特集記事 「核融合エネルギー開発の現状」(4)ITER及び幅広いアプローチ活動を中心とした核融合開発の現状

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特集記事 「核融合エネルギー開発の現状」(4)ITER及び幅広いアプローチ活動を中心とした核融合開発の現状
量子科学技術研究開発機構  谷口 正樹 Masaki TANIGUCHI 井手 俊介 Shunsuke IDE  石井 康友 Yasutomo ISHII 春日井 敦 Atsushi KASUGAI  中本 美緒 Mio NAKAMOTO 平塚 淳一 Junichi HIRATSUKA  池田 亮介 Ryosuke IKEDA   河村 繕範 Yoshinori KAWAMURA
1.はじめに
量子科学技術研究開発機構(量研)は、文部科学大臣から ITER計画における国内機関、BA活動における実施機関の指定を受けて、国際研究協力プロジェクトである ITER計画及び日欧協力による BA活動を実施している。
本稿では、我が国における核融合エネルギー開発の中核的事業である ITER(イーター)計画、及び同計画を支援・補完し、核融合エネルギーの早期実用化に向けて実施している幅広いアプローチ(BA)活動の全体像を概説する。
2.ITER計画
ITER計画は、核融合実験炉 ITERの建設・運転を通して核融合エネルギーの科学的・技術的実証を行うことを目的とした大型国際プロジェクトである。日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドの 7極が参加し、現在、フランスのサン・ポール・レ・デュランス市において 2025年の運転開始(ファーストプラズマ)を目標に建設が進められている。日本は、ITERにおける主要機器の開発を担当するなど重要な役割を担っており、量研が日本国内機関として機器等の調達活動を推進している。本稿では、日本調達機器のうち、トロイダル磁場コイル、中性粒子入射加熱装置、高周波加熱装置を取り上げ、その開発状況を紹介する。また、ITERを用いて増殖ブランケットの科学技術的成立性を実証するテストブランケットモジュール(TBM)試験計画の状況についても紹介する。
2.1 ITERトロイダル磁場コイルの開発
量研は , TFコイル全 19機(予備 1個を含む)のうち 9機の調達及び全 19機のコイル容器の調達を担当している。ひとつの TFコイルは高さ 16.5m, 幅 9m, 重量約 310トンの世界最大のニオブ・スズ超伝導コイルであり , その構造を図1に示す [1]。
巻線部 (WP)は D型の形状の 7つのダブル・パンケーキ (DP)から構成される。それぞれの DPの製作は , 1) 導体の巻線作業 , 2) 冷媒入口配管の取付けと導体端部の電気的接続部 (ジョイント )の取付け , 3) 導体の熱処理作業 , 4) ラジアル・プレート (RP)製作、5) 導体の RP溝へのトランスファ作業、6) 導体絶縁作業、7) カバー・プレート (CP)溶接作業、8) DP絶縁及び含浸作業の順に進められる。完成した DPを 7枚積み重ねて対地絶縁を施すことで WPを成型する。さらに、ジョイント接続、冷媒配管組立及び計測線の取付けを行うことでターミナル部組


図1 TF コイルの構造図2 1 号機の含浸隙間評価結果
立を完了し、完成検査を終えたところで WPが完成する。
これまでに 4機分の WP製作を完了しており、そのうち最初の 2機分の WPについては、完成検査の一環として、110トンにも及ぶ WPに対し全体の平均温度のばらつきを 50K以内に収めながら 80Kまで冷却し、冷凍前後のヘリウム漏洩検査で気密性が劣化しないことを確認した。また、冷凍前後の常温での電気試験を実施することで、 WPの絶縁性能を確認した。 3機目についても同様の検査を行うが、冷却による性能の劣化の懸念は払しょくされたことから、4機目以降は冷却試験を省略し、製作を加速させている。
コイル容器は、 ITER中心側のインボード側の容器 (AU)及びその蓋 (AP)、外側のアウトボード側の容器 (BU)及びその蓋 (BP)の 4個のサブ・アッセンブリから構成される。各部品の長さは最大 16.5m、4個のサブ・アッセンブリの総重量は約 200トンにも及ぶ [2]。それぞれのサブ・アッセンブリの製作は、 1)メインボディの製作、 2)付属部品の製作、3)ベーシック・セグメントの製作 (メインボディと付属部品の溶接作業 )、4)ベーシック・セグメント同士の溶接作業、 5)最終機械加工、 6)冷却配管埋設作業、7)仮組検査の順に進められる。
WPは 4機が完成検査を完了し、1機が完成検査に入っている。コイル容器についても欧州分 6機と日本分 5機の製作を完成させており、既に量産化している。完成したコイル容器と WPを一体化させることで TFコイル完成となる。
一体化作業は、1)AUの設置、2)WPの AU内への挿入、 3)BUの設置及び AU-BU間の溶接、 4)WPの傾き調整、
5)AP、BPのはめ込みと AU、BUへの溶接 (封止溶接 )、 6)コイル容器と WPの隙間の含浸、7)最終機械加工、8)最終検査の順に進められる。
コイル容器の溶接では、運転時のコイルにかかる歪みに耐えうる構造強度を持たせるため、厳しい溶接品質を要求されている。溶接品質達成のためには、コイル容器の赤道面から規定される約 6.6mの寸法や、周方向全長 16.5mにわたる開先に対し、 1㎜程度の精度で開先合わせを行う必要がある。コイル容器製作の最終ステップでは寸法検査に加えて仮組検査を実施し、個々の寸法だけでなく、対となるサブ・アッセンブリとの組立性も確認している。日本向けコイル容器 4機の仮組検査においては、要求精度を達成している。これらの検査から得られた知見と寸法検査のデータから 5機目以降では CADソフト上で組立性を確認する手法を確立することで、製作の効率を上げることに成功している。

コイル容器内の WPの挿入についても、真空容器内にプラズマを閉じ込めるための磁場を精度よく生成するという TFコイルの機能を担保するため、 TFコイルの電流中心位置に対し、インボード側でφ 2.6mm、アウトボード側ではトロイダル方向に± 3mmという厳しい要求精度が設けられている。また、一体化含浸において、樹脂の注入可能な WPとコイル容器の隙間 4mmを確保する必要がある。一体化作業前には、それぞれのコイル用の WPとサブ・アッセンブリの寸法測定結果と合わせて、これまでの試作及び製作より予測した溶接変形から、一体化作業後の電流中心位置及び含浸隙間の事前評価を行っている (図2)。この評価結果を反映し、一体化作業を進めたことで、既に 2機の TFコイルを完成させた。日本の TFコイル 1号機目は世界初の ITER TFコイル完成となり、 2020年 4月に ITER機構へ到着している。 2号機目についても同 4月に ITER機構へ向けて出荷された。

2.2ITER中性粒子入射加熱装置用高電圧電源機器の開発
ITERプラズマの加熱・電流駆動の主要機器である中
性粒子入射加熱装置(Neutral beam injector: NBI)では、エ
ネルギー 1MeV、電流 40Aの負イオンビームを 3600秒
間連続出力し、中性化して ITERプラズマ中に入射する。
これは従来の NBI装置に比べエネルギー 2倍、電流 2倍、
連続運転時間は 360倍にもなる超高性能な要求値である
ため、実機に先立ち、実機と同規模の NB実機試験施設
(NBTF、建設地イタリア)を建設し、実機の性能実証試
験を行う。日本は、この超高性能負イオンビームの生成
に必要な直流 1MV高電圧電源機器の調達を担当し、本
機器の製作・輸送・現地据付を完了し、現地での欧州側
機器との統合試験を進めている [3-4]。
図3に本高電圧電源機器の全体図を示す。変圧器と
整流器で構成される直流発生器( DCG)では、欧州調達
のインバーターから三相交流 6.5kVを受電して直流 0.2
MVを出力し、 DCG5基を直列に繋ぐことで 1MVの電
圧を発生する。この電圧は直流フィルターコンデンサ(DCF)で平滑化され、 100mに渡る伝送管を通って負イ
オンビーム源まで送電される。また負イオンビーム生成
時、1MV電位上で負イオンを作る欧州調達の低電圧電
源(HVD1)に電力を供給するための 1MV絶縁変圧器も
日本の調達である。これら DCG用変圧器、 1MV絶縁変
圧器では、内部の 1次 2次巻線間に直流電圧最大 1MV
が印加されるため、その電気絶縁構造の実現が課題であったが、試作を通じてこれを実現した。また、それ以外の機器は、0.6MPaの絶縁ガス(六フッ化硫黄: SF6)を充填した圧力容器内に高電圧部を据付ける構造とし、大気絶縁に比べ約 1/5程度の絶縁距離短縮を実現してコンパクト化した。また、長尺な伝送管では、運転時の熱伸び・地震時の変位発生時、 1MV絶縁のために使用している多数の絶縁物に過度な力を与えない変位吸収機構を実現した。
さらに大きな課題は、これら電気技術に関する挑戦だけではなく、機器数が多く巨大であるため、工場では各機器の個別試験に限られたこと、また各国の共同調達であることから、全てを組み合わせた試験は現地でしかできないという点であった。そこで、現地作業では、日本から技術管理のための人を派遣し、工場レベルのダスト管理を行うフード内で組み合わせを実施した。また、全ての機器を組み合わせた後に一括で電気絶縁試験を行うための試験電源 (TPS, 1.3MV発生 )も開発した。現地試験では、欧州機器の外部放電発生などのトラブルがあったものの、関係者で協議して対策を行い、 2019年 11月までに、 ITER機構と合意している電気絶縁確認試験、 (1)1.2MVで 1時間、(2)1.06MVで 5時間の電圧印加、(3)過電圧時の動作を模擬するための 1.06MV-1.26MVを 5回昇降圧、の 3種類の試験を成功裏に完了した。
2020年は、欧州が調達するインバーターから電力を受電し、模擬負荷抵抗・短絡ギャップを用いて、電源定格である 1MV、60Aの発生、さらに短絡させた際の電源機器全体の健全性を確認する。これらの技術・知見は、 2021年から開始する ITER実機用電源の調達に反映していく。

図3 直流1MV 高電圧電源機器 全体図

2.3 ITER高周波加熱装置の開発

ITERでは、プラズマの生成、加熱・電流駆動などを目的として、周波数 170GHz、トータルパワー 20MWのマイクロ波をプラズマに入射する電子サイクロトロン加

図4 日本のITER ジャイロトロンの構成図
図5 水平ポートランチャーの外観図

熱・電流駆動装置が設置される。本装置は、マイクロ波発生装置(ジャイロトロン) 24機と、内壁がコルゲート構造を持つ円筒形導波管を用いた 24系統のマイクロ波伝送系、マイクロ波のプラズマへの入射方向を制御するアンテナ(ランチャーと呼ぶ) 5機から構成される。量研は、 8機のジャイロトロンと 1機のランチャーを調達するための研究開発を進めてきた。
ジャイロトロンは図4に示すように、電子銃、空胴、モード変換器、ミラー、出力窓、コレクターなどから構成された高さ約 3mの真空管である。電子銃部で生成された中空状の電子ビームは、超伝導マグネットの強磁場中で旋回運動をしながら加速され、空胴にて電子の旋回エネルギーが高周波電磁界と相互作用するサイクロトロンメーザーの原理によりマイクロ波発振モードを励起し、モード変換器とミラーを介して出力窓からガウス分布状のマイクロ波ビームを放射する。放射されたビームは、2枚のミラーを有する準光学整合器により導波管へ結合され、真空容器に設置されるランチャーまで低損失でマイクロ波エネルギーを伝送する。ジャイロトロン内では、電子は進行方向と旋回方向の2つの運動により螺旋運動を行うが、量研では、発信に直接寄与する旋回エネルギーを個別に制御し、高効率な発振を可能とするカソード・アノード・ボディの三つの電極を有する三極管方式のジャイロトロン開発を進めてきた。
ITERジャイロトロンの性能要求は、周波数 170 GHz、出力 1 MW、電力効率 50 %、定常動作、最大 5 kHzでの出力変調(ON/OFF運転)などがあるが、これまでにエネルギー回収技術による電力効率の改善、大口径空胴による高出力発振技術開発、人工ダイヤモンドの出力窓への搭載、半導体スイッチを適用した出力変調のための電源開発などに成功し、 2013年に ITERの要求性能を世界で初めて実証することに成功した。さらに、 10年以上の ITERの運転期間に 1 MWで定常及び繰り返し動作を安定に実現するため、空胴における熱負荷を従来設計より約 30%低減する改良や、安定した発振性能を実現するための緻密なアノード電圧制御法などの開発を経て、 2018年に最初の ITERジャイロトロン実機を完成させた [5]。これまでに、 6機の ITERジャイロトロンの製作が完了し、 2機の完成検査に合格している。今後は、 2025年に予定するファーストプラズマ達成に向け、残り 2機の製作と完成検査を、 ITER現地での統合試験を順次進める。
量研が調達するランチャーは、 ITERの真空容器の水平ポートに接続され、図5に示すように 24機のジャイロトロンから伝送されたマイクロ波を 8系統ごとに上中下段に分けて、各系統に設置される可動ミラーによってマイクロ波ビームのプラズマへの入射角度を制御する。ランチャー内にて 99 %以上の伝送効率と要求されているプラズマ電流駆動分布を同時達成するマイクロ波伝送設計の開発に成功し、現在、構造設計を含めた最終設計作業を進めている。

2.4 テストブランケットモジュール試験計画
ITER(実験炉)の次の装置である DEMO(核融合原型炉 )ではエネルギー源としての観点から、核融合エネルギーを熱として取り出し、燃料トリチウムの製造も担うトリチウム増殖ブランケットが重要機器となる。増殖ブランケットの科学技術的成立性を ITERにて実証するのが、テストブランケットモジュール( TBM)試験計画である。日本は、量研を実施担当として TBM試験計画に参画しており、水冷却固体増殖(WCCB)方式のテストブランケットシステム(TBS)の開発を主導している。
TBSは TBMと遮蔽体を合わせた TBMセット、 TBMから熱を取り出すための水冷却システム (WCS)、TBM内の生成トリチウムを回収するトリチウム回収システム (TES)、トリチウム生成量の推定に必要な TBMと周辺の中性子データを取得する中性子放射化箔気送管システム (NAS)、これらの運転制御、データ収集を行う計装制御システムで構成され、 TBMセットは真空容器内、それ以外はトリチウム建屋等に設置される(図6)。TBSは、ITER機構による概念、詳細、最終設計の3段階の承認を経て、製作へと進む。現在は詳細設計段階にあり、 2023年末を期限とした詳細設計承認、 2025年末を期限とした最終設計承認を得て製作に入り、 2029年末を期限として TBSを ITERに持ち込む。
詳細設計は、概念設計レビューで認識された ITERとの取合いについて、条件を決定し、産業界の協力を得て具体的な設計を進めている。特に TBMの筐体は、プラズマ閉込磁場への作用抑制のため、構造材料である低放射化フェライト鋼の使用量が制限されているが、その制約下でも高温高圧の冷却水による荷重に耐えられるよう、円筒形状を採用することを ITER機構に申請し受理されたところである。その設計の過程で、増殖性能を向上する方法として、筐体内側にエンベロープと称する増殖材単一層を設けることを考案した [6]。現在、解析に

図6 テストブランケットシステムの概略
基づく健全性確認と製作性を考慮した設計改善を進めている。

TBSは各極が有する設備であるため、取合い条件を ITER機構と確認しながら設計を進めるが、 ITERの建屋建設も進んでおり、限られた尤度の中で最大限の「 TBM試験に求める成果」が得られるよう交渉を進めている。量研では、 TBMの安全実証試験施設の整備が進行中で、早ければ 2021年度中には稼働する。産学との一層強固な協力体制を築いて進める必要がある。
3.BA活動
幅広いアプローチ(BA)活動は、ITER計画の支援と核融合エネルギーの平和利用の早期実現に向け、日本と欧州原子力共同体により実施している国際共同プロジェクトである。 2007年 6月に日欧政府間の協定発効とともに開始された BA活動は、 2020年 3月で当初の活動を完了した。2020年 4月からは、BAフェーズ IIとして新たな事業計画の下、茨城県那珂市の量研那珂核融合研究所において「サテライト・トカマク計画事業」、青森県六ヶ所村の量研六ヶ所核融合研究所において「国際核融合材料照射施設の工学実証・工学設計活動事業」及び「国際核融合エネルギー研究センター事業」を進めている。本稿では、これらの事業の進捗について紹介する。


3.1 国際核融合材料照射施設の工学実証・工学設計活動事業
核融合反応で発生する中性子環境を模擬するため、重陽子 -リチウム (d-Li)核反応による加速器駆動型中性子源である国際核融合材料照射施設 (IFMIF)の検討が国際協力の下 1990年代より進められてきた。 IFMIFは 40MeV-125mAという大電流の重陽子加速器 2台から合計 250mAの大電流重陽子ビームを連続的に液体リチウムに入射することで 20dpa/年以上の高い中性子束を発生させる。 IFMIFに必要となる大電流加速はこれまで類を見ないものであり、既存の加速技術とのギャップが大きい。このため、 BA活動の下、 IFMIF工学実証・工学設計活動( IFMIF/EVEDA事業)が 2007年に開始された。量研はこの事業の日本の実施機関として六ヶ所核融合研究所において欧州との協力で IFMIF原型加速器( LIPAc)の建設・運転を実施している。
LIPAcは、重水素イオン源(入射器).高周波四重極加速器( RFQ).中エネルギービーム輸送系(MEBT).超伝導線形加速器(SRF).ビーム診断系(D-Plate).高エネルギー

図7 IFMIF 原型加速器
ビーム輸送系(HEBT).ビームダンプ(BD)から構成された全長約 36mの大電流重陽子線形加速器であり(図7) [7]、9MeV-125mAの重陽子ビームを連続運転する仕様である。
LIPAcの大きな特徴は、加速器を構成する各機器の製作を欧州及び日本の研究機関がそれぞれ担当し、六ヶ所核融合研究所において加速器として 1つに組み上げるという国際協力である点である。これまで、欧州の研究機関において、加速器機器の R& D及び製作が行われ、現在六ヶ所核融合研究所において欧州で製作した機器を組立・調整し、ビーム試験を段階的に実施している。
第一段階は入射器のみの 100keVの重陽子ビーム出力であり、フランス・ CEAサクレー研究所が開発した入射器を六ヶ所核融合研究所に据付後、 2014年に 100keV-140mAの重陽子ビームを 0.15 π mm mradの低エミッタンスで発生させ、その目標性能実証を完了した。
第二段階としては、 5MeVまでの RFQによるビーム加速であり、世界で最も長い 9.8mの RFQが 2016年にイタリア・ INFNレニャーロ研究所から搬入され、 2017年に入射器との接続を完了した。また MEBT、ビーム診断系は 2016年にスペイン・ CIEMATから搬入され、 2017. 2018年にかけて調整が完了した。
これまでのビーム加速試験で、日欧合同チームが、世界最大電流の重水素イオンを生成する入射器、世界最長の RFQ及びその RFQに世界最大パワーを注入する高周波システムの調整を行い、短パルス(1ms)ながら RFQによる 125mAの大電流の重陽子ビームの 5MeVの加速に成功した。この成果は、 IFMIF原型加速器の RFQの設計値を満たすもので、核融合中性子源の開発にとって極めて重要なマイルストーンを達成したものである。
今後 RFQの定常ビーム加速試験を実施し、さらにその後は、六ヶ所サイトに建設したクリーンルームの中で SRFを組み上げた後、 RFQに接続させ、事業の最終目標である、重陽子を用いた 9MeV-125mAの定常加速を目指した試験を実施する。
量研では、 IFMIF/EVEDA事業で得られた原型加速器とターゲットである液体リチウムループの知見を基に、我が国の原型炉開発ロードマップで求められている核融合中性子源として A-FNS計画を進めている [8]。同計画では、核融合材料開発だけでなく中性子を利用し医療用 RI製造や産業応用を可能とするもので、今後、国内の幅広い分野の専門家と連携をとりながら、 A-FNSの実現を目指したいと考えている。


3.2 国際核融合エネルギー研究センター事業
六ヶ所核融合研究所に設立された国際核融合エネル
ギー研究センター(IFERC)は、主に原型炉設計 R&D調
整センター、核融合計算機シミュレーションセンター(CSC)、ITER遠隔実験センター(REC)の 3つの活動か
ら構成される。量研は、文部科学省核融合科学技術委員
会の定めた原型炉研究開発ロードマップに沿った、核融
合原型炉の開発を目指した研究開発を行っている。日欧
の原型炉の概念は、日本が定常炉、欧州がパルス炉とい
うように、異なった概念を持っているが、共通の技術課
題も多く、日欧での原型炉に関する BA活動を進めるこ
とにより、日本の原型炉開発を補完している。

3.2.1原型炉設計 R&D調整センター
原型炉設計 R&D調整センターでは、日欧共通課題に
関する原型炉設計活動、原型炉に関する R&D活動を行っ
ている。2007年の BA活動の開始とともに、日欧でワー
クショップなどにより日欧共通の研究開発項目を検討
し、2010年頃から共同設計作業を行ってきた。原型炉
R&D活動では、原型炉における熱の取り出し、核融合
炉の燃料である 3重水素( T)の増殖、熱や中性子の遮蔽
の機能を受け持つブランケットに関連する R&Dを中心
として実施してきている [9]。ブランケットの構造材料
に関しては、原子炉で照射したデータを整理し、設計対
応データベース整備、核融合中性子照射効果予測技術基
盤構築などを進めている。また、欧州の核融合実験装置
JET(英)での DTプラズマ実験で使われたタイル試料な
どを、 T,Be,放射化物を同時に取り扱える世界で唯一の
施設である六ヶ所研の R&D棟施設に搬入し、日欧共同
で T吸蔵量の評価などを行った。この成果は、核燃焼
プラズマを取り扱う ITERや核融合原型炉での T計量管
理技術の確立に役立つ。
これらの成果は 2020年 3月に最終報告書として取り
纏められた。また、これまでの日欧共同作業の成果も取
り込んだ日本の原型炉設計活動も全日本的な活動として
進んでいる(図8)。現在、これまでの研究成果を基にし
た日欧共同事業が継続されている。

図8 日本の核融合エネルギー発電プラントの全体概念図
3.2.2
計算機シミュレーションセンター

核融合炉実現のためには、電磁波と多数の荷電粒子が相互作用することにより炉心プラズマ中に生じる乱流や不安定性を抑制、制御する必要がある。このような炉心プラズマの解析、予測にはスーパーコンピューターによるシミュレーションが必須であるため、日欧共同の計算機シミュレーションセンター( CSC)が設立され、 2012年から 2016年までの 5年間に渡りスパコン Heliosの運用を行い、日欧の核融合研究者に計算機資源の提供を行った。Helios(約 1.5PF)は、運用開始当時、世界で 12位、国内で京速計算機に次ぐ 2位の計算性能を持ち、このような高性能スパコンを核融合専用として利用できたことにより、将来の ITER実験予測、原型炉炉心シミュレーションに必要なコード開発を実現することが出来た。これらの成果も含めて、 5年間で 639編の査読付き論文が Heliosを利用して刊行された。現在、これらの研究成果を継続的に進展させるため、六ヶ所研のスパコン JFRS-1(Japan Fusion Reactor Simulator-1、約 4.3PF)の 50%の計算機資源を利用して日欧共同シミュレーション研究プロジェクトが行われている。

3.2.3
ITER遠隔実験センター


IFERCでは、 ITERに六ヶ所核融合研究所から遠隔で参加するための設備、システムの開発を ITER遠隔実験センター( REC)として進めている。日本から 1万 km程度離れた遠隔地での実験にリアルタイムで参加するためには、現地の研究者と遠隔サイトの研究者が、時間遅れ無しで実験データを共有し、円滑なコミュニケーション環境を実現することが必要である。また、 ITER実験データは、今後期待できる唯一の核燃焼プラズマ実験データであり、日本の原型炉開発のための貴重なデータである。 RECでは、 ITER実験で創出される約 100PB/年(電子図書約 3億冊分に相当)のデータ全てを RECに転送し、六ヶ所核融合研究所のスパコンを使って解析する予定である。これらの設備、技術の開発は、国内外の研究所、大学等と協力し実証試験を行ってきた。 2018年 11月には、 ITERサイトの近隣にある核融合実験装置 WEST(仏 CEA)を用いた遠隔実験の実証に成功した [10]。
3.3 サテライト・トカマク計画事業
サテライト・トカマク計画とは、量子科学技術研究開発機構の那珂核融合研究所の JT-60トカマク装置を超伝導装置 JT-60SA(JT-60 Super Advanced)として改修するもので、日欧協力のサテライト・トカマク計画と国内のトカマク国内重点化装置計画の合同計画として進められている [11]。JT-60SAは我が国唯一の大型トカマク装置であり、世界の核融合実験装置の中で、 ITERに対して最も大きな支援を行う能力を有するとともに、 ITERでは実施が難しい高圧力プラズマ定常化研究開発を実現できる世界で唯一の装置である。サテライト・トカマク計画の大きなミッションは以下の三つである:
○ ITERの技術目標達成のための支援研究:臨界条件クラスのプラズマを長時間(100秒程度)維持する高性能プラズマ実験を行い、その成果を ITERへ反映させる。
○原型炉に向けた ITERの補完研究:原型炉で必要となる高出力密度を可能とする高圧力プラズマを 100秒程度維持し、原型炉の運転手法を確立する。
○ ITER・原型炉に向けた人材育成: ITER・原型炉開発を主導する人材を育成する。

装置の外観図を図 4.2.1-1に示す。 18本のトロイダル磁場コイル、 6本の平衡磁場コイル、 4本の中心ソレノイドの全てが超伝導コイルである。前二者がニオブチタン(NbTi)製、後者がニオブ 3スズ(Nb3Sn)製である。主な装置パラメータを表 4.2.1-1に示す。装置サイズは、 ITERのほぼ半分であり、 ITERが完成するまでは世界最大の超伝導トカマクである。加熱装置は中性粒子ビーム入射装置 NBI(34MW)と、電子サイクロトロン波帯高周波入射装置 ECRF(7MW)である。
核融合出力はプラズマの圧力(プラズマの密度と温度の積)の二乗に比例するため、同じ装置サイズ(.同じ建設コスト)であれば圧力の高いプラズマを用いる方が経済性は高い。圧力の指標としてプラズマの圧力を磁場の圧力で規格化した規格化圧力を用いる。 ITERでは、核融合燃焼の実証のため、これまでの世界的な研究で信頼性の高さが実証されている標準 H-modeプラズマを標準運転プラズマとしているが、これは比較的規格化圧力の低い(. 1.8)プラズマである。一方経済性の要求される

図9 JT-60SA の外観図
表1 JT-60SA の主要パラメータ


原型炉では、より高い規格化圧力(. 3.4-5.5)を目指す。また、 ITERでは放電時間はプラズマの特性時間である電流染み込み時間より短い 400秒を目指すが、原型炉は数ヶ月. 1年の定常運転が要求される。
JT-60SAでは、高プラズマ電流運転と高加熱パワーにより ITERの標準運転プラズをより ITERに近い高プラズマ温度(. 10-20keV)領域で試験するとともに、超伝導コイルを用いることで、原型炉で要求される高圧力プラズマを長時間定常に維持することを目指す。また、 JT-60SA加熱装置は、単にプラズマを加熱するだけでなく、トカマクプラズマで重要な役割を担うプラズマ電流の一部を駆動したり、プラズマにトルクを与えることによりプラズマを回転させることが可能でありさらにそれらの空間分布を変えることもできる。トカマクプラズマの性能や安定性は圧力の空間分だけでなく、これら電流分布や回転分布にも大きく左右されることが知られている。これらにより、 ITERでの燃焼プラズマ実現に向け、より詳しい知見を得て最短で安全な道のりを切り開くとともに、原型炉実現に必須の高圧力プラズマの定常維持の原理実証とそのための物理理解の深化を目指す。 JT-60SAで行うべき研究については日欧のプラズマ研究者が 10年近くにわたる議論を行い、 430人を超える日欧
の著者による JT-60SA研究計画(JT-60SA Research Plan)として纏められた [12]。
サテライト・トカマク事業は日欧共同で進められてきた。JT-60SA装置の製作に関しては、 ITERと同様に日欧で折半し進められてきた。欧州ではさらに加盟国間でその分担を配分している。各コンポーネントの製作は、2010年より日欧双方で順次開始された。JT-60SAは JT-60と同じ場所に設置されるため、 JT-60SAの組立てに先立ち JT-60の解体が 2010年から 2012年にかけて行われた。これは、核融合装置の世界で最初の解体作業であり、そのため多くの R&Dが行われた [13]。欧州や国内で製作されたコンポーネントは那珂核融合研究所に送られ、2013年 3月にスペインが製作したクライオスタット・ベースを設置したことを皮切りに現地組立てを開始した。真空容器は日本分担で複数のセクターに制作したものをクライオスタット・ベースの上に設置し、お互いを溶接して一体化した。この際、溶接による変形をあらかじめ予測するとともにレーザートラッカーを用いた現場での精密な計測を行い、現場で補正しつつ組み立てることにより高精度の組立てを実現した。欧州分担コンポーネントの中で最大のトロイダル磁場コイルは、イタリアとフランスで製作を行い、ベルギーにある試験装置で超伝導試験を行ったのち日本に送られた。 1. 2ヶ月に 1機ずつ送られてくるトロイダル磁場コイルを、レーザートラッカーを用いた現場での精密な計測と設置時に細かな補正を施すことにより、 mm単位の精度での組上げに成功した。平衡磁場コイルと中心ソレノイドは日本側の分担であるが、詳細な計測を行いつつ巻き上げることにより、直径が最大(12m)の平衡磁場コイルでも真円からのズレが 0.3mm(要求値は 8mm)という高い精度での製作に成功し、設置に関しても 1mm程度の精度を達成した。 10mクラスの装置で 1mmクラスの製作/設置誤差を達したことは、これらの誤差による磁場の誤差が 1/10000程度に抑えられていることを意味する。プラズマは基本的にはコイルが作る閉じ込め磁場に影響され、その磁場の誤差が 1/10000程度以内であることが、これまでの研究から安定で性能の良いプラズマを作る上での一つの指標とされており、この観点から JT-60SAは非常に良い精度で製作・組立てされたと言える。コイルだけでなく、真空容器の内側に取り付けられプラズマと接する第一壁等も、高精度の計測と高度な位置合わせ等の技術開発により、 1mmオーダーの精度で設置された。これにより、プラズマと不均一に接することによる熱負荷の偏りを防ぐことができる。
JT-60SA本体組立てと並行して、超伝導コイルの電源や超伝導コイルを冷却するための冷凍機システム、 NBIや ECRF加熱装置や計測機の整備が、日欧分担で進められている。
2013年から開始された、 JT-60SA本体の組立ては 2020年 3月に完了した(図 4.2.1-3)。今後、 JT-60SA装置の真空排気や超伝導コイル冷却など、順を追って各機器の健全性を確認しつつ動作させ、 2020年秋ごろに最初のプラズマを着火する、統合試験運転を開始する予定である。
参考文献
[1] N. Koizumi et al., "Progress in Procurement of ITER Toroidal Field Coil in Japan," in IEEE Transactions on Applied Superconductivity, vol.26, no.4, 4203004, 2016
[2] M. Iguchi et al., "Progress of ITER TF Coil Case Fabrication in Japan," in IEEE Transactions on Applied Superconductivity, vol. 28, no. 3, 4202105, 2018.
[3] 渡邊和弘他: 5. ITER NBTF 電源高電圧機器の製作 , J. Plasma Fusion Res., 2016, vol. 92, no. 6, p. 414-419.
[4] H. Tobari, "COMPLETION OF DC 1MV POWER SUPPLY SYSTEM FOR ITER NEUTRAL BEAM TEST FACILITY", IAEA FEC, FIP/P1-10, 2018.
[5] Y. Oda, et al., Nucl. Fusion 59, 086014 (2019).
[6] H. Gwon et al., Tritium breeding capability of water cooled

ceramic breeder blanket with di.erent container designs,
30th Symposium on Fusion Technology (SOFT2018), P4.166, 16th - 21st Sep.,2018,Sicily, Italy
[7] A. Kasugai et al., "国際共同プロジェクト IFMIF原型加速器(LIPAc)の開発 ", Proceedings of the 14th Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan.
[8] A. Kasugai et al., " QSTにおける先進核融合中性子源
(A-FNS)計画 ", Proceedings of the 15th Annual Meeting of Particle Accelerator Society of Japan.

[9] J.-H. Kim, M. Nakamichi: "Compatibility of advanced tritium breeders and neutron multipliers", Fusion Engineering and Design, Vol.156, 111581 (2020)
[10] S. Tokunaga, et al.: "Remote experiment with WEST from ITER Remote Experimentation Centre", Fusion Eng. Des. 154, 111554 (2020)
[11] P. Barabaschi, et.al., "Progress of the JT-60SA project", 第 12回 MAGDAコンフェランス予稿集 , 大分 , 2003

[12] JT-60SA Research Unit,"JT-60SA Research Plan", https://www.qst.go.jp/uploaded/attachment/6690.pdf
[13] Y. Ikeda, et.al., "Safe disassembly and storage of radioactive components of JT-60U torus", Fusion Eng. And Design, Vol.89, No.9-10, pp.2018-2023 (2014)
(2020年 5月 24日)

著者紹介 
著者:谷口正樹所属:量子科学技術研究開発機構専門分野:ITER・BA に関する国際交渉を担当
著者:井手俊介所属:量子科学技術研究開発機構専門分野:プラズマシナリオ開発、加熱電流駆動、閉じ込め
著者:石井康友所属:量子科学技術研究開発機構専門分野:プラズマ物理学
著者:春日井敦所属:量子科学技術研究開発機構専門分野:核融合中性子源、加速器技術
著者:中本美緒所属:量子科学技術研究開発機構専門分野:超伝導マグネット
著者:平塚淳一所属:量子科学技術研究開発機構専門分野:中性粒子入射加熱、高電圧ブッシング
著者:池田亮介所属:量子科学技術研究開発機構専門分野:ジャイロトロン開発、電子サイクロトロン共鳴加熱
著者:河村繕範所属:量子科学技術研究開発機構専門分野:化学工学、核融合炉燃料システム開発

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