
(PT)
Crosssection
macro
Fig.5Photographsofweldbeadappearance,penetranttest,andcross-sectionmacro(Experiment② )
Depthofwater[m] 15 15
Laserpower[kW] 3 3
Weldingspeed [m/min] 1 1
Thinpate thickness[mm] 3 3
Typeofpartition Non Type3
Beadappearance a b b a b ab a
Penetranttest
(PT)
Crosssection
macro
(a-a) (b-b) (a-a) (b-b)
Fig.6Photographsofweldbeadappearance,penetranttest,andcross-sectionmacro(Experiment③ )
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