特集記事「原子燃料サイクル」(3) 世界の再処理工場

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特集記事「原子燃料サイクル」(3)
世界の再処理工場
日本原燃株式会社 常務執行役員 技術本部長

松田 孝司 Takashi MATSUDA
1.はじめに
これまでに世界各国で数多くの再処理施設が建設されてきた。それらの中には、現在操業中のものだけでなく、既に運転を停止したもの、当初から目的を変更して使用中のもの、完工したもののホット運転には至らず閉鎖されたもの、さらには種々の理由により建設が中止あるいは中断されたものがある。第 1表にこれらの再処理施設を国別に表示する。[1]~[9],[11],[13]~[21]
2019年現在、原子力発電所で発生した使用済燃料の再処理を自国内で実施している国は、日本(六ヶ所再処理建設中)、フランス、英国( 2020年までマグノック燃料処理)、ロシア、インド、中国である。
2.各国の再処理工場の概要
2.1フランスの再処理工場[1],[3],[5]~ [7]
同国は、原子力発電所から発生する使用済燃料を全量再処理するクローズド燃料サイクルを基本方針としており、現在は 2つの商用再処理工場で自国燃料処理および海外からの委託再処理を行っている。再処理で発生する Puは軽水炉 MOX燃料に加工し、国内の原子炉で利用している。フランスにおける再処理工場の建設、停止などの経緯、および概要は以下の通り。(図 1に UP2-400,UP3,UP2-800の再処理量を示す) (1)UP1
1958年にマルクールのサイトに軍用 Pu生産炉燃料再処理工場として運開した後、 EDF(フランス電力)の黒鉛減速炭酸ガス冷却天然ウラン金属燃料発電炉(UNGG)燃料の再処理にも使用された。 PUREX法を採用し、処理能力は約 2t/dであった。 1998年に閉鎖されるまでのガス炉燃料の累積処理量は約 13,330tであった。その後は廃止措置を実施しており、 2002年には施設内部の洗浄と核物質除去が完了、現在は施設撤去作業が進行中である。
(2)UP2
EDFによる UNGGを用いた発電計画に対応して、ラ・アーグのサイト内に処理能力 800t/yの再処理施設として建設され、 1966年に運転開始した。 PUREX法を採用している。 (3)UP2-400(UP2-HAO)
1970年代に入り、 EDFが軽水炉による発電展開を進めることを決定した。これを受けて、 UP2に酸化物燃料前処理施設(HAO、High Activity Oxidizes)が追加され、 UP2-400として 1976年に運転が開始された。なお、ラ・アーグの再処理工場の運営は、 1978年に CEA(フランス原子力庁)直営からフランス核燃料公社( COGEMA、現 ORANO cycle社)に移管された。 (4)UP3
COGEMAは、EDFに加えて欧州(ドイツ、スイス、ベルギー、オランダ)および日本の電力会社が持つ発電炉から発生する使用済燃料の委託再処理に対応するために UP3を新設した。建設開始は 1981年、操業開始は 1989年。操業開始時の年間処理量は 800t/yであったが、2003年には 1,000t/yに引き上げた(ただし、同一サイト内にある UP3、UP2-800両施設の合計処理量は最大 1,700t/yと定められている)。2018年までにフランス国内の使用済燃料も含めて 16,579tの処理をこなしてきている。 (5)UP2-800
UP2-400の処理能力を増すと共に、高燃焼度燃料や MOX燃料を処理するために UP2-400に前処理施設等を付加し、年間処理量 800t/yの再処理工場 UP2-800として 1994年に操業を開始した。 2003 年には年間処理量をさらに 1,000t/yに増強した( UP3と合わせた処理量は上述の通り)。2018年までにフランス国内の使用済燃料 14,254tの処理をこなしてきている。(6)MOX燃料・高速炉燃料の再処理
フランス初の高速炉である Rapsodieの使用済燃料(酸


図1 UP2-400,UP3,UP2-800の再処理量 [7]
化物)を処理する処理速度 1kg/dのパイロットプラントとして、ラ・アーグに AT1が建設され、 1969~1979年の間運転された。また、 1962年にマルクールに建設された再処理パイロットプラント APMでは、初期に EDFの UNGG燃料、高燃焼度 PuAlおよび UAl燃料、トリウム燃料の処理が行われた後、 1974年からは高速原型炉 Phenix照射後燃料、あるいは Rapsodieの軸・径ブランケットや各種研究炉燃料の処理が行われた( 1997年に運転終了)。
MOX使用済燃料の再処理に関しては当初 APMで研究が行われ、その後 UP2-400、UP-800で商用炉で発生した MOX使用済燃料の再処理に成功している。
2.2英国の再処理工場[1]~ [3],[8]~ [12]
英国では 1971年以降、核燃料サイクルに関する研究開発は UKAEA(英国原子力公社)が、核燃料サイクル業務全般は BNFL(英国原子燃料会社)が実施している。さらに 2005年以降は NDA(原子力廃止措置機関)が再処理関連施設を管理しているが、実際の運営は、 UKAEAと Site License Company(SLC)が実施しており、 SLCとしては、 Sellafield Ltd, Magnox Ltdなどの組織がある。英国において、再処理すべきか、代替オプションを採用するかは、規制要求に基づいて使用済燃料の所有者が評価・判断すべきとされている。英国における再処理工場の建設、停止などの経緯、および概要は以下の通り。
(1)ウィンズケール第 1再処理工場(B204)
同国北西部のウィンズケール(現在のセラフィールド)の Pu生産炉(軍事用黒鉛ガス炉)の照射済燃料を処理するために、1952年にウィンズケール第 1工場( B204)が運開した。硝酸と溶媒の反応に起因すると思われる爆発事故の後、安全性の観点から 1964年に運転を停止した。その後、改良型ガス炉燃料再処理のため、酸化物燃料用のせん断溶解を行う施設( FEP:Fuel Handling Plant)を付加する改造を行い、1969年から軽水炉燃料再処理を行ったが、約 90tを処理したところで、1973年に燃料溶解液中の固体核分裂生成物の蓄積・発熱量増大に起因する揮発性ルテニウムによる汚染・被曝事故が発生し停止、施設は閉鎖された。(2)ウィンズケール第 2再処理工場 (B205)
1955年にマグノックス炉(黒鉛減速型ガス冷却炉)の採用をベースとした原子力発電計画が始まり、この炉で用いられる燃料(Mg合金被覆天然 U金属燃料)に対応した再処理工場が必要となったため、ウィンズケール第 2工場( B205)が建設された。 1964年に操業を開始し、現在も稼働中である。 2010年時点での累積使用済燃料処理量は 44,000tを超えている。処理能力は 1,500t/yである。

(3) THORP
BNFLは、使用済燃料(同国内からは改良型ガス冷却

炉 /AGR燃料、海外からは軽水炉燃料)の再処理を商
業規模で行える施設として、 THORP(THermal Oxide
Reprocessing Plant)建設計画を立てた。1992年に建設完
了、1994年に操業開始、 1997年に公式な認可を得て本
格運転を開始した。
THORPで行われている再処理プロセスの主要部分は、

せん断、溶解、 PUREX溶媒抽出であり、基本的には他
国の新型再処理工場(フランスの UP3、日本の六ヶ所工
場)と同じものである。 2005年、前処理施設にある清澄
液供給セル内で放射性溶液の漏洩が発見され、操業が停
止されたが、2007年に運転再開が認められた。
THORPを管理・操業していたセラフィールド社は

2018年 11月 14日、同工場における 24年間の操業が 2012年の決定通りに終了したと発表した。 THORPではこれまでに、9ヶ国の 30顧客から 9,000トン以上の使用済燃料を受入れた。今後は、 2070年代まで使用済燃料の貯蔵施設として継続して活用される予定。 THORPの所有者である原子力廃止措置機構(NDA)は 2012年 6月、「契約済使用済燃料は THORPで再処理するのが最も実行可能、かつコスト面でも効果の高い戦略である」との検討結果を公表。その一方で、追加の再処理契約が国内外ともに見込めないこと、 THORPの操業継続に莫大な投資が必要になることなどから、契約作業量が完了する 2018年末に停止する判断をしていた。THORPでは 2018
年 11月 9日、最終分の使用済燃料について再処理を開始。
セラフィールド・サイト自体も、今後は原子力施設の浄
化に関する専門的知見の中心的存在として再編成される
としている。


(4) 高速炉燃料などの再処理施設
北スコットランド州ドーンレイの高速実験炉( DFR)、原型炉(PFR)から発生する使用済燃料の再処理を目的として小規模な再処理施設が建設されたが、 1998年に閉鎖された。また、国外の研究炉用高濃縮 U燃料の再処理を行う材料試験炉燃料再処理工場( MTR)も運転されていたが、 1996年に閉鎖された。現在ドーンレイのサイトでは、 2000年に発表された環境復旧計画に基づき DFR、PFRおよび MTRの廃止措置活動が進められている。
2.3 米国の再処理工場 [1]~ [3],[13]~ [15]
マンハッタン計画における軍事用 Puの回収以来、米国は世界の核燃料再処理技術をリードしていたが、1974 年にカーター政権が核不拡散政策の一環として商業再処理を禁止して以降は、米国エネルギー省 (DOE)が使用済燃料を引き取り、再処理せずに直接処分する政策を取っている。現在、使用済燃料はほとんどの発電所でサイト内貯蔵されている。米国における再処理工場の建設、停止などの経緯、および概要は以下の通り。
2.3.1 政府所管(軍事用を含む)の再処理工場
(1) ハンフォード国立研究所
マンハッタン計画の一部として、原子炉で照射した天然 Uから原子爆弾原料の Puを回収するための一連の再処理工場がワシントン州ハンフォードに建設・運転された。現在はこれらの工場は一部廃棄物処理を行っている設備以外、全て閉鎖され、運転時の放射性物質による汚染からの環境修復作業が大規模に進められている。

(2) サバンナリバー国立研究所
サウスカロライナ州サバンナリバーにおいても、軍事用 Puの生産のための原子炉と再処理工場が 1954年に建設され、Fキャニオンは 2002年まで運転された。Hキャニオンは Uの低濃縮度化などに供用中。

(3) アイダホ国立研究所

海軍艦船動力用原子炉や研究炉などから発生する使用済燃料から高濃縮 Uを回収するための再処理工場が 1953年に建設され、1992年まで操業した。
2.3.2 民間再処理工場
(1) ウェストバレー再処理工場
1960年代になって軽水炉による発電が拡大していく中、ニュークリア・フュエル・サーヴィス社(NFS)により米国初の民間再処理工場がニューヨーク州ウェストバレーに建設され、1966年に運転を開始した。チョップ・アンド・リーチ法前処理(使用済燃料を被覆管ごとせん断し、濃硝酸に浸して燃料成分を溶解する)と PUREX溶媒抽出法を主工程とする処理容量 300t/yの施設であった。軽水炉燃料 245tを含む総計約 630tの照射済燃料を処理し、1972年に運転を中止した。その後、後述のバーンウェル再処理工場に対抗して、 3t/dへの処理能力の増強や環境対策のための廃液処理工程の増強などの計画を立てたが、追加投資に対する電力会社の同意が得らなかったため 1976年に断念、閉鎖された。現在は DOEに移管され、廃止措置実証プロジェクト(施設の除染、機器類解体撤去、施設内高レベル廃液のガラス固化処理など)が進められている。
(2)ミッドウェスト再処理工場
1968年、ゼネラル・エレクトリック社( GE)がイリノイ州モリスに処理容量 300t/yの再処理工場

(MFRP:Midwest Fuel Recovery Plant)を建設した。フッ化物揮発法を使った半乾式( Aquafluor)法による U精製プロセスを取り入れた斬新な設計であったが、建設費削減を狙って採用した大型遠隔保守方式に欠陥があることが判明し、その改良に大きな時間的・経済的負担を要するとの判断から、計画は 1974年にホット運転前に断念された。
(3)バーンウェル再処理工場
アライド・ゼネラル・ニュークリア・サービス社

(AGNS)は、サバンナリバーに、 1500t/yの大型再処理工場(BNFP:Barnwell Nuclear Fuel Plant)を計画した。 1971年に着工し、 1975年にはほぼ完成したが、酸化プルトニウム取扱施設の許認可手続の遅れやカーター政権による商業再処理政策(核不拡散)、回収 Puの使途に関する問題などから、結局 1983年に閉鎖された。
2.4欧州 (ベルギー )のユーロケミック再処理工場 [1],[3],[16]
1957年、欧州諸国(仏、独、伊、オーストリア、スイス、スペイン、ポルトガル、ベルギー、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、トルコの 12ヶ国、後に蘭も)は民生用の再処理事業を推し進めるべくユーロケミック社( Eurochemic)を設立した。 1960年、設置場所としてベルギー原子力研究所のあるモルが決定し、 1966年に建設完了・運転を開始した。処理能力は、 250~400kg/dであった。1974年に運転を停止し、1987年に閉鎖された。累積処理量は、各種燃料を合計して約 210トンである。閉鎖以後、施設の完全解体、サイト緑地化を目標とした廃止措置プロジェクトが進められた( 1990年開始 ~2014年終了)。
2.5ドイツの再処理工場[1],[3]
同国は、 1970~80年代に積極的に再処理技術開発を進めたが、 1989年に政府が行った国内再処理放棄政策に従い、フランスおよび英国に再処理を委託してきた。再処理により発生した Puは LWR-MOXに加工し国内の PWRで使用している。 2002年の原子力法改正に伴い、 2005年以降は海外再処理も終了した。これ以降に発生した使用済燃料は発電所サイト内で貯蔵されており、ゴアレーベンを最終処分予定地として直接処分する方針である。ドイツにおける再処理工場の建設、停止などの経緯、および概要は以下の通り。
(1)カールスルーエ再処理施設
旧西ドイツは上述のユーロケミックに参加していたが、将来は自国内での再処理も必要になると考え、カールスルーエ原子力研究所( KfK、現在の FZK)に隣接したサイトにカールスルーエ再処理施設( WAK :Wiederaufarbeitungsanlage Karlsruhe)を建設した。 1971年の運転開始以降、約 208tの軽水炉・重水炉使用済燃料を処理した。 1989年にドイツ政府が行った、国内での再処理を実施しないという政策決定に従い、 1990年に操業を停止した。現在はサイト緑地化を最終目標とした解体作業が実施されている。
(2)バッカースドルフ再処理工場
電力会社の出資により発足した西ドイツ再処理会社 DWKは、商用再処理工場としてバイエルン州バッカースドルフへの建設計画を進めた。しかし、社会的に反対意見が強いことに加えて、経済的な問題(自国再処理よりも海外委託再処理の方が低コスト)から、 1989年にこの計画を中止した。
2.6ロシアの再処理工場[1],[3],[17]
旧ソ連時代の軍事用再処理を端緒に、再処理工場の運転と技術開発を継続している。一貫してクローズド燃料サイクルを基本的な方針としているが、財政難から発電所使用済燃料再処理施設の充実が遅れていた。近年は使用済燃料貯蔵施設を増設しつつ、大規模再処理工場を含む国際的な核燃料サイクル総合センターの構築・操業を目指している。同国における再処理工場の建設、停止などの経緯、および概要は以下の通り。
(1)チェリヤビンスク再処理工場

1940~50年代、チェリヤビンスクに軍事用再処理工場(B工場、および後継プラントである BB工場)が建設さ
れた。 BB工場は Pu 生産炉の運転が中止される 1987年
まで操業された。当初これらの工場で発生した高レベル
廃液が付近の川や湖に流され、大規模な放射能汚染を起
こした。その後、 1957年には放射性廃液貯蔵容器が冷
却装置の不具合により爆発し、いわゆる"ウラルの核惨
事"を引き起こした。
(2)マヤーク再処理工場(RT-1)
1970年代、ソ連は原子力発電所の使用済燃料を再処理することを決定し、チェリヤビンスクの B工場を改造して第 1号プラント (RT-1)を建設し、 1976年に運転を開始した。累積処理量(1999年まで)は約 4,000tに上る。対象はロシア型加圧水型原子炉 VVER440型炉、高速炉(BN-350、BN-600)、および研究炉・船舶炉使用済燃料

である。現在はロシア国家会社「ロスアトム」が運営して
いる。
(3)トムスク再処理工場
トムスクでは Pu生産炉の運転が開始された直後(1955年)から軍事用再処理が行われた。 1993年、調整タンクに注入した濃硝酸とタンク内に混入していた多量の有機物とが反応して爆発し、施設近辺が放射能で汚染する事故を起こした。
(4)クラスノヤルスク再処理工場(RT-2)
クラスノヤルスクでは、 Pu生産炉使用済燃料を対象とした軍事用再処理プラントが 1964年に運転開始した。クラスノヤルスクの鉱業化学コンビナート( MCC)の再処理工場 RT-2は、当初 VVER-1000の使用済み燃料用に 1984年に建設開始されたが、1989年に建設が中断した。 MCCでは、再処理実証パイロットセンター( PDC、5t/ y)が 2016年から稼動しており、2020年には 250t/y規模に拡大予定である。将来的には最新版の RT-2(700t/y)の 2025年の完成を目指している。ロシアは、これらの貯蔵施設や再処理施設を、海外の原子炉顧客向けの利用にも供する考えである。
2.7インドの再処理工場[1],[18],[19]
インドは、国内のウラン資源が乏しい一方で、全世界

における埋蔵量の約 3割を占めるといわれる豊富なトリ
ウム資源を保有している。このため、インドではトリウ
ム資源を最大限に有効活用することを方針とし、次の 3
段階で原子力開発を行っている。 (i)天然 Uを重水減速・
加圧重水冷却炉(PHWR)で燃焼させて使用済燃料を処理
することにより Puと減損 Uを得る、 (ii)Puをドライバ
とする高速増殖炉(FBR)で Thと減損 Uを照射し、使用
済燃料を再処理することにより
233Uを得るとともに FBRサイクルを持続するために

239Puを得る、 (iii) 233Uをドライバとする増殖炉に Thを
供給して 233Uを得ることにより、サイクルを持続する。
再処理についても、これらの原子炉から発生する使用済
燃料を対象とした研究開発が進められている。同国にお
ける再処理工場の建設、停止などの経緯、および概要は
以下の通り。
(1)トロンベイの再処理施設
研究炉使用済燃料の処理を目的として、ムンバイ郊外のトロンベイにあるバーバ原子力センター( BARC)に建設され、 1964年に運転を開始した。 PUREX法を採用しており、当初の処理能力は 30t/yであった。設備の腐食により 1974年に運転を停止したが、研究炉 DHRUVAの使用済燃料を再処理するために 1983-4年に処理容量を 50t/yに拡大して再起動された。
(2)タラプールの再処理工場
発電炉( BWR、PHWR、CAUDU炉)での使用済燃料を対象とするインド初の再処理プラント PREFREが、ムンバイ北のタラプールに建設された。 1969年に米国 GE社の支援を得て着工し、 1979年に運転を開始した。 PUREX法を採用し、 100t/yの処理能力を持つ。高速増殖実験炉 FBTR燃料の再処理も行い、同じタラプールにある先進燃料製造施設( AFFF)で MOX燃料に加工した後、FBTRに再供給している。
(3)カルパッカムの再処理施設
チェンナイ(旧名マドラス)南のカルパッカムにある原子力再処理プラント KAPPは 1998年に運転を開始した処理能力 100t/yの PUREXプラントであり、マドラス原子力発電所( PHWR)の U-Pu使用済燃料を再処理している。また、 FBTRの使用済 Pu-U炭化物燃料を実験室規模で再処理した経験がある。再処理により得られた Puは、同じインディラ・ガンジ原子力研究センター( IGCAR)にある高速増殖原型炉 PFBR燃料原料として供給されている。
FBTR炉燃料再処理の研究開発のための LMC(Lead Mini Cell)が 2003年に作られ、CORALと命名された。
2.8中国の再処理工場[1],[4],[20]
同国は、クローズド燃料サイクルを基本的な方針としている。急増する原子力発電所建設に対応し、民生用再処理工場の建設を進めている。同国における再処理工場の建設、停止などの経緯、および概要は以下の通り。
(1)酒泉再処理プラント
中国の原子力開発は、当初は旧ソ連からの専門家を招

聘して始められたが、中ソ対立以降は独力で技術開発を
進め、1960年代前半には中国原子能科学研究院( CIAE)
で 4kg/yのホットセル試験を行った。これらの成果を受
けて、軍事用再処理パイロットプラントが甘粛省酒泉(Jiuquan)に建設され、 1968年から操業を開始した。こ
れは PUREX法を採用し、 400kg-U/dの処理能力を持つ
プラントであり、ここで抽出された Puは 1968年の水
爆実験に使用された。また、パイロットプラントと並行
して設計・建設が進められていた本格的な軍事用再処理
プラントも 1970年に完成し、運転が行われている。
(2)蘭州再処理プラント
甘粛省蘭州( Lanzhou)に建設中であった商業目的多目的再処理パイロットプラント(RPP)が 2000年に完成し、
2010年 12月に実燃料を使ってホット試験を実施したも
のの、その後、改造が必要になり使用開始に至っていな
いという。
(3)商業再処理プラント

中国核工業集団公社( CNNC)は、甘粛省嘉峪関(Jiayuguan)に、年間 800tの商業用再処理プラント(MRF)
の建設をフランス AREVAの技術支援を得て計画してい
る。
CNNCはフィジビリティ・スタディ( FS)を商業契約に進める
ための協力支援について 2010年 11月に AREVA社と
合意した。 2013年に両者は協力意向書を締結したのに
続き、 2014年には長期の協力覚書に調印している。翌
2015年になると、両者は 2030年までの操業開始を目標
に、双方のタスクと責任配分を特定する技術協議を完了。
ORANO社(旧 AREVA社)は 2018年 6月 25日、中国
における使用済燃料の再処理・リサイクル工場建設に向
けて、年内にも準備作業を開始することで CNNCと合
意に達したと発表した。 CNNCが 2007年に商業用再処
理工場の建 FSを AREVA社に依頼してから、既に 10年
以上経過している。
2.9日本の再処理工場[3],[21]
(1)東海再処理工場
日本原子力研究開発機構 (JAEA)の核燃料サイクル工学研究所再処理施設(以下、「東海再処理施設」)は、我が国初の本格的な再処理施設で、昭和 52年(1977年)にホット運転を開始して以降、平成 19年(2007年)5月まで運転を行い、商業用発電炉の軽水炉燃料及び新型転換炉「ふげん」燃料等を合計約 1,140トン再処理し、我が国における再処理技術の確立に貢献した。東海再処理施設は、平成 29年 6月に廃止措置計画の認可申請を行い、平成 30年 6月に認可された。

(2)六ヶ所再処理工場
日本原燃㈱が青森県六ヶ所村に建設中の再処理工場は、1989年再処理事業指定申請、 1992年事業指定、 1993年に着工された。1998年試験用使用済燃料が搬入、 1999年に使用済燃料受入貯蔵の再処理事業を開始した。再処理施設本体は、 2002年から化学試験、 2004年ウラン試験、 2006年にはアクティブ試験を開始し、 2008年までにまでに 425トンが再処理された。 2008年のガラス固化設備試験において、溶融ガラスの流下停止などによりアクティブ試験が長期化したが、技術的な改良を加え 2013年に試験を終了した。しかし、 2011年の震災による新しい安全基準を受け、安全対策向上の設計・工事を実施中であり、2021年上期の竣工を目指している。
六ヶ所再処理工場の年間最大処理能力は 800t/y、主要設備は、JAEAの開発技術(脱硝、ガラス固化工程など)、フランス(せん断溶解、分離・精製工程など)、イギリス(高レベル廃液濃縮工程など)からの技術を導入している。
3.おわりに
本稿は、参考文献 [1]"日本原子力学会再処理リサイクル部会「テキスト・核燃料サイクル 6-6世界の再処理工場」2013.4.15
電力中央研究所 飯塚政利"にまとめられている、世界の再処理工場の建設・運転状況に、最近までの情報を追記して作成したものである。


参考文献

[1]日本原子力学会再処理リサイクル部会「テキスト・核燃料サイクル 6-6世界の再処理工場」2013.4.15 電力中央研究所 飯塚政利
[2]平成 29年度原子力の利用状況等に関する調査(核燃料サイクル技術等調査報告書),平成 30年 2月 ,日本原子力研究開発機構
[3]原子力百科事典 ATOMICA, 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 (JAEA)
[4]平成 29年度文部科学省委託事業 ,原子力平和利用確保調査(諸外国における原子力平和利用に関する状況調査)成果報告書 ,平成 30年 3月 ,公益財団法人原子力安全研究協会
[5]Manson Benedict et al, Nuclear Chemical Engineering(2nd Edition),McGraw-Hill Book Company
[6]Mycle Schneider and Yves Marignac, 「Spent Nuclear Fuel Reprocessing in France」,A research report of the International Panel on Fissile Materials
[7]"Information given from ORANO to JNFL,July 2019",on businessmeeting[8]「NDA設立の経緯とその役割」,第 38回原子力委員会定例会資料 ,平成 24年[9]Spent Fuel Management and Storage Development in
UK, Sellafield Ltd, ISSF 2010 Tokyo

[10]Thermal oxide Reprocessing Plant(Thorp) leak investigation and consent to restart, ONR website,www. onr.org.uk/periodic-safty-review/thorp
[11]"Reprocessing ceases at UK's Thorp plant",14 November 2018,world nuclear news [12]日本原子力学会誌 ,Vol.61,No.2(2019)
[13]Tplant/Bplant/REDOX/PUREX/Uplant, Hanford website,www.hanford.gov/
[14]US Nuclear Fuel Cycle,world nuclear association, website,www.world-nuclear.org /information-library/ country-profiles/countries-t-z/usa-nuclear fuel cycle
[15]SRS-History Highlights, srs website , www.srs.gov/ general/about/histry
[16]Belgoprocess -About us-History and milestones, website: www.belgoprocess.be/eng/History
[17]日本原子力学会誌 p27,Vol.59,No.11(2017)
[18]Indira Gandhi Centre for Atomic Research, Wikipedia
[19]R.Natarajan and Baldev Raj, "Fast Reactor Fuel reprocessing Technology: Successes and Challenges", Energy Procedia 7(2011)414-420
[20]日本原子力学会誌 p9-p10,Vol.60,No.9(2018)[21]日本原子力研究開発機構 H.P.,再処理廃止措置技術開発センター(2019年 11月 26日)
著者紹介 

著者:松田孝司所属:日本原燃株式会社専門分野:核燃料再処理

Vol.18 No.4特集記事「世界の再処理工場」のお詫びと訂正について
2020年 1月 10日に発刊されました「保全学」 Vol.18 No.4の特集記事「世界の再処理工場」に表 1の落丁がありましたので、お詫びして訂正いたします。
表 1 世界の再処理施設
国名・場所 施設名 設置者/その後の所有者 対象燃料 再処理法 処理能力 t/y 又は t/d 処理実績 t 運転開始/終了 備考
■フランス
マルクール UP1 CEA/ COGEMA/AREVA/ORANO 研究炉、ガス冷却炉燃料(天然 U) = UNGG: Uranium Naturel Graphite Gaz PUREX 約 2t/d(天然 U 処理) 13,330t (ガス炉) 1958 年/1997 年 廃止措置実施中 CEA:仏原子力庁 COMEMA:仏核燃料公社 1976 年設立
ラ・アーグ UP2 CEA UNGG 燃料 PUREX 800t/y 4,895t 1966 年/1987 年 廃止措置実施中 * 1976年-1998年の処理量
〃 UP2-400 (UP2-HAO) COGEMA/AREVA/ORANO 高速炉燃料、 UNGG 軽水炉燃料 PUREX 400t/y 4,453t* 1976 年/1998 年
〃 UP3 〃 軽水炉燃料(濃縮 U) PUREX 当初 800t/y 2003 年から 1,000t/y ** 16,579t***(2018 年までの処理量) 1989 年/運転中 ** 合計 1,700t/y *** 6.39t の RTR 燃料を含む(ResearchTesting Reactor)
〃 UP2-800 〃 軽水炉燃料(濃縮 U、(MOX) PUREX 当初 800t/y 2003 年から 1,000t/y ** 14,254t(2018 年までの処理量) 1994 年/運転中
〃 AT1 CEA 高速炉燃料 PUREX 1kg/d 1t 1969 年/1979 年 1979-1997 年 に 除染・解体を実施
マルクール APM(TOP) 〃 ガス炉、試験炉燃料、 Th 燃料、高速炉燃料 PUREX 10~20kg/d 11t 1974 年/1983 年 仏独の高速炉燃料を処理、 1983 年停止後に APM(TOR)へ改造
〃 APM(TOR) 〃 高速炉、軽水炉燃料 PUREX 5t/y 22t 1988 年/1997 年
■イギリス
セラフィールド B204 UKAEA/ BNFL/NDA ガス冷却炉燃料(天然 U)=マグノックス炉燃料改造後は酸化物燃料 溶 媒 抽 出 (TBP/BUTEX) 500t/y1969 年改造後 400t/y 5,000t(1952年-1964 年)約 90t (1969 年 -1973 年) 1952 年/1964 年改造後(酸化物燃料処理用前処理施設) 1969 年/1973 年事故停止 廃止措置実施中 UKAEA:英国原子力公社 1954 年設立 BNFL:英核燃料会社 1971 年設立 NDA:原子力廃止措置機関 2004 年設立
〃 B205 〃 マグノックス炉燃料 PUREX 1,500t/y 44,000t(~2010年) 1964 年/運転中 2020 年まで処理運転予定(全マグノックス燃料処理)
〃 FEP BNFL/NDA ガス冷却炉燃料(酸化物燃料) PUREX 400t/y 90t 1969 年/1973年
〃 THORP BNFL/NDA 軽水炉・ガス冷却炉燃料(濃縮 U酸化物) PUREX 850t/y 9,331t 1994 年/2018年 2070 年代まで使用済燃料貯蔵施設として利用
ドーンレイ DFR (DounreayFast reactor) UKAEA/NDA 高速炉燃料 PUREX 10t/y 1960 年/1978年 停止後 PFR 用に改造
〃 PFR (Prototype Fast reactor) 〃 〃 PUREX 4t/y 1981 年/1998年 廃止措置実施中
〃 MTR (MaterialTest Reactor) 〃 材料試験炉(MTR) PUREX 0.1t/y 1958 年/1996年 〃
■米国
ハンフォード T 工場 米国エネルギー省(DOE) Pu 生産炉 燃料リン酸ビスマス法 1~1.5t/d 8,000t 1945 年/供用中(Pu 生産でなく廃棄物処理などの作業に供用) 廃止措置・環境修復実施中 T プラント以外の B、 REDOX、 PUREX、 U プラントは全ての役割を終えている。
〃 B 工場 〃 〃 燃料リン酸ビスマス法 〃 1945 年/1957年 1968 年/1985年(廃棄物からの Cs/Sr 分離) 〃 1990 個以上の廃棄物カプセルが B プラントに隣接して貯蔵
〃 REDOX工場 〃 〃 REDOX 3~12t/d 24,600t 1951 年/1967年 40 年以上閉鎖されており高い汚染が残存した状態、廃止措置計画中
〃 PUREX工場 〃 〃 PUREX 10~33t/d 73,100t 1956 年/1988年 高い汚染が残存した状態、廃止措置計画中
〃 U 工場 〃 再処理廃液から U 回収 PUREX 〃 - 1952 年/1958年(U 回収)その後機器除染作業設備の役割 廃止措置中/ 2010年~2011 年にセメントのようなグラウトを U プラントに注入
サバンナリバー F キャニオン 〃 ガス冷却炉燃料(天然 U) PUREX 14t/d Pu 回収 1954 年/2002年 廃止措置実施中 2006 年放射生物質除去終了
〃 H キャニオン 〃 高濃縮U、試験炉燃料 PUREX 〃 Pu,濃縮 U回収 1955 年/運転中 回収運転は終了したが、 U 低濃縮度化などに供用
アイダホ ICPP 〃 軍用船舶炉、研究炉燃料 PUREX 0.7t 濃縮 U/y 31.5t 1953 年/1992年 廃止措置・環境修復実施中
ウェストバレー NF Nuclear Fuel Services社(NFS) 軽水炉燃料 PUREX 300t/y 641t 1966 年/1972年 廃止措置実施中 (1982 年~2024 年予定)
モリス Midwest Fuel Recovery Plant General Electric社(GE) 〃 半乾式 〃 - - 1974 年技術的な理由で断念
国名・場所 施設名 設置者/その後の所有者 対象燃料 再処理法 処理能力 t/y 又は t/d 処理実績 t 運転開始/終了 備考
バーンウェル Barnwell Nuclear Fuel Plant Allied General Nuclear Services社(AGNS) 〃 PUREX 1,500t/y - - 1983 年政治的な理由で断念(核不拡散政策)
■欧州
(ベルギー)
モル ユーロケミック(モル) ユーロケミック/ベルゴプロセス 軽水炉燃料 PUREX 天然 U:0.4t/d濃縮 U:0.25t/d 210t 1966 年/1974年 廃止措置実施 (1990 年~2014 年)
■ドイツ
カールスルーエ WAK 西ドイツ核燃料再 軽水炉燃料 PUREX 35t/y 210t 1971 年/1990年 廃止措置実施中
処理会社
(DWK)
バッカースドルフ WAW 〃 〃 PUREX 350~500t/y - - 1989 年断念(英仏に再処理委託)
■ロシア
チェリャビンスク B 工場 国家会社「ロスアトム」 (生産合同マヤク) Pu 生産炉燃料 酢酸沈殿法/ PUREX 合計 123,000 ~ 1948 年/1962年頃
〃 DB 工場 〃 〃 〃 136,000t 1959 年/1987年
〃 RT-1(マヤク再処理工場) 〃 軽水炉、高速炉、研究炉、船舶炉燃料 PUREX 400t/y 約 5,000t (~2012年) 1971 年/運転中
トムスク トムスク-7 Pu 生産炉燃料 PUREX 190,000t 1955 年/
クラスノヤルスク クラスノヤルスク Pu 生産炉燃料 PUREX 97,000t 1964 年/
〃 RT-2 国家会社「ロスアトム」 (鉱山化学コンビナート) 軽水炉燃料 〃 1,500t/y(2025 年~) 700t/y計画 - - 1984 年から建設開始、 1989 年中断 2025年最新版の完成計画
■インド
トロンベイ PRP バーバ原子力研究所(BARC) PHWR 燃料、研究炉燃料(金属天然 U) PUREX 30t/y50t/y(1984年~) 1964 年/運転中
タラプール PREFRE 〃 PHWR 燃料 PUREX 100t/y 1979 年/運転中 PHWR(加圧重水炉)
カルパッカム KARP 〃 PHWR 燃料、 FBTR燃料 PUREX 100t/y 1998 年/運転中 FBTR(高速増殖実験炉)
〃 CORAL 〃 FBTR燃料 PUREX 2003 年/運転中 CORAL: CompactReprocessing facilityfor Advanced fuels in Lead cells
■中国
甘粛省 酒泉軍事用再 Pu 生産炉燃料 PUREX 0.4t/d 1968 年/閉鎖
処理パイロッ
トプラント
〃 酒泉軍事用再処理プラント Pu 生産炉燃料 PUREX 3~800t/y 1970 年/
〃 蘭州多目的再処理プラント 中国核工業公司(CNNC) 軽水炉燃料 PUREX 50t/y 2010 年/改造必要 2010年ホット試験実施
〃 商業工場 〃 軽水炉燃料 PUREX 800t/y - (2030 年頃営業運転目指す) 2013 年 AREVAと建設計画合意、 2015年技術協議完了
■日本
東海村 東海再処理工場(TRP) 動燃事業団(PNC)/日本原子力研究開発機構(JAEA) 軽水炉燃料ふげん MOX 燃料 PUREX 210t/y 1,140t 1977 年/2007年 2017年 6月廃止措置計画の認可申請、 2018 年 6 月認可
六ヶ所村 六ヶ所再処理工場(RRP) 日本原燃株式会社 軽水炉燃料 PUREX 800t/y アクティブ試験 (2006~)での - 操業準備中( 2021年度上期竣工予定)
処理量:約
425t

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