特集記事「高温ガス炉」(3) 高温ガス炉の熱利用技術
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特集記事「高温ガス炉」(3)
高温ガス炉の熱利用技術
日本原子力研究開発機構
佐藤 博之 Hiroyuki SATO橘 幸男 Yukio TACHIBANA
1.緒言
高温ガス炉は、基本構成要素である耐熱性の高いセラミックス製被覆燃料粒子や黒鉛減速材、不活性ヘリウム冷却材の特長を活用することで、高温熱を原子炉の外に取り出すことが可能である。図 1に高温ガス炉供給熱の温度範囲と熱利用が想定される産業プロセスの温度条件を示す。高温ガス炉供給熱の温度範囲は 100℃から 1000℃と幅広いため、発電のみならず種々の産業分野での熱利用が想定されている。例えば、エネルギー転換分野における原子力エネルギー利用の高効率化に資するヘリウム冷却材を用いたガスタービン発電、製鉄分野での還元剤・燃料や運輸分野における燃料電池自動車に供給する水素の熱化学水分解法やメタン水蒸気改質法による製造、炭酸ガス排出量の削減を目的としたスチレン等の化学製品製造やオイルシェール等の非在来型化石資源回収、石油精製プラントの熱源に用いる高温蒸気製造、発電システムでの排熱を利用した海水淡水化や地域暖房などでの多様な熱利用が期待される。
本稿では、高温ガス炉の熱利用技術として、発電熱電併給、再生可能エネルギーハイブリッドシステム及び熱化学法 ISプロセスの概要を述べる。
温度(℃)
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000
2.高温ガス炉の熱利用
2.1 発電
高温ガス炉を用いた発電については、在来の軽水炉と同様な蒸気タービンを用いた発電に加えて、1000℃近い高温のヘリウム冷却材を用いた高効率ガスタービン発電も可能である。図 2に、高温ガス炉蒸気タービン発電プラントと高温ガス炉ガスタービン発電プラントの構成例を示す。
図 2に示す蒸気タービン発電プラントは、非再熱サイクルで、蒸気タービンからの抽気により蒸気発生器給水を加熱する再生サイクルを採用している。原子炉から取り出された 750℃程度のヘリウム冷却材は蒸気発生器に導入され、これにより生成された 540℃、13MPa程度の過熱蒸気によりタービンを駆動し、発電を行う。在来の軽水炉では原子炉から取り出される冷却材温度が 300℃程度で発電効率が 33%程度であるのに対して、高温ガス炉の蒸気タービン発電プラントはタービン入口での蒸気温度や圧力が高く、 40%程度の発電効率を達成可能である [1]。
図 2に示すガスタービン発電プラントは、中間冷却なしの再生ブレイトンサイクルを採用しており、原子炉から供給された高温のヘリウム冷却材によりガスタービンを直接駆動して発電を行う。ガスタービンは単一の軸に接続したタービン、圧縮機及び発電機から構成され、タービンでの膨張仕事と圧縮に必要な仕事の差により発電機を回転させ、発電を行う。原子炉熱出力 600MW、タービン入口温度 950℃の条件では、 50%程度の発電効率で 300MWeの電気出力を得ることができる [2]。
ヘリウムガスタービンは、ヘリウムが不活性でタービン入口温度を向上させることができることから、蒸気タービンに比べ、高い熱効率が見込まれる。加えて、高圧ヘリウムを作動流体とするため体積流量が小さく、また、タービン熱落差が小さく、かつ、作動流体であるヘリウムの定圧比熱が大きいため、小型で軽量である。さらに、ヘリウムガスタービン採用により、事故時に炉心を構成する黒鉛の酸化損傷要因となる原子炉冷却材への水侵入を排除可能となる。その上、蒸気タービンに比べて発電サイクルの排熱温度が高いため、最終ヒートシンクを大気とした場合においても合理的なサイズで乾式空気冷却塔を設計可能であり、経済性を低下することなく内陸部への設置することが可能である。
2.2 熱電併給
高温ガス炉では、産業プロセスの温度条件に応じてカ
(a) 蒸気タービン発電プラント
スケード的に熱を利用することで、プラントの総合熱利用率を向上させることが可能である。図 3に、発電方式にガスタービンを採用した場合の熱電併給高温ガス炉プラントの構成例を示す。
水素・電力併給プラントでは、原子炉から取り出された高温熱をガスタービン上流に設置した中間熱交換器を介して2次系に設置した水素製造施設に供給する。水素製造法には、在来のメタンの水蒸気改質法に加えて、炭酸ガスを排出しない熱化学水分解法や高温水蒸気電解法を採用することが可能である。原子力機構では、ヨウ素と硫黄を用いた熱化学法 ISプロセスに焦点を当てた研究開発を進めており、当該法の採用により原子炉熱出力 600MW、水素製造施設への熱供給量 370MW、水素製造効率 50%の条件で、 52,000 Nm3/hの水素製造が可能である [3]。水素製造施設へ供給する熱量は中間熱交換器の熱交換量を変えることで対応可能である。熱化学法 ISプロセスについては、2.4章「熱化学法 ISプロセス」で述べる。
高温蒸気・電力併給プラントでは、蒸気発生器をタービン下流に設置し、 600℃程度のタービンの高温排熱を利用することでスチレン製造やオイルシェール回収、石油精製プラントの熱源等、各種産業で必要とされる温度条件である 500℃程度の高温蒸気の製造が可能であり、原子炉熱出力 600MWの条件で、 3,500 t/d程度の蒸気の製造が可能である [4]。
(a) 水素・電力併給プラント
(b) 高温蒸気・電力併給プラント
(c) 電力・淡水併給プラント
電力・淡水併給プラントでは、前置冷却器での排熱をブラインヒーターを介して淡水化装置に供給し、海水を淡水化する。蒸気タービン発電サイクルは排熱温度が 60℃程度と低く、海水淡水化の温度条件である 100℃~ 200℃程度の熱を供給するには、蒸気タービンの中段から蒸気を抽気する必要があり、電気出力を低下させる必要がある。一方、ガスタービン発電サイクルの排熱は 160℃程度と温度が高く、その有効利用が容易である。
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図 4に高温ガス炉からの排熱温度条件下で製造水が最大となるよう最適化された淡水化装置の設備構成を示す。本装置は多段フラッシュ法を採用していて、加熱部、熱回収部及び熱放出部で構成される。熱回収部と熱放出部は、フラッシュ蒸発室とコンデンサで構成される。海水は熱放出部のコンデンサに導入され、管外のブライン(濃縮海水)を凝縮させつつ昇温し、一部、補給海水として熱放出部に戻される分を除き、外部へブローダウンされる。熱放出部の最終段から取り出されたブラインは熱回収部のコンデンサに導入され、蒸気の凝縮潜熱を回収しながら昇温され、ブラインヒーターに流入する。前置冷却器にて加圧水に伝えられた高温ガス炉からの排熱により昇温したブラインは、熱回収部のフラッシュ蒸発室に流入し、各段でフラッシュ蒸発することで濃縮されつつ最終段に向い、最終的に熱放出部へ導入される。原子炉熱出力 600MWの条件で 56,000 m3/d程度の淡水製造が可能で、総合熱利用率は 80%に達する [5]。
製造水
ブラインヒーター
冷却水排出熱放出部
加熱部
熱回収部
図4 高温ガス炉用多段フラッシュ式淡水化装置 [5]
2.3 再生可能エネルギーハイブリッドシステム
高温ガス炉は、水素・電力併給が可能であることに加えて、原子炉固有の特性を活用することで、原子炉稼働率や発電効率を維持したまま、多様な需要変動成分に対応した負荷追従運転が可能である。原子力機構では、この特長に基づき、再生可能エネルギー発電プラントに由来する出力変動を補完し、電力系統へ一定電気出力を供給する、高温ガス炉-再生可能エネルギーハイブリッドシステムの概念を提案している [6]。図 5に本システムの構成を、図 6にシステムの運転方針を示す。
20数分以上の長周期の変動成分(サステインド成分)に対しては、給電指令所からの要求に応じて冷却材圧力制御系を用いて原子炉冷却材量(インベントリ)を調整することでガスタービン出力を調整する。同時に電気出力の増減に応じて水素製造施設への熱供給量を調整しつつ、原子炉の定格熱出力運転を維持するため、原子炉バイパスラインの流量を調整することで原子炉流量を一定
5 高温ガス炉-再生可能エネルギーハイブリッドシステムの構成
図6 高温ガス炉-再生可能エネルギーハイブリッドシステムの運転方針 [6]
に維持する。本方法では、ガスタービン入口温度や冷却材の体積流量が変化しないため、発電効率一定での運転が可能である。
数分から 20分程度の周期の変動成分(フリンジ成分)に対しては、大きな熱容量を保有する炉心を蓄熱体として活用することで、原子炉冷却材の熱バランスを維持する。炉心の蓄放熱は冷却材圧力制御系を用いたインベントリ調整により原子炉冷却材流量を調整することで行う。
数分以下の短周期の変動成分(サイクリック成分)に対しては、ガスタービン慣性を活用しつつ、ガバナの機能を有するタービンバイパス流量制御弁によりガスタービン電気出力を迅速に調整する。
図 7に原子炉熱出力 600MW、水素製造施設熱供給量 170MW、電気出力 202MWeの水素・電力併給高温ガス炉プラントの再生可能エネルギー出力変動追従時のシミュレーション結果を示す。
(a) 時間オーダー変動時
(b) 分オーダー変動時
図7 再生可能エネルギー出力変動追従時のシミュレーション結果 [6]
代表的な変動特性として、時間オーダーの変動時(変動幅 40%、変動周期4時間)及び分オーダー変動時(変動幅 40%、変動周期4分)を選定し、このときの水素・電力併給高温ガス炉プラントの負荷追従性を評価した結果、時間オーダー変動に対しては、発電効率一定で原子炉定格出力運転を維持したまま、水素製造施設熱供給量を調整して負荷に追従できることが確認された。また、分オーダー変動に対しては、発電効率一定で原子炉定格出力運転及び水素製造施設熱供給量を維持したまま、負荷に追従できることが確認された。
2.4 熱化学法 ISプロセス
原子力機構では、高温ガス炉の熱を利用する熱化学法 IS(Iodine-Sulfur)プロセスによる水からの水素製造技術の研究開発を実施している。 ISプロセスは、熱化学水分解水素製造法の一つである。水の直接分解のためには、約 4000℃の熱が必要であるが、化学反応と組合せることで(熱化学法)、1000℃以下の熱による水の分解が可能となり、 950℃の高温の熱を供給できる高温ガス炉と ISプロセスを組み合わせることで、温暖化の原因となる二酸化炭素を排出することなく、大量の水素を高効率・低コストで製造するシステムを構築できる。
熱化学法 ISプロセスは、ヨウ素( I)と硫黄( S)を用いた 3つの化学反応を組み合わせて、水を分解して水素を製造する化学プロセスであり、 3反応工程(硫酸分解工程、ブンゼン反応工程、ヨウ化水素(HI)分解工程)で構成される。図 8に ISプロセスの原理を示す。 HIを 400℃の熱で分解することで、水素を生成し、硫酸を 900℃の熱で分解することで酸素を生成する。分解したヨウ素及び二酸化硫黄に水を加えることで、 HIと硫酸を生成する(ブンゼン反応)。ヨウ素、 HI、硫酸、二酸化硫黄等はプロセス内を循環し、プロセス外には出てこない。
ISプロセスでは腐食性のある流体を用いるため、初期の研究開発段階では、ガラス製の反応器を使用していたが、実用化を見据え、3反応工程毎の環境に耐え得る工業材料(金属、セラミックス等)を用いて反応器を開発した [7]。なお、熱化学法 ISプロセスによる水素製造技術の詳細は、本特集の解説記事 p25の「高温ガス炉を用いた水素製造技術の開発状況」を参照されたい。
3.結言
高温ガス炉は、 900℃を超える高温の熱を炉外に取り出すことが可能であるため、発電以外の様々な熱利用(水
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図8 ISプロセスの原理
素製造、化学工業・石油精製等への熱・蒸気供給等)を
行うことができる。また、安全性にも優れており、第4
世代原子炉として、熱電併給が可能な小型モジュール炉(SMR)としての実用化が期待されている。
原子力機構は、発電のみならず様々な熱利用が可能な
高温ガス炉システムの実用化に向けた研究開発を、今後
も積極的に進めていく。
参考文献
[1] I. Minatsuki, K. Fujimori, K. Shimizu, Y. Mizokami:"A Study on Business Plan and Plant Concept of Mitsubishi Smallsized High Temperature Gas-cooled Reactor for Electricity Generation", Proceedings of HTR2010, Paper No.162, Prague, Czech Republic, October 18-20, 2010 (2010).
[2] H. Sato, X. L. Yan, Y. Tachibana, K. Kunitomi:
"GTHTR300.A nuclear power plant design with 50% generating e.ciency", Nuclear Engineering and Design, Vol.275, pp.190-196 (2014).
[3] K. Kunitomi, X. L. Yan, T. Nishihara, N. Sakaba, T. Mouri: "JAEA'S VHTR for Hydrogen and Electricity Cogeneration: GTHTR300C", Nuclear Engineering and Technology, Vol.39, No.1, pp.9-20 (2007).
[4] X. L. Yan, H. Noguchi, H. Sato, Y. Tachibana, K. Kunitomi, R. Hino:"A hybrid HTGR system producing electricity, hydrogen and such other products as water demanded in the Middle East," Nuclear Engineering and
Design, Vol.271, pp.20-29 (2014).
[5] X. L. Yan, H. Noguchi, H. Sato, Y. Tachibana, K. Kunitomi, R. Hino:"Study of an incrementally loaded multistage flash desalination system for optimum use of sensible waste heat from nuclear power plant," International Journal of Energy Research, Vol.37, No.14, pp.1811-1820 (2013).
[6] H. Sato, X. L. Yan:"Study of an HTGR and renewable energy hybrid system for grid stability,"Nuclear Engineering and Design, Vol.343, pp.178-186 (2019).
[7] H. Noguchi, H. Takegami, Y. Kamiji, N. Tanaka, J. Iwatsuki, S..Kasahara, S..Kubo:"R&D status of hydrogen production test using IS process test facility made of industrial structural material in JAEA,"International Journal of Hydrogen Energy, December 2018.
(平成 31年 2月 25日)
著者紹介
著者:佐藤 博之所属:日本原子力研究開発機構高速炉・新型炉研究開発部門専門分野:原子炉システム設計
著者:橘 幸男所属:日本原子力研究開発機構高速炉・新型炉研究開発部門専門分野:高温ガス炉