特集記事 「核融合エネルギー開発の現状」(2)核融合炉の概要

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特集記事 「核融合エネルギー開発の現状」(2)核融合炉の概要
量子科学技術研究開発機構 六ヶ所核融合研究所
宇藤 裕康 Hiroyasu UTOH
1.はじめに
この地上で太陽のエネルギー源である核融合反応を安定して起こし、エネルギーとして使う『核融合炉』を実現するため、これまで核融合炉の炉心を始め、各構成機器や炉システムの開発が進められ、 ITERでは発電までは行わないものの、核融合エネルギーを発生させるところまで来ている。
本稿では、後稿の導入として、基本的な核融合炉のしくみと核融合炉特有の構成機器とその機能について概説する。
2.核融合炉のしくみ
現在、地上で起こす核融合反応として想定しているのは、重水素 (D)とトリチウム (T)による反応であり、これを実現するためには燃料となる Dと Tを 1億℃以上の高温(プラズマ状態)で維持する必要がある。反応式は以下の通りである。
D+ T → 4He+ n (1)
図 1に核融合炉システムの概念図を示す。この装置は炉心となるプラズマを磁場で閉じ込める方式の装置であり、主に①核融合反応を起こす「炉心」となる高温高密度のプラズマと、②炉心を高温まで加熱するためのプラズマ加熱機器、③プラズマを安定して閉じ込めるための磁場を生成する超伝導コイル、④燃料を閉じ込めておく真空容器、⑤排気するためのダイバータ、⑥核融合エネルギーの変換と燃料増殖を担う増殖ブランケットで構成される。核融合炉の簡単な流れは、超伝導コイルによって炉心プラズマを閉じ込める磁力線のかごを作り、磁力線のかごの中のプラズマを加熱し高温高密度(炉心)プラズマとして核融合反応を起こし、核融合反応で生成した高速中性子を炉心プラズマを取り囲む増殖ブランケットで受けて、その運動エネルギーを熱エネルギーに変換し取り出す、というものである。現在の核融合炉(原型炉)では、増殖ブランケットの冷却には加圧水( 290℃ -325℃、 15.5MPa)を用いることが主案となっており [1]、核融合炉本体周りの発電プラントは熱交換機を経て蒸気でタービンを回して発電するという従来の軽水炉での技術が用いられる。
次章では、核融合炉の各機器に関して、その機能と構造について記す。

図1 核融合炉発電の概念図
3.核融合炉の主な構成機器

3.1 超伝導コイル
磁場閉じ込め型の核融合炉では、ドーナツ型の真空容器内に高温高密度の炉心プラズマを作るが、このプラズマがこの真空容器の壁に直接触れて冷えないよう、また壁が高温プラズマに触れて溶けないよう、プラズマは強い磁場によって真空容器内に保持される。プラズマはイオンと電子、すなわち荷電粒子の集まりであることから、それぞれの粒子はローレンツ力を受け磁力線の周りに巻きついて運動する性質がある。その性質を利用し、磁力線を真空容器に沿ってドーナツのように閉じた形状にしておくことで、真空容器の壁に触れることなく閉じ込めておくことができるようになるのである。一方、 ITERクラスの高温高密度プラズマを磁場の力で閉じ込めるためには、最大 10T以上の強磁場が必要になる。このような強磁場を銅を用いた常伝導コイルで発生させようとすると、抵抗損失を補うための所内循環電力が大きくな

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り、核融合炉としてとてもエネルギー生産を行うことはできなくなる。そのため、核融炉においては超伝導コイルを使用することが必須となるのである。現在、超伝導コイルに用いる線材としては、金属系超伝導体である NbTiや Nb3Sn などが挙げられる。
図 2に ITERに代表されるトカマク型核融合炉の超伝導コイル概念図を示す。トカマク型核融合炉では、プラズマ閉じ込めのための磁場を作るトロイダル磁場( TF)コイル、プラズマ電流を誘起するための磁束供給やプラズマの位置制御を目的とする中心ソレノイド( CS)コイルとポロイダル磁場(PF)コイルを使用する。ITERの TFコイルは支持構造物と合わせて 1本あたり高さ約 16m、幅約 9m、重量約 310トンという巨大な構造物である。超伝導コイルは、液体ヘリウムで約 4.5Kの極低温下で運転される。すぐ内側には約 100℃で運転する真空容器があることから、超伝導コイルへの熱侵入を防ぐため、真空容器との間には約 80Kで運転する熱遮蔽体(サーマルシールド)が設置されている。超伝導コイル、特に TFコイルはドーナツ型の真空容器が内部に設置されていることから、一度 DT運転し各機器が放射化した場合、絶縁破壊などによるコイル自身の交換は非常に困難である。そのため、本体組立前の超伝導コイルの耐電圧試験等の検査は非常に重要となる。

図2 トカマク型核融合炉の超伝導コイル群の概念図


3.2 プラズマ加熱装置
プラズマを 1億℃以上の超高温に加熱するためには、大出力の加熱装置が必要となる。プラズマの加熱装置には大きく分けて 2種類あり、ひとつは高エネルギー(数百 keVから 1MeV程度)の中性粒子を入射する中性粒子入射( Neutral beam injector: NBI)装置で、もうひとつは高周波によりプラズマを加熱する電子サイクロトロン共鳴加熱( Electron Cyclotron Resonance Heating: ECRH)装置である。中性粒子入射装置の原理は、「ぬるま湯(加熱前の
低温のプラズマ)に、熱湯(高エネルギー中性粒子)を注ぐ(入射する)」とたとえられる。一方、高周波加熱法は、「電子レンジによる加熱」にたとえることができる。(図 3参照)

図3 プラズマ加熱方法のイメージ図

NBIでは、まずイオン源でイオンを生成し、これを加速器で加速して高エネルギーのイオンビームとする。 ITERで使用される NBIは、ビームエネルギー 1MeV、ビーム電流値 40 A、連続運転という、世界に類のない大電流、静電加速器が要求されている。核融合炉では、イオンビームのままではプラズマ閉じ込め用の磁場で軌道を曲げられてしまうため、「中性化セル」を通してイオンビームを中性粒子ビームに変換し、プラズマに入射することになる。 ECRHは、高周波を発振するマイクロ波発生装置(ジャイロトロン)と、発生した高周波を真空容器まで伝送する導波管を用いた伝送系、高周波のプラズマへの入射方向を制御するアンテナ(別名ランチャ)で構成される。ITERでは、周波数 170GHz、トータルパワー 20MWの ECRHが求められている。
さらに付け加えると、これらのプラズマ加熱機器は単にプラズマの温度を上げるだけではなく、炉心プラズマの閉じ込めを安定化するという役割も担い、核融合炉には不可欠な機器となっている。

3.3 真空容器
核融合炉を構成する増殖ブランケットやダイバータなどの主要機器が設置される空間は、炉心プラズマを生成・維持するため運転中は全て真空環境に保たれる必要がある。この真空を保つバウンダリとなる構造物が真空容器である。さらに真空容器には、真空のバウンダリ以外に、炉内で生じるトリチウムなどの放射性物質を閉じ込める安全障壁という最も重要な役割があり、高い信頼性が要求される機器である。
真空容器には、その他にも増殖ブランケットやダイバータの容器内機器の支持、外側に設置されている超伝導コイルへの放射線遮蔽、炉心プラズマの位置安定性の確保、プラズマ消滅時などに発生する電磁力の支持など多くの機能が求められる。図 4に原型炉の真空容器の例を示す。 ITERも原型炉も基本的な構造は同じであり、 ITER真空容器 [2, 3]はドーナツ状の高さ約 11m、外直径約 20mの大型構造物で、 60mm厚のステンレス板による二重壁構造となっており、容器としての厚みはドーナツ中心部で約 35cm、外側で約 75cmとなっている。遮蔽機能を確保するため、二重壁間には中性子遮蔽効果の高いボロンを添加した SS304のプレートを充填し、冷却材として水を循環させることにより運転温度 100℃を保つ設計である。
真空容器は、原子力発電プラントにおける原子炉容器に相当するような高い信頼性が要求される機器であり、後稿にあるが核融合炉の構造健全性、設備規格や維持規格の整備が特に重要な機器であることを記しておく。

図4 原型炉の真空容器構造


3.4 増殖ブランケット
炉心プラズマを取り囲むように設置される増殖ブランケットは、炉心からの核融合中性子を受け止め、①中性子エネルギーを熱媒体に与えるエネルギー変換、②トリチウムをつくる燃料生産、③中性子遮蔽、という 3つの重要な機能を持つ機器である。図 5に増殖ブランケットの概念図を示す。増殖ブランケットは厚さ 1m前後の容器になっており、内部にはペブル状のトリチウム増殖材であるリチウムセラミックスやベリリウムなどの中性子増倍材が充填されている。増殖ブランケットは、筐体や内部に設置された冷却材(候補は加圧水:290℃ - 325℃、 15.5MPa)によって冷却される。
核融合反応で発生するα粒子と中性子のうち、α粒子は炉心プラズマ自身の加熱に寄与し(自己加熱)、放射や粒子の形でプラズマから出ていき,周りを囲む増殖ブランケットの表面(第一壁という)やダイバータの表面に熱負荷を与えることになる。一方、核融合反応で発生エネルギーの約 80%をもつ高速中性子は、そのまま炉心周

図5 増殖ブランケットの概念図
りの増殖ブランケットの内部まで侵入する。そこで充填されているトリチウム増殖材や中性子増倍材などによる減速と核反応による発熱を熱媒体(冷却材)が運び出すことで核融合エネルギーが熱エネルギーに変換され、炉外へと運び出される。これが第 1の機能である。
核融合炉の燃料であるトリチウムは天然資源がないため、核融合炉ではトリチウムは炉内で生成、すなわち増殖させる。トリチウム生産量の目安は、増殖ブランケットで生産されるトリチウム量と核融合反応で消費されるトリチウム量の比からトリチウム増殖比( Tritium Breeding Ratio: TBR)と定義され、核融合炉が定常的に運転を続けるためには,トリチウム増殖比は1を超える必要がある。増殖ブランケットでは 6Li+ n → T+ 4He+ 4.8MeVなどの反応で中性子をトリチウム増殖材であるリチウム化合物と反応させてトリチウムを1個生成するが、中性子の散逸や吸収、ブランケットの設置できない面(被覆率< 1)があるため、中性子の増加が必要となる。そこで、 n , 2n 反応を起こすベリリウムなどを中性子増倍材として利用して、局所的なトリチウム増殖比を上げることで第 2の機能を確保している。
増殖ブランケットは、炉心プラズマと上述の真空容器の間に設置され、さらにその外には超伝導コイルがあり、これらの機器を中性子照射損傷から守る必要がある。これが第 3の機能である。このため増殖ブランケットは、炉心からの核融合中性子を受け止めることから、その構造材として、中性子照射に対して放射化レベルが低く、かつ高い照射量でも材料の健全性を失わない材料が求められる。現在は、低放射化フェライト鋼が最有力候補として考えられており、 ITERにて増殖ブランケットの機能を検証するテストブランケットモジュール( Test Blanket Module: TBM)プロジェクトでも採用される予定である。
このように、増殖ブランケットは多くの重要な機能を有すると同時に、α粒子による表面における熱負荷や中性子照射による負荷など、核融合炉において最も負荷を受ける機器の 1つである。そのため、機能維持のために

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は定期的な保守交換が必要であり、放射化した増殖ブランケットをいかに迅速かつ安全に交換するかが核融合炉の健全性維持や稼働率に影響する。この保守交換方法などについては、後稿を参照頂きたい。

3.5 ダイバータ
前述の (1)式で示した DT 核融合反応により生成するα粒子が炉心プラズマの自己加熱に寄与することは前述の通りだが、エネルギーを渡したα粒子は、やがて低エネルギーの、所謂ヘリウム灰となる。また少量ながら真空容器の壁などからは不純物が炉心プラズマに混入し、これらはプラズマ中に蓄積すると炉心プラズマの温度を下げ、核融合出力の低下を招く。このヘリウム灰や不純物を選択的にプラズマ外に排出するのがダイバータである。
核融合炉では、プラズマ周辺を取り囲む磁力線の一部をプラズマ領域から引き出し、この磁力線に乗って出てくるヘリウムや不純物のイオンをダイバータ表面(ターゲット部)で中性化してガスとしてスリットから排気する。このときターゲット部は大きな熱負荷と粒子負荷(高速中性子、水素同位体、ヘリウム等)にさらされることになり、その熱負荷は ITERや原型炉では高いところで 10~20 MW/m2まで達する。そのため、ターゲット部の対向壁には耐熱性の高い材料を用い、また高い除熱性能を持つ構造が求められる。 ITERや原型炉では、対向壁に耐熱性が高く、プラズマからの粒子負荷による損耗量が少ない上、燃料となるトリチウムの吸蔵量が少ないという観点からタングステンが選択されている。図 6に原型炉ダイバータカセットの概念図を示す。 ITERにおいても原型炉においても基本的な構造は非常によく似た設計となっている [4]。ターゲット部は、タングステンに銅合金配管と緩衝材に無酸素銅を使用し接合する構造となっており、銅合金配管にはねじりテープを挿入し、冷却水に旋回流を生じさせることによって除熱性能を高める設計となっている。核融合炉では、ステンレス鋼製(または低放射化フェライト鋼製)のカセットボディと呼ばれる筐体にターゲットを固定し、それらをドーナツ型のプラズマを周回する方向に 48個設置することによりダイバータを構成する。そのため、カセットボディはターゲット部の支持構造と冷却水のマニフォールドを兼ねる構造となっている。ダイバータはターゲット部の損耗や銅合金配管の中性子照射に劣化などにより数年に 1回の頻度で交換が必要になる。カセット形式の分割構造は、その放射化したダイバータの保守交換における遠隔作業時の利便性も考慮しての設計となっている。

図6 核融合炉(原型炉)のダイバータカセットの概念図


参考文献
[1] Y. Sakamoto et al., "DEMO Concept Development and Assessment of relavant technologies", 27th IAEA Int. Conf. on Fusion Energy, FIP/3-2 (2018)
[2] ITER Final Design Report / Plant Description Document (PDD),"2.2 Vacuum Vessel", 2001.
[3] K. Ioki et al., "ITER Vacuum Vessel Design and Construction", Fusion Engineering and Design 85 1307 (2010).
[4] N. Asakura et al., "Studies of power exhaust and divertor design for a 1.5 GW-level fusion power DEMO", Nucl. Fusion 57 (2017) 126050.
(2020年 5月 24日)

著者紹介 

著者:宇藤 裕康所属:量子科学技術研究開発機構 六ヶ所核融合研究所専門分野:核融合炉システム

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