特集記事「核融合エネルギー開発の現状」(1)核融合エネルギー特集にあたって

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特集記事「核融合エネルギー開発の現状」(1)核融合エネルギー特集にあたって
特集記事 「核融合エネルギー開発の現状」(1)核融合エネルギー特集にあたって
量子科学技術研究開発機構 六ヶ所核融合研究所
池田 佳隆 Yoshitaka IKEDA
太陽のエネルギー源である核融合反応を地上で安定に起こしエネルギーを生み出す核融合炉の実用化に向けて、これまで世界各国は研究を続けてきた。核融合反応は、重水素とトリチウム(三重水素)の燃料 1gで石油 8トンに相当するエネルギーが発生すること、重水素は海水中に無尽蔵に存在し、トリチウムも海水中に無尽蔵にあるリチウムから生成できること、燃料注入を停止すれば反応が直ちに停止する高い安全性、長寿命の高レベル放射性廃棄物は発生しない等の利点がありますが、核融合反応を起こすには、燃料となる重水素とトリチウムの原子核間距離を電荷によるクーロン力に打ち勝ち、核力が働く 10-15m程度まで近づける必要があります。具体的には重水素イオン、トリチウムイオンを秒速 1000㎞程度で近づけることであり、それを温度に換算すると約 1億℃です。このため、当初、核融合研究は、 1億℃の状態をどうやって生成・維持するかが課題でした。これに対し、トカマク装置と呼ばれるドーナツ状の磁力線の籠に非常に僅かな個数(大気中の 10万分の 1程度)のイオンを閉じ込め、そこに外部から強力なビームや高周波を入射し加熱することで数億℃を生成できることが、 2000年頃までに我が国の JT-60をはじめとする世界の幾つかのトカマク装置で実証されました。そして現在、世界の 7極が協力して、重水素とトリチウムの燃料を使って核融合反応を起こし、 50万k Wのエネルギーを発生させる国際熱核融合実験炉( ITER)の建設を南フランスで進めております。この ITER計画を踏まえて、文部科学省下の核融合科学技術委員会では、 ITERに続き、①数十万 kWを超える定常かつ安定した電気出力、②実用に供し得る稼働率、③燃料の自己充足性を満足する総合的なトリチウム増殖、の三項目を満足する核融合原型炉に向けた開発の指針が示されました。
ITER及び核融合原型炉は、エネルギー発生プラントであり、例えば ITERでは 20年の実験期間を想定しており、その目的を達成させるためには、この長期の実験期間において、安全に保ちながら、プラント運転を行うことが必要となります。また核融合原型炉では、実用に供し得る稼働率が求められております。このためには、それを構成する機器に応じた保全の考え方を整理する必要があります。特に核融合反応による高エネルギー中性子により本体機器は放射化されることから、放射線環境下に晒される機器に関しては、交換頻度の評価や遠隔保守技術が鍵となります。
本特集では、核融合炉のしくみや構成機器を紹介するとともに、我が国の核融合研究の開発計画とともに、その中核であり現在、進めている ITER及び幅広いアプローチ計画の状況を報告します。また、保全技術の視点から、定期的な交換機器の考え方やそれらの遠隔保守技術について、ITERや原型炉での検討状況を紹介します。加えて、核融合炉における規格基準の整備に向けた活動状況、さらに核融合炉開発に係る世界各国の動向を紹介します。
本特集により、核融合炉に関心を持って頂き、ご指導、ご支援を頂ければ幸いである。(2020年 5月 24日)
著者紹介 
著者:池田 佳隆所属:量子科学技術研究開発機構 六ヶ所核融合研究所

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