特集記事「原子燃料サイクル」(9)「電磁誘導法による肉厚測定技術の開発」
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1.緒言
再処理施設のセル内には加熱ジャケットが付属している二重缶構造容器が設置されており、厳しい腐食環境下にあることから、腐食評価を行う為、遠隔による二重缶構造の容器内側の肉厚測定が可能な保全技術を必要としている。そこで、既存技術である渦流探傷法を応用した電磁誘導法による肉厚測定センサを開発し、二重缶構造容器の内缶の肉厚測定技術の研究開発を行ってきた。
開発にあたり、先ずは電磁誘導法による肉厚測定センサの開発を行い、外缶厚さ 30mm、内缶厚さ 35mmの二重缶構造容器の内缶厚さを測定できることを確認している。肉厚測定センサの開発について、一定の成果が出たことから、現在は肉厚測定センサを再処理施設セル内に搬出入させる導入装置、セル内に搬出入する際に必要な遮蔽装置、セル内に搬入された肉厚測定センサを二重缶構造容器下部にアクセスさせ、容器にセンサを押し付けるためのアクセス装置の開発に着手しており、概念設計、要素試験の一部の成果が纏まったことから、その成果を発表する。
2.測定装置の概要および構成
2.1電磁誘導法肉厚測定原理
電磁誘導法による測定原理は、既存技術として既に確立している渦流探傷法を応用した技術である。渦流探傷法は導電性のある測定物の近くに交流を通じたコイルを接近させ、電磁誘導現象によって測定物に発生する渦電流の変化を検出して探傷試験を行う方法である。電磁誘導法による肉厚測定原理は、渦流探傷法と同様に測定物に発生する渦電流の変化を測定物肉厚の変化量に変換し、測定する手法である。渦流探傷法の測定概念図を図 1に、電磁誘導法による二重缶構造容器の測定概念図を図 2に示す。
図 1渦流探傷法測定概念図
図 2電磁誘導法による二重缶容器測定概念図
2.2装置全体構成
二重缶構造容器の肉厚測定装置は前述で説明したセンサの他、導入装置、遮蔽装置及びアクセス装置で構成する。装置全体構成図を図 3に示す。
図 3二重缶構造容器肉厚測定装置全体構成図
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3.開発結果
3.1 導入装置設計検討結果
導入装置はセンサを積載したアクセス装置をセル外からセル内に搬入する装置である。
導入装置の設計として 2018年度開発時は表 1に示す項目を実施した。遠隔による操作が必要な装置において、非常時にセル内から装置を回収する機構の検討については重要な課題であり、本機構については概念設計を完了させたが、今後、実際に回収が可能なことであることを要素試験を実施して検証する必要がある。装置外観を図 4に示す。
表1 導入装置検討結果
3.2 アクセス装置の位置決め方式検討結果
アクセス装置はセンサを積載し、セル内に設置されている二重缶構造容器下部にアクセスし、容器下部にセンサを押し付けて肉厚測定を行うための装置である。
アクセス装置の設計要求の一つとして、測定の都度セ
ンサを決まった場所に押し付けることが求められる。 2018年度開発時は表 2に示す項目を実施した。位置決め方式の概念図を図 5から図 7に示す。
表 2アクセス装置位置決め方式検討結果
図5 床勾配情報を反映したアクセス装置位置決め方式概念図
図4 導入装置外観図
図6 三次元測定によるアクセス装置位置決め方式概念図
図 7カメラモニタによるアクセス装置位置決め方式概念
3.4アクセス装置走行車輪型式の検討結果
アクセス装置の設計要求として、センサを積載し、セル内を二重缶構造容器下部にアクセスできることが求められる。
2018年度開発時は表 4 に示す項目を実施した。
表 4アクセス装置走行車輪選定検討結果
3.3アクセス装置によるセンサ押し付け方法検討結果
アクセス装置の設計要求として、センサを二重缶構造容器に均等に押し付けることが求められる。
2018年度開発時は表 3に示す項目を実施したが、今後要素試験を実施し、均一な押し付けが可能であることを確認していく必要がある。
センサ押し付け方式の概念図を図 8 に示す。
表 3アクセス装置によるセンサ押し付け方式検討結果
図 8アクセス装置によるセンサ押し付け方式概念図
図 9アクセス装置走行車輪要素試験実施状況
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検討の結果、アクセス装置の走行車輪は平行移動が可能であり、位置決め性が高いメカナムホイールを採用することとした。また、メカナムホイールローラの材質、個数等の検討を行い、複数の種類のメカナムホイールを使った要素試験を実施し、ケーブルを牽引するために必要な摩擦力が得られるメカナムホイールの選定を完了させた。
アクセス装置走行車輪の要素試験実施状況を図 9 に示す。
装置に関する開発については、現時点で概念設計を完了し、メカナムホイール性能確認等の要素試験を実施しているが、今後、他機構の要素試験を追加実施していく必要がある。また、本開発の最終目的はセル内に収められている二重缶構造容器の実測定であることから、セル内での実測定の前に実規模の模擬セルを製作し、センサと装置の組み合わせた試験を実施して実測定時の機器故障リスクを低減していく必要がある。
特に非常時の装置の回収方法については、万全を期して開発を進めていく必要がある。
4.結言
これまでの開発により、センサ、装置ともに実機製作に着手するための概念設計が完了した。今後は要素試験を実施し、そこで得られた知見を設計にフィードバックしていき、開発を進めていくこととなる。
本開発は測定対象物にセンサを接触させずに測定する技術開発であり、難しい技術であるが、一つずつ課題を解決しながら開発を進めていく予定である。
参考文献
[1] K. NAKAMURA," A new approach to the Electromagnetic Induction Nondestructive Inspection"-Preceding of Symposium in the Japan Society of Mechanical Engineers.
[2]Electro-Magnetic Induction Testing for Inspection of Wall Thickness and Inner-surface Defects-"I Eddy"System Vol.5,No.3,NT58,EJAM
(2019年 11月 26日)
著者紹介
著者:下川原 茂所属:日本原燃株式会社 技術本部専門分野:保全、装置開発